特許第5967276号(P5967276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967276
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】防汚性物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20160728BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160728BHJP
   C09D 171/00 20060101ALI20160728BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20160728BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160728BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B27/30 D
   C09D171/00
   C09D127/12
   C09D5/16
   C09D7/12
【請求項の数】17
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-169906(P2015-169906)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2016-52779(P2016-52779A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-179511(P2014-179511)
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】茂原 健介
(72)【発明者】
【氏名】三橋 尚志
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−006155(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169540(WO,A1)
【文献】 特開2005−146060(JP,A)
【文献】 特開平07−326042(JP,A)
【文献】 特開2009−301799(JP,A)
【文献】 特開2008−150275(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/126107(WO,A1)
【文献】 Navarrini et al.,「Low surface energy coating covalently bonded on diamond-like carbon films」,Diamond & Related Materials,2010年 1月13日,Vol.19,336-341
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、ダイヤモンドライクカーボン層と、該ダイヤモンドライクカーボン層上に下記式(A1)、(A2)、(B1)および(B2)のいずれかで表される1種またはそれ以上の含フッ素化合物を含む表面処理剤より形成された防汚性コーティング層とを含んで成る、防汚性光学部材
【化1】
[式中:
Aは、各出現においてそれぞれ独立して、−OH、−SH、−COOH、−COSH、−CONH、−P(O)(OH)、−OP(O)(OH)、−NR
【化2】
を表し;
は、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
は、OまたはSを表し;
およびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
αは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
91は、フッ素原子、−CHFまたは−CFを表し;
Rf’は、炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。]。
【請求項2】
Aが、−SH、−P(O)(OH)、−OP(O)(OH)、−NR、または、
【化3】
である、請求項に記載の防汚性光学部材
【請求項3】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項またはに記載の防汚性光学部材
【請求項4】
PFPEが、下記式(a)または(b):
(a)−(OC
(式(a)中、bは1以上200以下の整数である);
(b)−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式(b)中、aおよびbは、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1以上200以下の整数であり、a、b、cおよびdの和は、10以上200以下の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)
である、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項5】
PFPEにおいて:
−(OC−が、−(OCFCFCFCF−であり、
−(OC−が、−(OCFCFCF−であり、
−(OC−が、−(OCFCF−である、
請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項6】
およびXが2価の有機基であり、αおよびβが1であり、α’およびβ’が1である、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項7】
およびXが、それぞれ独立して、−(R31p’−(Xq’−R32
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−(式中、s’は、1〜20の整数である)またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
32は、単結合、−(CHt’−(式中、t’は、1〜20の整数である)またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
は、−(Xr’−(式中、r’は、1〜10の整数である)を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−NR34−および−(CHn’−(式中、n’は1〜20の整数である)からなる群から選択される基を表し;
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
p’は、0または1であり;
q’は、0または1であり;
p’およびq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
31、R32およびXは、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。]
で表される基である、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項8】
およびXが、それぞれ独立して:
−CHOCH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、および
−(CH−、
からなる群から選択される、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項9】
91が、フッ素原子またはCFである、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項10】
含フッ素化合物が、式(A1)および(A2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項11】
含フッ素化合物が、式(B1)および(B2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項12】
表面処理剤が、含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項1〜11のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項13】
含フッ素オイルが、式(3):
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf
・・・(3)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項12に記載の防汚性光学部材
【請求項14】
含フッ素オイルが、式(3a)または(3b):
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;
式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’は、それぞれ独立して1以上300以下の整数であり;
添字a’’、b’’、c’’またはd’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項12または13に記載の防汚性光学部材
【請求項15】
基材がガラスまたはサファイアガラスである、請求項1〜14のいずれかに記載の防汚性光学部材
【請求項16】
ガラスが、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラスおよび石英ガラスから成る群から選択されるガラスである、請求項15に記載の防汚性光学部材
【請求項17】
光学部材が、レンズ;ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板もしくはアンチグレア板;タッチパネルシート;光ディスクのディスク面;または光ファイバーである、請求項1〜16のいずれかに記載の防汚性光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性物品、より詳細には、基材と、ダイヤモンドライクカーボン層と、含フッ素化合物を含む表面処理剤より形成された防汚性コーティング層とを含む防汚性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている(特許文献1〜2を参照のこと)。このパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を基材に適用すると、Si原子に結合した加水分解可能な基が基材のSi−OH基との間および化合物間で反応して、−Si−O−Si−結合を形成することにより、表面処理層を形成し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−534696号公報
【特許文献2】国際公開第97/07155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、上記のような表面処理層は、−Si−O−Si−結合により基材と結合しており、酸またはアルカリ環境下、特にアルカリ環境下では、この結合が加水分解により切断され、耐久性が低下し得る問題があることに気づいた。この問題は、酸およびアルカリ環境に曝されやすい物品、例えば人の汗が付着し得る物品(例えば、タッチパネル等)に用いられる場合により顕著な問題となり得る。
【0006】
従って、本発明は、より高い酸およびアルカリ耐性を有する表面処理層を有する新規な防汚性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、基材上にダイヤモンドライクカーボン層を形成し、この上に所定の基を有する含フッ素化合物により表面処理層を形成することにより、高い酸およびアルカリ耐性を有する表面処理層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨によれば、基材と、ダイヤモンドライクカーボン層と、該ダイヤモンドライクカーボン層上にパーフルオロポリエーテル基またはパーフルオロアルキル基含有化合物を含んで成る表面処理剤より形成された防汚性コーティング層とを含む防汚性物品が提供される
【0009】
好ましくは、基材と、ダイヤモンドライクカーボン層と、該ダイヤモンドライクカーボン層上に下記式(A1)、(A2)、(B1)および(B2)のいずれかで表される1種またはそれ以上の含フッ素化合物を含んで成る表面処理剤より形成された防汚性コーティング層とを含む防汚性物品が提供される:
【化1】
[式中:
Aは、各出現においてそれぞれ独立して、−OH、−SH、−COOH、−COSH、−CONH、−P(O)(OH)、−OP(O)(OH)、−NR
【化2】
を表し;
は、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
は、OまたはSを表し;
およびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
αは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
91は、フッ素原子、−CHFまたは−CFを表し;
Rf’は、炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。]。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材上に、酸およびアルカリ耐性の高い防汚性コーティング層を有する防汚性物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の防汚性物品について説明する。
【0012】
本発明の防汚性物品は、基材と、ダイヤモンドライクカーボン層と、防汚性コーティング層とを含んで成る。
【0013】
本発明に使用可能な基材は、特に限定されず、例えば、無機材料(例えば、ガラス、サファイアガラス)、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料、具体的にはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0014】
好ましい基材は、ガラスまたはサファイアガラスであり得る。ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学結合したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
【0015】
基材の形状は特に限定されない。また、防汚性コーティング層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0016】
基材の表面(最外層)には、他の層(または膜)が形成されていてもよく、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(例えば、ガラスまたはサファイアガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0017】
上記ダイヤモンドライクカーボン層は、基材の上に位置する。ダイヤモンドライクカーボン層は、直接基材の上に形成されていてもよく、あるいは、上記した他の層、例えばハードコート層または反射防止層などを介して形成されていてもよい。
【0018】
本発明においてダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のsp混成軌道による結合)とグラファイト結合(炭素同士のsp混成軌道による結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造を有するカーボンを意味する。また、ダイヤモンドライクカーボンは、炭素以外の原子、例えば水素、酸素、珪素、窒素、アルミニウム、硼素、燐等を含んでいてもよい。
【0019】
ダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、特に限定されないが、例えば1nm〜100μm、好ましくは1nm〜1000nm、より好ましくは1nm〜100nmであり得る。
【0020】
ダイヤモンドライクカーボン層は、例えば、化学蒸着(CVD)法、例えば熱CVD法、プラズマCVD法等、または物理蒸着(PVD)法、例えば真空蒸着法、スパッタ法等により形成することができる。
【0021】
ダイヤモンドライクカーボン層は、下記する表面処理剤に含まれる含フッ素化合物との結合能を有し、また、物品の硬度、耐摩耗性等を向上させる。
【0022】
上記防汚性コーティング層は、含フッ素化合物、例えばパーフルオロポリエーテル基またはパーフルオロアルキル基含有化合物を含む表面処理剤を用いて、ダイヤモンドライクカーボン層上に形成される。
【0023】
上記含フッ素化合物は、下記式(A1)、(A2)、(B1)および(B2):
【化3】
のいずれかで表される1種またはそれ以上の化合物である。以下、上記式(A1)、(A2)、(B1)および(B2)について説明する。
【0024】
なお、本明細書において用いられる場合、「2〜10価の有機基」とは、炭素を含有する2〜10価の基を意味する。かかる2〜10価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1〜9個の水素原子を脱離させた2〜10価の基が挙げられる。例えば、2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0025】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。なお、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0026】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基、5〜10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0027】
式(A1)および(A2):
【化4】
【0028】
上記式中、Aは、各出現においてそれぞれ独立して、−OH、−SH、−COOH、−COSH、−CONH、−P(O)(OH)、−OP(O)(OH)、−NR
【化5】
を表し、好ましくは、−SH、−P(O)(OH)、−OP(O)(OH)、−NR、または
【化6】
である。
【0029】
上記Rは、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
上記Xは、それぞれ独立して、OまたはSを表す。
およびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属を表す。アルカリ金属は、例えばLi、NaまたはKなどが好ましい。
【0030】
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表す。好ましくは、Yは、単結合、または炭化水素基(好ましくは置換されていてもよいC1−6アルキル基)であり得る。
【0031】
上記式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表す。
【0032】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基における「炭素数1〜16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0033】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。
【0034】
該炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0035】
上記式中、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和が少なくとも1であれば特に限定されるものではない。好ましくは、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数、例えば1以上200以下の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数、例えば1以上100以下の整数である。さらに好ましくは、a、b、cおよびdの和は、10以上、好ましくは20以上であり、200以下、好ましくは100以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0036】
一の態様において、PFPEは、−(OC−(式中、bは1以上200以下、好ましくは10以上100以下の整数である)であり、好ましくは−(OCFCFCF−(式中、bは上記と同意義である)である。
【0037】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上または1以上30以下、好ましくは0以上10以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは10以上100以下の整数である。a、b、cおよびdの和は、10以上、好ましくは20以上であり、200以下、好ましくは100以下である。添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−(式中、a、b、cおよびdは上記と同意義である)である。例えば、PFPEは、−(OCFCF−(OCF−(式中、cおよびdは上記と同意義である)であってもよい。
【0038】
さらに別の態様において、PFPEは、−(OC−R−(式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり、iは、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。)である。
【0039】
上記Rにおける、OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記式中、OC、OCおよびOCは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OC−または−(OC−OC−である。
【0040】
上記PFPE基の平均分子量は、特に限定されるものではないが、500〜30,000、好ましくは1,500〜30,000、より好ましくは2,000〜10,000である。なお、本発明において「平均分子量」は数平均分子量を言い、「平均分子量」は、19F−NMRにより測定される値とする。
【0041】
上記式(A1)および(A2)中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、ダイヤモンドライクカーボン層との結合能を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0042】
上記式中のαは、1〜9の整数であり、α’は、1〜9の整数である。これらαおよびα’は、Xの価数に応じて決定され、式(A1)において、αおよびα’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、αおよびα’の和は10であり、例えばαが9かつα’が1、αが5かつα’が5、またはαが1かつα’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、αおよびα’は1である。式(A2)において、αはXの価数の値から1を引いた値である。
【0043】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0044】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
−(R31p’−(Xq’−R32
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHs’−であり、
32は、単結合、−(CHt’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHt’−であり、
s’は、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
t’は、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
は、−(Xr’−を表し、
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−NR34−および−(CHn’−からなる群から選択される基を表し、
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
r’は、1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1である。]
で表される2価の基が挙げられる。
【0045】
好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、または
−R31−X−R32
[式中、R31およびR32は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0046】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−X−、または
−(CHs’−X−(CHt’
[式中、s’およびt’は、上記と同意義である。]
である。
【0047】
上記式中、Xは、−O−を表す。
【0048】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、または
−(CHs’−X−(CHt’
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0049】
さらにより好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、または
−(CHs’−O−(CHt’
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
である。
【0050】
上記X基は、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基(好ましくは、C1−3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0051】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
−CHOCH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH4−、および
−(CH−、
などが挙げられる。
【0052】
上記式(A1)および(A2)で表される化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000〜40,000、好ましくは2,000〜32,000、より好ましくは2,000〜20,000、さらにより好ましくは2,500〜12,000であり得る。
【0053】
上記式(A1)および(A2)で表される化合物は、例えば、Rf−PFPE−部分に対応するパーフルオロポリエーテル誘導体を原料として、末端に水酸基を導入した後、−Y−A部分に対応する基、例えば末端にハロゲン化アルキルを有する化合物とWilliamson反応に付すこと等により得ることができる。
【0054】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A基に変換することにより、製造することができる。
【0055】
式(B1)および(B2):
【化7】
【0056】
上記式(B1)および(B2)中、YおよびAは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0057】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物において、主に撥水性等を提供するフルオロアルキル部(R91−Rf’−または−Rf’−部)と、基材との結合能を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0058】
上記式中のβは、1〜9の整数であり、β’は、1〜9の整数である。これらβおよびβ’は、Xの価数に応じて決定され、式(B1)において、βおよびβ’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、βおよびβ’の和は10であり、例えばβが9かつβ’が1、βが5かつβ’が5、またはβが1かつβ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、βおよびβ’は1である。式(B2)において、βはXの価数の値から1を引いた値である。
【0059】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0060】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0061】
上記式中、R91は、フッ素原子、−CHFまたは−CFを表し、好ましくはフッ素原子または−CFである。
【0062】
Rf’は、炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。Rf’は、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6、さらに好ましくは炭素数3〜6であることが好ましい。具体的なRf’の例としては、−CF−、−CFCF−、−CFCFCF−、−CF(CF)−、−CFCFCFCF−、−CFCF(CF)−、−C(CF−、−(CFCF−、−(CFCF(CF)−、−CFC(CF−、−CF(CF)CFCFCF−、−(CFCF−、−(CFCF(CF)−、−(CFCF(CF)−、−C16−が挙げられ、中でも、直鎖の炭素数3〜6のパーフルオロアルキレン、例えば、−CFCFCFCF−、−CFCFCF−等が好ましい。
【0063】
上記式(B1)および(B2)で表される化合物は、例えば、R91−Rf’−部分に対応するフルオロアルキル誘導体を原料として、末端に水酸基を導入した後、−Y−A部分に対応する基、例えば末端にハロゲン化アルキルを有する化合物とWilliamson反応に付すこと等により得ることができる。
【0064】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A基に変換することにより、製造することができる。
【0065】
好ましい態様において、含フッ素化合物は、式(A1)および式(A2)のいずれかで表される1種またはそれ以上の化合物である。より好ましくは、含フッ素化合物は、式(A1)で表される1種またはそれ以上の化合物である。
【0066】
別の好ましい態様において、含フッ素化合物は、式(B1)および式(B2)のいずれかで表される1種またはそれ以上の化合物である。より好ましくは、含フッ素化合物は、式(B1)で表される1種またはそれ以上の化合物である。
【0067】
防汚性コーティング層の形成に用いられる表面処理剤は、溶媒で希釈されていてもよい。このような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、パーフルオロヘキサン、CFCFCHCl、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン((ゼオローラH(商品名)等)、COCH、COC、CFCHOCFCHF、C13CH=CH、キシレンヘキサフルオリド、パーフルオロベンゼン、メチルペンタデカフルオロヘプチルケトン、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、HCFCFCHOH、メチルトリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロ酢酸およびCFO(CFCFO)(CFO)CFCF[式中、mおよびnは、それぞれ独立して0以上1000以下の整数であり、mまたはnを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、但しmおよびnの和は1以上である。]、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,2−トリクロロ―3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンからなる群から選択される溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。
【0068】
防汚性コーティング層の形成に用いられる表面処理剤は、含フッ素化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0069】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1―16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1−16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、C1−3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1〜300、より好ましくは20〜300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0070】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して1以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0071】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0072】
上記表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記含フッ素化合物の合計100質量部(それぞれ、2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは5〜300質量部で含まれ得る。
【0073】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた防汚性コーティング層を得ることができる。
【0074】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中の含フッ素化合物の合計と、式(3b)で表される化合物との質量比は、4:1〜1:4であることが好ましい。
【0075】
好ましい態様において、真空蒸着法により防汚性コーティング層を形成する場合には、含フッ素化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような平均分子量とすることにより、より優れた摩擦耐久性と表面滑り性を得ることができる。
【0076】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf−F(式中、RfはC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。また、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーであってもよい。Rf−Fで表される化合物およびクロロトリフルオロエチレンオリゴマーは、末端がC1−16パーフルオロアルキル基である上記含フッ素化合物で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0077】
含フッ素オイルは、防汚性コーティング層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0078】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0079】
上記表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、含フッ素化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは0〜200質量部で含まれ得る。
【0080】
シリコーンオイルは、防汚性コーティング層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0081】
上記触媒としては、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0082】
触媒は、含フッ素化合物とダイヤモンドライクカーボン層との反応を促進し、防汚性コーティング層の形成を促進する。
【0083】
上記表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0084】
上記表面処理剤を、基材上のダイヤモンドライクカーボン層の表面に適用し、必要に応じて後処理することにより、防汚性コーティング層を形成することができる。表面処理剤の適用方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0085】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0086】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0087】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0088】
湿潤被覆法を使用する場合、表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:C5−12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C13CHCH(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC−6000)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC−225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCFCHOCFCHF(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE−3000))、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(i)およびパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシラン化合物(ii)(存在する場合には、さらにアミン化合物(iii))の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0089】
乾燥被覆法を使用する場合、表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。例えば、表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体またはセラミック多孔体に、表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0090】
上記後処理としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば、60〜250℃、好ましくは100℃〜180℃であってもよい。熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば30分〜5時間、好ましくは1〜3時間であってもよい。
【0091】
防汚性コーティング層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、防汚性コーティング層の厚さは、1〜50nm、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0092】
上記のようにして、ダイヤモンドライクカーボン層の表面に、表面処理剤を用いて防汚性コーティング層(表面処理層)が形成され、本発明の防汚性物品が製造される。
【0093】
本発明の防汚性物品において、ダイヤモンドライクカーボン層と、防汚性コーティング層を形成する含フッ素化合物との結合は、ダイヤモンドライクカーボン層のsp混成軌道を有する部分と、含フッ素化合物のA基との反応により形成される。これにより、加水分解反応を受けやすい−Si−O−Si−結合ではなく、他の結合、例えば、−C−O−結合、−C−N−結合、−C−S−結合等でダイヤモンドライクカーボン層と含フッ素化合物とを結合させることが可能になり、耐酸性および耐アルカリ性に優れた防汚性コーティング層を得ることができる。また、この防汚性コーティング層は、高い耐酸および耐アルカリ性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0094】
好ましい態様において、本発明の防汚性物品は、光学部材であり得る。光学部材の例としては、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;陰極線管(CRT;例、TV、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED;Field Emission Display)などのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバーなど。
【0095】
また、本発明の防汚性物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0096】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0097】
実施例1
化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に、プラズマCVD装置により、原料ガスにメタンを用いて、ダイヤモンドライクカーボン層を形成した。続いて、真空蒸着装置で、ダイヤモンドライクカーボン層の上に、下記の平均組成を有するアミノ基含パーフルオロポリエーテル化合物(A)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.4mg、抵抗加熱により真空蒸着した。その後、処理表面の余分な防汚薬剤をエタノールでふき取り、防汚性コーティング層を作成した。
・アミノ基含パーフルオロポリエーテル化合物(A)
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)21CF2CF2CH2NH2
【0098】
実施例2
化合物(A)に代えて、下記の平均組成を有するリン酸基含パーフルオロポリエーテル化合物(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、防汚性コーティング層を形成した。
・リン酸基含パーフルオロポリエーテル化合物(B)
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)21CF2CF2CH2OP(O)(OH)2
【0099】
比較例1
化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に、まず、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素膜を形成し、下記の平均組成を有するシラン基含有パーフルオロポリエーテル化合物(C)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.4mg、抵抗加熱により真空蒸着した。その後、処理表面の余分な防汚薬剤をエタノールでふき取り、防汚性コーティング層を作成した。
・シラン基含パーフルオロポリエーテル化合物(C)
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3
【0100】
比較例2
化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に、まず、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素膜を形成し、下記のアミノプロピルトリエトキシシラン(D)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.2mg、抵抗加熱により真空蒸着させた後、さらにその上に、シラン基含パーフルオロポリエーテル化合物(C)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.4mg蒸着させた。その後、処理表面の余分な防汚薬剤をエタノールでふき取り、防汚性コーティング層を作成した。
・アミノプロピルトリエトキシシラン(D)
NH2CH2CH2CH2Si(OC2H5)3
【0101】
・人口汗耐久性評価
上記の実施例1および2ならびに比較例1および2にてダイヤモンドライクカーボン層に形成された防汚性コーティング層について、人口汗耐久性を評価した。具体的には、防汚性コーティング層を形成した基材を下記に示す組成の人口汗に浸漬し、60℃の加温条件下で、48時間、168時間、504時間、840時間毎に引き上げ、表面を蒸留水、エタノールで洗浄し、その後、水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。結果を表3に示す(表中、記号「−」は測定せず)。

・人口汗の組成
無水リン酸水素二ナトリウム:2g
塩化ナトリウム:20g
85%乳酸:2g
ヒスチジン塩酸塩:5g
蒸留水:1kg
【0102】
【表1】
【0103】
表1の結果から理解されるように、実施例1および2の防汚性コーティング層は、優れた汗耐性を示すことが確認された。これは、基材表面のダイヤモンドライクカーボン層と、含フッ素化合物間の結合が、アルカリ環境の影響を受けにくいため機能が維持されたと考えられる。一方、比較例1および2は、ダイヤモンドライクカーボン層と含フッ素化合物(C)との結合が、Si−O−Si結合であるので、人工汗のアルカリ環境では、加水分解を受けやすいためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、種々多様な基材、特に光学部材の表面に、防汚性コーティング層を形成するために好適に利用され得る。