(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長辺と短辺を有し、平面視で略四角形状をなす表面部とこの表面部に対向して配置された裏面部と、前記表面部と前記裏面部のそれぞれの4つの角部に形成されたコーナー部と、前記表面部と前記裏面部を接続する側面部であって2つの長辺方向側面部と2つの短辺方向側面部と、前記表面部の中央部から前記裏面部まで貫通する固定用ネジ挿通穴と、前記表面部及び前記裏面部が、前記短辺方向側面部及び前記長辺方向側面部と交差する交差稜線部に切れ刃を有する切れ刃部と、を備えた切削インサートであって、
前記切れ刃部は、
前記表面部及び前記裏面部のそれぞれの4つの前記コーナー部のうち、前記固定用ネジ挿通穴の中心線を介して対向する位置に配置された一対の第1のコーナー部に形成された第1のコーナー刃と、
前記第1のコーナー刃の前記短辺方向側面部側の端部(S1)に連なり、前記短辺方向側面部の前記交差稜線部に沿って形成された直線形状をなす主切れ刃と、
前記主切れ刃の他方の端部(S2)に連なり、前記表面部及び前記裏面部の平面視において前記短辺方向側面部の外側方向に向かって緩やかに突出するとともに、前記端部(S2)から離間するに従って前記主切れ刃の延長線に対して、漸次、前記固定用ネジ挿通穴の方向に後退するように配置され、半径Rの円弧形状をなす第1副切れ刃と、
前記第1副切れ刃の他方の端部(S3)に連なって直線形状をなす第2副切れ刃と、を備え、
前記表面部及び前記裏面部には、前記固定用ネジ挿通穴の開口部の周囲を含むように形成された基準平坦面部を備えており、
前記第2副切れ刃における切れ刃稜線に垂直な前記第2副切れ刃のすくい面の断面視において、前記第2副切れ刃の前記すくい面の断面稜線部は、前記基準平坦面部の断面稜線部に対して前記表面部または前記裏面部の上方に向けて突出した凸形状となっており、
前記表面部及び前記裏面部は、前記切れ刃部のすくい面となり前記基準平坦面部と連続するブレーカー面部を備え、
前記第1のコーナー刃側における前記ブレーカー面部と前記基準平坦面部とがなす角度が、前記第2副切れ刃側における前記ブレーカー面部と前記基準平坦面部とがなす角度よりも小さいこと、を特徴とする切削インサート。
前記第2副切れ刃の前記すくい面の前記断面視において、前記凸形状の頂点が前記第2副切れ刃上に位置し、前記ブレーカー面部の平面部と前記短辺方向側面部とがなす交差角度をγ(度)としたとき、前記交差角度γは、70(度)≦γ<90(度)に設定されている請求項1または請求項2に記載の切削インサート。
長辺と短辺を有し、平面視で略四角形状をなす表面部とこの表面部に対向して配置された裏面部と、前記表面部と前記裏面部のそれぞれの4つの角部に形成されたコーナー部と、前記表面部と前記裏面部を接続する側面部であって2つの長辺方向側面部と2つの短辺方向側面部と、前記表面部の中央部から前記裏面部まで貫通する固定用ネジ挿通穴と、前記表面部及び前記裏面部が、前記短辺方向側面部及び前記長辺方向側面部と交差する交差稜線部に切れ刃を有する切れ刃部と、を備えた切削インサートであって、
前記切れ刃部は、
前記表面部及び前記裏面部のそれぞれの4つの前記コーナー部のうち、前記固定用ネジ挿通穴の中心線を介して対向する位置に配置された一対の第1のコーナー部に形成された第1のコーナー刃と、
前記第1のコーナー刃の前記短辺方向側面部側の端部(S1)に連なり、前記短辺方向側面部の前記交差稜線部に沿って形成された直線形状をなす主切れ刃と、
前記主切れ刃の他方の端部(S2)に連なり、前記表面部及び前記裏面部の平面視において前記短辺方向側面部の外側方向に向かって緩やかに突出するとともに、前記端部(S2)から離間するに従って前記主切れ刃の延長線に対して、漸次、前記固定用ネジ挿通穴の方向に後退するように配置され、半径Rの円弧形状をなす第1副切れ刃と、
前記第1副切れ刃の他方の端部(S3)に連なって直線形状をなす第2副切れ刃と、を備え、
前記表面部及び前記裏面部には、前記固定用ネジ挿通穴の開口部の周囲を含むように形成された基準平坦面部を備えており、
前記第2副切れ刃における切れ刃稜線に垂直な前記第2副切れ刃のすくい面の断面視において、前記第2副切れ刃の前記すくい面の断面稜線部は、前記基準平坦面部の断面稜線部に対して前記表面部または前記裏面部の上方に向けて突出した凸形状となっており、
前記第1のコーナー刃の中央部又は前記第1のコーナー刃における中央部の近傍は、前記表面部または前記裏面部において前記切削インサートの厚さ方向に対する高さが最も高くなるように形成されているとともに、前記切削インサートの正面視において、
前記切れ刃部は、前記第1のコーナー刃の前記中央部又は前記第1のコーナー刃における前記中央部の近傍から前記第2副切れ刃の所定の位置(Q)まで、連続的に下り傾斜するように形成されていること、を特徴とする切削インサート。
前記表面部及び前記裏面部は、前記第1のコーナー刃と前記主切れ刃及び前記第1副切れ刃のすくい面となるブレーカー面部と、前記ブレーカー面部との境界部に形成された傾斜面部を介して形成された前記基準平坦面部を備えており、
前記傾斜面部は、前記表面部または前記裏面部における前記切削インサートの厚さ方向に対する高さが、前記基準平坦面部よりも低くなるように形成されている請求項1、4乃至7のいずれか一項に記載の切削インサート。
【背景技術】
【0002】
切れ刃を備えた超硬合金製のインサート(以下、「切削インサート」と記載する)を、フライス加工用の切削工具の先端部に形成したインサート取付座にクランプねじを用いて着脱自在(着脱可能)に装着した刃先交換式回転切削工具が実用化されている。この刃先交換式回転切削工具は、複数の切削インサートを装着しているので、高送りの切削加工条件、例えば、被削材が炭素鋼材等の場合、一刃当たり送り量が0.8から1.0(mm/刃)程度の切削加工条件に設定したとき、被削材に対して高能率で切削加工を実施することが可能である。
しかし、高送りの切削加工においては、切削インサートに大きな切削加工の負荷(切削抵抗)が作用するために、切れ刃のすくい面や逃げ面の早期の摩耗や、切削インサートの切れ刃にチッピングや欠損が発生して加工面の品質が低下し、切削インサートの寿命を低下させるという不具合が発生していた。
【0003】
インサート取付座に切削インサートを着脱自在に装着する刃先交換式回転切削工具において、上記の不具合を改善するために、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、切削インサートのすくい面に凹溝状のブレーカーを形成することにより、切屑の処理性の向上を図りつつ、切削インサート本体の剛性や切削インサートの取付剛性を確保する改善(下記の特許文献1)、切削インサートに設ける切れ刃の形状やその配置位置などを改善して工具先端部の強度を増すようにした改善(下記の特許文献2)、あるいは、切削インサートの形状、及び切れ刃の形状を工夫して十分な取り付け面を備える切削インサートとし、小型の刃先交換式回転切削工具であっても、インサート取付座に安定して取り付けることができるような改善(下記の特許文献3)等、が提案されている。
【0005】
上記した特許文献1〜3により提案されている改善案の構成について、さらに説明すると次のようになる。
【0006】
特許文献1(特開2003−275920号公報)には、被削材の加工面に対して平面部と立壁部とを加工可能な切削インサート(スローアウェイチップ)であって、1つの切削インサートにおける使用可能な切れ刃の数を増やした切削インサートに関する発明が提案されている。
特許文献1に提案されている切削インサートは、多角形平板状をなす切削インサート(チップ本体)の多角形をなす表面及び裏面(表裏面)がすくい面とされ、これらの表裏面の共通する角部には円弧状をなすコーナー刃が形成されるとともに、このコーナー刃の一端部に連なる表裏面の辺稜部には主切刃が形成されている。一方、コーナー刃の他端部に連なる表裏面の辺稜部は、このコーナー刃がなす円弧の二等分線に関して上記した主切れ刃と対称形状に形成されており、かつ切削インサート本体の表裏面同士の間では、この切削インサート本体の表裏を反転させたときに、互いのこれらコーナー刃、主切れ刃、およびコーナー刃の他端部に連なる辺稜部が対称形状となるように配設されている。
【0007】
さらに、特許文献1の
図11には、表裏面に、辺稜部の少なくともコーナー刃側の周辺部分を避けるように、コーナー刃から主切れ刃に沿って凹溝状のブレーカーを形成した構成が提案されている。そして、この凹溝状のブレーカーを、切屑処理性の向上を図りつつも、チップ本体の剛性やチップ取付剛性を確実に確保するために設けることが記載されている。
【0008】
特許文献2(特許第5007853号公報)には、工具先端部の強度を増すことを可能とした切削インサート及び刃先交換式切削工具が提案されている。
特許文献2に開示されている切削インサートは、工具本体への取付面として使用可能な主面を有する2つの端面と、これら2つの端面間に延在する周側面と、各々が各端面と前記周側面との交差部に形成された複数の切れ刃部とを備え、これら複数の切れ刃部が、2つの端面を通過する第1軸線を中心として回転対称性を有すると共に、第1軸線に直交して前記周側面を通過する第2軸線を中心として回転対称性を有するように配設され、さらに第1軸線に直交すると共に第2軸線を含んで周側面を通過する中間面が定義された切削インサートである。
【0009】
そして、この特許文献2に開示されている切削インサートは、各切れ刃部は関連した端面の角部に形成されたコーナー刃と、このコーナー刃の一端から延びる主切れ刃であって、この主切れ刃と中間面との距離が関連した端面の主面と中間面との距離よりも長くなるように延在する主切れ刃と、コーナー刃の他端から延びる副切れ刃であって、この副切れ刃と中間面との距離が関連した端面の主面と中間面との距離よりも短くなるように延在する副切れ刃とを備えた構成とされている。さらに、各切れ刃と端面の主面との間に、凹形状のチップブレーカを設けていることが記載されている。
【0010】
特許文献3(特表2011−516292号公報)には、互いに反対の位置にある上面および下面と、前記上面および前記下面を接続する2つの長手方向側面と、2つの横方向側面とを有し、長手方向長さを横方向長さよりも長くした切削インサートであって、貫通孔が前記上面および前記下面の各中心部分を貫通し、前記2つの長手方向側面が互いに反対の位置にあり、かつ前記上面および前記下面に対して垂直であり、前記2つの横方向側面が互いに反対の位置にあり、かつ前記上面および前記下面に対して垂直であり、前記上面および前記下面には、その対角線上のコーナーにコーナー刃を、さらにもう一方の対角線上のコーナー部に切屑排出溝を設けた切削インサートが開示されている。また、上面及び下面のそれぞれに、横方向側面に沿って延在する切りくず排出溝を形成することが記載されている。
【0011】
さらに、特許文献3に開示されている切りくず排出溝は、長手方向軸S2に対して、一方の長手方向側面に向かって下方に傾斜した切りくず排出溝と、他方の長手方向側面に向かって上方に傾斜した切りくず排出溝から構成されている。
そして、前記上面および前記下面において、4つのコーナー部のうち、対角線上の一対のコーナー部にはコーナー切れ刃を形成し、コーナー切れ刃を形成した2つのコーナー部が上面又は下面上で他のコーナー部より上方に突き出た構成とされていることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1に記載の切削インサート(スローアウェイチップ)は、多角形平板状をなす切削インサートに、切れ刃として、コーナー刃に繋がる直線状の主切れ刃と、この主切れ刃の他方の端部に繋がる凸円弧状に形成された副切れ刃とを設けることが開示されている。この切削インサートの正面視において、コーナー刃から主切れ刃及び副切れ刃に連なる切れ刃の稜線は、切削インサートの裏面に対してその距離が一定とされている。
このため、この切削インサートを工具本体に装着したときには、半径方向すくい角度は負値となる。しかも、被削材の切削加工時の切削インサートの回転時において、被削材との干渉を回避するために、半径方向すくい角度の絶対値は大きな値となることから、切削抵抗の低減をはかることが困難となる。また、特許文献1には、凹溝状ブレーカーの形成される範囲を限定した記載があり、この特許文献の
図11から
図16に図示されている切削インサートの表面(3)の形状においては、副切れ刃(12)に凹溝状ブレーカーが存在しない領域があることが開示されている。しかし、この凹溝状ブレーカーが存在しない領域は、平坦面となっていることから、表面(3)及び裏面(4)を凸形状とする様な技術手段に関する開示は無い。
【0014】
特許文献2に開示されている切削インサートは、直線状の主切れ刃と副切れ刃とを結ぶ第1コーナー刃を、円弧形状をなす切れ刃とすることが開示されているが、この第1コーナー刃の円弧形状について、その円弧半径を如何に設定するかについては記載されていない。特許文献2に開示されている切削インサートは、この切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具により被削材に傾斜切削加工を実施する場合、この傾斜切削加工をフライス加工により行うための内周側切れ刃として上記の直線状の主切れ刃を備えている。しかし、切削インサートを工具本体に装着したときにこの工具本体の最下点となる第1コーナー刃の形状が小さい円弧形状をなしているために、被削材へのフライス加工により得た加工面には段差が形成される。このため、特許文献2に開示されている切削インサートは、傾斜切削加工を実施したときにその傾斜加工面の面粗さの向上を図ることが困難になる。
【0015】
特許文献3に開示されている切削インサートは、工具直径が16mmから40mmを有する小型のカッター(工具本体)に装着される切削インサートであるが、フライス加工において、被削材に対して傾斜切削加工を良好に行うための対策、及び加工面の面粗さを改善するための対策に係る特徴的な構成については、開示されていない。
また、特許文献2、特許文献3に開示されている切削インサートには、ブレーカー面に凹部が存在する。このために、回転工具の内周側に配置される副切れ刃の近傍には立壁面が存在することになるから、この立壁面は、切屑詰まりを発生させる原因となる可能性を有するという、技術課題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、フライス加工を行うための刃先交換式回転切削工具に着脱自在に装着される切削インサートについて、第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工時には、高送りの加工条件を設定することが可能となり、また、切屑排出性を改善することができる切削インサート、及びこの切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、加工面の表面粗さを改善するとともに、被削材の傾斜切削加工を高送りで実施しても好適な加工面の面粗さを得ることができる切削インサート、及びこの切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様に係る切削インサートは、長辺と短辺を有し、平面視で略四角形状をなす表面部とこの表面部に対向して配置された裏面部と、前記表面部と前記裏面部のそれぞれの4つの角部に形成されたコーナー部と、前記表面部と前記裏面部を接続する側面部であって2つの長辺方向側面部と2つの短辺方向側面部と、前記表面部の中央部から前記裏面部まで貫通する固定用ネジ挿通穴と、前記表面部及び前記裏面部が、前記短辺方向側面部及び前記長辺方向側面部と交差する交差稜線部に切れ刃を有する切れ刃部と、を備えた切削インサートであって、
前記切れ刃部は、
前記表面部及び前記裏面部のそれぞれの4つの前記コーナー部のうち、前記固定用ネジ挿通穴の中心線を介して対向する位置に配置された一対の第1のコーナー部に形成された第1のコーナー刃と、
前記第1のコーナー刃の前記短辺方向側面部側の端部(S1)に連なり、前記短辺方向側面部の前記交差稜線部に沿って形成された直線形状をなす主切れ刃と、
前記主切れ刃の他方の端部(S2)に連なり、前記表面部及び前記裏面部の平面視において前記短辺方向側面部の外側方向に向かって緩やかに突出するとともに、前記端部(S2)から離間するに従って前記主切れ刃の延長線に対して、漸次、前記固定用ネジ挿通穴の方向に後退するように配置され、半径Rの円弧形状をなす第1副切れ刃と、
前記第1副切れ刃の他方の端部(S3)に連なって直線形状をなす第2副切れ刃と、を備え、
前記表面部及び前記裏面部には、前記固定用ネジ挿通穴の開口部の周囲を含むように形成された基準平坦面部を備えており、
前記第2副切れ刃における切れ刃稜線に垂直な前記第2副切れ刃のすくい面の断面視において、前記第2副切れ刃の前記すくい面の断面稜線部は、前記基準平坦面部の断面稜線部に対して前記表面部または前記裏面部の上方に向けて突出した凸形状となって
おり、
前記表面部及び前記裏面部は、前記切れ刃部のすくい面となり前記基準平坦面部と連続するブレーカー面部を備え、
前記第1のコーナー刃側における前記ブレーカー面部と前記基準平坦面部とがなす角度が、前記第2副切れ刃側における前記ブレーカー面部と前記基準平坦面部とがなす角度よりも小さくなっている。
第1の態様において、前記ブレーカー面部と前記基準平坦面部とがなす前記角度は、前記ブレーカー面部の前記第1のコーナー刃側から前記第2副切れ刃側に向かって、段階的または漸次的に大きくなることが好ましい。
【0018】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様に係る切削インサートに係り、前記第1のコーナー刃と、前記主切れ刃と、前記第1副切れ刃と、前記第2副切れ刃とが、滑らかに連続している。
【0019】
本発明の第3の態様は、上記第1又は第2の態様に係る切削インサートに係り、前記
第2副切れ刃の前記すくい面の前記断面視において、前記凸形状の頂点が前記第2副切れ刃上に位置し、前記ブレーカー面部の平面部と前記短辺方向側面部とがなす交差角度をγ(度)としたとき、前記交差角度γは、70(度)≦γ<90(度)に設定されている。
【0020】
本発明の第4の態様に係る切削インサートは、長辺と短辺を有し、平面視で略四角形状をなす表面部とこの表面部に対向して配置された裏面部と、前記表面部と前記裏面部のそれぞれの4つの角部に形成されたコーナー部と、前記表面部と前記裏面部を接続する側面部であって2つの長辺方向側面部と2つの短辺方向側面部と、前記表面部の中央部から前記裏面部まで貫通する固定用ネジ挿通穴と、前記表面部及び前記裏面部が、前記短辺方向側面部及び前記長辺方向側面部と交差する交差稜線部に切れ刃を有する切れ刃部と、を備えた切削インサートであって、
前記切れ刃部は、
前記表面部及び前記裏面部のそれぞれの4つの前記コーナー部のうち、前記固定用ネジ挿通穴の中心線を介して対向する位置に配置された一対の第1のコーナー部に形成された第1のコーナー刃と、
前記第1のコーナー刃の前記短辺方向側面部側の端部(S1)に連なり、前記短辺方向側面部の前記交差稜線部に沿って形成された直線形状をなす主切れ刃と、
前記主切れ刃の他方の端部(S2)に連なり、前記表面部及び前記裏面部の平面視において前記短辺方向側面部の外側方向に向かって緩やかに突出するとともに、前記端部(S2)から離間するに従って前記主切れ刃の延長線に対して、漸次、前記固定用ネジ挿通穴の方向に後退するように配置され、半径Rの円弧形状をなす第1副切れ刃と、
前記第1副切れ刃の他方の端部(S3)に連なって直線形状をなす第2副切れ刃と、を備え、
前記表面部及び前記裏面部には、前記固定用ネジ挿通穴の開口部の周囲を含むように形成された基準平坦面部を備えており、
前記第2副切れ刃における切れ刃稜線に垂直な前記第2副切れ刃のすくい面の断面視において、前記第2副切れ刃の前記すくい面の断面稜線部は、前記基準平坦面部の断面稜線部に対して前記表面部または前記裏面部の上方に向けて突出した凸形状となっており、
前記第1のコーナー刃の中央部又は
前記第1のコーナー刃における中央部の近傍は、前記表面部または前記裏面部において前記切削インサートの厚さ方向に対する高さが最も高くなるように形成されているとともに、前記切削インサートの正面視において、
前記切れ刃部は、前記第1のコーナー刃の前記中央部又は
前記第1のコーナー刃における前記中央部の近傍から前記第2副切れ刃の所定の位置(Q)まで、連続的に下り傾斜するように形成されている。
【0021】
本発明の第5の態様は、上記第1
または第4の態様の切削インサートに係り、前記第2副切れ刃の前記すくい面が前記基準平坦面部である。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1
、第4、または第5の態様の切削インサートに係り、前記第2副切れ刃の前記すくい面の前記断面視における前記凸形状において、
前記凸形状の頂点(G)と前記第2副切れ刃稜線とを結んだ線分(E1)が、前記短辺方向側面部となす交差角度をβ(度)としたとき、前記交差角度βは、90(度)<β≦130(度)に設定されている。
【0024】
本発明の第
7の態様は、第1、第
4乃至第
6の態様のいずれかの切削インサートに係り、円弧形状をなす前記第1副切れ刃の弦の長さをL1としたときに、
前記第1副切れ刃の他方の前記端部(S3)から前記第2副切れ刃上の前記所定の位置(Q)までの距離(L2)は、
L2<0.2×L1
を満たすように設定されている。
【0025】
本発明の第
8の態様は、第1、第
4乃至第
7の態様の切削インサートに係り、前記表面部及び前記裏面部は、前記第1のコーナー刃と前記主切れ刃及び前記第1副切れ刃のすくい面となるブレーカー面部と、前記ブレーカー面部との境界部に形成された傾斜面部を介して形成された前記基準平坦面部を備えており、
前記傾斜面部は、前記表面部または前記裏面部における前記切削インサートの厚さ方向に対する高さが、前記基準平坦面部よりも低くなるように形成されている。
【0026】
本発明の第
9の態様は、第
4乃至
第8の態様の切削インサートに係り、前記切削インサートの前記第1副切れ刃における垂直方向の断面視において、
前記ブレーカー面部の断面稜線部は、前記基準平坦面部の断面稜線部に対して前記表面部または前記裏面部の上方に向けて突出している。
【0027】
本発明の第
10の態様は、第1乃至第
9の態様の切削インサートを、固定手段により工具本体の先端部に形成したインサート取付座に着脱自在に装着された刃先交換式回転切削工具であって、
前記切削インサートは、前記インサート取付座に、前記短辺方向側面部が前記工具本体の先端部の底面側に、前記長辺方向側面部が前記工具本体の先端部の外周面側に配置されている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の切削インサートが備えている切れ刃部は、コーナー刃と、直線形状をなす主切れ刃と、円弧形状をなす第1副切れ刃と、直線形状をなす第2副切れ刃が、順次、この配列で一つの切れ刃として繋がった(連なった)状態で構成されている。このような構成を備えた本発明の切削インサートを装着した本発明の刃先交換式回転切削工具は次の効果を奏することができる。
【0029】
本発明における第1の態様の効果は、第2副切れ刃の近傍のすくい面を、断面形状で見たときに、このすくい面を基準平坦面部に対して凸形状にしていることにより、第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工時において、切屑排出性が改善され、また、基準平坦面部が切屑の擦過等により摩耗、変形することが回避されることである。これによって、第2副切れ刃の近傍のすくい面には凹部が存在せず、立壁面も存在しないことから、この立壁面による切屑詰まりを回避することができる。その結果、切削抵抗を低減させる効果を有することから、工具のビビリ振動が低減されて、加工面の面粗さを向上させることが可能になる。
また、本発明における第1の態様の効果は、切れ刃部のすくい面であるブレーカー面が、第1のコーナー刃側のすくい角が小さく、第2副切れ刃側のすくい角が大きくなるように構成されていることにより、切削加工時の切屑を刃先交換式切削工具の径方向内方に流すことができることである。これにより、被削材の立壁と切削インサートの長辺方向側面部とが近接するような切削加工においても、立壁と長辺方向側面部との間に切屑が噛みこまれることを抑制できる。
【0030】
本発明における第2の態様の効果は、切れ刃部を構成する切れ刃が滑らかに接続されることにより、各切れ刃の端部(S1、S2、S3)が優先的に消耗されることが防止できることである。これにより、長期に亘って切れ刃部の形状が維持されるので、切削性能を保つことができる。
【0031】
本発明における第3の態様の効果は、
上記交差角度γを70≦γ<90に設定することにより、第2副切れ刃の切削抵抗を低減できることである。また、第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工時において、切屑排出性を良好にできる。
【0032】
本発明における第4の態様の効果は、第2副切れ刃の近傍のすくい面を、断面形状で見たときに、このすくい面を基準平坦面部に対して凸形状にしていることにより、第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工時において、切屑排出性が改善され、また、基準平坦面部が切屑の擦過等により摩耗、変形することが回避されることである。これによって、第2副切れ刃の近傍のすくい面には凹部が存在せず、立壁面も存在しないことから、この立壁面による切屑詰まりを回避することができる。その結果、切削抵抗を低減させる効果を有することから、工具のビビリ振動が低減されて、加工面の面粗さを向上させることが可能になる。
本発明の第4の態様において、切削インサートが備えている切れ刃部を構成する切れ刃のうち、第1のコーナー刃の切れ刃の中央部または
第1のコーナー刃における中央部の近傍が、表面部または裏面部において切削インサートの厚さ方向に対する高さが最も高くなるように形成され、さらに、切れ刃部は、この第1のコーナー刃の中央部又は
第1のコーナー刃における中央部の近傍から、第2副切れ刃の所定の位置(Q)(変曲点(Q))まで、連続的に下り傾斜するように形成されている。
これにより、本発明の第4の態様に係る切削インサートを刃先交換式回転切削工具に装着して固定したときに、半径方向すくい角を正角度に設定することができるので、被削材の平面及び傾斜切削加工において、切削抵抗の低減を図り、切削インサートの寿命を向上させることが可能になる。この効果が、本発明の第4の態様の効果になる。
さらに、第2副切れ刃上に変曲点(Q)を設定していることにより、ワイパー刃として作用する円弧形状をなす第1副切れ刃と、第2副切れ刃とが、この変曲点(Q)まで連続して下り傾斜をなしている。これにより、本発明の切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具により切削加工を実施したときに、1刃当たりの送り量であるfz値を大きくした場合であっても、このワイパー刃によって、被削材表面に残る凸状部を除去し、仕上げ面の面性状の向上を図ることができる。特に、傾斜切削加工において加工面の面粗さを向上させることが可能になる。この点も、本発明の第4の態様の効果である。
【0033】
本発明の第5、6の態様の効果は、第2副切れ刃のすくい面を断面形状で見たとき、このすくい面を基準平坦面部に対して凸形状とすることによって、第2副切れ刃の強度向上を図れることである。従って、刃先の耐欠損性が改善されることから、第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工時において、高送りの加工条件を設定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態は、特に、被削材に第2副切れ刃を用いた傾斜切削加工を実施するときに、高送りの加工条件を設定することが可能となり、また、切屑排出性を改善することができる切削インサート、及びこの切削インサートを着脱可能に工具本体に装着した刃先交換式回転切削工具である。また、本実施形態の刃先交換式回転切削工具により、高送りの切削加工を行っても加工面の面粗さが改善されるとともに、被削材の傾斜切削加工においても良好な加工面を得ることができる。このように、本実施形態は、特に、被削材に対して高送りの荒加工を実施するための刃先交換式回転切削工具として適している。
【0038】
(切削インサートの基本的な構成)
以下、本実施形態の切削インサートの基本的な構成を、
図1から
図5に基づいて説明する。
図1は本実施形態の切削インサートについて、その表面部の斜め上方から見た斜視図、
図2は
図1に示す切削インサート1の表面部の構成を示す平面図、
図3は
図1に示す切削インサート1について、長辺方向の交差稜線部に隣接する長辺方向側面部の方向から見た側面図、
図4は同じく
図1に示す切削インサート1について、短辺方向側面部の方向から見た正面図、
図5は
図2に示す切れ刃部について、その構成を説明するために
図2の所定の箇所を拡大して示した部分拡大図である。なお、本実施形態の切削インサート1は、いわゆる、ネガティブ型切削インサートの構成を備えている。
【0039】
図1(
図2)に示すように、切削インサート1は平面視において短辺と長辺を有する略四角形形状をなし、その厚さ方向の形状は平板状をなしている。切削インサート1の基本的な構成は、表面部2と、表面部2と対向する位置に形成された裏面部3と、これら表面部2と裏面部3に接続されて側面を形成する2つの平行な長辺方向側面部4、4と、同じく2つの平行な短辺方向側面部5、5と、表面部2の中央部から裏面部3の中央部まで貫通する、切削インサート1を固定するための固定用ネジ挿通穴6(以下、単に「ネジ挿通穴6」と記載する)と、を備えている。
長辺方向側面部4、4は、表面部2と裏面部3の長辺の稜線部に沿って形成されている。一方、短辺方向側面部5、5は、表面部2と裏面部3の短辺の稜線部に沿って形成されている。また、表面部2と裏面部3の形状は同じ形状をなしているとともに、2つの長辺方向側面部4、4、及び短辺方向側面部5、5は、表面部2及び裏面部3に対して垂直になるように形成されている。
【0040】
なお、
図2に示す1点鎖線で示す直線Aは、切削インサート1の平面図において、ネジ挿通穴6の中心線P1を通って2つの短辺方向側面部5、5間の幅(W)を2等分する直線である。また、1点鎖線で示す直線Bは、ネジ挿通穴6の中心線P1を通って直線Aと直交する直線である。
【0041】
図1(
図2)に示すように、略四角形形状をなす表面部2の短辺と長辺が交差する4つの角部には円弧形状をなす第1のコーナー部7、7、及び第2のコーナー部8、8が形成されている。同様に、裏面部3の4つの角部にも円弧形状をなす第1のコーナー部7、7、及び第2のコーナー部8、8が形成されている。そして、表面部2または裏面部3の平面視において、これら一対の第1のコーナー部7、7、及び一対の第2のコーナー部8、8は、ネジ挿通穴6の中心線P1を通る対角線に対してそれぞれ対向する位置に、同じ形状をなすように形成されている。すなわち、第1のコーナー部7、7は中心線P1に対し互いに回転対称な形状となっており、第2のコーナー部8、8も中心線P1に対し互いに回転対称な形状となっている。
さらに、
図1、
図3及び
図4に示すように、表面部2に形成されている第1のコーナー部7、7に対向する裏面部3の位置には第2のコーナー部8、8が形成されている。同様に、表面部2に形成されている第2のコーナー部8、8に対向する裏面部3の位置には第1のコーナー部7、7が形成されている。
【0042】
本実施形態の切削インサート1においては、表面部2と短辺方向側面部5及び長辺方向側面部4とが交差する箇所となる交差稜線部9、及び裏面部3と短辺方向側面部5及び長辺方向側面部4とが交差する箇所となる交差稜線部9であって、以下に説明する箇所に切れ刃が形成されている。
表面部2においては
図2に示すように、4つのコーナー部となる、第1のコーナー部7、7、及び第2のコーナー部8、8のうち、ネジ挿通穴6の中心線P1に対して対角線上に配置されている一対の第1のコーナー部7、7の円弧形状をなす交差稜線部9cには第1のコーナー刃11a、11aが、同じく他の一対の第2のコーナー部8、8の円弧形状をなす交差稜線部9dには第2のコーナー刃11b、11b刃が形成されている。切削インサート1の裏面部3にも上記と同様に、一対の第1のコーナー刃11a、11aと、一対の第2のコーナー刃11b、11bが形成されている。
なお、本実施形態に係る切削インサート1は、ネガティブ型の切削インサートの構成を備えているので、上記第2のコーナー刃11b、11bは切れ刃として使用されない。そのため、必ずしも切れ刃を形成する必要はない。従って、以下の説明において、上記した第2のコーナー刃11b、11bのことを、第2のコーナー稜線部11b、11bと記載する。
【0043】
さらに、本実施形態の切削インサート1においては、第1のコーナー刃11aの一方の端部(
図2に示す端部(S1))、すなわち、短辺方向側面部5側の交差稜線部9b上のS1から、複数の切れ刃が順次、第2のコーナー稜線部11bの方向に向けて形成されている。
これらの切れ刃は、
図2に示すように、主切れ刃12、第1副切れ刃13、及び第2副切れ刃14が、この順序で配置されて一つに繋がった(連なった)状態で形成されている。以下の説明において、これら第1のコーナー刃11a、主切れ刃12、第1副切れ刃13、及び第2副切れ刃14は、一つの切れ刃として繋がっているので、これら切れ刃を総称して、「切れ刃部10」と記載する場合がある。また、以下の説明において、上記S1を「第1のコーナー刃11aの一方の端部(S1)」と記載する場合がある。
【0044】
平面視で略四角形の形状をなす切削インサート1は、前記したようにネガティブ型インサートの構成を備えているので、表面部2及び裏面部3はそれぞれ2つの切れ刃部10を備えており、かつ、表面部2の切れ刃部10と裏面部3の切れ刃部10は、
図1に示すように、表裏の対向する交差稜線部9b、9cにそれぞれ形成されている。
【0045】
以下、切れ刃部10を構成する各切れ刃が備えている基本的な構成について説明する。
図2に示すように、第1のコーナー刃11aは所定の半径を有する円弧形状をなしている。第1のコーナー刃11aの一方の端部(S1)には、直線形状をなす主切れ刃12が繋がっている。直線形状をなす主切れ刃12は、前記した直線Bに対して所定の角度をもって傾斜するように形成されている。
【0046】
主切れ刃12の他方の端部(S2)には、半径Rを有する円弧形状をなす第1副切れ刃13が繋がっている。円弧形状をなす第1副切れ刃13は、
図5に拡大して示しているように、その円弧形状の向きは切削インサート1の外側方向に向けて凸状をなすように形成されている。さらに、第1副切れ刃13の円弧形状は、主切れ刃12との繋ぎ部(主切れ刃12の他方の端部(S2))から離間するに従って、漸次、直線状の主切れ刃12の延長線(D)に対してネジ挿通穴6方向に向けて後退する(ネジ挿通穴6に近づく)ように形成されている。
図5に示す符号「L1」は、円弧形状をなす第1副切れ刃13の弦の長さ、すなわち、端部(S2)と端部(S3)との間の距離である。
なお、切削インサート1を刃先交換式回転切削工具30(
図9参照)に装着したときには、刃先交換式回転切削工具30の回転中心軸O方向の最下点は、円弧形状をなす第1副切れ刃13上の所定の位置に存在するように、切削インサート1は刃先交換式回転切削工具30に装着される。
【0047】
第1副切れ刃13の他方の端部(S3)には、平面視で直線形状をなす第2副切れ刃14が直線B方向と所定の角度をもって傾斜するように形成されている。第2副切れ刃14の他方の端部(S4)は、第2のコーナー部8の交差稜線部(9d)に形成された第2のコーナー稜線部11bに繋がっている。第1のコーナー刃11aの他方の端部(S5)には、長辺方向側面部4に沿った交差稜線部9aが繋がっており、この交差稜線部9aには切れ刃は形成されていない。なお、交差稜線部9aには、交差稜線部9aに沿って所定の長さを有する切れ欠部21が形成されている。切れ欠部21は、切削インサート1を刃先交換式回転切削工具30に装着して被削材の切削加工を実施するときに、交差稜線部9aが被削材と接触することを防止するために設けている。
【0048】
第1のコーナー刃11a、主切れ刃12、第1副切れ刃13、及び第2副切れ刃14は、それぞれ、端部S1〜S3において、角をなすように接続されている(滑らかに接続されていない)。そのため、この切削インサート1を後述する刃先交換式回転切削工具30の工具本体31のインサート取付座32に取り付ける際に、インサート取付座32の短辺側拘束壁34と切削インサート1の短辺方向側面部5との接触面積を大きくできる。これにより、インサート取付座32に切削インサート1をより強固に固定することができるので、切削加工時の工具のビビリ振動が低減できる。
【0049】
本実施形態の切削インサート1はネガティブ型の切削インサートの構成を備えているので、切削インサート1の裏面部3に形成されている切れ刃部10を構成する各切れ刃は、上記した表面部2の各切れ刃と同一の形状をなすように形成されている。
【0050】
切削インサート1の表面部2は、
図1(
図2)に示しているように、ネジ挿通穴6の開口部の周囲を含むように(ネジ挿通穴6を囲むように)形成された基準平坦面部15と、基準平坦面部15から傾斜面部16を介して形成されたブレーカー面部17とを備えている。このように、傾斜面部16は、基準平坦面部15とブレーカー面部17との境界部に形成されている。基準平坦面部15は平面状に形成され、長辺方向側面部4及び短辺方向側面部5と直交する平面上に形成されている。切削インサート1の裏面部3も表面部2と同様に、基準平坦面部15と、基準平坦面部15から傾斜面部16を介して形成されたブレーカー面部17とを備えている。
なお、ブレーカー面部17は、切削インサート1の厚さ(T)(
図3参照)方向に対する高さ(後述する平面Nからの距離)が基準平坦面部15よりも僅かに高くなるように、例えば、0.2〜0.3mm程度高くなるように形成されている。
【0051】
ブレーカー面部17は、第1のコーナー部7、7を含むように形成され、さらに、前記した切れ刃部10を構成する切れ刃のうち、第1のコーナー刃11a、主切れ刃12、及び第1副切れ刃13の共通したすくい面を構成するように設けられている。また、ブレーカー面部17は、それぞれの第1のコーナー部7、7から傾斜面部16方向に向けて緩やかに下り傾斜する平面状の傾斜面として形成されている。
【0052】
本実施形態の切削インサート1においては、第1のコーナー刃11aの所定の位置が、表面部2(裏面部3)における切削インサート1の厚さ(T)方向の高さにおいて、最も高くなるようにしている。この厚さ(T)方向の高さが最も高くなる第1のコーナー刃11aにおける所定の位置は、第1のコーナー刃11aの中央部C(端部(S1)と端部(S5)間の中点)、または中央部Cの近傍に設定することが望ましい。この状況を
図3及び
図4に示している。
図3及び
図4においては、円弧形状をなす第1のコーナー刃11aの円弧の中央部(C)が、表面部2又は裏面部3の他の領域部分と比較して最も高い位置になっていることを示している。なお、第1のコーナー刃11aの中央部Cと基準平坦面部15との高低差は0.2〜0.3mm程度に設定する。
【0053】
傾斜面部16は、第1のコーナー刃11aの他方の端部(S5)の近傍(切れ欠部21の第1のコーナー部7側の端部近傍)であって、長辺方向側面部4側の交差稜線部9aから第2副切れ刃14の一方の端部(S3)の近傍まで傾斜する傾斜面として形成されている。この傾斜面部16の傾斜面は、切削インサート1の中央部方向に向けて傾斜した面とされている。
図1、
図2に示す符号「18」は、上記した各切れ刃に沿って所定の幅を有するように形成されたホーニングである。
【0054】
さらに、本実施形態の切削インサート1においては、
図1(
図2)に示すように、第2副切れ刃14はブレーカー面部17ではなく、基準平坦面部15をすくい面としている。
図2に示す例では、第2副切れ刃14はホーニング18を介して基準平坦面部15に連なっている構成としているので、ホーニング18に連なる基準平坦面部15のうち第2副切れ刃14近傍が第2副切れ刃14のすくい面としての作用を発揮することになる。
【0055】
続いて、上記したネガティブ型の切削インサート1の構成を備えている本実施形態の切削インサート1が備えている主要な特徴について、さらに詳細に説明する。
【0056】
(第1の特徴)
本実施形態の切削インサート1は、下記のような特徴を備えている。この特徴の詳細を、
図6A〜
図6Dに基づいて説明する。なお、
図6Aは、切削インサート1について、その切れ刃部10とその近傍を拡大して示した平面図、
図6Bは
図6Aに示す第2副切れ刃14に対して垂直なd1−d1線における断面図、
図6Cは
図6Bに点線で示す楕円(J)内の拡大図、
図6Dは従来の切削インサート(特許文献2の
図6及び
図7に開示)における主切れ刃に対して垂直な断面を示す図である。
【0057】
図6Cに、上記した断面図における稜線部の形状を拡大して示しているように、第2副切れ刃14から基準平坦面部15の表面に至る断面稜線部15aには、表面部2の上方に緩やかに突出する微小な凸形状部19が現れるようにしている。すなわち、第2副切れ刃14のすくい面の断面稜線部は、基準平坦面部15の断面稜線部に対して表面部2または裏面部3の上方(切削インサート1の外側)に向けて突出した凸形状としている。この微小な凸形状部19の形成は、第2副切れ刃14に隣接する基準平坦面部15の端部近傍、あるいは、
図6Cに示すように、第2副切れ刃14に隣接するホーニング18とこのホーニング18に隣接する基準平坦面部15の端部近傍を緩やかに上方に向かって凸形状となるように設ける。
【0058】
これに対して、従来の切削インサート40における主切れ刃41に対して垂直な断面では、この形状を
図6Dに示しているように、切屑の排出性を向上させるために、切削インサート40の上面部42には主切れ刃41に隣接して凹状溝のチップブレーカ43を設けている。この凹状溝のチップブレーカ43は、コーナー刃、主切れ刃、第1副切れ刃に連なるように形成されている。このような凹状溝のチップブレーカ43を設けると、各切れ刃の強度の低下と、凹状溝の立壁面による切屑詰まりを発生させる可能性を有する。
【0059】
本実施形態の切削インサート1においては、上記のように、第2副切れ刃14の近傍から微小に突出する凸形状部19を設けることにより、被削材の傾斜切削加工において、第2副切れ刃14の強度を確保することができる。また、微小な凸形状部19により基準平坦面部15の表面の摩耗が防止される。これにより、第2副切れ刃14に早期にチッピングや欠損が発生することを防ぐことが可能になって、加工ムラが無い良好な加工面を得ることができる。
【0060】
さらに、切削インサート1においては、
図6Cに示すように、凸形状部19の頂点(G)と第2副切れ刃14とを結んだ線分(E1)が、短辺方向側面部5の延長線となす交差角度をβ(度)としたときに、交差角度(β)を、「90<β≦130」に設定することが好ましい。なお、交差角度βのことを刃物角と呼ぶこともある。
【0061】
上記した交差角度(β)を「90<β≦130」に設定する理由は、次の通りである。
交差角度βが90度を超える鈍角を有することで、第2副切れ刃14の刃先強度改善の効果を得ることができる。また、β値の上限値を130度以下とすることにより、第2副切れ刃14により生成された切屑がすくい面となる基準平坦面部15と接触する角度を小さくすることができる。
従って、交差角度のβ値を、90<β≦130(度)の範囲に設定すれば、切屑が基準平坦面部15に接触する面積を少なくなるように制御することができる。その結果、切屑の排出性を向上できると共に、基準平坦面部15の摩耗を抑制することができる。これにより、第2副切れ刃14の刃先強度を改善し、切削抵抗の増大を抑制することができる。また、刃先強度をβ値によって適切に調整することができる。なお、β(度)の値を93≦β≦120とすることが好ましく、94≦β≦110とすることがより好ましい。
以下の説明において、上記した第2副切れ刃14に対して垂直な断面の形状に関する特徴を「第一の実施形態の第1の特徴」と記載する場合がある。
【0062】
(第2の特徴)
さらに、本実施形態の切削インサートは次の特徴を備えている。
図3(
図4)に示すように、表面部2と裏面部3において、一つの連続した切れ刃を構成している切れ刃部10、すなわち、第1のコーナー刃11a、主切れ刃12、第1副切れ刃13、及び第2副切れ刃14は、第1のコーナー刃11aの中央部(C)から第2副切れ刃上の所定の位置(Q)まで、連続的に下り傾斜するように形成されている。切れ刃部10を上記したように下り傾斜させている構成について詳細に説明すると次のようになる。
【0063】
すなわち、
図4に示すように、切削インサート1を厚さ(T)方向に二等分する平面(N)に対して、切れ刃部10を構成する各切れ刃上の任意の箇所からこの平面(N)までの距離(t1、切削インサート1の厚さ方向の高さ)は、コーナー刃11の中央部(C)(または中央部C近傍)が最大の値となり、中央部(C)から第2副切れ刃14上の所定の位置(Q)までは連続的に緩やかに減少するように切れ刃部10の各切れ刃を形成することが好ましい。また、第2副切れ刃14上の所定の位置(Q)から第2のコーナー部8の第2のコーナー稜線部11bの端部(S4)までは、上記した距離(t1)は減少させることなく一定の値にすることが好ましい。
なお、以下の説明において、上記した第2副切れ刃14上の所定の位置(Q)のことを「変曲点Q」と記載する。
【0064】
切れ刃部10の下り傾斜する構成を実現するためには、前記したように、ブレーカー面部17を、上記した切れ刃部10の緩やかな下り傾斜に追従させて、第1のコーナー刃11aの中央部(C)、または中央部(C)を含む切れ刃の近傍(切れ刃上の中央部(C)近傍位置)から傾斜面部16方向に向けて下り傾斜する平面状に形成することが好ましい。
以下の説明において、上記した切れ刃部10の緩やかな下り傾斜に関する特徴を「第一の実施形態の第2の特徴」と記載する場合がある。
【0065】
本実施形態の切削インサート1は、上記した第2の特徴を備えていることにより、次の効果を発揮することができる。
切削インサート1を刃先交換式回転切削工具30に装着して固定したときに、刃先交換式回転切削工具30の半径方向におけるすくい角を正方向に設定することができるので、主切れ刃12に作用する切削抵抗を低減させる効果を得ることができる。これにより、切削インサート1の寿命を延長させることが可能になる。
【0066】
さらに、第2副切れ刃14上に上記した変曲点(Q)を配置することにより、円弧形状をなす第1副切れ刃13をワイパー刃として作用させることが可能になるので、被削材の切削加工においてその加工表面の面性状が良好となる効果を得ることが可能になる。したがって、第2副切れ刃14上に上記した変曲点(Q)を配置することが好ましい。
【0067】
(第3の特徴)
本実施形態の切削インサート1においては、上記した第2副切れ刃14上に設定する変曲点(Q)の位置を、第1副切れ刃13の他方の端部(S3)から距離(L2)の位置としたとき、この距離(L2)は、「L2<0.2×L1」を満たすように設定することが好ましい。なお、L1は前記した第1副切れ刃13の弦の長さ(L1)を示す。以下の説明において、距離(L2)を上記のように設定した特徴を「第一の実施形態の第3の特徴」と記載する場合がある。
【0068】
上記した本実施形態の第3の特徴において、距離(L2)を、第1副切れ刃13の弦の長さ(L1)の0.2倍より小さい値に、すなわち、変曲点(Q)の位置を、端部(S3)の近傍となる第2副切れ刃14上に設定することが好ましい理由は次の通りである。
【0069】
この第1の理由は、変曲点(Q)の位置を第2副切れ刃14上に設定して、第1副切れ刃13上となることを回避することによって、第1副切れ刃13がワイパー刃として有効に機能するからである。これによって、平面フライス加工を実施したときに、1刃当たりの送り量であるfz値を大きくした場合であっても、このワイパー刃によって、被削材表面に残る凸状部を除去し、仕上げ面の面性状の向上を図ることができる。ここで、第1副切れ刃13上には切削工具の切れ刃における最下点(
図10参照)が設けられ、この最下点を基準にして、内周側の領域は、ワイパー刃となる。なお、上記の「最下点」とは、切れ刃を備えた切削工具(刃先交換式回転切削工具30)においてその回転軸心O方向における、最も先端に位置する箇所をいう。
【0070】
また、変曲点(Q)の位置を、第1副切れ刃13の端部(S3)の近傍となる第2副切れ刃14上に設定することが好ましい第2の理由は、第2副切れ刃14を用いた傾斜切削加工時において、切屑排出性を改善することに有効となるからである。これによって、切削抵抗を低減させる効果を得られることから、工具のビビリ振動が低減されて、加工面の面粗さを向上させることが可能になる。一方、変曲点(Q)の位置を、第1副切れ刃13の端部(S3)から離れた位置に設定すると、傾斜面部(16)の存在により切屑排出性が劣化することになる。なお、L2は0.05×L1≦L2とすることが好ましく、0.10×L1≦L2≦0.15×L1とすることがより好ましいが、これに限定されない。
【0071】
(第4の特徴)
さらに、本実施形態の切削インサート1は、次の特徴を備えている。この特徴を
図7A、
図7Bに基づいて説明する。
図7Aは切削インサート1について、その切れ刃部10とその近傍を拡大して示した平面図、
図7Bは
図7Aに示す第1副切れ刃13に対して垂直なd2−d2線における断面図である。
図7Bに示すように、ブレーカー面部17の表面部における断面稜線部17aは、基準平坦面部15の表面部における断面稜線部15aの延長線(E2)に対して、上方に突出させ、第1副切れ刃13の方向に向かうに従って上方への突出量を増加させた構成にすることが好ましい。さらに、傾斜面部16は、表面部2または裏面部3における切削インサート1の厚さ方向に対する高さが、基準平坦面部15よりも低くなるように形成している。以下の説明において、この上記した特徴を「第一の実施形態の第4の特徴」と記載する場合がある。
【0072】
本実施形態の切削インサート1は上記した本実施形態の第4の特徴を備えていることにより、次の効果を発揮することができる。
切れ刃部10の切れ刃稜線は、第1のコーナー刃11aの中央部(C)から変曲点(Q)まで下り傾斜させているが、第1副切れ刃13とその近傍のホーニング18とブレーカー面部17における切削インサート1の厚さ(T)方向の厚さを確保することができるので、第1副切れ刃13の強度を保持することができる。それに加え、ブレーカー面部17を傾斜面部16に向かって下り傾斜させているので、第1副切れ刃13から生成された切屑の排出性が良好になるという効果が生じる。
【0073】
さらに、傾斜面部16を、表面部2または裏面部3における切削インサート1の厚さ(T)方向に対する高さを、基準平坦面部15よりも低くなるように形成していることにより、次の効果を発揮することができる。
切削インサート1を装着した刃先交換式回転切削工具30により被削材の切削加工を行った際に、切れ刃部10で生成されて排出される切屑が、傾斜面部16を介して刃先交換式回転切削工具30の径方向外方に送られるので、切屑が直接、基準平坦面部15に接触することを回避することが可能になる。すなわち、基準平坦面部15が切屑の擦過等によって摩耗、変形することから回避される。これにより、切削インサート1の表面部2に形成されている切れ刃部10を使用して切削加工を行った後、この切削インサート1を反転して再装着して、裏面部3に形成されている切れ刃部10を使用して切削加工を実施するときに、切削インサート1の表面部2の基準平坦面部15の形状は維持されている。従って、刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座32に再装着するときに、表面部2の基準平坦面部15の形状が初期の状態で維持されているので、切削インサート1を正常な状態でインサート取付座32に拘束することができる。
【0074】
さらに、本実施形態の切削インサート1は、次の特徴を備えているようにすることが望ましい。この特徴は、切削インサート1の短辺方向側面部5の幅寸法をW(
図2参照)とし、前記した半径Rの円弧形状をなす第1副切れ刃13の弦の長さをL1(
図5参照)としたときに、このL1の値が、
L1=α×W、但し、αは、0.15≦α≦0.35、
の関係を満たすように第1副切れ刃13を構成することにある。なお、第1副切れ刃13の弦の長さ(L1)とは、
図5に示す第1副切れ刃13の一方の端部(S2)と他方の端部(S3)とを結んだ直線距離を示す。
【0075】
上記した第1副切れ刃13の弦の長さ(L1)の設定に関する特徴において、α値を上記のように設定する理由は、次の通りである。
被削材のフライス加工における平面、及び傾斜加工において、加工面の性状を良好な状態とし、例えば面粗さを小さく制御するためには、弦の長さ(L1)を適切な値に設定することが重要となる。α値が0.15未満の場合には、1刃当たりの送り量fz値を大きく設定した高送り加工の条件では、面粗さが粗くなってしまう。これは、削り残し部分の山部の高さが大きくなってしまうからである。これに対して、α値が0.35を超えて大きな場合には、第1副切れ刃13が長くなり、これに応じて、主切れ刃12の長さがインサートの幅W値に対して短くなるため、両者のバランスが悪くなってしまい、切屑の形状に悪影響を及ぼす可能性を有する。すなわち、切削工具の最下点近傍における第1副切れ刃の形状は長い円弧形状となり、そのため切屑厚みの薄くなる領域も長くなることから、切れ味に悪影響を与える可能性がある。従って、上記のような問題点を回避するためには、α値を、0.15≦α≦0.35、の範囲に設定することが好ましい。なお、α値は、0.175≦α≦0.325とすることが好ましく、0.20≦α≦0.30とすることがより好ましいが、これに限定されない。
【0076】
(刃先交換式回転切削工具)
続いて、上記した切削インサート1を工具本体に着脱可能に装着した本実施形態の刃先交換式回転切削工具を、
図8及び
図9に基づいて説明する。なお、
図8は本実施形態の刃先交換式回転切削工具30の工具本体31の斜視図を示し、工具本体31に設けたインサート取付座32に切削インサート1を装着していない状態を示している。
図9は
図8に示すインサート取付座32に、前記した本実施形態に係る切削インサート1を装着した状態を示す斜視図である。
図8及び
図9に示す符号「O」は、刃先交換式回転切削工具30(工具本体31)の回転中心軸である。被削材の切削加工を行うときには、刃先交換式回転切削工具30は
図9に示すF方向に回転する。
【0077】
図8(
図9)に示す工具本体31は、4つのインサート取付座32を備えた例を示している。これらのインサート取付座32は、
図8に示すように、着座面33と、短辺側拘束壁34と、長辺側拘束壁35と、着座面33の中央部に形成されたネジ穴36とを備えている。着座面33は、切削インサート1をインサート取付座32に装着するときに、切削インサート1の表面部2または裏面部3を密着させるための座面である。
【0078】
図8に示すインサート取付座32の短辺側拘束壁34は、切削インサート1をインサート取付座32に装着したときに、切削インサート1の短辺方向側面部5を密着させるための拘束壁である。また、長辺側拘束壁35は同じく切削インサート1をインサート取付座32に装着したときに、切削インサート1の長辺方向側面部4を密着させるための拘束壁である。短辺側拘束壁34と長辺側拘束壁35は、被削材の切削加工を行っているときに、切削抵抗によって切削インサート1の位置ズレを防止するために設けた拘束用の壁面である。
【0079】
なお、
図8に示す4つのインサート取付座32は、回転中心軸Oを中心にして90度(90°)の等間隔で設けても良いし、隣接するインサート取付座32間を90°よりも若干異なる角度で配置する、いわゆる、不等間隔(又は不等角度)で配置して、切削加工時に発生する振動を減衰させるようにしても良い。
【0080】
図9は、切削インサート1の固定手段となる固定用ネジ(クランプネジ)37を、切削インサート1に設けたネジ挿通穴6に挿通させて、固定用ネジ37を所定のトルクで締め付けてそのネジ部を着座面33のネジ穴36にねじ込んで、切削インサート1をインサート取付座32に装着して強固に固定した状態を示している。
【0081】
切削インサート1をインサート取付座32に強固に固定したときには、
図9に示すように、切削インサート1の短辺方向側面部5が工具本体31の先端部の端面側(
図9の下側)に、長辺方向側面部4が工具本体31の外周側に配置されるようにする。従って、切削インサート1をインサート取付座32に固定したときには、切れ刃部10を構成する第1のコーナー刃11a、主切れ刃12、第1副切れ刃13、及び第2副切れ刃14は、工具本体31の先端部の端面から僅かに外側(下方側)に突出し、さらに、第1のコーナー刃11aは工具本体31の外周面から僅かに外側に突出する。また、切削インサート1の一方の長辺方向側面部4も、工具本体31の外周面から僅かに外側に突出する。
【0082】
(被削材の切削加工方法)
続いて、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30を3軸または5軸のNC制御による切削加工機に装着して、被削材の切削加工を行うときの加工手順の一例を、
図10から
図12に基づいて説明する。なお、
図10及び
図12は、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30を用いて被削材に切削加工を行なっているときの状態を説明するための図であって、刃先交換式回転切削工具30に装着した複数個の切削インサート1のうち、回転中心軸Oに対して右側の一つの切削インサート1を示している。
【0083】
(平面の切削加工)
刃先交換式回転切削工具30を用いて被削材に高送りで平面の切削加工を実施するときには、
図10に示すように、例えば刃先交換式回転切削工具30をX1方向に横送りしながら被削材(M1)の表面(M1a)に平面加工を行う。この平面加工を実施するときには、刃先交換式回転切削工具30に装着している切削インサート1が備えている切れ刃部10のうち、主切れ刃12と第1副切れ刃13を使用することが望ましい。このとき、刃先交換式回転切削工具30をX1方向に横送りしたときには、主切れ刃12が被削材(M1)への切り込みを行う切れ刃として作用し、第1副切れ刃13が切削加工した加工面(M1b)の面粗さを良好にする切れ刃として作用する。なお、
図10に符号「M1c」で示す斜線部分は切削シロになる部分である。
【0084】
被削材M1の平面加工においては、主切れ刃12、第1副切れ刃13と第1のコーナー刃11aが切削加工に関与し、これら切れ刃のすくい面となるブレーカー面部17は、前記したように、傾斜面部16方向に向かって下り傾斜しているので、生成された切屑はブレーカー面部17との接触を極力防止することが可能になる。これにより、ブレーカー面部17の早期の摩耗を防ぐことが可能になる。
【0085】
(傾斜切削加工)
次に、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30を用いて被削材に傾斜の切削加工を実施するときの加工手順の一例について説明する。金型等を切削加工により製作するときには、金型の素材(各種の金型用鋼)となる被削材に、例えば、深い溝の切削加工、あるいはポケット加工を実施することがある。このような深い溝等の切削加工においては、通常、フライス加工工具を用いて、被削材に対して傾斜切削加工を順次数回繰り返して実施する方法が採用される。
【0086】
図11は、被削材M2に深い溝(H)の切削加工をNC制御の切削加工機を用いて実施するときに、フライス加工工具の送り制御の経路を示している。
図11に示す例では、被削材M2に実施する傾斜切削加工の経路を順次、k1、k2、・・・、k8と数回繰り返して実施する例を示している。
【0087】
図11に示す深い溝(H)を切削加工により製作するときに実施する傾斜切削加工を、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30を使用すると、良好な傾斜切削加工の効果を得ることが可能になる。以下、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30を用いてこの傾斜切削加工を実施するときに、切削インサート1が備えている各切れ刃の作用について説明する。
【0088】
図12は、本実施形態の刃先交換式回転切削工具30に装着している切削インサート1が被削材(M2)にX2方向に左り下がりの傾斜切削加工を実施しているときの状態を示している。
図12において、刃先交換式回転切削工具30は、例えば3軸制御の加工機により、X2方向(横送り)とZ方向(縦送り)の送りが同時に制御されながら、被削材(M2)の表面(M2a)に傾斜切削加工が実施されて傾斜加工面(M2b)が得られる。なお、
図12には示していないが、紙面の回転中心軸Oに対して左側の切削インサート1は主切れ刃12と第1副切れ刃13が切削加工に寄与する。
図12に符号「M2c」で示す斜線部分は切削シロになる部分である。
【0089】
このX2方向の傾斜切削加工においては、切削インサート1の切れ刃のうち、主切れ刃12、第1副切れ刃13とともに、第2副切れ刃14も切削加工に寄与する。このとき、直線形状をなす第2副切れ刃14は、被削材(M2)の未加工面(M2a)に対してX2方向の横送りに対する切り込み刃として作用する。また、円弧形状をなす第1副切れ刃13は、第2副切れ刃14が加工した加工面を良好な傾斜加工面(M2b)に加工する切れ刃として作用する。
【0090】
このような傾斜切削加工においては、第2副切れ刃14の切削加工により生成された切屑の厚さは第1副切れ刃13により生成された切屑よりも厚くなる。しかし、第2副切れ刃14はホーニング18を介して基準平坦面部15に繋がっているので、切屑は、ブレーカー面部17方向に流れることなく、基準平坦面部15方向に流れて、良好に排出される。
切屑がブレーカー面部17方向に流れない理由は、前記したように、表面部2及び裏面部3に形成されている基準平坦面部15とブレーカー面部17のうち、切削インサート1の厚さ(T)に対する高さが、ブレーカー面部17の方が基準平坦面部15よりも高くなるように形成されているからである。
なお、傾斜切削加工において、右下がりの切削加工(
図12に示すX2方向とは逆方向の傾斜切削加工)を行うときにも、主切れ刃12、第1副切れ刃13とともに、第2副切れ刃14が切削加工に寄与する。
【0091】
また、
図6Cに示しているように、第2副切れ刃14のホーニング18とホーニング18近傍の基準平坦面部15の表面には緩やかに上方に突出する微小な凸形状部19を設けて、第2副切れ刃14の強度を確保するようにしている。これにより、前記した平面加工と同様に、第2副切れ刃14に早期にチッピングや欠損が発生することを防ぐことが可能になって、加工ムラが無い良好な傾斜加工面(M2b)を得ることができる。
【0092】
また、
図6Cに示すように、凸形状部19の頂点(G)と第2副切れ刃14とを結んだ線分(E1)が、短辺方向側面部5の延長線となす交差角度β(度)を、前記した本実施形態の第1の特徴となる「90<β≦130」に設定しているので、切屑の排出性の向上と、第2副切れ刃14のすくい面となる基準平坦面部15の摩耗を抑制することが可能になる。
【0093】
上記した本実施形態の切削インサート1は、略四辺形の形状をなし、表面部2と裏面部3にそれぞれ形成された2つの第1のコーナー部7に、第1のコーナー刃11aを備えたネガティブ型切削インサートであって、1個の切削インサートに計4コーナーを有し、上記した本実施形態の特徴1〜4に記載の主要な特徴を備えている。
これにより、刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座32に装着した切削インサート1に切れ刃などの摩耗が生じた場合には、この切削インサート1の向きを180°変えて再装着を行うことにより、他の切れ刃部10を切削加工に使用することができる。また、表面部2の2つの切れ刃部10が摩耗した場合には、この切削インサート1の裏面部3の切れ刃部10を切削加工に使用することができる。このように、一つの切削インサートで表面部2及び裏面部3に形成されている計4ケ所の切れ刃部10を使用することができる。
【0094】
なお、切削インサート1の第1のコーナー刃11aは、被削材の平面加工を行っているときに、被削材の立壁(刃先交換式回転切削工具の回転中心軸に略平行な面)を切削加工する必要があるときに、この立壁及びこの立壁の下方部の角部の切削加工に関与する切れ刃として使用される。
【0095】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態に係る切削インサート101、及びこれを備える刃先交換式回転切削工具130について、
図13〜19を参照しながら説明する。
図13は、本実施形態の切削インサートを表面部の斜め上方から見た斜視図、
図14は
図13に示す切削インサートを表面部の方向から見た平面図、
図15は
図13に示す切削インサートを長辺方向側面部の方向から見た側面図、
図16は
図13に示す切削インサートを短辺方向側面部の方向から見た正面図である。
【0096】
なお、第一の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を簡略化する。また、異なる符号を付けた部分についても、第一の実施形態において同じ名称を有する部分と同様の構成及び作用については説明を省略している。
【0097】
第二の実施形態では、切れ刃部110を構成する第1のコーナー刃111aと、主切れ刃112と、第1副切れ刃113と、第2副切れ刃114とが、その接続部で、角をなすことなく、滑らかに接続されている(第二の実施形態の第1の特徴)。また、ブレーカー面部117は切れ刃部110のすくい面をなし、ブレーカー面部117の第1のコーナー刃111a側のすくい角が、第2副切れ刃114側のすくい角より小さくなるように構成されている(第二の実施形態の第2の特徴)。さらに、第2副切れ刃に垂直な第2副切れ刃114のすくい面の断面視において、凸形状部119の頂点が第2副切れ刃114上に位置する(第二の実施形態の第3の特徴)。その他の構成及び作用効果については、第一の実施形態と同様である。以下、上記の各特徴について、その作用効果と共に説明する。
【0098】
(第1の特徴)
図13、14に示すように、第二の実施形態に係る切削インサート101において、切れ刃部110を構成する第1のコーナー刃111aと、主切れ刃112と、第1副切れ刃113と、第2副切れ刃114とは、各接続部(S1、S2、S3)において、角をなすことなく、滑らかに接続されている。
【0099】
このような構成によれば、第1のコーナー刃111aと主切れ刃112との境界部である端部S1、主切れ刃112と第1副切れ刃113との境界部である端部S2、及び第1副切れ刃113と第2副切れ刃114との境界部である端部S3に、角部が形成されない。そのため、切削加工時における端部S1〜S3の損傷や、端部S1〜S3が優先的に消耗されることを防止できる。その結果、長期に亘って切れ刃部110の形状を維持して、切削性能を保つことができる。
【0100】
(第2の特徴)
本実施形態における切削インサート101では、ブレーカー面部117は切れ刃部110のすくい面をなし、ブレーカー面部117の第1のコーナー刃111a側のすくい角が、第2副切れ刃114側のすくい角より小さくなるように構成されている。具体的には、
図17A、17Bに示すように、ブレーカー面部117が複数の面117a〜117gで構成されている。
図17Aは
図14に示す切削インサート101の切れ刃部110を構成する各切れ刃の配置とその配列を説明する拡大部分平面図であり、
図17Bは
図17Aに示す第2副切れ刃114に垂直なd3−d3線における断面図である。
【0101】
面117aは、第1のコーナー刃111a及び基準平坦面部115と連続し、第1のコーナー刃111aの端部S5を通る面である。面117bは、面117a、第1のコーナー刃111a、及び基準平坦面部115と連続する。面117cは、面117b、第1のコーナー刃111a、及び基準平坦面部115と連続する。面117a、117b、117cは、第1のコーナー刃111aのすくい面となっている。面117dは、面117c、主切れ刃112、及び基準平坦面部115と連続し、主切れ刃112のすくい面となっている。面117eは、面117d、第1副切れ刃113、及び基準平坦面部115と連続し、第1副切れ刃113のすくい面となっている。面117fは、面117e、第2副切れ刃114、及び基準平坦面部115と連続する。面117gは、面117f、第2副切れ刃114、及び基準平坦面部115と連続し、第2副切れ刃114の端部S4を通る面である。面117f、117gは、第2副切れ刃114のすくい面となっている。
【0102】
図17A、17Bに示すように、ブレーカー面部117を構成する各面117a〜117gは、主に平面(後述する直線部に相当)で構成され、基準平坦面部115との接続部において凸状の曲面(後述する曲線部に対応)となっている。
【0103】
図17Bに示すように、面117fを通り第2副切れ刃114に垂直な断面において、面117fの断面稜線部は直線部117f1と曲線部117f2とからなる。直線部117f1は、第2副切れ刃114から基準平坦面部115に向かって延びており、その延長線E3は、基準平坦面部115の断面稜線部115aに対し所定の角度δf(以下、面117fと基準平坦面部115とがなす角度、ともいう)をなしている。曲線部117f2は、直線部117f1と断面稜線部115aとを接続する凸状の円弧となっている。直線部117f1及び曲線部117f2は、断面稜線部115aよりも上方に突出している。すなわち、面117fは基準平坦面部115の上方に突出している。
【0104】
図17Bには面117fについて図示しているが、その他の面117a〜117e、117gも同様の形状を備える。すなわち、各面117a〜117e、117gと連続する各切れ刃に垂直な各断面において、各面117a〜117e、117gの断面稜線部は、各切れ刃から延びる直線部と、基準平坦面部115と直線部とを接続する曲線部とを備えている。
【0105】
そして、ブレーカー面部117を構成する各面117a〜117gと基準平坦面部115に対する角度は、面117aから面117gに向かって、順に大きくなっている。言い換えると、各面117a〜117gと連続する各切れ刃に垂直な各断面において、各面117a〜117gの断面稜線部の直線部と基準平坦面部115の断面稜線部115aとがなす角度(各面117a〜117gと基準平坦面部115とがなす角度)をそれぞれδa〜δgとした場合、δa<δb<δc<δd<δe<δf<δgとなっている。すなわち、ブレーカー面部117は、面117aから面117gに向かって、すくい角が順に大きくなるように構成されている。
【0106】
このような構成によれば、切削加工時に生じた切屑が、ブレーカー面部117に沿って表面部2、または裏面部3の外部に送られるので、切屑が速やかに排出される。そのため、切屑が基準平坦面部115に直接接触することを回避することが可能になる。すなわち、基準平坦面部115が切屑の擦過等によって摩耗、変形することから回避される。
【0107】
なお、上記効果をより確実に奏するためには、ブレーカー面部117の第1のコーナー刃側端に位置する面117aと基準平坦面部115とがなす角度δaと、ブレーカー面部117の第2副切れ刃側端に位置する面117gと基準平坦面部115とがなす角度δgとの差(δg−δa)を、3度以上20度以下とすることが好ましく、4度以上15度以下とすることがより好ましい。また、角度δaは5度以上25度以下が好ましく、10度以上20度以下がより好ましい。さらに、角度δgは10度以上30度以下が好ましく、15度以上25度以下がより好ましい。
【0108】
また、ブレーカー面部117の形状は、その第1のコーナー刃111a側のすくい角が、第2副切れ刃114側におけるすくい角より小さくなるように構成されていれば良く、上記説明に限定されない。例えば、ブレーカー面部117を構成する面の数は7に限定されず、ブレーカー面部117を2以上の平面で構成しても良く、また1以上の曲面で構成しても良い。ブレーカー面部117を1つの曲面で構成する場合、各切れ刃に垂直な断面において、ブレーカー面部117の断面稜線部は、上述の
図17Bと同様に、直線部と曲線部とで構成される。そして、直線部と基準平坦面部115の断面稜線部115aとのなす角度が、ブレーカー面部117の第1のコーナー刃111a側端から第2副切れ刃側端に向かい漸次大きくなっている。
【0109】
(第3の特徴)
図17Bに示すように、本実施形態では、第2副切れ刃に垂直な第2副切れ刃114のすくい面となる面117fの断面視において、面117fの断面稜線部117f1、117f2が凸形状部119を形成している。凸形状部119は、基準平坦面部115よりも表面部2の上方に向かって緩やかに突出している。そして、凸形状部119の頂点Gは、第2副切れ刃114上に位置している。また、上述のように、面117gは面117fと同様の形状を有している。なお、面117gの断面稜線部の直線部と基準平坦面部115の断面稜線部115aとがなす角度は、面117fの断面稜線部の直線部117f1と基準平坦面部115の断面稜線部115aとがなす角度よりも小さい。
【0110】
このように、第2副切れ刃114のすくい面117f、117gを基準平坦面部に対して凸形状にしているので、第2副切れ刃114を用いた傾斜切削加工時において、切屑排出性をさらに向上できる。また、基準平坦面部115が切屑の擦過等により摩耗、変形することが回避される。
【0111】
また、面117fの断面稜線部の直線部117f1(またはその延長線E3)と短辺方向側面部105との交差角度γ(度)が、70(度)≦γ<90(度)に設定されている。また、面117gにおいても、第2副切れ刃114に垂直であり、面117gを通る断面において、面117gの断面稜線部の直線部と短辺方向側面部105との交差角度γ(度)が70(度)≦γ<90(度)に設定されている。
【0112】
このように、交差角度γを鋭角とすることにより、第2副切れ刃114に作用する切削抵抗を低減できる。また、被削材の溶着も抑制できるので、溶着が発生し易い被削材に対し第2副切れ刃114を用いて傾斜切削加工を行う場合に、この切削インサート101は好適である。なお、上記効果をより確実に奏するために、交差角度γを72度≦γ≦88度とすることが好ましく、74度≦γ≦86度とすることがより好ましいが、これに限定されない。
【0113】
さらに、切れ刃部110全体において、上記交差角度γに相当する角度、すなわち、ブレーカー面部117の各面117a〜117gと連続する各切れ刃に垂直な各断面において、各面117a〜117gの断面稜線部の直線部と短辺方向側面部105とのなす角度を、70度以上90度未満とすることが好ましい。この場合、切削インサート101は、いわゆる、ポジティブ型切削インサートとなる。
【0114】
このような構成によれば、切れ刃部110全体の切削抵抗を低減できる。そのため、本実施形態の第1の特徴のように、各切れ刃が滑らかに接続することにより、上記第一の実施形態の構成よりもインサート取付座32の短辺側拘束壁34と短辺方向側面部105との接触面積が小さくなっても、工具のビビリ振動を抑制できる。また、被削材の溶着を抑制できるので、このような切削インサート101は溶着が発生し易い被削材の切削加工に好適である。
【0115】
(立壁の切削加工)
続いて、上記した切削インサート101を工具本体31に着脱可能に装着した本実施形態の刃先交換式回転切削工具130、及びその使用例について、
図18〜
図20を用いて説明する。
図18、19は、本実施形態の刃先交換式回転切削工具の斜視図であって、
図18は本実施形態に係る切削インサートを装着していない状態を示す図、
図19は本実施形態に係る切削インサートを装着したときの状態を示す図である。本実施形態の刃先交換式回転切削工具130の構成は、インサート取付座32の短辺側拘束壁134の形状が、本実施形態の切削インサート101の短辺方向側面部105に対応する形状となっていること以外、第1実施形態と同様の構成を備える。
【0116】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具130は、
図20のような被削材の立壁や、立壁の下部に位置する角部の切削加工に特に有利である。
図20は、
図19に示す刃先交換式回転切削工具130を用いて、被削材M3の立壁M3aを含む角部の切削加工を行っているときの状態を説明する図である。
【0117】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具130によれば、切削インサート101が本実施形態の第2、3の特徴を備えるので、切削加工時に生じた切屑を、ブレーカー面部117に沿って、刃先交換式回転切削工具130の径方向内方(
図20の切削インサート101の左側)に送ることができる。そのため、切削インサート101の長辺方向側面部4と被削材M3の立壁M3aとの間に、切屑が噛みこまれることを防止できる。また、ブレーカー面部117が第2副切れ刃114の端部S4まで形成されているので、切削加工時に生じた切屑はブレーカー面部117に沿って、第2副切れ刃114よりも前記径方向内方に送られる。そのため、被削材M3の平面部M3bと切れ刃部110との間に切屑が噛みこまれることを防止できる。その結果、切屑が噛みこまれることによる切削抵抗の増加を抑制できると共に、切屑により立壁M3aや平面部M3bが傷つけられることを防止できる。
【0118】
以上に説明した本発明に係る切削インサートは、その表面部2及び裏面部3の形状が略四角形状をなした切削インサート1について説明したが、表面部2及び裏面部3の形状が3角形状、5角形状、6角形状、等の形状をなす切削インサートに対しても適用することができる。
【0119】
また、本発明に係る切削インサートは、炭化タングステン−コバルト基(WC−Co基)の超硬合金で製作することが望ましいが、炭化タングステン−コバルト基の他に、炭窒化系のサーメットを含む超硬合金製の他に、高速度鋼、炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、及びこれらの混合体からなるセラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、多結晶ダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素からなる硬質相と、セラミックスや鉄族金属などの結合相とを超高圧下で焼成する超高圧焼成体など、を用いることも可能である。
【0120】
さらに、本発明の切削インサートは、少なくとも切れ刃部の切れ刃稜線とホーニングの領域に、耐摩耗性を向上させるためにPVDなどにより従来から実施されている各種の硬質被膜を1層又は複数層形成することが望ましい。
【0121】
また、本発明に係る切削インサートは、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0122】
例えば、第二の実施形態に係る切削インサートの第3の特徴を、第一の実施形態の第1の特徴と置換しても良い。このような構成によっても、傾斜切削時の切屑排出性を良好にすることができる。第二の実施形態では、第2副切れ刃114上の変曲点Qを、第一の実施形態の第3の特徴を満たす位置としても良い。さらに、特に図示及び説明はしていないが、第二の実施形態においても第一の実施形態と同様に、交差稜線部9aに沿って所定の長さを有する切れ欠部21を設けても良い。
【0123】
さらに、端部S1〜S5について、第一の実施形態では微小な幅を持つ領域とされており、第二の実施形態では点とされているが、これに限定されない。端部S1が第1のコーナー刃と主切れ刃との境界であり、端部S2が主切れ刃と第1副切れ刃との境界であり、端部S3が第1副切れ刃と第2副切れ刃との境界であり、端部S4が第2副切れ刃の端部S3と反対側の端部に位置し、端部S5が第1のコーナー刃の端部S1と反対側の端部に位置していれば良い。
本発明の切削インサートにおいて、切れ刃部は、第1のコーナー刃と、この第1のコーナー刃の短辺方向側面部側の端部(S1)に連なった直線状をなす主切れ刃と、主切れ刃の他方の端部(S2)に連なり、円弧形状をなす第1副切れ刃と、第1副切れ刃の他方の端部(S3)に連なって直線形状をなす第2副切れ刃とを備え、第2副切れ刃に垂直なすくい面の断面視において、第2副切れ刃のすくい面の断面稜線は、基準平坦面部の断面稜線部に対して上方に向けて突出した凸形状となるように形成されている。