特許第5966654号(P5966654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966654
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】旋回式作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20160728BHJP
   E02F 9/12 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   E02F9/20 C
   E02F9/12 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-139519(P2012-139519)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-1609(P2014-1609A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋一郎
【審査官】 富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−027202(JP,A)
【文献】 特開平07−054806(JP,A)
【文献】 特開平09−228424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/42,43,84,85
E02F 9/20,22
E02F 9/12
B60T 13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、この下部走行体上に旋回自在に搭載された上部旋回体と、この上部旋回体の旋回駆動源としての旋回電動機と、作動油の出し入れによって上記旋回電動機に対するブレーキ作動/ブレーキ解除を行うブレーキ装置と、旋回動作を指令する旋回操作手段と、上記ブレーキ装置の作動油の温度を検出する油温検出手段と、上記旋回操作手段の操作に応じて上記旋回電動機に動作指令を出力する制御手段を具備し、上記制御手段は、上記ブレーキ装置の作動油温度に応じて、上記旋回操作手段の操作に対する上記旋回電動機への動作指令に遅れを、低温ほど遅れが大きくなる方向に持たせるように構成したことを特徴とする旋回式作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の旋回式作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が地面に対して鉛直となる軸のまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられて構成される。
【0004】
ここで、ハイブリッドショベルや電動ショベルにおいては、旋回駆動源として電動機を用い、旋回操作手段としての旋回レバーの操作量と操作方向に応じて旋回電動機を駆動し停止させる構成がとられる。
【0005】
一方、旋回電動機には、同電動機を停止状態に保持するブレーキ装置として、作動油の出し入れによってブレーキ作動/ブレーキ解除を行うパーキングブレーキ(メカニカルブレーキとも呼ばれる)が設けられる。
【0006】
このパーキングブレーキは、一般には、油圧導入時にブレーキ解除、油圧解放時にブレーキ作動となるネガティブブレーキとして構成され、旋回操作時にブレーキ解除状態、非操作時にブレーキ作動状態となる。
【0007】
以上の構成は特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−190664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにパーキングブレーキは作動油の出し入れによってブレーキ作動/ブレーキ解除を行うため、作動油の温度(粘度)によって応答性が変化し、冬季や寒冷地におけるエンジン始動直後のブレーキ応答はきわめて遅くなる。
【0010】
これに対し、旋回電動機の応答性は温度による影響を殆ど受けないため、旋回作動/停止とブレーキ動作のタイミングにずれが生じ、作業に支障を来たすおそれがある。
【0011】
具体的には次の通りである。
【0012】
1) ブレーキ解除が遅れた場合
旋回電動機が起動したにもかかわらずブレーキ解除されていないケースである。このケースでは、ブレーキ作動状態で旋回電動機が回転する、所謂「ブレーキの引きずり現象」が発生し、スムーズな旋回起動ができないとともに、ブレーキ摩擦板の劣化が早まる。
【0013】
2) ブレーキ作動が遅れた場合
上部旋回体を停止させるときは、旋回電動機に停止指令を送って制動トルクを発生させ、旋回停止時点で停止指令を止める一方でパーキングブレーキを作動させる作用が行われる。
【0014】
ここで、停止指令が止まったにもかかわらずブレーキ作動しない事態が起こる。このケースでは、傾斜地等で重力によって上部旋回体が重力方向に動くおそれがある。
【0015】
そこで本発明は、旋回電動機とブレーキ装置の間の応答のずれを解消することができる旋回式作業機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、下部走行体と、この下部走行体上に旋回自在に搭載された上部旋回体と、この上部旋回体の旋回駆動源としての旋回電動機と、作動油の出し入れによって上記旋回電動機に対するブレーキ作動/ブレーキ解除を行うブレーキ装置と、旋回動作を指令する旋回操作手段と、上記ブレーキ装置の作動油の温度を検出する油温検出手段と、上記旋回操作手段の操作に応じて上記旋回電動機に動作指令を出力する制御手段を具備し、上記制御手段は、上記ブレーキ装置の作動油温度に応じて、上記旋回操作手段の操作に対する上記旋回電動機への動作指令に遅れを、低温ほど遅れが大きくなる方向に持たせるように構成したものである。
【0017】
この構成によれば、作動油温度に応じたブレーキ装置の応答遅れに合わせて旋回電動機への動作指令に遅れを持たせるため、旋回電動機とブレーキ装置の間の応答の大きなずれを解消することができる。
【0018】
これにより、旋回起動時のブレーキ装置の「引きずり現象」や、旋回停止時の上部旋回体の重力方向への動きを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、旋回電動機とブレーキ装置の間の応答のずれを解消し、「ブレーキの引きずり現象」や、旋回停止時の上部旋回体の重力方向への動きを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッドショベルの旋回駆動系のシステム構成図である。
図2】レバー操作量信号に対する電動機指令の一次遅れ状況を示す図である。
図3】電動機指令の遅れを決定するための作動油温度と時定数の関係を示す図である。
図4】同、時間と電動機指令の出力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態はハイブリッドショベルの旋回駆動システムを適用対象としている。
【0025】
図1は実施形態のシステム構成を示す。
【0026】
図示のようにエンジン1に、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機2が接続され、エンジン1によりこの発電電動機2が駆動されて発電機作用を行い、発生した電力が蓄電器3に送られた充電される一方、適時、この蓄電器3の電力により発電電動機2が電動機作用を行ってエンジン1をアシストする。
【0027】
また、エンジン1にメインポンプ4及びパイロットポンプ5が発電電動機2とタンデム(またはパラレル)に接続され、これらがエンジン1によって駆動される。
【0028】
メインポンプ4には、コントロールバルブ6を介して図示しない油圧アクチュエータが接続され、メインポンプ4から供給される圧油によって油圧アクチュエータが駆動される。
【0029】
さらに、旋回駆動源としての旋回電動機7と、電動機等制御器8、制御手段としてのコントロールユニット9が設けられ、旋回操作手段としての旋回操作レバー10の操作状態(操作方向、操作量)や蓄電器3の充電状態等に基づいて、コントロールユニット9と電動機等制御器8により発電電動機2、旋回電動機7、蓄電器3の作動(発電電動機2及び旋回電動機7の運転/停止、蓄電器3の充放電等)が制御される。
【0030】
11は旋回操作レバー10の操作状態を検出してコントロールユニット9に送る操作センサ(たとえばポテンショメータ)である。
【0031】
旋回電動機7は、発電電動機2で発生した電力または蓄電器3の電力によって駆動される一方、減速時に回生作用を行い、その回生電力が蓄電器3または発電電動機2に充電電力またはエンジンアシストのための駆動電力として送られる。
【0032】
一方、旋回電動機7には、旋回中に同電動機7にブレーキ力を付与し、かつ、停止状態に保持するブレーキ装置としてのパーキングブレーキ(メカニカルブレーキとも呼ばれる)12が設けられている。
【0033】
このパーキングブレーキ12は、パイロットポンプ5を油圧源として、シリンダ12aへの油圧導入時にブレーキ解除され、油圧解放時にバネ12bの力によってブレーキ作動となるネガティブブレーキとして構成され、コントロールユニット9からの信号に基づくブレーキ制御弁13の作動よってブレーキ作動/解除が制御される。
【0034】
すなわち、ブレーキ制御弁13は電磁開閉弁として構成され、旋回操作レバー10の非操作時は図示のブロック位置(ブレーキ位置)イとなり、操作時に開き位置(ブレーキ解除位置)ロに切換わる。
【0035】
ブロック位置イでは、パーキングブレーキ12が油圧解放状態となり、バネ力によって旋回電動機7にブレーキ力を付与する。
【0036】
開き位置ロでは、パーキングブレーキ12が油圧導入状態となり、油圧力によりブレーキ力が解除される。
【0037】
14はパイロットポンプ5の吐出油をブレーキ制御弁13を介してパーキングブレーキ12に送るブレーキ管路、15はパーキングブレーキ12内の油圧を絞り16を介してタンク17に抜くためのタンク管路である。
【0038】
また、ブレーキ管路14を流れる作動油の温度を検出する油温検出手段としての油温センサ18が設けられ、この油温センサ18からの検出信号(作動油温度信号)がコントロールユニット9に送られる。
【0039】
コントロールユニット9は、旋回操作レバー10の操作信号に応じてブレーキ制御弁13に切換信号を送るとともに、電動機等制御器8を通じて旋回電動機7に対する駆動/停止の動作指令を出力する。
【0040】
ここで、パーキングブレーキ12は上記のように作動油の出し入れによってブレーキ作動/ブレーキ解除を行うため、作動油温度によって応答性が変化し、冬季や寒冷地におけるエンジン始動直後(作動油温度が低い状態)のブレーキ応答が遅くなる。
【0041】
このブレーキ動作の遅れは「一次遅れ」であり、その時定数は作動油温度によって決まる。
【0042】
そこで、コントロールユニット9からの電動機指令系についても、図2に示すように、入力であるレバー操作量の信号A(s)に対し、一次遅れの伝達関数G(s)を持って電動機指令B(s)を出力する構成、つまり、油温センサ18によって検出される作動油温度に応じて旋回電動機7への動作指令に遅れを持たせるように構成されている。
【0043】
さらに詳述すると、図3は作動油温度t(℃)と時定数T(s)の関係を示し、作動油温度が低いほど時定数T(s)が大きくなるように設定され、検出された作動油温度から時定数T(s)が決定される。
【0044】
図4は作動油温度ごとの一次遅れの時間(sec)と電動機指令の出力の関係を示し、検出される作動油温度と出力から一次遅れの時間が決定され、この時間の遅れを持って電動機指令が出力される。
【0045】
図4では例として、作動油温度が、最低の−30℃から最高の50℃までの9通りについての時間と出力の関係を示す。なお、各温度の中間の温度に対しては、補完演算によって時間が求められる。
【0046】
このように、作動油温度に応じたブレーキ装置の応答遅れに合わせて旋回電動機への動作指令に遅れを持たせるため、旋回電動機とブレーキ装置の間の応答の大きなずれを解消することができる。
【0047】
しかも、油圧系と同じ、作動油温度の関数としての時定数Tsを決め、この時定数で決まる伝達関数G(s)の「一次遅れ」を持って電動機指令を出力するため、ブレーキ動作と電動機動作のマッチングを取り易く、応答のずれ防止効果がより確実となる。
【0048】
これにより、旋回起動時にブレーキ作動状態で旋回電動機が回転する「ブレーキの引きずり現象」、及び傾斜地等での旋回停止時に上部旋回体が重力方向に動く事態の発生を防止することができる。
【0049】
他の実施形態
(1) 電動機指令出力の遅れをブレーキ装置の遅れにより正確に合わせるためには、上記実施形態のように作動油温度の関数としての時定数T(s)を用いた一次遅れの伝達関数G(s)を持たせるのが望ましいが、作動油温度の関数としての他の遅れ特性(直線状に変化する特性等)を設定してもよい。
【0050】
(2) 上記実施形態ではブレーキ装置として、油圧によってブレーキ解除し、バネ力によってブレーキ作動するパーキングブレーキを用いた場合を例に挙げたが、本発明は、逆に油圧によってブレーキ作動し、バネ力によってブレーキ解除するブレーキ装置を用いる場合にも適用することができる。
【0051】
この場合、レバー操作時に油圧を抜き、レバー非操作時に油圧を加える構成がとられる。
【0052】
(3) 本発明はショベルに限らず、ショベルを転用して構成される解体機等の他の旋回式作業機械にも、またハイブリッド式に限らず、電動式の旋回式作業機械にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2 発電電動機
3 蓄電器
5 ブレーキ油圧源としてのパイロットポンプ
7 旋回電動機
8 電動機等制御器
9 制御手段としてのコントロールユニット
10 旋回操作レバー(旋回操作手段)
12 ブレーキ装置としてのパーキングブレーキ
12a パーキングブレーキのシリンダ
12b 同、バネ
13 ブレーキ制御弁
14 ブレーキ管路
15 タンク管路
18 油温センサ
図1
図2
図3
図4