【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施例に係るスプライン部材10を示す断面図である。同図に示すスプライン部材10は、最終的に図示しない有段自動変速機に含まれる遊星歯車のサンギヤとして構成されるものであり、有底円筒状の大径部11と、当該大径部11の一端から同軸に延出されると共に外周面に形成されたスプライン120を有する小径部12と、大径部11の一端に形成されて小径部12を囲む円環状のフランジ面110とを含む。そして、スプライン部材10は、
図2に示すような押出成形金型20を用いた押出成形(冷間鍛造)により製造される。
【0024】
大径部11は、
図1に示すように、その軸心上で図中上方に開口する非貫通の大径側凹部11hを有し、その外周面には、押出成形後に切削加工によりギヤ歯(例えば、はすば歯)が形成される。また、小径部12は、
図1に示すように、その軸心上で図中下方に開口する非貫通の小径側凹部12hと、スプライン120の歯底120dとフランジ面110とを連続させる複数の内側曲面121と、スプライン120の歯先120aとフランジ面110とを連続させる複数の外側曲面122とを有する。すなわち、スプライン部材10は、小径部12の大径部11側の端部にスプラインが形成されない円筒状の部分(ストレート部)を含まないように製造される。実施例において、フランジ面110と各内側曲面121との境界と、フランジ面110と各外側曲面122との境界とは、概ね同一円周上に位置し(
図1における下向き矢印参照)、内側曲面121の曲率半径(ρ1)は、外側曲面122の曲率半径(ρ2)よりも大きい(ρ1>ρ2)。
【0025】
押出成形金型20は、
図2に示すように、スプライン部材10の大径部11の外周面(円柱面)を成形するための第1成形面21と、フランジ面110を成形するための円環状の第2成形面22と、スプライン120を成形するための第3成形面23と、スプライン部材10の小径側凹部12hを成形するための成形部24とを含む。更に、押出成形金型20は、第3成形面23の歯先230a(スプライン120の歯底120dを形成する部分)と第2成形面22とを連続させる複数の第1曲面231と、第3成形面23の歯底230d(スプライン120の歯先120aを形成する部分)と第2成形面22とを連続させる複数の第2曲面232とを含む。
【0026】
実施例において、第2成形面22と各第1曲面231との境界と、第2成形面22と各第2曲面232との境界とは、同一円周上に位置し(
図2における下向き矢印参照)、第1曲面231の曲率半径(R1)は、第2曲面232の曲率半径(R2)よりも大きい(R1>R2)。スプライン部材10の製造に際して、押出成形金型20は、
図2に示すように、大径部11の大径側凹部11hを成形可能な可動式の第1パンチ31と、大径部11の
図1中上方の端面を成形可能な可動式の第2パンチ32と共に用いられる。第1パンチ31は、円環状に形成された第2パンチ32の中心孔にほぼ隙間無く摺接して軸方向に移動自在となるように挿入される。また、第2パンチ32は、第1成形面21とほぼ隙間無く摺接するように押出成形金型20内に軸方向に移動自在に配置される。
【0027】
図3から
図6は、スプライン部材10の製造手順を示す模式図である。スプライン部材10の製造に際しては、略円柱状を呈する素材(金属材)100を押出成形金型20の素材支持面としての第2成形面22上に載置した上で、素材100を押圧(加圧)するように押圧部材としての第1および第2パンチ31,32に荷重を加えて両者を押出成形金型20に対して同軸に移動させる。実施例において、第1パンチ31は、
図3に示すように、第2パンチ32よりも素材100側に突出するように当該第2パンチ32の中心孔に挿入され、第1および第2パンチ31,32を押出成形金型20に対して移動させる際には、第1および第2パンチ31,32の素材100と対向する成形面(端面)同士の間隔Gが一定になるように図中下向きの荷重が両者に加えられる。
【0028】
これにより、
図4に示すように、第1パンチ31が素材100を押圧するのに伴い、素材100の一部(図中下部)が押出成形金型20の第1および第2曲面231,232や成形部24の上縁部に沿って第3成形面23と成形部24との間に移動する(流れ込む)。更に、第1および第2パンチ31,32が押出成形金型20に対して移動するのに伴い、
図5に示すように、第2パンチ32も素材100を押圧するようになる。そして、
図6に示すように、第1および第2パンチ31,32が押出成形金型20に対して所定量移動した段階で、上述のようなスプライン部材10の成形が完了することになる。
【0029】
こうして製造されたスプライン部材10に対しては更に切削加工等が施され、それにより、スプライン部材10は、
図7に示すような遊星歯車のサンギヤ(ギヤ)として構成される。すなわち、押出成形により得られたスプライン部材10に対しては、大径部11の外周面にギヤ歯111を形成するための切削加工が施される。更に、スプライン部材10には、大径側凹部11hと小径側凹部12hとの間の部分(
図7における破線部)を切削加工あるいはプレス加工により除去することで大径部11および小径部12を貫通するシャフト挿入孔(貫通孔)13が形成される。
図7からわかるように、押出成形によって大径部11に大径側凹部11hが形成されると共に小径部12に小径側凹部12hが形成されることで、大径側凹部11hと小径側凹部12hとの間の部分は肉薄となり、それにより、スプライン部材10では、シャフト挿入孔13を極めて容易に形成することができる。なお、大径側凹部11hおよび小径側凹部12hの内径は、図示するように互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0030】
ここで、上述のようなスプライン部材10においてスプライン120の有効長さを確保しつつコンパクト化を図るためには、大径部11のフランジ面110とスプライン120の歯底120dとを連続させる内側曲面121や、フランジ面110とスプライン120の歯先120aとを連続させる外側曲面122の曲率半径をできるだけ小さくすることが好ましい。ただし、内側曲面121や外側曲面122の曲率半径を小さくしようとすればするほど、押出成形金型20の当該内側曲面121や外側曲面122の成形部である第1および第2曲面231,232に素材100が追従しにくくなり、その結果、スプライン120の歯先120a全体に欠肉が生じてしまい、有効歯丈の減少によりスプライン120の強度が低下してしまうおそれがある。
【0031】
このような事象に鑑みて、本発明者らは、上記内側曲面121や外側曲面122の曲率半径(設計値)と、スプライン120の歯先120aの欠肉の度合いとの間の相関に着目し、内側曲面121や外側曲面122の曲率半径を最適化することによりスプライン部材10をコンパクト化しつつスプライン120の有効長さを確保すると共にスプライン120の歯先の欠肉を低減化すべく鋭意研究を行った。かかる研究に際して、本発明者らは、スプライン部材10の大径部11の半径と小径部12に形成されるスプライン120の歯底円の半径との差、およびスプライン部材10の大径部11の半径と小径部12に形成されるスプライン120の歯先円の半径の差とによりスプライン120の歯先120aの欠肉の度合いを評価することとした。
【0032】
すなわち、本発明者らは、
図1に示すように、スプライン部材10の大径部の外径を“Δ1”とし、スプライン120の歯底円の直径を“δ1”とし、スプライン120の歯先円の直径を“δ2”とし、スプライン120の歯底120dとフランジ面110とを連続させる内側曲面121の曲率半径を“ρ1”とし、スプライン120の歯先120aとフランジ面110とを連続させる外側曲面122の曲率半径を“ρ2”としたときに、内側曲面121の曲率半径ρ1と、大径部11とスプライン120の歯底円との半径差(Δ1−δ1)/2との比率ρ1/(Δ1−δ1)/2と、外側曲面122の曲率半径ρ2と、大径部11とスプライン120の歯先円との半径差(Δ1−δ2)/2との比率ρ2/(Δ1−δ2)/2とを評価指標として定めた。
【0033】
ここで、上記スプライン部材10は、押出成形金型20を用いた押出成形により製造されるものであるから、スプライン部材10の寸法は、対応する押出成形金型20の寸法に置き換えることができる。従って、
図2に示すように、押出成形金型20の第1成形面21の内径を“D1”とし、第3成形面23の歯先230a間の内径を“d1”とし、第3成形面23の歯底230d間の内径を“d2”とし、第3成形面23の歯先230aと第2成形面22とを連続させる第1曲面231の曲率半径を“R1”とし、第3成形面23の歯底230dと第2成形面22とを連続させる第2曲面232の曲率半径を“R2”とすれば、
比率ρ1/(Δ1−δ1)/2=比率R1/(D1−d1)/2
比率ρ2/(Δ1−δ2)/2=比率R2/(D1−d2)/2
とみなすことができる。
【0034】
そして、本発明者らは、諸元の異なる複数の押出成形金型の金型モデル1〜3を用意し、当該金型モデル1〜3から得られるスプライン部材の寸法を解析により得た。
図8に、スプライン部材10や押出成形金型20の諸元、すなわちスプライン部材10の内側曲面121および外側曲面122の曲率半径ρ1,ρ2や押出成形金型20の第1および第2曲面231,232の曲率半径R1,R2を最適化するための解析に用いられた金型モデル1〜3の諸元、および金型モデル1〜3から得られるスプライン部材(ワーク)の寸法(スプラインの歯底円の直径δ1およびスプラインの歯先円の直径δ2)のFEM解析値を示す。なお、金型モデル1〜3は、基本的に上述の押出成形金型20と同様の第1〜第3成形面、第1および第2曲面、および成形部を有するものである。
【0035】
図8に示すように、金型モデル1〜3において、第1成形面の内径D1、第3成形面の歯先間の内径d1、第3成形面の歯底間の内径d2を、それぞれ40.3mm、24.45mm、27.2mmと同一の値とした。一方、押出成形金型における第1曲面および第2曲面の曲率半径R1,R2が小さいほどスプライン120の欠肉が生じやすくなることを踏まえて、金型モデル1〜3における曲率半径R1,R2を
図8に示すような異なる値に定めた。そして、押出成形金型やスプライン部材における公差を考慮しつつ、比率R1/(D1−d1)/2および比率R2/(D1−d2)/2や、FEM解析により得られたスプラインの歯底円の直径δ1およびスプラインの歯先円の直径δ2に基づいて、押出成形金型20における第1および第2曲面231,232の曲率半径R1,R2の好適範囲を検討した。この際、スプライン部材10における公差を±0.1mmとし、押出成形金型における公差を±0.02mmとした。
【0036】
図8に示す金型モデル3について着目すると、金型モデル3の第3成形面の歯先円の直径d2(型寸法)−スプラインの歯先円の直径δ2+押出成形金型における公差=27.2−27.12+0.02=0.10となり、この値は、スプライン部材10における公差に一致する。これを踏まえて、本発明者らは、金型モデル3における第1および第2曲面の曲率半径R1,R2の値(2.0および0.625)を押出成形金型20の第1および第2曲面231,232の曲率半径R1,R2の下限値として定めた。これにより、
図8からわかるように、
比率R1/(D1−d1)/2≧0.25
比率R2/(D1−d2)/2≧0.09
という関係が成立し、これらの関係式を変形することにより、
R1≧0.25×(D1−d1)/2 …(1)
R2≧0.09×(D1−d2)/2 …(2)
という関係式(1)および(2)を得ることができる。
【0037】
一方、押出成形金型における第1および第2曲面の曲率半径を大きくすればするほど、スプライン120の欠肉を抑制する上では有利となるが、スプライン部材10をコンパクト化しつつスプライン120の有効長さを確保するという観点からは不利となる。このため、本発明者らは、既存部品における不完全スプライン部の長さ(スプラインのフランジ面側の端部におけるR部の軸方向長さ、あるいは当該R部の軸方向長さとスプラインが形成されない円筒状の部分(ストレート部)の長さとの和)を基に、第1曲面の曲率半径R1を値3.75未満(R1<3.75)に定めることとした。また、上述のように、押出成形金型20では、第2成形面22と各第1曲面231との境界(フランジ面110と各内側曲面121との境界)と、第2成形面22と各第2曲面232との境界(フランジ面110と各外側曲面122との境界)とが同一円周上に位置することから、
R2=R1−(d2−d1)/2 …(3)
という関係が成立し、式(3)において“R1=3.75”とすれば、“R2=2.375”となる。このため、本発明者らは、第2曲面の曲率半径R2を値2.375未満(R2<2.375)に定めることとした。
【0038】
これにより、比率R1/(D1−d1)/2<3.75/(40.3−24.45)/2という関係と、比率R2/(D1−d2)/2<2.375/(40.3−24.45)/2という関係とが成立することから、
R1<0.48(D1−d1)/2 …(4)
R2<0.37(D1−d2)/2 …(5)
という関係式(4)および(5)を得ることができる。
【0039】
従って、
R1>R2
0.25×(D1−d1)/2≦R1<0.48×(D1−d1)/2
0.09×(D1−d2)/2≦R2<0.37×(D1−d2)/2
という3つの関係式を満たすように押出成形金型20を構成することにより、内側曲面121や外側曲面122の曲率半径ρ1,ρ2をスプライン部材10のコンパクト化を図り得る範囲内に納めつつ、スプライン120の有効長さを確保すると共にスプライン120の歯先120aの欠肉を低減化し得ることが理解されよう。
【0040】
また、上述のように、スプライン部材10は、押出成形金型20を用いた押出成形により製造されるものであるから、押出成形金型20の寸法を対応するスプライン部材10の寸法に置き換えることができる。従って、
ρ1>ρ2
0.25×(Δ1−δ1)/2≦ρ1<0.48×(Δ1−δ1)/2
0.09×(Δ1−δ2)/2≦ρ2<0.37×(Δ1−δ2)/2
という3つの関係式を満たすスプライン部材10では、そのコンパクト化を図りつつ、スプライン120の有効長さおよび強度を良好に確保し得ることも理解されよう。
【0041】
以上説明したように、上述の押出成形金型20を用いて押出成形によりスプライン部材10を製造すれば、当該スプライン部材10のコンパクト化を図りつつ、スプライン120の有効長さおよび強度を良好に確保することが可能となる。ただし、本発明の対象となるスプライン部材は、大径部から同軸に延出されると共に外周面に形成されたスプラインを有する小径部を含むものであれば、上述のように最終的に遊星歯車のサンギヤとして構成されるものに限られないことはいうまでもない。また、押出成形金型20は、上述の第1および第2パンチ31を一体化したパンチと共に用いられてもよい。
【0042】
なお、実施例等の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例等が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例等はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0043】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。