(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液(HALW)は、高い放射能を有する核分裂生成物を多く含む硝酸水性液であり、溶融ガラスと混合して冷却固化することにより、放射性物質をガラス中に封止したガラス固化体に調製して地中に埋設処理される。ガラス固化体の製造において、放射性廃液は、放射性物質を含む酸性水溶液の状態でガラス溶融炉に投入され、650〜1000℃程度の加熱溶融したガラス(ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等の無機ガラス)との接触により水分が蒸発し、放射性物質を含む金属元素が酸化物、単体等の固体状態で溶融ガラス中に封止される。
【0020】
放射性廃液に含まれる金属元素には、ルテニウム(Ru),パラジウム(Pd),ロジウム(Rh)等の白金族元素が含まれており、その割合は、概して、Ru:Pd:Rh≒6:3:1程度(モル比)である。これらの白金族元素は、ガラスに溶解せずに酸化物その他の形態で溶融ガラス中に懸濁するが、ガラス中を沈降して溶融炉の炉底に濃縮され、堆積物を形成する。この堆積物は、ガラス中に白金族元素が高濃度(10質量%前後)で含まれる高粘度で流動性の低いスラッジ状であるのに対し、その他の廃液成分が混和・分散する溶融ガラスは、流動性が良好であるので、炉底のドレンを開放すると、溶融ガラスのみが容易に排出されて、堆積物は炉底に付着・残留する。放射性廃液のガラス封止処理を繰り返すに従って堆積物の量が増え、ドレンを閉塞して溶融ガラスの排出を阻害するので、炉底の堆積物を除去するために、溶融炉を一旦冷却して固化した堆積物をはつる作業が行われる。このような作業による非効率性を改善するには、堆積物の流動性を向上させるか、堆積物の生成を抑制することが有効である。
【0021】
白金族元素を含む堆積物の流動性を向上させるには幾つかの方法が考えられるが、機械操作でない方法として、第1に、白金族元素を低融点物質に変化させる方法、第2に、堆積物の組成を変化させて粘度を低下させる方法が挙げられ、何れかの変化を生じさせるための成分を流動化剤として作用させることによって堆積物の流動性を向上させて排出することが可能である。第1の方法に使用する流動化剤(第1の流動化剤)は、ガラス封止の際にガラスを溶融させる温度において溶融する低融点の合金又は化合物(好ましくは共晶体)を白金族元素との反応により形成する金属を有効成分とし、融点降下によって堆積物の粘性低下を生じさせる。第2の方法に使用する流動化剤(第2の流動化剤)は、ガラス及び白金族元素の両方との親和性を有し、ガラスの粘性を低下させる成分を有効成分とし、堆積物に浸入して堆積物中のガラスの粘度を低下させて堆積物を流動化させると共に、堆積物のガラス馴染みを向上させて溶融ガラスへの分散性を高め、又、堆積物中へガラスを導入して堆積物の白金族元素濃度を低下させる。上記第1及び第2の流動化剤の何れも、溶融ガラスを排出した溶融炉に残留する堆積物に添加すると、堆積物の流動性を高めて排出除去が容易になる。この際、少量のガラスが共存すると、第2の流動化剤の場合は、ガラスによる堆積物の希釈を行い易いので流動化に有用である。
【0022】
第1の流動化剤は、ガラスに投入する前の放射性廃液に添加したり、放射性廃液を溶融炉のガラスに投入する際に並行して添加すると、白金族元素が沈降する前に第1の流動化剤と作用し易くなるので、白金族元素を含む高粘性堆積物の形成が抑制され、更に、堆積物が形成されてもその高粘性化を抑制して、流動及び排出が可能となる。
【0023】
第2の流動化剤については、ガラスに投入する前の放射性廃液に添加すると、溶融ガラスとの混合時の第2の流動化剤は、白金族元素及び溶融ガラスの両方と接触し得るので、ガラスとの親和性の方が高い場合にはガラス中に分散して堆積物から遊離する可能性がある。従って、堆積物と直接接触し易い添加形態を採用することが好ましく、放射性廃液への事前添加を行うには、白金族元素に対する第2の流動化剤の親和性が相対的に高いことが要件となる。この点に関し、後述から理解されるように、第1の流動化剤及び第2の流動化剤の両方に属する金属は、ガラスとの親和性が高いと、第2の流動化剤として優先的に作用し易くなるため、第1の流動化剤として選択する場合には、使用するガラスの組成(網目形成成分)との親和性を勘案するとよい。
【0024】
第1の流動化剤は、白金族元素と低融点の合金又は化合物(好ましくは低融点共晶体)を形成する金属成分であり、具体的には、液相線温度がガラスの溶融温度以下になる組成領域が存在する合金又は化合物を白金族元素との間で形成可能な金属又はその化合物である。溶融ガラスの温度が650〜1000℃程度になるように設定され、溶融炉の加熱性能の設定としても加熱温度はこの範囲となるので、状態図の650〜1000℃の温度範囲に液相線が存在する合金又は金属間化合物を白金族元素と形成する金属成分が使用される。原理的には、合金は固相線温度以上において流動性を示し得るが、高粘度の堆積物を流動化させるには、液相線温度以上における顕著な液状化を示すことが望ましいので、第1の流動化剤として使用される金属又はその化合物は、白金族元素と合金又は金属間化合物を形成して、その液相線温度が、第1の流動化剤を作用させる加熱温度以下、つまり、溶融ガラスの温度以下になるものとなる。流動化剤は、放射性廃液に含まれる白金族元素の全てとの間で上記のような合金又は化合物を形成する必要はなく、少なくとも1種の白金族元素との間で形成可能であれば、堆積物の形成量が減少するので流動化に有効である。そのような金属成分として、テルル(Te),インジウム(In),錫(Sn),亜鉛(Zn),ゲルマニウム(Ge),砒素(As),セリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)が挙げられ、In,Sn,Ge,As及びCeは白金族元素と合金を形成し、Te,Zn及びZrは共晶体を形成する。実用的には、取扱いの容易さや、放射性廃液に元来含まれ得る成分であってガラス固化体の内容成分の変更を避けられる等の点から、Te及びZnが最適である。Teは、Pd(共晶組成:37at%Te−Pd、融点510℃)及びRh(共晶組成:50at%Te−Rh、融点1000℃)の各々と共晶体を形成し、Znは、Pd(共晶組成:74at%Zn−Pd、融点850℃)と共晶体を形成する。従って、第1の流動化剤として、上述の金属又はその化合物、或いは、これを含有するガラス組成物が利用でき、化合物としては、酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩等が使用できる。高温の空気中で添加すると、金属は酸化物に変化して、金属単体と酸化物とにおいて実質的に作用の相異は見られない。ガラス組成物を使用する場合、上記金属又は金属化合物を高濃度で含有するものが好適であり、含有割合が3質量%以上(金属換算)のものが作用し易さの点において好ましい。
【0025】
第2の流動化剤は、ガラス及び白金族元素の両方との親和性を有し、ガラスの粘度を低下させる成分、つまり、ガラスの粘度低下剤又は軟化点降下剤として使用される金属又はその化合物であり、具体的には、Li,Na,K,Rb,Cs,Fr等のアルカリ金属、Ba,Ca,Sr,Mg等のアルカリ土類金属、Eu,Ce等の希土類金属、Bi,Ba,Te,Zn,Sn,Pb等の網目修飾酸化物を形成する金属、及び、これらの金属の化合物(特に酸化物)が挙げられる。塩基性成分は、ガラスの結合を解離させて軟化させ、Bi
2O
3,BaO,TeO
2,ZnO,SnO,PbO等の網目修飾酸化物は、ガラスの3次元網目中に存在するとガラスの軟化点を降下させる作用を有するので、このような酸化物を形成する金属又は金属化合物は、溶融ガラスに添加されると網目中に浸入してガラスの軟化点及び粘性を低下させる。従って、第2の流動化剤として、上述の金属及びその化合物が利用でき、化合物としては、酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩等が使用できる。実用的には、取扱いの容易さや、放射性廃液に含まれ得る成分であってガラス固化体の内容成分の変更を避けられる等の点から、Zn,Sn,Eu,Ceが好ましく、Znが最適である。
【0026】
第1の流動化剤の添加量は、形成される堆積物に含まれる白金族元素量を基準として決定され、白金族元素に対して、液相線温度が最も低くなる組成割合(例えば共晶組成)となる比率で添加すると最適であるが、これに限定する必要はなく、液相線温度が溶融ガラス温度以下である組成範囲となる比率で添加するとよく、この比率と差がある場合であっても、当該比率分の金属は溶融合金化するので、堆積物の量が減少し、実質的に溶融炉からの排出が可能となる。実用的には、上記最適比率の0.5〜5倍程度の添加量が効率的である。
【0027】
第2の流動化剤の添加量は、ガラスの粘度を有効に低下させるために、作用する対象としてのガラスの量を基準として決定されるので、添加する状況及び流動化剤の金属種によって異なる。基本的には、堆積物を構成するガラスの粘度低下に有効な量の金属成分が導入されるような流動化剤の添加量であればよく、Znの場合は、堆積物を構成するガラス中の金属濃度(酸化物換算)が少なくとも0.1質量%増加する量、好ましくは10質量%程度以上になる量、より好ましくは20〜40質量%程度になる量、最適には20質量%程度になる量を添加するとよい。同様に、Snの場合は、ガラスの網目形成酸化物(SiO
2、B
2O
3等)を基準として、堆積物を構成するガラス中の金属濃度(酸化物換算)が、20〜40質量%程度になる量を添加するとよく、Euの場合は、ガラス中の金属濃度(Eu
2O
3換算)が、20〜40質量%程度になる量、Ceの場合は、ガラス中の金属濃度(CeO
2換算)が、20〜40質量%程度になる量が好適である。効率的な添加形態は、溶融ガラスを排出した後に残留する堆積物に対する直接添加であるが、排出する前の溶融ガラス中に添加してもよく、その場合、流動化剤が効率的に堆積物に作用するように添加形態を工夫して、堆積物中のガラスに含まれる流動化剤の金属成分の濃度が上記範囲に増加するように、溶融ガラスへの拡散量を勘案して添加するとよい。
【0028】
尚、放射性廃液中に上記流動化剤の金属元素が元々含まれる場合には、その量を勘案して、上述の適正な添加量を決定するとよい。
【0029】
上記第1又は第2の流動化剤を用いて、放射性廃液に含まれる放射性物質をガラス封止する実施形態を、図面を参照して以下に説明する。
【0030】
図1は、放射性物質のガラス封止に使用するガラス溶融炉1を示し、角柱形状の金属製ケーシング2に収納される耐火煉瓦製の溶融炉本体3を有し、溶融炉本体3内の空間3aにおいてガラスの溶融及び放射性物質との混合が行われる。溶融炉本体3の上端部には、空間3aに連通するノズル4が接続され、放射性廃液6を供給するための廃液供給管5及びガラス原料8を供給するための供給管7がノズル4に接続される。供給管7は、流動化剤16の添加にも使用される。廃液供給管5の上流には、放射性廃液を収容する容器(図示略)、及び、必要に応じて付設される各種機器(図示略)が接続され、供給管7の上流にはガラス原料を収容する容器(図示略)、及び、流動化剤を収容する容器(図示略)が接続される。ケーシング2及び溶融炉本体3の側壁部には、対になった電極9が空間3aに露出するように貫通して設けられ、空間3aに供給されるガラス原料に電極9から直接通電することによって発生するジュール熱を熱源としてガラス原料を加熱溶融する。電極9によって溶融ガラス10は800〜1200℃程度に加熱可能である。又、電極9による通電加熱が可能な状態にするために、輻射熱等による間接加熱装置11が溶融炉本体3の上部に付設され、運転開始時においては、空間3aに投入されるガラス原料を間接加熱装置11によって800℃程度までガラスを加熱して溶融し、この後、放射性廃液の導入及び混合を進めるために電極9による加熱に移行する。炉底部は中央に向かって下方に傾斜して空間3aを角錐形状に挟搾し、その下端部には、誘導加熱コイル等の加熱手段13を付設した流下ノズル12が接続され、加熱手段13によって流下ノズル12を加熱することによって、流下ノズル12を閉塞するガラスが溶融して空間3aの溶融ガラスの排出が可能となる。流下ノズル12の下端部には、溶融ガラス等を収容する容器として、キャニスタ14が結合装置(図示略)を介して着脱可能に連結され、空間3aから排出される溶融ガラス等が投入されて固化する。
【0031】
放射性廃液6の放射性物質をガラス封止するには、先ず、溶融炉本体3の空間3aにガラス原料8を供給して間接加熱装置11によって溶融し、電極9によって800〜1200℃に昇温する。この状態において、流下ノズル12近辺は低温であるため、流下ノズル12はガラス固体によって閉塞されている。廃液供給管5から放射性廃液6を空間3aに供給し、必要に応じて供給管7からガラス原料を補給すると、放射性廃液6は、溶融ガラスとの接触により水分が蒸発し、放射性物質を含む内容物が固化すると共に溶融ガラス中に混合分散する。廃液に含まれる白金族元素は、沈降して炉底部に高粘度の堆積物15を形成する。加熱手段13によって流下ノズル12を加熱すると、ノズル内のガラスが溶融して閉塞が開放され、放射性物質を含んだ溶融ガラスは、空間3aから流下ノズル12を通じてキャニスタ14へ排出される。キャニスタ14内でガラスが冷却固化することによって、放射性物質を封止したガラス固化体が調製される。キャニスタ14は、溶融炉から取り外され、ガラス固化体は、キャニスタ14に封入された状態で埋設処理される。
【0032】
上記作業を繰り返すに従って、溶融炉底部に残留する白金族を含む堆積物15の量が増加し、流下ノズル12からの溶融ガラスの排出を阻害し易くなる。これを流動化して排出するために、
図2に示すように、溶融炉底部に残留する堆積物15に流動化剤16を添加して流動化処理を行う。この実施形態では、第1の流動化剤として、テルルを金属成分とする粒状物(テルル単体、二酸化テルル又はテルルガラス)を使用し、白金族元素をTe−Pd合金、Te−Rh合金及びTe−Ru合金へ変換して堆積物を流動化する。粒状物の寸法は、装置構成等に応じて適宜変更可能である。
【0033】
詳細には、先ず、堆積物に含まれる白金族元素量を求める。これは、放射性廃液に含まれる各成分の濃度を予め測定し、処理を施した廃液量に基づいて算出することができる。尚、ウラン燃料の使用済核燃料の再処理において発生する放射性廃液の内容については判明しているので、そのデータを利用して白金族元素Pd,Ru,Rhの量を算出できる。あるいは、電極9によって溶融ガラス10に通電する際の抵抗値の低下度合、又は、電極9から溶融ガラスに供給される電力量から推定される溶融ガラスの温度と実際の温度との差に基づいて、そのような導電性の上昇又は加熱効率の低下を生じる金属組成物の量として堆積物の量を推定できることが経験により判明しているので、通電抵抗又はガラス温度の測定値から概算してもよい。これらの測定値は、堆積物の除去を実施するタイミングを決定するために用いることができ、このためには、予め堆積物の許容量を設定し、この量に相当する導電性の上昇又は加熱効率の低下が観測された時点で堆積物の流動化を実施すると良い。
【0034】
次に、得られた白金族元素の量に対して、液相線温度がガラスを溶融する温度より低くなる合金組成、好ましくは最も低くなる合金組成又は共晶組成の割合となるTeの量を好適添加量として算出し、好適添加量の0.5〜5倍の範囲で適正添加量を設定する。Teの好適添加量及び適正添加量は、白金族元素の少なくとも一種に対して設定すればよいが、廃液に含まれる各白金族元素についてTeの好適添加量を設定し、それらの合計を最適値として、その1〜2倍の範囲で添加量を設定すると好ましい。例えば、37at%Te−Pdの共晶組成に基づいてTeの適正添加量を求めると、それは、堆積物のPd量と添加するTe量との比率(モル比)が63:37〜50:50程度となる値となる。二酸化テルル又はテルルガラスを用いる場合は、更にテルル単体との分子量比に基づいて添加量を算出する。Te−Rh合金及びTe−Ru合金を形成するための添加量についても、上記と同様に公知の状態図に基づいて算出すればよい。放射性廃液に含まれる白金族元素の比は、概して、Ru:Pd:Rh≒6:3:1程度(モル比)であるので、各合金の共晶組成比に基づく適正量にこの元素比による重み付けを行って合計するとよい。
【0035】
尚、放射性廃液6にはTeが含まれているので、上述の流動化剤の添加量の設定において放射性廃液6に含まれるTeの量を勘案する場合は、算出した適正量から廃液に含まれる量を減算するが、溶融ガラスを排出した後の残留堆積物に対して添加する場合、放射性廃液由来のTeの殆どは溶融ガラスと共に排出されるので、考慮しなくてもよい。
【0036】
算出された添加量の流動化剤16を供給管7から空間3aに供給して間接加熱装置11によって800〜1200℃程度に加熱すると、溶融炉底部に残留する堆積物15の白金族元素と添加した流動化剤(Te)との接触部分において、白金族元素とTeとの共晶溶融物が生成し、この溶融物を通じて、Teは堆積物中に拡散し、堆積物の白金族元素はTe中へ拡散する。この結果、堆積物15の融点降下及び粘度低下によって堆積物は流動化し、白金族元素とTeとの溶融物が堆積物15から分離・放出されると、堆積物の減量・崩壊も可能になる。テルルガラスを用いた場合や、少量の溶融ガラスが存在する場合には、上記の現象に加えて、堆積物15中の白金族元素の減少によって堆積物のガラス馴染みが向上し、溶融ガラスへ分散し易くなる。流動化剤16として、共晶体を形成しない合金の金属成分を用いた場合にも、加熱温度(ガラスを溶融する温度)より液相線温度が低くなる組成の合金溶融物が生成し、この合金溶融物を通して上記と同様の成分拡散が進行する。流動化剤16として金属間化合物を形成する金属成分を用いた場合も同様である。余剰の流動化剤は、ガラスとの親和性に応じて溶融ガラス中に分散する。
【0037】
流動化剤16の添加によって、堆積物15中の白金族元素の溶融ガラスへの分散・拡散、及び、流動化剤の堆積物中への拡散が進行し、堆積物15の白金族元素濃度の減少によって粘性が低下するので、
図1のようにキャニスタ14を接続して流下ノズル12を加熱手段13によって加熱すれば、堆積物15は、流動化剤16及び溶融ガラスと共に排出される。キャニスタ14内のガラス固化体において、白金族元素は、流動化剤の金属成分との合金、固溶体又は化合物の状態で封止される。流動化剤がTe又はその化合物である場合、Pd:Teの比が5:2、3:2、1:1、1:2等の固相マトリクスが生成し得る。
【0038】
ガラス溶融炉1において、ガラス原料8を予め加熱溶融した状態で、放射性廃液6と第1の流動化剤とを同時に溶融ガラス中に添加してもよく、この場合、溶融ガラスとの接触によって放射性廃液6の水分蒸発により析出する固形物の白金族元素と第1の流動化剤とが接触して溶融合金が容易に形成され、白金族元素による懸濁物及び堆積物の形成は抑制されるので、白金族元素は、放射性物質を含む溶融ガラス10と共に容易に排出できる。この場合、放射性廃液6にはTeが含まれているので、第1流動化剤としてテルル又はその化合物を使用する際には、流動化剤の添加量の設定において放射性廃液6に含まれるTeの量を勘案して、算出した適正量から廃液に含まれる量を減算する。
【0039】
図3及び
図4は、放射性廃液に含まれる放射性物質をガラス封止する際に第2の流動化剤として亜鉛を用いて堆積物を除去する一実施形態を示し、溶融炉底部に形成される堆積物の近辺に流動化剤16aを供給可能なように構成したガラス溶融炉1’を用いる。
【0040】
詳細には、ガラス溶融炉1’は、流動化剤16aを供給するためのチューブ17を有する点を除いては
図1及び
図2のガラス溶融炉1と同じ構成である。チューブ17は、耐熱性及び耐蝕性を有する素材(例えば、INCONEL(ニッケル系超合金、登録商標)等)を用いて製作され、ガラス溶融炉1’の外部から空間3a内へ向かってノズル4内を同軸状に貫通して、その下端が炉底部の近辺において開口するように設けられる。つまり、投入される流動化剤16aと炉底の堆積物15との接触が容易な構成であり、堆積物15を構成するガラス成分に混入してガラスの粘度を低下させ、流動性を付与するのに有利である。この実施形態では、チューブ17の下端開口部は、炉底中央の流下ノズル12上方に位置するが、中央から離れた位置であってもよい。
【0041】
図3は、溶融ガラス10を排出する前に流動化剤16aを添加する場合を示し、
図4は、溶融ガラス10を排出した後に残留する堆積物15に流動化剤16aを添加する場合を示す。ガラス溶融炉1’において、
図1と同様にしてガラス原料8を加熱溶融して放射性物質のガラス封止を実施し、
図3のように溶融ガラス10が存在する状態で流動化剤16aとして亜鉛をチューブ17から添加すると、加熱によって溶融した亜鉛がチューブ17の下端から堆積物15近辺の溶融ガラスに供給される。溶融亜鉛は、溶融ガラスに分散し、これを介して堆積物15と接触して堆積物15を構成するガラスに混入する。これにより、堆積物15中のガラスの粘度が低下して堆積物15を流動化し、同時に、溶融ガラス10の粘度も低下する。従って、流下ノズル12を加熱して閉塞を解くと、溶融ガラス10の流動速度が速くなって、堆積物15の分断や溶融ガラス10への巻き込みを生じ易くなる。これに対し、
図4においては、チューブ17から添加される亜鉛は、溶融ガラス10の排出後の余熱、又は、必要に応じて間接加熱装置11から供給されるエネルギーによって加熱溶融され、炉底に残留する堆積物15に直接接触して堆積物15のガラスに混入するので、排出の際に溶融ガラス10による巻き込み等の利点はないが、流動化剤の添加量は、堆積物15のガラスの粘度低下に有効な量として設定される。
図3の場合の流動化剤の添加量は、堆積物15のガラスの粘度低下に有効な量と、堆積物15へ流動化剤が接触するように少なくとも近辺の溶融ガラス10に分散させる量との合計となる。溶融ガラス10に分散させる量として、流動化剤由来の金属成分濃度(酸化物換算)が溶融ガラス10全体の0.1質量%以上となる量を設定することができる。
【0042】
上記実施形態の変形例として、
図4のように溶融ガラス10を排出した後の堆積物15上に流動化剤16aとして亜鉛を供給して堆積物15のガラスと亜鉛とを直接作用させた後に、ガラス原料8の投入及び加熱溶融を行って、溶融ガラス10と共に堆積物15を排出するようにしてもよい。
【0043】
ガラスに含まれる亜鉛の濃度(酸化物換算)とガラスの溶融温度との関係を調べると、
図5のグラフに示すような関係になる。このグラフによれば、溶融温度は亜鉛の濃度が20質量%付近において最も低くなり、これは、亜鉛の濃度が20質量%付近において溶融ガラスの粘度が最も低くなることを意味する。従って、ガラスの粘度低下に有効な亜鉛の添加量は、ガラス中濃度20質量%を最適値として、前述のように設定することができる。
【0044】
前述したように、第1の流動化剤は、放射性廃液に予め投入して、ガラス封止時の高粘性堆積物の形成を抑制するように使用することができる。この使用形態は、例えば
図1のようなガラス溶融炉1を用いて実施でき、溶融炉の空間3aにおいてガラス原料8加熱溶解しておき、第1の流動化剤を添加した放射性廃液を廃液供給管5から溶融ガラスに投入すると、廃液の水分蒸発により析出する固形物中で第1の流動化剤の金属と白金族元素との接触及び溶融物の形成が容易に起こるので、溶融物は溶融ガラス中に分散され、放射性物質を含む溶融ガラス10と共に容易に流下ノズル12から排出できる。従って、白金族元素による懸濁物及び堆積物の形成は抑制される。放射性廃液は、放射性物質を含んだ硝酸酸性の水性液(硝酸濃度:2.5規定以上)であり、金属単体又は化合物の形態で添加される第1の流動化剤の金属成分が放射性廃液中に溶解する。第1の流動化剤として金属化合物を使用する場合、酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩等、廃液に溶解可能であれば如何なる形態の化合物でも良く、実用的には酸化物及び硝酸塩が好適である。或いは、第1の流動化剤を溶解した水性液、好ましくは硝酸水溶液を調製して、ガラス溶融炉に連通する廃液供給管の途中において放射性廃液に添加混合してもよい。第1の流動化剤によって白金族元素を低融点物質に変換する目的は、放射性廃液に添加する使用形態、及び、ガラス溶融炉に添加する使用形態の何れにおいても同じであるので、放射性廃液に添加する第1の流動化剤の量は、前述の溶融ガラス中に添加する形態と同様にして算出することができ、Teについては放射性廃液に含まれる量を勘案して設定するとよい。
【0045】
第1の流動化剤を、放射性廃液中に、又は、放射性廃液と共にガラス溶融炉中に添加すると、白金族元素による懸濁物及び堆積物の形成は抑制されるので、ガラス溶融炉のメンテナンス頻度を低下させ、溶融炉の寿命の延長に有利である。
【0046】
上述のように、第1又は第2の流動化剤を用いて白金族元素による堆積物の除去又は形成抑制を実施すると、溶融ガラスを排出した後のガラス溶融炉を冷却せずにそのまま作業を継続することが可能であるので、冷却・再加熱のためのエネルギー及び時間が不要であり、炉底の堆積物をはつる従来の方法に比べてエネルギー効率及び作業時間の点で非常に有利である。
【0047】
上述の第1及び第2の流動化剤による流動化作用を機構的に比較すると、論理的には、ガラス中への浸入によって粘度を低下させる第2の流動化剤より、接触により低融点合金等の生成が進行する第1の流動化剤の方が速く作用すると考えられるが、実際にはさほど差がない。これは、放射性廃液に含まれる白金族元素の割合に起因すると考えられる。放射性廃液に含まれる白金族元素の割合は、概して、Ru:Pd:Rh≒6:3:1程度(モル比)であり、Ruの占める割合が高いが、Ruは、他の白金族元素に比べて第1の流動化剤との反応性が低く、溶融物の形成が遅い。しかも、溶融ガラス中で形成する堆積物は、Ruによる針状結晶がかご状に成長してPdやRhを包接する状態になるため、Pd及びRhと流動化剤との接触が阻害され易く、堆積物中のガラスの粘度が低下しても堆積物の流動化に十分に反映されないので、結果的にRuとの反応に左右される。この点を考慮すると、ガラス封止作業の前に放射性廃液からRuを除去できれば、第1流動化剤を用いた堆積物の形成抑制又は除去に要する時間を短縮することができる。これは、Ruを気化容易な酸化物に変換することによって実現可能であり、具体的には、放射性廃液に酸化処理を施してRuを酸化し、生成するRuO
4をガスとして廃液から分離除去した後にガラス封止を行えば、溶融ガラスから生じる堆積物の量は大幅に減少し、第1の流動化剤との反応性が改善されて、堆積物の形成抑制及び除去が容易になる。又、ガラス封止中の加熱によってRuが酸化物として気化する懸念があると、これに対応するための設備が更に必要となるが、放射性廃液から予めRuを除去すれば、このような設備を省略できるので、この点においても有利である。放射性廃液からのRuの除去について、以下に説明する。
【0048】
Ruの酸化物にはRuO
2及びRuO
4があり、RuO
4は、融点が40℃の気化し易い物質であるので、酸化剤を用いてRu及びRuO
2をRuO
4に酸化すると、ガスとして廃液から分離除去することができる。酸化剤として、オゾン、過マンガン酸カリウム、セリウム(IV)化合物、過ヨウ素酸ナトリウム等が使用可能であり、このような酸化剤を放射性廃液に供給することによって、RuO
4に酸化することができる。供給形態は、液体の添加、ガスの吹き込み等のいずれでも良い。廃液に含まれる他成分の種類及び量の変動を避ける点でオゾンの利用が好ましい。廃液からのRuO
4の除去は、加熱又は減圧によって促進可能であり、139℃以上に加熱すると、水分の蒸発と共にRuO
4が容易に気化する。また、25〜100torr程度の減圧下においては50℃程度の加熱で気化することができる。
【0049】
放射性廃液から気化するRuO
4は、冷却凝縮、吸収又は吸着によって回収可能であり、吸収剤としては、NaOH水溶液等の塩基性水が使用可能であり、吸着剤としては、シリカゲル等が挙げられる。従って、冷却媒体、吸収剤又は吸着剤を、スプレー噴霧、フィルター又は充填カラム等の形態で接触させると、RuO
4を回収することができる。或いは、酸化剤としてオゾンを用いた場合、廃液から分離されるガスを加熱してオゾンを分解すると、ガス中のRuO
4は還元されて固体状のRuO
2として回収することが可能である。
【0050】
Ruを除去した後の放射性廃液をガラス溶融炉に投入して封止すると、炉底に形成される白金族元素による堆積物は、第1の流動化剤を用いて除去するのが容易になり、除去に要する時間も短縮される。また、放射性廃液をガラス溶融炉に投入する前又は同時に第1の流動化剤を添加すると、堆積物の形成は著しく抑制される。廃液に含まれる白金族元素量が大幅に減少するので、流動化剤の添加量を削減できる。また、第2の流動化剤を用いて堆積物を除去する場合にも、Ruによるかご状の結晶は存在しないので、堆積物が流動化し易くなる。
【0051】
放射性廃液からRuを除去する工程を有するガラス封止方法の一実施形態を、
図6のガラス封止装置20を参照して以下に説明する。
【0052】
図6のガラス封止装置20は、廃液タンク21、酸化塔22、分離塔23、流動化剤供給塔24及び溶融部25を有し、廃液タンク21に収容される放射性廃液は、廃液供給配管を通じて酸化塔22、分離塔23及び流動化剤供給塔24に順次供給された後に、溶融部25に供給されてガラス封止される。溶融部25内には、前述した
図1のようなガラス溶融炉が設置され、ガラス封止用のキャニスタが接続される。
【0053】
酸化塔22には酸化剤供給部26が接続され、酸化剤としてオゾン等を収容するボンベが収納される。廃液タンク21から酸化塔22に供給される放射性廃液は、酸化剤供給部26から供給されるオゾンの吹き込みを施され、廃液中に含まれる金属イオンはオゾンの酸化を受け、RuイオンはRuO
4に変換される。この廃液は分離塔23に供給される。分離塔23内を25〜100torr程度に減圧して廃液を50℃程度以上に加熱すると、RuO
4の気化が容易に進行する。分離塔23には回収塔27が接続され、分離塔23において放射性廃液から放出されるRuO
4及び水蒸気を含むガスは、回収塔27において冷却されて凝縮され、RuO
4及び水として回収される。回収塔27にNaOH水溶液等の水性液を収容して、この中に分離塔23から排出されるRuO
4ガスを吹き込むように構成することによって回収効率が向上する。
【0054】
分離塔23を経た放射性廃液中の白金族元素は、Ruが減少又は除去されてPd及びRhが主となる。流動化剤供給塔24において、流動化剤容器28から供給される流動化剤が放射性廃液に添加された後に溶融部25に供給されて、ガラス供給部29から溶融部25内のガラス溶融炉に供給されるガラス原料によって封止される。Pd及びRhが主となった白金族元素は、廃液が溶融ガラスに投入された際に容易に流動化剤と反応して溶融物を形成し、溶融ガラス中に分散するので、堆積物の形成は抑制される。流動化剤容器28から供給される流動化剤は、前述の第1の流動化剤であり、Te又はTeO
2等のTe化合物を流動化剤として添加すると、白金族元素とTeとの溶融合金が生成する。放射性物質は、白金族元素の溶融物と共にキャニスタ中でガラス封止される。尚、ガラス封止作業の繰り返しの間に堆積物が形成された場合、予備的に付設される流動化剤容器30から流動化剤を添加して、例えば
図2のようにして除去処理することができる。この流動化剤容器30から供給する流動化剤は、第1の流動化剤及び第2の流動化剤の何れでも良い。或いは、流動化剤供給塔24及び流動化剤容器28を省略して、流動化剤を流動化剤容器30から溶融部25へ供給するように構成することも可能である。
【0055】
分離塔23において、廃液を140℃程度に加熱すると、RuO
2に対するRuO
4の安定性が向上して除去率が向上する。これに基づいてRuO
4の気化除去を強化すると、放射性廃液は乾燥により固化し、溶融部25へ供給するために固化物の掻き取り作業等が必要となる。このような場合、酸化塔22を経た放射性廃液をガラス容器に収容し、分離塔23及び流動化剤供給塔24における処理をガラス容器内で行うと、ガラス容器中で固化した放射性物質等をそのまま溶融部25に投入して処理することができる。
【0056】
ルテニウム酸化物に関して、非酸化性環境下ではRuO
4よりRuO
2の方が安定であるので、分離塔23から放出されるRuO
4ガスは、回収塔27において非酸化状態におくと、還元されて固体状のRuO
2としての回収が可能である。酸化剤供給部26から供給する酸化剤としてオゾンを用いる場合、分離塔23から放出されるガスはオゾン及びRuO
4を含むので、これに対して回収塔27においてオゾン除去処理を施すと、RuO
4をRuO
2に変換して回収することができる。オゾンの除去には、活性炭等の触媒を用いた分解反応や、高温での熱分解を利用することができ、ガスの水分除去と共にオゾン除去を行えば、RuO
2は粒状等の取り扱い易い状態で回収できる。このような状態で回収されるRuO
2は移送が容易であるので、回収塔27から溶融部25内の溶融炉とキャニスタとの接続部へ導入したり、キャニスタへ直接投入することができる。従って、溶融炉から排出されるガラスと放射性物質との溶融混合物と共にRuO
2をキャニスタへ投入して、溶融混合物に添加混合してガラス封止することができる。つまり、放射性廃液からルテニウムを一旦分離して溶融炉内での白金属元素による堆積物の形成を抑制し、且つ、ルテニウムも含めた放射性廃液の内容物全てをガラス封止することができる。
【実施例1】
【0057】
ガラス封止において形成される堆積物に対する各種成分の作用を調べるために、堆積物の模擬試料を調製して以下の試験を行って、堆積物中の白金族元素の変化を調べた。
【0058】
(堆積物の模擬試料aの調製)
0.1gのRuO
2、0.1gのPd、0.1gのRh及び2.7gの4%Naガラスをるつぼに投入して電気炉内で10℃/分で昇温し、800℃で1時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却して、放射性廃液から形成される堆積物の模擬試料aを調製した。
【0059】
(試験1〜4及び対照試験)
堆積物の模擬試料aが3g調製されたるつぼに、流動化剤として、0.25gのTeO2(試験1)、0.20gのTe(試験2)、0.37gのZn(試験3)又は1.0gの炭酸リチウム(試験4)を添加し、更に、4%Naガラス30gをるつぼに投入して、電気炉内(雰囲気:空気)において1000℃で4時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却してガラスを固化させることにより、ガラス封止の試験1〜4を行った。更に、対照試験として、流動化剤を添加しないこと以外は上記と同様の操作を行った。
【0060】
尚、上述の流動化剤の添加量に関して、試験1及び2においては、37at%Te−Pd合金及び50at%Te−Rh合金の共晶組成(37at%Te≒41質量%、50at%Te≒55質量%)を考慮して、Pd及びRhの50質量%程度とした。試験3においては、26at%Pd−Znの共晶組成(74at%Zn≒18質量%)に基づき、Rhについても同様として、Pd及びRhの36質量%程度とした。
【0061】
(試験1〜4及び対照試験の評価)
るつぼを鉛直方向に切断して、断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた。その結果、試験4及び対照試験においては、Ru、Pd及びRhの何れについても、るつぼ底部のみに分布していた。試験1〜3においては、るつぼ底部の中央においてRuが減少し、ガラスの中部にRuが検出された。又、Pd及びRhについては、試験1及び2では、ガラスの上面にPd及びRhが検出され、試験3では、るつぼ底部の中央においてPd及びRhが減少し、ガラスの中部から上部にかけてPd及びRhが検出された。
【0062】
上記評価において、試験1と試験2とにおいて白金族元素の分布に差は見られなかったことから、空気雰囲気での酸化によってTeは酸化物の状態で作用したと考えられる。又、ガラス上面に金属光沢の粒子が見られ、Pd、Rh及びTeが検出されたことから、Pd−Te合金及びRh−Te合金であることが理解される。
【0063】
試験3のガラス断面において、Znの分布を調べたところ、下部のガラスに広く分布しており、ガラス中への拡散が認められた。
【実施例2】
【0064】
(模擬試料bの調製)
0.30gのRuO
2、0.15gのPd及び0.05gのRhと、4.5gの4%Naガラスとをるつぼに投入し、電気炉内で10℃/分で昇温して800℃で1時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却して、放射性廃液から形成される堆積物の模擬試料bを調製した。模擬試料bの重量は約5gであった。
【0065】
(試験1A〜3A)
堆積物の模擬試料bが5g調製されたるつぼに、流動化剤として、0.25gのTeO2(試験1A)、0.20gのTe(試験2A)又は0.37gのZn(試験3A)を添加し、更に、4%Naガラス50gをるつぼに投入して、電気炉内(雰囲気:空気)において1000℃で4時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却してガラスを固化させてガラス封止の試験1A〜3Aを行った。
【0066】
(試験1A〜3Aの評価)
るつぼを鉛直方向に切断して、断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた。その結果、試験1A〜3Aのいずれにおいても、白金族元素の分布はるつぼ底部に集中し、ガラス中への拡散は少なかった。
【0067】
(試験1B〜3B)
1000℃での加熱時間を24時間に延長したこと以外は、試験1A〜3Aと同様の操作を行って、流動化剤としてTeO2(試験1B)、Te(試験2B)又はZn(試験3B)を用いたガラス封止の試験1B〜3Bを行った。
【0068】
(試験1B〜3Bの評価)
ガラスの鉛直方向断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた結果、試験1B及び2Bの結果は、試験1及び2と同様であり、試験3Bの結果も、試験3と同様であった。従って、模擬試料bにおいては、白金族元素がガラス中に拡散する速度が遅いことが理解される。
【0069】
(模擬試料cの調製)
0.30gのRuO
2、0.15gのPd及び0.05gのRhを2.5N硝酸に溶解して模擬廃液を調製し、この廃液にオゾンガスを十分に吹き込んだ後、るつぼに投入して140℃の電気炉内で加熱して水分を蒸発させた。るつぼを一旦取り出して1.8gの4%Naガラスを添加した後に、電気炉内で10℃/分で昇温して800℃で1時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却して、放射性廃液から形成される堆積物の模擬試料cを調製した。模擬試料cの重量は、約2gであった。
【0070】
(試験1C〜3C)
堆積物の模擬試料cが2g調製されたるつぼに、流動化剤として、0.25gのTeO2(試験1C)、0.20gのTe(試験2C)又は0.37gのZn(試験3C)を添加し、更に、4%Naガラス20gをるつぼに投入して、電気炉内(雰囲気:空気)において1000℃で4時間加熱してガラスを溶融した後に、るつぼを取り出して室温で冷却してガラスを固化させてガラス封止の試験1C〜3Cを行った。
【0071】
(試験1C〜3Cの評価)
ガラスの鉛直方向断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた結果、試験1C及び2Cの結果は、試験1及び2と同様であり、試験3Cの結果は、試験3と同様であった。従って、模擬試料cにおいては、白金族元素がガラス中に良好に拡散することが理解される。
【0072】
(試験1D〜3D)
ガラスの溶融温度を1000℃から800℃に変更したこと以外は試験1C〜3Cと同様にしてガラス封止の試験1D〜3Dを行った。
【0073】
(試験1D〜3Dの評価)
ガラスの鉛直方向断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた結果、試験1D及び2Dの結果は、試験1及び2と同様であり、試験3Dの結果は、試験3と同様であった。
【0074】
(試験1E〜3E)
ガラスの加熱溶融時間を4時間から1時間に変更したこと以外は試験1C〜3Cと同様にしてガラス封止の試験1E〜3Eを行った。
【0075】
(試験1E〜3Eの評価)
ガラスの鉛直方向断面における白金族元素の分布をX線分析顕微鏡によって調べた結果、試験1E及び2Eの結果は、試験1及び2と同様であり、試験3Eの結果は、試験3Eと同様であった。