(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関の側から順に、第一係合装置、回転電機、及び第二係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記内燃機関から前記車輪にトルクが伝達されている状態で前記内燃機関の運転停止を決定した場合に、前記第二係合装置を滑り係合状態に制御するとともに、前記回転電機の回転速度が目標回転速度に近づくように前記回転電機の出力トルクを制御する回転速度制御を実行しつつ、前記内燃機関の出力トルクを次第に減少させるトルクダウン制御を実行し、
前記トルクダウン制御による前記内燃機関の出力トルクの減少に合わせて、前記内燃機関の出力トルクの大きさと前記第一係合装置の伝達トルク容量とが一致するように、前記第一係合装置の係合圧を次第に減少させる制御装置。
前記内燃機関の燃焼を停止させた後、前記内燃機関の回転速度が、前記第二係合装置が直結係合状態になった場合の前記回転電機の回転速度である同期回転速度に応じて設定した判定回転速度になった後、前記第二係合装置を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる請求項7に記載の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30の概略構成を示す模式図である。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置1は、概略的には、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源として備え、これらの駆動力源の駆動力を、動力伝達機構を介して車輪Wへ伝達する構成となっている。車両用駆動装置1には、エンジンEと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、エンジンEの側から順に、第一係合装置CL1、回転電機MG、及び第二係合装置CL2が設けられている。ここで、第一係合装置CL1は、その係合状態に応じて、エンジンEと回転電機MGとの間を選択的に連結した状態又は分離した状態とする。第二係合装置CL2は、その係合状態に応じて、回転電機MGと車輪Wとの間を選択的に連結した状態又は分離した状態とする。本実施形態に係る車両用駆動装置1には、回転電機MGと車輪Wとの間の動力伝達経路2に変速機構TMが備えられている。そして、第二係合装置CL2は、変速機構TMに備えられた複数の係合装置の中の1つとされている。
【0033】
ハイブリッド車両には、車両用駆動装置1を制御対象とする制御装置30が備えられている。本実施形態に係わる制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2の制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31も備えられている。
【0034】
制御装置30は、エンジンEの停止制御を行うエンジン停止制御部46を備えている(
図2参照)。エンジン停止制御部46は、エンジンEから車輪Wにトルクが伝達されている状態でエンジンEの運転停止を決定した場合に、回転電機MGの回転速度が目標回転速度に近づくように回転電機MGの出力トルクを制御する回転速度制御を実行しつつ、エンジンEの出力トルクを減少させるスイープダウン制御を実行する点に特徴を有している。ここで、スイープダウン制御が、本発明における「トルクダウン制御」に相当する。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0035】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、中間軸Mに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0036】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、第一係合装置CL1を介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素である第一係合装置CL1を介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、エンジン出力軸Eoには、ダンパが備えられており、エンジンEの間欠的な燃焼による出力トルク及び回転速度の変動を減衰して、車輪W側に伝達可能に構成されている。
【0037】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータと対応する位置で径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、入力軸I及び中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸I及び中間軸MにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電し、発電された電力は、インバータを介してバッテリに蓄電される。
【0038】
駆動力源が駆動連結される中間軸Mには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置とを備えている。本実施形態では、複数の係合装置の中の一つが、第二係合装置CL2とされる。この変速機構TMは、各変速段の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する中間軸Mの回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、中間軸Mの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、中間軸Mから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0039】
本例では、変速機構TMの複数の係合装置(第二係合装置CL2を含む)、及び第一係合装置CL1は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素である。これらの摩擦係合要素は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0040】
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0041】
各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。なお、摩擦係合要素は、リターンばねを備えておらず、油圧シリンダのピストンの両側にかかる油圧の差圧によって制御させる構造でもよい。
【0042】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0043】
なお、摩擦係合要素には、制御装置30により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。例えば、ピストンにより摩擦部材同士が押圧されていない場合でも、摩擦部材同士が接触し、摩擦部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。そこで、「解放状態」には、制御装置30が摩擦係合装置に伝達トルク容量を生じさせる指令を出していない場合に、摩擦部材同士の引き摺りにより、伝達トルク容量が生じている状態も含まれるものとする。
【0044】
第二係合装置CL2がクラッチの場合では、2つの係合部材の回転速度の差は、第二係合装置CL2における回転電機MG側の係合部材の回転速度と車輪W側の係合部材の回転速度との差になる。第二係合装置CL2がブレーキの場合では、2つの係合部材の回転速度の差は、ケースなどの非回転部材側の係合部材の回転速度(すなわちゼロ)と、回転電機MG及び車輪W側の係合部材の回転速度との差になる。
【0045】
2.油圧制御系の構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、車両の駆動力源や専用のモータによって駆動される油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TM、並びに第一係合装置CL1や第二係合装置CL2の各摩擦係合要素等に供給される。
【0046】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及びエンジン制御装置31の構成について、
図2を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜46などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜46の機能が実現される。
【0047】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se3を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及びエンジン制御装置31に入力される。制御装置30及びエンジン制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力回転速度センサSe1は、入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸I及び中間軸Mには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、回転電機制御ユニット32は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度(角速度)、並びに入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。動力伝達制御ユニット33は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、動力伝達制御ユニット33は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。エンジン回転速度センサSe3は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン制御装置31は、エンジン回転速度センサSe3の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度(角速度)を検出する。
【0048】
3−1.エンジン制御装置31
エンジン制御装置31は、エンジンEの動作制御を行うエンジン制御部41を備えている。本実施形態では、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御装置31は、エンジン停止制御部46からエンジンEの燃焼停止要求が指令された場合は、エンジンEの燃焼停止が指令されたと判定して、エンジンEへの燃料供給及び点火を停止するなどして、エンジンEの燃焼を停止させる。
【0049】
3−2.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TMの制御を行う変速機構制御部43と、第一係合装置CL1の制御を行う第一係合装置制御部44と、エンジンEの始動制御中に第二係合装置CL2の制御を行う第二係合装置制御部45と、を備えている。
【0050】
3−2−1.変速機構制御部43
変速機構制御部43は、変速機構TMに変速段を形成する制御を行う。変速機構制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた複数の係合装置に供給される油圧を制御することにより、各係合装置を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各係合装置に供給する。
【0051】
3−2−2.第一係合装置制御部44
第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の係合状態を制御する。本実施形態では、第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の伝達トルク容量が、車両制御ユニット34から指令された第一目標トルク容量に近づくように、油圧制御装置PCを介して第一係合装置CL1に供給される油圧を制御する。具体的には、第一係合装置制御部44は、第一目標トルク容量に基づき設定した目標油圧(指令圧)を、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)を制御目標として第一係合装置CL1に供給する油圧を制御する。
【0052】
3−2−3.第二係合装置制御部45
第二係合装置制御部45は、エンジンEの始動制御中に第二係合装置CL2の係合状態を制御する。本実施形態では、第二係合装置制御部45は、第二係合装置CL2の伝達トルク容量が、車両制御ユニット34から指令された第二目標トルク容量に近づくように、油圧制御装置PCを介して第二係合装置CL2に供給される油圧を制御する。具体的には、第二係合装置制御部45は、第二目標トルク容量に基づき設定した目標油圧(指令圧)を、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)を制御目標として第二係合装置CL2に供給する油圧を制御する。
本実施形態では、第二係合装置CL2は、変速機構TMの変速段を形成している複数又は単数の係合装置の一つとされる。第二係合装置CL2として用いる変速機構TMの係合装置は、形成されている変速段によって変更されても良いし、同じ係合装置が使用されても良い。
【0053】
3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、車両制御ユニット34から回転電機要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令された回転電機要求トルクを出力トルク指令値に設定し、回転電機MGが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御する。具体的には、回転電機制御部42は、インバータが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクを制御する。
【0054】
3−4.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
【0055】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、車輪Wの駆動のために要求されているトルクであって、回転電機MG側から車輪W側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクを算出するとともに、エンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定する。そして、車両制御ユニット34は、エンジンEに対して要求する出力トルクであるエンジン要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、第一係合装置CL1に対して要求する伝達トルク容量である第一目標トルク容量、及び第二係合装置CL2に対して要求する伝達トルク容量である第二目標トルク容量を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及びエンジン制御装置31に指令して統合制御を行う。
【0056】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、シフト位置及びバッテリの充電量等に基づいて、駆動力源の運転モードを決定する。本実施形態では、運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源とする電動モード、及び少なくともエンジンEを駆動力源とするパラレルモード等を有する。例えば、車両制御ユニット34は、バッテリの充電量が充電制限判定値以上になった場合に、運転モードをパラレルモードから電動モードに変更する。
【0057】
本実施形態では、車両制御ユニット34は、運転モードをパラレルモードに決定している場合は、基本的には、エンジンEを回転させて燃焼を行わせると共に、第一係合装置CL1を直結係合状態又は滑り係合状態に制御する。パラレルモードでは、エンジンE及び回転電機MGの駆動力により車両を駆動したり、エンジンEの駆動力で回転電機MGに発電させたりする。
車両制御ユニット34は、運転モードを電動モードに決定している場合は、基本的には、第一係合装置CL1を解放状態に制御すると共に、エンジンEの燃焼を停止させて回転を停止させる。これにより、回転電機MGからエンジンEが切り離され、回転電機MGの駆動力のみで車両を駆動する。
本実施形態では、車両制御ユニット34は、運転モードがパラレルモードから電動モードに変更された場合などに、第一係合装置CL1を解放状態に移行させると共にエンジンEの燃焼を停止させて回転を停止させる、エンジンEの停止制御を行うエンジン停止制御部46を備えている。
以下、エンジン停止制御部46について詳細に説明する。
【0058】
3−4−1.エンジン停止制御部46
エンジン停止制御部46は、エンジンEから車輪Wにトルクが伝達されている状態で、エンジンEの運転停止を決定した場合に、回転電機MGの回転速度が目標回転速度に近づくように回転電機MGの出力トルクを制御する回転速度制御を実行しつつ、エンジンEの出力トルクを減少させるスイープダウン制御を実行する。
以下で、
図3に示すフローチャート、及び
図4から
図7に示すタイムチャート、を参照して、エンジン停止制御について詳細に説明する。
【0059】
3−4−1−1.エンジン停止制御の概略構成
まず、
図3に示すフローチャートに基づいて、エンジン停止制御の概略的な構成について説明する。
<ステップ♯01>
エンジン停止制御部46は、エンジンEから車輪Wにトルクが伝達されている状態で、エンジンEの運転停止を決定した場合(ステップ♯01:Yes)に、一連のエンジン停止制御を開始する。
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、回転電機MG側から車輪W側に、車輪Wを進行方向へ駆動するトルクである正トルクを伝達させている状態で、エンジンEの運転停止を決定した場合に、一連のエンジン停止制御を開始するように構成されている。例えば、エンジン停止制御部46は、バッテリの充電量が充電制限判定値以上になり、運転モードがパラレルモードから電動モードに変更された場合に、エンジンEの運転停止を決定する。
【0060】
<ステップ♯02>
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合(ステップ♯01:Yes)に、第二係合装置CL2を滑り係合状態にする制御を開始するように構成されている(ステップ♯02)。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2が既に滑り係合状態に制御されている場合は、引き続き第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御する。エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態である場合は、第二係合装置CL2を直結係合状態から滑り係合状態に移行させる移行制御を行って、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御する。
【0061】
<ステップ♯03>
また、エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合(ステップ♯01:Yes)に、回転電機MGの回転速度が目標回転速度に近づくように回転電機MGの出力トルクを制御する回転速度制御の実行を開始する(ステップ♯03)。
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差が一定の回転速度差になるように、同期回転速度に、予め定めたオフセット値を加算した回転速度を目標回転速度として設定するように構成されている。回転速度制御により第二係合装置CL2の回転速度差が維持されるので、第二係合装置CL2が滑り係合状態に安定的に維持される。同期回転速度は、第二係合装置CL2が直結係合状態になった場合の回転電機MGの回転速度である。より詳しくは、同期回転速度は、出力軸Oの回転速度が現在の回転速度の状態で、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差をゼロにするために必要となる回転電機MGの回転速度である。本実施形態では、エンジン停止制御部46は、出力軸Oの回転速度に、変速機構TMの変速比を乗算して同期回転速度を算出するように構成されている。
回転電機MGの回転速度制御は、PID制御などの各種のフィードバック制御により構成される。
【0062】
<ステップ♯04>
エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合(ステップ♯01:Yes)に、エンジンEの出力トルクを、予め設定されたトルク低減値まで減少させるスイープダウン制御(以下、エンジンEのスイープダウン制御と称す)の実行を開始する(ステップ♯04)。
本実施形態では、トルク低減値はゼロに設定されており、エンジン停止制御部46は、エンジン要求トルクを、ゼロまで次第に減少させるように構成されている。或いは、トルク低減値は、ゼロより小さい値、又はゼロより大きい値に設定されていてもよい。
【0063】
<ステップ♯05>
エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧を減少させるスイープダウン制御(以下、第一係合装置CL1のスイープダウン制御と称す)を開始する(ステップ♯05)。
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の伝達トルク容量(引き摺りによるものを除く)がエンジンEの出力トルクの大きさに一致するように、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量(係合圧)をエンジンEの出力トルクの減少に応じてトルク低減値(本実施形態では、ゼロ)まで次第に減少させるように構成されている。例えば、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量を、エンジンEのスイープダウン制御を開始する前のエンジン要求トルクに等しい大きさの値からゼロまで、エンジン要求トルクの変化速度と同じ変化速度で次第に減少させるように構成される。なお、第一係合装置CL1の係合圧は、後述するように、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の一方又は双方により減少される。
【0064】
<ステップ♯06>
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったか否かを判定する判定処理を実行する(ステップ♯06)。なお、判定処理については、後述する。
<ステップ♯07>
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した(ステップ♯06:Yes)後、エンジンEの燃焼を停止させる(ステップ♯07)。
<ステップ♯08、ステップ♯09>
また、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した(ステップ♯06:Yes)後、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態に移行させる移行制御を実行する(ステップ♯09)。本実施形態では、エンジン停止制御部46は、ステップ♯07でエンジンEの燃焼を停止させた後、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を実行する(ステップ♯09)ように構成されている。
【0065】
また、本実施形態では、エンジン停止制御部46は、エンジンEの燃焼を停止させた後、エンジンEの回転速度が、同期回転速度に応じて設定した直結開始速度になったと判定した場合(ステップ♯08:Yes)に、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を実行する(ステップ♯09)ように構成されている。なお、エンジン停止制御部46は、ステップ♯08の判定を行わずに、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した(ステップ♯06:Yes)後、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を実行する(ステップ♯09)ように構成されてもよい。
【0066】
3−4−1−2.エンジン停止制御の挙動詳細説明
以下で、エンジン停止制御の第一の例から第四の例を、
図4から
図7に示すタイムチャートを参照して、順番に説明する。
3−4−1−2−1.第一の例(第二係合装置CL2が滑り係合状態の場合(その1))
まず、
図4に示すタイムチャートを参照して、エンジン停止制御の第一の例を説明する。第一の例は、エンジン停止制御を開始する前に第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合の例である。
<エンジン停止制御を開始する前の初期状態>
エンジン停止制御を開始する前の初期状態(時刻t01まで)では、運転モードがパラレルモードに決定されており、エンジンEを回転させ、燃焼を行わせている。そして、エンジンEから車輪Wにトルク(正トルク)が伝達されている。本実施形態では、車両制御ユニット34は、車両要求トルクに正のトルクを設定しており、回転電機MG側から車輪W側に、車輪Wを進行方向(
図4に示す例では、前進方向)へ駆動する正トルクを伝達させるように、エンジンE、回転電機MG、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2を統合制御している。言い換えれば、車輪Wを進行方向とは逆方向へ駆動する(制動する)負トルクを伝達させるように制御されていない。
図4に示す例では、エンジンEの駆動力により、車両を駆動すると共に回転電機MGに発電させている。すなわち、車両制御ユニット34は、エンジン要求トルクが、車両要求トルクと、目標とする回転電機MGの発電トルク(負トルク)の絶対値との合計になり、回転電機要求トルクが、目標とする回転電機MGの発電トルク(負トルク)になるように、統合制御している。
【0067】
図4に示す例では、車速(出力軸Oの回転速度)が低い状態で、エンジンEの回転速度を、アイドリング回転速度等の自立運転可能な回転速度以上に維持するために、第二係合装置CL2が滑り係合状態に制御されている。
第二係合装置CL2の伝達トルク容量が同じでも、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差ΔW2が大きくなるに従って、第二係合装置CL2の係合部材間の摩擦による発熱量が大きくなる。
図4に示す例では、第二係合装置CL2の発熱量を低減するために、第一係合装置CL1も滑り係合状態に制御されている。なお、車両制御ユニット34は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差として、回転電機MGの回転速度と同期回転速度との回転速度差ΔW2を管理するように構成されている。
【0068】
車両制御ユニット34は、エンジン要求トルクに、車両要求トルクと、目標とする回転電機MGの発電トルク(負トルク)の絶対値との合計値を設定するトルク制御を行っている。
車両制御ユニット34は、エンジンEの回転速度がエンジンEの目標回転速度に近づくように、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量(係合圧)を制御するエンジンEの回転速度制御を行っている。エンジンEの目標回転速度が変化せずに一定である場合は、イナーシャトルクが発生せず、滑り係合状態である第一係合装置CL1を介してエンジンE側から回転電機MG側に伝達されるトルク(スリップトルク)は、エンジンEの出力トルクに概ね等しくなる。
図4には、滑り係合状態である第一係合装置CL1を介してエンジンE側から回転電機MG側に伝達されるスリップトルクを第一係合装置スリップトルクとして示し、回転電機MGに作用するトルクとしている。その反作用として、回転電機MG側からエンジンE側に伝達されるスリップトルクを第一係合装置スリップトルク(反作用)として示し、エンジンEに作用するトルクとしている。
【0069】
車両制御ユニット34は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)に車両要求トルクの値を設定するトルク制御を行っている。滑り係合状態である第二係合装置CL2を介して回転電機MGから車輪W側に伝達されるトルク(スリップトルク)は、車両要求トルクに概ね等しくなる。
図4には、滑り係合状態である第二係合装置CL2を介して回転電機MG側から車輪W側に伝達されるスリップトルクを第二係合装置スリップトルクとして示し、車輪W側への伝達トルクとしている。その反作用として、車輪W側から回転電機MG側に伝達されるスリップトルクを第二係合装置スリップトルク(反作用)として示し、回転電機MGに作用するトルクとしている。
【0070】
車両制御ユニット34は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差ΔW2を維持するために、同期回転速度に、予め定めたオフセット値を加算した回転速度を目標回転速度として設定し、回転電機MGの回転速度が目標回転速度に近づくように回転電機MGの出力トルクを制御する回転速度制御を行っている。
【0071】
これまで説明したように、回転電機MGには、第一係合装置CL1側からエンジンEの出力トルクに応じたトルクが伝達され、回転電機MGから第二係合装置CL2側に、車両要求トルクに応じたトルクが伝達される。よって、回転電機MGには、エンジンEの出力トルクから車両要求トルクを減算したトルクが作用する。回転電機MGの回転速度を目標回転速度に維持するため、回転電機MGの出力トルクは、回転電機MGに作用するトルクを打ち消すように変化される。すなわち、回転電機MGの出力トルクは、エンジンEの出力トルクから車両要求トルクを減算したトルクの正負を反転したトルクとなる。
【0072】
<エンジン停止制御の開始(ステップ♯01)>
図4に示す例では、車両制御ユニット34は、回転電機MGに発電させることにより、バッテリの充電量が充電制限判定値以上になった場合に、運転モードをパラレルモードから電動モードに変更し、エンジンEの運転停止を決定している(時刻t01)。そして、エンジン停止制御部46は、回転電機MG側から車輪W側に正トルクを伝達させている状態でエンジンEの運転停止が決定された場合(
図3のステップ♯01:Yes)に、一連のエンジン停止制御を開始している(時刻t01)。
【0073】
<第二係合装置CL2を滑り係合状態にする制御の開始(ステップ♯02)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、第二係合装置CL2を滑り係合状態にする制御を開始している(
図3のステップ♯02、時刻t01)。
図4に示す例では、第二係合装置CL2が既に滑り係合状態に制御されているので、引き続き第二係合装置CL2が滑り係合状態に制御される。そして、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)に車両要求トルクの値を設定するトルク制御を継続する。第二係合装置CL2が滑り係合状態に制御されるので、第二係合装置CL2を介して回転電機MG側から車輪W側に伝達されるトルクは、第二係合装置CL2の伝達トルク容量に応じたスリップトルクになる。このため、回転電機MG側から第二係合装置CL2にエンジン停止制御により生じたトルク変動が伝達されても、トルク変動が車輪W側に伝達されることを防止できる。
【0074】
<回転電機MGの回転速度制御(差回転維持)の開始(ステップ♯03)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、回転電機MGの回転速度制御の実行を開始している(
図3のステップ♯03、時刻t01)。
図4に示す例では、既に回転電機MGの回転速度制御が実行されているので、引き続き当該回転速度制御が実行される。そして、エンジン停止制御部46は、引き続き、同期回転速度に、予め定めたオフセット値を加算した回転速度を目標回転速度として設定し、差回転維持の回転速度制御を実行している。
【0075】
<エンジン出力トルクのスイープダウン制御の開始(ステップ♯04)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、エンジンEの出力トルクを、予め設定されたトルク低減値まで減少させるエンジンEのスイープダウン制御の実行を開始している(
図3のステップ♯04、時刻t01)。
図4に示す例では、エンジン停止制御部46は、エンジン要求トルクを、車両要求トルクと回転電機MGの発電トルク(絶対値)とに応じて設定した値からゼロまで、一定の変化速度で次第に減少させている(時刻t01から時刻t02)。なお、変化速度は、スイープダウン制御の実行中、一定でなく、変化されてもよい。
【0076】
<第一係合装置CL1の係合圧のスイープダウン制御の開始(ステップ♯05)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧を減少させる第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始している(
図3のステップ♯05、時刻t01)。
図4に示す例では、第一係合装置CL1の係合圧は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の双方により、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて減少されている。
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量を、第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始する前の値からゼロまで、エンジン要求トルクの変化速度と同じ変化速度で減少させるフィードフォワード制御を実行している(時刻t01から時刻t02)。
図4に示す例では、第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始する前の第一目標トルク容量は、回転速度制御によりエンジンEの出力トルクの大きさ付近に制御されている。このため、フィードフォワード制御により、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量を、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて減少させることができる。
【0077】
エンジン停止制御部46は、
図4に示す例のように第一係合装置CL1を滑り係合状態に制御している場合は、エンジンEのスイープダウン制御の実行中に、エンジンEの回転速度がエンジンEの目標回転速度に近づくように第一係合装置CL1の係合圧を制御するフィードバック制御を実行するように構成されている。
エンジンEの出力トルクが減少されると、エンジンEの回転速度が低下しようとする。これに対してエンジンEの回転速度を目標回転速度に維持するために、第一係合装置CL1の係合圧が減少されて、滑り係合状態である第一係合装置CL1を介してエンジンE側から回転電機MG側に伝達されるスリップトルクが減少される。これにより、フィードバック制御によっても、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧を減少させることができる。なお、フィードフォワード制御が行われることにより、エンジンEの出力トルクの減少に対する、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量の減少の応答性を向上させることができる。
第一係合装置CL1の係合圧は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の一方又は双方により減少されるように構成されてもよい。
【0078】
<回転電機MGの出力トルクの増加>
エンジンEの出力トルクがスイープダウン制御により減少されると、エンジンEの出力トルクの減少に応じて、エンジンE側から回転電機MGに伝達されるトルク(
図4に示す例では、第一係合装置スリップトルク)が減少する。これにより、回転電機MGの回転速度が低下しようとする。これに対して回転電機MGの回転速度を目標回転速度に維持するために、エンジンEの出力トルクが減少されるに従って、回転電機MGの出力トルクが増加される。この際、回転電機MGの出力トルクの増加量は、エンジンEの出力トルクの減少量に対応する。また、エンジンEの出力トルクは「次第に」減少されているので、エンジンEの出力トルクの減少に対して追従遅れが発生することを抑制して、回転電機MGの出力トルクを増加させることができる。すなわち、回転電機MGの回転速度制御により、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせて、回転電機MGの出力トルクが増加される。後述する引き摺りトルクが生じない場合は、回転電機MGの出力トルクは、滑り係合状態に制御された第二係合装置CL2を介して回転電機MGから車輪W側に伝達される伝達トルク(第二係合装置CL2のスリップトルク)まで増加する。
【0079】
これにより、スイープダウン制御の終了時には、スイープダウン制御の開始前にエンジンEに出力させていた出力トルク分だけ、回転電機MGの出力トルクを増加させることができる。よって、エンジンEの燃焼を停止させるまでに、駆動力源をエンジンEから回転電機MGに円滑に移行させることができる。
また、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧が減少されるので、第一係合装置CL1を解放状態に移行させることができる。この際、本実施形態では、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量(係合圧)がゼロまで減少されるので、スイープダウン制御の終了時に、第一係合装置CL1を解放状態に移行させることができる。
【0080】
本実施形態に係る第一係合装置CL1は、第一係合装置CL1の係合圧の指令値である第一目標トルク容量がゼロである状態でも、第一係合装置CL1の係合部材同士が接触し、第一係合装置CL1に接触(引き摺り)による伝達トルク容量が生じる係合装置とされている。よって、
図4に示すように、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量がゼロまで減少された後も、第一係合装置CL1には、係合部材同士の引き摺りよる伝達トルク容量が生じている。
また、本実施形態に係る第一係合装置CL1は、
図8に示すように、その係合部材間の回転速度差ΔW1に応じて、引き摺りによる伝達トルク容量が変化する係合装置とされている。
図8に示す例では、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1(絶対値)が増加するに従って、引き摺りによる伝達トルク容量が増加している。
よって、
図4に示すように、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量がゼロである場合でも、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1に応じて、引き摺りによる伝達トルク容量が変化している。
このため、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量がゼロまで減少された後(時刻t02以降)も、第一係合装置CL1のスリップトルクはゼロにならず、引き摺りによる伝達トルク容量の大きさのスリップトルクが、回転速度の高い方の係合部材から低い方の係合部材に伝達されている。
【0081】
<第一係合装置CL1が解放状態になったか否かの判定(ステップ♯06)>
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始した後(時刻t01以降)、第一係合装置CL1が解放状態になったか否かを判定する判定処理を開始している(ステップ♯06)。
第一係合装置CL1の第一目標トルク容量の減少に対して、実際の伝達トルク容量は、応答遅れを有して変化する。このため、第一目標トルク容量の減少に基づいて、第一係合装置CL1が解放状態になったか否かを判定すると、判定に誤差が生じる恐れがある。
上記のように、回転電機MGの出力トルクは、回転速度制御により第一係合装置CL1の実際の伝達トルク容量(第一係合装置CL1のスリップトルク)の減少に応じて増加される。このため、回転電機MGの出力トルクにより、第一係合装置CL1の実際の伝達トルク容量の変化をモニタできる。
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、回転電機MGの出力トルク(回転電機要求トルク)が、解放判定トルクになった場合に、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定するように構成されている。
【0082】
また、本実施形態に係わる第一係合装置CL1は、引き摺りによる伝達トルク容量が生じる係合装置とされており、第一係合装置CL1が解放状態になった場合も、引き摺りによる伝達トルク容量が生じている。よって、回転電機MGの出力トルクにより実際の伝達トルク容量をモニタするに際し、引き摺りによる伝達トルク容量を考慮する必要がある。すなわち、第一係合装置CL1が解放状態になった場合も、実際の伝達トルク容量はゼロまで減少せず、引き摺りによる伝達トルク容量まで減少する。このため、回転電機MGの出力トルクは、第二係合装置CL2を介して回転電機MGから車輪W側に伝達される伝達トルク(第二係合装置CL2のスリップトルク)より、引き摺りによる伝達トルク容量(引き摺りトルク)分だけ低いトルクまで増加する。
【0083】
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の係合圧の指令値がゼロである状態で第一係合装置CL1を伝達する伝達トルクである引き摺りトルクを推定するように構成されている。
そして、エンジン停止制御部46は、解放判定トルクを、滑り係合状態に制御された第二係合装置CL2を介して回転電機MGから車輪W側に伝達される伝達トルク(第二係合装置CL2のスリップトルク)から、第一係合装置CL1の引き摺りトルクを減算したトルクに応じて設定するように構成されている。本実施形態では、エンジン停止制御部46は、第二目標トルク容量(本例では、車両要求トルクでもよい)から引き摺りトルクを減算した値を、解放判定トルクに設定するように構成されている。或いは、エンジン停止制御部46は、第二目標トルク容量から引き摺りトルクを減算した値から、更に所定値を減算した値を、解放判定トルクに設定するように構成されてもよい。
【0084】
また、本実施形態に係わる第一係合装置CL1は、その係合部材間の回転速度差ΔW1に応じて、引き摺りによる伝達トルク容量が変化する係合装置とされている。よって、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の係合部材間の回転速度差ΔW1に基づいて、引き摺りトルクを推定するように構成されている。本実施形態では、エンジン停止制御部46は、
図8に示すような、第一係合装置CL1の係合部材間の回転速度差ΔW1と引き摺りによる伝達トルク容量との間の関係特性を記憶しており、当該関係特性を用い、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1に基づいて引き摺りによる伝達トルク容量を推定するように構成されている。そして、エンジン停止制御部46は、エンジンEの回転速度と回転電機MGの回転速度の高低関係からトルク伝達の向き(正負)を判定し、推定した引き摺りによる伝達トルク容量に基づいて、引き摺りトルクを推定するように構成されている。具体的には、エンジン停止制御部46は、エンジンEの回転速度が回転電機MGの回転速度より高い場合は、引き摺りトルクに、引き摺りよる伝達トルク容量の値(正の値)を設定し、エンジンEの回転速度が回転電機MGの回転速度より低い場合は、引き摺りトルクに、引き摺りトルクに引き摺りよる伝達トルク容量の値(正の値)に−1を乗算した値を設定する。なお、エンジン停止制御部46は、エンジンEの回転速度が回転電機MGの回転速度に等しい場合は、引き摺りトルクにゼロを設定する。
【0085】
エンジンEの出力トルクが減少されるに従い、回転電機MGの出力トルクが増加されていき、回転電機MGの出力トルク(回転電機要求トルク)が、解放判定トルクになったときに、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定されている(時刻t02)。
【0086】
<エンジンEの燃焼停止(ステップ♯07)>
図4に示す例では、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼を停止させている(
図3のステップ♯07、時刻t02)。
燃焼の停止により燃焼による正のトルク成分がなくなり、エンジンEの出力トルクは、ゼロからフリクショントルク等による負トルクまで減少している。そして、エンジンEの回転速度は、フリクショントルク等による負トルクにより低下し始める。第一係合装置CL1が解放状態であるので、エンジンEの回転速度の低下は、自由落下のような、燃焼停止による自然な低下となる。よって、運転者に違和感を与えずに、エンジンEの回転速度を低下させることができる。
【0087】
<ステップ♯08、ステップ♯09>
また、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定し、エンジンEの燃焼を停止させた後、エンジンEの回転速度が、同期回転速度に応じて設定した直結開始速度になったと判定した場合(
図3のステップ♯08:Yes)に、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を開始している(
図3のステップ♯09、時刻t04)。
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、直結開始速度を、同期回転速度の値に設定するように構成されている。
図4に示す例では、同期回転速度はゼロであるので、直結開始速度はゼロに設定されている。
エンジンEの回転速度と比較される直結開始速度が同期回転速度に応じて設定されているので、第二係合装置CL2が直結係合状態に移行するとき(時刻t05)の、エンジンEの回転速度を同期回転速度に近づけることができ、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1をゼロに近づけることができる。第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1がゼロに近いので、引き摺りトルクをゼロに近づけることができる。よって、第二係合装置CL2が直結係合状態に移行したとき、引き摺りトルクが車輪W側に伝達されてトルクショックが生じることを抑制できる。
【0088】
本実施形態では、エンジン停止制御部46は、直結係合状態への移行制御として、回転電機MGの目標回転速度を、同期回転速度まで次第に減少させる差回転減少の回転速度制御を実行するように構成されている(時刻t04から時刻t05)。
差回転減少の回転速度制御中、回転電機MGの回転速度を低下させるため、回転電機MGの出力トルクがイナーシャトルク分減少している(時刻t04から時刻t05)。なお、イナーシャトルクは、回転電機MGの回転加速度に、回転電機MGと一体回転する回転部材の慣性モーメントを乗算した値になる。
【0089】
そして、回転電機MGの回転速度が同期回転速度に近づいたと判定したとき(時刻t05)、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)まで次第に増加させるスイープアップを開始している。ここで、完全係合容量(完全係合圧)とは、駆動力源から係合装置に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持できる伝達トルク容量(係合圧)である。
【0090】
また、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させた後、回転電機MGの回転速度制御を終了し、回転電機MGのトルク制御を開始している(時刻t05)。トルク制御では、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値が設定される。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量まで増加させたとき、エンジン始動制御を終了している(時刻t06)。
【0091】
3−4−1−2−2.第二の例(第二係合装置CL2が直結係合状態の場合(その1))
次に、
図5に示すタイムチャートを参照して、エンジン停止制御の第二の例を説明する。第二の例は、エンジン停止制御を開始する前に第二係合装置CL2が直結係合状態である場合の例である。
<エンジン停止制御を開始する前の初期状態>
エンジン停止制御を開始する前の初期状態(時刻t11まで)では、第一の例と同様に、運転モードがパラレルモードに決定されており、エンジンEを回転させ、燃焼を行わせている。また、車両制御ユニット34は、第一の例と同様に、車両要求トルクに正のトルクを設定し、エンジンEの駆動力により、車両を駆動すると共に回転電機MGに発電させている。
【0092】
図5に示す例では、車速(出力軸Oの回転速度)が比較的高く、第二係合装置CL2が直結係合状態に制御されている。また、第一係合装置CL1も直結係合状態に制御されている。第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2が直結係合状態に制御された状態で、エンジンEの回転速度が自立運転可能な回転速度以上になっている。
【0093】
車両制御ユニット34は、
図5に示す例では、エンジンEのトルク制御及び回転電機MGのトルク制御を行っている。車両制御ユニット34は、回転電機要求トルクに、目標とする発電トルク(負トルク)を設定し、エンジン要求トルクに、車両要求トルクから回転電機要求トルクを減算した値を設定し、エンジン要求トルクと回転電機要求トルクとの合計を車両要求トルクに一致させている。
【0094】
<エンジン停止制御の開始(ステップ♯01)>
図5に示す例も、車両制御ユニット34は、バッテリの充電量が充電制限判定値以上になった場合に、運転モードをパラレルモードから電動モードに変更し、エンジンEの運転停止を決定している(時刻t11)。そして、エンジン停止制御部46は、回転電機MG側から車輪W側に正トルクを伝達させている状態でエンジンEの運転停止が決定された場合(
図3のステップ♯01:Yes)に、一連のエンジン停止制御を開始している(時刻t11)。
【0095】
<第二係合装置CL2を滑り係合状態にする制御の開始(ステップ♯02)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、第二係合装置CL2を滑り係合状態にする制御を開始している(
図3のステップ♯02、時刻t11)。
図5に示す例では、第二係合装置CL2が直結係合状態であるので、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を直結係合状態から滑り係合状態に移行させる移行制御を開始している(時刻t11)。本実施形態では、エンジン停止制御部46は、移行制御として、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)から次第に減少させるスイープダウンを実行している(時刻t11から時刻t12)。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定した場合に、スイープダウンを終了し、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)に車両要求トルクの値を設定するトルク制御を開始している(時刻t12)。エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差に対応する、回転電機MGの回転速度と同期回転速度との回転速度差ΔW2(絶対値)が、予め定めた判定速度差以上になった場合に、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定するように構成されている。
【0096】
<回転電機MGの回転速度制御(差回転維持)の開始(ステップ♯03)>
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を滑り係合状態に移行させた後、回転電機MGの回転速度制御の実行を開始している(
図3のステップ♯03、時刻t12)。
図5に示す例では、エンジン停止制御部46は、トルク制御を終了して、差回転維持の回転速度制御を開始している(時刻t12)。
【0097】
<エンジン出力トルクのスイープダウン制御の開始(ステップ♯04)>
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を滑り係合状態に移行させた後、
図4に示す例と同様に、エンジンEの出力トルクを、予め設定されたトルク低減値まで減少させるエンジンEのスイープダウン制御の実行を開始している(
図3のステップ♯04、時刻t12)。
【0098】
<第一係合装置CL1の係合圧のスイープダウン制御の開始(ステップ♯05)>
エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧を減少させる第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始している(
図3のステップ♯05、時刻t12)。
図5に示す例では、第一係合装置CL1の係合圧は、フィードフォワード制御により、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて減少されている。
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量を、完全係合容量(完全係合圧)から、スイープダウン制御を開始する直前のエンジン要求トルクの値までステップ的に減少させた後、エンジン要求トルクの値からゼロまで、エンジン要求トルクの変化速度と同じ変化速度で減少させるフィードフォワード制御を実行している(時刻t13から時刻t14)。
【0099】
<回転電機MGの出力トルクの増加>
エンジンEの出力トルクがスイープダウン制御により減少されると、エンジンEの出力トルクの減少に応じて、エンジンE側から回転電機MGに伝達されるトルク(
図5に示す例では、「回転電機MG側からの伝達トルク」)が減少する。これにより、回転電機MGの回転速度が低下しようとする。これに対して回転電機MGの回転速度を目標回転速度に維持するために、
図4に示す場合と同様に、エンジンEの出力トルクが減少されるに従って、回転電機MGの出力トルクが増加される。よって、スイープダウン制御の終了時には、スイープダウン制御の開始前にエンジンEに出力させていた出力トルク分だけ、回転電機MGの出力トルクを増加させることができる。
また、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧が減少されるので、第一係合装置CL1を解放状態に移行させることができる。なお、
図5に示す例では、第一係合装置CL1のスイープダウン制御の実行中(時刻t13から時刻t14)、第一係合装置CL1が直結係合状態である場合を示しているが、実行中に多少の回転速度差ΔW1が生じて滑り係合状態に移行する場合もある。
【0100】
図5に示す例では、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量がゼロまで減少されたとき(時刻t14)、第一係合装置CL1の係合部材間の回転速度差ΔW1がゼロであるため、引き摺りトルクがゼロになっている。
【0101】
<第一係合装置CL1が解放状態になったか否かの判定(ステップ♯06)>
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1のスイープダウン制御を開始した後(時刻t13以降)、第一係合装置CL1が解放状態になったか否かを判定する判定処理を開始している(ステップ♯06)。
図5に示す場合も、エンジン停止制御部46は、回転電機MGの出力トルクが、解放判定トルクになった場合に、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定するように構成されている。
図5に示す例では、第一係合装置CL1の係合部材間の回転速度差ΔW1がゼロであるため、引き摺りトルクがゼロに推定されている。よって、解放判定トルクは、第二目標トルク容量(車両要求トルク)に設定されている。
【0102】
エンジンEの出力トルクが減少されるに従い、回転電機MGの出力トルクが増加されていき、回転電機MGの出力トルク(回転電機要求トルク)が、解放判定トルクになったときに、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定されている(時刻t14)。
【0103】
<エンジンEの燃焼停止(ステップ♯07)>
図4に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼を停止させている(
図3のステップ♯07、時刻t14)。エンジンEの燃焼停止後、エンジンEの回転速度は、第一係合装置CL1が解放状態であるので、自由落下のように、自然に低下していく(時刻t14から時刻t15)。
エンジンEの回転速度が低下するに従い、第一係合装置CL1の係合部材間の回転速度差ΔW1がゼロから増加している(時刻t14以降)。第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1が増加するに従い、第一係合装置CL1の引き摺りによる伝達トルク容量が増加し、回転電機MGに作用する引き摺りトルクがゼロから減少している。
【0104】
引き摺りトルクがゼロから減少すると、回転電機MGの回転速度が減少しようとする。これに対して回転電機MGの回転速度を目標回転速度に維持するために、回転電機MGの出力トルクは、第二係合装置CL2のスリップトルクに対して引き摺りトルクの減少分だけ増加されている(時刻t14から時刻t15)。
【0105】
<ステップ♯08、ステップ♯09>
エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定し、エンジンEの燃焼を停止させた後、エンジンEの回転速度が、直結開始速度になったと判定した場合(
図3のステップ♯08:Yes)に、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を開始している(
図3のステップ♯09、時刻t15)。
図5に示す例では、直結開始速度は、ゼロに設定されている。
【0106】
図4に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、直結係合状態への移行制御として、回転電機MGの目標回転速度を、同期回転速度まで次第に減少させる差回転減少の回転速度制御を実行するように構成されている(時刻t15から時刻t16)。
差回転減少の回転速度制御中、回転電機MGの回転速度を低下させるため、回転電機MGの出力トルクがイナーシャトルク分減少している(時刻t15から時刻t16)。
エンジン停止制御部46は、回転電機MGの目標回転速度が同期回転速度に近づくに従い、回転電機MGの目標回転速度の変化速度を、同期回転速度の変化速度に近づけるように構成されている。このため、回転電機MGの目標回転速度が同期回転速度に近づいたとき(時刻t16)、イナーシャトルク(絶対値)が減少しており、回転電機MGの出力トルクは、第二係合装置CL2のスリップトルクに対して引き摺りトルクの減少分だけ増加したトルクに近づいている。すなわち、第二係合装置CL2の回転速度差ΔW2がゼロまで減少し、直結係合状態に移行するとき(時刻t16)、回転電機MGの出力トルクが、引き摺りトルクを打ち消すように増加されて、引き摺りトルクが補償されている。
【0107】
このため、
図5に示す例のように引き摺りトルクが生じている場合でも、第二係合装置CL2が直結係合状態に移行したとき、引き摺りトルクが回転電機MGの出力トルクにより打ち消されるので、引き摺りトルクが車輪W側に伝達されてトルクショックが生じることを抑制できている。
【0108】
また、回転電機MGの回転速度が同期回転速度に近づいたと判定したとき(時刻t16)、
図4に示す例と同様に、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)まで次第に増加させるスイープアップを開始している。
また、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させた後、回転電機MGの回転速度制御を終了し、回転電機MGのトルク制御を開始している(時刻t16)。トルク制御では、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値が設定される。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量まで増加させたとき、エンジン始動制御を終了している(時刻t17)。
【0109】
3−4−1−2−3.第三の例(第二係合装置CL2が直結係合状態の場合(その2))
次に、
図6に示すタイムチャートを参照して、エンジン停止制御の第三の例を説明する。第三の例は、第二の例と同様にエンジン停止制御を開始する前に第二係合装置CL2が直結係合状態である場合の例であるが、第二の例とは、第二係合装置CL2を直結係合状態に移行させるタイミングが異なっている。
図6に示す例の時刻t24までは、
図5に示す例の時刻t14までと同様であるので、説明を省略する。
【0110】
<エンジンEの燃焼停止(ステップ♯07)>
図5に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼を停止させている(時刻t24)。エンジンEの燃焼停止後、エンジンEの回転速度は、第一係合装置CL1が解放状態であるので、自由落下のように、自然に低下していく(時刻t24から時刻t27)。
【0111】
<ステップ♯08、ステップ♯09>
図6に示す例では、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼停止と同時期に、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を開始している(時刻t24)。
【0112】
図5に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、直結係合状態への移行制御として、回転電機MGの目標回転速度を、同期回転速度まで次第に減少させる差回転減少の回転速度制御を実行するように構成されている(時刻t24から時刻t26)。
エンジンEの燃焼停止後、低下するエンジンEの回転速度に合わせて、回転電機MGの回転速度を低下させることができる。よって、エンジンEの回転速度の低下開始後も、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1が増加することを抑制できている(時刻t24から時刻t25)。
よって、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差ΔW2がゼロまで減少して直結係合状態に移行するとき(時刻t25)までに、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1が増加することを抑制でき、引き摺りトルクをゼロに近い状態に維持できる。よって、第二係合装置CL2が直結係合状態に移行したとき、引き摺りトルクが車輪W側に伝達されてトルクショックが生じることを抑制できる。
【0113】
エンジン停止制御部46は、回転電機MGの回転速度が同期回転速度に近づいたと判定したとき(時刻t25)、
図5に示す例と同様に、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)まで次第に増加させるスイープアップを開始している。
また、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させた後、回転電機MGの回転速度制御を終了し、回転電機MGのトルク制御を開始している(時刻t25)。トルク制御では、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値が設定される。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量まで増加させたとき、エンジン始動制御を終了している(時刻t25)。
【0114】
3−4−1−2−4.第四の例(第二係合装置CL2が滑り係合状態の場合(その2))
次に、
図7に示すタイムチャートを参照して、エンジン停止制御の第四の例を説明する。第四の例は、第一の例と同様にエンジン停止制御を開始する前に第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合の例であるが、第一の例とは、第二係合装置CL2を直結係合状態に移行させるタイミングが異なっている。
図7に示す例の時刻t32までは、
図4に示す例の時刻t02までと同様であるので、説明を省略する。
【0115】
<エンジンEの燃焼停止(ステップ♯07)>
図4に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼を停止させている(時刻t32)。エンジンEの燃焼停止後、エンジンEの回転速度は、第一係合装置CL1が解放状態であるので、自由落下のように、自然に低下していく(時刻t32から時刻t35)。
【0116】
<ステップ♯08、ステップ♯09>
図7に示す例では、
図6に示す例と同様に、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定した場合に、エンジンEの燃焼停止と同時期に、第二係合装置CL2を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる移行制御を開始している(時刻t32)。
【0117】
エンジン停止制御部46は、直結係合状態への移行制御として、回転電機MGの目標回転速度を、同期回転速度まで次第に減少させる差回転減少の回転速度制御を実行するように構成されている(時刻t32から時刻t33)。
エンジンEの回転速度が低下するに従い、回転電機MGの回転速度も低下するので、第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1の減少が抑制されている(時刻t32から時刻t33)。第一係合装置CL1の回転速度差ΔW1の減少が抑制されているので、第一係合装置CL1の引き摺りによる伝達トルク容量が生じた状態が維持され、回転電機MGに作用する引き摺りトルクがゼロより大きい状態が維持されている(時刻t32から時刻t33)。
【0118】
エンジン停止制御部46は、
図5に示す例で説明したように、回転電機MGの目標回転速度が同期回転速度に近づくに従い、回転電機MGの目標回転速度の変化速度を、同期回転速度の変化速度に近づけるように構成されている。
このため、回転電機MGの目標回転速度が同期回転速度に近づいたとき(時刻t33)、イナーシャトルク(絶対値)が減少しており、回転電機MGの出力トルクは、第二係合装置CL2のスリップトルクに対して引き摺りトルク分だけ減少したトルクに近づいている。すなわち、第二係合装置CL2の回転速度差ΔW2がゼロまで減少し、直結係合状態に移行するとき(時刻t33)、回転電機MGの出力トルクが、引き摺りトルクを打ち消すようなトルクになり、引き摺りトルクが補償されている。
【0119】
このため、
図5に示す例と同様に、引き摺りトルクが生じている場合でも、第二係合装置CL2が直結係合状態に移行したとき、引き摺りトルクが回転電機MGの出力トルクにより打ち消されるので、引き摺りトルクが車輪W側に伝達されてトルクショックが生じることを抑制できている。
【0120】
また、回転電機MGの回転速度が同期回転速度に近づいたと判定したとき(時刻t33)、
図4に示す例と同様に、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)まで次第に増加させるスイープアップを開始している。
また、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させた後、回転電機MGの回転速度制御を終了し、回転電機MGのトルク制御を開始している(時刻t33)。トルク制御では、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値が設定される。
エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2の第二目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量まで増加させたとき、エンジン始動制御を終了している(時刻t33)。
【0121】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0122】
(1)上記の実施形態においては、変速機構TMの複数の係合装置の中の1つが、エンジンEの始動制御中に係合状態が制御される第二係合装置CL2に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1は、
図9に示すように、回転電機MGと変速機構TMと間の動力伝達経路2に更に係合装置を備え、当該係合装置が、エンジンEの始動制御中に係合の状態が制御される第二係合装置CL2に設定されるように構成されてもよい。或いは、
図9に示す車両用駆動装置1において、変速機構TMが備えられないように構成されてもよい。
【0123】
或いは、車両用駆動装置1は、
図10に示すように、回転電機MGと変速機構TMと間の動力伝達経路に更にトルクコンバータTCを備え、トルクコンバータTCの入出力部材間を直結係合状態にするロックアップクラッチが、エンジンEの始動制御中に係合の状態が制御される第二係合装置CL2に設定されるように構成されてもよい。
【0124】
(2)上記の実施形態においては、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2が油圧により制御される係合装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の一方又は双方は、油圧以外の駆動力、例えば、電磁石の駆動力、サーボモータの駆動力など、により制御される係合装置であってもよい。
【0125】
(3)上記の実施形態においては、変速機構TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機構TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置など、有段の自動変速装置以外の変速装置にされるように構成されてもよい。この場合も、変速機構TMに備えられた係合装置が、エンジンEの始動制御中に係合状態が制御される第二係合装置CL2に設定され、或いは変速機構TMとは別に設けられた係合装置が第二係合装置CL2とされてもよい。
【0126】
(4)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜46を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜46の分担も任意に設定することができる。例えば、第二係合装置CL2が変速機構TMの係合装置の1つとされる場合は、変速機構制御部43と第二係合装置制御部45とが統合されてもよい。
【0127】
(5)上記の実施形態において、エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン停止制御部46は、エンジンEの運転停止を決定した場合に、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御しないように構成されてもよい。例えば、エンジン停止制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態である状態で、エンジンEの運転停止を決定した場合に、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御しないように構成されてもよい。
【0128】
(6)上記の実施形態において、エンジン停止制御部46は、回転電機MGの出力トルクが、解放判定トルクになった場合に、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン停止制御部46は、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量(係合圧)をゼロまで減少させたとき、第一係合装置CL1が解放状態になったと判定するなど、他の方法によって判定するように構成されてもよい。
【0129】
(7)上記の実施形態において、エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせて、第一係合装置CL1の係合圧を減少させるスイープダウン制御を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン停止制御部46は、エンジン停止制御を開始する前に、第一係合装置CL1が直結係合状態である場合は、例えば、第一係合装置CL1の第一目標トルク容量(係合圧)を完全係合容量(完全係合圧)からゼロまで一定の変化速度で減少させるなど、エンジンEのスイープダウン制御によるエンジンEの出力トルクの減少に合わせずに、第一係合装置CL1の係合圧を減少させるように構成されてもよい。この場合でも、エンジンEの出力トルクの減少に合わせて、直結係合状態である第一係合装置CL1を介してエンジンE側から回転電機MGに伝達されるトルクを減少させることができる。
【0130】
(8)上記の実施形態において、エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御として、エンジンEの出力トルクを次第に減少させるように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジン停止制御部46は、エンジンEのスイープダウン制御(トルクダウン制御)として、エンジンEの出力トルクを減少させるように構成されればよく、例えば、エンジンEの出力トルク(エンジン要求トルク)をステップ的に減少させるように構成されてもよい。