【実施例】
【0021】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る立体物造形装置及び立体物造形方法について、
図1乃至
図12を参照して説明する。
図1乃至
図5は、一般的な立体物の造形方法を説明する図であり、
図6は、本実施例の立体物造形装置の構成を示す図である。また、
図7は、モデル材とサポート材の色による目立ち具合の違いを説明する図であり、
図8は、本実施例のサポート材の変色による目立ち具合の変化を説明する図である。また、
図9は、サポート材として変色材料と非変色材料を組み合わせた場合の例を示す図であり、
図10は、樹脂混合による色構成を示す図、
図11は、樹脂を選択/混合する方法を説明する図である。また、
図12は、本実施例のモデル材及びサポート材をフルカラー機に応用した例を示す図である。
【0022】
上述したように、立体物を造形する手法としては、溶融物堆積法(FDM)、UV硬化インクジェット法、光造形法(SL)、粉末焼結法(SLS)、インクジェットバインダ法などが知られている。以下、各々の手法について説明する。
【0023】
図1に示した溶融物堆積法(FDM)では、ヘッドは、その高さの層の中で、一筆書きのように動きながら造形材料を重ねてゆく(
図1(a)〜(c)参照)。例えば、熱可塑性の材料をヒータで加熱して流動状にし、一方のノズルから押し出しながら断面形状を描く。また、必要に応じて、熱可塑性のサポート材をヒータで加熱溶融し、もう一方のノズルから押し出す。そして、供給された材料が冷めると薄い硬化層ができる。この処理を繰り返して立体物を造形する(
図1(d)参照)。造形後、不要なサポート材の除去作業を行うことで、モデル材による所望の造形物を得ることが出来る(
図1(e)参照)。
【0024】
また、
図2に示したUV硬化インクジェット法では、一般の紙用のインクジェットプリンタと同様に、インクジェットヘッドをX方向に往復運動を繰り返しながら、Y方向に移動させる。例えば、紫外線にて硬化する特性を有した造形材用のインクを一方のインクジェットノズル(モデル材吐出インクジェットノズル)から断面形状に基づいて滴下する。また、必要に応じて、同じく紫外線にて硬化する特性を有したモデル材を支えるためのサポート材をもう一方のインクジェットノズル(サポート材吐出インクジェットノズル)からモデル材の外周や内周に滴下する。そして、滴下した材料が紫外線光(UV光)の照射を受けると、重合反応により硬化して薄い硬化層ができ、一層積み上げる度に層の上を平滑ローラーで平坦化する。この処理を繰り返して立体物を造形する。造形後、不要なサポート材の除去作業を行うことで、モデル材による所望の造形物を得ることが出来る。
【0025】
また、
図3に示した光造形法(SL)では、レーザービームで光硬化性樹脂液面を断面形状通りに走査することにより、表層の硬化と下層との接合を行う(
図3(a)参照)。そして、一層の厚さ分だけテーブルを降下し(
図3(b)参照)、この処理を繰り返すことにより、所望の造形物を得ることが出来る(
図3(c)参照)。
【0026】
また、
図4に示した粉末焼結法(SLS)では、粉末を敷き詰めた上から赤外線レーザービームで断面形状通りに走査することにより、粉末同士を焼結させ、薄い固化層を作る。このとき、焼結により下層との接合も行う。そして、できた固化層の上に粉末を薄く敷き詰め、この処理を繰り返すことにより、所望の造形物を得ることが出来る。
【0027】
また、
図5に示したインクジェットバインダ法では、粉末を敷き詰めた上からインクジェットノズルで断面形状に基づいてバインダーを滴下し、粉末同士を接着させて薄い固化層を作る。そして、できた固化層の上に粉末を薄く敷き詰め、この処理を繰り返すことにより、所望の造形物を得ることが出来る。
【0028】
ここで、粉末焼結法とインクジェットバインダ法はサポート材を持たない方式であり、光造形法ではモデル材とサポート材が同じ材料となる。一方、溶融物堆積法とUV硬化インクジェット法は、モデル材の積層と並行してサポート材の造形も同時進行で実施され、立体物の造形後に不要なサポート材の除去作業が求められる。従って、溶融物堆積法とUV硬化インクジェット法が、本発明の適用対象となる造形方法となる。なお、上記以外の造形方法であっても、モデル材とサポート材を積層して立体物を造形し、造形後にサポート材の除去作業が必要な造形方法は、全て本発明の適用対象となる。
【0029】
図6に、本発明の対象となる溶融物堆積法及びUV硬化インクジェット法を利用した立体物造形装置の構成を示す。この立体物造形装置は、主に、制御ブロック10、ヘッド移動機構ブロック20、造形材料取り扱いブロック30(ヘッド移動機構ブロック20と造形材料取り扱いブロック30を合わせて機構部と呼ぶ。)の3ブロックから構成される。なお、溶融物堆積法では、造形材料取り扱いブロック30内に、モデル材やサポート材をノズルから吐出する際に粘度を下げるためのヒータ35を有する。また、UV硬化インクジェット法では、インクジェットヘッドから吐出したモデル材やサポート材を硬化させるためのUVランプ40を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0030】
[制御ブロック]
制御ブロック10は、3Dデータ入力部11と装置制御部12などで構成される。
【0031】
3Dデータ入力部11は、造形対象物の3Dデータ(CADデータやデザインデータなど)をコンピュータ装置などから取得し、装置制御部12に転送する。作成されたCADデータやデザインデータには、造形対象物の形状データのみならず、表面の一部もしくは全面及び内部におけるカラー画像情報(色情報)が含まれている。なお、この3Dデータは、造形対象物を設計するコンピュータから直接取得してもよいし、3Dデータを管理/保存するサーバなどから取得してもよい。
【0032】
装置制御部12は、CPU(Central Processing Unit)などの演算手段を有しており、入力された3Dデータに基づいて、造形材料を3次元で造形するための層毎のデータ(以下、スライスデータと呼ぶ。)を再構築する。また、装置制御部12は、造形動作中、装置全体の動作を制御する。例えば、ヘッド移動機構ブロック20に、造形材料を所望の場所に吐出するための機構制御情報を送信すると共に、造形材料取り扱いブロック30にスライスデータを送信する。すなわち、装置制御部12は、造形材料取り扱いブロック30とヘッド移動機構ブロック20とを同期させて制御する。
【0033】
また、装置制御部12は、造形材料取り扱いブロック30に使用させる造形材料として、モデル材とサポート材の最適な組み合わせを適用する機能などを提供する。モデル材とサポート材の最適な組み合わせとは、モデル材及びサポート材の少なくとも一方が、造形時には他方と同系色にならず、造形後、外部からの刺激を受けることで、他方と同系色若しくは透明色に変色する機能を有する材料となる組み合わせである。すなわち、造形時にはサポート材と同系色にならず、造形後、外部からの刺激を受けることで、色情報で規定される色に変色するモデル材、及び/又は、造形時にはモデル材と同系色とならず、造形後、外部からの刺激を受けることで、モデル材と同系色若しくは透明色に変色するサポート材からなる組み合わせである。また、外部からの刺激を受けることで変色するとは、所定の物質との化学変化や、所定の温度変化、特定波長の光の照射などによって変色することである。
【0034】
なお、上記3Dデータ入力部11や装置制御部12は、ハードウェアとして構成してもよいし、3Dデータ入力部11や装置制御部12として機能させる制御プログラムとして構成し、当該制御プログラムを立体物造形装置又は当該立体物造形装置を制御する装置で動作させる構成としてもよい。
【0035】
[ヘッド移動機構ブロック]
ヘッド移動機構ブロック20は、ヘッド移動ブロック21とステージ移動ブロック22などで構成される。ヘッド移動ブロック21は、X方向移動部21aとY方向移動部21bなどで構成される。また、ステージ移動ブロック22は、Z方向移動部22aなどで構成される。
【0036】
ヘッド移動ブロック21(X方向移動部21a及びY方向移動部21b)は、制御ブロック10から取得した機構制御情報に従って、図示しないモータ及び駆動機構を駆動し、モデル材やサポート材を吐出するためのヘッドをX方向(横方向)やY方向(横方向)に自在に移動させる。
【0037】
ステージ移動ブロック22(Z方向移動部22a)は、制御ブロック10から取得した機構制御情報に従って、図示しないモータ及び駆動機構を駆動し、造形ステージをZ方向(下方向)に移動させたり、ヘッド移動ブロック21をZ方向(上方向)に移動させたりして、ヘッドと造形物との間隔を調整する。
【0038】
[造形材料取り扱いブロック]
造形材料取り扱いブロック30は、モデル材供給部31とモデル材吐出部32とサポート材供給部33とサポート材吐出部34などで構成される。
【0039】
モデル材供給部31とサポート材供給部33は、装置制御部12の指示に従って、指定されたカートリッジタンクに蓄えられたモデル材とサポート材を、供給ポンプにより、造形材料チューブを通してモデル材吐出部32とサポート材吐出部34に供給する。サポート材の役割は、上方向に造形してゆく際、オーバーハングしている部位などを造形する場合に予めモデル材を支えるためにモデル材の下部に設けておき、柱のような役目を担うものである。また、モデル材の周囲に設けておき、モデル材の保護を担うものである。
【0040】
また、モデル材吐出部32とサポート材吐出部34は、制御ブロック10から取得したスライスデータに従って、ヘッド移動機構によって定められた位置に所望のタイミングで指定されたモデル材やサポート材を造形ステージ上に吐出する。このモデル材吐出部32とサポート材吐出部34にはヒータ35が併設されることもある。これは、モデル材やサポート材に熱を加え、造形材料の粘度を低下させ、モデル材吐出部32からのモデル材の吐出とサポート材吐出部34からのサポート材の吐出を容易にするためである。この場合、吐出直後の造形材料は高温で低粘度の状態になっており、自然冷却やUV照射により硬化させる必要がある。なお、モデル材供給部31及びモデル材吐出部32とサポート材供給部33及びサポート材吐出部34とは、立体物造形装置に各々一つ搭載してもよいし、各々複数搭載してもよい。
【0041】
また、UVランプ40は、モデル材やサポート材としてUV硬化樹脂を使用する場合に、これらの材料を硬化させるために用いる。
【0042】
上記構成の立体物造形装置を用いてモデル材及びサポート材を積層した後、ブラシを用いて、表面に細かく付着したサポート材をこすり落としたり、先の尖った道具を用いて、凹凸の部分などに付着したサポート材をほじり出したりすることにより、サポート材の除去作業を行う。これら作業は人手により実施されるため、非常に手間のかかる作業であり、立体物の造形における課題のひとつにもなっている。
【0043】
また、サポート材の除去方法として、手や道具によって剥離する方法のほか、ウォータージェットの強力な水流でサポート材を除去する方法なども提案されている。ウォータージェットによるサポート材の除去は、一定の手間の削減効果は見られるが、専用の装置を必要とし、また、モデル材が削り取られたり、層間で隔離したりするなどの問題も生じることから、立体物の造形における課題のひとつであることには変わりない。
【0044】
このように、人手やウォータージェットによるサポート材の除去方法では、その手間の大変さ故に、完全にサポート材を除去し切ることをあきらめて作業を終了させることも多い。また、モデル材とサポート材が同系色であると、サポート材の取り残しが発生することも多い。特に、細かい部分などに入り込んだサポート材は除去しきれずに残ることが多い。このサポート材の取り残しが、造形物の見栄えを悪化させる要因となっている。
【0045】
図7にモデル材とサポート材の色の違いによる目立ち具合を比較した例を示す。この図では、色の差に応じてハッチングの種類を大きく変えることにより、色の違いを表現している。
図7(a)では、モデル材はグレー(右上がりの線のハッチング)、サポート材は赤(細かいドットのハッチング)としている。このように、モデル材とサポート材の、色相、明度、彩度の色味のうち少なくともひとつでも大きく異なると、モデル材とサポート材をはっきりと区別することができる。
【0046】
図7(b)では、モデル材はグレー(同様に右上がりの線のハッチング)、サポート材は青みがかったグレー(右上がりの破線のハッチング)とし、ハッチングの種類を近似させることにより色が近似していることを表現している。この例のように、モデル材とサポート材の色相、明度、彩度の色味が近い同系色の場合には、
図7(a)と比較してモデル材とサポート材の区別は付きにくくなる。
図7(c)では、モデル材はグレー(同様に右上がりの線のハッチング)、サポート材は透明(粗いドットのハッチング)とし、ハッチングを薄くすることで透明感を表現している。この例のように、サポート材が透明の場合、モデル材の色にかかわらず、モデル材とサポート材の区別は付きにくくなる。
【0047】
すなわち、モデル材とサポート材が同色または同系色、またはサポート材が透明の場合は、モデル材とサポート材は区別しにくい。そのため、サポート材の除去作業は難しくなるが、サポート材の取り残しが発生した場合、残存するサポート材は目立たなくなる。一方、モデル材とサポート材の色の組み合わせが、赤と緑、紫と黄色のような反対色(補色)、白と黒のように明度が大きく違う色などの場合には、モデル材とサポート材は区別しやすい。そのため、サポート材の除去作業は容易になるが、サポート材の取り残しが発生した場合、残存するサポート材は目立ち易くなり、造形物の見栄えを著しく悪化させる。
【0048】
このように、どのような色のモデル材とサポート材を組み合わせたとしても、サポート材の除去作業を容易にすることと、取り残したサポート材を目立たなくすることとを両立させることができない。そこで、本実施例では、サポート材の除去作業を容易にし、かつ、取り残したサポート材を目立たなくするために、モデル材またはサポート材の少なくとも一方に、変色する機能を有する材料を適用する。なお、本明細書における変色とは、有色から有色に変化する場合に限らず、有色から透明色、透明色から有色に変化する場合も含む。
【0049】
図8に、サポート材に変色する機能を有する材料を適用した例を示す。この例では、サポート材として、除去作業においてはモデル材との色の差が大きく、除去作業後においてはモデル材との色の差が小さくなるように変色する材料を適用している。
【0050】
図8(a)は、立体物造形装置(3Dプリンタ)で造形された直後の、モデル材とサポート材が一体化した状態の造形物を示している。ここでは、モデル材は薄いグレー系色(右上がりの線のハッチング)で、サポート材は赤色(細かいドットのハッチング)としている。この色の組み合わせの場合、両者の色味(色相、明度、彩度)が大きく異なるため、モデル材とサポート材を明確に区別することができる。従って、モデル材からのサポート材を除去できていない部分は明確に判断できるため、サポート材の取り残しを抑制することができる。
【0051】
しかしながら、サポート材の取り残しがあることが視覚的に明確に分かっても、細かい部分の除去作業は大変であるため、ある程度、サポート材が除去できた時点で除去作業を終了したり、凹部など物理的に除去しきれないサポート材の取り残しはあきらめたりする場合がある。そのため、除去作業直後では、
図8(b)に示すように、取り残したサポート材は目立ってしまう。
【0052】
この問題に対して、本実施例では、サポート材の除去作業後にモデル材の表面に残ってしまったサポート材は変色する材料で構成されているため、取り残したサポート材を目立たなくすることが出来る。例えば、
図8(c)では、サポート材として、モデル材と同系色の色に変色する材料を適用しているため、モデル材とサポート材は区別しにくくなり、取り残したサポート材を目立たなくすることができる。また、
図8(d)では、サポート材として、透明色に変色する材料を適用しているため、サポート材は視認しにくくなり、取り残したサポート材を目立たなくすることができる。
【0053】
以上説明したように、モデル材及びサポート材の少なくとも一方に、変色する機能を備えた材料を適用することで、サポート除去作業中はサポート材を目立たせて取り残しを防止し、サポート材除去後は取り残したサポート材を目立たなくして美観の高い造形物を得ることが出来る。
【0054】
なお、モデル材またはサポート材を変色させる方法として、いくつかの方法がある。第1の方法は、モデル材またはサポート材に、水または所定の化学物質と交わることで変色機能を発揮する色素または色素を内包したカプセルなどの構造物を含有する方法である。また、第2の方法は、モデル材またはサポート材に、一定の温度範囲で色が現れ、一定の温度範囲で色が消えることで変色機能を発揮する色素または色素を内包したカプセルなどの構造物を含有する方法である。また、第3の方法は、モデル材またはサポート材に、酸素などの気体物質と徐々に反応することで一定時間後には所望の変色機能を発揮する色素または色素を内包したカプセルなどの構造物を含有する方法である。また、第4の方法は、モデル材またはサポート材に、紫外線などの特定波長光の受光による光反応により所望の変色機能を発揮する色素または色素を内包したカプセルなどの構造物を含有する方法である。
【0055】
以下、第1乃至第5の方法を実現するための色素技術について説明する。
【0056】
まず、水または所定の化学物質と交わることで変色機能を発揮する色素技術(第1の方法)としては、特開平7−090214号公報に記載された技術が適用できる。この技術は、パピエコ社のウオータークリアペンという商品名で知られる、水で消えるマーカーペンのインクで活用されている。この技術は、特定の電子供与性変色化合物と特定の電子受容性顕色化合物を混合した有色インクで実現される。この有色インクを立体物造形装置のモデル材やサポート材に含有させることで、造形後に水に浸すことでモデル材またはサポート材の色を変化させて、取り残したサポート材を目立たない状態に変化せることが出来る。なお、本技術を適用する場合、サリチル酸亜鉛をフタル酸ジメチル重合体及びエタノール重合体中で約20分間撹拌することによって得られる顕色液に変色後の造形物を浸すと、造形直後の色に復帰するが、換言すればそのような顕色液に晒さない限り、造形物の見栄えの良さは保たれる。
【0057】
次に、一定の温度範囲で色が現れ、一定の温度範囲で色が消える変色機能を発揮する色素技術(第2の方法)としては、特開平8−039936号公報に記載された技術が応用できる。この技術は、フリクションという商品名で知られる、熱で消えるインクペンで活用されている。この技術は、ロイコ染料(変色性有機化合物)と顕色剤(電子受容性化合物)と変色温度調整材(感温変色性色彩記憶性組成物)とを、ひとつのマイクロカプセルに封止したカプセル顔料で実現される。ロイコ染料は、通常は透明や白で顕色剤と反応することで色が現れる染料をいう。変色温度調整材は、一定温度以上でロイコ染料と顕色剤が結合するのを阻害する働きをする。一定温度以下になると阻害機能が低下して、ロイコ染料と顕色剤の結合が再開して色が現れる。このカプセル顔料を立体物造形装置のモデル材やサポート材に含有させた場合、例えば60℃以上で一旦消色化すると、0℃以下にならないと有色化しないため、造形物をサポート材除去後に60℃の温度環境下にさらすことで、モデル材またはサポート材の色を変化または無色化させて、取り残したサポート材を目立たない状態に変化させることが出来る。なお、本技術を適用する場合、0℃以下の一定の極低温環境に造形物をさらすと、造形直後の色に復帰するが、換言すればそのような極低温環境に晒さない限り、造形物の見栄えの良さは保たれる。
【0058】
また、上記の特開平7−090214号公報に記載された技術も、特開平8−039936号公報に記載された技術も、基本は有色を消色する技術であるが、この消色色素と共に消色しない通常の色素を組み合わせることで、変色機能を実現することは容易である。例えば、消色機能を持つマゼンタと消色機能を持たないイエローを混合しておけば、消色前はマゼンタとイエローの混合色である赤色となり、マゼンタが消色すれば、イエローだけが残って黄色に見える変色インクとすることが出来る。
【0059】
次に、酸素などの気体物質と徐々に反応することで一定時間後には所望の変色機能を発揮する色素技術(第3の方法)としては、特開2005−111310号公報に記載された技術が応用できる。この技術では、塗装から大気中の酸素に触れて消色するまでの時間は24時間程度に設定されている。この色素を立体物造形装置のモデル材やサポート材の色素に応用すれば、造形から24時間以内であればモデル材とサポート材の色識別が容易な状態を保つことができ、その時間内にサポート材を除去すれば効率的な除去作業ができる。また、24時間経過後は取り残したサポート材は目立たなくなる。なお、酸素を検出すると色が変わる技術などは食品包装に同梱されている酸素検知剤にも応用されている既存技術である。
【0060】
次に、紫外線などの特定波長光の受光による光反応により所望の変色機能を発揮する色素技術(第4の方法)としては、日油技研工業のUVラベルで使用されている技術が応用できる。UVラベルは、紫外線を含む光照射を受けることで無色から有色へと変化する色素であり、変色は不可逆で一旦変色した後は元に戻らない特性を持っている。この紫外線変色インクを立体物造形装置のモデル材やサポート材に含有させれば、造形後に紫外線を照射することでモデル材またはサポート材の色を変化させて、取り残したサポート材を目立たない状態に変化させることが出来る。
【0061】
このように、上記の技術を応用することにより、モデル材またはサポート材に変色機能を付与することは可能であるが、変色性の色素を含有させたモデル材やサポート材は、通常の非変色性の材料に比べて高価になりやすいという課題も内在する。従って、高価な変色性造形材料の使用を極力減らして同じ効果が得られる方法が求められる。
【0062】
そこで、本実施例では、低コストで、サポート材除去時は目立って、サポート材除去後は目立たなくするために、変色性のサポート材と非変色性のサポート材とを併用する方法を提案する。その場合、立体物造形装置の造形材料取り扱いブロック30には、モデル材を吐出して積層する手段と変色性サポート材を吐出して積層する手段に加え、非変色性のサポート材を吐出して積層する手段を設ける。
【0063】
図9(a)は、サポート材除去作業前の造形物を示している。変色性サポート材は、モデル材近傍または直接接触する部位にのみ使用し、安価な従来の非変色性サポート材は、直接モデル材と接する部位には使用せず、モデル材から離れた部位のみに使用する。本例では、モデル材にはグレー(右上がりの線のハッチング)、非変色性サポート材には青色の樹脂(右下がりの細かい線のハッチング)を使用し、変色性サポート材には変色前は赤色の樹脂(細かいドットのハッチング)を使用する。このように、モデル材と変色性サポート材と非変色性サポート材とをそれぞれ異なる色とすることで、それぞれが視覚的に分別容易となる。
【0064】
図9(b)は、サポート材除去作業後の造形物を示す。図中、モデル材から離れた部位に配置した非変色性のサポート材は漏れなく完全に除去できているが、モデル材近傍または直接接触する部位に配置した変色性サポート材は一部に若干の取り残しが発生している状態となっている。このように、変色性サポート材と非変色性サポート材を異なる色に設定することで、非変色性サポート材の取り残しを目視にて確認することができ、非変色性サポート材を完全に除去することができる。
【0065】
図9(c)は、除去しきれなかった変色性サポート材が、外部からの刺激を受けること(化学変化を起こす所定の物質と接触したこと、所定の温度変化があったこと、特定波長の光が照射されたことなど)で変色し、モデル材に対して目立たない色(例えば、薄いグレー)に変化した状態を示す。このように、モデル材近傍に配置した変色性サポート材をモデル材と同系色の色又は透明色に変色させることにより、取り残したサポート材を目立ちにくくすることが出来る。
【0066】
すなわち、モデル材近傍に変色性サポート材を配置し、それ以外の部位に安価な非変色性サポート材を配置することにより、サポート材除去作業を容易にし、取り残したサポート材を目立ちにくくし、かつ、立体物の造形に要するコストを低減することが出来る。
【0067】
上記では、造形時には他方と同系色にならず、造形後、外部からの刺激を受けることで他方と同系色若しくは透明色に変色する機能を有する造形材料を予め用意する場合について説明したが、複数の色の造形材料を用意し、造形時に、複数の造形材料の中から所望の造形材料を選択したり複数の造形材料を混合したりすることもできる。
【0068】
例えば、モデル材が白色等の明度の高い色の場合、サポート材を黒色などの明度の低い色とすると目立ってしまう。同様に、モデル材が黒色系の場合、サポート材を白色系とすると目立ってしまう。通常、立体物造形装置は顧客の使用目的に応じた複数のモデル材を選択的にセットして使用される。この複数のモデル材は強度や耐熱性などの物性が異なるものもあるが、白、黒、グレー、透明、赤、青、黄など、色が異なる材料も用意される。このようにモデル材には複数の色があるため、本発明の効果が得られるようにするためには、モデル材の色に応じて、サポート材も複数の色や濃度の材料が提供できることが望ましい。
【0069】
一方、用途に応じて様々な物性や色が求められるモデル材と異なり、サポート材は造形時にモデル材を支えることが主目的であるため、多くの色や濃度の異なるサポート材を開発したり、モデル材に合わせてその都度、サポート材を入れ替えたりするのは煩雑である。そこで、サポート材としては、少ない色の種類を用意しておき、使用するモデル材に応じて立体物造形装置内で調合して、モデル材に対して可能な範囲で目立つ色を調合すれば良い。
【0070】
例えば、
図10(a)に示すように、サポート材として白と黒の2色を用意し、立体物造形装置にサポート材を選択可能にする機構を設け、装置制御部12は、3Dデータに含まれる色情報で規定されるモデル材の明度に合わせて上記選択機構を制御して、白か黒のサポート材のどちらかを選択させる構成とすることができる。また、
図10(b)〜(d)に示すように、サポート材として白と黒の2色を用意し、立体物造形装置にサポート材を調合可能にする機構を設け、装置制御部12は、モデル材の明度に合わせて上記調合機構を制御して、所望の明度となるように白と黒のサポート材を調合させる構成とすることもできる。また、
図10(e)に示すように、サポート材としてイエロー、マゼンタ、シアンの3色を用意し、立体物造形装置にサポート材を調合する機構を設け、装置制御部12は、モデル材の色に合わせて上記調合機構を制御して、所望の色となるようにイエロー、マゼンタ、シアン3色のサポート材を調合させる構成とすることもできる。
【0071】
図11に、造形材料(モデル材、サポート材)を吐出する際の樹脂の選択及び樹脂の混合を実施する機構の例を示す。
【0072】
図11(a)は、造形材料を吐出するヘッドを複数用意する方法を示している。装置制御部12は、複数の吐出ヘッドの中からひとつを選択することで、機構部に所望の造形材料を吐出させることが出来る。右側の図は、ひとつの吐出ヘッドで複数の造形材料を供給できる機構の例である。この例では、吐出ヘッド内部には材料セレクタ機構(詳細な構成は省略している。)が搭載されており、装置制御部12は、複数の造形材料の中から所望の造形材料を選択して、吐出口から吐出させることが出来る。
【0073】
図11(b)は、複数の造形材料を供給できる吐出ヘッド内に混合ユニットを設ける方法を示している。装置制御部12は、それぞれの造形材料を所望の比率で混合させることで、機構部に所望の造形材料を吐出させることが出来る。右側の図は、2種類の造形材料を任意の比率で混合できる機構の例である。この例では、中央の分離ブロックが左右に移動可能になっており、分離ブロックが中央位置にあれば造形材料を1対1の比率で混合でき、分離ブロックが右端にあれば10対0の混合で比率、やや右寄りの特定の位置にあれば7対3等の比率で混合する事ができる。従って、装置制御部12は、分離ブロックを移動させることにより、所望の比率で造形材料を混合して、吐出口から吐出させることが出来る。
【0074】
次に、本発明の構造を、フルカラーのモデル材を積層造形可能なフルカラー立体物造形装置に適用する場合の応用例について
図12を参照して説明する。
【0075】
フルカラー立体物造形装置は、例えば白色の造形材料に加えてYMC色の造形材料を任意の部位に積層する機能によって、フルカラーの造形を可能にする。
図12(a)では、イエロー系(右上がりの線のハッチングで表現)のモデル材1と水色系(右下がりの線のハッチングで表現)のモデル材2とが積層されている。このとき、イエロー系のモデル材1の表面に接するサポート材1は、イエロー系のモデル材1に対して目立つシアン色系の色(右下がりの細かい線のハッチングで表現)を使用し、水色系のモデル材2の表面に接するサポート材2は、水色系のモデル材2に対して目立つマゼンタ色系の色(右上がりの太線のハッチングで表現)を使用して造形している。このように、部位ごとのモデル材の色が異なるフルカラー機であっても、サポート材の色を部位ごとに適宜変えて造形することで、サポート材の除去作業の際に、サポート材を目立たせてサポート除去作業の効率を高めることが出来る。
【0076】
ここで、シアン色系のサポート材1は、黄色系の色(右上がりの破線のハッチングで表現)に変色できる変色機能を有しており、マゼンタ系色系のサポート材2は、薄緑色系の色(右下がりの破線のハッチングで表現)に変色できる変色機能を有している。サポート材除去作業後はサポート材の変色機能を発動させ、
図12(b)に示すように、サポート材1、サポート材2を変色させると、モデル材1とサポート材1とが同系色となり、かつ、モデル材2とサポート材2も同系色となり、どちらの部位も取り残したサポート材は目立たなくなるという効果を得ることができる。
【0077】
図12の説明では、それぞれの部位の色と同系色に変色する場合を示したが、サポート材除去作業後にサポート材を透明化することによっても、取り残したサポート材を目立たなくすることができ、同様に造形物の美観を高める効果が得られる。
【0078】
以上、
図8、9、12では、サポート材を変色させる場合について説明したが、モデル材を変色させる場合も、本発明を同様に適用することができる。
【0079】
また、上記では、モデル材又はサポート材の一方を変色させ、造形時にモデル材とサポート材とが同系色でない色の組み合わせとなり、造形後、外部からの刺激を受けることでモデル材とサポート材とが同系色の色の組み合わせとなるようにしたが、上記の組み合わせとなるように変色させることが困難な場合は、区別しやすい色の組み合わせを優先してサポート除去作業の容易化を図るモードと、類似の色の組み合わせを優先して残存するサポート材による美観の悪化防止を図るモードと、を指定できるように、指定された条件に従って色の組み合わせを設定することも可能である。
【0080】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、立体物造形装置の構成や制御方法は適宜変更可能である。