(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材上に蒸着により形成された柱状結晶構造の蛍光体を含有するシンチレータ層を有するシンチレータパネルと、該シンチレータパネルの該基材側に配置されたガラス、カーボンから選ばれる剛性板と、該シンチレータパネルの該シンチレータ層側に配置された、基台の一方の面に複数の光電変換素子を有する光電変換基板と、を有する放射線画像検出器の製造方法であって、
(1)該基材上にシンチレータ層を形成してシンチレータパネルを作製するシンチレータパネル作製工程、
(2)該剛性板に、接着剤を介して可撓性高分子フィルムを貼合し、複合剛性板を作製する複合剛性板作製工程
(3)該複合剛性板の、該剛性板の該可撓性高分子フィルム側とは反対側の面と、該シンチレータパネルの、基材の該シンチレータ層とは反対側の面とを対面させ、該複合剛性板と該シンチレータパネルとを貼合して複合剛性板付きシンチレータパネルを作製する、複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程および、
(4)該光電変換基板の該光電変換素子が配置された面と、該複合剛性板付きシンチレータパネルの該シンチレータ層側の面とを対面させ、該光電変換基板と該複合剛性板付きシンチレータパネルとを貼合して放射線画像検出部材を作製する放射線画像検出部材作製工程、
を有することを特徴とする放射線画像検出器の製造方法。
前記複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程において、前記複合剛性板と前記シンチレータパネルとを貼合して前記複合剛性板付きシンチレータパネルを作製する方法が、前記複合剛性板と前記シンチレータパネルとを接着剤を介して貼合して前記複合剛性板付きシンチレータパネルを作製する方法であることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出器の製造方法。
前記複合剛性板作製工程と、複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程とが同時に行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の放射線画像検出器の製造方法。
前記放射線画像検出部材作製工程における前記光電変換基板と前記複合剛性板付きシンチレータパネルとの貼合が、減圧下に行われることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の放射線画像検出器の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は、高感度と高画質のため、長い間一般的な撮像システムとして、医療現場で用いられている。
【0003】
しかしながらこれら画像情報はいわゆるアナログ画像情報であって、近年発展を続けているデジタル画像情報のような、自由な画像処理や瞬時の電送ができない。
【0004】
このため、近年ではコンピューテッドラジオグラフィ(CR)やフラットパネル型の放射線ディテクタ(FPD)等に代表されるデジタル方式の放射線画像検出装置が登場している。
【0005】
デジタル方式のX線画像検出装置に用いられる方式としては、直接方式と間接方式とがある。
【0006】
直接方式によるものとしては、例えば固体撮像素子(CCDやCMOS等)を用いたX線画像検出装置が知られており、その用途としては、工業用の非破壊検査や口腔内に挿入して静止画像を収集する歯科用等に用いられている。
【0007】
また、間接方式は、蛍光体を含有する蛍光体層(シンチレータ層)を使用し、X線を一旦可視光に変換し、可視光を、フォトダイオード、CCD、CMOS等の光電変換素子を有する光電変換基板により信号電荷に変換して電荷蓄積用キャパシタに導く方式である。
【0008】
間接方式は、直接方式に比較して、簡易である感度が高いなどにより広い用途で用いられている。
【0009】
間接方式に用いられる放射線画像検出器としては、平面受光素子面の上に直接蛍光体層を設ける方式の放射線画像検出器、シンチレータパネルの基材上に設けられた蛍光体層と、光電変換基板上に2次元上に配置された光電変換素子とを貼り合わせる方式の放射線画像検出器が知られている。
【0010】
この貼り合わせる方式の放射線画像検出器においては、蛍光体層と光電変換素子との密着の均一性が画像品質に影響を及ぼす。
【0011】
このため、蛍光体層と光電変換素子との間に生ずる気泡を低減させるために、例えば、光電変換基板に透明接着剤を塗布し、減圧下でシンチレータパネルと貼り合わせ、大気圧に戻し透明接着剤を硬化させる工程を有する製造方法(特許文献1参照)が知られている。
【0012】
しかしながら、このような製造方法によって得られた放射線画像検出器においても、画像ムラなどを生ずる場合があり、さらに画像のムラの発生が少ない放射線画像検出器が要望されていた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、基材上にシンチレータ層を有するシンチレータパネルと、該シンチレータパネルの該基材側に配置された剛性板と、該シンチレータパネルの該シンチレータ層側に配置された、基台の一方の面に複数の光電変換素子を有する光電変換基板と、を有する放射線画像検出器の製造方法であって、(1)該基材上にシンチレータ層を形成してシンチレータパネルを作製するシンチレータパネル作製工程、(2)該剛性板に、接着剤を介して該可撓性高分子フィルムを貼合し、複合剛性板を作製する複合剛性板作製工程、(3)該複合剛性板の、該剛性板の該可撓性高分子フィルム側とは反対側の面と、該シンチレータパネルの、基材の該シンチレータ層とは反対側の面とを対面させ、該複合剛性板と該シンチレータパネルとを貼合して複合剛性板付きシンチレータパネルを作製する、複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程および、(4)該光電変換基板の該光電変換素子が配置された面と、該剛性板付きシンチレータパネルの該シンチレータ層側の面とを対面させ、該光電変換基板と該剛性板付きシンチレータパネルとを貼合して放射線画像検出部材を作製する放射線画像検出部材作製工程、を有することを特徴とする。
【0027】
本発明では、特にシンチレータパネルに可撓性高分子フィルムを有する剛性板を用いることで、画像均一性に優れる放射線画像検出器を与える、放射線画像検出器の製造方法が提供できる。
【0028】
(放射線画像検出器の構成)
図1は、本発明の放射線画像検出器の例の模式断面図である。
【0029】
放射線画像検出器1は、シンチレータパネル10と、剛性板21と、光電変換基板30とを有する。
【0030】
シンチレータパネル10は、基材11上に、シンチレータ層12を有する。
【0031】
光電変換基板30は、基台53上に光電変換素子31を有する。光電変換素子31は、基台53上に2次元上に複数配置されている。
【0032】
剛性板21は、接着剤により形成された接着層A22を介して、可撓性高分子フィルム23を有する。
【0033】
剛性板21とシンチレータパネル10の基材11とは、接着層B13を介して接着している。
【0034】
剛性板21と、光電変換基板30とは、シンチレータパネル10が存在しない部分で、接着層C40を介して、接着している。
【0035】
(放射線画像検出器の製造方法)
本発明の製造方法は、上記(1)から(4)の工程を有する。
【0036】
((1)シンチレータパネル作製工程))
シンチレータパネル作製工程では、基材上にシンチレータ層を形成してシンチレータパネルを作製する。
【0037】
(シンチレータパネルの構成)
本発明に係るシンチレータパネルは、基材上にシンチレータ層を有するが、基材とシンチレータ層の間に下引層を有する態様が好ましく、また基材上に反射層を設け反射層、下引層、およびシンチレータ層の構成であってもよい。以下、各構成層および構成要素等について説明する。
【0038】
(シンチレータ層)
本発明に係るシンチレータ層は、蛍光体を含有する。
【0039】
シンチレータ層を形成する蛍光体としては、種々の公知の蛍光体を使用することができるが、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できる、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、シンチレータ層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましく用いられる。
【0040】
但し、CsIのみでは発光効率が低いために、各種の賦活剤が添加されて用いられる。例えば、特公昭54−35060号公報の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001−59899号公報に開示されているようなCsIを蒸着で、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)、インジウム(In)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活物質を含有するCsIが好ましい。これらの中でもナトリウム(Na)、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)が好ましく、特にタリウム(Tl)が好ましい。
【0041】
また、ヨウ化セシウム(CsI)を含有するシンチレータ層は、特に1種類以上のタリウム化合物を含む添加剤とヨウ化セシウムとを原材料として形成することが好ましい。すなわち、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長をもつことから好ましい。
【0042】
1種類以上のタリウム化合物を含有する添加剤のタリウム化合物としては、種々のタリウム化合物(+Iと+IIIの酸化数の化合物)を使用することができる。
【0043】
好ましいタリウム化合物は、ヨウ化タリウム(TlI)、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、またはフッ化タリウム(TlF,TlF
3)等である。
【0044】
タリウム化合物の融点は、発光効率の面から、400〜700℃の範囲内にあることが好ましい。なお、ここでの融点とは、常圧下における融点である。
【0045】
本発明に係るシンチレータ層において、当該添加剤の含有量は目的性能等に応じて、最適量にすることが望ましいが、ヨウ化セシウムの含有量に対して、0.001モル%〜50モル%、さらに0.1モル%〜10.0モル%であることが、発光輝度、ヨウ化セシウムの性質・機能の保持の面から好ましい。
【0046】
なお、シンチレータ層の厚さは、50〜600μmであることが好ましく、120〜400μmであることがより好ましい。
【0047】
(反射層)
基材上には反射層を設けることが好ましい。反射層は、蛍光体(シンチレータ)から発した光を反射して、光の取り出し効率を高めるためのものである。当該反射層は、Al,Ag,Cr,Cu,Ni,Ti,Mg,Rh,PtおよびAuからなる元素群の中から選ばれるいずれかの元素を含む材料により形成されることが好ましい。特に、上記の元素からなる金属薄膜、例えば、Ag膜、Al膜などを用いることが好ましい。また、このような金属薄膜を2層以上形成するようにしても良い。なお、反射層の厚さは、0.005〜0.3μm、より好ましくは0.01〜0.2μmであることが、発光光取り出し効率の観点から好ましい。
【0048】
(下引層)
本発明においては、基材とシンチレータ層の間、または反射層とシンチレータ層の間に下引き層を設けることが好ましい。当該下引層は、CVD法(気相化学成長法)によりポリパラキシリレン膜を成膜する方法や高分子結合材(バインダー)による方法があるが、膜付の観点から高分子結合材(バインダー)による方法がより好ましい。また下引層の厚さは、鮮鋭性、柱状結晶の乱れ発生防止性などの面から0.5〜4μmが好ましい。
【0049】
下引層は、溶剤に溶解または分散した高分子結合材(以下「バインダー」ともいう。)を塗布、乾燥して形成することが好ましい。高分子結合材としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースを使用することが好ましい。
【0050】
高分子結合材としては、特にシンチレータ層との密着の点でポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースなどが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が30〜100℃のポリマーであることが、蒸着結晶と基材との膜付の点で好ましい。この観点からは、特にポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0051】
下引層の調製に用いることができる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテルおよびそれらの混合物を挙げることができる。
【0052】
なお、下引層には、蛍光体(シンチレータ)が発光する光の散乱の防止し、鮮鋭性等を向上させるために顔料や染料を含有させても良い。
【0053】
(基材)
本発明に係る基材は、樹脂からなる樹脂フィルムであり、樹脂フィルムとしては、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の高分子フィルム(プラスチックフィルム)を用いることができる。
【0054】
特に、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フィルムが、ヨウ化セシウムを原材料として気相法にて蛍光体柱状結晶を形成する場合に、好適である。
【0055】
基材の厚さとしては、100μm〜1mmが好ましく、300〜500μmが好ましい。
【0056】
(反射層の形成)
基材の一方の表面に反射層としての金属薄膜(Al膜、Ag膜等)をスパッタ法により形成する。樹脂フイルムを基材として使用する場合、樹脂フイルム上にAl膜をスパッタ蒸着したフイルムは、各種の品種が市場で流通しており、これらを基材として使用することも可能である。
【0057】
(下引層の形成)
下引層は、有機溶剤に高分子結合材を分散・溶解した組成物を塗布、乾燥して形成する。高分子結合材としては接着性、反射層の耐腐食性の観点でポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の疎水性樹脂が好ましい。
【0058】
(シンチレータ層の形成)
シンチレータ層は、蒸着方法などの気相堆積法で形成することができる。以下に、蒸着方法の典型例について説明する。
【0059】
〈蒸着装置〉
図2に示す通り、蒸着装置961は箱状の真空容器962を有しており、真空容器962の内部には真空蒸着用のボート963が配されている。ボート963は蒸着源の被充填部材であり、当該ボート963には電極が接続されている。当該電極を通じてボート963に電流が流れると、ボート963がジュール熱で発熱するようになっている。放射線用シンチレータパネルの製造時においては、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物がボート963に充填され、そのボート963に電流が流れることで、上記混合物を加熱・蒸発させることができるようになっている。
【0060】
なお、被充填部材として、ヒータを巻回したアルミナ製のるつぼを適用してもよいし、高融点金属製のヒータを適用してもよい。
【0061】
真空容器962の内部であってボート963の直上には基材11を保持するホルダ964が配されている。ホルダ964にはヒータ(図示略)が配されており、当該ヒータを作動させることでホルダ964に装着した基材11を加熱することができるようになっている。基材11を加熱した場合には、基材11の表面の吸着物を離脱・除去したり、基材11とその表面に形成される蛍光体層との間に不純物層が形成されるのを防止したり、基材11とその表面に形成されるシンチレータ層との密着性を強化したり、基材11の表面に形成されるシンチレータ層の膜質の調整をおこなったりすることができるようになっている。
【0062】
ホルダ964には当該ホルダ964を回転させる回転機構965が配されている。回転機構965は、ホルダ964に接続された回転軸965aとその駆動源となるモータ(図示略)から構成されたもので、当該モータを駆動させると、回転軸965aが回転してホルダ964をボート963に対向させた状態で回転させることができるようになっている。
【0063】
蒸着装置961では、上記構成の他に、真空容器962に真空ポンプ966が配されている。真空ポンプ966は、真空容器962の内部の排気と真空容器962の内部へのガスの導入とをおこなうもので、当該真空ポンプ966を作動させることにより、真空容器962の内部を一定圧力のガス雰囲気下に維持することができるようになっている。
【0064】
さらに、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムを用いた場合の例を説明する。
【0065】
上記のように反射層と下引層を設けた基材11をホルダ964に取り付けるとともに、複数個(図示しない)のボート963にヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む粉末状の混合物を充填する(準備工程)。この場合、ボート963と基材11との間隔を100〜1500mmに設定し、その設定値の範囲内のままで後述の蒸着工程の処理をおこなう。より好ましくはボート963と基材11との間隔を400mm以上、1500mm以下とし、複数個のボート963を同時に加熱し蒸着を行う。
【0066】
準備工程の処理を終えたら、真空ポンプ966を作動させて真空容器962の内部を排気し、真空容器962の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする(真空雰囲気形成工程)。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0067】
次にアルゴン等の不活性ガスを真空容器962の内部に導入し、当該真空容器962の内部を0.001〜5Pa、より好ましくは0.01〜2Paの真空雰囲気下に維持する。その後、ホルダ964のヒータと回転機構965のモータとを駆動させ、ホルダ964に取付け済みの基材11をボート963に対向させた状態で加熱しながら回転させる。蛍光体層が形成される基材11の温度は、蒸着開始時は室温25〜50℃に設定することが好ましく、蒸着中は100〜300℃、より好ましくは150〜250℃に設定することが好ましい。
【0068】
この状態において、電極からボート963に電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を700℃程度で所定時間加熱してその混合物を蒸発させる。その結果、基材11の表面に無数の柱状結晶体が順次成長して所望の厚さの結晶が得られ、基材上にヨウ化セシウムを有するシンチレータパネルが得られる。
【0069】
((2)複合剛性板作製工程)
複合剛性板作製工程では、剛性板に、接着剤を介して該可撓性高分子フィルムを貼合し、複合剛性板を作製する。
【0070】
(剛性板)
本発明に係る剛性板とは、弾性率が10GPa以上の板状体を指す。剛性板としては、金属、ガラス、カーボン、これらの複合材料などが挙げられる。
【0071】
剛性板の厚さの値としては、300μm〜5000μmが好ましく、300μmから1000μmが好ましい。
【0072】
(可撓性高分子フィルム)
可撓性高分子フィルムは、高分子化合物からなるフィルムであって、120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm
2であるフィルムを指す。
【0073】
「弾性率」とは、引張試験機を用い、JIS C 2318に準拠したサンプルの標線が示すひずみと、それに対応する応力が直線的な関係を示す領域において、ひずみ量に対する応力の傾きを求めたものである。これがヤング率と呼ばれる値であり、本発明では、係るヤング率を弾性率と定義する。
【0074】
可撓性高分子フィルムとしては、例えばポリエチレンナフタレート(E120=4100N/mm
2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=1500N/mm
2)、ポリブチレンナフタレート(E120=1600N/mm
2)、ポリカーボネート(E120=1700N/mm
2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=2200N/mm
2)、ポリエーテルイミド(E120=1900N/mm
2)、ポリイミド(E120=1200N/mm
2)、ポリアリレート(E120=1700N/mm
2)、ポリスルホン(E120=1800N/mm
2)、ポリエーテルスルホン(E120=1700N/mm
2)等からなる高分子フィルムが挙げられる。
【0075】
これらは単独で用いてもよく積層あるいは混合して用いてもよい。中でも、特に好ましい高分子フィルムとしては、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルムが挙げられる。
【0076】
また、可撓性フィルムは前述のシンチレータパネルと同等の熱膨張率を有することが好ましい。同等とは可撓性フィルムの熱膨張率をε
aシンチレータの熱膨張率をε
bとすると、0.8×ε
b≦ε
a≦1.2×ε
bの式が成り立つ関係にあることをいう。
【0077】
可撓性フィルムは紫外線透過率が高いことが好ましい。紫外線透過率が高いとは波長領域360nm以下において30%以上の透過率を有することを意味する。
【0078】
(接着剤)
本発明に係る、複合剛性板作製工程に用いられる接着剤は、高分子フィルムと剛性板を接着し得る接着剤であれば特に制限はないが、熱可塑性樹脂を主成分とする接着剤を好ましく用いることができる。
【0079】
接着剤により形成される接着剤層Aの厚みについては、接着力、画質のムラ防止の面から、好ましくは1μm以上、100μm以下が好ましく、更に好ましくは10μm以上、60μm以下である。
【0080】
接着剤としては、下述するホットメルト接着剤が好ましく用いられる。
【0081】
ホットメルトシートとは、シート状に形成したホットメルト接着剤のことをいう。ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂を主成分とした接着剤で、常温では固形であり、加熱溶融することにより液状化する。ホットメルト接着剤を液状化して接合部材を貼り合わせ、更に冷却しホットメルト接着剤を固化することにより接合が形成される。
【0082】
(複合剛性板の作製)
可撓性高分子フィルムが貼合された剛性板(複合剛性板)は、上記可撓性高分子フィルムと剛性板の間に上記接着剤を配置して圧着することにより得られる。特に圧着時加熱することが好ましい態様である。
【0083】
特に好ましい態様である、接着剤としてホットメルトシートを用いる方法について説明する。
【0084】
可撓性高分子フィルムと剛性板との間にホットメルトシートを挟み、加圧、続いて加熱溶融することにより、可撓性高分子フィルムと剛性板とが接合される。
【0085】
ホットメルトシートは常温では接着力を生じないため、可撓性高分子フィルムと剛性板との接合の際、両面粘着テープ等の常温粘着型の接着剤と比較して、位置合わせが非常に容易である。即ち、接着力が生じない状態で位置決めした後、加熱溶融して接着力を生じさせ接合するため、可撓性フィルムと剛性板との位置合わせが正確且つ容易に行うことができる。
【0086】
ホットメルトシートとしては、既知のものを用いることができる。また、ホットメルトシートの種類としては、その主成分により、例えばポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、EVA系等が挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0087】
ホットメルトシートを貼り合わせる際の圧力としては、0.001MPa〜10MPaが好ましく、0.01MPa〜1MPaであれば、より好ましい。加圧量を少なくとも0.001MPa以上にすることで空気溜まりなく、均一に接着させることができる。一方、加圧量を少なくとも10MPa以下にすることで、蛍光体へのダメージを抑えることができ、画質を損ねる懸念が小さい。
【0088】
熱処理温度については、ホットメルトシートの種類にもよるが、好ましくは70℃〜200℃、更に好ましくは90℃〜160℃である。
【0089】
((3)複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程)
複合剛性板付きシンチレータパネル作製工程では、上記複合剛性板の、剛性板の可撓性高分子フィルム側とは反対側の面と、上記シンチレータパネルの、基材のシンチレータ層とは反対側の面とを対面させ、複合剛性板とシンチレータパネルとを貼合して複合剛性板付きシンチレータパネルを作製する。
【0090】
複合剛性板とシンチレータパネルとを貼合させるには、複合剛性板とシンチレータパネルとの間に接着剤を介して貼合させることが好ましく、この接着剤としては、上述の接着剤を用いることができる。これらの中でも特に、加熱工程を有する方法が好ましく、例えば上記ホットメルトシートを用いる方法が特に好ましい態様である。
【0091】
本発明においては、複合剛性板を作製した後、シンチレータパネルと貼合してもよいが、複合剛性板の作製とシンチレータパネルとの貼合を同時に行うことが、画像ムラ防止、生産性の面から特に好ましい態様である。
【0092】
即ち、剛性板の両面にホットメルトシートを配置し、さらに一方の面のホットメルトシートの上には上記可撓性高分子フィルムを、他方の面のホットメルトシートの上にはシンチレータパネルを配置して加熱することで、複合剛性板付きシンチレータパネルを作製することができる。
【0093】
ホットメルトシートを使用する際の条件としては、上述の条件と同様の条件で行うことができる。
【0094】
((4)放射線画像検出部材作製工程))
放射線画像検出部材作製工程では、光電変換基板の光電変換素子が配置された面と、剛性板付きシンチレータパネルのシンチレータ層側の面とを対面させ、光電変換基板と剛性板付きシンチレータパネルとを貼合して放射線画像検出部材を作製する。
【0095】
光電変換基板と剛性板付きシンチレータパネルとを貼合するには、上記のシンチレータ層と後述する光電変換素子とを対面させて貼合する。
【0096】
具体的貼合の方法としては、剛性板にシンチレータパネルが存在しない部分(シンチレータパネルの周辺部)を設けておき、
図1に示すように、光電変換基板30と剛性板が付いたシンチレータパネル10とをシンチレータ層12と光電変換素子31とを対面させて積層し、接着剤Cで形成される接着層C40を介して貼合する方法が好ましい態様である。
【0097】
接着剤Cとしては、例えば紫外線などの光が照射されると硬化する光硬化型の接着剤や加熱することにより硬化する熱硬化型の接着剤が好ましく用いられる。
【0098】
また、本発明においては、接着層C、シンチレータパネルにより形成された空間は減圧にされて上記貼合が行われることが好ましい。
【0099】
(光電変換基板)
本発明に係る光電変換基板について、
図3を参照して説明する。
図3は、放射線画像検出器における光電変換基板の概略構成図である。
図3(a)は当該装置の上面図、
図3(b)は断面図である。
図3(b)に示すように、基台53上に接着層D54によって、光電変換素子が形成される光電変換素子部51が接着されている。これを光電変換基板30とする。
【0100】
光電変換素子部51に形成される光電変換素子は、CCD、CMOS、A−Siフォトダイオード(PIN型、MIS型)に代表されるもので、光電変換素子部51には二次元状に配列されている。
【0101】
また、光電変換素子部51は、複数枚(
図3中では10枚)貼り合わされており、二次元状に規則正しく配列されている。
【0102】
基台53には、ガラス、セラミック、CFRP、アルミなどの材料を用いられるが、製造中に加わる熱を考慮し、シンチレータパネル10と光電変換素子部51と基台53には熱膨張係数が極力近いものになるように選ぶことが望ましい。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0104】
(実施例1(放射線画像検出器1の作製))
(シンチレータパネルの作製)
反射層の形成
厚さ125μmのポリイミド基板の一方の表面に第1の金属薄膜として厚さ20nmのニッケルクロム合金薄膜をスパッタ法により形成した。続いて第2の金属薄膜として厚さ100nmの銀薄膜をスパッタ蒸着で形成した。
【0105】
保護層の形成
バイロン630(東洋紡社製:高分子ポリエステル樹脂) 100質量部
メチルエチルケトン 90質量部
トルエン 90質量部
上記処方を混合し、ビーズミルにて15時間分散し、塗設用の塗布液を得た。この塗布液を上記ポリイミド基板のスパッタ面に乾燥膜厚が1.0μmになるようにバーコーターで塗布した後、100℃で8時間乾燥することで保護層を形成した。
【0106】
蒸着基板の準備
保護層を形成した基板を金属製の枠に合わせ、
図2に示す蒸着装置のホルダ964にセットした。
【0107】
シンチレータ層(蛍光体層)の形成
基板の保護層側に母材(CsI:賦活剤なし)および賦活剤(TlI)を、
図2に示した蒸着装置を使用して蒸着させ、次のようにシンチレータ層(蛍光体層)を形成した。
【0108】
まず母材(CsI:賦活剤なし)と賦活剤(TlI)を抵抗加熱るつぼに充填し、また回転するホルダの金属製の枠に基板を設置し、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0109】
続いて蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後、6rpmの速度で基板を回転させた。また、抵抗加熱るつぼと同時に基板の加熱を開始し、基板温度が200℃に達した後は200℃を保持した。蒸着を終了後、ホルダから基板を取り外し、シンチレータ層が形成されたプレートを得た。プレートはカッターにて300mmに断裁した。
【0110】
(複合剛性板の作製)
可撓性高分子フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(0.125mm厚)を、剛性板としてガラス(0.5mm厚)を用い、接着剤としてホットメルトシートNP608(ソニーケミカル製)を用い、可撓性高分子フィルムと剛性板との間に、可撓性フィルムと同じ大きさの接着剤を挟み、100kPaに減圧、続いて100℃で10分間加熱溶融することにより、剛性板と可撓性フィルムを接合して、接着剤の厚さが0.05mmである複合剛性板を作製した。
【0111】
(複合剛性板付きシンチレータパネルの作製)
続いて、上記のシンチレータパネルのシンチレータ層側面と上記複合剛性板の可撓性高分子フィルムと反対側面との間にホットメルトシートNP608(上記と同じ)を挟みこみ、100kPaに減圧、続いて100℃で10分間、加熱溶融することにより、シンチレータ層と剛性板を接合して、複合剛性板付きシンチレータパネルを作製した。
【0112】
(放射線画像検出部材の作製)
得られた複合剛性板付きシンチレータパネルと、光電変換基板とを貼り合わせ、放射線画像検出部材を作製した。
【0113】
まず、350mm×350mmの、基台上にTFT有する光電変換基板を準備する。続いて、300mm×300mmのシンチレータ層が接着している面において、シンチレータ端部から5mmのところに光硬化性の接着剤(NOA68、ノーランド社製)を0.5mm厚で塗布し、光電変換基板と密着させた。密着させたパネルを減圧デシケータに投入し、デシケータ内でオーク社製メタルハライドランプを用いて6kW、9000Jの光を照射しながら減圧した。庫内の圧力は1000Paとし、1000Paで1分間保持した後、大気圧まで戻し、放射線画像検出部材を得た。これを筐体に入れ、放射線画像検出器1を得た。
【0114】
(実施例2(放射線画像検出器2の作製))
(シンチレータパネルの作製)
実施例1に記載の方法と同様にして、シンチレータパネルを作製した。
【0115】
(複合剛性板の作製および複合剛性板付きインチレータパネルの作製)
以下のようにして、複合剛性板の作製と、複合剛性板付きシンチレータパネルの作製を同時に行った。
【0116】
シンチレータパネルを350mmに切り出し、これを剛性板に貼り合わせる。この時、シンチレータ層の反対側にホットメルトシートM1083(リヒトラブ製)設置し、その上に剛性板(ガラス)、ホットメルトシートM1083(リヒトラブ製)、可撓性フィルム(ポリエチレンテレフタレート(0.125mm厚)の順で積層する。
【0117】
続いて、100kPaに減圧しその後、100℃で10分間、加熱溶融することにより、シンチレータ層と、剛性板と、可撓性フィルムとはホットメルトシートを介して接合して、複合剛性板付きシンチレータパネルが得られた。
【0118】
(放射線画像検出部材の作製)
得られた複合剛性板付きシンチレータパネルと、光電変換基板とを貼り合わせ、放射線画像検出部材を作製した。
【0119】
まず、350mm×350mmの、基台上にTFTを有する光電変換基板を準備する。続いて、300mm×300mmのシンチレータ層が接着している面において、シンチレータ端部から5mmのところに接着剤(エポキシ性UV硬化樹脂)を0.5mm厚で塗布し、光電変換基板と密着させた。密着させたパネルを減圧デシケータに投入し、デシケータ内でオーク社製メタルハライドランプを用いて6kW、9000Jの光を照射しながら減圧した。庫内の圧力は1000Paとし、1000Paで1分間保持した後、大気圧まで戻し、放射線画像検出部材を得た。これを筐体に入れ、放射線画像検出器2を得た。
【0120】
(比較例1(放射線画像検出器3の作製))
実施例1の放射線画像検出器1の作製において、可撓性高分子フィルムを貼合する工程を有さない他は、実施例1と同様にして、放射線画像検出器3を作製した。
【0121】
(評価)
(画像均一性)
下記のように、反り量および輝度ムラを測定して、画像均一性の指標とした。
【0122】
(反り量評価)
得られた放射線画像検出器を水平な台に静置したときの端部の浮き量を、隙間ゲージを用いて測定する。なお、端部の浮き量は0.5mm以下ならば実用的に良好な範囲内である。
【0123】
(輝度ムラ評価)
作製した放射線画像検出器の放射線入射面側に管電圧70kVpで1.0mRのX線を照射し、シンチレータの発光を示すデジタル信号をハードディスクに記録し画像を得る。
【0124】
前記方法にて得られた画像のうち、5mm×5mmの領域において、1mm毎の等間隔に区切られた範囲の25点について輝度を測定し、これの平均値を算出する。この領域において、測定した輝度の最大値と最小値の差を算出し、これを平均値で除したものを輝度ムラ値とした。これが小さいほど輝度ムラは少ないことを示す。概ね1.5以下が実用的に良好な範囲である。
【0125】
上記評価結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により、貼合して加熱をするという簡単な方法で、画像均一性に優れる放射線画像検出器が得られることが分かる。