特許第5967336号(P5967336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967336
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20160728BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20160728BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20160728BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-513729(P2016-513729)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2015060871
(87)【国際公開番号】WO2015159762
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-84477(P2014-84477)
(32)【優先日】2014年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】家安 真広
(72)【発明者】
【氏名】前田 将宏
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−114687(JP,A)
【文献】 特開2009−149170(JP,A)
【文献】 特開2009−143490(JP,A)
【文献】 特開2009−286350(JP,A)
【文献】 特開2008−087727(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/075775(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵トルク及び車速に基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいて操舵系をアシスト制御するモータを駆動制御すると共に、前記電流指令値を補正する収れん性制御機能を有している電動パワーステアリング装置において、
前記操舵トルク及びモータ角速度に基づいてアナログ系の切増し/切戻し状態インデックスを演算する切増し/切戻し状態インデックス演算部と、
前記切増し/切戻し状態インデックスに基づいて、可変なノミナル値を基準にしてアナログ系の切増し/切戻し状態レシオを演算する切増し/切戻し状態レシオ演算部と、
前記操舵トルク、前記車速及び前記モータ角速度に基づいて切増しゲイン及び切戻しゲインを演算する感応ゲイン部と、前記切増しゲイン及び前記切戻しゲインに対して前記切増し/切戻し状態レシオでゲイン補正するゲイン補正部と、ヨーレート推定値の絶対値及び符号反転信号に基づいて前記ゲイン補正部からのゲイン信号を出力処理して収れん性制御値を出力する出力処理部とで構成される収れん性制御部と、
を具備し、
前記切増し/切戻し状態レシオ演算部の特性が、
前記ノミナル値が0.0〜1.0で可変であり、前記切増し/切戻し状態インデックスが正の領域を切増し状態とすると共に、前記切増し/切戻し状態レシオを前記ノミナル値より小さくし、前記切増し/切戻し状態インデックスが負の領域を切戻し状態とすると共に、前記切増し/切戻し状態レシオを前記ノミナル値より大きくし、前記切増し/切戻し状態レシオが連続的にかつ非線形に変化するようになっている
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記切増し/切戻し状態インデックス演算部が、
前記操舵トルクを入力するLPFと、前記モータ角速度に基づいて±1.0の範囲の角速度インデックスを演算する角速度インデックス演算部と、前記LPFの出力及び前記角速度インデックスを乗算して前記切増し/切戻し状態インデックスを出力する第1乗算部とで構成されている請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記角速度インデックス演算部が、前記モータ角速度の絶対値が所定値以上で一定値であり、前記所定値より小さいときに線形若しくは非線形に変化する特性である請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記ゲイン補正部が、
前記切戻しゲイン及び前記切増し/切戻し状態レシオを乗算する第2乗算部と、固定値から前記切増し/切戻し状態レシオを減算する減算部と、前記減算部からの減算結果及び前記切増しゲインを乗算する第3乗算部と、前記第2乗算部及び前記第3乗算部の乗算結果を加算する加算部とで構成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記出力処理部が、
前記ヨーレート推定値の絶対値を求める絶対値部と、前記ヨーレート推定値の符号を反転する符号反転部と、前記絶対値及び前記加算部の加算結果を乗算する第4乗算部と、前記符号反転部の出力及び前記第4乗算部の乗算結果を乗算する第5乗算部とで構成され、
前記第5乗算部が前記収れん性制御値を出力する請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特に運転者の違和感を抑制するために切増し/切戻しの制御上の判定をアナログ系にすると共に、収れん性制御を改善することにより、より快適な操舵フィーリングを実現できる高性能な電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置(EPS)は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)100には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット100は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、演算された電流指令値に補償等を施した電流制御値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット100は主としてCPU(MPUやMCUを含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば図2に示されるような構成となっている。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット100の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTは電流指令値演算部101に入力されると共に、操舵状態判定部120にも入力され、車速センサ12からの車速Vは電流指令値演算部101に入力されると共に、車速感応ゲイン部123にも入力される。電流指令値演算部101で操舵トルクTと車速Vとに基づいて演算された電流指令値Irefは、減算部102に加算入力される。
【0006】
セルフアライニングトルク(SAT)部140で検出若しくは推定されたセルフアライニングトルクSAT1は、乗算部124に入力される。車速感応ゲイン部123では、車速Vに基づいて車速感応ゲインGが設定される。車速感応ゲイン部123からの車速感応ゲインGも乗算部124に入力される。乗算部124の出力SAT1・Gが乗算部125に入力される。
【0007】
一方、操舵状態判定部120には、測定若しくは推定されたモータ角速度ωが入力される。操舵状態判定部120では、操舵トルクTとモータ角速度ωとに基づいて、操舵状態(ステアリング切増し操舵、ステアリング切戻し操舵、又は保舵の何れか)を判定し、判定した結果として判定信号を操舵状態感応ゲイン部121に入力する。
【0008】
操舵状態の判定は、例えば図3に示すフローチャートに従って行われる。まず、モータ角速度ωが一定時間同じ値(又はある範囲の値)が継続したかどうかを判断し(ステップS100)、継続したと判断された場合に保舵と判定される(ステップS105)。一方、継続していないと判断された場合に操舵と判定され(ステップS101)、更に、操舵トルクTの符号とモータ角速度ωの符号が一致するかどうかを判断する(ステップS102)。操舵トルクTの符号とモータ角速度ωの符号が一致すると判断された場合に、ステアリング切増し操舵と判定する(ステップS104)。一方、操舵トルクTの符号とモータ角速度ωの符号が一致しないと判断された場合に、ステアリング切戻し操舵と判定する(ステップS103)。
【0009】
操舵状態感応ゲイン部121では、操舵状態判定部120からの判定信号に基づいて、操舵状態感応ゲインGを切り替える。つまり、操舵状態感応ゲイン部121から乗算部125に出力される操舵状態感応ゲインGは、操舵状態判定部120からの判定信号に従って切り替えられる。操舵状態感応ゲイン部121では、例えば切戻し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを負、切増し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0、保舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0とする「切戻し操舵時のみ操舵状態感応ゲインGを機能させる」パターン(A)、切戻し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0、切増し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを正、保舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0とする「切増し操舵時のみ操舵状態感応ゲインGを機能させる」パターン(B)、切戻し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0、切増し操舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを0、保舵と判定された場合の操舵状態感応ゲインGを正とする「保舵時のみ操舵状態感応ゲインGを機能させる」パターン(C)のような数パターンの組合せが可能である。これを纏めると、図4のようなパターンになる。
【0010】
乗算部125の出力SAT1・G・Gが乗算部131に入力される。また、ω感応ゲイン部130で設定されたω感応ゲインG(ω)も乗算部131に入力される。乗算部131の出力SAT1・G・G・G(ω)が乗算部133に入力される。操舵トルク感応ゲイン部132で設定された操舵トルク感応ゲインG(T)も乗算部133に入力される。乗算部133の出力SAT1・G・G・G(ω)・G(T)が乗算部135に入力される。操舵角感応ゲイン部134で設定された操舵角感応ゲインG(θ)も乗算部135に入力される。乗算部135の出力SAT1・G・G・G(ω)・G(T)・G(θ)であるSAT補償値SATcが減算部102に入力される。減算部102での減算結果(Iref−SATc)は、電流指令値Iref1として加算部103に入力され、特性を改善するための補償部110からの補償信号CMも加算部103に入力される。
【0011】
補償部110は慣性補償値111及び収れん性制御値112を加算部113で加算し、その加算結果を補償信号CMとして加算部103に入力する。加算部103での加算結果(Iref1+CM)は電流指令値Iref2として減算部104に入力され、PI制御部105、PWM制御部106及びインバータ107を経てモータ20が制御される。収れん性制御は、車両のヨーの収れん性を改善するためにハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるものである。例えば特開2000−95132に開示されているように、車両のヨーレートの変化率を検出し、その変化率に基づいてヨーレートにダンピングをかけることによって行う。
【0012】
このように、電動パワーステアリング装置では運転者がハンドルを切増ししたり、切戻ししたりすることで、車両の方向を変えるようになっている。しかしながら、切増し/切戻しの2値の状態しかなく、その際、2値が多様なチャタリングを発生させ、運転者に違和感(トルクリップル、振動、異音、引っ掛かりなど)を与えてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−286350号公報
【特許文献2】特開2008−087727号公報
【特許文献3】特許第4715446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
良好な操舵フィーリングを実現するための先行技術として、上述したような特許4715446号公報(特許文献3)に示されるものがある。特許文献3の電動パワーステアリング装置では、操舵状態(切増し操舵、切戻し操舵又は保舵)と、モータ角速度と、操舵角と、操舵トルクとに基づいて、セルフアライニングトルク(SAT)を補償するSAT補償値SATcを適切に設定している。操舵角感応ゲイン、操舵トルク感応ゲインを設けることにより、SATの小さいオンセンター時及び、SATの大きいオフセンター時に、それぞれの適切なSAT補償値設計を可能としている。また、特許文献3では、操舵状態(切増し操舵、切戻し操舵、保舵)を判定することにより、保舵時のSAT補償値設計を可能としている。
【0015】
しかしながら、特許文献3の装置での操舵状態の判定は、状態フラグのみであり、切増し/切戻し/保舵の3値のフラグであり、その際、3値が多様なチャタリングを発生させ、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。また、同様の操舵状態の判定を、収れん性制御においても使用している。収れん性制御では、ハンドル戻り量を制御するために、十分な制御量が必要となることがある。この操舵状態(切増し/切戻し)に応じたゲイン切り替えをしている収れん性制御においては、操舵状態判定のチャタリングは収れん性制御出力の急変を引き起こし、運転者に違和感を与えてしまう。
【0016】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、操舵状態である切増し/切戻しの判定の改善を行うと共に、収れん性制御機能の改善を行う操舵状態のきめ細かな制御によって、運転者の違和感を軽減した高性能な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、操舵トルク及び車速に基づいて電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいて操舵系をアシスト制御するモータを駆動制御すると共に、前記電流指令値を補正する収れん性制御機能を有している電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、前記操舵トルク及びモータ角速度に基づいてアナログ系の切増し/切戻し状態インデックスを演算する切増し/切戻し状態インデックス演算部と、前記切増し/切戻し状態インデックスに基づいて、可変なノミナル値を基準にしてアナログ系の切増し/切戻し状態レシオを演算する切増し/切戻し状態レシオ演算部と、前記操舵トルク、前記車速及び前記モータ角速度に基づいて切増しゲイン及び切戻しゲインを演算する感応ゲイン部と、前記切増しゲイン及び前記切戻しゲインに対して前記切増し/切戻し状態レシオでゲイン補正するゲイン補正部と、ヨーレート推定値の絶対値及び符号反転信号に基づいて前記ゲイン補正部からのゲイン信号を出力処理して収れん性制御値を出力する出力処理部とで構成される収れん性制御部とを具備し、前記切増し/切戻し状態レシオ演算部の特性が、前記ノミナル値が0.0〜1.0で可変であり、前記切増し/切戻し状態インデックスが正の領域を切増し状態とすると共に、前記切増し/切戻し状態レシオを前記ノミナル値より小さくし、前記切増し/切戻し状態インデックスが負の領域を切戻し状態とすると共に、前記切増し/切戻し状態レシオを前記ノミナル値より大きくし、前記切増し/切戻し状態レシオが連続的にかつ非線形に変化するようになっていることにより達成される。
【0018】
また、本発明の上記目的は、前記切増し/切戻し状態インデックス演算部が、前記操舵トルクを入力するLPFと、前記モータ角速度に基づいて±1.0の範囲の角速度インデックスを演算する角速度インデックス演算部と、前記LPFの出力及び前記角速度インデックスを乗算して前記切増し/切戻し状態インデックスを出力する第1乗算部とで構成されていることにより、或いは前記角速度インデックス演算部が、前記モータ角速度の絶対値が所定値以上で一定値であり、前記所定値より小さいときに線形若しくは非線形に変化する特性であることにより、或いは前記ゲイン補正部が、前記切戻しゲイン及び前記切増し/切戻し状態レシオを乗算する第2乗算部と、固定値から前記切増し/切戻し状態レシオを減算する減算部と、前記減算部からの減算結果及び前記切増しゲインを乗算する第3乗算部と、前記第2乗算部及び前記第3乗算部の乗算結果を加算する加算部とで構成されていることにより、或いは前記出力処理部が、前記ヨーレート推定値の絶対値を求める絶対値部と、前記ヨーレート推定値の符号を反転する符号反転部と、前記絶対値及び前記加算部の加算結果を乗算する第4乗算部と、前記符号反転部の出力及び前記第4乗算部の乗算結果を乗算する第5乗算部とで構成され、前記第5乗算部が前記収れん性制御値を出力することにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、操舵状態の判定をアナログ的なマップとして切増し/切戻し状態レシオを出力するようにしているので、操舵状態に応じた切増し/切戻し状態レシオを設定することができる。切増し/切戻し状態レシオは、ノミナル値を自在に変化させることによって適宜変更することができ、自由度の高い操舵フィーリングを実現させることができる。
【0020】
また、切増し/切戻し状態レシオを収れん制御部へ入力して感応ゲイン部の出力にオーバーライドし、ヨーレート推定値(若しくはヨーレート検出値)の処理と組み合わせて収れん性制御値を出力するようになっており、操舵状態判定のフラグがアナログ値となっていることにより、操舵状態(切増し/切戻し状態)に応じたよりきめ細かな収れん性制御を行うことができる。これにより、運転者の違和感(トルクリップル、振動、異音、引っ掛かり等)を軽減することで、一層良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
図2】電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
図3】切増し/切戻しの判定例を示すフローチャートである。
図4】切増し/切戻しの判定を説明するためのパターン図である。
図5】本発明の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明に係る角速度インデックス演算部の特性例を示す図である。
図7】本発明に係る切増し/切戻し状態レシオ演算部の特性例を示す図である。
図8】本発明に係る収れん性制御部の構成例を示すブロック図である。
図9】本発明の動作例(一部)を示すフローチャート図である。
図10】本発明の動作例(一部)を示すフローチャート図である。
図11】ノミナル値の設定と切増し/切戻し状態の判定を説明するための特性図である。
図12】本発明の効果を従来例と比較して示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は操舵状態の判定の改善と制御系の改善を目的としており、操舵状態の判定をフラグの状態ではなく、アナログ的なマップとして切増し/切戻し状態レシオを出力するようにしている。操舵状態は操舵トルク(若しくは操舵角度)とモータ角速度から判定し、操舵状態に応じた切増し/切戻し状態レシオを設定する。切増し/切戻し状態レシオは操舵していない状態(保舵状態)のノミナル値を中心として可変できるようにし、例えばノミナル値を0.5とした場合、ノミナル値0.5を中心に切増し/切戻し状態レシオを出力する。また、ノミナル値をずらすことも可能であり、例えばノミナル値を0.3に設定した場合、切増し状態(0に近いほど切増し側となる)へ迅速に移行させることが可能となり、ノミナル値を0.7に設定した場合、切戻し状態(1に近いほど切戻し側となる)へ迅速に移行させることが可能となり、自由度の高い操舵性能を容易に実現することができる。
【0023】
切増し/切戻し状態レシオを収れん性制御部へ入力し、従来よりある感応ゲイン部の出力それぞれにオーバーライドし、従来からあるヨーレート推定値(ヨーレート検出値)の絶対値、符号等と乗算等の出力処理を行い、収れん性制御値として出力する。
【0024】
このような構成とすることにより、操舵状態判定のフラグがアナログ値となっていることにより、操舵状態に応じたよりきめ細かな制御ができることによって、運転者の違和感(トルクリップル、振動、異音、引っ掛かり)を軽減することができ、一層良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【0025】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0026】
図5は本発明の構成例を図2に対応させて示しており、操舵トルクT及びモータ角速度ωを入力し、切増し/切戻し状態インデックスTRを演算する切増し/切戻し状態インデックス演算部150と、切増し/切戻し状態インデックスTRから切増し/切戻し状態レシオRTを演算して出力する切増し/切戻し状態レシオ演算部160と、切増し/切戻し状態レシオRT、操舵トルクT、車速V、モータ角速度ω及びヨーレート推定値YEを入力して収れん性制御値CVを出力する収れん性制御部170とが新たに設けられている。
【0027】
切増し/切戻し状態インデックス演算部150は、操舵トルクTのゼロ近辺における高周波振動を抑制するローパスフィルタ(LPF)151と、モータ角速度ωのゼロ近辺における高周波振動を抑制する角速度インデックス演算部152と、LPF151からの操舵トルクTh及び角速度インデックス演算部152からの符号信号SNを乗算する乗算部153とで構成されている。角速度インデックス演算部152の入出力特性は図6に示すようになっており、符号信号SNは、角速度ωの正入力に対して角速度ω1まで線形に増加し、角速度ω1以上では1.0の一定値となり、角速度ωの負入力に対して角速度−ω1まで線形に減少し、角速度−ω1以下では−1.0の一定値である。
【0028】
また、切増し/切戻し状態インデックス演算部150の乗算部153の出力である切増し/切戻し状態インデックスTRは切増し/切戻し状態レシオ演算部160に入力され、切増し/切戻し状態レシオ演算部160で演算された切増し/切戻し状態レシオRTは、収れん性制御部170に入力される。
【0029】
切増し/切戻し状態レシオ演算部160は、図7に示すような特性を有しており、操舵していない状態、つまり切増し/切戻し状態インデックスTRが0のときの切増し/戻し状態レシオRT(ノミナル値)が0.5(50%)に設定され、切増し/切戻し状態インデックスTRの正側を切増し状態と判定し、切増し/切戻し状態インデックスTRの負側を切戻し状態と判定する。切戻し状態では切増し/切戻し状態レシオRTは、切増し/切戻し状態インデックスTRの負側が0に近づくに従って飽和状態(ほぼ1.0)から徐々に減少し、切増し状態においても切増し/切戻し状態レシオRTは、切増し/切戻し状態インデックスTRが0から大きくなるに従って徐々に減少して飽和状態(ほぼ0)となる。
【0030】
収れん性制御部170は図8に示す構成であり、車速V、モータ角速度ω及び操舵トルクTは感応ゲイン部180に入力され、感応ゲイン部180で算出された切増しゲインTSは乗算部171に入力され、切戻しゲインRSは乗算部173に入力される。感応ゲイン部180は、例えば特許第3137847号で示されているような手法で、切増し時の切増しゲインTS及び切戻し時の切戻しゲインRSを算出する。また、上述のように演算された切増し/切戻し状態レシオRTは、ゲイン補正部内の乗算部173に入力されると共に、減算部182に減算入力され、固定値(1.0)181との偏差DVが乗算部171に入力される。また、乗算部171の乗算結果(=TS・DV)が加算部172に入力され、乗算部173の乗算結果(=RS・RT)も加算部172に入力され、加算部172の加算結果ARが乗算部175に入力される。
【0031】
更に、ヨーレート推定値YEが、出力処理部内の絶対値部174で絶対値にされ、ヨーレート推定値YEの絶対値|YE|が乗算部175に入力され、乗算結果(=AR・|YE|)が乗算部177に入力される。ヨーレート推定値YEは符号反転部176に入力され、ヨーレート推定値YEの正負符号SRを反転(×−1)されて乗算部177に入力される。つまり、ヨーレート推定値YEが正の場合には正負符号SRは“−1”であり、ヨーレート推定値YEが負の場合には正負符号SRは“+1”である。乗算部177の乗算結果が収れん性制御値CVとして、制御系の補償部110内の加算部113に入力される。
【0032】
なお、乗算部171及び173、減算部182、加算部172でゲイン補正部を構成し、絶対値部174、符号反転部176、乗算部175及び177で出力処理部を構成している。
【0033】
このような構成において、その動作例を図9及び図10のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
先ずトルクセンサ10で検出された操舵トルクTを入力し(ステップS1)、LPF151がLPF処理を行う(ステップS2)。次に、演算されたモータ角速度ωを入力し(ステップS3)、角速度インデックス演算部152は角速度符号を演算する(ステップS4)。なお、操舵トルクTの入力及びLPF処理と、モータ角速度ωの入力及び角速度符号の演算との順番は任意である。
【0035】
LPF処理された操舵トルクTh及び角速度インデックス演算部152で演算された符号信号SNは乗算部153に入力されて乗算され(ステップS5)、切増し/切戻し状態インデックスTRとして切増し/切戻し状態レシオ演算部160に入力され、図7に示す特性で切増し/切戻し状態レシオRTが演算される(ステップS6)。演算された切増し/切戻し状態レシオRTは、収れん性制御部170内の感応ゲイン部180に入力される(ステップS7)。感応ゲイン部180には、更に車速Vも入力される(ステップS8)。
【0036】
感応ゲイン部180で切増しゲインTS及び切戻しゲインRSが演算され(ステップS10)、切戻しゲインRSは乗算部173で切増し/切戻し状態レシオRTと乗算され(ステップS20)、切増し/切戻し状態レシオRTと固定値(1.0)との偏差DVが演算される(ステップS21)、偏差DVは乗算部171に入力されて切増しゲインTSと乗算される(ステップS22)。乗算部171の乗算結果と乗算部173の乗算結果が加算部172で加算され、加算結果ARが乗算部175に入力される(ステップS23)。
【0037】
また、ヨーレート推定値(若しくは検出値)YEが入力され(ステップS30)、ヨーレート推定値YEは絶対値部174で絶対値化されて乗算部175に入力され(ステップS31)、加算結果ARと乗算されて乗算部177に入力される(ステップS32)。また、ヨーレート推定値YEは符号反転部176に入力されて符号を反転(正又は負の符号×(−1))され(ステップS33)、乗算部177で乗算部175からの乗算結果と乗算され(ステップS34)、収れん性制御値CVとして制御系に入力される(ステップS35)。
【0038】
このように本発明の電動パワーステアリング装置では、操舵トルクとモータ角速度を使用して操舵状態を生成し、この操舵状態に対して制御値へ反映するための切増し/切戻し状態レシオ(アナログ値)を設定している。このため、操舵状態に対して任意の特性を設定することが可能となり、車両毎の適合が可能になる。
【0039】
上述の例では切増し/切戻し状態レシオ演算部160は、図7に示すように操舵していない状態の切増し/戻し状態レシオRTであるノミナル値を0.5(50%)に設定しているが、図11(A)に示すように、ノミナル値を0.3(30%)にして切増し側に設定することも、図11(B)に示すように0.7(70%)にして切戻し側に設定することも可能である。
【0040】
図12は本発明の効果を説明する波形図であり、図12(A)が改善前を、図12(B)が本発明をそれぞれ示しており、いずれも最上段が操舵トルクの波形、次段が切増し/切戻しの判定(デジタル)、3段目がモータ角速度、4段目が収れん出力、最下段が電流指令値を示している。図12(A)及び(B)の比較より、本発明によれば切増し/切戻し判定のチャタリングがなくなり、収れん出力の急変がなくなっており、運転者に違和感を与えず、快適な操舵フィーリングを与えることが分かる。なお、図12(A)及び(B)における“CTR”は、車両が直進している時のハンドル位置を意味している。
【0041】
なお、上述の実施形態では、角速度符号演算部152の符号信号SNは、角速度ωの入力に対して角速度±ω1の間で線形に変化しているが、非線形に変化しても良く、非対称であっても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
13 バッテリ
20 モータ
100 コントロールユニット(ECU)
101 電流指令値演算部
105 PI制御部
106 PWM制御部
107 インバータ
110 補償部
120 操舵状態判定部
121 操舵状態感応ゲイン部
140 セルフアライニングトルク(SAT)部
150 切増し/切戻し状態インデックス演算部
151 ローパスフィルタ(LPF)
152 角速度インデックス演算部
160 切増し/切戻し状態レシオ演算部
170 収れん性制御部
180 感応ゲイン部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12