(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967254
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】通信品質予測装置、無線基地局、通信品質予測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/08 20090101AFI20160728BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20160728BHJP
H04W 52/24 20090101ALI20160728BHJP
【FI】
H04W16/08
H04W24/02
H04W52/24
【請求項の数】43
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-82200(P2015-82200)
(22)【出願日】2015年4月14日
(62)【分割の表示】特願2013-535828(P2013-535828)の分割
【原出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2015-149764(P2015-149764A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2015年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-215094(P2011-215094)
(32)【優先日】2011年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 航生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 弘人
(72)【発明者】
【氏名】松永 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】濱辺 孝二郎
【審査官】
阿部 圭子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/075447(WO,A1)
【文献】
特開平11−150754(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/143026(WO,A1)
【文献】
特開2007−074097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線セルの無線パラメータの変更による、無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するリソース割当通信数予測手段と、
少なくとも前記通信数の予測結果に基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測する通信品質予測手段と、を備え、
前記リソース割当通信数予測手段は、
前記無線パラメータの変更を実施する前に無線端末から報告された無線品質の測定結果を少なくとも用いて、前記無線パラメータの変更による、前記通信数を予測する、通信品質予測装置。
【請求項2】
前記通信品質予測手段は、前記通信品質の予測を、前記無線品質の測定結果の少なくとも一つを用いて実施する、
請求項1に記載の通信品質予測装置。
【請求項3】
前記通信品質予測手段は、前記無線パラメータの変更によって前記無線端末が帰属する無線セルが変更されることを予測する、
請求項1または請求項2に記載の通信品質予測装置。
【請求項4】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線端末数である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項5】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項6】
前記リソース割当通信数予測手段は、予め定められたタイミングにおける通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項7】
前記リソース割当通信数予測手段は、所定の期間に収集された複数の前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化し、前記平均化された通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項6に記載の通信品質予測装置。
【請求項8】
前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化する際に、前記無線リソースの割当対象となる通信が存在しない期間は、平均化処理の対象から除外する、
請求項7に記載の通信品質予測装置。
【請求項9】
前記無線パラメータは、送信電力である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項10】
前記通信品質は、スループットである、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項11】
前記無線パラメータの変更による、無線端末の無線品質を予測する無線品質予測手段を更に備える、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の通信品質予測装置。
【請求項12】
前記無線品質予測手段は、前記無線パラメータの変更を実施する前に前記無線端末から報告された無線品質の測定結果を用いて、前記無線パラメータの変更による前記無線端末の無線品質を予測する、
請求項11に記載の通信品質予測装置。
【請求項13】
前記無線品質予測手段が予測する無線品質は、前記無線端末において測定されるSINRである、
請求項11または請求項12に記載の通信品質予測装置。
【請求項14】
前記無線品質予測手段は、
前記無線パラメータの変更による前記無線端末において測定されるSINRを予測し、
前記通信品質予測手段は、
前記SINRと、前記SINR及びスループットの対応表とを用いて、または、前記SINRとシャノン式とを用いてスループットを予測する、
請求項13に記載の通信品質予測装置。
【請求項15】
無線セルの無線パラメータの変更による、無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するリソース割当通信数予測手段と、
少なくとも前記通信数の予測結果に基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測する通信品質予測手段と、を備え、
前記リソース割当通信数予測手段は、
前記無線パラメータの変更を実施する前に無線端末から報告された無線品質の測定結果を少なくとも用いて、前記無線パラメータの変更による、前記通信数を予測する、無線基地局。
【請求項16】
前記通信品質予測手段は、前記通信品質の予測を、前記無線品質の測定結果の少なくとも一つを用いて実施する、
請求項15に記載の無線基地局。
【請求項17】
前記通信品質予測手段は、前記無線パラメータの変更によって前記無線端末が帰属する無線セルが変更されることを予測する、
請求項15または請求項16に記載の無線基地局。
【請求項18】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線端末数である、
請求項15〜17のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項19】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数である、
請求項15〜18のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項20】
前記リソース割当通信数予測手段は、予め定められたタイミングにおける通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項15〜19のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項21】
前記リソース割当通信数予測手段は、所定の期間に収集された複数の前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化し、前記平均化された通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項20に記載の無線基地局。
【請求項22】
前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化する際に、前記無線リソースの割当対象となる通信が存在しない期間は、平均化処理の対象から除外する、
請求項21に記載の無線基地局。
【請求項23】
前記無線パラメータは、送信電力である、
請求項15〜22のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項24】
前記通信品質は、スループットである、
請求項15〜23のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項25】
前記無線パラメータの変更による、無線端末の無線品質を予測する無線品質予測手段を更に備える、
請求項15〜24のいずれか1項に記載の無線基地局。
【請求項26】
前記無線品質予測手段は、前記無線パラメータの変更を実施する前に前記無線端末から報告された無線品質の測定結果を用いて、前記無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測する、
請求項25に記載の無線基地局。
【請求項27】
前記無線品質予測手段が予測する無線品質は、前記無線端末において測定されるSINRである、
請求項25または請求項26に記載の無線基地局。
【請求項28】
前記無線品質予測手段は、
前記無線パラメータの変更による前記無線端末において測定されるSINRを予測し、
前記通信品質予測手段は、
前記SINRと、前記SINR及びスループットの対応表とを用いて、または、前記SINRとシャノン式とを用いて前記スループットを予測する、
請求項27に記載の無線基地局。
【請求項29】
無線セルの無線パラメータの変更による、無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測し、
少なくとも前記通信数の予測結果に基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測し、
前記無線セルにおける無線リソースの割り当て対象となる通信数を予測する際に、前記無線パラメータの変更を実施する前に無線端末から報告された無線品質の測定結果を少なくとも用いて、前記無線パラメータの変更による、前記通信数を予測する、通信品質予測方法。
【請求項30】
前記通信品質の予測を、前記無線品質の測定結果の少なくとも一つを用いて実施する、
請求項29に記載の通信品質予測方法。
【請求項31】
前記通信品質の予測は、前記無線パラメータの変更によって前記無線端末が帰属する無線セルが変更されることを予測する、
請求項29または請求項30に記載の通信品質予測方法。
【請求項32】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線端末数である、
請求項29〜31のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項33】
前記無線リソースの割当対象となる通信数は、無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数である、
請求項29〜32のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項34】
前記通信数の予測は、予め定められたタイミングにおける通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項29〜33のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項35】
前記通信数の予測は、所定の期間に収集された複数の前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化し、前記平均化された通信数に基づいて、前記無線リソースの割当対象となる通信数を予測する、
請求項34に記載の通信品質予測方法。
【請求項36】
前記予め定められたタイミングにおける通信数を平均化する際に、前記無線リソースの割当対象となる通信が存在しない期間は、平均化処理の対象から除外する、
請求項35に記載の通信品質予測方法。
【請求項37】
前記無線パラメータは、送信電力である、
請求項29〜36のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項38】
前記通信品質は、スループットである、
請求項29〜37のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項39】
更に、前記無線パラメータの変更による、無線端末の無線品質を予測する、
請求項29〜38のいずれか1項に記載の通信品質予測方法。
【請求項40】
前記無線品質の予測は、前記無線パラメータの変更を実施する前に前記無線端末から報告された無線品質の測定結果を用いて、前記無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測する、
請求項39に記載の通信品質予測方法。
【請求項41】
前記予測した無線品質は、前記無線端末において測定されるSINRである、
請求項39または請求項40に記載の通信品質予測方法。
【請求項42】
前記無線品質の予測は、
前記無線パラメータの変更による前記無線端末において測定されるSINRを予測し、
前記通信品質の予測は、
前記SINRと、前記SINR及びスループットの対応表とを用いて、または、前記SINRとシャノン式とを用いて前記スループットを予測する、
請求項41に記載の通信品質予測方法。
【請求項43】
無線セルの無線パラメータの変更による、無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するステップと、前記無線セルにおける無線リソースの割り当て対象となる通信数を予測するステップにおいて、前記無線パラメータの変更を実施する前に無線端末から報告された無線品質の測定結果を少なくとも用いて、前記無線パラメータの変更による、前記通信数を予測し、
少なくとも前記通信数の予測結果に基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測するステップとを、
コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信網における無線パラメータ制御装置、無線基地局、無線パラメータ制御方法、およびプログラムに関し、特に無線セルの無線パラメータを自律的に制御する無線パラメータ制御装置、無線基地局、無線パラメータ制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表されるセルラ方式の無線通信網では、複数の無線基地局を分散して配置することにより、広域なサービスエリアを構成する。各無線基地局は、自身と通信可能な範囲である無線セルを形成する。通常は1〜6程度の無線セルが1つの無線基地局によって管理される。また、互いに隣接する無線セル同士で、カバレッジの一部に重なりを持たせることによって、無線端末(User Equipment:UE)が無線セルを跨って移動した際にもハンドオーバにより通信を持続することができる。
【0003】
無線基地局の設置時や運用中には、通信不能なエリア(Coverage hole)を減らし、さらにはUEの通信品質、特にスループットを改善することを目的に、無線セルのカバレッジ最適化が行われる。一般的には、現地にて専用の測定器を用いた走行試験を実施する。走行試験においては、電波の受信電力や干渉状況、通信の異常切断やハンドオーバ失敗の発生有無、スループットなどが測定される。そして、受信電力が不十分な場所(Weak coverage)や、強い干渉を受けている場所(Pilot pollution)などを特定し、これらの問題を解消するための無線パラメータの調整が行われる。調整される無線パラメータとしては、例えば、無線セルのアンテナチルト角、アンテナ方位角、送信電力、及びハンドオーバパラメータなどが一般的である。
【0004】
上述の走行試験に基づく無線セルのカバレッジ最適化は、人手による測定ならびに無線パラメータのチューニング作業を伴うため、無線通信網の運用コストの増加の一因となっている。そこで、こうした無線セルのカバレッジ最適化にかかるコストを削減するために、無線セルのカバレッジを自律的に最適化する技術が提案されている。
【0005】
特許文献1に開示された手法によれば、フェムトセル(A)は、当該フェムトセル(A)に接続するUEから無線品質の測定結果を受信する。そして、無線品質が許容値を満たさない場合には、隣接するフェムトセル(B)に対して送信電力の減少を指示する。送信電力の減少を指示されたフェムトセル(B)は、当該フェムトセル(B)に接続するUEの送信電力減少後における無線品質、例えば、SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)を予測する。そして、予測されたSINRが許容値を満たす場合に、フェムトセル(A)から指示された送信電力の減少を実施する。
【0006】
特許文献2に開示された手法によれば、無線セルは自身(自セル)のトラフィック負荷を測定する。そして、高負荷時には、トラフィック負荷の低い周辺セルのうち、自セルとの重なりが大きい無線セルを選択する。そして、選択した無線セルのカバレッジを拡大するとともに、自セルのカバレッジを縮小する。一方、自セルのトラフィック負荷が低い時には、周辺セルのカバレッジを縮小するとともに、自セルのカバレッジを拡大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/023587号
【特許文献2】国際公開第2000/072618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、UEのスループットは、UEの無線品質(例えば、SINR)と、当該UEが接続する無線セル(サービングセル)において無線リソースの割当対象となる通信数(例えば、無線リソースの割当対象となるUE数や無線ベアラ数)とに依存する。すなわち、一般的にはUEの無線品質が良いほど高いスループットが期待できるものの、有限な無線リソースを複数UE間で共有する無線通信システムにおいては、無線リソースの割当対象となるUE数が多いとUE当たりの通信機会が減少するため、結果的にUEのスループットは劣化する。
【0009】
特許文献1は、フェムトセルの送信電力を変更するか否かの判断に、送信電力を変更したと仮定した場合のUEの無線品質の予測結果を用いている。しかしながら、送信電力の変更に伴うフェムトセルのUE数の変化までは考慮していない。そのため、フェムトセルのUE数の増加あるいは減少によって生じる通信機会の増減までは考慮することができず、UEのスループットを正しく予測できない可能性がある。この問題は特に、フェムトセルよりもマクロセルやマイクロセル、ピコセルなどで生じやすい。その理由は、マクロセルやマイクロセル、ピコセルなどは、一般的にフェムトセルよりも多くのUEを収容するため、カバレッジ変更に伴うUE数の変化が生じやすいためである。
【0010】
特許文献2は、無線セル間のトラフィック負荷を所定の範囲でバランスさせることによって通信品質を改善することを目的としている。しかしながら、特に無線セル内のUE分布に偏りがある場合には、トラフィック負荷のみを考慮してカバレッジを変更すると、UEの無線品質の劣化を招き、スループットが劣化する可能性が高い。
【0011】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、UEのスループットが改善する無線パラメータを決定することが可能な無線パラメータ制御装置を実現することができる無線パラメータ制御装置、無線基地局、無線パラメータ制御方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様にかかる無線パラメータ制御装置は、無線セルの無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測する無線品質予測部と、前記無線パラメータの変更による無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するリソース割当通信数予測部と、前記無線品質の予測結果と前記通信数の予測結果とに基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測する通信品質予測部と、前記予測した通信品質に基づいて、前記通信品質の改善が予測される無線パラメータを決定する無線パラメータ決定部と、を備えるものである。
【0013】
本発明の第2の態様にかかる無線基地局は、無線セルの無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測する無線品質予測部と、前記無線パラメータの変更による無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するリソース割当通信数予測部と、前記無線品質の予測結果と前記通信数の予測結果に基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測する通信品質予測部と、前記予測した通信品質に基づいて、前記通信品質の改善が予測される無線パラメータを決定する無線パラメータ決定部とを備えるものである。
【0014】
本発明の第3の態様にかかる無線パラメータ制御方法は、無線セルの無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測し、前記無線パラメータの変更による無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測し、前記無線品質の予測結果と前記通信数の予測結果とに基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測し、前記予測した通信品質に基づいて、前記通信品質の改善が予測される無線パラメータを決定するものである。
【0015】
本発明の第4の態様にかかるプログラムは、無線セルの無線パラメータの変更による無線端末の無線品質を予測するステップと、前記無線パラメータの変更による無線セルにおける無線リソースの割当対象となる通信数を予測するステップと、前記無線品質の予測結果と前記通信数の予測結果とに基づいて、前記無線パラメータの変更による通信品質を予測するステップと、前記予測した通信品質に基づいて、前記通信品質の改善が予測される無線パラメータを決定するステップとを、コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無線品質と、無線リソースの割当対象となる通信数の両者の予測結果を用いて、無線パラメータ変更後の通信品質を予測するため、無線パラメータの変更に伴うUEのスループットをより正確に予測することが可能となり、UEのスループットが改善する無線パラメータを決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1にかかる無線通信網の構成図である。
【
図2】実施の形態1にかかる無線パラメータ制御装置の構成図である。
【
図3】実施の形態1にかかる無線パラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図4】実施の形態2にかかる無線パラメータ制御装置の構成図である。
【
図5A】実施の形態2にかかる無線パラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図5B】実施の形態2にかかる無線パラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図6A】実施の形態3にかかる無線パラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図6B】実施の形態3にかかる無線パラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図7】実施の形態4にかかる無線通信網の構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面において、同一または対応する要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<発明の実施の形態1>
図1は、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1を含む無線通信網の構成例を示す図である。無線基地局2は、無線セル3を管理し、複数の無線端末(以下、UE)4との間で双方向の無線通信を行う。無線基地局2は、上位ネットワーク(不図示)に接続されており、UE4と上位ネットワークとの間でトラフィックを中継する。上位ネットワークは、無線アクセスネットワーク及びコアネットワークを含む。なお、無線基地局2には、無線セル3の無線信号を中継するリレー基地局を含む。また、
図1では、各無線基地局2が1つの無線セル3を管理する形態について例示したが、これに限定されない。すなわち、各無線基地局2が複数の無線セル3を管理する形態を取っても良い。
【0020】
無線パラメータ制御装置1は、UE4によって測定された無線品質(以下、UE測定情報)を、無線基地局2を介して取得する。UE測定情報は、UE4が接続する無線セル3(サービングセル)の無線品質の測定結果を含む。さらに、UE測定情報は、UE4のサービングセル以外の周辺セルの無線品質の測定結果を含んでも良い。UE4によって測定される無線品質の典型的な例は、無線基地局2から送信される無線信号(下り信号)の受信品質である。
【0021】
受信品質は、例えば、下りパイロット信号や、下りリファレンス信号の受信電力又はSINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)などの信号対雑音干渉比である。W−CDMAの場合、UE4によって測定される無線品質は、無線セル毎の共通パイロットチャネル(CPICH:Common Pilot Channel)の受信電力(CPICH RSCP(Received Signal Code Power))や、CPICHの1チップ当たりのエネルギー対帯域内受信電力密度比(Ec/No)とすれば良い。また、LTE(Long Term Evolution)の場合、UE4によって測定される無線品質は、下りリファレンス信号(Downlink Reference Signal)の受信電力(RSRP:Reference Signal Received Power)や、受信品質(RSRQ:Reference Signal Received Quality)とすれば良い。
【0022】
さらに、UE測定情報は、スループットやBLER(Block Error Rate)などの通信品質、異常切断やハンドオーバ失敗の発生有無といったイベント情報、UEが無線品質を測定した時刻、各無線品質に対応する無線セル3の識別子、及びUE4の識別子などの情報を含んでも良い。
【0023】
また、無線パラメータ制御装置1は、無線基地局2から無線リソースの割当対象となる通信数に関する情報(リソース割当通信情報)の測定結果を取得する。リソース割当通信情報の典型的な例は、無線セル3において無線リソースの割当対象となるUE数(リソース割当UE数)、あるいは無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数(リソース割当ベアラ数)などである。リソース割当UE数は、実際に無線リソースを割り当てたUE数のみであっても良いし、無線基地局2のバッファにデータが蓄積され(すなわち、未送信のデータを持ち)、無線リソースの割り当てを待機しているUE数をさらに含めても良い。リソース割当ベアラ数についても同様である。無線パラメータ制御装置1は、無線基地局2が測定した1時点のリソース割当通信情報を取得しても良いし、当該リソース割当通信情報を所定の期間について集計した値を取得しても良い。例えば、無線基地局2が、自身が管理する無線セル3毎に、所定のサンプリング期間(例えば、1秒)ごとにその時点のリソース割当UE数あるいはリソース割当ベアラ数を測定し、それらを所定の期間(例えば、30分)について平均化した値を保持している場合、無線パラメータ制御装置1は、その値をリソース割当通信情報として取得する。もしくは、無線パラメータ制御装置1が、無線基地局2において測定された値を平均化処理してもよい。こうした平均化処理においては、通信中のUEや無線ベアラが存在しない時間、具体的には、ユーザプレーン情報の通信のための無線リソースがいずれのUEにも割り当てられていない時間は、処理対象から除外することが好ましい。
【0024】
無線パラメータ制御装置1は、取得したUE測定情報とリソース割当通信情報とを用いて、無線セル3の無線パラメータを変更したと仮定した場合のUEのスループットを予測する。なお、「無線パラメータを変更したと仮定した場合」とは、無線セルの無線パラメータを実際には変更せずに、という意味であって、解析的、論理的あるいはシミュレーション等の手段によって仮想的に無線パラメータを変更することを含む。また、無線パラメータ制御装置1は、UEのスループットの改善が期待できる無線パラメータの値を無線セル3に適用し、無線セル3のカバレッジを変更する。無線パラメータ決定処理の詳細は後述する。無線セルのカバレッジを変更可能な無線パラメータの具体例は、無線セル3の下り信号の最大送信電力、パイロット信号やリファレンス信号の送信電力、アンテナのチルト角、又はアンテナの方位角等である。また、無線パラメータとして、CIO(Cell Individual Offset)やQoffsetを用いても良い。
【0025】
W−CDMA及びLTEでは、CIOやQoffsetは、測定対象のセルのリストとともに無線基地局からUEへと通知される。CIOは、ハンドオーバに関するパラメータであり、UEが周辺セルの受信電力の測定値に基づいてハンドオーバをトリガする際に、周辺セルの受信電力に対するオフセットとして使用される。また、Qoffsetは、セル選択に関するパラメータであり、アイドル状態のUEが周辺セルの受信電力の測定値に基づいてサービングセルを選択する際に、周辺セルの受信電力に対するオフセットとして使用される。これらのオフセット値が高く設定された無線セルほど、UEによって選択されやすくなるため、無線セルのカバレッジを拡大するのと同様の効果がある。
【0026】
なお、上記では、各無線基地局2が無線パラメータ制御装置1に直接接続された構成例を示しているが、それに限定されない。例えば、各無線基地局2は、他の無線基地局2と通信回線(不図示)で接続され、他の無線基地局2を介して無線パラメータ制御装置1と接続されても良い。
【0027】
以下では、無線パラメータ制御装置1の構成および無線パラメータ決定処理の具体例について詳しく説明する。
【0028】
図2は、無線パラメータ制御装置1の構成例を示すブロック図である。UE測定情報取得部10は、UE4によって測定された無線品質(UE測定情報)を取得する。UEに対する無線品質の測定および報告の指示は、無線基地局2が行っても良いし、無線パラメータ制御装置1のUE測定情報取得部10が、無線基地局2を介して行っても良い。例えば、UE測定情報取得部10は、UEに対して所定の周期毎または所定のイベント発生時(例えば、通信開始時、通信終了時、ハンドオーバ時、異常切断時など)に無線品質の測定および報告を行うように指示することができる。
【0029】
リソース割当通信情報取得部11は、無線基地局2によって測定された無線セル3のリソース割当通信情報を取得する。例えば、無線セル3において無線リソースの割当対象となるUE数(リソース割当UE数)、あるいは無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数(リソース割当ベアラ数)、あるいはそれらに相当する情報を取得する。上述の通り、リソース割当通信情報取得部11が取得するリソース割当通信情報は、無線基地局2が測定した1時点の情報であっても良いし、所定の期間で集計した情報であっても良い。
【0030】
無線品質予測部12は、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報を用いて、無線セル3の無線パラメータを変更したと仮定した場合のUEの無線品質(例えば、各無線セルの受信電力や信号対雑音干渉比)や、当該UEのサービングセルを予測する。
【0031】
リソース割当通信数予測部13は、リソース割当通信情報取得部11が取得したリソース割当通信情報を用いて、無線セル3の無線パラメータを変更したと仮定した場合の無線セル毎のリソース割当通信数、例えば、無線リソースの割当対象となるUE数の平均値である平均リソース割当UE数や、無線リソースの割当対象となる無線ベアラ数の平均値である平均リソース割当ベアラ数を予測する。
【0032】
なお、無線セル3の無線パラメータを変更した場合、UEによっては受信電力が最も高くなる無線セルが変わることにより、当該UEが接続する無線セル(サービングセル)が変わる場合がある。その結果、UEの空間的な分布が変わらなかったとしても、無線セル3の無線パラメータを変更することにより、各無線セルのリソース割当通信数が変わる可能性がある。このことを考慮するため、リソース割当通信数予測部13で無線セル毎のリソース割当通信数を予測する際は、無線品質予測部12によるUEの無線品質やサービングセルの予測結果を用いてもよい。
【0033】
通信品質予測部14は、無線品質予測部12によるUEの無線品質の予測結果と、リソース割当通信数予測部13による無線セル毎のリソース割当通信数の予測結果をもとに、無線セル3の無線パラメータを変更したと仮定した場合のUEの通信品質(例えば、スループット)を予測する。通信品質の予測方法の詳細については後述する。
【0034】
無線パラメータ決定部15は、通信品質予測部14による通信品質の予測結果をもとに、通信品質の改善が期待される無線セル3の無線パラメータを決定する。無線パラメータ決定部15は、決定した無線パラメータを無線基地局2に通知し、無線セル3の無線パラメータの更新を指示する。
【0035】
続いて以下では、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1による無線パラメータ決定処理の具体例について説明する。本具体例において、無線パラメータ制御装置1は、新規に追加した無線セルの無線パラメータを設定する。以下では、無線パラメータを設定する対象となる無線セルを制御セルと呼ぶ。制御セルは、新規に追加された無線セルでもよく、新規に追加された無線セルの周辺の無線セルでもよい。
【0036】
図3は、無線パラメータ決定処理の具体例を示すフローチャートである。ステップS100では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、制御セルの無線パラメータを初期値に設定する。例えば、制御セルの下り信号の最大送信電力を、設定可能な最大値に設定する。例えば、マクロセルであれば46dBm、ピコセルであれば30dBmなどを初期値に設定すれば良い。なお、無線基地局2自身が無線パラメータの初期値を設定する機能を有する場合には、無線基地局2が指定する無線パラメータを適用しても良い。
【0037】
ステップS101では、無線パラメータ制御装置1のUE測定情報取得部10は、制御セルおよび/または制御セルの周辺セルに接続するUEに対して、無線品質の測定および報告を指示する。例えば、UEが通信状態にあるときに、当該UEが測定可能な無線セル毎、あるいは無線基地局によって測定を指示された無線セル毎の無線品質を、所定の周期毎に測定および報告するように指示する。上述の通り、例えばW−CDMAの場合、UEによって測定される無線品質は、共通パイロット信号の受信電力(RSCP)や、共通パイロット信号の1チップ当たりのエネルギー対帯域内受信電力密度比(Ec/No)とすれば良い。また、例えばLTEの場合、UEによって測定される無線品質は、下りリファレンス信号の受信電力(RSRP)や、受信品質(RSRQ)とすれば良い。
【0038】
ステップS102では、無線パラメータ制御装置1のUE測定情報取得部10は、UEによって測定された無線品質(UE測定情報)を取得する。
【0039】
ステップS103では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、無線パラメータの変更条件を満たすか否かを判定する。例えば、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報の数が所定値に達したか否か、またはUE測定情報取得部10がUE測定情報の取得を開始してから所定時間経過したか否か、または所定の時刻に達したか否か、などを無線パラメータの変更条件とすれば良い。無線パラメータの変更条件を満たす場合にはステップS104へと進み、満たさない場合にはステップS102へと戻る。なお、本発明のような無線パラメータの制御は、秒単位など比較的周期が短い制御と、時間または日など比較的周期が長い制御とがあるが、本発明はいずれの場合にも適用可能である。
【0040】
ステップS104では、無線パラメータ制御装置1のリソース割当通信情報取得部11は、制御セルおよび/または制御セルの周辺セルのリソース割当通信情報を取得する。例えば、上述の通り、無線基地局2は自身が管理する無線セル3毎に、所定のサンプリング期間ごとにその時点のリソース割当UE数あるいはリソース割当ベアラ数を測定する。そして、無線パラメータ制御装置1のリソース割当通信情報取得部11は、無線基地局2が測定したリソース割当UE数あるいはリソース割当ベアラ数を所定の期間について平均化した値を取得する。ここで、平均化のための所定の期間は、UE測定情報を取得した期間の一部あるいは全てを含むことが望ましいが、それに限定されない。例えば、日単位のトラフィックの周期性を考慮して、UE測定情報を取得した日とは異なる日だが、時間帯は同一となるリソース割当通信情報を用いても良い。
【0041】
ステップS105からステップS109は、無線パラメータの候補値毎に行われるループ処理である。以下では、一例として、制御セルの送信電力を変更する場合について説明する。送信電力の候補値は、制御セルに適用可能な最大送信電力が46dBmの場合、例えば、46dBmから30dBmまで1dB間隔に設定すれば良い。
【0042】
ステップS106では、無線パラメータ制御装置1の無線品質予測部12は、制御セルの無線パラメータを各候補値に変更したと仮定した場合の無線品質を予測する。無線品質の予測は、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報の測定結果のそれぞれに対して行うことができる。このとき、制御セルの送信電力を変更することによって、例えUEが同じ場所に存在したとしても、当該UEが接続する無線セル(サービングセル)が変化する可能性があることを考慮することが好ましい。
【0043】
制御セルの送信電力を各候補値に変更したと仮定した場合の各UE(UE測定情報)のサービングセルは、送信電力変更後に最も受信電力が高くなると予測される無線セルとして予測することができる。具体的には、制御セルの送信電力の変更量分だけ制御セルの受信電力のみが変化すると仮定した上で、送信電力変更後の各無線セルの受信電力を予測すれば良い。一例として、UE測定情報取得部10が、UEによって測定された無線セル毎の下り信号の受信電力をUE測定情報として取得した場合について説明する。
【0044】
制御セルの送信電力を各候補値に変更したと仮定した場合の無線品質(SINR)は、制御セルの送信電力の変更量分だけ制御セルの受信電力のみが変化すると仮定した上で、「サービングセル(すなわち受信電力の予測値が最も高くなる無線セル)の受信電力の予測値」と「サービングセル以外の無線セルの受信電力の予測値の総和+熱雑音」との比を、UE測定情報毎に算出すれば良い。なお、一般的には無線セルのトラフィック負荷が高いほど当該無線セルからの受信電力は高くなる。そのため、無線セルの受信電力を当該無線セルのトラフィック負荷に応じて重み付けした値を、当該無線セルの受信電力として用いても良い。このとき、制御セルの送信電力を各候補値に変更したと仮定した場合の無線セル毎のトラフィック負荷は、次に述べる平均リソース割当UE数と同様に、例えば、制御セルの送信電力を各候補値に変更する前と、変更したと仮定した場合とのUE測定情報数の比を用いて予測することができる。トラフィック負荷としては、無線セル毎の無線リソース使用率、例えば、リソースブロック使用率や電力使用率などを用いれば良い。
【0045】
ステップS107では、無線パラメータ制御装置1のリソース割当通信数予測部13は、制御セルの無線パラメータを当該候補値に変更したと仮定した場合の無線セル毎のリソース割当通信数を予測する。一例として、リソース割当通信情報取得部11が、各無線セルから平均リソース割当UE数を取得した場合について説明する。リソース割当通信情報取得部11が取得した無線セルAの平均リソース割当UE数をX、制御セルの送信電力を各候補値に変更したと仮定した場合の無線セルAの平均リソース割当UE数の予測値をX'、制御セルの送信電力を各候補値に変更したと仮定した場合の無線セルAのUE数の変化率をRとすると、X'=X×Rとして予測することができる。ここで、無線セルAのUE数の変化率(R)は、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報を用いて予測することができる。具体的には、まず、UE測定情報毎に無線セルAをサービングセルとするUE測定情報の数(N1)を算出する。続いて、送信電力の変更量分だけ制御セルの受信電力のみが変化すると仮定した上で、制御セルの送信電力を各候補値に変更した場合の無線セルAをサービングセルとするUE測定情報の数(N2)を算出する。例えば、無線セルAが制御セルに隣接セルする無線セルである場合、制御セルの送信電力が減少することによって、制御セルの送信電力変更後に無線セルAの受信電力が最も高くなると予測されるUE測定情報の数(N2)、すなわち無線セルAがサービングセルになると予測されるUE測定情報の数(N2)は、制御セルの送信電力変更前に無線セルAをサービングセルとするUE測定情報の数(N1)よりも増加する。このとき、無線セルAのUE数の変化率(R)は、R=N2/N1として予測することができる。
【0046】
ステップS108では、無線パラメータ制御装置1の通信品質予測部14は、無線品質予測部12による無線品質の予測結果とリソース割当通信数予測部13によるリソース割当通信数の予測結果とをもとに、制御セルの無線パラメータを各候補値に変更したと仮定した場合の通信品質を予測する。通信品質の予測についても、無線品質の予測の場合と同様に、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報毎に行えば良い。通信品質の予測方法の一例として、無線品質予測部12がUE測定情報毎のSINRを予測し、リソース割当通信数予測部13が無線セル毎の平均リソース割当UE数を予測した場合に、通信品質予測部14が通信品質としてUEのスループット予測する方法について説明する。まず、通信品質予測部14は、無線品質予測部12によって予測されたUE測定情報毎のSINRを用いて、全システム帯域使用時のスループット(TPmax)をUE測定情報毎に予測する。例えば、無線通信の分野で良く知られているシャノン理論を用いて、
【0047】
TPmax=BW×log
2(1+SINR)×α・・・(式1)
【0048】
として算出する。ここで、BWはシステム帯域幅、αは受信機の実装等に依存して生じる理論限界からの劣化量を示す係数であり、例えば、0.6といった値を用いれば良い。TPmaxを予測するための別の手法として、シャノン理論を用いる代わりに、あらかじめSINRに対する通信速度の表を作成しておき、これを参照しても良い。次に、制御セルの送信電力の変更量分だけ制御セルの受信電力のみが変化すると仮定した上で、制御セルの送信電力変更後のサービングセルをUE測定情報毎に予測する。リソース割当通信数予測部13が予測した当該サービングセルの平均リソース割当UE数の予測結果をX'とすると、制御セルの送信電力を変更したと仮定した場合の当該UE測定情報のスループット(TP)は、
【0049】
TP=TPmax/X' ・・・(式2)
【0050】
として予測することができる。なお、このような平均リソース割当UE数によって除算する処理は、LTEに用いられるOFDMA方式のように、周波数リソースを複数のUE間で分配する場合や、時間リソースを複数のUE間で分配する場合に適用可能である。一方で、W−CDMAのように、周波数帯域を共有する複数のUEをコードによって分離する場合、平均リソース割当UE数の影響はSINRに反映され、当該UE測定情報のスループット(TP)はTPmaxと同一になる。
【0051】
ステップS110では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、無線パラメータの候補値毎に予測された通信品質をもとに、通信品質の改善が期待される無線パラメータの候補値を選択する。例えば、UE測定情報毎に予測された通信品質の平均値、またはUE測定情報毎に予測された通信品質の中から抽出された特定の通信品質値を用いることができる。特定の通信品質値の例としては、無線セルの境界部(セルエッジ)の品質指標として用いられることが多い、通信品質のCDF(Cumulative Distribution Function)の下位5%値や10%値を用いれば良い。また、通信品質のUE間のばらつきを最小化するために、UE測定情報毎に予測された通信品質の分散や標準偏差を用いても良い。無線パラメータ決定部15は、無線パラメータの候補値毎にこうした通信品質の評価値を少なくとも一つ算出し、当該評価値が最も改善する無線パラメータの候補値を選択する。具体例としては、スループットの平均値が最も改善する無線パラメータの候補値を選択する方法や、スループットの平均値を維持しつつ、スループットの下位5%値が最も改善する無線パラメータの候補値を選択するといった方法を適用することができる。
【0052】
ステップS111では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、制御セルに対してステップS110で選択した無線パラメータの候補値を適用するように無線基地局に指示する。
【0053】
なお、本実施の形態では、無線パラメータ制御装置1に、制御セルを管理する無線基地局(制御基地局)と、周辺セルを管理する無線基地局(周辺基地局)とが接続されている形態について述べたが、本発明はこれに限定されない。例えば、周辺基地局の一部あるいは全てが無線パラメータ制御装置1には接続されず、代わりに、制御基地局と周辺基地局とが通信回線(不図示)によって接続される形態であっても構わない。この場合、制御基地局は、通信回線を介して周辺セルのUE測定情報およびリソース割当通信情報の少なくともいずれか一方を取得し、無線パラメータ制御装置1に通知する。無線パラメータ制御装置1は、制御セルあるいは周辺セルのUE測定情報およびリソース割当通信情報を用いて、制御セルの無線パラメータを決定すれば良い。
【0054】
また、本実施の形態では、無線品質の予測や通信品質の予測を、UE測定情報取得部10が取得したUE測定情報毎に行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、UE測定情報取得部10が取得した複数のUE測定情報について、同一のUEから取得したUE測定情報には同一のUEIDが設定されている場合について説明する。このような場合、同一のUEIDが設定されている複数のUE測定情報を平均化処理し、平均化処理されたUE測定情報毎に無線品質の予測や通信品質の予測を行ってもよい。
【0055】
上述したように、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1は、UEによって測定及び報告された無線品質と無線セル毎のリソース割当通信情報とをもとに、無線セルの無線パラメータを変更したと仮定した場合のスループットを予測し、スループットの改善が期待される無線パラメータの値を決定する。このため、本実施の形態によれば、UEのスループットが改善する無線パラメータを決定することができる。
【0056】
<発明の実施の形態2>
本発明を実施するための第2の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図4は、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1の構成例を示す図である。本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1は、無線セル品質情報取得部16と品質劣化検出部17を備える点で、本発明の第1の実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1と異なる。
【0057】
無線セル品質情報取得部16は、各無線セルから無線セル品質情報を取得する。無線セル品質情報は、当該無線セルにて行われた無線通信の品質を示す情報であり、例えば、無線通信の異常切断率や、ハンドオーバ失敗率、システムスループット、平均ユーザスループット、無線リソース使用率、パケット転送遅延などが挙げられる。無線基地局は、通常、このような情報を15分単位や30分単位などで集計・記録しており、ネットワークの品質監視等に用いている。
【0058】
品質劣化検出部17は、無線セル品質情報取得部16が取得した無線セル品質情報をもとに、無線セルの品質劣化を検出する。例えば、無線通信の異常切断率やハンドオーバ失敗率が許容値を超過したか否か、システムスループットや平均ユーザスループットが許容値を下回ったか否か、トラフィックの輻輳が生じていないかといった判定を行う。また、品質劣化検出部17は、品質劣化が検出された場合に、無線パラメータ決定部15に対して、無線パラメータの変更を行うように指示する。
【0059】
次に、本実施の形態に係る無線パラメータ決定処理の具体的な処理例について説明する。
【0060】
無線パラメータ制御装置1は、制御セルの無線パラメータ変更後に無線セルの品質劣化を検出した場合に、制御セルの無線パラメータを元の状態に戻すロールバック処理を行う。
【0061】
本実施の形態の動作を
図5A及び
図5Bのフローチャートを参照して説明する。なお、ここでは説明の一例として、
図3に示した本発明の第1の実施の形態に係る無線パラメータ決定処理の変形例として説明するが、それに限定されない。後述する他の実施の形態と組み合わせても良い。
【0062】
図3に示した本発明の第1の実施の形態に係る無線パラメータ決定処理との差異は、
図5Bに無線セル品質情報を取得する処理(ステップS200)、品質劣化を判定する処理(ステップS201)、及び制御セルの無線パラメータを元に戻す処理(ステップS202)とを含む点である。
【0063】
ステップS200では、無線パラメータ制御装置1の無線セル品質情報取得部16は、ステップS111にて制御セルの無線パラメータを変更した後、各無線セルから無線セル品質情報を取得する。
【0064】
ステップS201では、無線パラメータ制御装置1の品質劣化検出部17は、各無線セルについて品質劣化が発生しているか否かを判定する。例えば、上述の通り、異常切断率やハンドオーバ失敗率が許容値を超過したか否か、システムスループットや平均ユーザスループットが許容値を下回ったか否か、トラフィックの輻輳が生じていないかといった判定を行う。なお、品質劣化検出部17は、必ずしも無線セル品質情報を用いて品質劣化を検出する必要はなく、無線セル品質情報の代わりにUE測定情報を用いて品質劣化を検出しても良い。例えば、スループットの実測値をUEから取得し、UEから取得したスループットの平均値、あるいは下位5%値といった指標によって品質劣化を判断しても良い。あるいは、UE測定情報から、サービングセルとその周辺セルとの無線品質の差を算出し、差が小さいUE(つまり、無線セルの境界付近に存在するUE)の数あるいは割合によって品質劣化を判断しても良い。品質劣化が検出された場合にはステップS202へと進み、品質劣化が検出されなかった場合にはステップS200へと戻る。
【0065】
ステップS202では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、品質劣化検出部17によって検出された品質劣化が制御セルの無線パラメータの変更によって生じたとみなし、制御セルの無線パラメータを変更前の値に戻すように無線基地局に対して指示する。
【0066】
なお、上記では、品質劣化検出部17によって品質劣化が検出された場合の動作例として、制御セルの無線パラメータを変更前の値に戻す場合について説明したが、これに限定されない。品質劣化検出部17によって品質劣化が検出された場合に、制御セルの無線パラメータを変更前の値に戻す代わりに、他の値を選択しなおしても良い。例えば、ステップ105からステップS109にて無線パラメータの候補値毎に通信品質を予測した結果、通信品質の改善が期待される無線パラメータの候補値が複数存在する場合には、当該複数の無線パラメータの候補値(無線パラメータセットと呼ぶ)を記憶しておく。そして、ステップS111にて制御セルの無線パラメータをP1という値に変更した結果、品質劣化検出部17によって品質劣化が検出された場合には、無線パラメータ決定部15は無線パラメータセットからP1以外の無線パラメータの値を選択して、制御セルへと適用することができる。
【0067】
上述したように、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1は、制御セルの無線パラメータを変更した後に、無線セルの品質を監視し、品質劣化が発生した場合には、無線パラメータを元に戻す、あるいは他の値に設定しなおすことができる。そのため、制御セルの無線パラメータを変更した後に、環境変化等の理由によって期待通りの通信品質が得られなかった場合であっても、その品質劣化の影響を最低限に留めることが可能となる。
【0068】
<発明の実施の形態3>
本発明を実施するための第3の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1は
図4と同一である。また、品質劣化検出部17は、品質劣化検出に関する情報をUE測定情報取得部10及びリソース割当通信情報取得部11へと通知するようにしてもよい。
【0069】
本実施の形態においては、無線パラメータ制御装置1は、運用中の無線セルの品質劣化を検出し、当該品質劣化をトリガとして、無線パラメータの決定処理を開始する。本実施例の動作を
図6A及び
図6Bのフローチャートを参照して説明する。
図3に示した本発明の第1の実施の形態に係る無線パラメータ決定処理との差異は、制御セルの無線パラメータを初期値に設定する処理(
図3のステップS100)の代わりに、
図6Aに無線セル品質情報を取得する処理(ステップS200)、品質劣化を判定する処理(ステップS201)、制御セルを選択する処理(ステップS203)とを含む点である。
【0070】
ステップS200では、無線パラメータ制御装置1の無線セル品質情報取得部16は、各無線セルから無線セル品質情報を取得する。
【0071】
ステップS201では、無線パラメータ制御装置1の品質劣化検出部17は、各無線セルについて品質劣化が発生しているか否かを判定する。ステップS200およびステップS201は、本発明の第2の実施の形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0072】
品質劣化検出部17によって品質劣化が検出された場合にはステップS203へと進み、品質劣化が検出されなかった場合にはステップS200へと戻る。
【0073】
ステップS203では、無線パラメータ制御装置1の無線パラメータ決定部15は、品質劣化検出部17によって検出された品質劣化を解消するために無線パラメータを変更すべき無線セル(制御セル)を選択する。例えば、品質劣化が検出された無線セルを制御セルとして選択すれば良い。また、品質劣化が検出された無線セルに隣接する無線セルの中から制御セルを選択しても良い。また、広域なエリアをカバーするマクロセルの中に、比較的な狭いエリアをカバーするピコセルが配置されたヘテロジーニアスネットワーク(HetNet:Heterogeneous Network)環境においては、マクロセルにて品質劣化が検出された場合に、当該マクロセル内に配置されたピコセルを制御セルとして選択しても良い。また、制御セルの候補となる無線セル(制御候補セル)、例えば、品質劣化が検出された無線セルおよび当該無線セルに隣接する無線セル、のそれぞれについて、独立に無線パラメータの決定処理を行っても良い。この場合、制御候補セル毎に求められた最適な無線パラメータの値とそのときに期待される通信品質とから、最も通信品質の改善が期待される制御候補セルと無線パラメータの値の組み合わせを選択し、選択した制御候補セルに対して、選択した無線パラメータの値を適用すれば良い。
【0074】
なお、
図6A及び
図6Bに示したフローチャートでは、ステップS201において品質劣化を検出した後に、ステップS101にてUEに対して無線品質の測定および報告を指示しているが、これに限定されない。すなわち、無線品質の測定および報告を品質劣化の発生有無によらずに常に実施するようにUEに対して指示しておいても良い。当然ながら、
図5A及び
図5Bに示した本発明の第2の実施の形態に係る無線パラメータ決定処理と組み合わせても良い。
【0075】
<発明の実施の形態4>
本発明を実施するための第4の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。第4の実施の形態は、無線パラメータ制御装置1の機能配置が、本発明の第1乃至第3の実施の形態とは異なる。
【0076】
図7に本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1を含む無線通信網の構成例を示す。
図7に示す通り、無線パラメータ制御装置1の機能は、無線基地局2の機能の一部として配置されても良い。無線基地局2間は、有線回線あるいは無線回線等の通信回線5を介して接続されており、各無線基地局2にて取得したUE測定情報やリソース割当通信情報の一部あるいは全てを他の無線基地局2に対して送信したり、他の無線基地局から受信したりすることができる。なお、無線基地局2間の通信回線5は、仮想的な回線であってもよく、上位ネットワーク側の装置(不図示)を経由して無線基地局2間が間接的に接続されていても良い。
【0077】
本実施の形態のように無線パラメータ制御装置1が無線基地局2の一部として機能配置された場合であっても、無線パラメータ制御装置1の構成は、本発明の第1乃至第3の実施の形態と同様の構成をとることができる。各無線基地局2は、自身が管理する無線セル3から取得したUE測定情報およびリソース割当通信情報と、通信回線5を介して周辺セルから取得可能なUE測定情報およびリソース割当通信情報との少なくともいずれか一方を用いて無線パラメータを決定すれば良い。
【0078】
上述したように、本実施の形態に係る無線パラメータ制御装置1は、UE測定情報やリソース割当通信情報を集中管理するための装置が不要である。そのため、各無線基地局が自律的に無線パラメータを制御することが可能となる。
【0079】
上述の実施の形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、任意の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0080】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明は、無線セルの無線パラメータの制御に有用であり、特に、無線セルのカバレッジを最適化することによってUEのスループットの改善を図る場合に適している。
【0082】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0083】
この出願は、2011年9月29日に出願された日本出願特願2011−215094を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0084】
1 無線パラメータ制御装置
2 無線基地局
3 無線セル
4 UE
5 通信回線
10 UE測定情報取得部
11 リソース割当通信情報取得部
12 無線品質予測部
13 リソース割当通信数予測部
14 通信品質予測部
15 無線パラメータ決定部
16 無線セル品質情報取得部
17 品質劣化検出部