(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シフトシャフトの軸線方向視において、前記第二の連結ピンは、前記シフトアームの揺動方向の中心線と、前記揺動方向の中心線に平行で前記シフトアームの揺動方向の端部を通過する直線との間に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用変速装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本発明の実施形態にかかる車両用変速装置3が適用される自動二輪車1について、
図1と
図2を参照して説明する。
図1は、自動二輪車1の構成を模式的に示す右側面図である。
図2は、自動二輪車1の左側面図である。なお、説明の便宜上、自動二輪車1および車両用変速装置3の前後上下左右の各向きは、自動二輪車1に乗車する運転者の向きを基準とする。自動二輪車1および車両用変速装置3を構成する部材や機器についても同様とする。各図においては、必要に応じて、自動二輪車1および車両用変速装置3の上方を矢印Tpで、下方を矢印Btで、前方を矢印Frで、後方を矢印Rrで、左方を矢印Lで、右方を矢印Rで示す。
【0018】
自動二輪車1は、オートクラッチ車である。自動二輪車1は、車体フレーム11と、操舵装置12と、駆動源としてのエンジンユニット2と、後輪懸架装置14と、排気装置15とを有する。本発明の実施形態にかかる車両用変速装置3は、エンジンユニット2に設けられる。
車体フレーム11は、ステアリングヘッドパイプ111と、左右一対のメインフレーム112と、左右一対のダウンチューブ113と、左右一対のリヤフレーム114とを含む。
ステアリングヘッドパイプ111は、ステアリングシャフト121(後述)を回転可能に支持する部分であり、後傾する管状に形成される。左右一対のメインフレーム112は、互いに左右方向に所定の距離をおいて離間し、ステアリングヘッドパイプ111から後方斜め下に向かって延伸する。左右一対のダウンチューブ113は、ステアリングヘッドパイプ111から略下方に向かって延伸し、さらに後方に向かって延伸する。左右一対のダウンチューブ113の先端部(上端部)はステアリングヘッドパイプ111に接合され、後端部(下端部)は左右一対のメインフレーム112の後端部(下端部)に接合される。左右一対のリヤフレーム114は、左右方向に所定の距離をおいて互いに離間しており、メインフレーム112の後部から後方斜め上方に向かって延伸する。
ステアリングヘッドパイプ111と、左右一対のメインフレーム112と、左右一対のダウンチューブ113と、左右一対のリヤフレーム114とは、鉄系またはアルミニウム合金などによって形成され、溶接などによって一体に接合される。また、左右一対のメインフレーム112と、左右一対のダウンチューブ113と、左右一対のリヤフレーム114は、いずれも棒状に形成される。
【0019】
操舵装置12は、ステアリングシャフト121と、左右一対のフロントフォーク122と、前輪123と、ハンドルユニット124とを含む。ステアリングシャフト121は、後傾する管状(または棒状)に形成され、ステアリングヘッドパイプ111に挿通されて回転可能に支持される。左右一対のフロントフォーク122は、左右方向に所定の距離をおいて離間して略平行に設けられる。左右一対のフロントフォーク122の上部は、ブリッジなどの部材を介してステアリングシャフト121に結合される。左右一対のフロントフォーク122の下端部には、前輪123が回転可能に支持される。また、左右一対のフロントフォーク122には、前輪123の上部を覆うフロントフェンダ180と、前輪123のブレーキリムが設けられる。ハンドルユニット124は、ステアリングシャフト121の上端部に設けられる。ハンドルユニット124はハンドルバー126を有する。ハンドルバー126の右端部にはスロットルグリップ127と前輪123のブレーキレバー128が設けられ、左端部にはハンドルグリップ129が設けられる。さらに、ハンドルバー126には、バックミラー130と、ヘッドライト172やウィンカーを操作するためのスイッチ類などが設けられる。
【0020】
駆動源としてのエンジンユニット2は、車体フレーム11のメインフレーム112とダウンチューブ113とに囲まれる領域に設けられる。エンジンユニット2は、シリンダアセンブリ21と、クランクケースアセンブリ23とを有する。エンジンユニット2の左外側にはドライブチェーンスプロケット146(
図2においては隠れて見えない。
図4参照)が設けられており、このドライブチェーンスプロケット146により回転動力を後輪142に伝達する。
【0021】
後輪懸架装置14は、左右一対のスイングアーム141と、後輪142とを含む。左右一対のスイングアーム141の前端部は、車体フレーム11のメインフレーム112の後端部近傍に、上下方向に揺動可能に連結される。後輪142は、左右一対のスイングアーム141の後端部に回転可能に支持される。後輪142の左側には、ドリブンチェーンスプロケット(
図1と
図2においては隠れて見えない)が一体に回転するように設けられる。後輪142のドリブンチェーンスプロケットとエンジンユニット2のドライブチェーンスプロケット146とには、ドライブチェーン145(
図2においては隠れて見えない。
図4参照)が巻き掛けられている。そして、エンジンユニット2の回転動力は、このドライブチェーン145を介して後輪142に伝達される。一対のスイングアーム141の一方(左側)にはチェーンケース143が設けられる。そして、ドライブチェーン145および後輪142のドリブンチェーンスプロケットは、このチェーンケース143に収容される。左右一対のスイングアーム141と左右一対のリヤフレーム114との間には、ショックアブソーバ144が設けられる。
【0022】
排気装置15は、排気管151と消音器152とを有する。排気管151の前端部は、エンジンユニット2のエグゾーストポート217に接続され、後端部は消音器152に接続される。排気管151は、エンジンユニット2のエグゾーストポート217から前側に延伸し、湾曲しながらエンジンユニット2の前側および下側を通過し、エンジンユニット2の左後方に至る。消音器152は、後輪142の側方(図に示す例では右側)に設けられる。エンジンユニット2の排気は、排気管151を通じて消音器152に導かれ、消音器152で騒音が低減され、外部に放出される。
【0023】
ステアリングシャフト121の前側には、フロントカバー171が設けられる。フロントカバー171には、ヘッドライト172や、ウィンカー173や、メータユニット(図においては隠れて見えない)が設けられる。メータユニットには、スピードメータなどの計器類が設けられる。メインフレーム112の上側には燃料タンク174が設けられる。燃料タンク174の後側であって、リヤフレーム114の上側には、運転者や同乗者が着座するシート175が設けられる。燃料タンク174およびシート175の下側であって、車体フレーム11の側方外側には、サイドカバー176およびリヤカバー177が設けられる。サイドカバー176およびリヤカバー177は、自動二輪車1の外観の意匠を構成する部材であり、たとえば樹脂材料によって成形される。リヤカバー177には、テールライト178やウィンカーなどが設けられる。シート175の下側であって左右一対のリヤフレーム114どうしの間には、収容スペースが形成される。収容スペースには、サービスツールや、運転者や同乗者の所持品を収容できる。後輪142の上側には、リヤフェンダ179が設けられる。
【0024】
次に、エンジンユニット2の構成について、
図3(a)(b)と
図4を参照して説明する。
図3(a)は、エンジンユニット2の構成を模式的に示す左側面図である。
図3(b)は、エンジンユニット2の構成を模式的に示す右側面図である。
図4は、エンジンユニット2の内部構造を模式的に示す断面図であり、
図3(a)のIV−IV線(折れ線)断面図である。
【0025】
エンジンユニット2は、シリンダアセンブリ21と、クランクケースアセンブリ23と、クラッチ25とを有する。エンジンユニット2は、側面視において全体として、略L字形状に形成される。
【0026】
シリンダアセンブリ21は、シリンダブロック211と、シリンダヘッド212と、シリンダヘッドカバー213とを有する。
シリンダブロック211は、クランクケースアセンブリ23の前寄りの上側に設けられる。シリンダブロック211の内部には、燃焼室214が形成される。燃焼室214の内部には、ピストン215が往復動可能に配設される。
シリンダヘッド212は、シリンダブロック211の上側に設けられる。シリンダヘッド212には、インテークポート216とエグゾーストポート217とが形成される。インテークポート216とエグゾーストポート217とは、それぞれ、燃焼室214の内部と外部とを連通する。インテークポート216にはエアクリーナ(図略)などが接続される。エグゾーストポート217には排気装置15の排気管151が接続される。さらにシリンダブロック211には、インテークポート216を開閉する吸気バルブと、エグゾーストポート217を開閉する排気バルブと、吸気バルブと排気バルブを駆動するバルブ駆動機構とが設けられる(いずれも図略)。このほか、シリンダヘッド212には、点火プラグ218が設けられる。
シリンダヘッドカバー213は、シリンダヘッド212の上側に設けられる。そして、シリンダヘッドカバー213は、シリンダヘッド212に設けられるバルブ駆動機構などの各種機構や部材を覆う。
【0027】
クランクケースアセンブリ23は、シリンダブロック211の下側に設けられる。そして、クランクケースアセンブリ23には、クラッチ25と、本発明の実施形態にかかる車両用変速装置3と、その他所定の部材や機器等が設けられる。車両用変速装置3は、カウンターシャフト311と、ドリブンシャフト312と、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312に設けられる複数の変速ギア313と、変速ギア313を操作するギアシフト機構5と、クラッチ25を操作するレリーズ機構32とを有する。
【0028】
クランクケースアセンブリ23は、たとえば左右半割の構造の筐体230を有する。クランクケースアセンブリ23の筐体230の内部の前寄り(シリンダブロック211の直下)にはクランク室231が形成され、後寄りにはミッション室232が形成される。
クランク室231の内部には、クランクシャフト233が配設される。クランクシャフト233は、その軸線(回転中心線)が左右方向を向く姿勢で、クランクケースアセンブリ23の筐体230に回転可能に支持される。クランクシャフト233とピストン215とは、コンロッド219によって連結される。クランクシャフト233の一端部(右側端部)には、プライマリドライブギア234が設けられる。プライマリドライブギア234は、クランクシャフト233と一体に回転する。
ミッション室232の内部には、カウンターシャフト311とドリブンシャフト312とが配設される。カウンターシャフト311とドリブンシャフト312とは、クランクケースアセンブリ23の筐体230に回転可能に支持される。カウンターシャフト311は、クランクシャフト233の後側に、クランクシャフト233に平行に配設される。ドリブンシャフト312は、カウンターシャフト311の後側に、カウンターシャフト311に平行に配設される。
カウンターシャフト311の一端部(右側端部)近傍には、プライマリドリブンギア237が同軸に設けられる。プライマリドリブンギア237は、クランクシャフト233に設けられるプライマリドライブギア234と噛み合っており、クランクシャフト233から回転動力が伝達されて回転する。ミッション室232の側方(右側)であって、プライマリドリブンギア237の右側には、クラッチ25が設けられる。クラッチ25は、カウンターシャフト311およびプライマリドリブンギア237に同軸に設けられる。また、クラッチ25は、クランクケースアセンブリ23の筐体230の右側に設けられるクラッチカバー257に覆われる。クラッチ25は、プライマリドリブンギア237とカウンターシャフト311の間で、回転動力の伝達を断続する。したがって、クラッチ25が繋がった状態にあると、クランクシャフト233の回転動力はカウンターシャフト311に伝達される。一方、クラッチ25が切断した状態にあると、プライマリドリブンギア237は空転し、クランクシャフト233の回転動力はカウンターシャフト311に伝達されない。そして、クランクケースアセンブリ23には、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替えるレリーズ機構32が設けられる。
【0029】
ここで、クラッチ25の構成について、簡単に説明する。クラッチ25は、クラッチハウジング251と、クラッチスリーブハブ252と、複数のドライブプレート253と、複数のドリブンプレート254と、コイルばねなどの付勢部材255と、プレッシャープレート256とを有する。
クラッチハウジング251は、軸線方向の一方が開放するカップ状の構成を有する。そして、クラッチハウジング251は、プライマリドリブンギア237の右側に、開放する側が軸線方向右側を向く姿勢で設けられる。クラッチハウジング251とプライマリドリブンギア237とは、緩衝機構などを介して接続される。そして、クラッチハウジング251は、プライマリドリブンギア237と一体に回転する。
複数のドライブプレート253は、中心部に貫通孔が形成される円盤状の部材である。そして、複数のドライブプレート253は、クラッチハウジング251の内周側に、軸線方向に所定の間隔をおいて並べられるように設けられる。複数のドライブプレート253は、クラッチハウジング251と一体に回転する。
クラッチスリーブハブ252は、円筒状の構成を有する。そして、クラッチスリーブハブ252は、カウンターシャフト311の一端部(右側端部)に設けられる。カウンターシャフト311の一端部(右側端部)近傍は、クラッチハウジング251の内周に入り込んでいる。そして、クラッチスリーブハブ252は、クラッチハウジング251の内周に位置する。
複数のドリブンプレート254は、中心部に貫通孔が形成される円盤状の部材である。そして、複数のドリブンプレート254は、クラッチスリーブハブ252の外周側に、軸線方向に所定の間隔をおいて並べられるように設けられる。複数のドリブンプレート254は、クラッチスリーブハブ252と一体に回転する。そして、クラッチハウジング251に設けられる複数のドライブプレート253と、クラッチスリーブハブ252に設けられる複数のドリブンプレート254とが、軸線方向に交互に並ぶ。
プレッシャープレート256は、コイルばねなどの付勢部材255の付勢力によって、複数のドライブプレート253と複数のドリブンプレート254とを所定の圧力をもって接触させる。プレッシャープレート256は、カウンターシャフト311に対して軸線方向に往復動可能に設けられる。プレッシャープレート256とクラッチスリーブハブ252との間に付勢部材255としての圧縮コイルばねが架設される。そして、プレッシャープレート256は、付勢部材255によって、往復動の可動範囲の右側に向かって付勢される。その結果、複数のドライブプレート253と複数のドリブンプレート254とは、プレッシャープレート256とクラッチスリーブハブ252とに所定の圧力をもって挟まれる。このため、プレッシャープレート256に付勢部材255の付勢力以外の力が掛かっていない状態においては、クラッチ25は繋がった状態に維持される。
一方、プレッシャープレート256が軸線方向左側に移動すると、複数のドライブプレート253と複数のドリブンプレート254とを接触させる力が無くなる。そうすると、クラッチ25は切断した状態となる。
このような構成のクラッチ25は、プライマリドリブンギア237に伝達された回転動力を、クラッチハウジング251と、複数のドライブプレート253と、複数のドリブンプレート254と、クラッチスリーブハブ252とを介して、カウンターシャフト311に伝達することができる。そして、プレッシャープレート256に軸線方向左向きの力を掛けることによって、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替えることができる。
そして、クランクケースアセンブリ23には、レリーズ機構32が設けられる。レリーズ機構32は、プレッシャープレート256に軸線方向左向きの力を加えることによって、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替える(詳細は後述)。
なお、前記構成は一例であり、エンジンユニット2に適用されるクラッチ25の構成は前記構成に限定されない。要は、クラッチ25は、プレッシャープレート256に軸線方向左向きの力が加えられると繋がった状態から切断した状態に切り替わる構成であればよい。
【0030】
カウンターシャフト311とドリブンシャフト312には、それぞれ複数の変速ギア313が設けられる。ここで、複数の変速ギア313の構成について、簡単に説明する。
カウンターシャフト311に設けられる複数の変速ギア313の一部は、カウンターシャフト311に一体に回転する(このような変速ギア313を、「一体回転ギア」と称する)。残りの変速ギア313は、カウンターシャフト311に対して相対的に回転可能である(このような変速ギア313を、「フリー回転ギア」と称する)。また、カウンターシャフト311に設けられる複数の変速ギア313のうちの一部(たとえば、複数の一体回転ギアの一部または全部)は、軸線方向に往復動可能である(このような変速ギア313を、「スライドギア」と称する)。スライドギアと、スライドギアに軸線方向に隣接するフリー回転ギアとには、ドッグクラッチが設けられる。そして、スライドギアが軸線方向に移動して隣接するフリーギアに接近すると、ドッグクラッチが繋がった状態となる。そうすると、当該フリーギアは、カウンターシャフト311と一体に回転する。一方、スライドギアが軸線方向に移動して隣接するフリーギアから遠ざかると、ドッグクラッチが切断した状態となる。そうすると、当該フリーギアは、カウンターシャフト311に対して相対的に回転可能な状態となる。
ドリブンシャフト312に設けられる複数の変速ギア313も、カウンターシャフト311に設けられる複数の変速ギア313と同様な構成を有する。
カウンターシャフト311に設けられる一体回転ギアのそれぞれと、ドリブンシャフト312に設けられるフリー回転ギアのそれぞれとは、常時噛み合っている。同様に、カウンターシャフト311に設けられるフリー回転ギアのそれぞれと、ドリブンシャフト312に設けられる一体回転ギアのそれぞれとは、常時噛み合っている。そして、スライドギアの移動によって、カウンターシャフト311からドリブンシャフト312に回転動力を伝達する変速ギア313の組み合わせ(回転動力の伝達経路)を変更できる。
なお、本発明の実施形態にかかる車両用変速装置3は、常時噛み合い方式である。そして、カウンターシャフト311と、ドリブンシャフト312と、複数の変速ギア313とは、従来公知の常時噛み合い方式の車両用変速装置と同じ構成が適用できる。
クランクケースアセンブリ23には、所定のスライドギアを軸線方向に移動させるギアシフト機構5が設けられる。
【0031】
このほかに、クランクケースアセンブリ23の右側には、始動レバー291が設けられる。運転者は、始動レバー291を操作することによって、エンジンユニット2を始動させる。クランクケースアセンブリ23の左側には、発電機であるマグネト292が設けられる。そして、クランクケースアセンブリ23の筐体230の左側には、マグネト292を覆うマグネトカバー293が設けられる。
【0032】
なお、
図1〜
図4には、エンジンユニット2に空冷単気筒エンジンが適用される構成を示すが、エンジンの種類は限定されるものではない。エンジン(内燃機関)は、空冷式エンジンであっても水冷式エンジンであってもよく、単気筒エンジンであっても多気筒エンジンであってもよい。なお、エンジンユニット2に水冷式エンジンが適用される構成においては、自動二輪車1には、冷媒を冷却するラジエータと、冷媒を循環するポンプとがさらに設けられる。
【0033】
次に、車両用変速装置3のギアシフト機構5およびレリーズ機構32の構成について、
図5〜
図8を参照して説明する。
図5(a)は、シフトレバー52の揺動の態様を示す左側面図である。
図5(b)は、ギアシフト機構5およびレリーズ機構32の構成を模式的に示す断面図である。
図6は、ギアシフト機構5およびレリーズ機構32の構成を模式的に示す断面図であり、
図5(b)の部分拡大図である。
図7は、ギアシフト機構5の各部材の構成を模式的に示す分解斜視図である。
図8は、ギアシフト機構5の構成を模式的に示す右側面図である。なお、
図5(b)と
図6は、ギアシフト機構5の構造を分かりやすく示すため、ギアシフト機構5の各部材を説明に便宜な個所で切断して示す。このため、
図5(b)と
図6に示す各部材の断面形状は、特定の切断面で切断した実際の断面形状とは異なることがある。
【0034】
ギアシフト機構5は、シフトシャフト51と、シフトレバー52と、レリーズアーム53と、増幅リンク機構64と、過回転防止部材57と、シフトアーム58と、シフトカム81と、シフトフォーク83とを有する。増幅リンク機構64は、アームプレート54と、リンクアーム55と、リンク軸56と、第一の連結ピン542と、第二の連結ピン573とを有する。また、クランクケースアセンブリ23の筐体230の内部には、支持枠50が設けられる。そして、ギアシフト機構5を構成する各部材は、クランクケースアセンブリ23の筐体230や、支持枠50や、シフトシャフト51に設けられる。なお、以下の説明においては、特に断らない限りは、「軸線方向」「円周方向(回転方向、揺動方向)」「半径方向」は、いずれもシフトシャフト51を基準とする。また、シフトシャフト51の軸線方向について、シフトレバー52が設けられる側を「レバー側」と称し、レリーズ機構32が設けられる側を「クラッチ側」と称する。本実施形態にかかる自動二輪車1においては、レバー側が左側であり、クラッチ側は右側である。
【0035】
ここで、ギアシフト機構5の全体的な構成および動作について、
図5(a)(b)および
図6を参照して簡単に説明する。運転者は、シフトレバー52を操作することによって、シフトシャフト51を回転させる。レリーズアーム53は、シフトシャフト51と一体に回転する。増幅リンク機構64のアームプレート54は、シフトシャフト51から回転が伝達されて揺動する。なお、レリーズアーム53とアームプレート54とには遅延機構652が設けられる。このため、アームプレート54は、レリーズアーム53よりも遅れて揺動を開始する。アームプレート54の揺動は、増幅リンク機構64の第一の連結ピン542を介して増幅リンク機構64のリンクアーム55に伝達される。リンクアーム55は、アームプレート54から揺動が伝達されると揺動する。そして、リンクアーム55は、伝達された揺動のストロークを増幅して過回転防止部材57およびシフトアーム58に伝達する。過回転防止部材57とシフトアーム58とは、リンクアーム55から揺動が伝達されると、一体となって揺動する。そして、シフトアーム58は、シフトカム81を回転させる。また、過回転防止部材57は、シフトカム81が所定のストロークを超えて回転することを防止する。シフトカム81にはシフトフォーク83が係合している。シフトカム81が回転すると、シフトフォーク83がシフトフォーク軸82上をその軸線方向に移動し、所定の変速ギア313(スライドギア)を軸線方向に移動させる。これによって、カウンターシャフト311からドリブンシャフト312への回転動力の伝達経路が変更される。
【0036】
シフトシャフト51は、クランクケースアセンブリ23の筐体230に、回転可能に支持される。シフトシャフト51は、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312に平行に配設される(
図5(b)参照)。また、シフトシャフト51は、所定の回転方向位置(中立位置)から正逆両方向に回転可能である。シフトシャフト51のレバー側端部は、クランクケースアセンブリ23の筐体230の外部に突出している。シフトシャフト51のレバー側端部には、シフトレバー52が設けられる。運転者がシフトレバー52を中立位置から正逆任意の方向に揺動させると、シフトシャフト51はシフトレバー52と一体となって中立位置から正逆任意の方向に回転する。また、運転者がシフトレバー52にかける力を除くと、シフトシャフト51は第二復元機構63(後述)によって自動的に中立位置に戻る。
図5(a)においては、シフトレバー52の中立位置を実線で示す。また、シフトレバー52が中立位置から揺動した状態を二点鎖線で示す。そして、シフトレバー52の揺動のストロークの前半をT
Fで示し、後半をT
Lで示し、全ストロークをT
Aで示す。
【0037】
レリーズアーム53は、シフトシャフト51のクラッチ側端部の近傍に設けられる。レリーズアーム53は、軸線方向に所定の厚さを有する板状の部材である。レリーズアーム53は、シフトシャフト51と一体に回転する。レリーズアーム53には、係合部531が設けられる。係合部531は、増幅リンク機構64のアームプレート54の被係合部541(後述)に係合する。係合部531は、たとえば、レリーズアーム53の外周縁からアームプレート54の側(レバー側)に向かって突出する舌片状の構成を有する。
【0038】
増幅リンク機構64のアームプレート54は、レリーズアーム53のレバー側に設けられる。アームプレート54は、シフトシャフト51に同軸でかつ相対的に揺動可能(回転可能)に設けられる。たとえば、アームプレート54には、軸線方向に貫通する支持孔547が形成され、この支持孔547にシフトシャフト51が挿通される。したがって、アームプレート54は、シフトシャフト51に対して相対的かつ同軸に揺動可能(回転可能)となる。アームプレート54は、半径方向外側に向かって延出する第一の腕545と第二の腕546の2つの腕を有する(
図7参照)。このため、アームプレート54は、軸線方向視において、略L字形状に形成される。そして、第一の腕545の半径方向先端部には、被係合部541が設けられる。たとえば、被係合部541として、半径方向外側に突出する2つの突起部が形成される。これらの2つの突起部は、円周方向に離れている。換言すると、第一の腕545の半径方向先端部の外周面には、被係合部541として、半径方向内側に窪む凹部が形成される。さらに、第一の腕545には、開口部544と第一位置決め突起543が形成される。開口部544は、軸線方向に貫通する貫通孔である。第一位置決め突起543は、クラッチ側に向かって突起する舌片状の構成を有する。第一位置決め突起543は、開口部544の半径方向外側に設けられる。また、第一位置決め突起543は、円周方向に関しては、開口部544と同じ位置に設けられる。
アームプレート54の第二の腕546の半径方向先端部(またはその近傍)には、増幅リンク機構64の第一の連結ピン542が設けられる。第一の連結ピン542は、レバー側に突出する円柱状の構成を有する。
【0039】
ギアシフト機構5には、第一復元バネ621と、第一位置決めピン622とが設けられる。そして、アームプレート54の第一位置決め突起543と、第一復元バネ621と、第一位置決めピン622とが、第一復元機構62を構成する。第一復元機構62は、アームプレート54を所定の円周方向位置(中立位置)に復元するための機構である。アームプレート54は、中立位置から正逆任意の方向に揺動することができる。第一復元バネ621はコイルバネであり、レリーズアーム53とアームプレート54の間に、シフトシャフト51の外周に巻き付けられるように設けられる。第一復元バネ621の両端部は、半径方向外側に延伸している。第一位置決めピン622は、支持枠50に設けられるピン状の部材である。また、第一位置決めピン622は、シフトシャフト51との相対位置が不変である。第一位置決めピン622の基端部は、アームプレート54のレバー側において、クランクケースアセンブリ23の筐体230または支持枠50に固定される。そして、第一位置決めピン622は、アームプレート54に形成される開口部544を通過し、アームプレート54のクラッチ側に突出している。このため、第一位置決めピン622と第一位置決め突起543とは半径方向に並ぶ。そして、第一位置決めピン622と第一位置決め突起543とは、第一復元バネ621の両端部によって所定の力をもって挟まれる。このため、アームプレート54の第一位置決め突起543には、第一位置決めピン622と同じ円周方向位置に保持される力が作用する。第一位置決め突起543が第一位置決めピン622と同じ円周方向位置にある位置が、アームプレート54の中立位置となる。このように、アームプレート54には、第一復元機構62によって、中立位置に戻る力(復元力)が作用する。アームプレート54はレリーズアーム53から回転が伝達されると、第一復元バネ621の付勢力に抗してシフトシャフト51に同軸に揺動する。
【0040】
アームプレート54の被係合部541(二つの突起部の間)に、レリーズアーム53の係合部531が入り込んでいる。このため、レリーズアーム53がシフトシャフト51と一体に回転すると、レリーズアーム53の係合部531は、アームプレート54の被係合部541(二つの突起部の一方の内周面)を円周方向に押す。したがって、アームプレート54は、レリーズアーム53から回転が伝達されて(押されて)揺動する。
なお、レリーズアーム53の係合部531の円周方向寸法は、アームプレート54の被係合部541の内周面どうしの間の寸法よりも小さい(
図8参照)。そして、レリーズアーム53とアームプレート54の両方が中立位置にあると、レリーズアーム53の係合部531は、アームプレート54の被係合部541の円周方向中心に位置する。このため、レリーズアーム53の係合部531の円周方向の両端面と、アームプレート54の被係合部541の両内周面との間には、同じ寸法の隙間Mが形成される(
図8参照)。このような構成であると、レリーズアーム53が回転を開始しても、レリーズアーム53の係合部531がアームプレート54の被係合部541に接触するまでは、アームプレート54は揺動を開始しない。したがって、アームプレート54は、レリーズアーム53の回転に遅延して揺動を開始する。このように、本実施形態おいては、レリーズアーム53の係合部531と、アームプレート54の被係合部541とが、遅延機構652となる。
【0041】
図7に示すように、増幅リンク機構64のリンクアーム55の一端部は、リンク軸56に揺動可能に支持される。リンク軸56は、シフトシャフト51から離れた位置に、シフトシャフト51に平行に設けられる。リンクアーム55には、係合孔551が形成される。係合孔551は、軸線方向に貫通する貫通孔であり、かつ、リンク軸56の半径方向に長い長孔である。そして、係合孔551には、アームプレート54に設けられる第一の連結ピン542が、クラッチ側から入り込む(係合する)。さらに、係合孔551には、過回転防止部材57に設けられる第二の連結ピン573が、レバー側から入り込む(係合する)。このため、リンクアーム55は、第一の連結ピン542を介してアームプレート54の揺動が伝達されて揺動し、過回転防止部材57に第二の連結ピン573を介して揺動を伝達する。
なお、
図8に示すように、アームプレート54が中立位置にあると、リンク軸56と、第一の連結ピン542の中心と、第二の連結ピン573の中心と、シフトシャフト51の中心Oとが、軸線方向視で直線A上に並ぶ。そして、リンク軸56に近い側から順に、第一の連結ピン542、第二の連結ピン573の順に並ぶ。このように、第二の連結ピン573は、第一の連結ピン542よりも、リンク軸56(リンクアーム55の揺動中心)から遠い位置にある。このような構成であると、第二の連結ピン573の揺動のストロークは、第一の連結ピン542の揺動のストロークよりも大きくなる。したがって、アームプレート54の揺動は、リンクアーム55によって増幅されて、過回転防止部材57に伝達される。このため、過回転防止部材57の揺動のストロークを、アームプレート54の揺動のストロークに比較して大きくできる。このように、増幅リンク機構64は、レリーズアーム53の回転ストローク(シフトシャフト51の回転ストローク)を増幅して、過回転防止部材57およびシフトアーム58に伝達する。
【0042】
過回転防止部材57とシフトアーム58は、軸線方向に関しては、アームプレート54とシフトカム81との間に設けられる。特に、過回転防止部材57およびシフトアーム58は、シフトカム81のクラッチ側の直近に設けられる。また、シフトアーム58は、過回転防止部材57のクラッチ側の直近に並べて設けられる。過回転防止部材57とシフトアーム58は、いずれも軸線方向に所定の厚さを有する板状の部材である。
過回転防止部材57とシフトアーム58とは、シフトシャフト51に同軸でかつ相対的に揺動可能(回転可能)に設けられる。たとえば、過回転防止部材57とシフトアーム58とには、軸線方向に貫通する支持孔576,587が形成され、これら支持孔576,587にシフトシャフトが相対的に揺動可能に挿入される。
また、過回転防止部材57とシフトアーム58とは、一体に揺動する。具体的には、過回転防止部材57には、クラッチ側に突出する第三の連結ピン571が設けられる。一方、シフトアーム58には、軸線方向に貫通する連結孔584が形成される。そして、過回転防止部材57の第三の連結ピン571が、シフトアーム58の連結孔584にレバー側から入り込んでいる(係合している)。このため、過回転防止部材57の揺動は、第三の連結ピン571を介してシフトアーム58に伝達される。
ギアシフト機構5は、第二復元バネ631と、第二位置決めピン632とを有する。そして、第二復元バネ631と、第二位置決めピン632と、過回転防止部材57に設けられる第二位置決め突起575とによって、第二復元機構63が構成される。過回転防止部材57とシフトアーム58とは、第二復元機構63によって、所定の揺動方向位置(中立位置)に保持される。また、第二復元バネ631の復元力は、過回転防止部材57と、リンクアーム55と、アームプレート54と、レリーズアーム53とを介してシフトシャフト51に伝達される。このため、シフトシャフト51も、第二復元機構63によって、中立位置に保持される。なお、第二復元機構63の構成は、第一復元機構62の構成と共通である。したがって、説明は省略する。過回転防止部材57とシフトアーム58とは、中立位置から正逆両方向に、所定の角度揺動することができる。
【0043】
過回転防止部材57には、支持孔576と、開口部574と、ストッパ部572と、第二位置決め突起575とが形成される。さらに、過回転防止部材57には、第二の連結ピン573と、第三の連結ピン571とが設けられる。支持孔576および開口部574は、軸線方向に貫通する貫通孔である。支持孔576にシフトシャフト51が挿入される。このため、過回転防止部材57は、シフトシャフト51に相対的かつ同軸に揺動可能に支持される。開口部574には、第二位置決めピン632が入り込む。これにより、過回転防止部材57と第二位置決めピン632との干渉が回避される。第二位置決め突起575は、レバー側に向かって突起する舌片状の構成を有する。ストッパ部572は、シフトチェンジの動作において、シフトカム81の過回転を防止する(後述)。第二の連結ピン573と第三の連結ピン571とは、いずれもクラッチ側に突出する。第二の連結ピン573は、リンクアーム55の係合孔551に係合する。第三の連結ピン571は、シフトアーム58に形成される連結孔584に、レバー側から入り込んでいる(係合している)。
【0044】
シフトアーム58は、過回転防止部材57と一体に揺動して、シフトカム81を回転させる。シフトアーム58は、軸線方向に往復動可能である。そして、シフトアーム58は、圧縮コイルばねなどの付勢部材651によって、過回転防止部材57に接近する向きに付勢される。そして、シフトアーム58は、クラッチ側に押圧される外力が掛かった場合には、付勢部材651の付勢力に抗してクラッチ側に移動する。
シフトアーム58には、軸線方向に貫通する連結孔584と開口部581とが形成される。前記のとおり、連結孔584には、過回転防止部材57の第三の連結ピン571が入り込んでいる。開口部581の半径方向外側の部分には、レバー側に向かって張り出す膨出部586が形成される。このため、膨出部586は、他の部分に比較して、シフトカム81の端面に接近している。膨出部586には、二つの押圧面582が形成される。二つの押圧面582は、円周方向に離間して互いに対向している。また、膨出部586の円周方向両側には、傾斜面583が形成される。このため、シフトアーム58の過回転防止部材57の側の面は、円周方向の中心に向かうにしたがって、徐々にシフトカム81に接近する。
シフトアーム58が中立位置にあると、二つの押圧面582の間に、複数のシフトピン813のうちの円周方向に隣接する二つが入り込む(
図8参照)。そして、シフトアーム58が正逆いずれかの方向に揺動すると、二つの押圧面582の一方が、二つのシフトピン813の一方をシフトカム81の回転方向に押圧する。したがって、シフトカム81が回転する。このように、シフトアーム58は、シフトピン813を介してシフトカム81を回転させる。
なお、シフトアーム58は、軸線方向に往復動できる構成ではなく、半径方向外側の部分がクラッチ側に倒れるように傾斜できる構成であってもよい。この場合には、付勢部材651によって、シフトアーム58の膨出部586がシフトカム81に最も接近する位置に付勢される。
【0045】
シフトカム81は、支持枠50に回転可能に支持される。シフトカム81の回転中心線とシフトシャフト51の回転中心線とは平行である。シフトカム81は、本体部811とカムストッパ812とを有する。本体部811は円筒カムである。本体部811の外周面には、所定の数および所定の形状のカム溝814が形成される。カムストッパ812は、軸線方向に所定の厚さを有する板状(またはブロック状)の部材である。カムストッパ812のクラッチ側の端面には、複数のシフトピン813が設けられる。複数のシフトピン813は、軸線方向の右側に突出するピン状(棒状)の部材である。そして、複数のシフトピン813は、シフトカム81の回転中心から半径方向に所定の距離だけ離れた位置に、円周方向に等間隔に並べられるように設けられる。このほか、シフトカム81には、回転方向位置の位置決めをするための位置決め機構(図略)が設けられる。
【0046】
シフトフォーク83は、シフトフォーク軸82に往復動自在に支持される。シフトフォーク軸82は、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312に平行に設けられる軸である。シフトフォーク83は、シフトカム81の所定のカム溝814と、所定のスライドギア(変速ギア313)とに係合する。シフトフォーク83は、シフトカム81が回転すると、カム溝814の形状に応じてシフトフォーク軸82の軸線方向に移動する。そして、シフトフォーク83は、所定のスライドギア(変速ギア313)を、カウンターシャフト311またはドリブンシャフト312の軸線方向に移動させる。所定のスライドギア(変速ギア313)が移動すると、カウンターシャフト311からドリブンシャフト312への回転動力の伝達経路が切り替わる。
【0047】
なお、シフトカム81とシフトフォーク83は、前記構成に限定されるものではない。シフトカム81は、複数のシフトピン813を有し、シフトピン813が押圧されることによって回転する構成であればよい。また、シフトフォーク83は、シフトカム81によってシフトフォーク軸82上をその軸線方向に移動し、所定のスライドギア(変速ギア313)をカウンターシャフト311またはドリブンシャフト312の軸線方向に移動させる構成であればよい。このため、シフトカム81とシフトフォーク83には、公知の各種構成が適用できる。また、シフトカム81に設けられるシフトピン813の数やカム溝814の数および形状は、特に限定されない。これらは、変速ギア313の構成などに応じて適宜設定されるものである。
【0048】
レリーズ機構32は、シフトシャフト51の回転ストロークによって、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替える。
図5と
図6に示すように、レリーズ機構32は、腕部材322と、第一押圧部材321と、第二押圧部材324と、球体325と、付勢部材323とを有する。腕部材322は、第一押圧部材321とクラッチ25のプレッシャープレート256とに跨るように設けられる(特に
図5参照)。そして、腕部材322の中間部は、クランクケースアセンブリ23の筐体230(またはクラッチカバー257)に揺動可能に支持される。第一押圧部材321は、シフトシャフト51のクラッチ側の端部に設けられる。第二押圧部材324は、レリーズアーム53のクラッチ側に並べて設けられる。そして、第一押圧部材321と第二押圧部材324との間には付勢部材323が設けられる。付勢部材323には、圧縮コイルばねが適用される。球体325は、第二押圧部材324とレリーズアーム53との間に介在するように設けられる。第二押圧部材324とレリーズアーム53のそれぞれの互いに対向する面には凹部が形成される。球体325は、これらの凹部に嵌まり込んでいる。
それぞれの互いに対向する側には、そして、球体325は、付勢部材323の付勢力によって、第二押圧部材324とレリーズアーム53とに挟まれた状態に維持される。
シフトシャフト51が中立位置にあると、球体325は、第二押圧部材324とレリーズアーム53の凹部の最も深い位置に嵌まり込んだ状態にある。この状態では、第一押圧部材321は腕部材322を押圧しない。
シフトシャフト51が中立位置から回転すると、レリーズアーム53と第二押圧部材324に設けられる凹部の円周方向の相対位置が変化し、球体325は凹部の最も深い位置から移動する。このため、第二押圧部材324は球体325によってクラッチ側に押されて移動する。このため、第一押圧部材321は第二押圧部材324と一体となってクラッチ側に移動し、腕部材322の一端部を軸線方向右側に向かって押圧する。そうすると、腕部材322は、中間部(揺動可能に支持される部分)を中心に搖動する。そして、腕部材322の他端部がクラッチ25のプレッシャープレート256をクランクシャフト233の軸線方向左側に向かって押圧する。その結果、クラッチ25のドライブプレート253とドリブンプレート254との間の付勢力が無くなり(または小さくなり)、クラッチ25は繋がった状態から切断した状態に切り替わる。
シフトシャフト51が中立位置に戻ると、腕部材322はプレッシャープレート256を押圧しなくなる。したがって、クラッチ25は切断している状態から繋がっている状態に切り替わる。
第二押圧部材324は、シフトシャフト51が中立位置から回転を開始すると、直ちにクラッチ側に移動する構成を有する。具体的には、シフトシャフト51が回転を開始してからレリーズアーム53の係合部531がアームプレート54の被係合部541に接触するまでの間に、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替えることができる構成を有する。
なお、腕部材322の一端を変位させるための構成は、前記構成に限定されるものではない。シフトシャフト51の回転を腕部材322の軸線方向に押圧する運動に変換できる構成であればよい。
【0049】
次に、ギアシフト機構5およびレリーズ機構32の動作について、
図8〜
図12を参照して説明する。
図8は、シフトシャフト51とアームプレート54と過回転防止部材57とシフトアーム58とが中立位置にある状態を示す図である。
図9〜
図12は、ギアシフト機構5の動作を模式的に示す右側面図である。なお、
図9と
図10は、シフトシャフト51とレリーズアーム53とが中立位置から回転しているが、アームプレート54と過回転防止部材57とシフトアーム58とは中立位置にある状態を示す図である。
図11と
図12は、シフトシャフト51とレリーズアーム53とアームプレート54と過回転防止部材57とシフトアーム58とが中立位置から回転または揺動している状態を示す図である。また、
図9〜
図12のレリーズアーム53の回転ストロークS
F(前半ストローク)は、
図5(a)のシフトレバー52の揺動ストロークT
F(前半ストローク)に対応する。同様に、レリーズアーム53の回転ストロークS
L(後半ストローク)は、シフトレバー52の揺動ストロークT
L(後半ストローク)に対応し、レリーズアーム53の回転ストロークS
A(全ストローク)は、シフトレバー52の揺動ストロークT
A(全ストローク)に対応する。
また、
図9および
図11と、
図10および
図12とは、シフトレバー52が反対向きに操作された場合の動作を示す。
【0050】
図8に示すように、運転者がシフトレバー52を操作していない場合には、シフトシャフト51と過回転防止部材57とシフトアーム58とは、第二復元機構63によって中立位置に保持される。また、レリーズアーム53とアームプレート54とは、第一復元機構62によって中立位置に保持される。図中の線Bは、レリーズアーム53の係合部531の中立位置における円周方向の中心位置を示す。
シフトシャフト51が中立位置にあると、第一押圧部材321は腕部材322を押圧しないため、クラッチ25は繋がった状態に維持される。このため、この状態においては、クランクシャフト233の回転は、クラッチ25を介してカウンターシャフト311に伝達される。カウンターシャフト311の回転は、変速ギア313の所定の組み合わせを介してドリブンシャフト312に伝達される。ドリブンシャフト312に伝達された回転動力は、ドライブチェーンスプロケット146とドライブチェーン145とを介して後輪142に伝達される。
【0051】
図9と
図10に示すように、運転者がシフトレバー52を操作すると、操作量に応じたストローク量だけシフトシャフト51が回転する。そうすると、レリーズ機構32の腕部材322がクラッチ25のプレッシャープレート256を軸線方向左向きに押圧する。このため、クラッチ25が繋がっている状態から切断している状態に切り替わる。また、シフトシャフト51が回転すると、レリーズアーム53がシフトシャフト51と一体に回転を開始する。ただし、レリーズアーム53の係合部531がアームプレート54の被係合部541に接触するまでは(ストローク量がS
Fの範囲内にある場合には)、アームプレート54は揺動を開始しない。図中の線B
Fは、レリーズアーム53の係合部531がアームプレート54の被係合部541に接触した状態における、レリーズアーム53の係合部531の円周方向の中心位置を示す。ストローク量がS
Fの範囲内にある場合には、シフトアーム58は揺動しない。このように、運転者によるシフトレバー52のストロークの前半ストロークT
Fは、クラッチ25を繋がった状態から切断した状態に切り替えるために使用される。
【0052】
図9と
図10に示すように、運転者がさらにシフトレバー52を操作し、レリーズアーム53の回転ストロークがT
Fになると、レリーズアーム53の係合部531がアームプレート54の被係合部541の内周面に当接する。そして、
図11と
図12に示すように、レリーズアーム53の回転ストロークがT
Lの範囲内に到達すると、アームプレート54はレリーズアーム53に遅延して揺動を開始する。図中の線B
Lは、全ストローク時におけるレリーズアーム53の係合部531の円周方向の中心位置を示す。アームプレート54の揺動は、第一の連結ピン542と、リンクアーム55と、第二の連結ピン573とを介してシフトアーム58に伝達される。そして、シフトアーム58が所定の角度だけ揺動する。前記のとおり、第二の連結ピン573は、第一の連結ピン542よりもリンク軸56(リンクアーム55の揺動中心)の半径方向外側に位置する。このため、アームプレート54の回転ストロークは、リンクアーム55(増幅リンク機構64)によって増幅されてシフトアーム58に伝達される。
【0053】
シフトアーム58が揺動すると、シフトアーム58の開口部581の二つの押圧面582の一方がシフトピン813に当接する。このため、シフトカム81はシフトアーム58に押されて所定の角度だけ回転する。そして、シフトカム81が回転すると、シフトカム81のカム溝814に係合するシフトフォーク83が軸線方向に移動し、所定のスライドギア(変速ギア313)がカウンターシャフト311またはドリブンシャフト312上をその軸線方向に移動する。これにより、回転動力を伝達する変速ギア313の組み合わせが変わり、シフトチェンジされる。なお、前記のとおり、シフトシャフト51の回転ストロークがT
L の範囲(後半ストローク)に達するよりも以前に、クラッチ25は繋がった状態から切断した状態に切り替わっている。このため、クラッチ25が切断した状態で、スライドギア(変速ギア313)を移動させて回転動力の伝達経路を切替えることができる。
また、過回転防止部材57が揺動すると、ストッパ部572は、シフトピン813の回転軌跡内に入り込み、ある一つのシフトピン813の回転方向前方に位置する。このため、シフトカム81はそれ以上回転できない。このように、過回転防止部材57は、シフトカム81が所定の角度を超えて回転することを防止する。
【0054】
図11と
図12に示す状態で、運転者がシフトレバー52の操作を終えると(シフトレバー52を離すと)、シフトシャフト51と過回転防止部材57とシフトアーム58は、第二復元機構63によって自動的に中立位置に戻る。レリーズアーム53とアームプレート54とは、第一復元機構62によって自動的に中立位置に戻る。このため、ギアシフト機構5は、
図8に示す状態に自動的に戻る。
なお、シフトアーム58は、中立位置に戻る際に、軸線方向左側に移動することによって、シフトピン813を乗り越える。すなわち、シフトアーム58が
図11と
図12に示す位置から
図8に示す位置に戻る際に、傾斜面583がシフトピン813に接触する。そして、傾斜面583がシフトピン813を押す力の反力によって、シフトアーム58はクラッチ側(シフトカム81から離れる向き)に移動する。
【0055】
ここで、
図8などを参照して、ギアシフト機構5の各部材の組み付け構成について説明する。
シフトシャフト51の中心Oおよびリンク軸56の中心Pは、シフトカム81の回転中心Qよりも下方に位置する。また、リンク軸56の中心Pは、シフトシャフト51の中心Oよりも前側に位置する。そして、シフトシャフト51の中心Oおよびリンク軸56の中心Pを通過する直線Aは、略水平となる。アームプレート54の第二の腕546は、中立位置においては、シフトシャフト51から前側に向かって略水平に突出する。一方、リンクアーム55は、中立位置においては、リンク軸56から後方に向かって略水平に突出する。このため、中立位置においては、第一の連結ピン542の中心と、第二の連結ピン573の中心とは、リンク軸56の中心Pとシフトシャフト51の中心Oとの間に位置し、直線A上に(一直線上に)並ぶ。具体的には、軸線方向視(側面視)において、アームプレート54の第二の腕546の先端部とリンク軸56の後端部とが重畳する。リンクアーム55には、前記重畳する部分に係合孔551が形成される。リンクアーム55の係合孔551は、リンク軸56の半径方向(リンクアーム55の揺動の半径方向)に長い長孔である。この係合孔551には、第一の連結ピン542と第二の連結ピン573とが係合する。このように、シフトシャフト51の回転を増幅してシフトアーム58に伝達する増幅リンク機構64は、シフトシャフト51とリンクアーム55との間に設けられる。このような構成によれば、増幅リンク機構64の半径方向の小型化を図ることができる。
【0056】
図8に示すように、軸線方向視において、リンク軸56の少なくとも一部は、シフトアーム58の揺動軌跡の外縁の延長線Dよりも、半径方向内側に位置する。このような構成によれば、増幅リンク機構64の大型化や重量の増加を防止または抑制できる。したがって、運転者による操作性の向上を図ることができる。すなわち、リンク軸56とシフトシャフト51との距離が大きくなるにしたがって、リンクアーム55やアームプレート54が大型化して重量が増加する。そうすると、リンクアーム55やアームプレート54の慣性が大きくなるから、運転者による操作性が低下する。
【0057】
本発明の実施形態によれば、シフトシャフト51の中心Oからリンク軸56の中心Pまでの寸法と、シフトシャフト51の中心Oからシフトアーム58の外周(揺動軌跡の外縁)までの寸法の差が小さくなる。このような構成によれば、ギアシフト機構5の半径方向寸法の小型化を図ることができる。特に、第一の連結ピン542と第二の連結ピン573は、リンク軸56の中心Pよりも後側(シフトシャフト51の中心Oに近い側)に位置する。したがって、リンクアーム55が揺動した場合であっても、リンクアーム55の後端部や、第一の連結ピン542や、第二の連結ピン573が、リンク軸56よりも半径方向外側(特に前側)に突出することがない。したがって、リンク軸56の半径方向外側に、リンク軸56の動作のための空間が必要でない。
【0058】
軸線方向視において、第二の連結ピン573は、シフトアーム58の揺動方向に関する中心線Cと、この中心線Cに平行でシフトアーム58の円周方向端部を通過する直線Eとの間に位置する。前記のとおり、第二の連結ピン573は過回転防止部材57に設けられる。このため、このような構成によれば、過回転防止部材57の円周方向寸法を小さくすることができる。したがって、過回転防止部材57の小型化および軽量化を図ることによって、過回転防止部材57の慣性を小さくできる。したがって、運転者による操作性の向上を図ることができる。また、このような構成によれば、アームプレート54の第二の腕546およびリンクアーム55と、過回転防止部材57およびシフトアーム58とを、円周方向に接近させることができる。したがって、ギアシフト機構5の円周方向寸法の小型化を図ることができる。
【0059】
図11と
図12に示すように、直線Aの方向視において、リンクアーム55の揺動範囲は、レリーズアーム53の外周よりも内側におさまっている。すなわち、
図11に示すように、リンクアーム55が上側に揺動した場合、リンクアーム55の最も高い箇所F
uは、レリーズアーム53の最も高い箇所G
uよりも下方(半径方向内側)に位置する。同様に、
図12に示すように、リンクアーム55が下側に揺動した場合には、リンクアーム55の最も低い箇所F
dは、レリーズアーム53も最も低い箇所G
dよりも上方(半径方向内側)に位置する。このような構成によれば、ギアシフト機構5の半径方向寸法の小型化を図ることができる。特に、リンクアーム55が下側に揺動した場合において、リンクアーム55がレリーズアーム53も最も低い部分の位置よりも下方に突出しないから、ギアシフト機構5の上下方向の小型化を図ることができる。
【0060】
図8に示すように、リンクアーム55およびリンク軸56は、シフトシャフト51の前側に設けられる。シフトカム81の回転中心Qは、前後方向に関しては、シフトシャフト51の中心Oとリンク軸56の中心Pとの間に位置する。このような構成によれば、たとえばシフトカム81がシフトシャフト51の真上に位置する構成と比較すると、シフトカム81の回転中心Qを、シフトアーム58の中心Oとリンク軸56の中心Pとを通過する直線Aに接近させることができる。このため、ギアシフト機構5の上下方向の小型化を図ることができる。
また、このような構成であると、前後方向に関しては、シフトカム81を、シフトシャフト51とリンク軸56との間に配設することができる。さらに、シフトカム81がシフトシャフト51よりも前側に位置するため、アームプレート54を後方斜め上方に向かって突出する構成にできる。したがって、アームプレート54の第一の腕545の後方への突出量を小さくすることができるから、ギアシフト機構5の前後方向の小型化を図ることができる。
【0061】
次に、ギアシフト機構5およびレリーズ機構32と、クランクケースアセンブリ23に設けられる他の部材などとの関係について、
図13などを参照して説明する。
図13は、ギアシフト機構5およびレリーズ機構32がクランクケースアセンブリ23の筐体230に組み付けられた状態を模式的に示す断面図であり、右側から見た図である。なお、
図13においては、レリーズアーム53を省略してある。
図13に示すように、ギアシフト機構5は、側面視において、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312の下方であって、クランクケースアセンブリ23の筐体230の底部近傍に設けられる。
前記のとおり、本発明の実施形態によれば、ギアシフト機構5の上下方向の小型化を図ることができるから、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312と、クランクケースアセンブリ23の筐体230の底面との間の狭いスペースに配設できる。または、ギアシフト機構5が、カウンターシャフト311およびドリブンシャフト312の下側に配設される構成であっても、クランクケースアセンブリ23が上下方向に大型化することを防止または抑制できる。特に、リンクアーム55が上下方向に揺動した場合であっても、リンクアーム55がレリーズアーム53の下辺よりも下側に突出することがない。換言すると、ギアシフト機構5が動作した場合であっても、ギアシフト機構5の上下方向寸法は大きくならない。このため、ギアシフト機構5の下側(クランクケースアセンブリ23の筐体230の底面近傍)に、無駄なスペースが生じることを防止できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態および実施例を、図面を参照して詳細に説明したが、前記実施形態および実施例は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
例えば、前記実施形態おいては、オンロードタイプの自動二輪車に適用される構成を示したが、適用される自動二輪車の種類は特に限定されるものではない。また、本発明にかかる車両用変速装置は、自動二輪車に限らず、鞍乗型の三輪車や四輪車などにも適用できる。