(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カソード極に供給されるカソードガスと、アノード極に供給されるアノードガスとを電気化学的に反応させることにより、電力を発生する燃料電池であって、アノード極とセパレーターを介して冷却水が供給される冷却システムを備えた燃料電池システムの制御方法であって、
要求発電量に基づいて前記燃料電池のアノード極に所定の脈動圧力でアノードガスを供給する燃料ガス供給工程と、
前記燃料電池の電解質膜の湿潤状態又は前記燃料電池の放熱要求に基づいて所定の冷却水流量を供給する冷却水供給工程と、
燃料電池スタック内の前記冷却水の圧力が前記脈動圧力の変動範囲外となるように、前記冷却水の流量及び/又は前記アノードガスの脈動圧を制御する制御工程と、
を含み、
前記制御工程において、前記冷却水の圧力が前記燃料電池内の前記アノードガスの脈動圧力よりも高い状態から両圧力が近づく場合、前記冷却水の圧力が前記アノードガスの脈動圧よりも高くなるように前記冷却水の流量を増加させる、
燃料電池システムの制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態を示す図である。
【0012】
最初に
図1を参照して、本発明による燃料電池システムの基本構成について説明する。
【0013】
本発明による燃料電池システムは、アノードガスH
2の供給停止が繰り返されて、アノードガスH
2が脈動供給される、いわゆるアノードデッドエンドタイプのシステムである。アノードガスH
2が供給されると燃料電池スタック内のアノード圧が上昇する。アノードガスH
2が停止されて燃料電池スタック内でアノードガスが発電消費されるとアノード圧が下降する。これが繰り返されることで、アノードガスH
2の利用効率が向上する。また発電反応を促進すべく、燃料電池スタック10は、電解質膜が適度な湿潤状態に維持される。このようにするために、燃料電池スタック10には、カソードライン20と、アノードライン30と、冷却水循環ライン40と、が接続される。
【0014】
カソードライン20には、燃料電池スタック10に供給されるカソードガスO
2が流れる。カソードライン20には、コンプレッサー21と、WRD(Water Recovery Device)22と、カソード調圧弁23と、が設けられる。
【0015】
コンプレッサー21は、燃料電池スタック10やWRD22よりも上流のカソードライン20に配置される。コンプレッサー21は、たとえばモーターによって駆動される。コンプレッサー21は、カソードライン20を流れるカソードガスO
2の流量を調整する。カソードガスO
2の流量は、コンプレッサー21の回転速度によって調整される。
【0016】
WRD22は、燃料電池スタック10に導入される空気を加湿する。WRD22は、加湿対象となるガスが流れる被加湿部と、加湿源となる水含有ガスが流れる加湿部と、を含む。被加湿部には、コンプレッサー21によって導入された空気が流れる。加湿部には、燃料電池スタック10を通流して水を含有しているガスが流れる。
【0017】
カソード調圧弁23は、燃料電池スタック10よりも下流のカソードライン20に設けられる。カソード調圧弁23は、カソードライン20を流れるカソードガスO
2の圧力を調整する。カソードガスO
2の圧力は、カソード調圧弁23の開度によって調整される。
【0018】
アノードライン30には、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスH
2が流れる。アノードライン30には、H
2タンク31と、アノード調圧弁32と、バッファータンク33と、パージ弁34と、が設けられる。
【0019】
H
2タンク31には、アノードガスH
2が高圧状態で貯蔵されている。H
2タンク31は、アノードライン30の最上流に設けられる。
【0020】
アノード調圧弁32は、H
2タンク31の下流に設けられる。アノード調圧弁32は、H
2タンク31からアノードライン30に供給するアノードガスH
2の圧力を調整する。アノードガスH
2の圧力は、アノード調圧弁32の開度によって調整される。上述のように、本発明による燃料電池システムでは、アノードガスH
2の供給停止が繰り返される。すなわち、アノード調圧弁32の開閉が繰り返されることで、アノードガスH
2の供給停止が繰り返される。アノードガスH
2の供給圧力は、燃料電池に要求される発電量に応じて設定される。すなわち要求発電量が高いほど、アノードガスH
2の供給圧力も高くなる。
【0021】
バッファータンク33は、燃料電池スタック10の下流に設けられる。バッファータンク33は、燃料電池スタック10から流出したアノードガスH
2を蓄える。
【0022】
パージ弁34は、バッファータンク33の下流に設けられる。燃料電池スタックでは、カソード流路に空気(酸素)が供給されるとともに、アノード流路に水素が供給される。この結果、電解質膜で発電反応が生じる。このとき、カソード流路に供給された空気の一部が電解質膜を透過してアノード流路に漏れることがある。この場合、空気中の窒素N
2は、反応することなく、バッファータンク33に溜まる。このような窒素N
2が、燃料電池スタックのアノード流路に逆流しては、水素分圧が下がってしまって、発電反応が阻害される。そこで適時、パージ弁34が開かれて、アノードガスH
2とともに窒素N
2がパージされる。
【0023】
アノードガスの圧力は、圧力センサー131で検出される。
【0024】
冷却水循環ライン40には、燃料電池スタック10に供給される冷却水が流れる。冷却水循環ライン40には、ラジエーター41と、三方弁42と、ウォーターポンプ43と、が設けられる。また冷却水循環ライン40には、バイパスライン400が並設される。バイパスライン400は、ラジエーター41よりも上流から分岐し、ラジエーター41よりも下流に合流する。このためバイパスライン400を流れる冷却水は、ラジエーター41をバイパスする。
【0025】
ラジエーター41は、冷却水を冷却する。ラジエーター41には、クーリングファン410が設けられている。
【0026】
三方弁42は、バイパスライン400の合流部分に位置する。三方弁42は、開度に応じて、ラジエーター側のラインを流れる冷却水の流量と、バイパスラインを流れる冷却水の流量と、を調整する。これによって冷却水の温度が調整される。
【0027】
ウォーターポンプ43は、三方弁42の下流に位置する。ウォーターポンプ43は、三方弁42を流れた冷却水を燃料電池スタック10に送る。ウォーターポンプ43の回転速度が上がれば、冷却水の流量が増すとともに、冷却水の圧力が上昇する。ウォーターポンプ43の回転速度が下がれば、冷却水の流量が減るとともに、冷却水の圧力が下降する。
【0028】
また冷却水循環ライン40の途中には、加圧キャップ421が設けられる。冷却水循環ライン40の冷却水の圧力が第1設定圧よりも高圧になると、加圧キャップ421が開弁する。この結果、冷却水循環ライン40の冷却水がリザーバータンク422に逃がされる。また冷却水循環ライン40の冷却水の圧力が第2設定圧よりも低圧になると、加圧キャップ421が開弁する。この結果、リザーバータンク422の冷却水が冷却水循環ライン40に戻される。
【0029】
冷却水の圧力は、スタック入口圧力センサー141及びスタック出口圧力センサー142で検出される。冷却水の温度は、温度センサー143で検出される。
【0030】
種々センサーの信号は、コントローラーに送られる。コントローラーは、これらの信号に基づいて、コンプレッサー21、カソード調圧弁23、アノード調圧弁32、パージ弁34、三方弁42、ウォーターポンプ43の作動を制御する。
【0031】
このような構成によって、燃料電池スタック10は、適温に維持されることで、電解質膜が適度な湿潤状態に維持されて、反応ガス(カソードガスO
2、アノードガスH
2)が供給されて発電する。なお、電解質膜の湿潤度は、インピーダンスから把握できる。すなわち電解質膜の湿潤度が小さいほど(電解質膜中の水分が少なく乾き気味であるほど)、インピーダンスは大きくなる。電解質膜の湿潤度が大きいほど(電解質膜中の水分が多く濡れ気味であるほど)、インピーダンスは小さくなる。この特性を利用して、たとえば燃料電池スタックの発電電流をたとえば1kHzの正弦波で変動させて電圧の変動を見る。そして1kHzの交流電圧振幅を交流電流振幅で除算することでインピーダンスを求める。そしてこのインピーダンスに基づいて電解質膜の湿潤度を得ることができる。なおインピーダンスは、このように高周波の交流を用いて求めるので、以下では、適宜、HFR(High Frequency Resistance)と称する。
【0032】
電解質膜の湿潤度を調整するには、たとえば冷却水の流量を調整すればよい。冷却水の流量が上がれば、燃料電池スタックの温度が下がり、燃料電池スタックから排出されるカソードガスO
2に含まれる水分が減る。この結果、電解質膜の湿潤度が上がる。冷却水の流量が下がれば、燃料電池スタックの温度が上がり、燃料電池スタックから排出されるカソードガスO
2に含まれる水分が増す。この結果、電解質膜の湿潤度が下がる。
【0033】
次に本発明の理解を容易にすべく、
図2A及び
図2Bを参照して、一般的な燃料電池システムで起こり得る事象について説明する。
【0034】
図2Aは、MEAの一例を示す平面図である。
図2Bは、
図2Aの2B−2B断面の一部を拡大した図である。
図2B(a)は、アノード圧が冷却水圧よりも大きい状態を示す。
図2B(b)は、アノード圧が冷却水圧よりも小さい状態を示す。
【0035】
図2Aに示されるように、燃料電池スタック10を構成するMEA100は、電解質膜110の両側にガス拡散部120が形成されている。ガス拡散部120には、エンボスが形成されている。またMEA100には、アノード供給口101aと、アノード排出口101bと、カソード供給口102aと、カソード排出口102bと、冷却水供給口103aと、冷却水排出口103bとが設けられている。本実施形態では、カソード供給口102a、冷却水供給口103a及びアノード排出口101bは図中右側に設けられている。またアノード供給口101a、冷却水排出口103b及びカソード排出口102bは図中左側に設けられている。MEA100が積層されると、これによってマニホールドが形成される。
【0036】
図2B(a)に示されるように、MEA100の一方の面にアノードセパレーター200が重ねられ、他方の面にカソードセパレーター300が重ねられる。このようなアッセンブリーのうち、MEA100とアノードセパレーター200とで形成される空間がアノード流路である。MEA100とカソードセパレーター300とで形成される空間がカソード流路である。そして、ひとつのアッセンブリーに別のアッセンブリーが積層されて燃料電池スタック10が構成される。すなわち、ひとつのアッセンブリーのアノードセパレーター200の上に、別のアッセンブリーのカソードセパレーター300が重ねられて燃料電池スタック10が構成される。なおひとつのアッセンブリーのアノードセパレーター200と、別のアッセンブリーのカソードセパレーター300とで形成される空間が冷却水流路である。
【0037】
各アッセンブリーは、電解質膜110の付近では互いに当接しているが、
図2B(a)に示されるような電解質膜110が無いガス拡散部120の付近では、積層時の誤差が吸収できるように、板厚方向で微小な隙間が設けられている。
【0038】
上述のように、アノードガスH
2は、要求発電量に応じた圧力で脈動供給される。また冷却水の流量は、電解質膜の湿潤度に応じて調整される。このように別々のパラメーターに基づいて制御されるので、アノードガスH
2の脈動圧と冷却水の圧力と重なる場合がある。アノードガスH
2の圧力が上昇して冷却水の圧力よりも大きくなると、
図2B(a)に示されるように、アノード流路が広がり冷却水流路が狭まる。アノードガスH
2の圧力が下降して冷却水の圧力よりも小さくなると、
図2B(b)に示されるように、アノード流路が狭まり冷却水流路が広がる。これが繰り返されると、冷却水が脈動して燃料電池スタック10から流出することとなる。すると、冷却水循環ライン40が脈動してしまい、異音や振動が生じることが発明者らによって知見された。そこで、このような事態が生じないように、アノードガスの脈動圧又は冷却水流量を調整するようにしたのである。以下では、具体的な制御内容について説明する。
【0039】
図3は、冷却水の圧力がアノードガスの脈動下限圧よりも低圧である場合に冷却水の流量を補正するときの制御内容を示す制御ブロック図である。
【0040】
アノードガスの圧力は、ブロックB101と、ブロックB102とで制御される。具体的な内容は、以下で説明される。
【0041】
ブロックB101は、要求発電量Iに基づいてアノードガスH
2の脈動圧(脈動上限圧及び脈動下限圧)を設定する。具体的には、ブロックB101は、たとえば予め設定されているマップに要求発電量Iを適用して、アノードガスH
2の脈動圧(脈動上限圧及び脈動下限圧)を設定すればよい。なお、脈動上限圧は、アノードガスH
2の圧力が脈動しているときの脈動圧力について脈動圧力が変動する変動範囲の上限値である。また脈動下限圧は、脈動圧力の変動範囲の下限値である。
【0042】
ブロックB102は、圧力センサー131で検出されたアノードガスの実圧力PH2をフィードバックして、その実圧力PH2が目標値に一致するようにアノード調圧弁32を制御する。
【0043】
冷却水の流量は、ブロックB201と、ブロックB202と、ブロックB203と、ブロックB204と、ブロックB205とで制御される。具体的な内容は、以下で説明される。
【0044】
ブロックB201は、要求発電量Iに基づいて目標HFRを設定する。具体的には、たとえば予め設定されているマップに要求発電量Iを適用して、目標HFRを設定すればよい。
【0045】
ブロックB202は、検出された実HFRをフィードバックして、その実HFRが目標HFRに一致するようにウォーターポンプ43の回転速度を設定する。
【0046】
ブロックB203は、ブロックB202で設定されたウォーターポンプの回転速度と、燃料電池スタックの放熱要求によって設定されるウォーターポンプの回転速度とを比較して、大きい方を、ウォーターポンプ43の回転速度基本値として出力する。
【0047】
ブロックB204は、ブロックB101で設定されたアノードガスH
2の脈動下限圧と、スタック入口圧力センサー141で検出された冷却水の実圧とに基づいて、ポンプ回転補正量を設定する。なお、冷却水の圧力は、アノードガスH
2の脈動下限圧と比較するときには、スタック入口圧力センサー141の検出値を用いる。スタック入口の圧力が最も高く、アノードガスH
2の脈動下限圧を上回る可能性が高いからである。また後述の実施形態のように、アノードガスH
2の脈動上限圧と比較するときには、スタック出口圧力センサー142の検出値を用いる。スタック出口の圧力が最も低く、アノードガスH
2の脈動上限圧を下回る可能性が高いからである。
【0048】
ポンプ回転補正量は、たとえば予め
図4のように設定されているマップに、アノードガスH
2の脈動下限圧から冷却水実圧を減算した値を適用して設定される。
図4に示される例では、アノードガスH
2の脈動下限圧から冷却水実圧を減算した値がゼロよりも大きい一定範囲でのみ、一定の補正量(負値)が設定される。
【0049】
ブロックB205は、ブロックB203から出力されたウォーターポンプ43の回転速度基本値を、ブロックB204から出力されたポンプ回転補正量で補正して、ウォーターポンプ43の回転速度を設定する。そして、ウォーターポンプ43の回転を制御する。
【0050】
図5は、冷却水の圧力がアノードガスの脈動下限圧よりも低圧である場合に冷却水の流量を補正するときの制御を実行したときのタイミングチャートである。
【0051】
時刻t11までは、要求発電量が低い。この要求発電量に基づいて、アノードガスの脈動上限圧及び脈動下限圧が設定され、アノードガスが脈動供給される。また冷却水の流量が制御される。このとき、冷却水の圧力は、アノードガスの脈動下限圧を大幅に下回っている。このような場合には、ポンプ回転補正量はゼロであり、ウォーターポンプ43の回転は補正されない。
【0052】
時刻t11で要求発電量が上がる。この結果、アノードガスの脈動上限圧及び脈動下限圧も上昇する。また燃料電池スタックの発熱量も増えて、湿潤度が乾燥気味になるので、それを抑制すべく、冷却水の流量が上がって冷却水の圧力が上昇する。
【0053】
そして時刻t12以降は、冷却水圧が、アノードガスの脈動下限圧を所定量だけ下回るように、ウォーターポンプ43の回転が制御される。
【0054】
このように燃料電池スタック10内において、冷却水の圧力が、脈動圧力よりも低い状態から脈動圧力の下限値に近づく場合にはブロックB204及びB205によって、冷却水の実圧がアノードガスの脈動下限圧(脈動圧)よりも低くなるように冷却水の流量が減らされる。
【0055】
本実施形態によれば、冷却水の圧力が、アノードガスの圧力を常に下回る。そのため、アノードガスが脈動供給されても、常に、
図2B(a)に示されるように、アノード流路が広がって冷却水流路が狭まった状態が維持される。そのため、アノードガスが脈動供給されても、冷却水は脈動することなく燃料電池スタック10から流出する。したがって、冷却水循環ライン40の脈動に起因する異音や振動を抑制できるのである。
【0056】
なお本実施形態では、冷却水の流量が小さくなるように補正するので、燃料電池スタックの温度が高めになって、電解質膜の湿潤度が乾燥気味になりやすい。これについては、コンプレッサー21を制御してカソードガスO
2の流量を下げることや、カソード調圧弁23を制御してカソードガスO
2の圧力を上げることで、フォローすることができる。またクーリングファン410の回転を増やすことや、三方弁42を制御することで、冷却水の温度を下げることで対応してもよい。
【0057】
また本実施形態のように、冷却水の圧力が、アノードガスの圧力を常に下回るように制御しては、燃料電池スタックを冷却しきれないおそれがある。そこでたとえば一時的な急加速のような大きな要求発電量になったときには、冷却水の流量を補正する制御を停止して、燃料電池スタックの冷却を優先してもよい。このような場合は、暗騒音が大きいため、仮に冷却水の脈動による異音や振動が生じても、ドライバーは違和感を受けにくいからである。なお冷却水の流量を補正する制御を停止するための基準発電量は、実験等を通じて適宜設定すればよい。
【0058】
また同様に、車速が高いときに、冷却水の流量補正の制御を停止して、燃料電池スタックの冷却を優先してもよい。このような場合も、暗騒音が大きいため、仮に冷却水の脈動による異音や振動が生じても、ドライバーは違和感を受けにくいからである。なお補正を停止するための基準車速は、実験等を通じて適宜設定すればよい。
【0059】
(第2実施形態)
図6は、本発明による燃料電池システムの、冷却水の圧力がアノードガスの脈動上限圧よりも高圧である場合に冷却水の流量を補正するときの制御内容を示す制御ブロック図である。
【0060】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0061】
ブロックB101,ブロックB102,ブロックB201,ブロックB202,ブロックB203は、第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0062】
ブロックB224は、ブロックB101で設定されたアノードガスH
2の脈動上限圧と、スタック出口圧力センサー142で検出された冷却水の実圧とに基づいて、ポンプ回転補正量を設定する。
【0063】
ポンプ回転補正量は、たとえば予め、
図7のように設定されているマップに、アノードガスH
2の脈動上限圧から冷却水実圧を減算した値を適用して設定される。
図7に示される例では、アノードガスH
2の脈動上限圧から冷却水実圧を減算した値がゼロよりも小さい一定範囲でのみ、一定の補正量(正値)が設定される。
【0064】
図8は、冷却水の圧力がアノードガスの脈動上限圧よりも高圧である場合に冷却水の流量を補正するときの制御を実行したときのタイミングチャートである。
【0065】
時刻t21までは、要求発電量が低い。この要求発電量に基づいて、アノードガスの脈動上限圧及び脈動下限圧が設定され、アノードガスが脈動供給される。また冷却水の流量が制御される。このとき、冷却水の圧力は、アノードガスの脈動上限圧を大幅に上回っている。このような場合には、ポンプ回転補正量はゼロであり、ウォーターポンプ43の回転は補正されない。
【0066】
時刻t21で要求発電量が上がる。この結果、アノードガスの脈動上限圧及び脈動下限圧も上昇する。また燃料電池スタックの発熱量も増えて、湿潤度が乾燥気味になるので、それを抑制すべく、冷却水の流量が上がって冷却水の圧力が上昇する。
【0067】
そして時刻t22以降は、冷却水圧が、アノードガスの脈動上限圧を所定量だけ上回るように、ウォーターポンプ43の回転が制御される。
【0068】
このように燃料電池スタック10内において冷却水の圧力が、脈動圧力よりも高い状態から脈動圧力の上限値に近づく場合にはブロックB205及びB224によって、冷却水の実圧がアノードガスの脈動上限圧(脈動圧)よりも高くなるように冷却水の流量が増やされる。
【0069】
本実施形態によれば、冷却水の圧力が、アノードガスの圧力を常に上回る。そのため、アノードガスが脈動供給されても、常に、
図2B(b)に示されるように、アノード流路が狭まって冷却水流路が広がった状態が維持される。そのため、アノードガスが脈動供給されても、冷却水は脈動することなく燃料電池スタック10から流出する。したがって、冷却水循環ライン40の脈動に起因する異音や振動を抑制できるのである。
【0070】
なお本実施形態では、冷却水の流量が大きくなるように補正するので、燃料電池スタックの温度が低めになって、電解質膜の湿潤度が湿潤気味になりやすい。これについては、コンプレッサー21を制御してカソードガスO
2の流量を上げることや、カソード調圧弁23を制御してカソードガスO
2の圧力を下げることで、フォローすることができる。またクーリングファン410の回転を下げることや、三方弁42を制御することで、冷却水の温度を上げることで対応してもよい。
【0071】
(第3実施形態)
図9は、本発明による燃料電池システムの第3実施形態の制御内容を示す制御ブロック図である。
【0072】
この第3実施形態は、いわば第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせたものであり、放熱要求に応じて制御を切り換える。
【0073】
図10は、第3実施形態の制御を実行したときのタイミングチャートである。
【0074】
時刻t31までは、第1実施形態と同様に制御する。
【0075】
そして、温度センサー143で検出している冷却水温が、時刻t33で基準温度を超える。これを受けて、制御が切り換えられて、冷却水圧が、アノードガスの脈動上限圧を所定量だけ上回るように、ウォーターポンプ43の回転が制御される。
【0076】
このように、燃料電池スタック10内の冷却水の圧力が上昇し、燃料電池スタック10内のアノードガスの脈動圧力の下限値に近づく場合、冷却水の温度が所定値よりも大きいときには、冷却水の実圧が脈動上限圧よりも高くなるように冷却水の流量が増やされる。
【0077】
本実施形態によれば、冷却水循環ライン40の脈動に起因する異音や振動の抑制と、燃料電池スタックの過剰な温度上昇の防止とを両立できる。
【0078】
また、冷却水の圧力(流量)を無闇に上げるのではなく、冷却水温が上昇して放熱要求が高いときにのみ、冷却水の圧力(流量)を上げるようにした。冷却水の圧力(流量)を上げれば、ウォーターポンプ43の消費電力が上がって燃費が悪化することが懸念されるが、本実施形態では、そのような事態を最小限にとどめるので、燃費もよい。
【0079】
第1から第3までの実施形態によれば、燃料電池スタック10内の冷却水の圧力がアノードガスの脈動圧力の変動範囲外となるように冷却水の流量が増減されるので、燃料電池スタック10内の冷却水の圧力とアノードガスの脈動圧とが重なることを抑制できる。このため、アノードセパレーター200の振動を抑制することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0081】
たとえば上記実施形態では、冷却水の流量を補正するための補正量を一定量としているが、それには限られない。種々の手法で設定でき、このような場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0082】
また上記実施形態では、アノードガスH
2の脈動圧と冷却水の圧力とが重ならないように、すなわち冷却水の圧力が脈動圧力の変動範囲外となるように冷却水の流量(冷却水の圧力)を調整するようにしたが、アノードガスH
2の脈動圧を調整するようにしてもよい。
【0083】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0084】
本願は、2012年12月14日に日本国特許庁に出願された特願2012−273619に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。