特許第5967323号(P5967323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5967323-プリプレグ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5967323
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】プリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   C08J5/24CEZ
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-562965(P2015-562965)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086156
【審査請求日】2016年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-1281(P2015-1281)
(32)【優先日】2015年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川本 史織
(72)【発明者】
【氏名】武田 一朗
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/038591(WO,A1)
【文献】 特開2008−230236(JP,A)
【文献】 特開2010−018724(JP,A)
【文献】 特開2008−006814(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/157013(WO,A1)
【文献】 特開2007−217665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
B32B 1/00−43/00
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
B29C 70/04−70/24
B64B 1/00− 1/70
B64C 1/00−99/00
B64D 1/00−47/08
B64F 1/00− 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂1が含浸された繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂2および該熱硬化性樹脂2に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が配置されたプリプレグであって、該プリプレグの繊維質量が120〜300g/m、樹脂含有率が25〜50質量%であり、かつ、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.8barの条件下において、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在するプリプレグ。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の形態が粒子である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が20℃以上の幅の温度領域において存在する請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記層間摩擦係数の測定と同一温度でプリプレグを60分間保持した後、前記層間摩擦係数の測定と同一の条件で層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数対比上昇率が20%以内となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在する請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
プリプレグを擬似等方に積層および成形し、ASTM D7137/7137M−07に準拠して測定した積層板の衝撃後圧縮強度の平均値が250MPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
プリプレグを一方向に積層および成形し、JIS K7086−1993に準拠して測定した積層板の破壊靭性値GICの平均値が450J/m以上である請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
プリプレグを一方向に積層および成形し、JIS K7086−1993に準拠して測定した積層板の破壊靭性値GIICの平均値が2200J/m以上である請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
繊維層のガラス転移温度Tgfが5〜30℃の範囲内にある請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
繊維層のガラス転移温度Tgfが樹脂層のガラス転移温度Tgrよりも高い請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項10】
ウォーターピックアップ法を用いて測定したプリプレグの含浸率が2質量%以下である請求項1〜9のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項11】
同一温度で空気中において1時間暴露した後のプリプレグ表面の粒子の数密度を、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに測定した場合に、粒子の数密度が300個/mm以下となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在する請求項2〜10のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項12】
熱可塑性樹脂の粒子の真球度が90〜100の範囲にある請求項2〜11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
熱可塑性樹脂の粒子のうち、粒子径が1μm以下のものが粒子全量のうちの1体積%以下である請求項2〜12のいずれかに記載のプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックを得るための炭素繊維強化プリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチックは、比強度や比剛性に優れていることから有用であり、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途等に広く展開され、その需要は年々増加しつつある。中でも炭素繊維強化プラスチックは、軽量で強度および剛性に優れることから、民間航空機に代表される航空機産業に広く用いられ、近年主翼や胴体など大型構造部材にも用いられている。
【0003】
これら構造部材には、繊維強化プラスチックの中でも特に力学特性に優れた、プリプレグの積層体を硬化させたものが用いられることが多い。プリプレグを積層してなる繊維強化プラスチックは、繊維が一方向に引き揃えられ、繊維体積含有率が向上することで、炭素繊維の高い繊維弾性率および強度を最大限に活用できる。また、プリプレグに高機能樹脂を目付けばらつきが少なく含浸させておくことで、得られる繊維強化プラスチックの品質が安定する。プリプレグを積層してなる繊維強化プラスチックの弱点として、面外より異物が衝突した際に、プリプレグの層間が割れ、内部に層間剥離を内包していても、外部からは損傷の有無がわからないとの問題があった。層間剥離の存在は、構造部材の圧縮強度の低下につながるため、航空機飛行中の安全性を確保する目的で、CAIと呼ばれる衝撃後圧縮強度が構造設計指標となっている。そこで特許文献1では熱可塑性樹脂を微粒子化したものをプリプレグの表面に局在化させることにより、プリプレグを積層し繊維強化プラスチックとした際、層間に熱可塑性樹脂を集積させ層間剥離強度を高めることで、面外からの衝撃が加わった際の層間剥離面積を低下させ、CAIを向上させることに成功している。現在、航空機の一次構造部材に用いられている繊維強化プラスチックにはこのような“層間高靭化”プリプレグの適用が主流となっている。
【0004】
構造部材の製造工程の中でも、オートクレーブなどによる成形硬化工程の前に、プリプレグを三次元形状に追従させプリフォームとする賦形工程が、部材品質の成否を左右する重要な工程であることが知られている。プリプレグを一層ごとに賦形すれば、高品質なプリフォームを得ることができるが、高コストで工程時間も長くなる。そこで生産効率を高めるため、予め高速で自動機により平板状にプリプレグを積層しプリプレグ積層体とした後、プリプレグ積層体に熱を加えながら三次元形状に賦形していく、ホットフォーミングと呼ばれる賦形法が用いられている。特許文献2では、マンドレルと膨張性ブラダとの間にプリプレグ積層体を配置し、ブラダを膨張させることで積層体を曲げながらマンドレルに押し付ける賦形法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−104624号公報
【特許文献2】国際公開WO96/06725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献2の賦形法では、プリプレグ積層体各層の曲げ変形とともに、層間が滑って形状追従していく。しかし、層間滑りよりも各層の曲げの方が優先して起こってしまうため、シワが発生しやすいという問題があった。プリフォームにシワが内包すると、成形された部材にも欠陥が引き継がれ、部材としての構造強度が低下するため、品質が安定しなかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、かかる背景技術における問題点に鑑み、航空機構造部材に適した、繊維強化プラスチックとした際に高衝撃強度を発現するプリプレグであって、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、賦形性に優れるプリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次のような構成を有するものである。すなわち、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂1が含浸された繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂2および該熱硬化性樹脂2に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が配置されたプリプレグであって、該プリプレグの繊維質量が120〜300g/m、樹脂含有率が25〜50質量%であり、かつ、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.8barの条件下において、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在するプリプレグである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平板状のプリプレグ積層体を直接三次元形状に追従させる生産性に優れたホットフォーミング賦形工程において、特殊な機構を有する装置を用いることなく、シワのないプリフォームを製造でき、かつ、繊維強化プラスチックとした際、高衝撃強度を発現するプリプレグを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】a)は本発明の層間摩擦係数測定法を示す断面図であり、b)は本発明の層間摩擦係数測定法を示す平面図である。
図2】本発明のホットフォーミング賦形試験を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、プリプレグ積層体から得られる繊維強化プラスチックにおいて、面外から加わる衝撃荷重に対する耐性を向上させることを目的として検討を行った。前記のように、プリプレグ積層体の層間に熱可塑性樹脂を集積させると、衝撃強度を向上できる。しかし、層間の熱可塑性樹脂は、プリプレグ層間の滑りを妨げ、賦形性を低下させていることを見出した。そこで、プリプレグを炭素繊維および熱硬化性樹脂1を含む繊維層と、熱硬化性樹脂2および該熱硬化性樹脂2に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層とが積層された構造とし、かつ、プリプレグ積層体とした際のプリプレグ層同士の滑りを制限する層間の摩擦抵抗を低下させる設計とすることで、上述した本発明の課題を解決できることを究明した。これにより、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、プリプレグ積層体の各層の曲げ変形と層間の滑りをバランスよく引き起こさせ、シワの発生を抑制することで、層間靭性が高く、かつ、高力学特性で品質ばらつきの少ない繊維強化プラスチックを製造できることを見出した。
【0012】
具体的には、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂1が含浸された繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂2および該熱硬化性樹脂2に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が配置されたプリプレグであって、該プリプレグの繊維質量が120〜300g/m、樹脂含有率が25〜50質量%であり、かつ、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.8barの条件下において、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在するプリプレグである。層間摩擦係数の詳細については後述する。
【0013】
本発明において熱硬化性樹脂は、特に制限されず、樹脂が熱により架橋反応を起こし少なくとも部分的な三次元架橋構造を形成するものであればよい。これらの熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の変性体および2種以上のブレンドの樹脂を用いることもできる。また、これらの熱硬化性樹脂は熱により自己硬化する樹脂であってもよいし、硬化剤や硬化促進剤等とブレンドしてもよい。
【0014】
これらの熱硬化性樹脂のうち、耐熱性、力学的特性および炭素繊維への接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン、フェノールおよび炭素−炭素二重結合を持つ化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。具体的には、アミンを前駆体とする、アミノフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂およびテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニル、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレオソール等の変形が挙げられる。高純度テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂である平均エポキシド当量(EEW)が100〜115の範囲のテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、および高純度アミノフェノール型エポキシ樹脂である平均EEWが90〜104の範囲のアミノフェノール型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化プラスチックにボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは耐熱性に優れており、航空機の構造部材の複合材料用樹脂として好ましく用いられる。
【0015】
また、前駆体としてフェノールを用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も、熱硬化性樹脂として好ましく用いられる。これらのエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレオソールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。高純度ビスフェノールA型エポキシ樹脂である平均EEWが170〜180の範囲のビスフェノールA型エポキシ樹脂、および高純度ビスフェノールF型エポキシ樹脂である平均EEWが150〜65の範囲のビスフェノールF型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化プラスチックにボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために好ましく用いられる。
【0016】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、粘度が低いため他のエポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0017】
また、室温(約25℃)で固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、室温(約25℃)で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と比較すると硬化樹脂中の架橋密度が低い構造となるため、硬化樹脂の耐熱性はより低くなるが、靭性はより高くなる。そのためグリシジルアミン型エポキシ樹脂、液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0018】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、吸収性が低く耐熱性が高い硬化樹脂となる。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびフェニルフッ素型エポキシ樹脂も吸収性の低い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0019】
ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靭性と伸度の高い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0020】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし適宜ブレンドして用いてもよい。2官能、3官能またはそれ以上の官能基を有するエポキシ樹脂を樹脂組成物に添加すると、得られるプリプレグが、作業性や加工性および繊維強化複合体としての湿潤条件下における耐熱性の両方を満足できるため好ましい。特に、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の組合せは、加工性、耐熱性および耐水性を達成することができる。また、少なくとも1種の室温で液体のエポキシ樹脂と少なくとも1種の室温で固体のエポキシ樹脂とをブレンドすることは、プリプレグに好適なタック性とドレープ性の両方を付与するのに有効である。
【0021】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレオソールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性が高く吸収性が低いため、耐熱耐水性の高い硬化樹脂となる。これらのフェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレオソールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱耐水性を高めつつプリプレグのタック性およびドレープ性を調節することができる。
【0022】
エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ基と反応し得る活性基を有するいずれの化合物であってもよい。アミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が硬化剤として好適である。硬化剤のより具体的な例としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体および他のルイス酸錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0023】
硬化剤として芳香族ジアミンを用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂を得ることができる。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られるため最も好適である。芳香族ジアミンの硬化剤の添加量は、化学量論的に当量であることが好ましいが、場合によっては、エポキシ樹脂に対して約0.7〜0.9当量を用いることにより高弾性率の硬化樹脂を得ることができる。
【0024】
また、イミダゾール、またはジシアンジアミドと尿素化合物(例えば、3−フェノール−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−トルエンビスジメチル尿素、2,6−トルエンビスジメチル尿素)との組合せを硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながらも高い耐熱性および耐水性を達成することができる。酸無水物を硬化剤として用いた場合、アミン化合物を用いた場合に比べて比較的吸収性の低い硬化樹脂が得られる。さらに、これらの硬化剤のうちの1つを形成する可能性を有する物質、例えばマイクロカプセル化物質を用いることにより、プリプレグの保存安定性を高めることができ、特に、タック性およびドレープ性が室温放置しても変化しにくくなる。
【0025】
また、これらのエポキシ樹脂または硬化剤、またはそれらの両方を部分的に予備反応させた生成物を組成物に添加することもできる。場合によっては、この方法は粘度調節や保存安定性向上に有効である。
【0026】
熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂をブレンドし溶解させてもよい。このような熱可塑性樹脂は、通常は炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合より選択される結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましいが、部分的に架橋構造を有していても構わない。
【0027】
また、熱可塑性樹脂は結晶性を有していてもいなくてもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を熱硬化性樹脂にブレンドし溶解させることが好ましい。
【0028】
これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーでもよいし、市販のポリマーより分子量の低いいわゆるオリゴマーであってもよい。オリゴマーとしては、熱硬化性樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。
【0029】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とのブレンドを用いる場合、これらの一方のみを用いた場合に比べ、熱硬化性樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の靭性でカバーすることができ、また熱可塑性樹脂の成形の困難さを熱硬化性樹脂でカバーすることができるため、バランスのとれた主剤とすることができる。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との比(質量部)は、バランスの点で100:2〜100:50の範囲が好ましく、100:5〜100:35の範囲がより好ましい。
【0030】
本発明における樹脂層は、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む。ここで、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂とは、かかる熱可塑性樹脂を分散した熱硬化性樹脂をオートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cmで2時間加熱加圧して硬化した際に、熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂中に溶解しないことを意味している。ここで、「溶解しない」とは、上記のようにして得られた熱硬化性樹脂硬化物の表面を、熱可塑性樹脂が表面に露出するまで研磨し、該表面を光学顕微鏡を用いて観察した際に、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との間が明確な界面をもって観察できるものであることを指す。一方、熱可塑性樹脂が周囲の熱硬化性樹脂と明確な界面を有さず、両者の区別がつかない場合は、熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂中に溶解しているとした。
【0031】
ここで、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂は、樹脂種を限定されるものではなく、ガラス転移温度が80℃〜180℃の範囲にある熱可塑性樹脂が好ましい。このような比較的高いガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂は、加熱硬化の際に形態の変形が起こらず、プリプレグ積層体を硬化させて得られる繊維強化プラスチックは、安定した層間厚みが形成され、層間靭性に優れるとともに、湿熱時圧縮強度を安定して確保できる。ガラス転移温度が80℃に満たない場合、層間靭性および湿熱時圧縮強度のバランスの不十分な繊維強化プラスチックとなる。一方、ガラス転移温度が180℃を上回る場合、熱可塑性樹脂自体の靱性が不足する傾向があるとともに、熱可塑性樹脂とマトリックス樹脂の界面接着性が不十分となり、層間靭性が不十分な繊維強化プラスチックとなる。
【0032】
熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂は、先に例示した各種熱可塑性樹脂と同種であってもよい。中でも、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上させることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/12共重合体や特開平1−104624号公報の実施例1に記載されたエポキシ化合物とセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、熱硬化性樹脂との接着強度が特に良好である。したがって、繊維強化プラスチックとした際の層間剥離強度が高くなり、また耐衝撃性の向上効果が高くなるため、好ましい。熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層は、プリプレグ表面の片面のみに配されていても、両面に配されていてもよい。
【0033】
炭素繊維としては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、層間靭性や耐衝撃性の点から、230〜400GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、強度の観点からは、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、引張強度が好ましくは4.4〜7.0GPaの炭素繊維が用いられる。また、引張伸度も重要な要素であり、1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。
【0034】
好ましく用いられる炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T1100G−24K、“トレカ(登録商標)”T1100G−12K、“トレカ(登録商標)”T800S−24K、 “トレカ(登録商標)”T800S−12K、“トレカ(登録商標)”T300−3K、および“トレカ(登録商標)”T700S−12K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0035】
本発明のプリプレグ中における繊維質量は120〜300g/mであり、さらに好ましくは140〜280g/mである。ここで、繊維質量とは、プリプレグの単位面積当たりに含まれる炭素繊維の質量である。繊維質量が120g/mより小さい場合、所望の繊維強化プラスチック厚みを得るための積層数が多くなり、製造のための工数が多大となるという問題がある。一方、繊維質量が300g/mより大きい場合、繊維中に樹脂が含浸しにくく、繊維強化プラスチックとした際に未含浸部がボイドとして残り、物性の低下につながる可能性がある。
【0036】
本発明のプリプレグは、プリプレグ全質量に対する、樹脂含有率が25〜50質量%であり、さらに好ましくは30〜40質量%である。ここで、樹脂含有率とは、炭素繊維を除いた全樹脂成分の、プリプレグ全質量に対する比率である。樹脂含有率が50質量%より大きいと、繊維含有率が減り、繊維強化プラスチックとした際、強度および弾性率が低下する。また、樹脂含有率が25質量%より小さいと、特にプリプレグ表面に樹脂層を設ける本発明の構成においては、繊維層における樹脂量が少なくなり、繊維表面を完全に樹脂で覆うことができず、繊維間で割れが発生しやすくなり、予期せぬ破壊を引き起こし品質ばらつきも大きくなる可能性がある。
【0037】
本発明のプリプレグは、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.8barの条件下において、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在する。かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が好ましくは0.015以下、さらに好ましくは0.01以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在する。さらに好ましくは、かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が上記の範囲となる温度が、50℃〜80℃の温度範囲内に存在する。層間摩擦係数が0.02以下となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在しない場合、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、例え層間摩擦係数が最小となる温度にて賦形を実施したとしても、層間が滑りにくく、シワが発生してしまう。
【0038】
かかる層間摩擦係数は、プリプレグを積層したプリプレグ積層体において、プリプレグ層間で発生する摩擦係数を指す。本発明において、層間摩擦係数は、図1に示すように2枚のプリプレグ4の間に1枚のプリプレグ3を挟み、プリプレグ面外から、圧板1を用いて、プリプレグに対して垂直に所定の荷重をかける。挟まれたプリプレグ3を引き抜く際に得られる荷重を、プリプレグ面外から垂直に押し付ける荷重(垂直荷重)の2倍で割って得られる値を層間摩擦係数とする。2倍であるのは摩擦抵抗を受けるプリプレグ表面が2箇所存在するからである。試験法としては、プリプレグは繊維方向に長尺となるように切り出され、幅30mm(繊維直交方向)、長さ60mm(繊維方向)の範囲でプリプレグ3とプリプレグ4がオーバーラップするように、繊維方向を同一にして3枚積層する。中央のプリプレグ4のオーバーラップ部に接するように幅30mmの同一繊維方向のプリプレグをカットしたスペーサー5を設置する。プリプレグの引抜きとともにオーバーラップ部の面積が減り、圧板1で加圧する領域が偏ることから、圧板1が片当たりして局所的に高い荷重が加わる可能性があるため、引抜きと逆方向にスペーサー5を配置し、圧板1が傾かないようにする。オーバーラップ部およびスペーサーの長さ10mmの範囲(幅30mm、長さ70mmの範囲)を、加熱源を有した圧板1で所定の温度に温調しながら168Nの一定垂直荷重を試験中加え続ける。垂直応力に換算すると0.8barとなる。プリプレグに垂直荷重を加え始めて10分後に、中央プリプレグ層3を繊維方向に引抜速度0.2mm/minで引抜き、引抜荷重を測定する。引抜荷重をオーバーラップ部(試験開始時には幅30mm、長さ60mmの範囲)に加わる垂直荷重(試験開始時には144N)の2倍で割ったものを層間摩擦係数として計算する。ここで引抜きとともに中央プリプレグ層が垂直荷重を受けるオーバーラップ部の面積が減少するため、適宜引抜き変位で換算したオーバーラップ部の面積(幅30mm、長さ60mm−引抜き変位の範囲)とスペーサーで荷重を受けている面積(幅30mm、長さ10mmの範囲)を足し合わせた面積で168Nを受けているとしてオーバーラップ部に加わる垂直荷重を比例計算し、その垂直荷重の2倍で引抜き荷重を割ったものを層間摩擦係数とする。層間摩擦係数は温度だけでなく、引抜き速度、垂直応力および時間経過とともに変化するため、本発明においては引抜き速度0.2mm/min、垂直応力0.8barとし、引抜きを開始して5分後、すなわち引抜き変位1mmにおける層間摩擦係数を測定した。測定は5回行い、平均値を層間摩擦係数とした。
【0039】
プリプレグは、前記層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が20℃以上の幅の温度領域において存在するのが好ましい。かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が、好ましくは0.015以下、さらに好ましくは0.01以下となる温度が、20℃以上の幅の温度領域において存在することが好ましい。さらに好ましくは、かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が上記の範囲となる温度が、50℃〜80℃の温度範囲内に20℃以上の幅の温度領域において存在する。なお本発明においては、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定し、連続する3つの温度において層間摩擦係数が0.02以下となることを以って層間摩擦係数が0.02以下となる温度領域の幅が20℃以上とする。
【0040】
プリプレグ積層体の賦形工程においては、温調条件によってはしばしばプリプレグ積層体内に温度分布が生じる。例えばプリプレグ積層体を片面の加熱源、IRヒーターなどで加熱する場合、プリプレグ積層体の厚み方向に温度分布が生じる。また、例えばオーブン等で加熱されたプリプレグ積層体を室温のマンドレル上で賦形する際には、賦形中にマンドレルに接する面から冷却され、プリプレグ積層体内で温度分布が生じる。したがって、再現性のよい賦形工程を実現するためにはプリプレグは層間滑りが適切な範囲である温度領域が20℃以上の幅で存在することが好ましい。さらに好ましくは30℃以上の幅の温度領域である。
【0041】
プリプレグは、前記層間摩擦係数の測定と同一温度でプリプレグを60分間保持した後、前記層間摩擦係数の測定と同一の条件で層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数対比上昇率が20%以内となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在するのが好ましい。好ましくは該上昇率が10%以内となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在するのがよい。さらに好ましくは該上昇率が20%以内となる温度域の幅が20℃以上存在するのがよく、さらに好ましくは該上昇率が10%以内となる温度域の幅が20℃以上存在するのがよい。さらに好ましくは、かかる温度範囲は50〜80℃であるのがよい。本発明における層間摩擦係数の測定は、プリプレグに試験温度に温調した圧板で垂直荷重を加え始めて10分後に引抜きを開始する。同様にして、垂直荷重を加え始めて70分後に引抜きを開始して得た層間摩擦係数の値を、前記の層間摩擦係数と比較することで、60分間の時間経過による層間摩擦係数の上昇率を計算することができる。前述の通り時間経過とともに層間摩擦係数は変化するが、これはプリプレグが垂直荷重を受け続けることで、樹脂の移動および繊維のずれによりプリプレグ自体の構造変化が起きるためと推測される。
【0042】
プリプレグ積層体は空気など断熱層を含み、賦形のため所望の温度に温調する際に時間がかかることが多い。実際の賦形工程においては、圧力を加えた方が昇温速度が速くなるため、しばしば加圧下で加温することがある。したがって60分程度加圧下で温調を受けた際の層間摩擦係数の変化が重要になってくる。さらに好ましくは層間摩擦係数の上昇率が10%以内である。
【0043】
プリプレグを擬似等方に積層し、成形し、硬化して得られた積層板をASTM D7137/7137M−07にて規定される平板状の試験片に加工したときに、ASTM D7137/7137M−07に準拠して測定した該積層板の衝撃後圧縮強度(CAI)が250MPa以上であるのが好ましい。かかる衝撃後圧縮強度は、好ましくは300MPa以上であり、さらに好ましくは350MPaである。なお、試験片に層間剥離を生じさせる落錘衝撃工程はASTM D7136/7136M−07に従い実施する。試験は5回行い、それらの平均値を衝撃後圧縮強度(CAI)とする。CAIが高いほど衝撃特性が高く、航空機構造部材の設計要求に適し、部材軽量化に寄与する。ここで、擬似等方に積層するとは、積層するプリプレグの繊維方向を、少しずつずらして積層することにより、積層体全体としては繊維の配向が等方的になることを意味する。本発明においては、隣接するプリプレグの繊維方向を、45°ずつずらして16plyのプリプレグを積層した積層体のCAIを測定する。
【0044】
本発明のプリプレグを一方向に積層した積層体を成形し、硬化して得られた積層板を、JIS K7086−1993に準拠して測定した破壊靭性値GICが450J/m以上であるのが好ましい。破壊靭性値GICは、さらに好ましくは550J/m以上である。試験は5回行い、それらの平均値を破壊靭性値GICとする。層間靭性が高いことで、繊維が配向していない方向への想定外の破壊を防ぐことができる。特に航空機構造部材の破壊の多くがモードIであり、GICが重要な力学特性となる。ここで、一方向に積層するとは、積層するプリプレグの繊維方向を同一方向にそろえて積層することを意味する。
【0045】
本発明のプリプレグを一方向に積層した積層体を成形し、硬化して得られた積層板を、JIS K7086−1993に準拠して測定した破壊靭性値GIICが2200J/m以上であるのが好ましい。破壊靭性値GIICは、さらに好ましくは2900J/m以上である。試験は5回行い、それらの平均値を破壊靭性値GIICとする。GIC同様、層間靭性が高いことで、繊維が配向していない方向への想定外の破壊を防ぐことができる。航空機構造部材の破壊モードの一つ、スキン−ストリンガーの剥離はモードIIであることが知られ、GIICが重要な力学特性となる。またCAIを向上するためには、GIICの向上により、面外衝撃荷重に対し層間剥離を抑制することが有効であり、高衝撃強度を実現するためにもGIICが重要な力学特性となる。
【0046】
樹脂層中に含まれる、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂の形態は、不織布や繊維でもよいが、高衝撃強度を発現する繊維強化プラスチックを得るためには、粒子が好ましい。粒子の形態であることで、層間が滑る際、粒子同士の位置関係を変化させることができるため、不織布や繊維の形態で存在するよりも層間摩擦係数を低下させることができる。粒子の形状は球状、非球状、多孔質、針状、ウイスカー状、フレーク状のいずれでもよいが、特に球状が好ましい。
【0047】
好ましくは熱可塑性樹脂の粒子の真球度は、90〜100の範囲にあることが好ましく、より好ましくは95以上、さらに好ましくは97以上である。層間が滑る際、粒子同士の接触が起きるため、互いに真球に近い方が抵抗が少なく、その結果シワ発生が起こりにくい。
【0048】
さらに好ましくは、熱可塑性樹脂の粒子の粒子径が1μm以下のものが粒子全量のうちの1体積%以下であることがよい。好ましくは粒子径が2μm以下のものが粒子全量のうちの1体積%以下であり、さらに好ましくは粒子径が3μm以下のものが粒子全量のうちの1体積%以下であるのがよい。小粒子径の粒子が少なくなると、層間が滑る際、抵抗を受ける粒子の表面積総量が小さくなり、その結果シワ発生がおきにくい。
【0049】
しかしながら、熱可塑性樹脂が粒子である場合、プリプレグ積層体の賦形を行う温度域では熱可塑性樹脂は高硬度であり、繊維との干渉により層間摩擦係数を上昇させる要因となる。加えて、熱硬化性樹脂に内在する硬化剤の反応性を落とし、プリプレグの保管寿命を長くするため、固形の硬化剤を粒子の形状で混入することがある。これらの粒子と繊維および熱可塑性樹脂との干渉によって層間摩擦係数が上昇する。プリプレグ表面に配された樹脂層における、これら粒子の含有率が低いほど、層間摩擦係数を低下させることができるが、力学特性、特に高衝撃強度発現のためには粒子の存在は避けられない。
【0050】
本発明者らの解析によると、プリプレグ積層体が加熱、加圧を受ける際、樹脂層の熱硬化性樹脂が繊維層内に含浸し、樹脂層に含まれる粒子の占める体積比率が上昇することが、層間摩擦係数を悪化させる大きな要因であることが見出された。
【0051】
繊維層への熱硬化性樹脂の含浸を抑制するには、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を繊維層表面に局在化するのがよい。熱可塑性樹脂がフィルターの役目を果たし、また繊維同士を結びつける役目を果たし、繊維層への熱硬化性樹脂の含浸が遅れる。また繊維層のガラス転移温度Tgfを5〜30℃の範囲内とすることが有効である。さらに好ましくは、10〜20℃の範囲である。一般的なプリプレグにおける繊維層のガラス転移温度Tgfは氷点下であるが、ガラス転移温度Tgfを5〜30℃の範囲とすることで、繊維層の樹脂粘度および繊維同士の固着が強くなり、粒子の沈み込みが抑制され、大幅に層間摩擦係数を低下させることができる。
【0052】
さらに好ましくは、繊維層のガラス転移温度Tgfが樹脂層のガラス転移温度Tgrよりも高いのがよい。さらに好ましくはTgfがTgrよりも5℃以上高いのがよい。樹脂層に熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂が含まれると、一般的なプリプレグにおける繊維層よりもTgが高いことが多い。しかし、樹脂層のガラス転移温度Tgrよりも繊維層のガラス転移温度Tgfを高くすることで、繊維層の熱硬化性樹脂がより高粘度な熱硬化性樹脂を含む繊維層へ移動しにくくなり、大幅に層間摩擦係数を低下させることができる。繊維層のガラス転移温度Tgfを高くする方法としては、樹脂層に用いる熱硬化性樹脂よりガラス転移温度の高い熱硬化性樹脂を繊維に含浸して繊維層とする方法が考えられる。また、熱硬化性樹脂を炭素繊維に含浸して繊維層を形成した後、繊維層に熱履歴を加えることによりTgfを向上させ、その後、樹脂層を繊維層表面に配する方法も好ましい。
【0053】
ガラス転移温度はJIS K7121(1987)に従い、示差走査熱量計(DSC)により測定を行う。本発明においては、樹脂層のガラス転移温度Tgrは、プリプレグ表面の樹脂層をスパチュラで繊維が混入しないよう慎重にかきとり、容量50μlの密閉型サンプル容器に、3〜5mgの試料(試験片)を詰め、窒素雰囲気下で昇温速度10℃/minで−30〜250℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定する。また、繊維層のガラス転移温度Tgfは、プリプレグ両面の樹脂層をスパチュラで一部繊維層の繊維が混入するよう強くかきとり、残った繊維層をカッターで切断し、容量50μlの密閉型サンプル容器に、10〜20mgの試料(試験片)を詰め、窒素雰囲気下で昇温速度10℃/minで−30〜250℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定する。得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分の中間点であるガラス転移温度(Tmg)を測定する。具体的には、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とする。
【0054】
樹脂層への熱硬化性樹脂の含浸のしやすさは、プリプレグをオーブン等で加熱し表面の樹脂の被覆率を観察することで評価することができる。特に加温状態で一定時間暴露した後に表面に露出する粒子の数密度が層間摩擦係数の指標となり、数密度を低下させることで大幅に層間摩擦係数を低下させ、プリプレグ積層体の賦形においてシワ発生を抑制することを見出した。特に同一温度で空気中において1時間暴露した後のプリプレグ表面の粒子の数密度を、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに測定した場合に、粒子の数密度が300個/mm以下となる温度が40〜100℃の温度範囲内に存在することが好ましい。かかる数密度は、より好ましくは250個/mm以下、さらに好ましくは200個/mm以下である。さらに好ましくは、かかる温度範囲は、50℃〜80℃の温度範囲であるのがよい。プリプレグ表面の粒子の数密度の測定は、サンプリングしたプリプレグ表面から10箇所抽出して行う。所定の温度に温調したプレート上に離型紙を剥いだ直後のプリプレグを、離型紙を剥いだ面を上面として配置し、10分間加温後にプリプレグ表面の上方±45度の角度から繊維方向に平行に光を当てながら、光学顕微鏡を用いて200倍の倍率で1mm±0.2mmの面積範囲内を撮像し、デジタル画像を得る。繊維方向に光を当てることで、繊維起因の凹凸をキャンセルし、粒子の突起のみが抽出される。NTSC系加重平均法を用いてグレースケール化し、最小輝度と最大輝度の平均輝度よりも明るい輝度を閾値として二値化を行ない、独立した白色部を粒子として認識して個数を数え、該個数を実際に撮像した面積で割った値を、抽出した10箇所で平均した値を数密度とする。なお本操作時に、粒状物が凝集し10μmよりもおおきな大きな塊として認識される場合は、粒状物が独立して認識されるまで閾値を明るい輝度側に調整する。
【0055】
また、熱可塑性樹脂や固形の硬化剤などの粒子の含有率が同じであるなら、粒子径を大きくすることにより、個数を減じ、粒子同士または繊維との接触確率を減じることで層間摩擦係数を低下させることができる。
【0056】
本発明のプリプレグは、ウォーターピックアップ法を用いて測定したプリプレグの含浸率が2質量%以下であることが好ましい。かかる含浸率は、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。ウォーターピックアップ法とは、プリプレグを水につけることで、毛細管現象により、プリプレグ内の空隙に水分が入り込み、その入り込んだ水分の質量を割合として計算した含浸性の指標である。本発明においては、100×100mmのプリプレグ1枚を用意し、質量を測定し、その後、水を入れたビーカーに0°の向きで垂直に6mm沈め、5分間浸漬後の質量を測定し、浸水後の質量の増加量を元の質量で割ったものを含浸率(質量%)とした。したがって、含浸率が小さいほど、マトリックス樹脂が繊維層に充分に含浸していることを意味する。繊維層の含浸率が向上することで、樹脂層からの熱硬化性樹脂の移動が起き難く、層間摩擦係数を低下させることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。実施例で用いた樹脂原料、プリプレグおよび繊維強化プラスチックの作製方法および評価法を、次に示す。実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。
【0058】
(1)衝撃後圧縮強度(CAI)測定
次の(a)〜(e)の操作によりCAIを測定した。
(a)一方向プリプレグを[45/0/−45/90]2Sで16ply積層した。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cmで2時間加熱加圧して硬化し、擬似等方材(炭素繊維強化プラスチック)を成形した。
(c)平板状の炭素繊維強化プラスチックより、0°を長さ方向とし、長さ150±0.25mm、幅100±0.25mmのCAI試験片を切り出した。
(d)ASTM D7136/7136M−07に規定する試験方法に従い、落錘、超音波探傷を行い、損傷面積を測定した。パネルに与えたインパクトのエネルギーは、成形板厚さ9点の平均から算出し、一律28.4Jとした。
(e)ASTM D7137/7137M−07に規定する試験方法に従い、“インストロン(登録商標)”万能試験機4208型を用い、CAI強度を測定した。測定した試験片の数は5とし、平均値をCAI強度とした。
【0059】
(2)モードI層間靭性(GIC)測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(e)の操作によりGICを測定した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を同方向に揃えて16ply積層した。ただし、積層中央面(8ply目と9ply目の間)に、初期き裂を作製するため、厚み12.5μmのフッ素樹脂製フィルムを積層体端部から0°方向に40mm差し込んだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cmで2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を、0°を長さ方向とし、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、サンプルの長さ側と平行になるようにカットした。
(d)JIS K7086(1993)に従い、ピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端(フィルムをはさんだ側)に接着した。
(e)き裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
【0060】
作製した一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。
【0061】
JIS K7086(1993)附属書1に従い、“インストロン(登録商標)”5565型を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、き裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/min、20mm到達後は1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、き裂長さから、GIC(き裂進展初期のGIC)を算出した。測定した試験片の数は5とし、平均値をGICとした。
【0062】
(3)モードII層間靭性(GIIC)測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(d)の操作によりGIICを測定した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を同方向に揃えて16ply積層した。ただし、積層中央面(8ply目と9ply目の間)に、初期き裂を作製するため、厚み12.5μmのフッ素樹脂製フィルムを積層体端部から0°方向に40mm差し込んだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cmで2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を、0°を長さ方向とし、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、サンプルの長さ側と平行になるようにカットした。
(d)き裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
【0063】
作製した一方向強化材(炭素繊維強化プラスチック)を用いて、以下の手順により、GIIC測定を行った。
【0064】
JIS K7086(1993)附属書2に従い、“インストロン(登録商標)”5565型を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、き裂長さから、き裂進展初期の限界荷重に対応するGIIC(き裂進展初期のGIIC)を算出した。測定した試験片の数は5とし、平均値をGIICとした。
【0065】
(4)プリプレグの層間摩擦測定
次の(a)〜(c)の操作により、層間摩擦係数を測定した。
(a)図1に示すように、0°を長さ方向として、幅40mm、長さ150mmに裁断した1層目のプリプレグ4に、幅30mm、長さ150mmに裁断した2層目のプリプレグ3を幅30mm、長さ60mmの範囲でオーバーラップするように積層し、さらに2層目のオーバーラップ部に接するように幅30mm、長さ20mmのスペーサー5用プリプレグを積層した後、幅40mm、長さ150mmの3層目のプリプレグ4を1層目と重なるように積層した。その後、幅40mm×長さ30mmの離型紙2を1層目および3層目の外側に重なるよう貼り付けた。
(b)オーバーラップ部とスペーサーの長さ10mmの範囲(幅30mm、長さ70mmの範囲)を、加熱源を有した圧板1で所定の温度に温調しながら168Nの一定垂直荷重を加えた。
(c)垂直荷重を加え始めて10分後に、2層目のプリプレグを繊維方向に引抜速度0.2mm/minで引抜き、引抜荷重を測定した。引抜きとともに2層目のプリプレグが垂直荷重を受けるオーバーラップ部の面積が減少するため、引抜き変位で換算したオーバーラップ部の面積で受ける垂直荷重の2倍、すなわち168N×(60mm−引抜き変位)÷(70mm−引抜き変位)×2で引抜き荷重を割ったものを層間摩擦係数とし、引抜開始から5分後、すなわち引抜き変位1mmにおける層間摩擦係数を5回測定し、その平均を層間摩擦係数の値とした。
【0066】
(5)繊維層および樹脂層のガラス転移温度測定
JIS K7121(1987)に従い、示差走査熱量計(DSC)により繊維層および樹脂層のガラス転移温度の測定を行った。測定装置として、TA Instruments社製の示差走査型熱量計(DSC)を使用した。
【0067】
次の(a)〜(b)の操作により、樹脂層のガラス転移温度を測定した。
(a)プリプレグ表面の樹脂層をスパチュラで繊維が混入しないよう慎重にかきとった。
(b)容量50μlの密閉型サンプル容器に、(a)でかきとった3〜5mgの試料を詰め、昇温速度10℃/minで−30〜250℃まで昇温し、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分の中間点であるガラス転移温度(Tmg)を測定した。具体的には、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
【0068】
同様に、次の(c)〜(d)の操作により、繊維層のガラス転移温度を測定した。
(c)プリプレグ両面の樹脂層をスパチュラで一部繊維層の繊維が混入するように、強くかきとった。
(d)(c)で残った繊維層をカッターで裁断し、容量50μlの密閉型サンプル容器に、10〜20mg詰め、昇温速度10℃/minで−30〜250℃まで昇温し、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分の中間点であるガラス転移温度(Tmg)を測定した。
【0069】
(6)ウォーターピックアップ法によるプリプレグの含浸率測定
次の(a)〜(c)の操作により、含浸率を測定した。
(a)100×100mmのプリプレグ1枚を用意し、離型紙をはがし、質量を測定した。
(b)水を入れたビーカーに0°の向きで垂直に6mm沈め、5分間浸漬後の質量を測定した。
(c)浸水後の質量の増加量を元の質量で割ったものを含浸率(質量%)とした。なお、測定した試験片の数は5とし、平均値を含浸率とした。
【0070】
(7)ホットフォーミング賦形試験
次の(a)〜(e)の操作により、ホットフォーミング賦形試験およびシワの有無を判定した。
(a)[45/−45/0/90]3Sで0°を長さ方向とし、幅15cm、長さ45cmのプリプレグを24層積層した。
(b)(a)で作製したプリプレグ積層体を、60℃のオーブンで30分間温調した。
(c)図2に示すような、幅15cm、高さ20cm、R=5mmの賦型型6をシリコンラバー7が具備されたシール9付きのフレーム8にセットした。
(d)プリプレグ積層体11を賦型型6の上に配置し、室温で装置内を真空ポンプ10を使用し、150秒かけて真空引きした。これによって、積層体の両端部が90°曲げられた賦型後プリプレグ積層体12が得られた。
(e)賦型後プリプレグ積層体12の曲げられた部分の内側に生成するシワの有無を、深いシワ、成形すれば消える細かいシワ、シワなしの3種類で判定した。
【0071】
(8)プリプレグ表面の粒子の数密度測定
プリプレグ表面の略1.2mm×0.9mmの領域を10箇所抽出した。所定の温度に温調したプレート上に離型紙を剥いだ直後のプリプレグを、離型紙を剥いだ面を上面として配置し、10分間加温後にプリプレグ表面の上方±45度の角度から繊維方向に平行に光を当てながら、光学顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮像しデジタル画像を得た。画像処理ソフトウェアImagePro(登録商標)を用い、該デジタル画像をNTSC系加重平均法を用いてグレースケール化し、その後最小輝度と最大輝度をそれぞれ輝度0と輝度255となるよう正規化した。輝度127以下を黒、輝度128以上の輝度を白として認識するよう二値化した後、独立した白色部の個数を数え、撮像した面積で割り、抽出した10箇所で平均したものをプリプレグ表面の粒子の数密度とした。
【0072】
(9)熱可塑粒子の真球度の測定
熱可塑粒子の個々の粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)にて、粒子を1000倍で観察し、測長した。写真から任意の30個の粒子を選択して、その短径と長径を測定し、下記数式に従い、真球度を算出した。
【0073】
【数1】
【0074】
なお、n:測定数30とする。
【0075】
(10)熱可塑粒子の粒子径分布測定
粒子濃度が0.1質量%になるように、粒子を蒸留水に投入し、超音波処理により分散させた。得られた分散液を測定サンプルとし、レーザー回折式粒度分布計(LA−950:株式会社堀場製作所製)を用いて、粒子径分布を測定した。粒子径の検出範囲は、0.01〜100μmとし、この範囲を70分割する設定とした。縦軸に体積換算の相対粒子量、横軸に粒子径の対数をとり、各プロットを直線で繋いだ粒子径分布のチャートを得た。
【0076】
(11)熱可塑樹脂粒子の不溶性評価
(2)で作製した一方向強化材の0度断面を、強化繊維と熱硬化性樹脂との界面が明確に見えるまで研磨し、その表面を光学顕微鏡で観察し、繊維層間に存在する樹脂層中の熱可塑性樹脂粒子を観察した。この際に、粒状の熱可塑性樹脂粒子と周囲の熱硬化性樹脂との界面が明確に見える場合は不溶とした。一方、熱可塑性樹脂粒子が周囲の熱硬化性樹脂との区別がつかない場合は可溶とした。
【0077】
(参考例1)
(a)熱可塑性樹脂粒子の調製
透明ポリアミド(製品名:“グリルアミド(登録商標)”−TR55、EMSER Werke社)90質量部、エポキシ樹脂(製品名:“エピコート(登録商標)”828、シェル石油化学社製)7.5質量部および硬化剤(製品名:“トーマイド(登録商標)”#296、フジ化成工業株式会社製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部およびメタノール100質量部を含有する溶媒混合物に加えて均一な溶液とした。次に、得られた均一な溶液を塗装用スプレーガンで霧化し、よく混合し、この溶液を沈殿させるためにn−ヘキサン3000質量部の液体表面に向けて噴霧した。沈殿した固体を濾過により分離し、n−ヘキサンで十分に洗浄し、次いで100℃で24時間真空乾燥させて球状エポキシ変性ナイロン粒子を得た。エポキシ変性ナイロン粒子をCCEテクノロジーズ社製のCCE分級機で分球した。得られた粒子の90体積%粒子径は28μm、CV値が60%であった。また、得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球度96の微粒子形状であり、平均粒子径 14μmのポリアミド微粒子であった。
【0078】
(b)樹脂組成物の調製
(1)13質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として、“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(1)を作製した。
【0079】
(2)16質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、前記熱可塑性樹脂粒子を80質量部加えて混練し、次いで硬化剤として“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(2)を作製した。
【0080】
(c)プリプレグの作製
(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.25MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、3.8質量%であった。さらに(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度100℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0081】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0082】
(実施例1)
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、参考例1より高圧のローラー圧力0.55MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、1.3質量%と非常に含浸率が高いことがわかった。その後、さらに参考例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度100℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0083】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0084】
(実施例2)
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、参考例1より目付の小さい樹脂量26g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.25MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、6.0質量%と含浸率が低いことがわかった。その後、さらに参考例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、参考例1より目付の大きい樹脂量40g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの表面に積層し、ローラー温度90℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0085】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0086】
(実施例3)
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、参考例1より高圧のローラー圧力0.55MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、1.5質量%と非常に含浸率が高いことがわかった。その後、100℃のオーブン中で20分間加温し層間摩擦の要因となる粒状の硬化剤の一部を溶解させた。さらに参考例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度90℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0087】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0088】
(実施例4)
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、参考例1より高圧のローラー圧力0.55MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、1.5質量%と非常に含浸率が高いことがわかった。その後、200℃のオーブン中で3分間加温し作製されたプリプレグ表面の硬化をすすめた。さらに参考例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度90℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0089】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0090】
(実施例5)
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T1100GC−24K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.25MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、3.4質量%であった。さらに参考例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(2)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度100℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0091】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
(実施例6)
(a)熱可塑性樹脂粒子の調製(国際公開2009/142231号を参考とした)
1000mlの耐圧ガラスオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)ハイパーグラスター(登録商標)TEM−V100N)の中に、ポリマーAとしてポリアミド(重量平均分子量 17,000、デグサ社製 “トロガミド(登録商標)”CX7323)を35g、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン 280g、ポリマーBとしてポリビニルアルコール 35g(日本合成化学工業株式会社製 “ゴーセノール(登録商標)”GM−14 重量平均分子量 29,000、酢酸ナトリウム含量0.23質量%、SP値32.8(J/cm1/2)を加え、99体積%以上の窒素置換を行った後、180℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで2時間攪拌を行った。その後、貧溶媒として350gのイオン交換水を、送液ポンプを経由して、2.92g/分のスピードで滴下した。約200gのイオン交換水を加えた時点で、系が白色に変化した。全量の水を入れ終わった後、攪拌したまま降温させ、得られた懸濁液を、濾過し、イオン交換水 700gを加えてリスラリー洗浄し、濾別したものを、80℃ 10時間真空乾燥を行い、灰色に着色した固体を34g得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球度98の微粒子形状であり、平均粒子径 13μm、かつ、粒子径3μm以下の粒子が存在しないポリアミド微粒子であった。
【0092】
(b)樹脂組成物の調製
(1)参考例1(b)(1)と同じ方法で熱硬化性樹脂組成物(1)を調製した。
【0093】
(2)熱可塑性樹脂粒子を実施例6(a)で作製した粒子を配合する以外は、参考例1(b)と同じ方法で熱硬化性樹脂組成物(3)を調製した。
【0094】
(c)プリプレグの作製
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T1100GC−24K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.25MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、2.8質量%であった。さらに実施例6(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(3)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量21g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度100℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が190g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が35質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0095】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0096】
(参考例2)
(a)透明ポリアミド(製品名:“グリルアミド(登録商標)”−TR55、EMSER Werke社)94質量部、エポキシ樹脂(製品名:“エピコート(登録商標)”828、シェル石油化学社製)4質量部および硬化剤(製品名:“トーマイド(登録商標)”#296、フジ化成工業株式会社製)2質量部を、クロロホルム300質量部およびメタノール100質量部を含有する溶媒混合物に加えて均一な溶液とした。次に、得られた均一な溶液を塗装用スプレーガンで霧化し、混合し、この溶液を沈殿させるためにn−ヘキサン3000質量部の液体表面に向けて噴霧した。沈殿した固体を濾過により分離し、n−ヘキサンで十分に洗浄し、次いで100℃で24時間真空乾燥させてエポキシ変性ナイロン粒子を得た。エポキシ変性ナイロン粒子を篩を用いて粒子径の小さい成分と大きい成分をそれぞれ取り除き、比較的粒子径分布の揃った粒子を得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球度85の微粒子形状であり、平均粒子径 18μmのポリアミド微粒子であった。
【0097】
(b)樹脂組成物の調製
(1)参考例1(b)(1)と同じ方法で熱硬化性樹脂組成物(1)を調製した。
【0098】
(2)熱可塑性樹脂粒子を参考例2(a)で作製した粒子を配合する以外は、参考例1(b)と同じ方法で熱硬化性樹脂組成物(4)を調製した。
【0099】
(c)プリプレグの作製
参考例1(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(1)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T1100GC−24K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.25MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。作製されたプリプレグの含浸率をウォーターピックアップ法により測定したところ、2.5質量%であった。さらに参考例2(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量21g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度100℃、参考例1より低圧のローラー圧力0.02MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が190g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が35質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0100】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0101】
(比較例1)
(a)樹脂組成物の調製
(1)13質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として、“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(5)を作製した。
【0102】
(2)16質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(6)を作製した。
【0103】
(b)プリプレグの作製
比較例1(a)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(5)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量36g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.20MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。さらに比較例1(a)(2)で作製した熱可塑性樹脂粒子を含まない熱硬化性樹脂組成物(6)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/mの樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、ローラー温度110℃、ローラー圧力0.07MPaで樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含まない樹脂層が配置され、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0104】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0105】
(比較例2)
(a)熱可塑性樹脂粒子の調製
参考例1(a)と同じ方法で調製した。
【0106】
(b)樹脂組成物の調製
(1)14.3質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として、“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(7)を作製した。
【0107】
(c)プリプレグの作製
比較例2(b)で作製した熱硬化性樹脂組成物(7)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量66g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、ローラー温度120℃、ローラー圧力0.3MPaで樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、繊維質量が270g/mでマトリックス樹脂の樹脂含有量が33質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0108】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、ガラス転移温度(Tgf,Tgr)測定、含浸率測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【符号の説明】
【0111】
1:圧板
2:離型紙
3:2層目のプリプレグ
4:1層目、3層目のプリプレグ
5:スペーサー用プリプレグ
6:賦型型
7:シリコンラバー
8:フレーム
9:シール
10:真空ポンプ
11:プリプレグ積層体
12:賦形後プリプレグ積層体
【要約】
一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂(1)が含浸された繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂(2)および該熱硬化性樹脂(2)に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が配置されたプリプレグであって、該プリプレグの繊維質量が120〜300g/m、樹脂含有率が25〜50質量%であり、かつ、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.8barの条件下において、40〜100℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.02以下となる温度が、40〜100℃の温度範囲内に存在するプリプレグ。航空機構造部材に適した、繊維強化プラスチックとした際に高衝撃強度を発現するプリプレグであって、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、賦形性に優れるプリプレグを提供する。
図1
図2