(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、還流路の内径は、同還流路内へのボールの進入し易さ等を考慮して、ボールの外径よりも大きく形成されている。すなわち、還流路の任意の位置において内部に内接する最大の内接球C(例えば還流路の断面が円形の場合には、その内径と等しい直径を有する球)を想定した場合に、同内接球Cの直径がボールの外径よりも大きくなるように形成されている。そのため、還流路内において、各ボールは延伸方向から逸れた方向に移動可能となる。そのため、例えば
図17に示すように、還流路L5内において、各ボール71が還流路L5の延伸方向に沿って配列されず、その配列が乱れた状態となることがある。詳しくは、隣接する各ボール71の中心を結ぶ直線が、還流路L5の延伸方向に対してジグザグになる所謂千鳥状に各ボール71が配列されることがある。
【0008】
そして、このように各ボール71の配列が乱れると、隣接する各ボール71間に作用する力(
図17において太線で示す)が還流路L5の延伸方向から外れてばらばらの方向になることから、還流路L5内におけるボール71を移動させる力が弱まり、トルクの伝達効率が低下してしまう。その結果、EPSにおいてアシスト力不足が生じ、ひいては、これが所謂引っ掛かり感となって操舵フィーリングの低下を招く虞がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、トルクの伝達効率が低下することを抑制できるボール螺子装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、外周に螺子溝が螺刻された螺子軸と、内周に螺子溝が螺刻されたボール螺子ナットと、前記螺子軸の螺子溝と前記ボール螺子ナットの螺子溝とを対向させてなる螺旋状の転動路内に配設された複数のボールと、を備え、前記ボール螺子ナットには、前記転動路の一端と他端とを短絡して前記転動路内を転動する各ボールの無限循環を可能とする還流路が形成され、前記ボール螺子ナットが回転することによって前記ボールが前記転動路内を転動し、前記還流路は、前記ボールの移動方向を変化させる変化部を有するとともに、前記還流路の任意の位置において内部に内接する最大の内接球を想定した場合に、前記内接球の直径が該還流路の全領域において前記ボールの外径よりも大きくなるように形成され、前記変化部には、前記還流路の内側に突出した絞り部が形成され、
前記還流路には、前記螺子軸の螺子溝内に突出して前記ボールを前記転動路から前記還流路内に掬い上げるベロ部が形成され、前記変化部の少なくとも1つは、前記ベロ部を含む掬い上げ領域であって、前記掬い上げ領域の絞り部が、千鳥状となる位置に他の絞リ部を有することなく前記ベロ部に対向する位置に形成されており、前記変化部における内接球の直径が、前記変化部に隣接する隣接領域における内接球の直径よりも小さいことを要旨とする。
【0011】
還流路の任意の位置においてその内部に内接する最大の仮想的な内接球の直径がボールの外径よりも大きいと、還流路内を移動するボールが還流路の延伸方向から逸れて移動し、各ボールの配列が乱れてしまう虞がある。そして、このような配列の乱れは、ボールの移動方向が変化する変化部において生じ易い。この点、上記構成によれば、変化部における内接球の直径を、変化部に隣接する隣接領域における内接球の直径よりも小さくすることで、ボールが変化部において還流路の延伸方向から逸れるのを抑制し、ボール配列の乱れを効果的に防止できる。これにより、還流路内において隣接する各ボール間に作用する力が還流路の延伸方向に沿うようになるため、還流路内におけるボールを移動させる力が弱まることを抑制でき、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる。
【0012】
また、上記構成では、還流路の全領域において、内接球の直径がボールの外径よりも大きくなるように形成されている。そのため、内接球の直径が小さく形成された変化部においてもボールの移動が妨げられる虞を少なくすることができる。
【0013】
また、還流路の内側に突出した絞り部を変化部に形成することにより、変化部における内接球の直径を、隣接領域における内接球の直径よりも小さくすることができる。
また、ボールは、ベロ部に掬い上げられることにより、転動路から還流路内へ進入するようになっており、このベロ部を含む掬い上げ領域において該押圧されたボールの移動方向が急変する。そのため、ボールは、ベロ部に掬い上げられた際に、延伸方向から逸れた方向に移動し易い。この点、上記構成によれば、ベロ部に対向する位置に絞り部が形成されるため、効果的にボールが延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制できる。また、上記のように還流路内においては、各ボールはボール循環方向後方に隣接したボールに押圧されることで移動する。そのため、各ボールは、その移動方向が還流路の延伸方向から逸れなければ、還流路におけるベロ部と対向する位置には接触せずに同還流路内を通過することになる。従って、上記構成のように、ベロ部と対向する位置に絞り部を形成することで、各ボールの延伸方向に沿った移動が妨げられる虞をより一層少なくすることができる。
上記目的を達成するため、請求項2に記載の発明は、外周に螺子溝が螺刻された螺子軸と、内周に螺子溝が螺刻されたボール螺子ナットと、前記螺子軸の螺子溝と前記ボール螺子ナットの螺子溝とを対向させてなる螺旋状の転動路内に配設された複数のボールと、を備え、前記ボール螺子ナットには、前記転動路の一端と他端とを短絡して前記転動路内を転動する各ボールの無限循環を可能とする還流路が形成され、前記ボール螺子ナットが回転することによって前記ボールが前記転動路内を転動し、前記還流路は、前記ボールの移動方向を変化させる変化部を有するとともに、前記還流路の任意の位置において内部に内接する最大の内接球を想定した場合に、前記内接球の直径が該還流路の全領域において前記ボールの外径よりも大きくなるように形成され、前記変化部には、前記還流路の内側に突出した絞り部が形成され、前記還流路には、前記螺子軸の螺子溝内に突出して前記ボールを前記転動路から前記還流路内に掬い上げるベロ部が形成され、前記変化部の少なくとも1つは、前記ベロ部を含む掬い上げ領域であって、前記絞り部が、前記ベロ部に対向する位置に形成されており、前記還流路の最も内側に突出した前記絞り部の最狭地点が、前記ベロ部に接触した状態のボールのボール循環方向前方に隣接するボールの中心よりもボール循環方向後方に位置し、前記変化部における内接球の直径が、前記変化部に隣接する隣接領域における内接球の直径よりも小さいことを要旨とする。
上記構成によれば、ベロ部に接触した状態のボールに対して循環方向前方に隣接するボールが、絞り部の最狭地点よりもボール循環方向後方側に当接することを防止できる。これにより、該ボール循環方向前方に隣接するボールの移動に与える影響を小さくして、円滑に移動させることができる。
請求項
3に記載の発明は、請求項1
又は2に記載のボール螺子装置において、前記絞り部は、前記ボールに対して点接触するように形成されたことを要旨とする。
【0014】
還流路内には、例えばボールの転動により生じた摩耗粉等の異物がボールとともに入り込むことがあり、この異物がボールと絞り部との間に詰まることで、還流路内でのボールの移動が妨げられる虞がある。この点、上記構成によれば、絞り部がボールに対して点接触するため、ボールの外周に線接触するように形成される場合に比べ、ボールと絞り部との間に大きな隙間を形成することが可能になり、還流路内に入り込んだ異物によりボールの移動が妨げられることを抑制できる。
【0015】
請求項
4に記載の発明は、請求項
3に記載のボール螺子装置において、前記絞り部は、前記ボールに対して複数点で接触するように形成されたことを要旨とする。
ボールが絞り部に対して一点で接触する場合には、同ボールは絞り部に接触した状態から、さらに還流路の延伸方向から逸れた方向に移動する虞ある。この点、上記構成によれば、絞り部がボールに対して複数点で接触するように形成されているため、ボールが絞り部に接触した状態で延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制し、ボールの移動を安定化させることができる。
【0016】
また、絞り部はボールに対して複数点で接触するため、ボールの外周に線接触するように形成される場合に比べ、ボールと絞り部との間に大きな隙間を形成することが可能になり、還流路内に入り込んだ異物によりボールの移動が妨げられることを抑制できる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項
1〜4
のいずれか一項に記載のボール螺子装置において、前記絞り部は、前記ベロ部に接触した状態のボールのボール循環方向前方に隣接したボールが位置する所定領域に形成されることを要旨とする。
【0021】
上記のようにベロ部においてボールの移動方向が急変するため、ベロ部に掬い上げられたボールの移動方向は、そのボール循環方向後方に隣接したボールの移動方向と大きく異なる。そのため、ベロ部に掬い上げられたボールは、そのボール循環方向後方に隣接したボールがベロ部に接触して掬い上げられるまでの間は、延伸方向から逸れた方向に移動し易い。一方、ベロ部に掬い上げられたボールは、そのボール循環方向後方に隣接したボールがベロ部に掬い上げられた後の状態では、これら両ボールの移動方向は大きく異ならなくなるため、延伸方向から逸れた方向に移動し難くなる。
【0022】
この点、上記構成によれば、ベロ部に接触した状態のボールに対してボール循環方向前方に隣接したボールが延伸方向から逸れた方向に移動することが抑制される。すなわち、ベロ部に掬い上げられたボールが、延伸方向から逸れた方向に移動し易い状態となる最後の時点で、延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制できるため、還流路内でのボール配列が乱れることを好適に抑制できる。
【0028】
請求項
6に記載の発明は、請求項1〜
5のいずれか一項に記載のボール螺子装置を備えた電動パワーステアリング装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、還流路内において、ボールが延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制して各ボールの配列が乱れることを防ぎ、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる。そのため、アシスト力不足が生じることを防いで、操舵フィーリングの優れた電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、トルクの伝達効率が低下することを抑制可能なボール螺子装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、略円筒状をなすハウジング2に挿通されたラック軸3は、ラックガイド及び滑り軸受(ともに図示略)に支承されることにより、その軸方向に沿って移動可能に収容支持されている。そして、同ラック軸3は、周知のラック&ピニオン機構を介してステアリングシャフトと連結されることにより、ステアリング操作に伴い軸方向に往復動するようになっている。
【0032】
また、EPS1は、駆動源としてのモータ4と、同モータ4の回転をラック軸3の軸方向移動に変換して伝達するボール螺子装置5とを備えている。そして、EPS1は、これらラック軸3、モータ4及びボール螺子装置5が、ハウジング2内に一体に収容された所謂ラックアシスト型のEPSとして構成されている。
【0033】
詳述すると、モータ4は、中空軸状に形成されたモータ軸6を有しており、同モータ軸6は、ハウジング2の内周に設けられた軸受7に支承されることにより、同ハウジング2の軸方向に沿って配置されている。また、モータ4では、このモータ軸6の周面にマグネット8を固着することによりモータロータ9が形成されている。そして、モータ4は、そのモータロータ9の径方向外側を包囲するモータステータ10がハウジング2の内周に固定されるとともに、そのモータ軸6内にラック軸3が挿通されることにより、ハウジング2内においてラック軸3と同軸に配置されている。
【0034】
また、ラック軸3は、その外周に螺子溝11を螺刻することにより、螺子軸として構成されている。そして、ボール螺子装置5は、このラック軸3に複数のボール12を介してボール螺子ナット13を螺合することにより形成されている。
【0035】
具体的には、
図2に示すように、略円筒状に形成されたボール螺子ナット13の内周には、上記ラック軸3の螺子溝11に対応する螺子溝14が形成されており、ボール螺子ナット13は、その螺子溝14がラック軸3の螺子溝11と対向するように同ラック軸3に外嵌されている。
【0036】
また、ボール螺子ナット13には、螺子溝14内の二箇所(接続点P1,P2)に開口する還流路L2が形成されている。そして、上記転動路L1は、この還流路L2により、その開口位置に対応する二つの接続点P1,P2間が短絡されている。
【0037】
すなわち、ラック軸3とボール螺子ナット13との間の転動路L1内に介在された各ボール12は、ラック軸3に対するボール螺子ナット13の相対回転により、その負荷を受けつつ転動路L1内を転動するようになっている。また、転動路L1内を転動した各ボール12は、ボール螺子ナット13に形成された上記還流路L2を通過することにより、その転動路L1に設定された二つの接続点P1,P2間を下流側から上流側へと移動する。この還流路L2内では、各ボール12は、転動路L1内のようにラック軸3及びボール螺子ナット13から負荷を受けず、転動路L1から還流路L2内に新たにボール12が進入することにより、それぞれボール循環方向(進行方向)後方に隣接するボール12に押圧されて同還流路L2内を移動するようになっている。
【0038】
そして、ボール螺子装置5は、その転動路L1を転動する各ボール12が還流路L2を介して無限循環することにより、ボール螺子ナット13の回転をラック軸3の軸方向移動に変換することが可能となっている。
【0039】
ここで、本実施形態のボール螺子装置5では、この還流路L2は、ボール螺子ナット13に対して、上記転動路L1から各ボール12を掬い上げる機能及び同転動路L1への再排出機能を備えた循環部材(デフレクタ)15を装着することにより形成される。つまり、ボール螺子装置5は、所謂デフレクタ式のボール螺子装置として構成されている。なお、本実施形態の循環部材15は、加熱溶融した金属を成形金型に射出して成形する金属射出成形(MIM:Metal Injection Molding)により製造される。
【0040】
詳述すると、
図3及び
図4に示すように、ボール螺子ナット13には、上記二つの接続点P1,P2に対応する位置に、同ボール螺子ナット13を径方向に貫通する一対の取付孔16,17が形成されている。なお、本実施形態では、各接続点P1,P2は、ボール螺子ナット13の軸方向において、その間に複数列の螺子溝14を挟む位置に設定されており、転動路L1及び還流路L2により1つの循環経路が形成されるようになっている(
図2参照)。また、各取付孔16,17は、断面略小判型に形成されるとともに、ボール螺子ナット13の周方向(
図3における上下方向)において、互いにずれた位置に形成されている。そして、ボール螺子ナット13の周面13aには、これら両取付孔16,17間を接続する取付凹部18が凹設されている。
【0041】
一方、
図5〜
図7に示すように、循環部材15は、上記各取付孔16,17に挿入される一対の挿入部19,20と、これら両挿入部19,20間を連絡する連絡部21とを備えてなる。
【0042】
具体的には、各挿入部19,20は、各取付孔16,17の断面形状に対応した断面略小判型をなす筒状に形成されている。また、連絡部21は、各挿入部19,20の基端(
図6における上側の端部)19a,20aを連絡するようにこれら各挿入部19,20間に形成されている。そして、連絡部21は、上記取付凹部18に対応して同取付凹部18に嵌合可能な形状に形成されている(
図3及び
図4参照)。
【0043】
つまり、循環部材15は、その各挿入部19,20が、それぞれ対応する各取付孔16,17に挿入されるとともに、その連絡部21が、各取付孔16,17間を接続する取付凹部18に嵌着されることにより、ボール螺子ナット13に装着される。そして、上記還流路L2は、その循環部材15の装着により、各取付孔16,17に挿入された各挿入部19,20が形成する第1通路L3と、取付凹部18に嵌着された連絡部21が形成する第2通路L4とにより構成される。
【0044】
第1通路L3は、各挿入部19,20の挿入端(
図6における下側の端部)19b,20bから各挿入部19,20の外部に開口するとともに、当該各挿入部19,20の軸線(
図6における上下方向)に略沿うように同挿入端19b,20bから基端19a,20a側に向って延設されている。そして、同第1通路L3は、その全長に亘って滑らかに湾曲することにより、その基端19a,20a側が、上記連絡部21の形成する第2通路L4に接続されるようになっている。具体的には、
図5に示すように、ボール螺子ナット13の径方向視で、各第1通路L3は、円弧状に湾曲して形成されている。また、第1通路L3の延伸方向と直交する断面は、略円形状に形成されるとともに、ボール12の進入し易さ等を考慮して、その内径が同ボール12の外径よりも大きく形成されている。
【0045】
また、
図7に示すように、ボール螺子ナット13に装着された循環部材15の挿入端19b,20bにおけるラック軸3側の部位23には、上記転動路L1内を転動した各ボール12を同転動路L1から還流路L2内に掬い上げるためのベロ部24が形成されている。このベロ部24は、ラック軸3の螺子溝11内に挿入されるように突出して形成されている。そして、ベロ部24のボール12が接触する上面24aは、第1通路L3(還流路L2)の延伸方向と略沿うように形成されるとともに、第1通路L3の延伸方向と直交する断面が同第1通路L3と略同一の曲率を有する円弧状に形成されている。
【0046】
従って、各挿入部19,20に形成された第1通路L3は、該各挿入部19,20が各取付孔16,17に挿入されることによって、転動路L1に接続される。そして、上記転動路L1内を転動する各ボール12は、そのボール循環方向後方に隣接するボール12によって押圧されることにより、その挿入端19b,20bに形成された上記ベロ部24に掬い上げられ、同第1通路L3(還流路L2)内へと進入するようになっている。
【0047】
図5〜
図8に示すように、連絡部21には、該連絡部21の挿入端(
図8における下側の端部)21b側に開口した連絡溝25が凹設されており、同連絡溝25により第2通路L4が構成されている。この連絡溝25は、連絡部21の軸線Mに沿って直線状に形成されることにより、その両端が各挿入端19b,20bに形成された第1通路L3に連通されている。そして、
図8に示すように、この第2通路L4の延伸方向と直交する断面は、第1通路L3と同一の内径を有するとともに、挿入端21b側の一部が切り欠かれた円形状に形成されている。具体的には、連絡部21の挿入端21bには、連絡溝25の内側に対向して突出するとともに、連絡溝25の長手方向に沿って延びるフランジ対26が形成されており、このフランジ対26により、同連絡溝25(第2通路L4)を通過する各ボール12が支持されるようになっている。
【0048】
また、
図3に示すように、ボール螺子ナット13の周面13aには、上記取付凹部18の周縁を囲むように同取付凹部18に連通する浅溝27が形成されている。一方、
図5及び
図6に示すように、連絡部21の基端(
図6における上側の端部)21aには、この浅溝27に対応するフランジ28が形成されている。そして、ボール螺子ナット13に装着された循環部材15は、この浅溝27内に配置されたフランジ28がかしめられることにより、同フランジ28がボール螺子ナット13の周面13aと面一となる状態で、ボール螺子ナット13に固定されるようになっている。
【0049】
図2〜
図4に示すように、ボール螺子ナット13は、モータ軸6の軸方向端部6aに固定されている。具体的には、ボール螺子ナット13の軸方向端部13b(
図2における右側)には、その軸方向に向って延びる中空軸状の固定軸31が形成されている。一方、モータ軸6の内周には、この固定軸31の外周に形成された螺子部32に対応する螺子部33が形成されている。そして、ボール螺子ナット13は、その固定軸31(螺子部32)がモータ軸6の螺子部33に螺合されることにより、同モータ軸6の軸方向端部6aに固定されている。なお、本実施形態では、モータ軸6における軸方向端部6aの外周には、略円環状の規制部材34が螺着されており、ボール螺子ナット13の軸方向端部13bに形成された係合凹部35に、同規制部材34の規制部36がかしめられて係合することにより、ボール螺子ナット13とモータ軸6との相対回転が規制されるようになっている。
【0050】
そして、駆動源であるモータ4の回転は、このボール螺子ナット13がモータ軸6とともに一体回転することによりボール螺子装置5へと入力される。これにより、EPS1は、ボール螺子ナット13を回転駆動し、モータ4のトルクを軸方向の押圧力としてラック軸3に伝達することにより、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する構成となっている。
【0051】
(ボール配列の乱れ抑制構造)
次に、還流路L2内において、各ボール12が還流路L2の延伸方向に沿って配列されず、乱れた状態となることを抑制するための構造について説明する。
【0052】
上述のように、還流路L2(第1通路L3及び第2通路L4)の内径は、ボール12の同還流路L2内への進入し易さ等を考慮して、ボール12の外径よりも大きく形成されているため、還流路L2内において、各ボール12が延伸方向から逸れた方向に移動して、ボール12の配列が乱れる虞がある。そして、このように各ボール12の配列が乱れると、隣接する各ボール12間に作用する力が還流路L2の延伸方向から外れてばらばらの方向になることから(
図17参照)、還流路L2内におけるボール12を移動させる力が弱まり、トルクの伝達効率が低下するといった問題が生じる。
【0053】
この点を踏まえ、
図9に示すように、還流路L2の任意の位置において内部に内接する最大の内接球C(例えば還流路L2の断面が円形の場合には、その内径と等しい直径を有する球)を想定した場合に、還流路L2は内接球Cの直径が該還流路L2の全領域においてボール12の外径よりも大きくなるように形成されている。そして、
図9及び
図10に示すように、還流路L2は、同還流路L2における各ベロ部24を含む掬い上げ領域T1における内接球C1の直径が、掬い上げ領域T1に隣接する隣接領域T2における内接球C2の直径よりも小さくなるように形成されている。具体的には、還流路L2の内側に突出した絞り部としての凸部41が、ベロ部24に対向する位置にそれぞれ形成されることにより、掬い上げ領域T1における内接球C1の直径が、隣接領域T2における内接球C2の直径よりも小さくなるように形成されている。なお、上記のようにボール循環方向後方に隣接したボール12に押圧されることによりベロ部24に当接したボール12は、同ベロ部24に掬い上げられてその移動方向が変化するようになっており、本実施形態ではベロ部24を含む掬い上げ領域T1が変化部として構成されている。
【0054】
本実施形態では、これら各凸部41は、各挿入部19,20の内周面の一部が隆起するようにそれぞれ形成されることで、循環部材15と一体に形成されている。詳述すると、
図10に示すように、凸部41は、転動路L1から還流路L2(第1通路L3)にボール12が進入するときに、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aに対して、ボール循環方向前方に隣接したボール12bが位置する還流路L2の所定領域T3の内径が小さくなるように形成されている。また、凸部41は、その最も還流路L2の内側に突出した最狭地点A1がボール12bの中心O1よりも転動路L1側(ボール循環方向後方)に位置するように形成されている。換言すれば、ベロ部24は、該ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aに対して、ボール循環方向前方に隣接したボール12bの中心O1が、凸部41の最狭地点A1よりもボール循環方向前方側に位置するように形成されている。そして、凸部41は、還流路L2(第1通路L3)の最狭地点A1での内接球C3の直径がボール12の外径よりも僅かに大きくなるように突出している(
図11参照)。また、凸部41は、その最狭地点A1からボール循環方向両側に向かって徐々に突出量が小さくなり、その両端が還流路L2の内周面に滑らかに接続されるようになっている。
【0055】
また、
図11に示すように、凸部41は、還流路L2を通過するボール12に対して1点で点接触するように形成されている。具体的には、凸部41は、延伸方向と直交する断面視で、直線状に形成されている。なお、凸部41は、循環部材15と一体に形成されているが、
図9〜
図11では、説明の便宜上、異なるハッチングを付して示す。
【0056】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)ボール螺子ナット13に循環部材15を装着することにより還流路L2を形成した。また、還流路L2の任意の位置において内部に内接する最大の内接球Cを想定した場合に、還流路L2を内接球Cの直径が該還流路L2の全領域においてボール12の外径よりも大きくなるように形成した。そして、還流路L2における各ベロ部24を含む掬い上げ領域T1における内接球C1の直径が、隣接領域T2における内接球C2の直径よりも小さくなるように形成した。
【0057】
上記構成によれば、ボール配列の乱れが生じ易い掬い上げ領域T1における内接球C1の直径を、隣接領域T2における内接球C2の直径よりも小さくすることで、ボール12が掬い上げ領域T1において還流路L2の延伸方向から逸れるのを抑制し、ボール配列の乱れを効果的に防止できる。これにより、還流路L2内において隣接する各ボール12間に作用する力が還流路L2の延伸方向に沿うようになるため、還流路L2内におけるボール12を移動させる力が弱まることを抑制でき、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる。これにより、アシスト力不足が生じることを防いで、操舵フィーリングの優れたEPS1を提供することができる。
【0058】
また、上記構成では、還流路L2の全領域において、内接球Cの直径がボール12の外径よりも大きくなるように形成されている。そのため、内接球Cの直径が小さく形成された掬い上げ領域T1においてもボール12の移動が妨げられる虞を少なくすることができる。
【0059】
(2)凸部41をボール12に対して点接触するように、延伸方向と直交する断面が直線状になるように形成した。
ここで、還流路L2内には、例えばボール12の転動により生じた摩耗粉等の異物がボール12とともに入り込むことがあり、この異物がボール12と凸部41との間に詰まることで、還流路L2内でのボール12の移動が妨げられる虞がある。この点、上記構成によれば、凸部41がボール12に対して点接触するため、ボール12の外周に線接触するように形成される場合に比べ、ボール12と凸部41との間に大きな隙間を形成することが可能になり、還流路L2内に入り込んだ異物によりボール12の移動が妨げられることを抑制できる。
【0060】
(3)還流路L2に、ラック軸3の螺子溝11内に突出してボール12を転動路L1から該還流路L2内に掬い上げるベロ部24を形成し、該ベロ部24と対向する位置に凸部41を形成した。
【0061】
ここで、ボール12は、ベロ部24に掬い上げられることにより、転動路L1から還流路L2内へ進入するようになっており、このベロ部24を含む掬い上げ領域T1において該押圧されたボール12の移動方向が急変する。そのため、ボール12は、ベロ部24に掬い上げられた際に、延伸方向から逸れた方向に移動し易い。この点、上記構成によれば、ベロ部24に対向する位置に凸部41が形成されるため、効果的にボール12が延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制できる。
【0062】
また、上記のように還流路L2内においては、各ボール12はボール循環方向後方に隣接したボール12に押圧されることで移動する。そのため、各ボール12は、その移動方向が還流路L2の延伸方向から逸れなければ、還流路L2におけるベロ部24と対向する位置には接触せずに同還流路L2内を通過することになる。従って、上記構成のように、ベロ部24と対向する位置に凸部41を形成することで、各ボール12の延伸方向に沿った移動が妨げられる虞をより一層少なくすることができる。
【0063】
(4)凸部41を、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aのボール循環方向前方に隣接したボール12bが位置する所定領域T3に形成した。
上記のようにベロ部24においてボール12の移動方向が急変するため、
図12に示すように、ベロ部24に掬い上げられたボール12b´の移動方向(
図12における矢印Y1の示す方向)は、そのボール循環方向後方に隣接したボール12a´の移動方向(
図12における矢印Y2の示す方向)と大きく異なる。そのため、ベロ部24に掬い上げられたボール12b´は、そのボール循環方向後方に隣接したボール12a´がベロ部24の先端42に接触して掬い上げられるまでの間は、延伸方向から逸れた方向に移動し易い。一方、ベロ部24に掬い上げられたボール12b´は、そのボール循環方向後方に隣接したボール12a´がベロ部24に掬い上げられた後の状態では、これら両ボール12の移動方向は大きく異ならなくなるため、延伸方向から逸れた方向に移動し難くなる。
【0064】
この点、上記構成によれば、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aに対してボール循環方向前方に隣接したボール12bが延伸方向から逸れた方向に移動することが規制される。すなわち、ベロ部24に掬い上げられたボール12b´が、延伸方向から逸れた方向に移動し易い状態となる最後の時点で、延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制できるため、還流路L2内でのボール12の配列が乱れることを好適に抑制できる。
【0065】
(5)凸部41の最狭地点A1が、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aのボール循環方向前方に隣接したボール12bの中心O1よりもボール循環方向後方に位置するようにした。上記構成によれば、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aに対してボール循環方向前方に隣接するボール12bが、凸部41の最狭地点A1よりもボール循環方向後方側に当接することを防止できる。これにより、ボール12bの移動に与える影響を小さくして、円滑に移動させることができる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、本実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、還流路における絞り部が形成される位置についてのみである。このため、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0067】
図13に示すように、各第1通路L3は、ボール螺子ナット13の径方向視で、円弧状に湾曲して形成されている。そして、本実施形態では、第1通路L3と第2通路L4との間に形成される湾曲状の湾曲領域T4における内接球C4の直径が、湾曲領域T4に隣接する隣接領域T5における内接球C5の直径よりも小さくなるように形成されている。具体的には、還流路L2の内側に突出した絞り部としての凸部51が、湾曲領域T4の内側、すなわち湾曲領域T4における第1通路L3により構成される円弧の中心O2側にそれぞれ形成されることにより、湾曲領域T4における内接球C4の直径が、隣接領域T5における内接球C5の直径よりも小さくなるように形成されている。なお、ボール循環方向後方に隣接したボール12に押圧されることにより還流路L2内を移動して、湾曲領域T4の外側に当接したボール12は、同湾曲領域T4の外側に沿ってその移動方向が連続的に変化するようになっており、本実施形態では、湾曲領域T4が変化部として構成されている。また、説明の便宜上、
図13において、凸部51にハッチングを付して示す。
【0068】
本実施形態では、これら各凸部51は、各挿入部19,20の内周面の一部が隆起するようにそれぞれ形成されることで、循環部材15と一体に形成されている。詳述すると、各凸部51は、ボール螺子ナット13の径方向視で、なだらかな山型、すなわち、第1通路L3の延伸方向における中央付近において、その突出量が最も大きくなるように形成されるとともに、延伸方向両側に向かって徐々に突出量が小さくなるように形成されている。そして、
図14に示すように、凸部51は、還流路L2(第1通路L3)の最狭地点A2での内接球C6の直径がボール12の外径よりも僅かに大きくなるように突出している。
【0069】
また、凸部51は、還流路L2を通過するボール12に対して点接触するように形成されている。具体的には、凸部51は、延伸方向と直交する断面視で、直線状に形成されている。なお、凸部51は、循環部材15と一体に形成されているが、
図14では、説明の便宜上、異なるハッチングを付して示す。
【0070】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1),(2)の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
(6)還流路L2を、転動路L1の接続点P1,P2にそれぞれ接続される第1通路L3と、各第1通路L3間を接続する直線状の第2通路L4とにより構成した。そして、湾曲領域T4の内側に凸部51を形成した。
【0071】
ここで、各ボール12は、湾曲領域T4においてその移動方向が連続的に変化していくため、同湾曲領域T4内で延伸方向から逸れた方向に移動し易い。この点、上記構成によれば、湾曲領域T4の内側に凸部51が形成されるため、効果的にボール12が延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制できる。
【0072】
また、各ボール12は、その移動方向が還流路L2の延伸方向から逸れなければ、還流路L2における湾曲領域T4の内側には接触せずに同還流路L2内を通過することになる。従って、上記構成のように、湾曲領域T4の内側に凸部51を形成することで、各ボール12の延伸方向に沿った移動が妨げられる虞をより一層少なくすることができる。
【0073】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第1実施形態では、絞り部としての凸部41を延伸方向と直交する断面が平坦な直線状に形成した。しかし、これに限らず、凸部41がボール12に対して点接触すればどのような形状でもよく、例えば
図15に示すように、延伸方向と直交する断面が凸円弧状となるように凸部41を形成してもよい。同様に、上記第2実施形態においても、凸部51を凸円弧状等の他の形状にしてもよい。
【0074】
・上記第1実施形態では、絞り部がボール12に対して1点で接触するようにしたが、これに限らず、ボール12に対して複数点で接触するようにしてもよい。具体的には、例えば
図16に示すように、延伸方向と直交する断面が凸円弧状になるとともに還流路L2の周方向に所定の間隔を空けて形成された2つの凸部61により絞り部を構成するようにしてもよい。なお、所定の間隔としては、各凸部61同士がボール12に対して同ボール12の周方向に90°間隔で接触するような間隔とすることが好ましい。
【0075】
ここで、ボール12が絞り部に対して一点で接触する場合には、同ボール12は絞り部に接触した状態においても、さらに還流路L2の延伸方向から逸れた方向に移動する虞ある。この点、上記構成によれば、各凸部61がボール12に対してそれぞれ接触するように形成されているため、ボール12が各凸部61に接触した状態で延伸方向から逸れた方向に移動することを抑制し、ボール12の移動を安定化させることができる。また、各凸部61は、ボール12に対して点接触するため、ボール12の外周に線接触するように形成される場合に比べ、ボール12と各凸部61との間に大きな隙間を形成することが可能になり、還流路L2内に入り込んだ異物によりボール12の移動が妨げられることを抑制できる。
【0076】
同様に、上記第2実施形態においても、絞り部がボール12に対して複数点で接触するようにしてもよい。
・上記各実施形態では、凸部41,51がボール12に対して点接触するようにしたが、これに限らず、ボール12に対して線接触するようにしてもよい。
【0077】
・上記第1実施形態では、凸部41の最狭地点A1を、ベロ部24の先端42に接触した状態のボール12aのボール循環方向前方に隣接したボール12bの中心O1よりもボール循環方向後方に位置するようにした。しかし、これに限らず、凸部41の最狭地点A1が、ボール12bの中心O1よりも、ボール循環方向前方側に位置するように凸部41を形成してもよい。
【0078】
・上記第1実施形態では、
図10に示すように、凸部41を、ボール12bが位置する所定領域T3全体の内径が小さくなるように形成したが、これに限らず、所定領域T3の一部の内径が小さくなるように凸部41を形成してもよい。また、掬い上げ領域T1の一部の内径が小さくなるように凸部41を形成したが、これに限らず、掬い上げ領域T1全体の内径が小さくなるように凸部41を形成してもよい。
【0079】
さらに、凸部41を形成するのは、所定領域T3及び掬い上げ領域T1に限定されるわけではなく、例えば湾曲領域T4の内側等、ボール12の移動方向が、還流路L2の延伸方向から逸れ易い何れの箇所に形成してもよい。
【0080】
・上記各実施形態では、本発明をボール螺子ナット13に1つの循環部材15(還流路L2)を装着するボール螺子装置5に適用したが、これに限らず、ボール螺子ナット13に複数の循環部材を装着し、独立した複数の循環経路が形成されるボール螺子装置(例えば特許文献1参照)に適用してもよい。また、デフレクタ式のボール螺子装置に限らず、管状のリターンチューブにより還流路を形成する所謂リターンチューブ式のもの(例えば、特開2010−38217号公報参照)や、ボール螺子ナットとその両端に取り付けられたエンドキャップにより還流路を形成する所謂エンドキャップ式のもの(例えば、特開2009−299757号公報参照)等の他のボール螺子装置に適用してもよい。
【0081】
・上記各実施形態では、本発明を、EPS用のボール螺子装置5に適用したが、これに限らず、EPS以外の用途に用いられるボール螺子装置に適用してもよい。