(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記帯状のワークコイルと前記電源とを繋ぐ導電体の経路が、溶接線の外方の領域であって、前記帯状のワークコイルよりも外方の領域を迂回する位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の誘導加熱装置。
前記帯状のワークコイルと前記電源とを繋ぐ導電体のうち、相互に接触していない導電体同士の間隔が0.2mm以上50mm以下に保たれていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の誘導加熱装置。
前記管状に成形された導電体板の溶接部の雰囲気の酸素濃度を低減するためのシールドガスを当該溶接部に供給するシールド装置と、前記管状に成形された導電体板の溶接部の状態を監視するために当該溶接部を撮像する撮像装置との少なくとも何れか一方が、前記溶接線の外方の領域であって、前記帯状のワークコイルよりも外方の領域に配置されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の誘導加熱装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態を説明する。以下の各実施形態では、電縫溶接を行う導電体板の一例として鋼板を用いた場合を例に挙げて説明する。
図1は、電縫鋼管製造ラインの一例をその上方から見た図である。また、
図2は、電縫鋼管製造ラインの一例を示す断面図である。具体的に
図2に示す断面図は、
図1のA−A´で示す線で切ったときのA−A´方向から見た断面図である。尚、各図では、説明の都合上、必要な部分のみを簡略化して示している。
【0013】
図1及び
図2において、電縫鋼管製造ラインは、誘導加熱装置101と、スクイズロール200と、を有している。
図1に示す電縫鋼管製造ラインでは、管状に成形された鋼板が、
図1に示す白抜きの矢印の方向に進行するものとする(言い換えると、
図1に示す白抜きの矢印が示す方向が電縫鋼管製造ラインの下流側である)。
【0014】
スクイズロール200は、管状に成形された鋼板300の左右両側に配置されるサイドロール201a、201bと、管状に成形された鋼板300の上側において突合せ端面を挟んで左右両側に配置されるヘッドロール202a、202bとを有する。尚、
図1では、ヘッドロール202a、202bを備えたスクイズロール200を例に挙げて示しているが、本実施形態の電縫鋼管製造ラインが有するスクイズロールは、ヘッドロールを備えるものに限定されない。
【0015】
図1及び
図2において、誘導加熱装置101は、電源110と、コイル部120と給電板131a、131bと、水冷パイプ141とを有する。尚、
図1では、表記の都合上、水冷パイプ141の図示を省略している。
【0016】
電源110は、交流電力を出力するものである。電源110は、例えば、周波数が100Hz〜400kHz、出力が50W〜3.0MWの範囲の交流電力を、電縫鋼管の溶接条件に応じて出力する。
図2に示すように、電源110は、管状に成形された鋼板300の溶接線L(鋼板300の突合せ端面に沿う線)の上方の領域であって、コイル部120(ワークコイル)よりも上方の領域に配置されている。また、電源110と、コイル部120(ワークコイル)との間には、空間が形成されている。この空間の高さは、この空間に配置する装置の大きさに応じて適宜決定することができる。
コイル部120は、管状に成形された鋼板300の形状に沿って、鋼板300と間隔を有して、鋼板300の外周側に配置される。コイル部120は銅製であり、その幅(
図2の紙面に垂直な方向の長さ)は、例えば50mm〜400mmであり、その厚みは、例えば2mm〜50mmである。また、コイル部120は、側方側(
図2の紙面に向かって左側)で引き出されている。
【0017】
コイル部120と管状に成形された鋼板300は、相互に間隔を有して配置される。コイル部120に与えられる電力(すなわち電縫鋼管の溶接条件)に応じてこの間隔を決定し、コイル部120と管状に成形された鋼板300とが短絡しないようにする。
【0018】
給電板131a、131bは銅製であり、その幅(
図2の紙面に垂直な方向の長さ)と厚みは、例えば、コイル部120のものと同じである。給電板131a、131bと、コイル部120は、それらの幅方向の端部の位置を揃えた状態にして相互に接続されている。
図2に示すように、給電板131a、131bは、コイル部120との接続箇所(コイル部120の引き出し部)から水平方向に延びる一平面と、当該一平面の先端部から鉛直上方向に延びる一平面と、当該一平面の上端部から電源110の配設方向に向けて水平方向に伸びる一平面と、当該一平面の先端部から鉛直上方向(電源110の配設方向)に延びる一平面とを構成する。給電板131a、131bの一端部は、コイル部120に接続され、他端部(上端部)は、電源110に接続されている。
また、給電板131a、131bは、相互に間隔を有して配置される。コイル部120に与えられる電力(すなわち電縫鋼管の溶接条件)に応じてこの間隔を決定し、給電板131a、131bが短絡しないようにする。このとき、コイル部120と電源110とを繋ぐ導電体板(給電板131a、131b)の間隔が0.2mm以上50mm以下に保たれるようにするのが好ましい。導電体の経路を狭い間隔に保つことで、インダクタンスが増えることによるエネルギーの損失を極力増やさないようにすることができるからである。同様の理由から、コイル部120と管状に成形された鋼板300の間隔も0.2mm以上50mm以下に保たれるようにするのが好ましい。
【0019】
本実施形態では、以上のようにして、コイル部120と給電板131a、131bが配置されることによって、管状に成形された鋼板300の溶接点よりも上流側で当該鋼板300に対してその外周側で周回するコイル部120(帯状のワークコイル)が形成され、且つ、コイル部120(ワークコイル)と電源110とを繋ぐ導電体板の経路が、溶接線Lの上方の領域であって、コイル部120(ワークコイル)よりも上方の領域を迂回する経路となるようにしている。
【0020】
また、
図2に示す構造では、給電板131aと給電板131bのそれぞれに電流が流れ、その電流が電源110とコイル部120との間の領域に電磁場を発生させるが、給電板131aと給電板131bに流れる電流は逆向きであり、且つ、給電板131aと給電板131bの板面は略平行となっているので、それぞれの電流が発生させる電磁場が打ち消しあい、結果として電源110とコイル部120との間の領域の電磁場は弱まる。したがって、電源110とコイル120の間の領域に、導電体を含むシールド装置や導電体を含む撮像装置を設置しても、シールド装置や撮像装置が誘導加熱による損傷を受けにくいという利点がある。このように本実施形態の誘導加熱装置101では、電源110とコイル部120(水冷パイプ141)との間の領域に、鋼板300の溶接部の雰囲気における酸素濃度を低減するためのシールドガスを当該溶接部に供給するシールドガスを供給するシールド装置と、鋼板300の溶接部の状態を監視するために当該溶接部を撮像する撮像装置との少なくとも何れか一方が配置される。
【0021】
更に、本実施形態では、コイル部120及び給電板131a、131bの外側の面には、(1本の)水冷パイプ141が取り付けられている。水冷パイプ141の取り付けは、例えば、溶接やろう付けを行うことにより実現される。図示しない冷却水供給装置から配管を経由して水冷パイプ141の内部に冷却水が供給される。水冷パイプ141に冷却水が流されることにより、コイル部120及び給電板131a、131bが冷却される。例えば、ライン速度が25m/分であり、出力が1MWである場合には、各水冷パイプ141に流す冷却水の流量を4l/minにすることができる。ここで、水冷パイプ141は、例えば金属製であり、熱伝導率が高く、耐熱性を有するものが好ましい。
尚、水冷パイプ141の位置・大きさ・数は、
図2に示したものに限定されない。例えば、1つの部材に複数の水冷パイプを取り付けてもよい。
【0022】
以上のように本実施形態では、コイル部120(ワークコイル)と電源110とを繋ぐ給電板131a、131bの経路が、溶接線Lの上方の領域であって、コイル部120(ワークコイル)よりも上方の領域を迂回する位置に形成されるようにした。したがって、電源110とコイル部120(ワークコイル)との間の領域に、シールド装置や撮像装置等を配置するのに十分なスペースを確保することができる。よって、上流側から下流側に向けて斜め方向から、シールドガスやプラズマを溶接部に吹き付けたり、同じく上流側から下流側に向けて斜め方向から、溶接部を撮像したりすることができるようになる。特に、いわゆる中径以上(管の外径が150mm以上)の電縫鋼管を製造する場合には、ワークコイル(コイル部120の径)も大きくなるので、本実施形態の誘導加熱装置101を中径以上の電縫鋼管の製造ラインに適用するのが好ましい。
【0023】
また、本実施形態では、コイル部120及び給電板131a、131bの外側の面に水冷パイプ141を取り付け、水冷パイプ141に冷却水を流してコイル部120及び給電板131a、131bを冷却する内水冷式の冷却構造とした。安定した操業には、ワークコイルの冷却が必須であるが、ワークコイルに直接水をかける外水冷式では、ワークコイルからワークコイルの外側に漏れ出す蒸気や湯気により、シールドガスによるシールド効果が低下したり、電縫管の溶接部の監視が困難になったりする虞がある。このため、本実施形態のように内水冷式の冷却構造を採用することにより、蒸気や湯気がワークコイルの外側に漏れ出すことを防止することができ、シールドガスの有効性を高めたり、電縫管の溶接部の状態の監視の精度を向上させたりすることができる。
また、本実施形態では、コイル部120と管状に成形された鋼板300との間隔と、給電板131a、131bの間隔を、それぞれ狭い間隔に保つようにしたので、インダクタンスが増えることによるエネルギーの損失を極力増やさないようにすることができる。
【0024】
尚、本実施形態では、コイル部120(ワークコイル)の引き出し位置を、管状に成形された鋼板300の側方向の領域とした。しかしながら、コイル部120(ワークコイル)の引き出し位置は、溶接線Lの上方の領域でなければ、どの位置であってもよい。例えば、コイル部120(ワークコイル)の引き出し位置を、管状に成形された鋼板300の下方向の領域としてもよい。
また、本実施形態では、溶接線Lが、帯状に形成された鋼板300の上側に位置するようにした。しかしながら、溶接線Lの位置は、これに限定されない。例えば、溶接線Lが、帯状に形成された鋼板300の横側に位置するようにしてもよいし、下側に位置するようにしてもよい。このようにした場合には、電源110と溶接線Lとは相互に対向する位置に配置されない。そして、このようにした場合には、ワークコイルと電源110とを繋ぐ導電体(給電板)の経路が、溶接線Lの外方(前述した例では、横方向又は下方向)の領域であって、ワークコイルよりも外方(前述した例では、横方向又は下方向)の領域を迂回する位置に形成されることになる。
【0025】
また、コイル部120(ワークコイル)及び給電板131a、131bは、成型機(スクイズロール200等)や溶接電源(電源110)の配置に合わせて、作業性を損なわないように分割することができる。このようにする場合には、フランジを立てて締結する方法や、端部を重ねて締結する方法や、連結板を用いる方法等を用いて分割した部分を接続すればよい。
また、水冷パイプ141も、必要に応じて複数に分割することができる。また、コイル部120(ワークコイル)及び給電板131a、131bの何れか一方に対してのみ水冷パイプ141を取り付けるようにしてもよい。
また、電縫溶接を行うことができれば、電縫溶接を行う導電体板は鋼板でなくてもよい。例えば、鋼板以外の金属板であってもよい。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1実施形態では、コイル部120(ワークコイル)と電源110とを繋ぐ導電体板の経路が、溶接線Lの上方の領域であって、コイル部120(ワークコイル)よりも上方の領域を迂回する位置に形成する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、コイル部120(ワークコイル)と電源110とを繋ぐ導電体板の経路が、前述した迂回をせずに、溶接線Lの上方の領域であって、コイル部120(ワークコイル)よりも上方の領域を避ける位置に形成する場合について説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、電源110の配置と、コイル部120と電源110とを繋ぐ導電体板の経路が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、
図1及び
図2に付した符号と同一の符号を伏す等して詳細な説明を省略する。
【0027】
図3は、電縫鋼管製造ラインの一例を示す断面図である。
図3は、第1の実施形態で示した
図2に対応する図である。
図3に示すように、本実施形態の誘導加熱装置102は、電源110と、コイル部120と、給電板132a、132bと、水冷パイプ142とを有する。
【0028】
図2に示したように、第1の実施形態で示した給電板131a、131bは、コイル部120の引き出し箇所から水平方向に延びる一平面と、当該一平面の先端部から鉛直上方向に延びる一平面と、当該一平面の上端部から電源110の配設方向に向けて水平方向に伸びる一平面と、当該一平面の先端部から鉛直上方向(電源110の配設方向)に延びる一平面とによって構成されている。これに対し、
図3に示すように、本実施形態の給電板132a、132bは、コイル部120の引き出し箇所から側方(電源110が配設されている方)に向けて水平方向に延設される一平面によって構成されている。尚、
図3に示すように、電源110は、コイル部120よりも
図2に向かって左側に配置されている。すなわち、電源110は、溶接線Lの上方の領域以外の領域であって、コイル部120よりも外方の領域に配置されている。また、コイル部120は、
図2に向かって左側で引き出されている。すなわち、コイル部120は、溶接線Lの上方の領域以外の領域で引き出されている。
【0029】
コイル部120の引き出し部は、給電板132a、132bの一端に接続され、電源110は、給電板132a、132bの他端に接続されている。このとき、給電板132a、132bの間隔を0.2mm以上50mm以下に保たれるようにするのが好ましい。導電体の経路を狭い間隔に保つことで、インダクタンスが増えることによるエネルギーの損失を極力増やさないようにすることができるからである。
本実施形態では、以上のようにして、コイル部120と電源110とを繋ぐ導電体板の経路が、溶接線Lの上方の領域であって、コイル部120よりも上方の領域を避ける位置に形成されるようにしている。そして、本実施形態の誘導加熱装置102では、コイル部120の上方の領域に、シールド装置と撮像装置の少なくとも何れか一方が配置される。
【0030】
更に、本実施形態では、コイル部120及び給電板132a、132bの外側の面に、(1本の)水冷パイプ142が取り付けられている。これらの水冷パイプ142の内部に冷却水が流されることにより、コイル部120及び給電板132a、132bが冷却される。
以上のようにすれば、電縫鋼管製造ラインの水平方向の長さが大きくなるが、第1の実施形態よりも単純な構造で誘導加熱装置102を構成することができる。
【0031】
尚、本実施形態では、電源110が、管状に成形された鋼板300の側方向の領域に配置される場合を例に挙げて説明した。しかしながら、電源110が配置される位置は、溶接線Lの上方の領域でなければ、どの位置であってもよい。例えば、電源110が配置される位置を、管状に成形された鋼板300の下方向の領域としてもよい。このようにする場合には、溶接線Lが、電源110が配置されている側(この例では、帯状に形成された鋼板300の下側)に位置しないようにする。
また、本実施形態では、溶接線Lが、帯状に形成された鋼板300の上側に位置するようにした。しかしながら、溶接線Lの位置は、これに限定されない。例えば、溶接線Lが、帯状に形成された鋼板300の横側に位置するようにしてもよいし、下側に位置するようにしてもよい。このようにする場合には、溶接線Lの外方(この例では、横方向、下方向)に電源110が配置されないようにする。
また、本実施形態でも前述した実施形態で説明した種々の変形例を採用できる。
【0032】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。第1、第2の実施形態では、水冷パイプを取り付けることにより、コイル部及び給電板を冷却するようにした場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、これらの内部に冷却水が流れる流路となる穴を形成し、この流路に冷却水を流すようにする。このように、本実施形態と第1、第2の実施形態とは、コイル部及び給電板の内部の構造が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1、第2の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図3に付した符号と同一の符号を伏す等して詳細な説明を省略する。尚、本実施形態の説明では、「コイル部、給電板」を必要に応じて「導電体部」と総称する。
【0033】
図4は、導電体部の(一部の)構成の一例を示す図である。具体的に
図4(a)は、導電体部をその上方から見た図であり、
図4(b)は、
図4(a)のA−A´で示す線で切ったときのA−A´方向から見た断面図である。また、
図4(c)は、
図4(a)のB−B´で示す線で切ったときのB−B´方向から見た断面図であり、
図4(d)は、
図4(a)のC−C´で示す線で切ったときのC−C´方向から見た断面図である。尚、
図4(b)〜
図4(d)では、表記の都合上、導電体部の形状が水平であるように示しているが、実際には、導電体部のうち、コイル部に対応する部分の形状は、
図2に示したようなコイル部の形状に応じて湾曲した形状となる。
図4において、導電体部400は、導電体本体部410と、梗塞部420a〜420e等と、を有する。
【0034】
導電体本体部410は、第1、第2の実施形態で示したコイル部120、121、給電板131a、131b、132a、132bに対応するものである。
図4に示すように、導電体本体部410の内部には、穴430が形成されている(
図4(a)の破線で示す部分を参照)。穴430は、つづら折り状(蛇行状)になっており、そのつづら折りの折り返し部が導電体本体部410の幅方向(
図2、
図3の紙面に垂直な方向)の端部で露出するようにしている(
図4(c)等を参照)。そこで、これら露出している領域を、それぞれ梗塞部420a〜420e等で塞ぐようにしている。これにより、例えば、
図4(a)に示す矢印のように、導電体本体部410の内部においてつづら折り状の流路が形成され、この流路に冷却水が流されることにより導電体本体部410を冷却することができる。
【0035】
以上のように本実施形態では、コイル部、給電板の厚みが、第1、第2の実施形態で示したものに比べて厚くなることがあるが、水冷パイプを取り付ける必要がなくなるので、誘導加熱装置を組み立てる際の作業負担(特に溶接作業やろう付け作業)を軽減することができる。また、コイル部、給電板を直接的に冷却するので、第1、第2の実施形態で示したものに比べて冷却効率を上げることができる。
尚、導電体本体部410の内部に流路を形成することができれば、導電体本体部410の内部に形成する穴の形態は、
図4に示したものに限定されない。
また、コイル部120に相当する部分と、給電板131a、131bに相当する部分の何れか一方に対してのみ、導電体本体部410を形成し(内部に流路を形成し)、他方については、内部に流路を形成しなくてもよい。
また、本実施形態でも前述した実施形態で説明した種々の変形例を採用できる。
【0036】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
前述した各実施形態のようにして電縫鋼管製造ラインで電縫鋼管を製造すると、鋼板300に生じているバリや、鋼板300の付着物や、外部からの飛散物が、コイル部120の内周面に電磁力により吸着され、コイル部120の内周面にスケールが蓄積する。このスケールは導電性を有する。したがって、スケールも誘導加熱される。このため、管状に形成された鋼板300の突合せ端面における加熱効率が低下する虞がある。また、スケールの存在によって、管状に形成された鋼板300と、コイル部120との間の絶縁がとれなくなり、それらの間で放電が起こる虞もある。さらに、コイル部120の内周面の汚れを防ぐ必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態では、このようなスケールの除去及び蓄積の防止を行う。さらに、鋼板300と、コイル部120との間の絶縁がとれなくなることを確実に防止する。このように本実施形態は、前述した第1〜第3の実施形態に対し、これらの目的を達成するための構成が付加されたものである。したがって、本実施形態の説明において、第1〜第3の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図4に付した符号と同一の符号を伏す等して詳細な説明を省略する。尚、本実施形態では、第1の実施形態に対し、これらの目的を達成するための構成を付加した場合を例に挙げて説明する。
【0038】
図5は、電縫鋼管製造ラインの一例をその上方から見た図である。
図5は、
図1に対応する図である。また、
図6は、電縫鋼管製造ラインの一例を示す断面図である。具体的に
図6に示す断面図は、
図5のA−A´で示す線で切ったときのA−A´方向から見た断面図である。
図6は、
図2に対応する図である。
【0039】
図5及び
図6において、本実施形態の誘導加熱装置104は、第1の実施形態の誘導加熱装置101に対して、ノズル510a〜510hと、絶縁材520とが付加されたものである。
図6に示すように、絶縁材520は、コイル部120の内周面全体に付けられている。本実施形態では、絶縁材520として絶縁用耐熱性ワニスを用いている。また、絶縁材520の厚みを、0.2mm以上、コイル部120の内周面と管状に成形された鋼板300の外周面との間の距離の半分以下にしている。この距離は、絶縁材520がないと仮定した状態での距離であり、実測値であっても、製造する電縫鋼管に応じて想定される設定値であってもよい。
【0040】
絶縁材520の厚みが、0.2mmを下回ると、絶縁材520の耐久性が低くなり、コイル部120と、管状に成形された鋼板300との間の絶縁が確保されなくなる虞がある。また、絶縁材520の厚みが0.2mmを下回ると、絶縁材520を付ける作業が困難になる場合がある。一方、絶縁材520の厚みが、コイル部120の内周面と、管状に成形された鋼板300の外周面との間の距離の半分を上回ると、コイル部120の内周面と管状に成形された鋼板300の外周面とが操業中に接触する虞がある。
【0041】
また、本実施形態では、絶縁材520は、JIS C4003の区分B(130℃)以上の耐熱性を有するものである。このようにするのは、加熱により絶縁性が失われないようにするためである。
【0042】
ノズル510a〜510hは、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して、不図示の供給装置から供給された液体を吹き付ける(供給する)ためのものである。本実施形態では、ノズル510a〜510hは、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して、水(水道水)を吹き付ける。
【0043】
ノズル510a〜510hは、それらの先端がコイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)のうち、相対的に上側の領域の方向を向くようにした状態で、コイル部120よりも電縫鋼管製造ラインの下流側の位置に、コイル部120の周方向に沿う方向で略等間隔となるように配置されている。尚、以下の説明では、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)のうち、相対的に上側の領域を必要に応じて「上側内周面」と称する。また、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)のうち、相対的に下側の領域を必要に応じて「下側内周面」と称する。
本実施形態では、ノズル510a〜510hは、合計で、2l/min以上、200l/min以下の範囲の流量の水を、電縫鋼管製造ラインの下流側からコイル部120の上側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)にほぼ均一に吹き付ける。
【0044】
ノズル510a〜510hから吹き付けられる水の合計の流量を2l/min以上とすれば、ノズル510a〜510hから吹き付けられた水を、コイル部120の上側内周面の端部であって、電縫鋼管製造ラインの上流側の端部まで到達させることができる。すなわち、ノズル510a〜510hから吹き付けられる水の合計の流量を2l/min以上とすれば、コイル部120の上側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)の全体に水膜を形成することができる。このようにすれば、コイル部120の上側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)にある水が重力により落下し、コイル部120の下側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)にも水膜を形成することができる。そして、コイル部120の下側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)にある水は、スケールと共にコイル部120の下側から外部に排出される。
【0045】
一方、ノズル510a〜510hから吹き付けられる水の合計の流量が200l/minを上回ると、必要以上に水が供給され、コイル部120の下側内周面の底に水が過剰に溜まる。そうすると、コイル部120の下側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)と、管状に成形された鋼板300の外周面との間の一部(底の部分)の領域が水で満たされてしまう虞がある。管状に成形された鋼板300が水に浸かった状態であると、鋼板300が冷却されてしまうため、溶接に影響を与える虞がある。また、本実施形態では、絶縁材520によって、コイル部120と、管状に成形された鋼板300との間の絶縁が確保されるが、これらの間が水で満たされることがないようにすれば、これらの間の絶縁をより一層確実に確保することができる。
尚、前述したノズル510a〜510hから吹き付けられる水の合計の流量の範囲は、コイル部120の上側内周面における電縫鋼管製造ラインの上流側端部の位置で規定してもよい。
【0046】
以上のように本実施形態では、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に水膜が形成されるように、電縫鋼管製造ラインの下流側から、コイル部120の上側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して水を吹き付けるようにした。したがって、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に付着したスケールを除去することができる。これにより、管状に形成された鋼板300の突合せ端面における加熱効率が低下や、管状に形成された鋼板300と、コイル部120との間の絶縁不良や、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)の汚れを防止することができる。
【0047】
また、本実施形態では、コイル部120の内周面全体に絶縁材520を付けるようにした。したがって、管状に形成された鋼板300と、コイル部120との間の絶縁不良を確実に防止することができる。このようにコイル部120の内周面全体に絶縁材520を付けるに際し、前述したように、コイル部120の上側内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して水を吹き付けるようにして、スケールを除去するようにすれば、スケールが誘導加熱されることを防止することができるので、絶縁材520が消失(溶ける)ことを防止することができる。
【0048】
本実施形態のように、コイル部120の内周面に対して水を吹き付けることと、コイル部120の内周面に絶縁材520を付けることとの双方を行うのが好ましいが、これらの何れか一方のみを行ってもよい。
【0049】
本実施形態では、電縫鋼管製造ラインの下流側から、コイル部120の上側内周面に対して水を吹き付けるようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。
例えば、電縫鋼管製造ラインの上流側から、コイル部120の上側内周面に対して水を吹き付けるようにしてもよい。ただし、鋼板300の溶接部の雰囲気に水がかかることを防止するためには、電縫鋼管製造ラインの下流側から、コイル部120の内周面に対して水を吹き付けるのが好ましい。
【0050】
また、コイル部120の上側内周面に対してだけでなく、コイル部120の下側内周面に対しても水を吹き付けるようにしてもよい。
また、スケールを除去する(スケールをコイル部120の外部に流す)ことができれば、水以外の液体を用いてもよい。例えば、水道水ではなく純水を用いてもよいし、シリコン油を用いてもよい。
また、絶縁材520は、前述した絶縁性能を有するものであれば、ワニスに限定されない。例えば、フッ素樹脂(耐熱性)、マイカ(雲母)、ガラス(耐熱性)等を絶縁材520として用いてもよい。
また、本実施形態では、コイル部120の内周面全体に絶縁材520を付けるようにするのが好ましいが、コイル部120の内周面のうち、絶縁が特に必要な一部の領域に対してのみに絶縁材520を付けるようにしてもよい。
また、本実施形態は、第2、第3の実施形態に対しても適用することができる。
また、本実施形態でも前述した実施形態で説明した種々の変形例を採用できる。
【0051】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。前述した第4の実施形態では、ノズル510a〜510hからコイル部120の内周面に対して水を吹き付けることにより、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去するようにした。これに対し、本実施形態では、コイル部120の内部に形成された流路からコイル部120の内周面に水を供給することにより、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去する。このように本実施形態と第4の実施形態とは、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去する方法の一部が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1〜第4の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図6に付した符号と同一の符号を伏す等して詳細な説明を省略する。尚、本実施形態では、第3の実施形態で説明した導電体部400にスケールを除去するための構成を追加した場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態の説明では、「コイル部、給電板」を必要に応じて「導電体部」と総称する。
【0052】
図7は、導電体部の(一部の)構成の一例を示す図である。具体的に
図7(a)は、導電体部をその上方から見た図であり、
図7(b)は、
図7(a)のA−A´で示す線で切ったときのA−A´方向から見た断面図である。また、
図7(c)は、
図7(a)のB−B´で示す線で切ったときのB−B´方向から見た断面図であり、
図7(d)は、
図7(a)のC−C´で示す線で切ったときのC−C´方向から見た断面図である。また、
図8は、導電体部の(コイル部に相当する部分の)構成の一例を示す断面図である。具体的に
図8は、
図7(a)のA−A´で示す線で切ったときのA−A´方向から見た断面図である。尚、
図7(b)〜
図7(d)では、表記の都合上、導電体部の形状が水平であるように示しているが、実際には、導電体部のうち、コイル部に対応する部分の形状は、
図8に示すように、コイル部の形状に応じて湾曲した形状となる。
【0053】
図7及び
図8において、導電体部700は、導電体本体部710と、梗塞部720a〜720e等と、絶縁材730と、を有する。
導電体本体部710は、第4の実施形態の導電体本体部410に形成されている穴430の形状を変形したものである。
図7及び
図8に示すように、導電体本体部710の内部には、穴740が形成されている(
図7(a)の破線で示す部分及び
図7(b)〜
図7(d)、
図8を参照)。穴740は、つづら折り状(蛇行状)になっており、そのつづら折りの折り返し部が導電体本体部710の幅方向(
図2、
図3の紙面に垂直な方向)の端部で露出するようにしている(
図7(c)等を参照)。そこで、これら露出している領域を、それぞれ梗塞部720a〜720e等で塞ぐようにしている。これにより、例えば、
図7(a)に示す矢印のように、導電体本体部710の内部においてつづら折り状の流路が形成され、この流路に冷却水が流されることにより導電体本体部710を冷却することができる。
【0054】
本実施形態では、
図7及び
図8に示すように、導電体本体部710のコイル部の上側内周面に対応する部分に形成されている流路の内周側の端部の領域であって、導電体本体部710の幅方向(
図2、
図3、
図8の紙面に垂直な方向)に沿う方向の領域が、穴740によって導電体本体部710の内周面に露出するようにしている((
図7(a)の一点鎖線で示す部分、
図7(b)〜
図7(d)、
図8を参照))。これにより、導電体本体部710の内部のつづら折り状の流路に冷却水を流すと、冷却水の一部が、領域740a〜740hから、導電体本体部710のコイル部の内周面に供給される。これにより、導電体本体部710を冷却することができると共に、導電体本体部710のコイル部の内周面(に付けられた絶縁材730の表面)に付着したスケールを除去することができる。
【0055】
本実施形態では、合計で、1l/min以上、10l/min以下の範囲の流量の冷却水が、領域740a〜740hから、導電体本体部710のコイル部の上側内周面に対応する部分に供給されるようにする。このような範囲の流量となるように、領域740a〜740hの数及び大きさ等を決定する。尚、冷却水は、例えば水道水である。また、冷却水の流量の上下限値を以上の値にする理由は、第4の実施形態で説明した理由と同じである。
【0056】
絶縁材730は、導電体本体部710のコイル部に対応する部分の内周面のうち、領域740a〜740hを除く領域に付けられる。これ以外については、絶縁材730は、第4の実施形態の絶縁材520と同じである。
以上のようにしても、第4の実施形態で説明した効果と同様の効果を得ることができる。
本実施形態では、導電体本体部710を冷却するための流路から、導電体本体部710のコイル部に対応する部分の内周面に冷却水を供給するようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。すなわち、導電体本体部710を冷却するための流路とは別に、導電体本体部710のコイル部に対応する部分の内周面にスケールを除去するための液体を供給する流路を導電体本体部710の内部に形成してもよい。例えば、導電体本体部710を冷却するための流路の下や横に、導電体本体部710のコイル部の上側内周面に対応する部分にスケールを除去するための液体を供給する流路を形成してもよい。
また、本実施形態でも前述した実施形態で説明した種々の変形例を採用できる。
【0057】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態を説明する。前述した第4、第5の実施形態では、液体を用いて、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去するようにした。これに対し、本実施形態では、気体を用いて、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去する。このように、本実施形態と第4、第5の実施形態では、コイル部120の内周面に付着したスケールを除去する方法の一部が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1〜第5の実施形態と同一の部分については、
図1〜
図8に付した符号と同一の符号を伏す等して詳細な説明を省略する。尚、本実施形態でも、第4の実施形態と同様に、第1の実施形態に対し構成を付加した場合を例に挙げて説明する。
【0058】
図9は、電縫鋼管製造ラインの一例を示す断面図である。
図9は、
図6に対応する図である。尚、電縫鋼管製造ラインの一例をその上方から見た図は、ノズル(の大きさ、形状、数、及び位置)が異なるものの、
図5に示した図と略同じである。よって、ここでは、電縫鋼管製造ラインの上方から見た図を省略する。
図9において、本実施形態の誘導加熱装置106は、第1の実施形態の誘導加熱装置101に対して、ノズル910a〜910pと、絶縁材520とが付加されたものである。
絶縁材520は、第4の実施形態で説明したものと同じである。
【0059】
ノズル910a〜910pは、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して、不図示の供給装置から供給された気体を吹き付ける(供給する)ためのものである。本実施形態では、ノズル910a〜910pは、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)に対して、空気を吹き付ける。
【0060】
ノズル910a〜910pは、それらの先端が、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)の方向を向くようにした状態で、コイル部120よりも電縫鋼管製造ラインの下流側の位置に、コイル部120の周方向に沿う方向で略等間隔となるように配置されている。
本実施形態では、ノズル910a〜910pは、合計で、20l/min以上、500l/min以下の範囲の流量の空気を、電縫鋼管製造ラインの下流側からコイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)にほぼ均一に吹き付ける。
【0061】
ノズル910a〜910pから吹き付けられる空気の流量を20l/min以上とすれば、ノズル910a〜910pから吹き付けられた空気を、コイル部120の内周面の端部であって、電縫鋼管製造ラインの上流側の端部まで到達させるようにすることができる。すなわち、ノズル910a〜910pから吹き付けられる空気の合計の流量を20l/min以上とすれば、コイル部120の内周面(に付けられた絶縁材520の表面)の全体に、電縫鋼管製造ラインの下流側から上流側に向かう空気の流れを形成することができる。
一方、ノズル910a〜910pから吹き付けられる空気の合計の流量が500l/minを上回ると、必要以上に空気が供給され、非効率になる。
尚、前述したノズル910a〜910pから吹き付けられる空気の流量の範囲は、コイル部120における電縫鋼管製造ラインの上流側端部の位置で規定してもよい。
【0062】
以上のようにしても、第4の実施形態で説明した効果と同様の効果を得ることができる。
本実施形態のように、コイル部120の内周面に対して空気を吹き付けることと、コイル部120の内周面に絶縁材520を付けることとの双方を行うのが好ましいが、これらの何れか一方のみを行ってもよい。
【0063】
本実施形態では、電縫鋼管製造ラインの下流側から、コイル部120の内周面に対して空気を吹き付けるようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。
例えば、電縫鋼管製造ラインの上流側から、コイル部120の内周面に対して空気を吹き付けるようにしてもよい。ただし、鋼板300の溶接部の雰囲気に空気が導入されることを防止するためには、電縫鋼管製造ラインの下流側から、コイル部120の内周面に対して空気を吹き付けるのが好ましい。
また、スケールを除去することができれば、空気以外の気体を用いてもよい。例えば、窒素ガス等の不活性ガスを用いてもよい。
また、本実施形態は、第2、第3の実施形態に対しても適用することができる。
また、本実施形態でも前述した実施形態で説明した種々の変形例を採用できる。
【0064】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。