(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
運転者が操作する操舵輪と、前記運転者による前記操舵輪の操舵角を検出する操舵角センサと、当該操舵角センサが検出した操舵角に応じて転舵アクチュエータを駆動制御して転舵輪を転舵する転舵制御装置と、前記操舵輪に前記転舵輪の転舵状態に応じた操舵反力を与える反力装置と、を備えた車両の操舵制御装置であって、
前記操舵角及び前記操舵制御装置を搭載する車両の車速に基づき、前記操舵輪と前記転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離し、且つ前記検出した操舵角に応じて前記転舵輪を転舵する制御である通常制御時における前輪転舵角の目標値である目標前輪転舵角と、当該目標前輪転舵角の変化率である補正前転舵角速度と、を演算する目標転舵角演算器と、
前記補正前転舵角速度、前記操舵角及び前記車速に基づき、最適転舵角速度を演算する最適転舵角速度演算器と、
前記目標前輪転舵角、前記補正前転舵角速度及び前記最適転舵角速度に基づき、目標前輪転舵角速度を演算する目標前輪転舵角速度演算器と、
前記演算した目標前輪転舵角と、前記演算した目標前輪転舵角速度と、に応じて前輪転舵サーボを実行する転舵位置サーボ制御部と、
前記操舵角及び前記車速に基づき、前記操舵反力の目標値である目標操舵反力を演算する操舵反力演算器と、を備え、
前記最適転舵角速度演算器は、前記検出した操舵角を前記車両の操舵角依存補正ゲインと操舵角との予め設定した関係に適合させることで前記操舵角が増加するほど増加するように演算した操舵角依存補正ゲインと、前記検出した操舵角に応じた操舵角速度を前記車両の操舵角速度依存補正ゲインと操舵角速度との予め設定した関係に適合させることで前記操舵角速度が増加するほど減少するように演算した操舵角速度依存補正ゲインと、前記車速を前記車両の車速依存補正ゲインと車速との予め設定した関係に適合させることで前記車速が増加するほど増加するように演算した車速依存補正ゲインと、前記補正前転舵角速度と、を全て乗じることで前記補正前転舵角速度よりも小さい速度となった前記最適転舵角速度を演算し、
前記目標前輪転舵角速度演算器は、前記演算した目標前輪転舵角と、前記演算した目標前輪転舵角の微分値と、前記演算した補正前転舵角速度と、から前記操舵輪が切り増しされているか切り戻しされているかを判断し、さらに、前記操舵輪が切り増しされていると判断すると、前記演算した最適転舵角速度及び前記演算した補正前転舵角速度のうち小さい速度を前記目標前輪転舵角速度として演算する一方、前記操舵輪が切り戻しされていると判断すると、前記演算した補正前転舵角速度を前記目標前輪転舵角速度として演算することを特徴とする車両の操舵制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態の操舵制御装置1を備えた車両の概略構成を示す図である。また、
図2は、本実施形態の操舵制御装置1の概略構成を示すブロック図である。
本実施形態の操舵制御装置1を備えた車両は、SBWシステムを適用した車両である。
ここで、SBWシステムでは、車両の運転者が操舵操作する操舵輪の操作に応じて転舵モータを駆動制御して、転舵輪を転舵する制御を行うことにより、車両の進行方向を変化させる。転舵モータの駆動制御は、操舵輪と転舵輪との間に介装するクラッチを、通常状態である開放状態に切り換えて、操舵輪と転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う。
【0009】
そして、例えば、断線等、SBWシステムの一部に異常が発生した場合には、開放状態のクラッチを締結状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に接続することにより、運転者が操舵輪に加える力を用いて、転舵輪の転舵を継続する。
図1及び
図2中に示すように、本実施形態の操舵制御装置1は、転舵モータ2と、転舵モータ制御部4と、クラッチ6と、反力モータ8と、反力モータ制御部10を備える。
【0010】
転舵モータ2は、転舵モータ制御部4が出力する転舵モータ駆動電流に応じて駆動するモータであり、回転可能な転舵モータ出力軸12を有する。また、転舵モータ2は、転舵モータ駆動電流に応じて駆動することにより、転舵輪を転舵させるための転舵トルクを出力する。
転舵モータ出力軸12の先端側には、歯車(図示せず)を設けてあり、この歯車は、ラックギア14と噛合する。
【0011】
また、転舵モータ2には、転舵モータ角度センサ16を設ける。
転舵モータ角度センサ16は、転舵モータ2の回転角度(転舵角度)を検出し、この検出した回転角度(以降の説明では、「転舵モータ回転角」と記載する場合がある)を含む情報信号を、転舵モータ制御部4を介して、反力モータ制御部10へ出力する。
ラックギア14は、転舵モータ出力軸12の回転に応じて車幅方向へ変位するラック軸18を有する。
【0012】
ラック軸18の両端は、それぞれ、タイロッド20及びナックルアーム22を介して、転舵輪24に連結する。また、ラック軸18とタイロッド20との間には、タイヤ軸力センサ26を設ける。
タイヤ軸力センサ26は、ラック軸18の軸方向(車幅方向)に作用する軸力を検出し、この検出した軸力(以降の説明では、「タイヤ軸力」と記載する場合がある)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0013】
転舵輪24は、車両の前輪(左右前輪)であり、転舵モータ出力軸12の回転に応じてラック軸18が車幅方向へ変位すると、タイロッド20及びナックルアーム22を介して転舵し、車両の進行方向を変化させる。なお、本実施形態では、転舵輪24を、左右前輪で形成した場合を説明する。これに伴い、
図1中では、左前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Lと示し、右前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Rと示す。
【0014】
転舵モータ制御部4(転舵制御装置)は、反力モータ制御部10と、CAN(Controller Area Network)等の通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。
また、転舵モータ制御部4は、転舵位置サーボ制御部30を有する。
転舵位置サーボ制御部30は、転舵モータ2を駆動させるための転舵モータ駆動電流を演算し、この演算した転舵モータ駆動電流を、転舵モータ2へ出力する。
【0015】
ここで、転舵モータ駆動電流は、上述した転舵トルクを制御して、操舵輪の操作に応じた目標転舵角に転舵モータ2を駆動制御するための電流である。
転舵モータ駆動電流の演算は、反力モータ制御部10が出力する転舵モータ電流指令と、実際に転舵モータ2へ通電している電流(転舵モータ実電流)の指令値(以降の説明では、「転舵モータ電流指令It」と記載する場合がある)に基づいて行う。具体的には、転舵モータ電流指令Itを用いて転舵モータ電流指令を補正し、転舵モータ駆動電流を演算する。
【0016】
また、転舵位置サーボ制御部30は、転舵モータ電流指令Itを計測し、この計測した転舵モータ電流指令Itに基づいて、転舵モータ2の温度Ttを推定する。そして、推定した転舵モータ2の温度Ttを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。これは、モータ類(転舵モータ2、反力モータ8)の過熱は、電流の通電による抵抗発熱に起因する場合が多いためである。
【0017】
なお、転舵モータ電流指令Itは、例えば、転舵モータ2に基板温度センサ(図示せず)を内蔵し、この内蔵した基板温度センサを用いて計測する。
ここで、転舵モータ電流指令Itに基づいて転舵モータ2の温度Ttを推定する方法としては、例えば、大電流域では、計測した実際の電流値を用いて転舵モータ電流指令Itを求める。具体的には、計測した実際の電流値と予め記憶している電流閾値とを比較し、計測した実際の電流値が電流閾値よりも大きい場合は、計測した実際の電流値を、転舵モータ電流指令Itとして採用する。
【0018】
一方、小電流域では、転舵モータ2の回転数とトルクとの関係を定めたモータNT特性を用い、転舵モータ2の回転数に基づいて、転舵モータ電流指令Itを推定する。具体的には、計測した実際の電流値を転舵モータ電流指令Itとして採用せず、モータNT特性を用い、転舵モータ2の回転数に基づいて推定した電流値を、転舵モータ電流指令Itとして採用する。
そして、上記のように採用した転舵モータ電流指令Itを用いて、転舵モータ2の温度Ttを推定する。
【0019】
クラッチ6は、運転者が操作する操舵輪32(ステアリングホイール、操舵ハンドル)と転舵輪24との間に介装し、反力モータ制御部10が出力するクラッチ駆動電流に応じて、開放状態または締結状態に切り換わる。なお、クラッチ6は、通常状態では、開放状態である。
ここで、クラッチ6の状態を開放状態に切り換えると、操舵輪32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させて、操舵輪32の操舵操作が転舵輪24へ伝達されない状態とする。一方、クラッチ6の状態を締結状態に切り換えると、操舵輪32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に結合させて、操舵輪32の操舵操作が転舵輪24へ伝達される状態とする。
【0020】
また、操舵輪32とクラッチ6との間には、操舵角センサ34と、操舵トルクセンサ36と、反力モータ8と、反力モータ角度センサ38を配置する。
操舵角センサ34は、例えば、操舵輪32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。
また、操舵角センサ34は、操舵輪32の現在の回転角度(操舵操作量)である現在操舵角を検出する。そして、操舵角センサ34は、検出した操舵輪32の現在操舵角を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、現在操舵角を、「現在操舵角θ」と記載する場合がある。
【0021】
ここで、近年の車両は、操舵輪32の操舵角を検出可能なセンサを、標準的に備えている場合が多い。このため、本実施形態では、操舵角センサ34として、車両に既存のセンサである、操舵輪32の操舵角を検出可能なセンサを用いた場合について説明する。
操舵トルクセンサ36は、操舵角センサ34と同様、例えば、操舵輪32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。
【0022】
また、操舵トルクセンサ36は、運転者が操舵輪32に加えているトルクである操舵トルクを検出する。そして、操舵トルクセンサ36は、検出した操舵トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、操舵トルクを、「トルクセンサ値Vts」と記載する場合がある。
なお、反力モータ8及び反力モータ角度センサ38に関する説明は、後述する。
【0023】
また、クラッチ6は、開放状態で互いに離間し、締結状態で互いに噛合する一対のクラッチ板40を有する。なお、
図1中及び以降の説明では、一対のクラッチ板40のうち、操舵輪32側に配置するクラッチ板40を、「操舵輪側クラッチ板40a」とし、転舵輪24側に配置するクラッチ板40を、「転舵輪側クラッチ板40b」とする。
操舵輪側クラッチ板40aは、操舵輪32と共に回転するステリングシャフト42に取り付けてあり、ステリングシャフト42と共に回転する。
【0024】
転舵輪側クラッチ板40bは、ピニオン軸44の一端に取り付けてあり、ピニオン軸44と共に回転する。
ピニオン軸44の他端は、ピニオン46内に配置してある。ピニオン46には、ラックギア14と噛合するピニオンギア(図示せず)を内蔵する。
ピニオンギアは、ピニオン軸44と共に回転する。すなわち、ピニオンギアは、ピニオン軸44を介して、転舵輪側クラッチ板40bと共に回転する。
【0025】
また、ピニオン46には、ピニオン角度センサ48を設ける。
ピニオン角度センサ48は、ピニオンギアの回転角度を検出し、この検出した回転角度(以降の説明では、「ピニオン回転角」と記載する場合がある)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
反力モータ8(反力装置)は、反力モータ制御部10が出力する反力モータ駆動電流に応じて駆動するモータであり、操舵輪32と共に回転するステリングシャフト42を回転させて、操舵輪32へ操舵反力を出力可能である。ここで、反力モータ8が操舵輪32へ出力する操舵反力は、クラッチ6を開放状態に切り換えて、操舵輪32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させている状態で、転舵輪24に作用しているタイヤ軸力や操舵輪32の操舵状態に応じて演算する。これにより、操舵輪32を操舵する運転者へ、適切な操舵反力を伝達する。
【0026】
反力モータ角度センサ38は、反力モータ8に設けるセンサである。
また、反力モータ角度センサ38は、反力モータ8の回転角度(転舵角度)を検出し、この検出した回転角度(以降の説明では、「反力モータ回転角」と記載する場合がある)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
反力モータ制御部10は、転舵モータ制御部4と、通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。これに加え、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して、車速センサ50及びエンジンコントローラ52が出力する情報信号の入力を受ける。
【0027】
また、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して入力を受けた情報信号や、各種センサから入力を受けた情報信号に基づき、反力モータ8を駆動制御する。
車速センサ50は、例えば、公知の車速センサであり、車両の車速を検出し、この検出した車速を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
エンジンコントローラ52(エンジンECU)は、エンジン(図示せず)の状態(エンジン駆動、または、エンジン停止)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0028】
また、反力モータ制御部10は、指令演算部54と、反力サーボ制御部56と、クラッチ制御部58を有する。
指令演算部54は、車速センサ50、操舵角センサ34、エンジンコントローラ52、操舵トルクセンサ36、反力モータ角度センサ38、ピニオン角度センサ48、タイヤ軸力センサ26及び転舵モータ角度センサ16が出力した情報信号の入力を受ける。
これに加え、指令演算部54は、入力を受けた各種情報信号に基づき、反力モータ電流指令を演算する。そして、指令演算部54は、演算した反力モータ電流指令を、反力サーボ制御部56へ出力する。
【0029】
また、指令演算部54は、入力を受けた各種情報信号に基づき、転舵モータ電流指令を演算する。そして、指令演算部54は、この演算した転舵モータ電流指令を、転舵位置サーボ制御部30へ出力する。
また、指令演算部54は、入力を受けた各種情報信号に基づき、クラッチ電流指令を演算する。そして、指令演算部54は、この演算したクラッチ電流指令を、クラッチ制御部58へ出力する。
また、指令演算部54は、
図3中に示すように、目標転舵角演算器60と、最適転舵角速度演算器62と、目標前輪転舵角速度演算器64と、操舵反力演算器66を備える。なお、
図3は、指令演算部54の構成を示すブロック図である。
【0030】
目標転舵角演算器60と、最適転舵角速度演算器62と、目標前輪転舵角速度演算器64は、転舵位置サーボ制御部30(前輪転舵サーボ)へ出力する目標前輪
転舵角と目標
前輪転舵角速度を演算する。そして、演算した目標前輪
転舵角を含む情報信号と、演算した目標
前輪転舵角速度を含む情報信号を、転舵位置サーボ制御部30へ出力する。
操舵反力演算器66は、反力サーボ制御部56(操舵反力サーボ)へ出力する目標操舵反力を演算する。そして、演算した目標操舵反力を含む情報信号を、反力サーボ制御部56へ出力する。
【0031】
(反力モータ電流指令の演算)
操舵反力演算器66は、車速センサ50及び転舵モータ角度センサ16が出力した情報信号に基づき、転舵モータ回転角θtに、予め設定した反力モータ用ゲインGhを乗算して、反力モータ電流指令を演算して、目標操舵反力の演算を行う。
ここで、反力モータ用ゲインGhは、反力モータゲイン用マップを用いて、予め設定する。なお、反力モータゲイン用マップは、車速に依存するマップであり、予め形成して、指令演算部54に格納する。
すなわち、反力モータ電流指令を「Ih’」と定義すると、反力モータ電流指令Ih’は、以下の式(1)で演算する。
Ih’=θt×Gh … (1)
【0032】
(転舵モータ電流指令の演算)
目標転舵角演算器60は、
図4中に示すように、操舵角と、車速の入力を受ける。そして、操舵角と、予め定めたマップから読み込んだ車速に基づき、変化する操舵ギヤ比に応じて、目標前輪転舵角と補正前転舵角速度を演算する。なお、
図4は、目標転舵角演算器60の構成を示すブロック図である。
最適転舵角速度演算器62は、
図5中に示すように、操舵角と、車速と、目標転舵角演算器60が演算した補正前転舵角速度の入力を受ける。なお、
図5は、最適転舵角速度演算器62の構成を示すブロック図である。
【0033】
そして、最適転舵角速度演算器62は、微分演算子で遅れを与えた後に角速度に応じて設定した角速度依存補正ゲインを乗算した値と、転舵角に対して操舵角依存補正ゲインを乗算した値と、車速に車速依存補正ゲインを乗算した値を算出する。さらに、角速度依存補正ゲインを乗算した値と、操舵角依存補正ゲインを乗算した値と、車速依存補正ゲインを乗算した値と、目標転舵角演算器60が演算した補正前転舵角速度を乗算して、最適転舵角速度を演算する。
【0034】
目標前輪転舵角速度演算器64は、目標転舵角演算器60が演算した目標前輪転舵角及び補正前転舵角速度と、最適転舵角速度演算器62が演算した最適転舵角速度の入力を受ける。
また、目標前輪転舵角速度演算器64は、
図6中に示すように、補正条件判断器68と、転舵角速度選択器70を備える。なお、
図6は、目標前輪転舵角速度演算器64の構成を示すブロック図である。
【0035】
補正条件判断器68は、補正フラグのONまたはOFFを判断し、その判断結果を示す補正許可フラグを、転舵角速度選択器70へ出力する。
補正条件判断器68が補正フラグを判断する際には、目標前輪転舵角と、目標前輪転舵角の微分値と、補正前転舵角速度から、切り増し(ニュートラルから転舵方向への操舵入力)か、切り戻し(転舵状態からニュートラル位置に戻す操舵入力)を判断する。
【0036】
転舵角速度選択器70は、補正条件判断器68から入力を受けた補正フラグと、補正前転舵角速度と、最適転舵角速度に応じて、補正フラグがONのときは、最適転舵角速度と補正前転舵角速度をセレクトローした値を、目標
前輪転舵角速度として出力する。
一方、補正フラグがOFFのときは、補正前転舵角速度を目標
前輪転舵角速度として出力する。
以上により、目標前輪転舵角速度演算器64は、補正条件判断器68が上記の切り増しと判断した場合、最適転舵角速度による
前輪転舵サーボを許可する。一方、補正条件判断器68が上記の切り戻しと判断した場合、最適転舵角速度による
前輪転舵サーボを許可しない。
【0037】
(動作)
次に、
図1から
図6を参照しつつ、
図7を用いて、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を説明する。なお、
図7は、本実施形態の操舵制御装置1を用いた制御出力イメージと効果を示すタイムチャートであり、運転者による操舵輪32の操舵操作に対して、補正転舵角とヨーレイト及びヨー角の変化を示す。また、
図7中では、補正転舵角を、「Steer Angle[deg]」と示し、ヨーレイトを「Yaw Rate[deg/s]」と示し、ヨー角を「Yaw Angle[deg]」と示す。また、
図7中では、操舵輪32の操舵状態を実線で示し、転舵輪24の転舵状態を破線で示す。
【0038】
図7中に示すように、本実施形態の操舵制御装置1を用いた車両では、運転者が操舵輪32を切り増していくと、予め設定した操舵角及び操舵角速度以上になった時点(
図7中でE1と示す領域)で、転舵角速度を減少方向に補正する。
また、操舵輪32を切り戻す場合(
図7中でE2と示す領域)
では
、転舵輪24の転舵状態を、運転者による操舵輪32の操舵操作に同期させる。
【0039】
したがって、「Yaw Angle[deg]」欄に示されるように、操舵輪32を切り戻した後は、同じ操舵角の入力に対して、転舵角が増加することとなる。なお、「Yaw Angle[deg]」欄には、転舵角の増加分を、符合「G」で示す。
その結果、入力される操舵周波数が高くなり、車両運動が非線形領域にある場合でも、車両のヨーレイトゲイン減少を抑制することで、緊急回避時等における、車両回頭性を向上させることが可能となる。
【0040】
(第一実施形態の効果)
本実施形態では、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)最適転舵角速度演算器62及び最適転舵角速度演算器62が、操舵角依存補正ゲイン、操舵角速度依存補正ゲイン及び車速依存補正ゲインを演算し、各ゲインと補正前転舵角速度を全て乗じる。これにより、最適転舵角速度が補正前転舵角速度よりも小さくなるように補正して、最適転舵角速度に応じて前輪転舵サーボを実行する。
【0041】
このため、車両の運動特性が非線形領域にあるような状況で前輪の転舵速度を抑制し、前輪転舵サーボを実行することにより、車両の運動特性が非線形領域であっても、ゲインの低下と位相の遅れを縮小することが可能となる。なお、ゲインの低下と位相の遅れは、運転者による操舵操作が高周波となった場合(例えば、2[Hz]以上)、車両の操舵特性は非線形となるだけでなく、車両の操舵に対するヨーレイトの周波数特性におけるヨーレイトのゲイン低下と位相の遅れに起因する。
その結果、操舵輪32の操作状態に応じて、転舵輪24の応答速度を最適化することが可能となる。
【0042】
(2)最適転舵角速度演算器62が、運転者による操舵輪32の操舵速度が一定値以上となると、転舵角速度補正ゲインを徐々に減少させる処理を行う。
その結果、運転者による操舵輪32の操舵速度に応じて、線形領域での余計な動作を抑制することが可能となる。
【0043】
(3)最適転舵角速度演算器62が、運転者による操舵輪32の操舵角が一定値以上となり、且つ車速が一定値を超える場合に、操舵角度依存転舵角速度補正ゲインを徐々に増加させる処理を行う。
その結果、操舵角及び車速の情報により、車両運動特性が、線形/非線形のいずれかの領域にあるのかを判断することが可能になるため、線形領域での余計な動作を抑制して、運転者が感じる違和感を抑制することが可能となる。なお、運転者が感じる違和感は、運転者による操舵輪32の操舵角が一定値以上となり、且つ車速が一定値を超える場合に、操舵角度依存転舵角速度補正ゲインを徐々に増加させることで、転舵輪24の応答遅れにより運転者が感じるものである。
【0044】
(4)操舵反力演算器66が、車速が一定値を超えると、アシスト反力指令値を減少方向に補正する処理を行う
このため、車速が一定値を超えるとアシスト反力指令値を減少方向に補正することで、例えば、車速が100[km/h]を超える高車速領域における反力変動を抑制することが可能となる。
その結果、操舵角の微小変動による車線逸脱の低減と、運転者が感じる違和感の抑制が可能となる。