(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967138
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】グリース組成物及び機械部品
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20160728BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20160728BHJP
C10M 129/28 20060101ALN20160728BHJP
C10M 117/04 20060101ALN20160728BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20160728BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20160728BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20160728BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20160728BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20160728BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
C10M169/00
!C10M135/10
!C10M129/28
!C10M117/04
!C10M105/38
!C10M107/02
C10N10:04
C10N30:12
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-119666(P2014-119666)
(22)【出願日】2014年6月10日
(62)【分割の表示】特願2009-130210(P2009-130210)の分割
【原出願日】2009年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-159605(P2014-159605A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】松原 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉成 照
(72)【発明者】
【氏名】相田 亮
(72)【発明者】
【氏名】今井 淳一
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/078035(WO,A1)
【文献】
特開2002−323053(JP,A)
【文献】
特開平05−247485(JP,A)
【文献】
特開2002−053884(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/050834(WO,A1)
【文献】
桜井俊男編,石油製品添加剤,幸書房,1974年 8月10日,再版,223-229,237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/00
C10M 105/38
C10M 107/02
C10M 129/28
C10M 135/10
C10N 10/04
C10N 30/12
C10N 40/02
C10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、増ちょう剤、及び錆止め剤を含むグリース組成物であって、基油が、エステル系合成油及び合成炭化水素油からなる群から選ばれる合成油であり、増ちょう剤が、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムであり、錆止め剤が、有機スルホン酸塩、及び脂肪酸アミン塩を含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
上記有機スルホン酸塩がスルホン酸カルシウム及びスルホン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
脂肪酸アミン塩が、アミンと炭素数4〜22の脂肪酸の塩である請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
転がり軸受用である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、特に錆止め性に優れたグリース組成物及びこれを使用した機械部品、特に軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
オルタネータや電磁クラッチなどに代表される自動車電装部品、エンジン補機等、走行中における、路上の水、塩水或いは海水などの浸入による錆が問題となる転がり軸受部品、圧縮機や送風機などに代表される産業機械モータのように冷却水使用による浸入や、屋外設置環境による雨水、海水の浸入による錆が問題となる転がり軸受部品、洗濯機や冷蔵庫、近年見られる浴室換気扇や浴室乾燥機などに代表される家電用モータのように高湿度環境などによる錆が問題となる転がり軸受部品など、錆の発生が問題となる多様な機械部品がある。
このような錆の発生が問題となる転がり軸受などは、適当なシールや機構上の対策によって、錆の起因となる物質の混入を防いでいる。
例えば、自動車においては、直接泥水等がかからない位置に配置したり、泥よけ等を取り付けたりの対策が行われている。
しかし、転がり軸受は機構上、完全な密封は不可能であるため、使用する潤滑グリースも、錆止め性能を有することが必要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、錆止め剤として、油溶性有機インヒビター、水溶性無機不働態化剤、非イオン界面活性剤を配合したグリース組成物が開示されている。
特許文献2には、錆止め剤としてバリウムスルホネートを配合した軸受封入用グリース組成物が開示されている。
しかし、水溶性無機不働態化剤として優れており、広く使用されていた亜硝酸ナトリウムは、第二級アミンと反応して、発がん物質であるN−ニトロソアミンを生成することが知られており、人体への悪影響が懸念されている。
また、油溶性有機インヒビターとして広く使用されていたバリウムスルホネートをはじめとする有機スルホン酸塩のみの錆止め性では、特に塩水条件や海水条件のような厳しい条件下では、不満足なものである。
また、バリウムスルホネートは非特許文献1に記載されているとおり、環境負荷物質として業界で自主規制の動きがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2883134号
【特許文献2】特開平5-140576号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NTN TECHNICAL REVIEW No.73(2005) P10〜13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、錆止め性に優れ、且つ環境負荷の少ないグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記グリース組成物を使用した機械部品、特に軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示すグリース組成物及びこれを使用した機械部品を提供する。
1.基油、増ちょう剤、及び錆止め剤を含むグリース組成物であって、錆止め剤が、有機スルホン酸塩、及び脂肪酸アミン塩を含有することを特徴とするグリース組成物。
2.上記有機スルホン酸塩がスルホン酸カルシウム及びスルホン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載のグリース組成物。
3.脂肪酸アミン塩が、アミンと炭素数4〜22の脂肪酸の塩である上記1又は2記載のグリース組成物。
4.転がり軸受用である上記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を使用した機械部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグリース組成物は、厳しい錆発生条件下においても優れた錆止め性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグリース組成物に使用される増ちょう剤は、特に限定されない。例えば、リチウムやナトリウム等を含む金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系増ちょう剤等の非石けん類などが挙げられる。特に好ましくは、ウレア化合物やリチウム石けん類である。これらは欠点が少なく、かつ高価でないため、実用性のある増ちょう剤である。
増ちょう剤は一種類を単独で使用しても、二種類以上を組み合わせて使用しても良い。
本発明のグリース組成物のちょう度は、200〜400が好適であり、増ちょう剤の含有量はこのちょう度を得るのに必要な量となる。通常はグリース組成物全体に対して好ましくは3〜30質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは8〜25質量%である。
【0010】
本発明のグリース組成物に使用される基油は
エステル系合成油及び合成炭化水素油からなる群から選ばれる合成油である。例えば、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油が挙げられる。
基油は一種類を単独で使用しても、二種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0011】
本発明に使用される錆止め剤は、有機スルホン酸塩と脂肪酸アミン塩を必須成分として含有する。
上記スルホン酸塩のスルホン酸成分としては、例えば、石油スルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等が挙げられ、塩としては金属塩が好ましく、特に、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。特に好ましい塩は、カルシウム塩、もしくは亜鉛塩である。
本発明のグリース組成物において、有機スルホン酸塩は単独で使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
本発明のグリース組成物中、有機スルホン酸塩の含有量は、有効成分として、好ましくは、0.1〜10質量%、より好ましくは、0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%である。
【0012】
上記脂肪酸アミン塩を構成する脂肪酸としては、好ましくは炭素数4〜22の脂肪酸、さらに好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でも良く、更に直鎖脂肪酸、分岐脂肪酸、環状脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸でも良い。具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、イソステアリン酸、オクチル酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
上記脂肪酸アミン塩を構成するアミンとしては、特に限定されないが、好ましくは飽和又は不飽和の炭素数1〜42のアミン、さらに好ましくは、飽和または不飽和の炭素数4〜22のアミンが挙げられる。
具体的には、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、オレイルアミン、牛脂アルキルアミン、硬化牛脂アルキルアミン、アニリン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチル牛脂アルキルアミン、ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、ジメチルオレイルアミン等が挙げられる。
【0013】
本発明のグリース組成物において、脂肪酸アミン塩は単独で使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
本発明のグリース組成物中、脂肪酸アミン塩の含有量は、有効成分として、好ましくは、0.05〜5質量%、より好ましくは、0.05〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%である。
【0014】
本発明のグリース組成物には、上記の有機スルホン酸塩、脂肪酸アミン塩以外に、必要に応じてグリース組成物に通常使用される全ての添加剤を単独又は2種以上混合して用いることが出来る。これらの添加剤の例としては、酸化防止剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、泡消剤、抗乳化剤、油性向上剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤などが挙げられる。
【0015】
実施例
下記の成分を使用し、ベースグリースに所定量の添加剤を加えてよく混ぜ、3本ロールミルで混練し、表1及び表2に示されるグリース組成物を製造した。
ベースグリース:
A.増ちょう剤:12-ヒドロキシステアリン酸リチウム
基油:ポリオールエステル 40℃動粘度 34.0mm
2/s
ちょう度:250
B.増ちょう剤:ジウレア化合物(パラトルイジン(2モル)とジフェニルメタンジイソシアネート(1モル)との反応物)
基油:ポリα-オレフィン 40℃動粘度 48.0mm
2/s
ちょう度:280
錆止め剤:
C.スルホン酸カルシウム(ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩)
D.スルホン酸亜鉛(ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛塩)
E.脂肪酸アミン塩(炭素数8の脂肪酸と炭素数12のアミンとの塩、及び、炭素数18の脂肪酸と炭素数12〜20(混合)アミンとの塩の2種混合物(質量比2:1))
【0016】
<試験方法>
・錆止め性 : Emcor防錆試験(IP220) 人工海水使用(ISO7120)
・判定方法:外輪転送面の発錆状態観察(n=2)
合格 0:発錆なし
不合格 1:小さな点錆3個以内
2:錆エリア1%以内
3:錆エリア1%超〜5%以内
4:錆エリア5%超〜10%以内
5:10%超
【0019】
有機スルホン酸塩(錆止め剤C,D)と脂肪酸アミン塩(錆止め剤E)を組み合わせて配合した実施例1〜6は、いずれも発錆せず、錆止め性が良好であった。
実施例1〜3と錆止め剤として同量配合した比較例1(錆止め剤C配合)、比較例2(錆止め剤D配合)、比較例3(錆止め剤C,D配合)、比較例4(錆止め剤E配合)はいずれも発錆が認められ、錆止め性は劣る結果であった。
実施例6と錆止め剤として同量配合した比較例5(錆止め剤C,D配合)は発錆が認められ、錆止め性は劣る結果であった。
以上の例から明らかなように、本発明のグリース組成物は、有機スルホン酸塩、及び脂肪酸アミン塩を併用しているため、厳しい発錆条件下においても優れた錆止め性を有していることが示された。