【文献】
N. Kuganathan et al.,Li2MnSiO4 Lithium Battery Material: Atomic-Scale Study of Defects, Lithium Mobility, and Trivalent Dopants,Chemistry of Materials,2009年10月,Vol.21,pp.5196-5202
【文献】
Paromita Ghosh et al.,Improved Electrochemical Performance of Li2MnSiO4/C Composite Synthesized by Combustion Technique,Journal of The Electrochemical Society,2009年,Vol.156,No.8,A677-A681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、及び、結合剤を含む正極層を有する金属箔を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極部材。
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料、又は請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極部材を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、Li
2(M
1-yLi
y)(Si,M
B)O
4(ここで、Mは、Fe、Mn、Co、及びNiよりなる群から選ばれる1つ以上の元素である。M
Bは、Li
+のy分の電荷を補償するために、Siを置換する元素である。)で表わされる酸化物を含有するものであり、前記酸化物の組成式において0<y≦0.25である。即ち、ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム等の一般的な組成式Li
2MSiO
4におけるMをLiで一部置換した酸化物にすることで、内部抵抗を低減できる。
【0011】
ケイ酸鉄リチウムやケイ酸マンガンリチウム等の結晶構造は、Mの酸素四面体とSiの酸素四面体が頂点共有してできるMSiO
4シート(層)と同シート(層)のシート間(層間)にリチウムイオンが入った構造である。
前記層間のリチウムイオンは、充放電によって層間を平面的に(二次元的に)移動することになる。内部抵抗の要因の一つに、固体内のリチウムイオンの移動のしにくさがある。
前記層間のリチウムイオンの移動では、その移動範囲が二次元に限定されるということになる。MSiO
4シートを突き抜けてリチウムイオンが移動できれば、隣の層間にリチウムイオンが移動でき、移動方向が広がって(三次元化)内部抵抗を低減できると考えられる。そこで、リチウムイオンがMSiO
4シートを突き抜けるために、MSiO
4シートのMの一部をリチウムイオンに置換した。MSiO
4シートのMの一部にリチウムイオンが存在すると、層間のリチウムイオンがMSiO
4シート内のリチウムイオンと交換しながら(玉突きのように)隣の層間に容易に移動できる。
このような技術思想のもと、Mの置換量yが0<y≦0.25であると、内部抵抗を低減できることを見出した。したがって、yがゼロ以下では、内部抵抗が低減できない。また、yが0.25を超えると酸化還元を担うMの量が減りすぎるので十分な放電容量が得られない。
【0012】
前記yの値は、上記範囲内で0.03125の倍数であるのが、より好ましい。前記倍数であると、副格子を形成して構造がより安定しやすい。したがって、充放電を繰り返しても構造変化し難くなって放電容量の低下や内部抵抗の増大が進み難くなる。
【0013】
Mを置換したリチウムイオンの電荷補償は、SiをM
Bで置換することで行う。M
Bとしては、Siの価数より大きな5価、6価の元素である。例えば、P、As、S、Se、V、Nb、Ta、Mo、W等が挙げられる。前記電荷補償は、Pで行うのがより好ましい。内部抵抗の低減が効果的に行われる。
【0014】
また、本発明は、前記酸化物と炭素材との複合体であって、前記複合体が、前記炭素材に対して前記酸化物が島状に点在する海島構造を呈し、当該海島構造の島の円換算径の平均値が3nm以上15nm以下である。
【0015】
前記複合体中で酸化物である領域が複数存在することによって、即ち、前記複合体では炭素質がマトリックス(連続体)となり前記酸化物である領域が分散された(非連続体)構造とすることによって、リチウムイオンが前記各領域から挿入・脱離に伴って起こる前記各領域からの電子の移動が炭素材を経由できるので、全ての前記領域が活物質として作用する。よって、より高い実容量が実現できる。更に、前記領域の大きさが小さいとリチウムイオンの固体内拡散する距離が小さくなって実容量が高くなる傾向になる。前記酸化物では電気伝導度が非常に小さいので、現実的な充放電時間で高い実容量を得るには充放電時間に追随してリチウムイオンの固体内拡散ができる距離以下の結晶粒サイズである必要がある。
具体的には、前記複合体中の前記酸化物である領域の投影面積の円換算直径が15nm以下であると、より高い実容量が得られる。前記直径が15nmを超えるとリチウムイオンの固体内拡散距離が大きくなり現実的な充放電時間内にリチウムイオンが拡散できず、その結果、高い実容量が得られない場合がある。一方、前記直径の下限値は、リチウムイオンを酸化物構造内に保持し易い最小サイズである。よって、前記直径が3nm未満になるとリチウムイオンを酸化物構造内に保持し難くなる場合がある。
【0016】
ここで、前記複合体の前記酸化物である領域は、透過型電子顕微鏡を用いて観察することができる。投影面積の円換算直径は、透過型電子顕微鏡で観察し、画像処理することによって算出することができる。
具体的には、透過型電子顕微鏡像を2値化し、円の面積として置き換えた場合の直径の平均値で円換算直径を算出することができる。円換算直径とは、20個以上の前記直径の数平均値である。通常は、50個の数平均値を、円換算直径とする。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料では、炭素質の含有量が2質量%以上25質量%以下であるのがより好ましい。
前記炭素質の含有量が2質量%未満であると、集電体までの電子伝導経路が十分確保できない場合があり、優れた電池特性が得られない場合がある。一方、前記炭素質の含有量が25質量%を超えると、電極を作製した際の活物質の割合が少なくなるので、電池設計の仕方や目的によっては高い電池容量が得られなくなる場合がある。したがって、上記範囲内であると、優れた電池性能を容易に確保でき、電池設計の選択幅を広くできることになる。
【0018】
本発明における炭素材は、元素状炭素を含むものであり、複合体粒子中の炭素材に含まれるグラファイト骨格炭素の含有率は20〜70%であることが好ましい。グラファイト骨格炭素の含有率が20%未満であると、炭素材の電気伝導率が低くなり、高い容量が得られ難くなる。一方、グラファイト骨格炭素の含有率が70%を超えると疎水性が強まり、電解質溶液が浸透し難くなるため、高容量が得られ難くなる場合がある。
【0019】
前記複合体が1μm以上20μm以下のサイズを有する粒子であって、
図1に示すように、当該粒子の内部には空隙が存在するのがより好ましい。
このようにすることで、容量を低下させることなく、即ち、高い容量で良好な塗工性が得られる。粒子サイズが大きいことによって、塗工スラリー中に正極材料を均一に分散し易くなり、スラリーの流動性も良くなるので塗工斑が生じ難くなる。よって、塗工過程や乾燥過程で起こる塗膜の収縮も小さく均一に起こり、クラックが発生するということも抑制される。特に、塗布量を多くした際には、前記効果が顕著に発揮される。即ち、前記粒子のサイズが1μm未満になると、塗工性が悪くなる場合がある。一方、前記粒子のサイズが20μmを超えると、塗膜表面が粒子による凹凸によって均一でなくなる場合がある。粒子形状は球状が特に好ましい。
【0020】
ここで、球状粒子のサイズとは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope ; TEM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)を用いて観察できる球状粒子の投影面積の円換算直径である。TEM像又はSEM像を用いて、観測される球状粒子を円の面積として置き換えた場合の直径の平均値で円換算直径を算出する。円換算直径とは、20個以上の前記直径の数平均値である。通常は、50個の数平均値を、円換算直径とする。TEM又はSEMのいずれか1つの像が、本発明の範囲内に入っていれば、上記効果が得られるものである。
【0021】
前記粒子の内部に200nm以上粒子径未満のサイズを有する空隙が存在するのがより好ましい。
前記粒子の内部に前記空隙が存在することによって、高い放電レートでも高い容量が得られる。前記空隙には、電解質溶液が浸透して十分な量を保持できるので、高いレートでも粒子内部で電解質溶液との間でLi
+イオンのやり取りが容易にできるためである。一方、空隙が無い場合には、電解質溶液は粒子内部まで十分な量を浸透できないので、Li
+イオンは固体内を粒子表面まで拡散しないといけなくなり、高いレートでは効率良くLi
+イオンの挿入脱離が出来なくなる場合がある。即ち、高いレートで高い容量が得られない場合がある。
ここで、空隙のサイズとは、粒子の断面をSEMを用いて観察できる空隙の投影面積の円換算直径である。
【0022】
前記空隙の存在量が、前記粒子断面における面積率で20%以上80%以下であるのが、より好ましい。前記面積率を20%以上80%以下としたのは、20%未満であると、高い放電レートで高い容量が得られない場合があり、一方、80%を超えると、高い放電レートでも高い容量が得られるが電極中に占める活物質の含有量を高くすることが難しくなる場合があるためである。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、少なくとも結合剤を含む正極層とすることができ、当該正極層は集電体となる金属箔表面に施されてリチウムイオン二次電池用正極部材にできるものである。
【0024】
前記結合剤(結着剤やバインダーとも呼ばれる。)は、活物質や導電助剤を結着する役割を担うものである。
本発明に係る結合剤としては、通常、リチウムイオン二次電池の正極を作製する際に使用されるものである。
また、結合剤としては、リチウムイオン二次電池の電解質及びその溶媒に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましい。結合剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);エチレン−アクリル酸共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−メタクリル酸共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−アクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−メタクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNa
+イオン架橋体;カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、これらを併用することもできる。これらの材料の中でも、PVDF、PTFEが特に好ましい。
前記結合剤は、通常、正極全量中の1〜20質量%程度の割合で用いられる。
【0025】
また、前記リチウムイオン二次電池用正極部材の正極層に、更に、導電助剤を含んでいてもよい。
前記導電助剤とは、実質上、化学的に安定な電子伝導性材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を同時に使用しても構わない。これらの中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックといった炭素材料が特に好ましい。
前記導電助剤は、通常、正極全量中の1〜25質量%程度の割合で用いられる。
【0026】
前記正極層とは、少なくとも、正極活物質と結合剤を含むものであり、電解質溶液が侵入できる隙間を有する組織構造である。尚、前記正極層には、正極活物質と結合剤に加えて、導電助剤を含んでいてもよい。
【0027】
前記金属箔とは、導電性金属箔であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の箔を用いることができる。その厚みは、5μm〜50μmとすることができる。
【0028】
前記リチウムイオン二次電池用部材を用いてリチウムイオン二次電池とすることができる。例えば、前記リチウムイオン二次電池用部材に加えて、少なくとも、負極、セパレータ、及び非水電解液の構成でリチウムイオン二次電池になる。
【0029】
前記負極は、負極活物質に必要に応じて結合剤(結着剤やバインダーとも呼ばれる。)を含むものである。
負極に係る負極活物質としては、金属リチウム、又はLiイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、Liイオンをドープ・脱ドープできるものとしては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料が挙げられる。また、Si、Sn、Inなどの合金、またはLiに近い低電位で充放電できるSi、Sn、Tiなどの酸化物、Li
2.6Co
0.4NなどのLiとCoの窒化物などの化合物も負極活物質として用いることができる。さらに、黒鉛の一部をLiと合金化し得る金属や酸化物などと置き換えることもできる。
負極活物質として黒鉛を用いた場合には、満充電時の電圧をLi基準で約0.1Vとみなすことができるため、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極の電位を便宜上計算することができることから、正極の充電電位が制御しやすく好ましい。
【0030】
前記負極は、集電体となる金属箔の表面上に負極活物質と結合剤を含む負極層を有する構造としてもよい。
前記金属箔としては、例えば、銅、ニッケル、チタン単体またはこれらの合金、またはステンレスの箔が挙げられる。本発明で用いられる好ましい負極集電体の材質のひとつとして銅またはその合金が挙げられる。銅と合金化する好ましい金属としてはZn、Ni、Sn、Alなどがあるが、他にFe、P、Pb、Mn、Ti、Cr、Si、Asなどを少量加えても良い。
【0031】
前記セパレータは、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の薄膜であれば良く、材質として、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン、ガラス繊維、アルミナ繊維が用いられ、形態として、不織布、織布、微孔性フィルムが用いられる。
特に、材質として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンの混合体、ポリプロピレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体、ポリエチレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体が好ましく、形態として微孔性フィルムであるものが好ましい。
また、特に、孔径が0.01〜1μm、厚みが5〜50μmの微孔性フィルムが好ましい。これらの微孔性フィルムは単独の膜であっても、微孔の形状や密度等や材質等の性質の異なる2層以上からなる複合フィルムであっても良い。例えば、ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムを張り合わせた複合フィルムを挙げることができる。
【0032】
前記非水電解液としては、一般に電解質(支持塩)と非水溶媒から構成される。リチウム二次電池における支持塩はリチウム塩が主として用いられる。
本発明で使用出来るリチウム塩としては、例えば、LiClO
4 、LiBF
4、LiPF
6 、LiCF
3 CO
2 、LiAsF
6 、LiSbF
6 、LiB
10Cl
10、LiOSO
2 C
n F
2n+1で表されるフルオロスルホン酸(nは6以下の正の整数)、LiN(SO
2 C
n F
2n+1)(SO
2 C
m F
2m+1)で表されるイミド塩(m、nはそれぞれ6以下の正の整数)、LiC(SO
2 C
p F
2p+1)(SO
2C
q F
2q+1)(SO
2 C
r F
2r+1)で表されるメチド塩(p、q、rはそれぞれ6以下の正の整数)、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウムなどのLi塩を上げることが出来、これらの一種または二種以上を混合して使用することができる。中でもLiBF
4 及び/あるいはLiPF
6 を溶解したものが好ましい。
支持塩の濃度は、特に限定されないが、電解液1リットル当たり0.2〜3モルが好ましい。
【0033】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、炭酸トリフルオロメチルエチレン、炭酸ジフルオロメチルエチレン、炭酸モノフルオロメチルエチレン、六フッ化メチルアセテート、三フッ化メチルアセテート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、ホウ酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−アルキルシドノン(アルキル基はプロピル、イソプロピル、ブチル基等)、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒、イオン性液体を挙げることができ、これらの一種または二種以上を混合して使用する。
これらの中では、カーボネート系の溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートを混合して用いるのが特に好ましい。環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが好ましい。また、非環状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。また、高電位窓や耐熱性の観点からは、イオン性液体が好ましい。
【0034】
電解質溶液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネ−ト、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネートあるいはジエチルカーボネートを適宜混合した電解液にLiCF
3 SO
3 、LiClO
4 、LiBF
4 および/またはLiPF
6 を含む電解質溶液が好ましい。
特にプロピレンカーボネートもしくはエチレンカーボネートの少なくとも一方とジメチルカーボネートもしくはジエチルカーボネートの少なくとも一方の混合溶媒に、LiCF
3 SO
3 、LiClO
4 、及びLiBF
4 の中から選ばれた少なくとも一種の塩とLiPF
6 を含む電解液が好ましい。これら電解液を電池内に添加する量は特に限定されず、正極材料や負極材料の量や電池のサイズに応じて用いることができる。
【0035】
また、電解質溶液の他に次の様な固体電解質を使用することができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質に分けられる。
無機固体電解質には、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などが挙げられる。中でも、Li
3 N、LiI、Li
5 NI
2、Li
3 N−LiI−LiOH、Li
4 SiO
4 、Li
4 SiO
4 −LiI−LiOH、
x Li
3 PO
4 −
(1-x) Li
4 SiO
4 、Li
2 SiS
3 、硫化リン化合物などが有効である。
【0036】
有機固体電解質では、ポリエチレンオキサイド誘導体か該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体あるいは該誘導体を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマーと上記非プロトン性電解液の混合物、リン酸エステルポリマー、非プロトン性極性溶媒を含有させた高分子マトリックス材料が有効である。さらに、ポリアクリロニトリルを電解液に添加する方法もある。また、無機と有機固体電解質を併用する方法も知られている。
【0037】
また、前記リチウムイオン二次電池用部材とせずに、前記リチウムイオン二次電池用材料を用いてリチウムイオン二次電池とすることができる。例えば、リチウムイオン二次電池用材料、導電助剤、結合剤を含む正極層を金属メッシュに形成した正極、負極、セパレータ、及び非水電解液の構成でリチウムイオン二次電池となる。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一例として以下の方法で製造することができる。
本発明に係る酸化物は、酸化物が合成できる方法であれば、乾式法や湿式法等どのような方法で作製してもよい。例えば、固相法(固相反応法)、水熱法(水熱合成法)、共沈法、ゾル・ゲル法、気相合成法(Physical Vapor Deposition:PVD法,Chemical Vapor Deposition:CVD法)、噴霧熱分解法、火炎法、焙焼法等が挙げられる。
【0039】
以下に、固相法、噴霧熱分解法、焙焼法で作製する例を示す。
なお、以下に示す固相法の作製例では、有機化合物を添加しておらず、酸化物と炭素材を含む海島構造の複合体の作製例については説明していないが、以下の固相法を参考に海島構造の複合体も作製することができる。
固相法で用いる原料は、前記酸化物を構成する元素を含む化合物、例えば、酸化物、炭酸塩、酢酸塩やシュウ酸塩等の有機酸塩等を使用する。前記化合物を組成比に合わせて秤量して混合する。前記混合には、湿式混合法や乾式混合法等が用いられる。得られた混合物を焼成して前記酸化物を合成する。焼成して得られる酸化物粉末は、必要に応じて粉砕される。未反応物が残っている場合には、粉砕後、更に焼成することもある。
【0040】
具体的な例として、Li
2(Mn
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、二酸化マンガン、炭酸リチウム、二酸化ケイ素、リン酸アンモニウムを前記化学組成になるように秤量して混合し、該混合粉末を還元雰囲気で700〜900℃の温度で5〜20時間焼成することで作製することができる。
【0041】
また、Li
2(Fe
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、炭酸リチウム、シュウ酸鉄(II)二水和物、二酸化ケイ素、リン酸アンモニウムを前記化学組成になるように秤量して混合し、該混合粉末を還元雰囲気で700〜900℃の温度で5〜20時間焼成することで作製することができる。
【0042】
噴霧熱分解法で用いる原料は、所望の酸化物を構成する元素を含む化合物であって、水や有機溶媒に溶解する化合物を使用する。前記化合物を溶解した溶液を、超音波、ノズル(一流体ノズル、二流体ノズル、四流体ノズル等)によって液滴とし、次いで前記液滴を400〜1200℃の温度の加熱炉中に導入して熱分解することで前記酸化物を作製することができる。必要に応じて、更に、熱処理したり、粉砕したりする。また、原料溶液に有機化合物を含ませることによって、炭素材を含む酸化物を作製することができる。
【0043】
具体的な例として、Li
2(Mn
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、硝酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、コロイダルシリカ、リン酸を前記化学組成になるように秤量して水に溶解させる。
ここで、前記溶液に、更に、有機化合物を添加すれば海島構造を容易に得ることができる。当該有機化合物としては、アスコルビン酸、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース等)、二糖(スクロース、マルトース、ラクトース等)、多糖(アミロース、セルロース、デキストリン等)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、フェノール、ヒドロキノン、カテコール、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、グリセリン等が挙げられる。
有機化合物の添加量は、有機化合物に含まれる炭素C/組成式(例えば、Li
2(Mn
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4)のモル比で0.3以上であることが好ましい。前記モル比が0.3未満では、炭素量が不十分となり、有効な海島構造が形成できない場合がある。
前記化合物を溶解した溶液を、例えば、超音波噴霧器で液滴とし、500〜800℃の温度の加熱炉中に窒素をキャリヤーガスとして導入して熱分解することで作製することができる。
【0044】
また、Li
2(Fe
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、硝酸リチウム、硝酸鉄(III)九水和物、テトラエトキシシラン、リン酸を前記化学組成になるように秤量して水に溶解させ、有機化合物を添加する。ここで、テトラエトキシシランは、予めメトキシエタノールに溶解し、その溶液を水に溶解させる。前記化合物を溶解した溶液を、例えば、超音波噴霧器で液滴とし、500〜900℃の温度の加熱炉中に窒素をキャリヤーガスとして導入して熱分解することで作製することができる。
【0045】
次に、焙焼法を利用した作製方法の例を示す。
焙焼法で用いる原料は、所望の酸化物を構成する元素を含む化合物であって、水に溶解する化合物を使用する。鉄の元素を含む酸化物の場合には、前記原料に鉄鋼酸洗廃液又は圧延スケールを塩酸に溶解して調製した水溶液を使用するのが好ましい。前記化合物を溶解した水溶液を、ルスナー型、ルルギー型やケミライト型等の焙焼炉に導入して熱分解することで前記酸化物を作製することができる。必要に応じて、更に、熱処理したり、粉砕したりする。また、原料溶液に有機化合物を含ませることによって、炭素材を含む酸化物を作製することができる。
【0046】
具体的な例として、Li
2(Mn
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、酢酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、コロイダルシリカ、リン酸を前記化学組成になるように秤量して水に溶解させる。前記化合物を溶解した水溶液に更にグルコースを溶解し、該溶液を、例えば、ケミライト型焙焼炉に導入して500〜800℃の温度で熱分解することで作製することができる。更に、ビーズミルで湿式粉砕して得られた粉砕粒子を不活性雰囲気中で熱処理してもよい。
【0047】
また、Li
2(Fe
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4の場合には、例えば、炭酸リチウム、コロイダルシリカ、塩化アルミニウム(III)六水和物、リン酸を鉄鋼酸洗廃液(例えば、3.0mol(Fe)/L濃度の塩酸廃液)に溶解させ、前記化学組成比の濃度に調製する。ここで、炭酸リチウムを全て溶解するように、18%塩酸を鉄鋼酸洗廃液に予め適量加えている。前記化合物を溶解した水溶液に更にグルコースを溶解し、該溶液を、例えば、ルスナー型焙焼炉に導入して500〜800℃の温度で熱分解することで作製することができる。更に、ビーズミルで湿式粉砕して得られた粉砕粒子を不活性雰囲気中で熱処理してもよい。
【0048】
上述の炭素源となる前記有機化合物としては、例えば、アスコルビン酸、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース等)、二糖(スクロース、マルトース、ラクトース等)、多糖(アミロース、セルロース、デキストリン等)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、フェノール、ヒドロキノン、カテコール、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、グリセリン等が挙げられる。
有機化合物の添加量は、有機化合物に含まれる炭素C/組成式(例えば、Li
2(Fe
0.9375Li
0.0625)(Si
0.9375P
0.0625)O
4)のモル比で0.3以上であることが好ましい。前記モル比が0.3未満では、炭素量が不十分となり、有効な海島構造が形成できない場合がある。
上述の金属酸化物を構成する元素を含む化合物としては、例えば、金属、水酸化物、硝酸塩、塩化物、有機酸塩、酸化物、炭酸塩、金属アルコキシド等が例示できる。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
出発原料として、硝酸リチウム(LiNO
3)、硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO
3)
2・6H
2O)、コロイダルシリカ、リン酸(H
3PO
4)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)を用いた。表1Aの各組成比になるように、前記原料を水に溶解して水溶液を調製した。更に、前記水溶液に炭素材となる有機化合物としてグルコースを添加した。これらの水溶液を、それぞれ、窒素ガスからなるキャリヤーガスを用いて650℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解することにより、試料を作製した。また、試料No.1-11については、600℃の加熱炉中に噴霧した。試料No.1-14については、800℃の加熱炉中に噴霧した。
表1Bに示すように、試料No.1-1〜No.1-10は、更に、湿式粉砕し、その後、1%H
2/Ar中で700℃、5h熱処理を行った。試料No.1-14は、更に、湿式粉砕し、その後、1%H
2/Ar中で800℃、2h熱処理を行った。試料No.1-11〜No.1-12は、前記粉砕も熱処理も行っていない。試料No.1-13は、試料No.1-12を粉砕した後、造粒したものである。
なお、溶液中の金属イオンの濃度は、酸化物組成モル換算で0.33mol/Lの範囲で溶液を調製した。前記グルコースは、グルコース/酸化物のモル比2.1又は2.2の範囲で添加した。また、粉砕していない試料は、球状粒子であり、液滴中の金属イオン濃度、グルコース含有量によって、球状粒子のサイズを制御できる。
各試料の、溶液中の金属イオンの濃度、グルコース添加量は表1A及び表1Bに示す通りである。
【0050】
<各試料の分析>
上述のようにして得られた各試料について、以下の分析を行った。
粉末X線回折装置(リガク製Ultima II)を用いて、相の確認を行った。試料No.1-1〜No.1-10、No.1-14は、熱処理をしているので、Li
2MnSiO
4結晶相と類似の回折パターンであった。但し、元素置換している試料では、回折ピークにシフトが見られた。試料No.1-11〜No.1-13は、CuKα線で2θ=15〜18°には回折ピークが現れないが、2θ=33±2°にはブロードな回折ピークが現れる結晶質であった。
透過型電子顕微鏡(日立製H-9000UHR III)を用いて、試料No.1-1〜試料No1-14を観察した。これらの試料は全て海島構造の複合体であり、既出の方法により、島(酸化物)の円換算径を算出し、得られた各試料の円換算径を表1Cに併記した。
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJSM-7000F)を用いて、試料No.1-11〜No.1-14の粒子を観察し、その画像から球状粒子のサイズとして円換算径を算出した。表1Cの「粒子サイズ」欄に示したような値であった。尚、試料No.1-13は、試料No.1-12を粉砕して造粒したものなので、球状に造粒された粒子のサイズである。尚、透過型電子顕微鏡によっても粒子を観察できるが、粒子のサイズは、透過型電子顕微鏡によっても同様の値が得られた。
また、粒子である試料No.1-11〜No.14は、それらの断面も走査型電子顕微鏡で観察した。その画像から、粒子内の200nm以上の空隙を選定し、該空隙の存在量として、面積率を求めた。試料No.1-11〜No.12は、表1Cの「粒子内の空隙」の「面積率」欄に示したような値であった。試料No.1-13は、試料No.1-12を粉砕して造粒した粒子であるので、粒子内はち密であり、200nmサイズのような大きな空隙は存在しなかった。
各試料中に含まれる炭素材の含有量を、堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA-320Vを用いて測定し、表1Bに併記した。
【0051】
<電池特性の評価>
各試料の電池特性評価は、以下のようにして行った。
先ず、それぞれの試料を、アセチレンブラック粉末及びポリテトラフルオロエチレン粉末と70:25:5の重量比で乳鉢で混合した後、チタンメッシュに圧着して正極を作製した。
負極には金属リチウム箔を用い、負極集電体に厚さ20μmのニッケル箔を使用した。
また、電解液としては、エチルカーボネートとジメチルカーボネートの体積比で1:2の混合溶媒に1.0mol/LのLiPF
6を溶解させた非水電解液を用い、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いてCR2032型コイン電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
各試料にコイン電池をそれぞれ5個作製し、30℃の恒温槽でそれぞれ充放電試験を行い、初期充放電容量を測定した。初期充放電試験は、先ず、電圧範囲1.0〜5.0V、0.1CのCC-CV条件で1回予備充放電を繰り返した後に0.1CでCC-CV条件で250mAh/g充電し、その放電容量を測定した結果を初期充放電容量とした。表1Dの「初期充放電容量」の欄には、各試料毎に5個のコイン電池の初期充放電容量を測定し、その最大値と最小値を除いた3個のコイン電池の初期充放電容量の平均値を記載している。
内部抵抗の低減効果については、前記初期放電容量を求めた放電曲線から150mAh/gでの電圧を求めて、該電圧が高くなるのが内部抵抗が低減されたと判断した。該電圧についても、各試料に5個のコイン電池の放電曲線から求め、その最大値と最小値を除いた3個のコイン電池の電圧の平均値を表1Cに記載している。
更に、充放電を10サイクルまで繰り返して、5サイクルから10サイクル間の放電曲線における150mAh/gでの電圧変化の傾き(1サイクル当たりの電圧変化)を求め、内部抵抗の低減効果の安定性として表1Dに各試料の値を記載している。
また、放電容量維持率として、(10サイクル目の2Vの放電容量/2サイクル目の2Vの放電容量)×100の値を表1Dに記載している。
表1A及び表1Cの結果より、y値がゼロである試料No.1-1の150mAh/gでの電圧に比べて、y値がゼロを超える試料No.1-2〜No.1-5、No.1-7〜No.1-8、No.1-11〜1-14は、該電圧が高くなり、内部抵抗の低減効果が見られた。試料No.1-6及びNo.1-9は、y値が0.25を超えているので、内部抵抗の低減効果が見られなかった。試料No.1-10は、本発明の組成式とは異なる組成式Li
1.9Mn(Si
0.9P
0.1)O
4であるため、内部抵抗の低減効果が見られなかった。また、試料No.1-1、No.1-6、No.1-9、No.1-10の150mAh/gでの電圧に比べて、試料No.1-14では該電圧が高くなっているが、その他の試料と比べると、該電圧が低くなっていた。
また、表1A及び表1Dの結果より、y値が0.03125の倍数である場合と0.03125の倍数でない場合について、例えば、試料No.1-2とNo.1-3を比較すると、y値が0.03125の倍数である場合には内部抵抗の低減効果の安定性に優れることが示されている。
また、試料No.1-11〜No.1-13で、塗工性の評価を行った。各試料をそれぞれ90質量%と、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride、PVDF)4質量%、アセチレンブラック6質量%とを分散媒(N-methylpyrrolidone、NMP)に混合してスラリーを調製する。前記スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上にクリアランス300μmとしたベーカー式アプリケータ―を用いて塗布し、110℃の乾燥器で乾燥させた。乾燥後の塗膜の表面を目視観察して、表面の凹凸が顕著なものやクラックが発生したものを「塗工性不良」、表面が平坦でクラックが発生しなかったものを「塗工性良」と評価した。
試料No.1-11〜No.1-13は、「塗工性良」という結果であった。また、球状粒子内に適度な空隙が有するものは、高いレートでも優れた放電容量を示すものであった。
【0052】
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【0053】
(実施例2)
出発原料として、硝酸リチウム(LiNO
3)、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)、テトトラエトキシシラン(以下、TEOSという)、リン酸(H
3PO
4)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)を用いた。表2Aの各組成比になるように、前記原料を水に溶解して水溶液を調製した。ここで、TEOSは、予めメトキシエタノールに溶解し、その溶液を水に溶解させた。更に、前記水溶液に炭素材となる有機化合物としてグルコースを添加した。
これらの水溶液を、それぞれ、窒素ガスからなるキャリヤーガスを用いて750℃に加熱した加熱炉中で噴霧熱分解することにより、試料を作製した。試料No.2-18については、800℃の加熱炉中に噴霧した。
表2Bに示すように、試料No.2-1〜No.2-10は、更に、湿式粉砕し、その後、1%H
2/Ar中で550℃、10h熱処理を行った。試料No.2-18は、更に、湿式粉砕し、その後、1%H
2/Ar中で550℃、20h熱処理を行った。試料No.2-11〜No.2-16は、前記粉砕も熱処理も行っていない。試料No.2-17は、試料No.2-12を粉砕した後、造粒したものである。
なお、溶液中の金属イオンの濃度は、酸化物組成モル換算で0.1〜0.35mol/Lの範囲で溶液を調製した。前記グルコースは、グルコース/酸化物のモル比2〜2.4の範囲で添加した。また、粉砕していない試料は球状粒子であり、液滴中の金属イオン濃度、グルコース含有量によって、球状粒子のサイズを制御した。
各試料の、溶液中の金属イオンの濃度、グルコース添加量は表2A及び表2Bに示す通りである。
【0054】
<各試料の分析>
上述のようにして得られた試料No.2-1〜No.2-18のそれぞれについて、実施例1と同様に分析を行った。
試料No.2-1〜No.2-18をX線回折測定したところ、試料No.2-1〜No.2-10、No.2-18は、熱処理をしているので、Li
2FeSiO
4結晶相と類似の回折パターンであった。但し、元素置換している試料では、回折ピークにシフトが見られた。試料No.2-11〜No.2-17は、CuKα線で2θ=15〜18°には回折ピークが現れないが、2θ=33±2°にはブロードな回折ピークが現れる結晶質であった。
TEM観察より、試料No.2-1〜No.2-18は全て海島構造の複合体であり、既出の方法により、島(酸化物)の円換算径を算出し、得られた各試料の円換算径を表2Cに併記した。
SEMを用いて、試料No.2-11〜No.2-17の球状粒子を観察し、その画像から粒子のサイズとして円換算径を算出した。表2Cの「粒子サイズ」欄に示したような値であった。尚、試料No.2-1〜No.2-9は、0.15μmサイズに粉砕したものであり、試料No.2-18は0.18μmサイズに粉砕したものであるので、球状粒子ではなく、これらのサイズの異形微粒子である。また、試料No.2-17は、試料No.2-12を粉砕して造粒したものなので、球状に造粒された粒子のサイズである。
また、球状粒子である試料No.2-11〜No.2-17は、それらの断面もSEMで観察した。その画像から、粒子内の200nm以上の空隙を選定し、該空隙の存在量として、面積率を求めた。試料No.2-11〜No.2-16は、表2Cの「粒子内の空隙」の「面積率」欄に示したような値であった。試料No.2-17は、試料No.2-12を粉砕して造粒した粒子であるので、粒子内はち密であり、200nmサイズのような大きな空隙は存在しなかった。
【0055】
<電池特性の評価>
電池特性評価については、次の点のみが実施例1と異なる点である。
初期充放電試験は、先ず、電圧範囲1.5〜5.0V、0.1CのCC-CV条件で4回予備充放電を繰り返した後に0.1CでCC-CV条件で250mAh/g充電し、その放電容量を測定した結果を初期充放電容量とした。
内部抵抗の低減効果については、前記初期放電容量を求めた放電曲線から100mAh/gでの電圧を求めて、該電圧が高くなるのが内部抵抗が低減されたと判断した。更に、充放電を20サイクルまで繰り返して、20サイクルから25サイクル間の放電曲線における100mAh/gでの電圧変化の傾き(1サイクル当たりの電圧変化)を求め、内部抵抗の低減効果の安定性とした。
また、放電容量維持率は、(10サイクル目の1.5Vの放電容量/2サイクル目の1.5Vの放電容量)×100の値とした。
表2A及び表2Cの結果より、y値がゼロである試料No.2-1の100mAh/gでの電圧に比べて、y値がゼロを超える試料No.2-2〜No.2-5、No.2-7〜No.2-8、No.2-11〜2-18は、該電圧が高くなり、内部抵抗の低減効果が見られた。試料No.2-6及びNo.2-9は、y値が0.25を超えているので、内部抵抗の低減効果が見られなかった。試料No.2-10は、本発明の組成式とは異なる組成式Li
1.9Fe(Si
0.9P
0.1)O
4であるため、内部抵抗の低減効果が見られなかった。
また、試料No.2-1、No.2-6、No.2-9、No.2-10の100mAh/gでの電圧に比べて、試料No.2-18では該電圧が高くなっているが、その他の試料と比べると、該電圧が低くなっていた。
また、表2A及び表2Dの結果より、y値が0.03125の倍数である場合と0.03125の倍数でない場合について、例えば、試料No.2-2とNo.2-3を比較すると、y値が0.03125の倍数である場合には内部抵抗の低減効果の安定性に優れることが示されている。
また、試料No.2-11〜No.2-17で、塗工性の評価を行い、No.2-11〜No.2-13、No.2-15〜No.2-17が「塗工性良」という結果であった。また、粒子内に適度な空隙が有するものは、高いレートでも優れた放電容量を示すものであった。
【0056】
【表2A】
【表2B】
【表2C】
【表2D】
【0057】
(比較例)
出発原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、シュウ酸鉄(II)二水和物(FeC
2O
4・2H
2O)、炭酸マンガン(MnCO
3)、酸化コバルト(CoO)、二酸化ケイ素(SiO
2)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)を用いて、固相反応法で、表3Aの組成欄に記載されている各酸化物粉末を調製した。
先ず、表3Aの組成欄に記載の組成比になるように、上記各原料を組合せて秤量し、メタノールを使用してボールミルで12時間、湿式混合した。それぞれ得られた混合物を窒素雰囲気下850℃で24時間焼成を行い、その後、遊星ボールミルによる粉砕を行った。更に、前記粉砕粉末を窒素雰囲気下950℃で10時間焼成を行って、酸化物粉末を調製した。
上記調製した各酸化物粉末には、予め、アセチレンブラックを10質量%混合した。アセチレンブラックの混合方法は、各酸化物粉末とアセチレンブラックを、エタノールを使用したボールミルで12時間、湿式混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下400℃で5時間焼成した。
【0058】
<各試料の分析>
上述のようにして得られた試料No.3-1〜No.3-14のそれぞれについて、実施例1と同様に分析を行った。
試料No.3-1〜No.3-10をX線回折したところ、試料No.3-1〜No.3-10は、Li
2CoSiO
4結晶相と類似の回折パターンを主相とするものであった。試料No.3-11〜No.3-12は、Li
2FeSiO
4結晶相と類似の回折パターンを主相とするものであった。試料No.3-13〜No.3-14は、Li
2MnSiO
4結晶相と類似の回折パターンを主相とするものであった。但し、元素置換している試料では、回折ピークにシフトが見られた。
【0059】
<電池特性の評価>
試料No.3-1〜No.3-10の電池特性評価については、次の点のみが実施例1と異なる点である。
初期充放電試験は、先ず、電圧範囲1.0〜5.0V、0.1CのCC-CV条件で4回予備充放電を繰り返した後に0.1CでCC-CV条件で200mAh/g充電し、その放電容量を測定した結果を初期充放電容量とした。
内部抵抗の低減効果については、前記初期放電容量を求めた放電曲線から100mAh/gでの電圧を求めて、該電圧が高くなるのが内部抵抗が低減されたと判断した。更に、充放電を20サイクルまで繰り返して、15サイクルから20サイクル間の放電曲線における100mAh/gでの電圧変化の傾き(1サイクル当たりの電圧変化)を求め、内部抵抗の低減効果の安定性とした。
表3Aの結果より、y値がゼロである試料No.3-1の100mAh/gでの電圧に比べて、y値がゼロを超える試料No.3-2〜No.3-5、No.3-7〜No.3-8は、該電圧が高くなり、内部抵抗の低減効果が見られた。試料No.3-6及びNo.3-9は、y値が0.25を超えているので、内部抵抗の低減効果が見られなかった。試料No.3-10は、本発明の組成式とは異なる組成式Li
1.9Co(Si
0.9P
0.1)O
4であるため、内部抵抗の低減効果が見られなかった。
また、表3A及び表3Bの結果より、y値が0.03125の倍数である場合と0.03125の倍数でない場合について、例えば、試料No.3-2とNo.3-3を比較すると、y値が0.03125の倍数である場合には内部抵抗の低減効果の安定性に優れることが示されている。
試料No.3-11〜No.3-12の電池特性評価については、実施例2と同様である。試料No.3-13〜No.3-14の電池特性評価は、実施例1と同様である。
表1C、表1D、表3A及び表3Bの結果より、海島構造の複合体ではない試料No.3-13〜No.3-14と比べて、海島構造の複合体である試料No.1-4、No.1-7は、内部抵抗の低減効果、内部抵抗の低減効果の安定性などについて優れている。
また、表2C、表2D、表3A及び表3Bの結果より、海島構造の複合体ではない試料No.3-11〜No.3-12と比べて、海島構造の複合体である試料No.2-4、No.2-7は、内部抵抗の低減効果、内部抵抗の低減効果の安定性などについて優れている。
【0060】
【表3A】
【表3B】