特許第5967328号(P5967328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5967328
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】穴あけ工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20160728BHJP
   B23B 51/02 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B23B51/00 S
   B23B51/00 L
   B23B51/02 S
   B23B51/02 Z
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-63790(P2016-63790)
(22)【出願日】2016年3月28日
【審査請求日】2016年3月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(72)【発明者】
【氏名】野原 淳
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭50−014097(JP,U)
【文献】 特開昭49−111293(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/143595(WO,A1)
【文献】 特開2009−202288(JP,A)
【文献】 特開昭59−076709(JP,A)
【文献】 実開昭51−021191(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0266108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00−51/14,
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円柱状の穴あけ工具(100)であって、
外周に切りくず排出溝(20)と、
先端面(40)と、を備え、
前記先端面(40)と前記切りくず排出溝(20)との交差稜線部(50)は階段状であり、前記切りくず排出溝(20)は螺旋状であり、
前記交差稜線部(50)が切削に関与する部分であり互いに段違いに配置される作用部(51,52,53)を複数有し、前記作用部(51,52,53)どうしをつなぐ部分をつなぎ部(54,55)とするとき、任意の前記作用部(52,53)と、その作用部(52,53)の外周側の端部につながる前記つなぎ部(54,55)とがなす角度が60°以上120°以下であり、
前記作用部(51,52,53)どうしで構成される各々の段差の大きさは、外周側に位置する段差ほど大きくなる穴あけ工具(100)。
【請求項2】
略円柱状の穴あけ工具(100)であって、
外周に切りくず排出溝(20)と、
先端面(40)と、を備え、
前記先端面(40)と前記切りくず排出溝(20)との交差稜線部(50)は階段状であり、前記切りくず排出溝(20)は螺旋状であり、
前記交差稜線部(50)が切削に関与する部分であり互いに段違いに配置される作用部(51,52,53)を複数有し、前記作用部(51,52,53)どうしをつなぐ部分をつなぎ部(54,55)とするとき、任意の前記作用部(52,53)と、その作用部(52,53)の外周側の端部につながる前記つなぎ部(54,55)とがなす角度が60°以上120°以下であり、
前記切りくず排出溝(20)の先端部と前記先端面(40)とのなす角は、穴あけ工具(100)の中心から遠い位置にある前記作用部(51,52,53)に対応するものほど小さい穴あけ工具(100)。
【請求項3】
前記作用部(52,53)と、前記つなぎ部(54,55)と、がなす角度が60°以上90°以下である請求項1または2に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項4】
前記切りくず排出溝(20)のねじれ角が40°以下である請求項1から3に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項5】
前記切りくず排出溝(20)のねじれ角が20°以上35°以下である請求項4に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項6】
前記つなぎ部(54,55)は内方に凹む凹曲線状である請求項から5のいずれか一項に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項7】
前記作用部(51,52,53)の少なくとも一部は工具回転方向後方側に凹湾曲している請求項から6のいずれか一項に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項8】
前記作用部は三つ以上あり、
前記作用部(51,52,53)のうち、最も中心側にある作用部(53)以外の各々の作用部(51,52)の長さは、外周側に位置するものほど長くなる請求項1から7のいずれか一項に記載の穴あけ工具(100)。
【請求項9】
前記交差稜線部(50)の外周端における逃げ角が0°よりも大きく15°以下である請求項1から8のいずれか一項に記載の穴あけ工具(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穴あけ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すような分割されなおかつ段違いに配置された切れ刃および階段状の切りくず排出溝を備える穴あけ工具があった。このような形状の切れ刃を有する穴あけ工具は切れ刃ごとに切りくずを生成するので、切りくずの細分化に効果があり、切りくずを排出しやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−202288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の穴あけ工具は高い送りで加工すると、切りくずの細分化効果が十分に発揮されず、切りくずが円滑に排出されないことがあった。分割された切れ刃の数を増やしてより細かい切りくずを生成しようとしても、生成された切りくずが隣の切れ刃で生成された切りくずとぶつかって 切りくずの排出性が低下するおそれがあった。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって、比較的高い送りで加工しても適切に切りくずが分断されて細かくなる穴あけ工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、略円柱状であって、外周に切りくず排出溝と、先端面と、を備え、先端面と切りくず排出溝との交差稜線部が階段状であり、切りくず排出溝が螺旋状である穴あけ工具である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は本発明の一実施形態に係る穴あけ工具の斜視図である。
図2図2図1の穴あけ工具を別の方向から見た斜視図である。
図3図3図1の穴あけ工具の側面図である。
図4図4図1の穴あけ工具を先端側から見た図である。
図5図5図4の部分拡大図である。
図6図6図1の穴あけ工具の拡大斜視図である。
図7図7図3のVII−VII切断線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1から図7に示すように、略円柱上の穴あけ工具100の外周に二条の切りくず排出溝20がある。穴あけ工具100の先端面40は逃げ面となる。切りくず排出溝20の先端部分と逃げ面40との交差稜線部50の一部が切れ刃となる。
切りくず排出溝20は螺旋状に形成され、そのねじれ角は40°以下であることが好ましく、より好ましい範囲は20°以上35°以下である。ねじれ角が上述した範囲であると、後述する第1切れ刃51の外周コーナの強度が確保でき、穴あけ工具100の耐久性が向上する。特にねじれ角が20°以上35°以下のときは、上述した効果に加えて切りくずの排出性と穴あけ工具100の剛性のバランスが最も良くなる。なお、本発明におけるねじれ角の定義はJIS B0171 4004における定義と同一である。
【0008】
穴あけ工具100の外周面は、一様な曲面ではなく、中央部分11が縁の部分12(以下、「マージン」という)よりも少し凹んだ形状をしている。すなわち、穴あけ工具100の中心軸Cに垂直な断面図である図7に示すように、穴あけ工具100の外周面は、その中央部分がマージン12よりも穴あけ工具100の中心側に窪んだ形状になっている。マージン12は、加工時に穴あけ工具100の挙動を安定させる機能に加えて、加工した穴の内壁面の表面粗さを改善する機能もある。マージン12を形成する数、位置、大きさ等については、制限が無く、適宜設定することができる。
図4に示すように、穴あけ工具100の先端には、クーラントが噴射される噴出口13が二つ形成されている。クーラントは、穴あけ工具100の後端部から供給され、穴あけ工具100の内部に螺旋状に形成された流路を通って噴出口13から噴射される。なお、別の実施形態として直線状のクーラントの流路を採用することも可能である。
【0009】
図1図2および図7に示すように、切りくず排出溝20は溝全体の半分以上の部分が二つの段差部を有する略階段状になっていて、三つの溝部分で構成される。以下の説明では便宜的に、穴あけ工具100の外周側に位置する溝部分から順に「第1の溝部分21」、「第2の溝部分22」、「第3の溝部分23」と記載する。
各溝部分21,22、23は隣接している。第3の溝部分23は全体が曲面で構成されているが、第1の溝部分21および第2の溝部分22は、曲面部と、穴あけ工具100の外周側に延びる平面もしくは前述の曲面部よりも小さい曲率の曲面とで構成されている。
第1の溝部分21および第2の溝部分22をこのような形状にすることで、溝の形状の自由度が高まり、生成された切りくずの流れを阻害することなく、各切りくず排出溝の断面形状を最小化できる。つまり、第1の溝部分21および第2の溝部分22においても、第3の溝部分23と同様の全体が曲面で構成された断面形状にすることも可能ではあるが、その場合は第1の溝部分21および第2の溝部分22断面積が大きくなり、穴あけ工具100の剛性を低下させることになる。
なお、どの程度の長さ、切りくず排出溝20を階段状に形成するかは穴あけ工具100の使用態様に応じて適宜設定が可能であるが、加工したい穴の深さよりも長いことが好ましい。
【0010】
図4に示すように、穴あけ工具100の先端面40は穴あけ工具100の中心軸Cを中心として180°回転対称な形状をしており、第2の溝部分22および第3の溝部分23に接続する第1の逃げ面41と、第1の溝部分21および第1逃げ面41に接続し、第1逃げ面41よりも大きな逃げ角を有するように屈曲する第2の逃げ面42とで構成されている。
第1の逃げ面41は、後述する第2切れ刃52および第3切れ刃53の逃げ面として機能し、第2の逃げ面42は後述する第1切れ刃51の逃げ面として機能する。
穴あけ工具100の最外周に位置する第1切れ刃51のコーナ部に対応する逃げ面の逃げ角は、0°よりも大きく15°以下であることが好ましい。このようにすることで、ねじれた切りくず排出溝20を形成することによって構造的に生じる切れ刃の強度の低下を抑えることができる。穴あけ工具100においては、噴出口13は第2の逃げ面42に形成される。なお、第1の逃げ面と第2の逃げ面とが滑らかにつながる別の実施形態も可能である。
【0011】
以下の説明では便宜的に第1の溝部分21と第2の逃げ面42との交差稜線部に形成される切れ刃を「第1切れ刃51」と記載し、第2の溝部分22と第1の逃げ面41との交差稜線部に形成される切れ刃を「第2切れ刃52」と記載し、第3の溝部分23と第1の逃げ面との交差稜線部に形成される切れ刃を「第3切れ刃53」と記載する。
図4に示すように、穴あけ工具100を先端視すると、切りくず排出溝20と先端面40との交差稜線部50は、段差部を二つ有し、外周側ほど工具回転方向Kの後方側に後退する略階段状に形成されている。つまり、最も穴あけ工具100の中心側にある第3切れ刃53よりもその隣に位置する第2切れ刃52の方が相対的に工具回転方向の後方側に位置し、第2切れ刃52よりもその隣に位置する第1切れ刃51の方が相対的に工具回転方向の後方側に位置する。
穴あけ工具100においては、切りくず排出溝20と第1の逃げ面41または第2の逃げ面42との交差稜線部50のうち、これら第1切れ刃51、第2切れ刃52および第3切れ刃53が実際に切りくずの生成に関与する部分(作用部)であって、第1切れ刃51と第2切れ刃52とをつなぐ第1つなぎ部54および第2切れ刃52と第3切れ刃53とをつなぐ第2つなぎ部55は切りくずの生成に関与しない。つまり、二つの交差稜線部50は切りくずの生成に関与する部分と関与しない部分とが交互につながった形状である。
先端形状の一部拡大図である図5に示すように、穴あけ工具100を先端視したとき、第2切れ刃52と、第2切れ刃52の外周側の端部につながる第1つなぎ部54とのなす角度α1は、60°以上120°以下である。さらに、角度α1のより好ましい範囲は、60°以上90°以下である。この実施形態における角度α1は85°である。なお、第1つなぎ部54が曲面である場合、角度α1は第2切れ刃52の外周端から第1つなぎ部54へ引いた接線と第2切れ刃52とのなす角度で規定する。
同様に、第3切れ刃53と、第3切れ刃53の外周側の端部につながる第2つなぎ部55とがなす角度α2は、60°以上120°以下である。角度α2のより好ましい範囲は、60°以上90°以下である。この実施形態における角度α2は85°である。なお、第2つなぎ部55が曲面である場合の角度α2の規定方法は角度α1と同様である。
角度α1および角度α2が上述した範囲であると、範囲外の角度のときよりも切りくずの分断性能が向上する。
第1つなぎ部54および第2つなぎ部55は、穴あけ工具100の内方(中心軸側)に凹む凹曲線状である。これら二つのつなぎ部が凹曲線状であると、つなぎ部は生成直後の切りくずのガイドとして機能し、切りくずはつなぎ部に沿ってカールする。このため、より体積の小さな切りくずになる。
第3切れ刃53は直線状である一方、第1切れ刃51および第2切れ刃52の一部は工具回転方向Kの後方側に凹湾曲している。第1切れ刃51および第2切れ刃52をこのような形状にすることで、切りくずが凹湾曲するので切りくずに力が加わった際に折れやすくなる。
【0012】
穴あけ工具100は、分割され、なおかつ互いに段違いに配置された第1切れ刃51、第2切れ刃52および第3切れ刃53を備え、各切れ刃から流出する切りくずが移動するための第1の溝部分21、第2の溝部分22および第3の溝部分がそれぞれ螺旋状に形成されている。さらに、第2切れ刃52と第1つなぎ部54とがなす角度α1、および第3切れ刃53と第2つなぎ部55とがなす角度α2が60°以上120°以下である。これらの形状を同時に備えることで、切りくずが細分化されやすくなり、穴あけ工具100はより高い送りで加工することができる。
【0013】
以上、本発明についてその一実施形態を例に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では略階段状の公差稜線部はそれぞれ段差部を二つ有し、分割された切れ刃を三つ有していたが、段差部の数には制限が無く、一つであっても三つ以上であってもよい。また、上記実施形態の切れ刃は、穴あけ工具の外周側に位置するものほど工具回転方向Kと反対向きに後退するような位置関係であったが、それとは逆に外周側に位置するものほど工具回転方向Kの前方側に位置するような位置関係であってもよい。つまり、上記実施形態を参考に説明すると、第3切れ刃53よりも第2切れ刃52の方が工具回転方向Kの前方側に位置し、第2切れ刃52よりも第1切れ刃51の方が工具回転方向Kの前方側に位置するような位置関係である。
【0014】
また、切りくず排出溝と先端面との交差稜線部が二つ以上の段差部を有する実施形態の場合、穴あけ工具の外周側に位置する段差部ほど段差の大きさが大きいことが好ましい。このような形状にすることで、各切れ刃から生成される切りくずが円滑にカールするようになる。
【0015】
また、切りくず排出溝と先端面との交差稜線部が二つ以上の段差部を有し、三つ以上の切れ刃を有する実施形態の場合、穴あけ工具の最も中心側にある切れ刃を除いたその他の切れ刃について、より外周側に位置する切れ刃ほど長いことが好ましい。つまり、上記の実施形態を参考にして説明すると、第2切れ刃52よりも第1切れ刃51方が長いことが好ましい。このとき、第3切れ刃53については、第2切れ刃52よりも短い必要はない。このような形状であると、切りくずのカール半径が大きくなる傾向のある工具中心側から流出する切りくずの幅を短くできる。このことにより、切りくずに対してより小さな拘束力で適切な大きさにカールさせることができる。
【0016】
また切りくず排出溝20の先端部と逃げ面である先端面40とのなす角、いわゆる垂直刃物角は、穴あけ工具の中心から遠い位置にある切れ刃に対応するものほど小さいことが好ましい。例えば、上記実施形態を参考にして説明すると、第3の溝部分23の先端部と第1の逃げ面41とのなす角度θ1>第2の溝部分22の先端部と第1の逃げ面41とのなす角度θ2>第1の溝部分21の先端部と第2の逃げ面42とのなす角度θ3、とすることが好ましい。このような形状であると、より刃先強度が必要な中心側の切れ刃には強度を与え、強度よりも切れ味が必要な外周側の切れ刃には切れ味を与えることができる。
【符号の説明】
【0017】
12…マージン
13…噴出口
20…切りくず排出溝
21…第1の溝部分
22…第2の溝部分
23…第3の溝部分
40…先端面(逃げ面)
41…第1の逃げ面
42…第2の逃げ面
50…切りくず排出溝と先端面との交差稜線部
51…第1切れ刃
52…第2切れ刃
53…第3切れ刃
54…第1つなぎ部
55…第2つなぎ部
100…穴あけ工具
【要約】
【課題】大きな送り速度で加工しても適切に切りくずが分断され細かくなる穴あけ工具を提供すること。
【解決手段】略円柱状であって、その外周に螺旋状に形成される切りくず排出溝20を備え、穴あけ工具100の先端面40と切りくず排出溝20との交差稜線部50が階段状である穴明け工具100。また、交差稜線部50のうち、切削に関与する作用部分(51,52,53)が段違いに配置され、作用部(52,53)と、その作用部(52,53)の外周側の端部につながるつなぎ部(54,55)とのなす角度が60°以上120°以下であると好ましく、より好ましい角度は60°以上90°以下である。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7