特許第5967334号(P5967334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967334サイジング剤塗布炭素繊維束およびその製造方法、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5967334
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】サイジング剤塗布炭素繊維束およびその製造方法、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/11 20060101AFI20160728BHJP
   D06M 15/70 20060101ALI20160728BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20160728BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   D06M13/11
   D06M15/70
   C08J5/24
   D06M101:40
【請求項の数】16
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-512144(P2016-512144)
(86)(22)【出願日】2016年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2016050777
【審査請求日】2016年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-9121(P2015-9121)
(32)【優先日】2015年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-45598(P2015-45598)
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日浅 巧
(72)【発明者】
【氏名】小林 大悟
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−95222(JP,A)
【文献】 特開平7−9444(JP,A)
【文献】 特開2009−191425(JP,A)
【文献】 特開2003−336129(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104195766(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M11/00〜16/00
19/00〜23/18
B29B11/16
15/08〜15/14
C08J 5/04〜 5/10
5/24
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物を含むサイジング剤、または、
(B)ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含むサイジング剤が塗布された炭素繊維束であって、
炭素繊維束断面の扁平率(幅/厚さ)が10以上150以下であり、
炭素繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分した際に、両端部の各々における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比の平均値と、中央部における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比から算出される両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.05以上1.5以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項2】
前記サイジング剤が脂肪族エポキシ化合物(A)を含むものであって、脂肪族エポキシ化合物(A)が、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールからなる群から選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である、請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項3】
前記サイジング剤が非水溶性化合物(B)を含むものであって、非水溶性化合物(B)が芳香族化合物である請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項4】
前記サイジング剤が非水溶性化合物(B)を含むものであって、非水溶性化合物(B)がラテックス化合物である請求項1または3のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項5】
炭素繊維束断面の扁平率(幅/厚さ)が90を超え150以下である請求項1〜4のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項6】
前記サイジング剤が非水溶性化合物(B)を含むものであって、ドレープ値が100mm以上200mm以下である請求項1、3〜5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項7】
サイジング剤の平均付着量が0.2質量%以上1.5質量%未満である請求項1〜6のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項8】
炭素繊維束のストランド引張強度が3.5GPa以上、ストランド引張弾性率が220GPa以上である請求項1〜7のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束を製造する方法であって、サイジング剤を含むサイジング剤溶液に炭素繊維束を含浸させた後、サイジング剤溶液の溶媒の沸点より10℃以上80℃以下高い温度範囲で加熱したローラーに1秒以上60秒以下の時間接触させることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項10】
炭素繊維束をサイジング剤溶液に含浸させた後、炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出す過程において、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が20度以上70度以下である請求項9に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項11】
前記サイジング剤が脂肪族エポキシ化合物(A)を含むものであって、炭素繊維束をサイジング剤溶液に含浸させた後、ローラーに接触するまでの時間が60秒以下である請求項9または10に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項12】
前記サイジング剤が非水溶性化合物(B)を含むものであって、炭素繊維束をサイジング剤溶液に含浸させた後、ローラーに接触させるまでの時間が3秒以上30秒以下である請求項9または10に記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項13】
前記サイジング剤が非水溶性化合物(B)を含むものであって、炭素繊維束をローラーに接触させる工程の後、180℃以上240℃以下の温度範囲で30秒以上300秒以下の時間熱処理を行う請求項9、10、12のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束と、熱硬化性樹脂とを含むプリプレグ。
【請求項15】
請求項14に記載のプリプレグを硬化させてなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程通過性に優れ、かつマトリックス樹脂との接着性に優れ、高度な機械強度を有する炭素繊維強化複合材料を構成するサイジング剤塗布炭素繊維束およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量でありながら強度、剛性、寸法安定性等に優れることから、種々のマトリックス樹脂と組み合わせた複合材料は航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維の優れた特性を活かすには、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が優れることが重要である。
【0003】
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させるため、通常、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、炭素繊維に電解処理を施すことにより、接着性の指標である層間剪断強度を向上させる方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、近年、複合材料への要求特性のレベルが向上するにしたがって、このような酸化処理のみで達成できる接着性では不十分になりつつある。
【0004】
特に、官能基の少ない炭素繊維や、マトリックス樹脂を用いた炭素繊維強化複合材料成形品では、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性を改善することを目的として、該炭素繊維に付与するサイジング剤の検討が行われている。このようなサイジング剤として、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂などが好適に用いられている。中でも、エポキシ樹脂は、耐熱性、成形性および炭素繊維との接着性に優れ、高度の機械的強度を有する炭素繊維強化複合材料を与えるサイジング剤として好適である。例えば、サイジング剤としてビスフェノールAのジグリシジルエーテルを炭素繊維束に塗布する方法が提案されている(特許文献2、3)。また、サイジング剤としてポリアルキレングリコールのエポキシ付加物を炭素繊維束に塗布する方法が提案されており、炭素繊維とマトリックス樹脂と間に優れた接着性を発現し、炭素繊維強化複合材料の強度が特に向上することが認められている(特許文献4、5、6)。
【0005】
一方、炭素繊維束へのサイジング剤付与は、プリプレグなどのシート作製やフィラメントワインディングなどの成形といった加工工程において単糸切れによる毛羽立ちを抑え、加工性、取扱性を改善する目的にも用いられる。例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂マトリックスを対象に各種サイジング処理方法が提案されており、特に集束性を高める成分としてポリウレタンなどをエポキシ樹脂に添加したサイジング剤が多く提案されている(特許文献7、8参照)。
【0006】
一方で、より集束性の優れたサイジング剤が、カット糸やミルド糸のような、いわゆる短繊維用途で提案されており、ポリアミド樹脂を配合した炭素繊維用サイジング剤(特許文献9、10)や、ポリカーボネート樹脂およびポリマレイミド樹脂とエポキシ樹脂を混合したサイジング剤(特許文献11、12)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−361619号公報
【特許文献2】米国特許第3,957,716号明細書
【特許文献3】特開昭57−171767号公報
【特許文献4】特開昭57−128266号公報
【特許文献5】米国特許第4,555,446号明細書
【特許文献6】特開昭62−33872号公報
【特許文献7】特開平9−250087号公報
【特許文献8】特公平6−065787号公報
【特許文献9】特開平9−003777号公報
【特許文献10】特開2003−105676号公報
【特許文献11】特開昭62−021872号公報
【特許文献12】特開平02−064133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年の炭素繊維強化複合材料の様々な成形加工技術が開発されるにしたがい、加工性、取扱性に対する要求水準は年々高まっており、特許文献4、5、6に記載されるような、特に優れた接着性を発揮するサイジング剤においても、さらに優れた加工性、取扱性を付与することが必要であった。
【0009】
また、特許文献9、10や特許文献11、12に記載の方法によれば、炭素繊維束の集束性と耐摩擦性が向上することが認められているが、サイジング剤により炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を積極的に向上させるという技術的思想はなかった。また、連続繊維として用いた場合に炭素繊維の柔軟性をさらに高める技術的思想はなかった。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術における問題点に鑑み、高い耐擦過性を有し工程通過性に優れると同時に、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性や形態安定性に優れ、炭素繊維複合材料として際に優れた力学特性を与えるサイジング剤塗布炭素繊維束およびその製造方法、プリプレグ、ならびに該炭素繊維束を使用した炭素繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、拡幅された炭素繊維束の両端部に特定のサイジング剤を多量に付着させることで、炭素繊維がマトリックス樹脂との高い界面接着性を有し、かつ炭素繊維束が工程を通過する際の擦過による毛羽の発生を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、(A)分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物、または、(B)ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含むサイジング剤が塗布された炭素繊維束であって、炭素繊維束断面の幅と厚さの比で定義される扁平率(幅/厚さ)が10以上150以下であり、炭素繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分した際に、両端部の各々における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比の平均値と、中央部における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比から算出される両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.05以上1.5以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束である。
【0013】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束を製造する方法であって、サイジング剤を含むサイジング剤溶液に炭素繊維束を含浸させた後、サイジング剤溶液の溶媒の沸点より10℃以上80℃以下高い温度範囲で加熱したローラーに1秒以上60秒以下の時間接触させることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束を製造する方法であって、炭素繊維束をサイジング剤溶液に含浸させた後、炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出す過程において、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が20度以上70度以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束を製造する方法であって、(A)サイジング剤が分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物を含むものであって、サイジング剤溶液に含浸させた後、ローラーに接触するまでの時間が60秒以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束を製造する方法であって、(B)サイジング剤がガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含むものであって、サイジング剤溶液に含浸させた後、ローラーに接触するまでの時間が3秒以上30秒以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法である。
【0017】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束と熱硬化性樹脂とを含むプリプレグである。
【0018】
また、本発明は、上記プリプレグを硬化させてなる炭素繊維強化複合材料である。
【0019】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性に優れ、炭素繊維束が工程を通過する際の擦過による毛羽の発生を抑制できるため、力学特性に優れた炭素繊維強化複合材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本発明は炭素繊維束に(A)分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物、または、(B)ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維束である。まず、本発明に用いられるサイジング剤について説明する。
【0023】
本発明で用いられるサイジング剤は、(A)分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物、または(B)ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含む。
【0024】
まず(A)分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物について説明する。なお、脂肪族エポキシ化合物とは分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物である。分子内にエポキシ基が複数あり、かつ柔軟な脂肪族の主鎖をもつエポキシ化合物は、炭素繊維の表面官能基と相互作用し、炭素繊維表面と強固に接着するとともに、マトリックス樹脂、とりわけエポキシ樹脂との相互作用および反応性が高く、炭素繊維強化複合材料の物性が向上する。本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基以外の官能基をもつこともできる。
【0025】
脂肪族エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましく、マトリックス樹脂との相互作用の観点から水酸基を有することが特に好ましい。また本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。脂肪族エポキシ化合物が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
【0026】
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物のエポキシ当量は、360g/eq.以下であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.以下であり、さらに好ましくは180g/eq.以下である。脂肪族エポキシ化合物のエポキシ当量が360g/eq.以下であると、炭素繊維表面と強く相互作用し、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
【0027】
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ポリブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるエポキシ化合物が挙げられる。なかでも、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましく用いられる。これらの化合物は水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの極性溶媒に対して高い溶解性を有し、これらサイジング剤を炭素繊維束に塗布する際に均一なサイジング剤溶液として用いることができる点で特に好ましい。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
これらの化合物の製品の具体例として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−512、EX−521)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−321)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−313、EX−314)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−411)などを挙げることができる。
【0029】
次に(B)ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物について説明する。ガラス転移温度はJIS 7121(1987)に従い、入力補償DSCの測定により決定する。非水溶性化合物は乳化または自己乳化により、分散液としてサイジング剤に用いる。なお、本発明における非水溶性化合物とは、25℃において、水90質量部に対し化合物10質量部を混合し、24時間以上スターラーで攪拌し、JIS P3801(1956) 1種に該当するろ紙で濾過した後に残存する固形物の質量が60%以上の化合物である。サイジング剤のガラス転移温度が−100℃以上であると、室温においてサイジング剤が分子運動性を有するため、炭素繊維束にサイジング剤を付着させるときに均一に付着させることができる。サイジング剤のガラス転移温度が50℃以下であると、付着させた後も炭素繊維束に柔軟性を持たせることができ、取扱性を良好に保つことができる。サイジング剤のガラス転移温度の下限として、より好ましい範囲は−50℃以上であり、さらに好ましくは0℃以上である。また、上限としてより好ましい範囲は40℃以下である。また、サイジング剤が非水溶性化合物を含むと、大気中の湿度によらず炭素繊維束の水分量が安定するため、良好な形態安定性を保つことができる。
【0030】
本発明において、ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物として用いることができる化合物は、ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下である、ラテックス化合物、ポリアクリル化合物、ポリウレタン化合物、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物などが好ましく例示される。それらの共重合体であってもよいし、また、それらの化合物を合成により、分子量を制御することによって、ガラス転移温度を−100℃以上50℃以下にしてもよい。
【0031】
ラテックス化合物とは、天然ゴムやジエン系モノマーの重合体からなる化合物である。ジエン系モノマーの重合体の例としては、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、2−ビニルピリジンスチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられ、本発明では、ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性のラテックス化合物を選択して用いることができる。ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性のラテックス化合物の分散液の具体例としては、例えば、JSR(株)製のSB(スチレン・ブタジエン)ラテックス0533、0545、0548,0561、0568、0569V、0573、0589、0597C、0602、0695、0696などを挙げることができる。
【0032】
ポリアクリル化合物とは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体を含む化合物である。重合度や共重合成分をコントロールすることにより、ガラス転移温度を調整することができる。ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性のポリアクリル化合物の分散液の具体例としては、例えば、(株)イーテック製の“AE(登録商標)”110、116、120A、200A、336B、337、373D、610H、980、981A、982、986Bなどを挙げることができる。
【0033】
ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性のポリウレタン化合物の分散液の具体例としては、例えば、住化バイエルウレタン(株)製の“バイボンド(登録商標)”PU401A、PU405、PU407、“ディスパコール(登録商標)”U54、DIC(株)製の“VONDIC(登録商標)”シリーズなどを挙げることができる。
【0034】
ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下のグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、および水添ビスフェノールFからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物、およびジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
【0035】
ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下のグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0036】
さらに、例えば、ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下のグリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
【0037】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
【0038】
ガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
【0039】
本発明に使用するガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性エポキシ化合物として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。また、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
【0040】
本発明において、サイジング剤として用いるガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物は芳香族化合物であることが好ましい。サイジング剤として用いるガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物が芳香族化合物であると、分子骨格の剛直性により、サイジング剤塗布炭素繊維束の形態安定性が向上する。
【0041】
本発明において、サイジング剤として用いるガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物はラテックス化合物であることが好ましい。サイジング剤として用いるガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物がラテックス化合物であると、サイジング剤塗布炭素繊維束の形態安定性を保つとともに、ラテックス化合物の伸度が高いため柔軟性を付与できる。
【0042】
また、本発明に用いられるサイジング剤は、上記以外の成分を含んでも良い。例えば、サイジング剤成分と炭素繊維表面に含まれる酸素含有官能基および/またはマトリックス樹脂との接着性を高める接着性促進成分、サイジング剤成分を分散するための乳化剤などを添加することができる。これらの成分は上記脂肪族エポキシ化合物化合物(A)または非水溶性化合物(B)とともに溶媒に溶解させて均一にサイジング剤溶液として用いることが好ましい。
【0043】
接着性促進成分の一例としては、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−ベンジルイミダゾールや、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBA)等の3級アミン化合物およびその塩、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物およびその塩などの4級ホスホニウム塩などが挙げられる。これら化合物は、本発明で用いられるサイジング剤全量に対して好ましくは1〜25質量%、さらに好ましくは2〜8質量%配合するのがよい。
【0044】
サイジング剤成分を分散するための乳化剤としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。これら化合物を用いる場合、本発明で用いられるサイジング剤全量に対して好ましくは0.1〜25質量%配合するのがよい。
【0045】
本発明に用いるサイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)を含む場合、サイジング剤100質量部に対して前記脂肪族エポキシ化合物(A)を30質量部以上含むことが好ましく、70質量部以上含むことがより好ましく、85質量部以上含むことがさらに好ましい。
【0046】
本発明に用いるサイジング剤として非水溶性化合物(B)を含む場合、サイジング剤100質量部に対して非水溶性化合物(B)を30質量部以上含むことが好ましく、70質量部以上含むことがより好ましく、85質量部以上含むことがさらに好ましい。
【0047】
また本発明におけるサイジング剤塗布炭素繊維束は、その繊維束断面の扁平率を10以上150以下、より好ましくは40以上150以下、さらに好ましくは90を超え150以下となるように拡幅しその状態を維持することが重要である。ここで扁平率とは繊維束の束幅(D)と厚み(t)の比、D/tである。扁平率が10以上になると加熱したローラーと炭素繊維束を均一に接触させることができる。また、扁平率が90を超えると本発明における毛羽抑制効果がさらに高まる。扁平率が150以下であると繊維束内の繊維の厚み斑を抑制することができ、該サイジング剤塗布炭素繊維束をプリプレグ化および製織等するなどの高次加工をする際に好ましく、炭素繊維強化複合材料とした際にも繊維含有率の斑を抑制することができ、炭素繊維強化複合材料の強度が向上する。
【0048】
なお、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束断面の扁平率は以下の手順により算出する。該炭素繊維束の任意の3点について、繊維方向に直交するように繊維束幅を計測し、3点におけるその長さの平均を該繊維束の束幅(D)とする。また、繊維束の厚みは次式により算出する。
【0049】
繊維束の厚み(t)[m] =(繊維束の1m当たり質量[g])/{(繊維束の比重[g/m3])×(束幅(D)[m])}
以上により求めた束幅と厚みの比、D/tを該繊維束の扁平率とする。
【0050】
さらに本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、その繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分した際に、両端部の各々における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比の平均値と、中央部における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比から算出される両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.05以上1.5以下である。ここで、両端部/中央部のサイジング剤付着量比は1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。
【0051】
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、その繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で9等分した際に、分割された最も端部の炭素繊維束と、幅方向の左右端からいずれも5番目の中央部にある分割された炭素繊維束に対するサイジング剤の質量の比から算出される両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.01以上2以下であることが好ましい。炭素繊維束が工程中のローラー等を通過する際、該ローラー等の工程部品との擦過の影響を最も受けるのは炭素繊維束の両端部であり、サイジング剤を炭素繊維束の中央部より両端部にも多く付与することで毛羽の発生を抑制することができる。
【0052】
ここで、繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分した際の両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.05以上であると、この擦過毛羽の抑制効果が十分に発現する。また同比率が1.5以下であると、該繊維束を用いて炭素繊維強化複合材料とした際に繊維束内のサイジング剤の付着斑によって生じるマトリックス樹脂との接着性の斑を抑制させることができ、炭素繊維強化複合材料の強度が向上する。
【0053】
本発明における非水溶性化合物(B)を含むサイジング剤を塗布した場合、サイジング剤付着量を減らすことができるため炭素繊維束に柔軟性を与えることも可能となる。
【0054】
本発明における非水溶性化合物(B)を含むサイジング剤が塗布された炭素繊維束は、そのドレープ値が100mm以上200mm以下であることが好ましい。本発明において、ドレープ値は次の方法により求める。サイジング剤付着炭素繊維束を100cm以上の長さに切り、地面と平行なバーに炭素繊維束の上端面をテープで貼り付け、糸の上端から撚りを排除し、糸の下端に18g±1gの重りをぶら下げ、30分間以上放置する。重りを除去し、糸束の撚りを解除した状態で、下から長さ30cmに切取ったサイジング付着炭素繊維束を高さ25cm以上の天井部が水平な台上に置き、炭素繊維束の先端から25cmの部分を空中に水平に突き出した状態で支える。支えを取り除いた1秒経過後の糸束先端部の測定台からの距離を読取り、この値をドレープ値(mm)とする。ここで、サイジング剤塗布炭素繊維束のドレープ値は、下限としては100mm以上が好ましく、さらに好ましくは120mm以上である。また、サイジング剤塗布炭素繊維のドレープ値は、上限としては200mm以下が好ましく、より好ましくは180mm以下、さらに好ましくは160mm以下である。ドレープ値が100mm未満であると、炭素繊維束が柔らかいため、一方向に引きそろえた時の糸幅にバラつきが生じ、炭素繊維強化複合材料の性能が十分ではない場合がある。また、ドレープ値が200mmよりも大きいと、炭素繊維束が剛直になり、直進性を保とうとするため、紙管に巻取り保管する際に安定した形状を保つことができない場合がある。
【0055】
本発明に用いるサイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)を含む場合、炭素繊維束全体に対するサイジング剤の平均付着量は、炭素繊維束100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3質量部の範囲である。サイジング剤の平均付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維束をプリプレグ化および製織等する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、該炭素繊維束を使用したプリプレグなどの品位が優れる。一方、サイジング剤の平均付着量が10質量部以下であると、炭素繊維束周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維束内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤成分の付着量が適正範囲で付着するように、サイジング剤溶液濃度・温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましく、サイジング剤溶液の濃度としては、サイジング剤成分が0.1質量%以上20質量%以下の溶液を用いることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明に用いるサイジング剤として非水溶性化合物(B)を含む場合、本発明において、炭素繊維束全体に対するサイジング剤の平均付着量は、0.2質量部以上1.5質量部未満の範囲であることが好ましい。サイジング剤の平均付着量の下限としては0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.4質量部以上である。サイジング剤の平均付着量の上限としては1.5質量部未満が好ましく、より好ましくは1.0質量部以下である。サイジング剤の平均付着量が0.2質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維束をプリプレグ化および製織等する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、該炭素繊維束を使用したプリプレグなどの品位が優れる。一方、サイジング剤の平均付着量が1.5質量部未満であると、炭素繊維束周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維束内部に含浸され、得られる複合材料におけるボイド生成が抑えられるため、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。また、柔軟性を付与することができる。
【0057】
本発明で用いられる炭素繊維として、例えば、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられるが、特に比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の炭素繊維強化複合材料が得られるポリアクリロニトリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。そのストランド強度は、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは5GPa以上であり、さらに好ましくは5.5GPa以上である。また、本発明で用いられる炭素繊維のストランド弾性率は、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは250GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。さらに、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるという観点から、細繊度の炭素繊維が好ましく用いられる。具体的には、炭素繊維の単繊維径が、7.5μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。単繊維径の下限は特にないが、4.5μm以下では工程における単繊維切断が起きやすく生産性が低下する場合がある。
【0058】
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とする。
【0059】
本発明に用いられる炭素繊維束の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維束のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維に上記のサイジング剤を塗布することが好ましい。
【0060】
ここで、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法について説明する。
【0061】
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。
【0062】
湿式紡糸方法において、紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
【0063】
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中に吐出して凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理と炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1300〜3000℃である。
【0064】
炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が表面に導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
【0065】
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
【0066】
本発明において、サイジング剤成分と炭素繊維表面の酸素含有官能基との共有結合形成が促進され、接着性がさらに向上するという観点から、炭素繊維をアルカリ性電解液で電解処理した後、または酸性水溶液中で電解処理し続いてアルカリ性水溶液で洗浄した後、サイジング剤を塗布することが好ましい。電解処理した場合、炭素繊維表面において過剰に酸化された部分が脆弱層となって界面に存在し、複合材料にした場合の破壊の起点となる場合があるため、過剰に酸化された部分をアルカリ性水溶液で溶解除去することにより共有結合形成が促進されるものと考えられる。
【0067】
本発明において、洗浄に用いられるアルカリ性水溶液のpHは、7〜14の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜14の範囲内である。アルカリ性水溶液としては、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。炭素繊維をアルカリ性水溶液で洗浄する方法としては、例えば、ディップ法とスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。
【0068】
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0069】
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0070】
本発明において、液相電解酸化における電流密度は電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
【0071】
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維束に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
【0072】
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.07〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.10〜0.30の範囲内ものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.5以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
【0073】
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、溶剤で炭素繊維束表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出できる。
【0074】
本発明において、炭素繊維束を電解処理またはアルカリ性水溶液で洗浄した後、水洗および乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。 一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は110℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
【0075】
以上に示したように、本発明で好ましく用いられる炭素繊維束を得ることができる。
【0076】
次に、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束の製造方法について述べる。
【0077】
まず、本発明で用いるサイジング剤の炭素繊維束への塗布(付与)手段について述べる。本発明において、サイジング剤は溶媒で希釈し、均一な溶液として用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドなどが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、水が好ましく用いられる。この際、サイジング剤成分として非水溶性化合物(B)を用いる場合、乳化または自己乳化により、水に分散させて溶液として用いることが好ましい。
【0078】
塗布方法としては、本発明に用いられるサイジング剤成分、およびその他のサイジング剤成分を同時に溶解させたサイジング剤溶液を用いて1回で塗布する方法が好ましく用いられるが、各成分を任意に選択し個別に溶解させたサイジング剤溶液を用いて複数回にわたり塗布する方法を用いてもよい。
【0079】
塗布手段としては、例えば、ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤溶液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング剤溶液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがあるが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束を製造する上では、ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維を浸漬する方法が好ましく用いられる。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
【0080】
本発明において、炭素繊維束全体に対するサイジング剤の平均付着量が適正範囲で付着するように、サイジング剤溶液濃度・温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましく、サイジング剤溶液の濃度としては、サイジング剤成分が0.1質量%以上20質量%以下の溶液を用いることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
本発明において、サイジング剤溶液を塗布した後、加熱したローラーに炭素繊維束を接触させることによりサイジング剤塗布炭素繊維束を得ることが好ましい。 加熱したローラーに導入された炭素繊維束は張力によって加熱したローラーに押し付けられ、急速に乾燥されるため加熱したローラーで拡幅された炭素繊維束の偏平な形態がサイジング剤によって固定されるとともに、炭素繊維束の両端にサイジング剤溜りが生じるため、繊維束の幅方向の両端部に中央部よりサイジング剤を多く付着させることができる。
【0082】
加熱したローラーの温度は前記のサイジング剤溶液に用いた溶媒の沸点より10℃以上高いことが好ましい。沸点より10℃以上高いことで溶媒成分が急速に蒸発し、炭素繊維束の幅方向の両端部に中央部よりサイジング剤を多く付着させることができる。また、加熱したローラーの温度は前記サイジング剤溶液に用いた溶媒の沸点+80℃以下に抑えることが好ましく、+70℃以下に抑えることがより好ましい。加熱したローラーの温度が、前記サイジング剤溶液に用いた溶媒の沸点+80℃以下であると炭素繊維束が穏やかに加熱されることで炭素繊維自体の傷みを抑制することができ、本発明における毛羽抑制効果を十分に発揮させることができる。
【0083】
本発明において、加熱したローラーに炭素繊維束を接触させる時間は、60秒以下が好ましく、30秒以下がより好ましく、15秒以下がさらに好ましい。加熱したローラーへの接触時間が60秒以下であれば、塗布したサイジング剤成分の熱劣化を抑制することができ、また該接触時間が短いほど、加熱したローラーへのサイジング剤由来の汚れの固着を抑制することができる。また加熱したローラーへの接触時間が1秒以上であれば、サイジング剤溶液の溶媒を十分に除去することができ、該炭素繊維束の幅方向の両端部に付着するサイジング剤量が多くなり、本発明における毛羽抑制効果が高まる。
【0084】
また、炭素繊維束の扁平率は、糸条張力、ガイドローラーおよび加熱したローラーのローラー間距離やローラー径などに支配され、所望の炭素繊維束の扁平度となるよう、繊維束の張力を適宜調整し拡幅させることが望ましい。なお、加熱したローラー上および/または加熱したローラーに接触するより前の工程にて繊維束を拡幅させることが好ましいが、加熱したローラーに接触した後に拡幅することもできる。
【0085】
サイジング剤溶液に炭素繊維束を含浸させた後、炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出す過程において、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が20度以上70度以下となるよう炭素繊維束を引き出すことが好ましい。サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角の角度が70度以下になると、炭素繊維束が液面より持ち出すサイジング剤溶液の液量が十分多くなり、加熱したローラーに接触させることで炭素繊維束の幅方向の両端部に中央部よりサイジング剤を多く付着させることができ、特に優れた毛羽抑制効果が得られる。また、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が20度以上であると、取り出し後の加熱したローラーを、サイジング剤溶液を含む槽の近傍に配置させ工程長を短くすることができ、生産性の観点で特に優れる。
【0086】
また、湿潤状態の炭素繊維束が走行する区域においては、サイジング剤溶液の表面張力による炭素繊維束の集束が生じるとともに、炭素繊維束に付着しているサイジング剤溶液の溶媒が蒸発する。そのため、炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出した後より加熱したローラーに接触するまでの時間を短くすることが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束を製造する上で好ましい。本発明に用いるサイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)を用いる場合、炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出した後加熱したローラーに接触させるまでの時間は60秒以下が好ましく、30秒以下がさらに好ましい。炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出した後加熱したローラーに接触させるまでの時間が60秒以下であれば、湿潤状態の炭素繊維束から溶媒が蒸発することを抑制でき、加熱したローラーに接触させた際に炭素繊維束の幅方向の両端部に中央部よりサイジング剤を多く付着させる効果が高まり、特に優れた毛羽抑制効果が得られる。
【0087】
また、本発明に用いるサイジング剤として非水溶性化合物(B)を用いる場合、本発明において、サイジング剤溶液に含浸させた後、加熱したローラーに接触するまでの時間が3秒以上30秒以下であることが好ましい。加熱したローラーに接触するまでの時間が3秒以上あると、サイジング剤溶液が炭素繊維束内部まで十分含浸されるため好ましい。炭素繊維束をサイジング剤溶液から取り出した後加熱したローラーに接触させるまでの時間が30秒以下であれば、湿潤状態の炭素繊維束から溶媒が蒸発することを抑制でき、加熱したローラーに接触させた際に炭素繊維束の幅方向の両端部に中央部よりサイジング剤を多く付着させる効果が高まり、特に優れた毛羽抑制効果が得られるため好ましい。
【0088】
また、サイジング剤として非水溶性化合物(B)を用いる場合、加熱したローラーを通過させた後、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束にさらに熱処理を加えても良い。該熱処理には、接触方式、非接触方式のいずれの加熱方式を採用してもよい。該熱処理を行うことで、サイジング剤成分と炭素繊維表面の官能基との間の相互作用をさらに高めることができる。熱処理条件としては、160〜260℃の温度範囲で30秒以上600秒以下が好ましい。160℃以上または30秒以上の場合、炭素繊維束のマトリックス樹脂との接着性がさらに高まる。260℃以下または600秒以下の場合、サイジング剤成分の熱劣化を抑制することができる。サイジング剤として(A)を用いる場合にも、加熱ローラーを通過させた後、160〜260℃の温度範囲で30秒以上600秒以下、熱処理を行うことが好ましい。また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。
【0089】
さらに本発明で用いられる炭素繊維束へのサイジング剤の別の付与手段として、電解液の中にサイジング剤成分を添加しておき、電解処理と同時に炭素繊維表面へ付与する方法、電解処理後の洗浄工程でサイジング剤成分を添加しておき、水洗と同時に炭素繊維束へ付与することもできる。これらの場合、サイジング剤の平均付着量は、電解処理液の濃度、温度および糸条張力などで制御することができる。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
【0090】
次に、本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明する。
【0091】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束はマトリックス樹脂と組み合わせてプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料として用いることができる。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束を用いることで、工程を通過する際の擦過による毛羽の発生を抑制できることから品位に優れたプリプレグが得られるとともに、工程を通過する際の炭素繊維の損傷を抑制できることから強度に優れた炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0092】
本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂の両方を用いることができる。まず、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明する。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等の樹脂およびこれらの変性体、これらを2種類以上ブレンドした樹脂が挙げられる。なかでも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0093】
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物等のなかから1種類以上を選択して用いることができる。
【0094】
また、硬化剤としては特に限定はされないが、芳香族アミン硬化剤、ジシアンアミドもしくはその誘導体などが挙げられる。また、脂環式アミン等のアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミドアミノ、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族アミン硬化剤に併用して用いることもできる。
【0095】
なかでも多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したエポキシ樹脂を使用することが好ましい。一般に多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したマトリックス樹脂は、架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができる。
【0096】
多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールなどを好ましく使用することができる。多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂は耐熱性を高める効果があり、その割合は、全エポキシ樹脂100質量%中、30〜100質量%含まれていることが好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂の割合が30質量%以上の場合は、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上し、耐熱性に優れる。
【0097】
芳香族ジアミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、DMP−30のトリ−2−エチルヘキシル酸塩等、およびそれらの異性体、誘導体を好ましく使用することができる。これらは、単独で用いても、あるいは2種以上の混合物を用いてもよい。
【0098】
上記の芳香族ジアミン硬化剤は、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50〜120質量%含まれていることが好ましく、60〜120質量%がより好ましく、さらに好ましくは70〜90質量%である。芳香族アミン硬化剤が、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50質量%以上で得られる樹脂硬化物の耐熱性が良好になる。また、芳香族アミン硬化剤が120質量%以下の場合は、得られる樹脂硬化物の靱性が向上する。
【0099】
また、エポキシ樹脂の硬化を促進する目的に硬化促進剤を配合することもできる。硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩やルイス酸、ブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。
【0100】
本発明の炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂には、得られる樹脂硬化物の靭性等の物性を向上させるため、熱可塑性樹脂を配合することができる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、主鎖に炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合(ポリエーテルイミド等)、エステル結合、エーテル結合、シロキサン結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。
【0101】
さらに、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束と組み合わせて用いるマトリックス樹脂を改質するために、マトリックス樹脂に用いられる熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂、エラストマー、フィラー、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子およびその他の添加剤を配合することもできる。
【0102】
上記の熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。なかでも、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与えることができることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。
【0103】
この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。
【0104】
上記のゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
【0105】
本発明のプリプレグは、上記のマトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法と、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等により作製することができる。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい方法である。
【0106】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、得られたプリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法等により作製することができる。ここで熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および、内圧成形法および真空圧成形法等が採用される。このようないずれの成形法においても、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束により成形工程における毛羽発生を抑制でき、強度と品位に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0107】
次に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合の炭素繊維強化複合材料について説明する。
【0108】
マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維強化複合材料は、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形などの成形方法によって成形され、かかる成形に用いられる成形材料の形態としては、ウェブ状、不織布状、またはフェルトもしくはマット等のシート状の生地、ペレットおよびプリプレグ等を使用することができる。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束はこれら成形材料に該炭素繊維束を加工する際および/またはこれら成形方法により炭素繊維強化複合材料を成形する際に、取り扱い性に優れかつ成形工程中における毛羽発生や糸切れを抑制でき、品位に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【0109】
特に生産性の観点から射出成形が好ましく用いられ、成形材料の形態としては、ペレットが好ましい。前記のペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂とチョップド繊維もしくは連続繊維を押出機中で混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。前述のペレットは、ペレット長手方向の長さより、ペレット中の繊維長さの方が短くなるが、ペレットには、長繊維ペレットも含まれる。長繊維ペレットとは、特公昭63−37694号公報に記載されているような、繊維がペレットの長手方向に、ほぼ平行に配列し、ペレット中に含まれる本発明の炭素繊維の50%以上の繊維長さが、ペレット長さと同一もしくはそれ以上であるものをさす。ほぼ平行に配列とは、炭素繊維の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を意味し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。この場合、熱可塑性樹脂は繊維束中に含浸されていても、被覆されていてもよい。特に熱可塑性樹脂が被覆された長繊維ペレットの場合、繊維束には被覆されたものと同じか、あるいは被覆された樹脂よりも低粘度(もしくは低分子量)の樹脂が、予め含浸されていてもよい。
【0110】
炭素繊維強化複合材料が、優れた導電性と力学的特性(特に、強度や耐衝撃性)を兼ね備えるためには、成形品中の繊維長さを長くすることが有効であるが、そのためには、前述のペレットの中でも長繊維ペレットを用いて成形することが好ましい。
【0111】
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束と熱硬化性樹脂および/または熱可塑性樹脂からなる炭素繊維強化複合材料の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェアリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維束について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0113】
各実施例、および各比較例でサイジング剤成分として用いた材料と成分は以下の通りである。
【0114】
(I)“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製:ソルビトールポリグリシジルエーテル、水溶性)
(II)“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製:ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、水溶性)
(III)“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、非水溶性、ガラス転移温度−15℃)
(IV)SBラテックス0573(JSR(株)製:非水溶性のスチレンブタジエンラテックスと乳化剤を含む水溶性エマルジョン、非水溶性成分のガラス転移温度−7℃)。
【0115】
(V)“バイボンド(登録商標)”PU407(住化バイエルウレタン(株)製:非水溶性のポリウレタンと乳化剤を含む水溶性エマルジョン、非水溶性成分のガラス転移温度−46℃)。
【0116】
(VI)“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、非水溶性、ガラス転移温度−15℃)を乳化剤により乳化した水溶性エマルジョン。
【0117】
(VII)SBラテックス0640(JSR(株)製:非水溶性のスチレンブタジエンラテックスと乳化剤を含む水溶性エマルジョン、非水溶性成分のガラス転移温度105℃)。
【0118】
(VIII)ポリエチレングリコール(和光純薬工業(株)製:水溶性、平均分子量400)。
【0119】
各実施例、および各比較例で実施したサイジング剤塗布炭素繊維束の評価の方法は以下の通りである。
【0120】
<界面剪断強度(IFSS)の測定>
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順でおこなった。
【0121】
(イ)樹脂の調製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱をおこなった後、両者をよく混合し80℃の温度で約15分間真空脱泡をおこなった。
【0122】
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維単糸およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥をおこなった。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmである。
【0123】
(ハ)樹脂注型・硬化
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調製した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温させた。その後、脱型して試験片を得た。
【0124】
(ニ)界面剪断強度(IFSS)測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算し、さらに平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
本発明において、25MPa以上が好ましい範囲であり、25MPa以上を○、25MPa未満を×とした。
【0125】
<サイジング剤付着量の測定>
約2gのサイジング剤塗布炭素繊維束を秤量(W1)(小数点第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させた。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(小数点第4位まで読み取り)して、次式よりサイジング剤付着量を求めた。
サイジング付着量(質量%)=[W1(g)−W2(g)]/[W1(g)]×100
このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。本実施例では、測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の質量部とした。さらに得られた炭素繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分し、同様の方法により、中央部と各々の両端部における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量分率を求めた。ここから、左右の両端部について質量分率の単純平均値をとり、中央部の質量分率で割った値を両端部/中央部のサイジング剤付着量比とした。
【0126】
<耐擦過性の評価>
表面が平滑な直径10mmのステンレス棒4本を炭素繊維束が60°の角度で接触しながら通過するようにジグザグに配置した。この装置に得られたサイジング剤塗布炭素繊維束を初期張力3000gを付加しながら3m/分の速度で通過させ、炭素繊維束3mについて外観を炭素繊維束に対して直角方向から目視により評価し、毛羽が認められなかったものを◎、総フィラメント数12,000本の炭素繊維束1mあたり5個未満の毛羽が認められたものを○、5個以上10個未満の毛羽が認められたものを△、10個以上の多量の毛羽が認められたものを×で判定した。
【0127】
<ドレープ値の評価>
サイジング剤付着炭素繊維束を100cm以上の長さに切り、地面と平行なバーに炭素繊維束の上端面をテープで貼り付け、糸の上端から撚りを排除し、糸の下端に18g±1gの重りをぶら下げ、30分間以上放置した。重りを除去し、糸束の撚りを解除した状態で、下から長さ30cmに切取ったサイジング付着炭素繊維束を高さ25cm以上の天井部が水平な台上に置き、炭素繊維束の先端から25cmの部分を空中に水平に突き出した状態で支えた。支えを取り除いた1秒経過後の糸束先端部の測定台からの距離を読取り、この値をドレープ値(mm)とした。なお、測定温度は23±5℃である。
【0128】
(実施例1)
本実施例は、次の第Iの工程および第IIの工程からなる。
【0129】
第Iの工程:炭素繊維束を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、比重1.8、ストランド引張強度6.2GPa、ストランド引張弾性率300GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/リットルの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束を得た。これを炭素繊維束(A)とする。
【0130】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(I)を用い、溶媒に水を用いて(I)を完全に溶解させサイジング剤溶液を調合した。この水の沸点は100℃であった。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、140℃に加熱したローラーに10秒間接触させた。この際、該炭素繊維束の扁平率が110となるように炭素繊維束の張力を調整した。その後さらに210℃の温度で180秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。炭素繊維束に対するサイジング剤の平均付着量は上述の方法により測定し、表面処理された炭素繊維束100質量部に対して1質量部となるように調整した。
【0131】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、上述の方法により界面剪断強度を測定した結果、該サイジング剤塗布炭素繊維束の接着性が十分に高いことがわかった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.2であり、上述の方法により耐擦過性を評価したところ、毛羽が認められず非常に良好な耐擦過性を示した。
【0132】
【表1】
【0133】
(実施例2、3)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0134】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
加熱したローラーの温度を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0135】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、かつ非常に良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0136】
(実施例4)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0137】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が90度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0138】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、かつ良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0139】
(実施例5)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0140】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出した後、加熱したローラーに接触するまでガイドローラーを介して炭素繊維束を90秒間走行させた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0141】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0142】
(実施例6)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0143】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を5秒に変更した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0144】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、非常に良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0145】
(実施例7)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0146】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を50秒に変更した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0147】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、非常に良好な耐擦過性を示した。しかしながら、サイジング剤由来の汚れが加熱したロールに多く固着する傾向がみられた。結果を表1に示す。
【0148】
(実施例8)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0149】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(I)を用い、溶媒にジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製:一級)を用いて(I)を完全に溶解させサイジング剤溶液を調合した。このジメチルホルムアミドの沸点は153℃であった。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、190℃に加熱したローラーに10秒間接触させた。その後、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0150】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、非常に良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0151】
(実施例9)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0152】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング塗布炭素繊維束の扁平率が50となるように炭素繊維束の張力を調整した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0153】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0154】
(実施例10)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、比重1.8、ストランド引張強度4.9GPa、ストランド引張弾性率230GPaの炭素繊維束を得た。次いで、その炭素繊維束を、濃度0.1モル/リットルの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維束1g当たり100クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維束を得た。これを炭素繊維束(B)とする。
【0155】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
実施例1と同様にした。
【0156】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0157】
(実施例11)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0158】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(II)を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0159】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は接着性が十分に高く、非常に良好な耐擦過性を示した。結果を表1に示す。
【0160】
(実施例12)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0161】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(III)を用い、溶媒にジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製:一級)を用いて(III)を完全に溶解させサイジング剤溶液を調合した。このジメチルホルムアミドの沸点は153℃であった。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、190℃に加熱したローラーに10秒間接触させた。その後、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0162】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、上述の方法で界面剪断強度を測定したところ、接着性が不十分であることが分かった。一方で、上述の方法でドレープ値を評価したところ、非常に良好な形態安定性を示した。結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
(実施例13)
第Iの工程:炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0165】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(IV)を用い、溶媒に水を用いて表3に示す濃度でサイジング剤溶液を調合した。この水の沸点は100℃であった。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、140℃に加熱したローラーに10秒間接触させた。その後さらに210℃の温度で180秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。炭素繊維束に対するサイジング剤の平均付着量は上述の方法により測定し、表面処理された炭素繊維束100質量部に対して1質量部となるように調整した。
【0166】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.2であり、上述の方法により耐擦過性を評価したところ、毛羽が認められず非常に良好な耐擦過性を示した。また、上述の方法でドレープ値を評価したところ、非常に良好な形態安定性を示した。
【0167】
【表3】
【0168】
(実施例14)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0169】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(V)を用いた以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0170】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0171】
(実施例15)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0172】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(VI)を用いた以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0173】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0174】
(実施例16,17)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0175】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
加熱したローラーの温度を表3に記載の通りに変更した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0176】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0177】
(実施例18)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0178】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が90度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0179】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0180】
(実施例19)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0181】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出した後、加熱したローラーに接触するまでガイドローラーを介して炭素繊維束を60秒間走行させた以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0182】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表2に示す。
【0183】
(実施例20)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0184】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を5秒に変更した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0185】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は非常に良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0186】
(実施例21)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0187】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を30秒に変更した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0188】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0189】
(実施例22)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0190】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(IV)を使用し、表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、140℃に加熱したローラーに10秒間接触させ、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0191】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は耐擦過性を示し、かつ形態安定性を示した。結果を表3に示す。
【0192】
(実施例23,24)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0193】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
ローラーに接触した後の乾燥温度、乾燥時間を表3の通りに熱処理をした以外は実施例13と同様にしてサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0194】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は耐擦過性を示し、かつ形態安定性も高かった。結果を表3に示す。
【0195】
(実施例25〜27)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0196】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束に対するサイジング剤の平均付着量を、表3の通りに調整した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0197】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は耐擦過性を示し、かつ形態安定性を示した。結果を表3に示す。

(比較例1)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0198】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
実施例1と同様にサイジング剤溶液を調合した。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、80℃に加熱したローラーに3秒間接触させた。その後さらに210℃の温度で180秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。炭素繊維束に対するサイジング剤の平均付着量は上述の方法により測定し、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1質量部となるように調整した。
【0199】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.0であった。また、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束の接着性は十分に高かったが、多数の毛羽が認められ、耐擦過性に乏しいことが分かった。結果を表4に示す。
【0200】
【表4】
【0201】
(比較例2)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0202】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を0.5秒に変更した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0203】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、中央部と両端部の炭素繊維束に対するサイジング剤の質量分率の比を求めたところ1.0であった。また、得られたサイジング剤塗布炭素繊維束の接着性は十分に高かったが、多数の毛羽が認められ、耐擦過性に乏しいことが分かった。結果を表4に示す。
【0204】
(比較例3)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0205】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
加熱したローラーの温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0206】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束について、上述の方法により耐擦過性を評価したところ、無数の毛羽が認められ耐擦過性が著しく低下することが分かった。また、炭素繊維束の毛羽が非常に多く炭素繊維束を中央部と両端部とに分割することが困難であったため、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めることができなかった。結果を表4に示す。
【0207】
(比較例4)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0208】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
実施例13と同様にサイジング剤溶液を調合した。このサイジング剤溶液を表面処理された炭素繊維束に浸漬した後、サイジング剤溶液の液面と炭素繊維束の成す角が60度となるようサイジング剤溶液から炭素繊維束を引き出し、ガイドローラーを介して炭素繊維束を走行させ10秒間経過した後、80℃に加熱したローラーに5秒間接触させサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。炭素繊維束に対するサイジング剤の平均付着量は上述の方法により測定し、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1質量部となるように調整した。
【0209】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は収束し、扁平率が低かった。両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.0であった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は多数の毛羽が認められ、耐擦過性が乏しいことがわかった。また、ドレープ値が低く形態安定性に乏しいことがわかった。結果を表5に示す。
【0210】
【表5】
【0211】
(比較例5)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0212】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触させる時間を0.5秒に変更した以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0213】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は収束し、扁平率が低かった。両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.0であった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は多数の毛羽が認められ、耐擦過性が乏しいことがわかった。また、ドレープ値が低く形態安定性に乏しいことがわかった。結果を表5に示す。
【0214】
(比較例6)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0215】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
実施例13の方法から加熱したローラーの温度を200℃に変更したところ、加熱したローラー上に固着した汚れにより、炭素繊維束が融着してしまい良好な炭素繊維束を得ることができなかった。
【0216】
(比較例7)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0217】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
炭素繊維束を加熱したローラーに接触しない以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0218】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は収束した円柱状の束になっており、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.0であった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は多数の毛羽が認められ、耐擦過性が乏しいことがわかった。また、ドレープ値が低く形態安定性に乏しいことがわかった。結果を表5に示す。
【0219】
(比較例8)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0220】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(VII)を用いた以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0221】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束はについて、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.2であった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は良好な耐擦過性が得られたが、ドレープ値が高く、加工性に乏しいことがわかった。結果を表5に示す。
【0222】
(比較例9)
第Iの工程:原料となる炭素繊維束を製造する工程
実施例1と同様にした。
【0223】
第IIの工程:サイジング剤塗布炭素繊維束を作製する工程および評価
サイジング剤成分として(VIII)を用いた以外は、実施例13と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維束を得た。
【0224】
得られたサイジング剤塗布炭素繊維束はについて、両端部/中央部のサイジング剤付着量比を求めたところ1.1であった。得られたサイジング剤塗布炭素繊維束は多数の毛羽が認められ、耐擦過性が乏しいことがわかった。また、ドレープ値が低く形態安定性に乏しいことがわかった。結果を表5に示す。
【要約】
炭素繊維強化複合材料とした際に力学特性に優れ、かつ優れた取扱性を有するサイジング剤塗布炭素繊維束、その製造方法、それを用いたプリプレグおよび力学特性に優れた炭素繊維強化複合材料を提供する。
分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物またはガラス転移温度が−100℃以上50℃以下の非水溶性化合物を含むサイジング剤が塗布された炭素繊維束であって、炭素繊維束断面の扁平率(幅/厚さ)が10以上150以下であり、炭素繊維束を繊維方向に沿って幅方向に質量で3等分した際に、中央部と両端部における炭素繊維束の質量に対するサイジング剤の質量の比から算出される両端部/中央部のサイジング剤付着量比が1.05以上1.5以下であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維束である。