特許第5967201号(P5967201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967201空隙配置構造体およびそれを用いた測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967201
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】空隙配置構造体およびそれを用いた測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3586 20140101AFI20160728BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   G01N21/3586
   G01N21/01 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-526837(P2014-526837)
(86)(22)【出願日】2013年7月3日
(86)【国際出願番号】JP2013068235
(87)【国際公開番号】WO2014017266
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2015年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-166962(P2012-166962)
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝志
(72)【発明者】
【氏名】神波 誠治
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/027642(WO,A1)
【文献】 特開2004−288240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱する電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法に用いられる空隙配置構造体であって、
前記空隙配置構造体は、前記電磁波が照射される第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面および、前記第1の主面および前記第2の主面に垂直な方向に貫通した複数の空隙部を有し、
前記第1の主面における前記空隙部の開孔面積が、前記第2の主面における前記空隙部の開孔面積よりも小さく、
前記空隙配置構造体の前記第1の主面と前記空隙部の少なくとも1つの内壁とのなす角度が鋭角である、空隙配置構造体。
【請求項2】
前記第2の主面における前記空隙部の開孔面積の、前記第1の主面における前記空隙部の開孔面積に対する比率は、1.02〜2.5である、請求項1に記載の空隙配置構造体。
【請求項3】
前記第1の主面における前記空隙部の開孔は、前記被測定物が通過し得ない大きさであり、前記第2の主面における前記空隙部の開孔は、前記被測定物が通過し得る大きさである、請求項1または2に記載の空隙配置構造体。
【請求項4】
前記空隙部の内壁が凹みを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空隙配置構造体。
【請求項5】
被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
請求項1に記載の空隙配置構造体を用い
前記空隙配置構造体の前記第1の主面に前記電磁波を照射する、測定方法。
【請求項6】
被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
請求項1に記載の空隙配置構造体を用い
該空隙配置構造体の前記第1の主面の近傍に前記被測定物を保持し、前記空隙配置構造体の前記第1の主面に前記電磁波を照射する、測定方法。
【請求項7】
被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
請求項1に記載の空隙配置構造体を用いて、該空隙配置構造体の前記第2の主面の近傍に前記被測定物を保持する、測定方法。
【請求項8】
請求項3に記載の空隙配置構造体を用いて、前記被測定物を前記空隙配置構造体の前記第2の主面側から前記第1の主面の方向へ移動させることにより、前記空隙配置構造体の少なくとも一部の前記空隙部で前記被測定物を保持する、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の測定に用いられる空隙配置構造体およびそれを用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物質の特性を分析するために、空隙配置構造体に被測定物を保持して、その被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射し、その透過スペクトル等を解析して被測定物の特性を検出する測定方法が用いられている。具体的には、例えば、金属メッシュに付着したタンパク質などの被測定物に、テラヘルツ波を照射して透過スペクトルを解析する手法が挙げられる。
【0003】
このような電磁波を用いた透過スペクトルの解析手法の従来技術として、例えば、特許文献1(特開2007−010366号公報)には、被測定物が保持された空隙配置構造体(例えば、メッシュ状の導体板)に向かって電磁波を照射して、空隙配置構造体を透過した電磁波を測定し、測定値の周波数特性が被測定物の存在により変化することに基づいて被測定物の特性を検出する方法が開示されている。
【0004】
なお、特許文献1に開示される空隙配置構造体は、図18(b)などの記載から、基本的に空隙部の開口面積は表と裏で略同一であり、空隙部を形成する内壁面と空隙配置構造体の主面との成す角度は略90度であることが想定されている。
【0005】
このような場合、被測定物の量が少ないと、周波数特性の変化は僅かになり、検出が難しくなる。このため、さらに測定感度に優れた測定を実現するための測定デバイスの提供が依然として望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−010366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来よりも、さらに測定感度に優れた測定を実現するための空隙配置構造体、および、それを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
(1)被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱する電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法に用いられる空隙配置構造体であって、
前記空隙配置構造体は、第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面および、前記第1の主面および前記第2の主面に垂直な方向に貫通した複数の空隙部を有し、
前記第1の主面における前記空隙部の開孔面積が、前記第2の主面における前記空隙部の開孔面積よりも小さいことを特徴とする、空隙配置構造体。
【0009】
(2)前記空隙配置構造体の第1の主面と前記空隙部の少なくとも1つの内壁とのなす角度が鋭角である、上記(1)の空隙配置構造体。
【0010】
(3)前記第2の主面における前記空隙部の開孔面積の、前記第1の主面における前記空隙部の開孔面積に対する比率は、1.02〜2.5である、上記(1)または(2)の空隙配置構造体。
【0011】
(4)前記第1の主面における前記空隙部の開孔は、前記被測定物が通過し得ない大きさであり、前記第2の主面における前記空隙部の開孔は、前記被測定物が通過し得る大きさである、上記(1)〜(3)のいずれかの空隙配置構造体。
【0012】
(5)前記空隙部の内壁が凹みを有する、上記(1)〜(4)のいずれかの空隙配置構造体。
【0013】
(6)被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
上記(1)の空隙配置構造体を用いる、測定方法。
【0014】
(7)被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
上記(2)の空隙配置構造体を用いて、該空隙配置構造体の前記第1の主面の近傍に前記被測定物を保持する、測定方法。
【0015】
(8)被測定物が保持された空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の周波数特性を検出することにより、前記被測定物の特性を測定する方法であって、
上記(2)の空隙配置構造体を用いて、該空隙配置構造体の前記第2の主面の近傍に前記被測定物を保持する、測定方法。
【0016】
(9)上記(4)の空隙配置構造体を用いて、前記被測定物を前記空隙配置構造体の前記第2の主面側から前記第1の主面の方向へ移動させることにより、前記空隙配置構造体の少なくとも一部の前記空隙部で前記被測定物を保持する、測定方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空隙配置構造体は、その第1の主面における空隙部の開孔面積が、第2の主面における同じ空隙部の開孔面積よりも小さくなるような空隙部を有している。このため、空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の内壁とが接する部分の近傍において、電磁界が集中する。その結果、空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の内壁とが接する部分の近傍における被測定物の有無に起因する検出電磁波の周波数特性の変化が大きくなるため、測定感度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の測定方法の概要を説明するための模式図である。
図2】本発明で用いる空隙配置構造体の構造を説明するための模式図である。
図3図2のP−P’断面における概略断面図である。
図4】実施例1における空隙配置構造体の設置状態を示す模式図である。
図5】実施例1で得られた透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の測定方法の一例の概略を図1を用いて説明する。図1は、本発明の測定方法に用いられる測定装置の一例の全体構造を模式的に示す図である。この測定装置は、レーザ2(例えば、短光パルスレーザ)から照射されるレーザ光を半導体材料に照射することで発生する電磁波(例えば、20GHz〜120THzの周波数を有するテラヘルツ波)パルスを利用するものである。
【0020】
図1の構成において、レーザ2から出射したレーザ光を、ハーフミラー20で2つの経路に分岐する。一方は、電磁波発生側の光伝導素子71に照射され、もう一方は、複数のミラー21(同様の機能のものは付番を省略)を用いることで、時間遅延ステージ26を経て受信側の光伝導素子72に照射される。光伝導素子71、72としては、LT−GaAs(低温成長GaAs)にギャップ部をもつダイポールアンテナを形成した一般的なものを用いることができる。また、レーザ2としては、ファイバー型レーザやチタンサファイアなどの固体を用いたレーザなどを使用できる。さらに、電磁波の発生、検出には、半導体表面をアンテナなしで用いたり、ZnTe結晶の様な電気光学結晶を用いたりしてもよい。ここで、発生側となる光伝導素子71のギャップ部には、電源3により適切なバイアス電圧が印加されている。
【0021】
発生した電磁波は放物面ミラー22で平行ビームにされ、放物面ミラー23によって、空隙配置構造体1に照射される。空隙配置構造体1を透過したテラヘルツ波は、放物面ミラー24,25によって光伝導素子72で受信される。光伝導素子72で受信された電磁波信号は、アンプ6で増幅されたのちロックインアンプ4で時間波形として取得される。そして、算出手段を含むPC(パーソナルコンピュータ)5でフーリエ変換などの信号処理された後に、空隙配置構造体1の透過率スペクトルなどが算出される。ロックインアンプ4で取得するために、発振器8の信号で発生側の光伝導素子71のギャップに印加する電源3からのバイアス電圧を変調(振幅5V〜30V)している。これにより同期検波を行うことでS/N比を向上させることができる。
【0022】
以上に説明した測定方法は、一般にテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)と呼ばれる方法である。なお、THz−TDSの他に、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)を用いてもよい。
【0023】
図1では、散乱が透過である場合、すなわち電磁波の透過率を測定する場合を示している。本発明において「散乱」とは、前方散乱の一形態である透過や、後方散乱の一形態である反射などを含む広義の概念を意味し、好ましくは透過や反射である。さらに好ましくは、0次方向の透過や0次方向の反射である。
【0024】
なお、一般的に、回折格子の格子間隔をs、入射角をi、回折角をθ、波長をλとしたとき、回折格子によって回折されたスペクトルは、
s(sin i −sin θ)=nλ …(1)
と表すことができる。上記「0次方向」の0次とは、上記式(1)のnが0の場合を指す。sおよびλは0となり得ないため、n=0が成立するのは、sin i− sin θ=0の場合のみである。従って、上記「0次方向」とは、入射角と回折角が等しいとき、つまり電磁波の進行方向が変わらないような方向を意味する。
【0025】
本発明で用いられる電磁波は、空隙配置構造体の構造に応じて散乱を生じさせることのできる電磁波であれば特に限定されず、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等のいずれも使用することができ、その周波数も特に限定されるものではないが、好ましくは1GHz〜1PHzであり、さらに好ましくは20GHz〜200THzの周波数を有するテラヘルツ波である。
【0026】
電磁波は、例えば、所定の偏波方向を有する直線偏光の電磁波(直線偏波)や無偏光の電磁波(無偏波)を用いることができる。直線偏光の電磁波としては、例えば、短光パルスレーザを光源としてZnTe等の電気光学結晶の光整流効果により発生するテラヘルツ波や、半導体レーザから出射される可視光や、光伝導アンテナから放射される電磁波等が挙げられる。無偏光の電磁波としては、高圧水銀ランプやセラミックランプから放射される赤外光等が挙げられる。
【0027】
本発明において、被測定物の有無または量を測定するとは、被測定物となる化合物の定量を行うことであり、例えば、溶液中等の微量の被測定物の含有量を測定する場合や、被測定物の同定を行う場合などが挙げられる。
【0028】
(空隙配置構造体)
本発明の空隙配置構造体は、第1の主面と、第1の主面に対向する第2の主面および、第1の主面および第2の主面に垂直な方向に貫通した複数の空隙部を有し、
前記第1の主面における前記空隙部の開孔面積が、前記第2の主面における前記空隙部の開孔面積よりも小さいことを特徴とする。
【0029】
例えば、複数の該空隙部は、空隙配置構造体の主面上の少なくとも一方向に周期的に配置されている。ただし、空隙部は、その全てが周期的に配置されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、一部の空隙部が周期的に配置され、他の空隙部が非周期的に配置されていてもよい。
【0030】
空隙配置構造体は、好ましくは準周期構造体や周期構造体である。準周期構造体とは、並進対称性は持たないが配列には秩序性が保たれている構造体のことである。準周期構造体としては、例えば、1次元準周期構造体としてフィボナッチ構造、2次元準周期構造体としてペンローズ構造が挙げられる。周期構造体とは、並進対称性に代表される様な空間対称性を持つ構造体のことであり、その対称の次元に応じて1次元周期構造体、2次元周期構造体、3次元周期構造体に分類される。1次元周期構造体は、例えば、ワイヤーグリッド構造、1次元回折格子などが挙げられる。2次元周期構造体は、例えば、メッシュフィルタ、2次元回折格子などが挙げられる。これらの周期構造体のうちでも、2次元周期構造体が好適に用いられる。
【0031】
2次元周期構造体としては、例えば、図2に示すようなマトリックス状に一定の間隔で空隙部が配置された板状構造体(格子状構造体)が挙げられる。図2(a)に示す空隙配置構造体1は、その主面10a側からみて正方形の空隙部11が、該正方形の各辺と平行な2つの配列方向(図中の縦方向と横方向)に等しい間隔で設けられた板状構造体である。
【0032】
空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の少なくとも1つの内壁とのなす角度は、鋭角であることが好ましい。ここで、「少なくとも1つの内壁」とは、空隙部の内壁を構成する面のうちの1つを意味する。したがって、空隙配置構造体の第1の主面と内壁が交わる部分が尖っている場合だけでなく、この部分にR(曲面)が形成されていてもよい。なお、Rを形成することで、この部分の破損等が抑制され、空隙配置構造体の強度を向上させることができる。
【0033】
このような特定の断面における空隙部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、台形や概ね台形である形状が挙げられる。別の表現をすれば、例えば、空隙配置構造体の第1の主面側(開孔面積が小さい側)から第2の主面側(開孔面積が大きい側)に向かって上記空隙部が広がっているような形状が挙げられる。なお、空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の少なくとも1つの内壁とのなす角度は、例えば、空隙構造体の主面と垂直な断面を観察することによって確認できる。
【0034】
図2に示されるような本発明の空隙配置構造体の一例について、図2のP−P’断面における概略断面図を図3に示す。図3に示されるように、空隙部の断面形状はほぼ台形である。ここで、空隙配置構造体1の第1の主面(図3の上側)の空隙部11の孔サイズd1は、第2の主面(図の下側)の空隙部11の孔サイズd2より小さくなっている。すなわち、空隙配置構造体1の第1の主面10a1における空隙部11の開孔面積は、空隙配置構造体1の第2の主面10a2における同じ空隙部11の開孔面積よりも小さくなっている。
【0035】
第2の主面における空隙部の開孔面積の、第1の主面における空隙部の開孔面積に対する比率(開孔面積比率)は、好ましくは1.02〜2.5である。この開孔面積比率が大きくなると、第1の主面の開孔を小さくする必要があるため、空隙配置構造体全体の電磁波の透過率が低下する。透過率の低下は測定精度の低下につながるため、透過率の低下率が変化量が約10%以下に抑えるためには、上記開孔面積比率を2.5以下にする必要がある。なお、この関係は、例えば、第1の主面の孔サイズが1.8μm、第2の主面の孔サイズが1.8μm(比率として1:1)である空隙配置構造体について、第2の主面側の法線方向から電磁波を照射したときの透過率スペクトルにおける最大透過率を初期値(100%)としたとき、第1の主面の孔サイズを1.3〜1.8μmの範囲で変化させ、第2の主面の孔サイズを1.8〜2.3μmの範囲で変化させた空隙配置構造体についての同様の最大透過率の上記初期値に対する比率(%)と、そのときの開孔面積比率との関係を分析することで得られる。また、開孔面積比率が1.02未満では、測定感度の向上がわずか(誤差範囲内)であり本発明の効果が奏されない。
【0036】
また、第1の主面における空隙部の開孔は被測定物が通過し得ない大きさであり、第2の主面における空隙部の開孔は被測定物が通過し得る大きさであることが好ましい。この場合、被測定物を空隙配置構造体の第2の主面側から第1の主面の方向へ移動させる(例えば、流動させる)ことにより、空隙配置構造体の少なくとも一部の空隙部で被測定物を保持することができ、被測定物を空隙部内に安定的に捕集して測定できる。
【0037】
また、図3に示す空隙配置構造体1の第1の主面10a1と垂直な断面(P−P’断面)において、空隙配置構造体1の第1の主面10a1と空隙部11の内壁11aとのなす角度ψは鋭角となっている。
【0038】
空隙配置構造体1の空隙部11の形状がこのような場合、空隙配置構造体1の第1の主面10a1と空隙部11の内壁11aとが接する部分の近傍において、照射される電磁波の電磁界の局在を増大させることができる。その結果、空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の内壁とが接する部分の近傍における被測定物の有無に起因する検出電磁波の周波数特性の変化が大きくなるため、測定感度を向上させることができる。すなわち、被測定物の量が少ない場合であっても、高感度な測定が可能である。
【0039】
ただし、開孔面積の大きい第2の主面の近傍に被測定物を保持した場合、電磁界の漏れが大きい領域で測定することになるため、より大きな被測定物も測定できるようになるという別の利点が得られる。
【0040】
空隙部11の内壁11aは凹みを有することが好ましい。言い換えれば、内壁11aが空隙部11の外側に向かって膨らむ曲線を描くように構成されていることが好ましい。これにより、被測定物を空隙部11内により捕集しやすくなる。
【0041】
空隙配置構造体の空隙部の寸法や配置、空隙配置構造体の厚み等は、特に制限されず、測定方法や、空隙配置構造体の材質特性、使用する電磁波の周波数等に応じて適宜設計される。
【0042】
例えば、空隙部が図2(a)に示すように縦横に規則的に配置された空隙配置構造体1において、図2(b)にdで示される空隙部の孔サイズ(電磁波が照射される側の開孔部のサイズ)は、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。このようにすることで、散乱する電磁波の強度がより強くなり、信号をより検出しやすくなる。具体的な孔サイズは0.15〜150μmであることが好ましく、測定感度向上の観点からは、孔サイズが0.9〜9μmであることがより好ましい。
【0043】
また、空隙部の電磁波が照射される側の開孔面積は、好ましくは0.0225〜22500μmであり、より好ましくは0.81〜81μmであることが好ましい。
【0044】
また、空隙部が図2(a)に示すように縦横に規則的に配置された空隙配置構造体1において、図2(b)にsで示される空隙部の格子間隔(ピッチ)は、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。このようにすることで、散乱がより生じやすくなる。具体的な格子間隔は0.15〜150μmであることが好ましく、測定感度向上の観点からは、格子間隔が1.3〜13μmであることがより好ましい。
【0045】
また、空隙配置構造体の厚みは、測定に用いる電磁波の波長の5倍以下であることが好ましい。このようにすることで、散乱する電磁波の強度がより強くなって信号を検出しやすくなる。
【0046】
ここで、被測定物の誘電率や形状によって、照射する電磁波の最適な波長(高い測定感度が得られる波長)は異なるが、例えば、被測定物が平板状の試料である場合、一般に誘電率が同じであれば被測定物の厚さが薄いほど、照射する電磁波の最適な波長は短くなる傾向があり、それに応じて、電磁波が照射される側の格子間隔や空隙部の開孔面積を小さくした方が高い測定感度を得ることができる。また、例えば、被測定物が粒子状の試料である場合、一般に誘電率が同じであれば被測定物の粒径が小さいほど、照射する電磁波の最適な波長は短くなる傾向があり、それに応じて、電磁波が照射される側の格子間隔や空隙部の開孔面積を小さくした方が高い測定感度を得ることができる。
【0047】
空隙配置構造体の全体の寸法は、特に制限されず、照射される電磁波のビームスポットの面積等に応じて決定される。
【0048】
空隙配置構造体は、少なくとも一部の表面が導体で形成されていることが好ましい。空隙配置構造体1の少なくとも一部の表面とは、図2(a)に示す主面10a、側面10b、空隙部の内壁11aのうちいずれかの一部の表面である。
【0049】
ここで、導体とは、電気を通す物体(物質)のことであり、金属だけでなく半導体も含まれる。金属としては、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物の官能基と結合することのできる金属や、ヒドロキシ基、アミノ基などの官能基を表面にコーティングできる金属、ならびに、これらの金属の合金を挙げることができる。具体的には、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム、シリコン、ゲルマニウムなどが挙げられ、好ましくは金、銀、銅、ニッケル、クロムであり、さらに好ましくは金、ニッケルである。金、ニッケルを用いた場合、特にホスト分子がチオール基(−SH基)を有する場合に該チオール基を用いてホスト分子を空隙配置構造体の表面に結合させることができるため有利である。また、ニッケルを用いた場合、特にホスト分子がアルコキシシラン基を有する場合、該アルコキシシラン基を用いてホスト分子を空隙配置構造体の表面に結合させることができるため有利である。また、半導体としては、例えば、IV族半導体(Si、Geなど)や、II−VI族半導体(ZnSe、CdS、ZnOなど)、III−V族半導体(GaAs、InP、GaNなど)、IV族化合物半導体(SiC、SiGeなど)、I−III−VI族半導体(CuInSeなど)などの化合物半導体、有機半導体が挙げられる。
【0050】
本発明において、空隙配置構造体に被測定物を保持する方法としては、種々公知の方法を使用することができ、例えば、空隙配置構造体に直接付着させてもよく、支持膜等を介して付着させてもよい。測定感度を向上させ、測定のばらつきを抑えることにより再現性の高い測定を行う観点からは、空隙配置構造体の表面に直接被測定物を付着させることが好ましい。
【0051】
空隙配置構造体に被測定物を直接付着させる場合としては、空隙配置構造体の表面と被測定物との間で直接的に化学結合等が形成される場合だけでなく、予め表面にホスト分子が結合された空隙配置構造体に対して、該ホスト分子に被測定物が結合されるような場合も含まれる。化学結合としては、共有結合(例えば、金属−チオール基間の共有結合など)、ファンデルワールス結合、イオン結合、金属結合、水素結合などが挙げられ、好ましくは共有結合である。また、ホスト分子とは、被測定物を特異的に結合させることのできる分子などであり、ホスト分子と被測定物の組み合わせとしては、例えば、抗原と抗体、糖鎖とタンパク質、脂質とタンパク質、低分子化合物(リガンド)とタンパク質、タンパク質とタンパク質、一本鎖DNAと一本鎖DNAなどが挙げられる。
【0052】
本発明の測定方法においては、上述のようにして求められる空隙配置構造体において散乱した電磁波の周波数特性に関する少なくとも1つのパラメータに基づいて、被測定物の特性が測定される。例えば、空隙配置構造体1において前方散乱(透過)した電磁波の周波数特性に生じたディップ波形や、後方散乱(反射)した電磁波の周波数特性に生じたピーク波形などが、被測定物の存在により変化することに基づいて被測定物の特性を測定することができる。
【0053】
ここで、ディップ波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の透過率)が相対的に大きくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、透過率スペクトル)に部分的に見られる谷型(下に凸)の部分の波形である。また、ピーク波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の反射率)が相対的に小さくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、反射率スペクトル)に部分的に見られる山型(上に凸)の波形である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
空隙配置構造体として、図2に示す様な正方形孔の正方格子配列を有する空隙配置構造体を使用した。格子間隔は260μm(s)、厚みは60μm(t)である。また、この空隙配置構造体における空隙部の形状は、図3に示されるように、図2のP−P’断面における空隙部の断面形状がほぼ台形である。また、第1の主面10a1側の孔サイズd1は160μm、第2の主面10a2側の孔サイズd2は200μmであった。
【0056】
膜厚4μm、複素屈折率の実部1.55、複素屈折率の虚部0、の平行平板試料(被測定物)を、空隙配置構造体1の第1の主面10a1側に密着させ、第1の主面10a1側から(図3のZ軸の矢印方向に)電磁波を照射した場合について、電磁波の透過率スペクトルを求めた。
【0057】
計算は、600μmの間隔を空けて配置された2枚のポート91,92の中間に空隙配置構造体1が設置されたモデル(図4参照)について、電磁界シミュレーター(Microstripes:CST社製)を用いて行った。空隙配置構造体1に照射される電磁波の偏光は直線偏光(図2のY軸に平行)であり、進行方向はZ軸の矢印方向とした。また、空隙配置構造体1は、その主面が電磁波の進行方向(Z軸方向)と垂直となるように(即ち、図4のθ=0度となるように)配置した。
【0058】
図5に、計算により得られた透過率スペクトルを示す。図5の実線は空隙配置構造体に被測定物を保持させていない場合、破線は空隙配置構造体に被測定物を保持させた場合の透過率スペクトルである。図5において、透過率スペクトルにおけるピークが現れる周波数の差(周波数シフト量)は、30.81GHzであった。
【0059】
(比較例1)
比較例1として、空隙配置構造体1の第1の主面10a1側の孔サイズd1と第2の主面10a2側の孔サイズd2が同じ場合(d1=d2の場合:空隙部の断面形状が長方形の場合)について、実施例1と同様に、電磁界シミュレーターを用いて透過率スペクトルを求めた。なお、d1およびd2が共に、160μmである場合、180μmである場合、200μmである場合の3つの場合について、被測定物を保持させていない場合と被測定物を保持させた場合の透過率スペクトルを求め(図示せず)、周波数シフト量を求めた。
【0060】
その結果、d1およびd2が160μmの場合の周波数シフト量は29.00GHz、180μmの場合の周波数シフト量は29.91GHz、200μmの場合の周波数シフト量は28.09GHzであった。
【0061】
実施例1および比較例1の結果から、空隙配置構造体の第1の主面における開孔面積と第2の主面における開孔面積が異なることで、周波数シフト量が大きくなり、測定感度が向上したことが分かる。また、実施例1および比較例1の結果から、空隙配置構造体の第1の主面と空隙部の内壁のなす角度が鋭角であることにより、周波数シフト量が大きくなり、測定感度が向上したことが分かる。
【0062】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 空隙配置構造体、10a 主面、10a1 第1の主面、10a2 第2の主面、10b 側面、10c 外周、11 空隙部、11a 内壁、2 レーザ、20 ハーフミラー、21 ミラー、22,23,24,25 放物面ミラー、26 時間遅延ステージ、3 電源、4 ロックインアンプ、5 PC(パーソナルコンピュータ)、6 アンプ、71,72 光電導素子、8 発振器、91,92 ポート。
図1
図2
図3
図4
図5