特許第5967339号(P5967339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967339
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20160728BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20160728BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D111:00
   B62D113:00
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-519403(P2016-519403)
(86)(22)【出願日】2015年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2015066240
(87)【国際公開番号】WO2015198831
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-130175(P2014-130175)
(32)【優先日】2014年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(72)【発明者】
【氏名】坂口 徹
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−161942(JP,A)
【文献】 特開2007−331622(JP,A)
【文献】 特開2008−126891(JP,A)
【文献】 特開2012−116430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00 − 6/10
B62D 111/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、
ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、
前記モータ電流補正値算出部は、
前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、
前記適応演算部が、
前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、
前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、
前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、
さらに、前記適応演算部が、
前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、
前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、
前記条件判定部1は、
前記モータ補正信号の今回値の絶対値が前記閾値TH1より大きく且つ前記モータ補正信号の前回値の絶対値が前記閾値TH1以下であるかの判定1を行い、
前記判定1が成立するときに前記判定出力CN1を1として出力し、
前記判定1が成立しないときに前記判定出力CN1を0として出力する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、
ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、
前記モータ電流補正値算出部は、
前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、
前記適応演算部が、
前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、
前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、
前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、
さらに、前記適応演算部が、
前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、
前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、
前記条件判定部2は、
前記モータ補正信号の絶対値が前記閾値TH2より小さく且つ前記判定出力CN2が1であるか、又は前記直進判定結果SRが0であるかの判定21と、
前記判定出力CN1及び前記直進判定結果SRが共に1であるかの判定22とを行い、
前記判定21が成立するときに、前記判定出力CN4及び前記判定出力CN5を共に0として出力し、
前記判定21が成立せず且つ前記判定22が成立するときに、前記判定出力CN4を前記舵角として出力し、前記判定出力CN5を1として出力し、
前記判定21が成立せず且つ前記判定22も成立しないときに、前記判定出力CN4を前回サンプリング値として出力し、前記判定出力CN5を前回サンプリング値として出力する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記条件判定部2は、
前記モータ補正信号の絶対値が前記閾値TH2より小さく且つ前記判定出力CN2が1であるか、又は前記直進判定結果SRが0であるかの判定21と、
前記判定出力CN1及び前記直進判定結果SRが共に1であるかの判定22とを行い、
前記判定21が成立するときに、前記判定出力CN4及び前記判定出力CN5を共に0として出力し、
前記判定21が成立せず且つ前記判定22が成立するときに、前記判定出力CN4を前記舵角として出力し、前記判定出力CN5を1として出力し、
前記判定21が成立せず且つ前記判定22も成立しないときに、前記判定出力CN4を前回サンプリング値として出力し、前記判定出力CN5を前回サンプリング値として出力する請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、
ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、
前記モータ電流補正値算出部は、
前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、
前記適応演算部が、
前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、
前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、
前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、
さらに、前記適応演算部が、
前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、
前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、
前記条件判定部3は、
前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、
前記舵角1及び前記舵角の差の絶対値が前記所定値S3より大きいかの判定32とを行い、
前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定32が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定32も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、
ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、
前記モータ電流補正値算出部は、
前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、
前記適応演算部が、
前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、
前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、
前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、
さらに、前記適応演算部が、
前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、
前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、
前記条件判定部3は、
前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、
前記舵角が前記閾値TH3より大きいか又は前記舵角が前記閾値TH4より小さいかの判定33とを行い、
前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定33が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定33も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記条件判定部3は、
前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、
前記舵角1及び前記舵角の差の絶対値が前記所定値S3より大きいかの判定32とを行い、
前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定32が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定32も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力する請求項1乃至3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記条件判定部3は、
前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、
前記舵角が前記閾値TH3より大きいか又は前記舵角が前記閾値TH4より小さいかの判定33とを行い、
前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定33が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、
前記判定31が成立せず且つ前記判定33も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力する請求項1乃至3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記モータ補正信号の漸減が、ゼロに向けての漸減である請求項1乃至7のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記閾値TH1及びTH2はゼロよりも大きく、前記閾値TH3及びTH4は前記舵角1に対して均等な所定値S3の差を設定している請求項1乃至8のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記モータ補正信号の漸減後に、前記モータ補正信号が前記閾値TH2未満となったとき、前記舵角1の記憶と前記閾値TH3及びTH4の設定を解除する請求項1乃至9のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも操舵トルクに基づいて演算された電流指令値により、車両の操舵機構にモータによるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置に関し、特にモータ電流補正値による横流れ抑制若しくは片流れ抑制機能を有し、直進判定時にモータ補正信号が閾値を超えたときの舵角を記憶し、その記憶値に対して新たに上下閾値を設け、横流れ抑制若しくは片流れ抑制から離脱する機能を備え、より片流れ時或いは横流れ時の運転者の負荷低減効果を得ることができ、安全で操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置(EPS)は、車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与するものであり、インバータから供給される電力で制御されるモータの駆動力を、ギア等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与する。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10及び操舵角θを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vとに基づいてアシスト制御の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによって、EPS用モータ20に供給する電流を制御する。
【0004】
なお、舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから操舵角を取得することも可能である。オートクルーズスイッチ15が設けれ、オートクルーズ信号ASが入力されるようになっていても良い。
【0005】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)50が接続されており、車速VはCAN50から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN50以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN51も接続可能である。
【0006】
コントロールユニット30は主としてCPU(MPUやMCU等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図2のようになる。
【0007】
図2を参照してコントロールユニット30を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTh及び車速センサ12で検出された(若しくはCAN50からの)車速Vは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTh及び車速Vに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ電流値Imとの偏差I(Irefm−Im)が演算され、その偏差Iが操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。PI制御部35で特性改善された電圧制御指令値VrefがPWM制御部35に入力され、更にインバータ37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。インバータ37は駆動素子としてのFETのブリッジ回路で構成されている。
【0008】
また、加算部32Aには補償信号生成部34からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部34は、セルフアライニングトルク(SAT)343と慣性342を加算部344で加算し、その加算結果に更に収れん性341を加算部345で加算し、加算部345の加算結果を補償信号CMとしている。
【0009】
このような電動パワーステアリング装置において、道路の舗装面には、排水などの目的でセンターラインから路肩まで1〜2%程度の横断勾配が付けられているため、直線道路を高速に走行する場合には長時間ハンドルを切り続けないと、車両が路肩方向に流される傾向(横流れ或いは片流れ)がある。また、車両の経年変化(例えばサスペンションブッシュのヘタリや車体の経時変化)や縁石への衝突などによりホイールアライメントが崩れ、運転者がハンドルに力を入れないと、車両が真っ直ぐに走行できないこと(横流れ或いは片流れ)がある。このような走行では、運転者に大きな負担がかかる恐れがある。
【0010】
このため、従来多くの改善手法が提案されている。例えば特開2007−22169号公報(特許文献1)に示される方法では、車速、横加速度(横G)、操舵状態及びナビゲーションの情報によって路面の傾斜を推定し、車両の横流れ或いは片流れを補正している。また、特開2008−207775号公報(特許文献2)に示される方法では、直進時の操舵トルクを短い期間で平滑化して平滑化トルクTs1を求め、長い期間で平滑化して平滑化トルクTs2を求め、平滑化トルクTs1と平滑化トルクTs2の関係からカント(路面の傾斜)での走行を判定し、車両の横流れ或いは片流れを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−22169号公報
【特許文献2】特開2008−207775号公報
【特許文献3】特許第5251898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1及び2に示される方法は、路面の傾斜(カント)による横流れ或いは片流れを補正することはできるが、車両の経年劣化などによるホイールアライメント変化による横流れ或いは片流れの補正を行うことができない問題がある。また、特許文献1に記載の方法にあっては、ナビゲーションや横加速度センサなどの装置やセンサからの信号処理が必要となり、コストアップとなり、車両の装備状況によっては補正できない車両がある。特許文献2に記載の方法では、車両が平坦な路面を走行してからカントを走行することを前提としているので、最初からカントを走行する場合には、横流れ或いは片流れの補正ができなくなる恐れがある。
【0013】
かかる問題を解決するものとして特許第5251898号公報(特許文献3)に開示されている電動パワーステアリング装置がある。特許文献3の装置では、ステアリング機構に付加する作用力(SATや操舵トルク、コラム軸の反力など)を検出する作用力検出手段と、ステアリング機構の回転角度(舵角)を検出する回転角度検出手段と、作用力、回転角度及び車速に基づいて車両の走行状態を判定すると共に、走行状態の判定結果と作用力に基づいてモータ電流補正値を算出し、算出されたモータ電流補正値によって電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部とを設け、モータ電流補正値で補正された電流指令値でモータを駆動制御している。
【0014】
図3は特許文献3の装置(モータ電流補正値算出部100A)の概略構成を示しており、舵角θ、SAT推定値及び車速Vは直進判定部110に入力されると共に、舵角θはリセットテーブル130に入力され、SAT推定値はゲイン部101及びリセットテーブル130に入力され、車速Vは車速感応ゲイン部133に入力される。直進判定部110は直進走行か否かを判定して判定信号SDを出力するが、直進判定部110の直進判定は、舵角θが所定範囲以内、かつ車速Vが所定値以上、かつSAT推定値の絶対値|SAT推定値|が所定値以下であるときに直進判定が成立し(SD=1)、それ以外の場合は直進判定が不成立(SD=0)とする。ゲイン部101はSAT推定値にゲインGを乗算して切替部102の接点102aに入力し、リセットテーブル130はSAT推定値及び舵角θに応じたリセットゲインRGを出力する。リセットゲインRGは符号反転部131を経て乗算部132に入力される。
【0015】
直進判定部110からの判定信号SD(成立=1、不成立=0)は直進時間判定部120に入力され、直進時間判定部120は、判定信号SDを計数する計数部121と、下限(=0)及び上限(=500)のリミッタ122と、計数値200以上(直進)で直進判定結果SR(=1)、計数値200未満(非直線)で直進判定結果SR(=0)を出力する条件判定部123とで構成されている。直進判定結果SRは切替部102の接点102a及び102bの切替えを行い、直進判定結果SR=1で接点102aとし、直進判定結果SR=0で接点102bとする。接点102aにはSAT推定値のゲインG倍の信号SG1が入力され、接点102bには乗算部132の乗算結果SG2が入力されている。
【0016】
切替部102の接点102a、102bは直進判定結果SRによって切替えられ、切替部102の出力である操舵状態信号SG3は加算部103に入力され、1サンプリング前の信号を記憶するメモリユニット107からの信号との加算値がリミッタ104を経て、モータ補正信号SG4として乗算部105に入力されると共に、メモリユニット107に入力される。車速感応ゲイン部133からの車速ゲインGaが乗算部105に入力され、モータ補正信号SG4との乗算結果SG5がリミッタ106を経てモータ電流補正値Imcaとして出力される。モータ電流補正値Imcaにより電流指令値を補正する。
【0017】
このように特許文献3記載の電動パワーステアリング装置によれば、作用力検出手段と、回転角度検出手段と、モータ電流補正値算出部100Aとによりモータ電流補正値Imcaを算出しているので、路面の傾斜とホイールアライメントの変化による横流れ或いは片流れを共に補正することができ、しかも、いかなる場合においても正確に車両の横流れ或いは片流れを検出して補正することができ、より安全で快適な直進走行が可能な電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【0018】
しかしながら、特許文献3における横流れ抑制若しくは片流れ抑制を有効に機能させるためには、ある程度の直進判定閾値幅(uth−dth)を大きくしなければならない(例えば±12°)。ここで問題となるのは、運転者が意図を持って、図4(B)に示すように上側直進判定閾値uthと下側直進判定閾値dth内で操舵したときには、図4(A)に示すモータ補正信号はリセットされることはなく、つまり補正量を解除できず、状況によっては運転者の意図と反対方向にアシストが残ってしまう可能性があるため、運転者への違和感、不安感を与えないように補正量を制限している。補正量を制限することで、運転者への負荷低減効果が制限されてしまうことがある。
【0019】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、片流れ或いは横流れ抑制から離脱する機能を備え、より片流れ或いは横流れ時の運転者負荷低減効果を得ることができ、安全で操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、前記モータ電流補正値算出部は、前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進状態判定部の直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、前記適応演算部が、前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、さらに、前記適応演算部が、前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、前記条件判定部1は、前記モータ補正信号の今回値の絶対値が前記閾値TH1より大きく且つ前記モータ補正信号の前回値の絶対値が前記閾値TH1以下であるかの判定1を行い、前記判定1が成立するときに前記判定出力CN1を1として出力し、前記判定1が成立しないときに前記判定出力CN1を0として出力することにより達成される。
【0021】
また、本発明の上記目的は、車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、前記モータ電流補正値算出部は、前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、前記適応演算部が、前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、さらに、前記適応演算部が、前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、前記条件判定部2は、前記モータ補正信号の絶対値が前記閾値TH2より小さく且つ前記判定出力CN2が1であるか、又は前記直進判定結果SRが0であるかの判定21と、前記判定出力CN1及び前記直進判定結果SRが共に1であるかの判定22とを行い、前記判定21が成立するときに、前記判定出力CN4及び前記判定出力CN5を共に0として出力し、前記判定21が成立せず且つ前記判定22が成立するときに、前記判定出力CN4を前記舵角として出力し、前記判定出力CN5を1として出力し、前記判定21が成立せず且つ前記判定22も成立しないときに、前記判定出力CN4を前回サンプリング値として出力し、前記判定出力CN5を前回サンプリング値として出力することにより、より効果的に達成される。
【0022】
また、本発明の上記目的は、車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、前記モータ電流補正値算出部は、前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、前記適応演算部が、前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、さらに、前記適応演算部が、前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、前記条件判定部3は、前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、前記舵角1及び前記舵角の差の絶対値が前記所定値S3より大きいかの判定32とを行い、前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、前記判定31が成立せず且つ前記判定32が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、前記判定31が成立せず且つ前記判定32も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力することにより、より効果的に達成される。
【0023】
また、本発明の上記目的は、車両の操舵トルク及び車速に基づいてステアリング機構に操舵補助力を付与するモータの電流指令値を演算し、フィードバック制御で前記モータを駆動制御する電動パワーステアリング装置において、ステアリング機構に付加される作用力、前記ステアリング機構の舵角及び前記車速に基づいて前記車両の走行状態を判定すると共に、前記走行状態の判定結果、前記作用力及び所定条件に基づいてモータ電流補正値を算出して前記電流指令値を補正するモータ電流補正値算出部を具備し、前記モータ電流補正値算出部は、前記車両の直進状態を判定して直進判定結果SRを出力する直進状態判定部と、前記直進判定結果SR、前記舵角及び前記作用力に従ってモータ補正信号を演算して出力する適応演算部と、前記車速に応じた車速ゲインを出力する車速感応ゲイン部と、前記モータ補正信号に前記車速ゲインを乗算して前記モータ電流補正値を出力する出力演算部とで構成されており、前記適応演算部が、前記車両が直進走行状態から離れたときに、前記モータ補正信号を前記舵角及び前記作用力によってゼロにリセットし、前記モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい上下の閾値TH1及びTH2を設定し、前記モータ補正信号値の絶対値が前記閾値TH1を超えたとき、超えた時点の前記舵角を舵角1として記憶すると共に、前記舵角1に対して上下の閾値TH3及びTH4を設定し、前記舵角が前記閾値TH3からTH4までの範囲を外れたとき、前記モータ補正信号を漸減するようになっており、さらに、前記適応演算部が、前記モータ補正信号の今回値及び前回値に基づいて判定出力CN1を出力する条件判定部1と、前記直進判定結果SR、前記舵角、前記判定出力CN1、前記モータ補正信号及び判定出力CN2に基づいて判定出力CN4及びCN5を出力する条件判定部2と、前記舵角、前記判定出力CN4及びCN5に基づいて判定出力CN3を出力する条件判定部3と、前記直進判定結果SR及び前記判定出力CN3の論理積で操舵状態信号を出力する論理出力部とを備え、前記判定出力CN5をメモリユニットに入力して前記判定出力CN2とし、前記判定出力CN3によって前記モータ補正信号の生成を切替えるようになっており、前記条件判定部3は、前記判定出力CN5が0であるかの判定31と、前記舵角が前記閾値TH3より大きいか又は前記舵角が前記閾値TH4より小さいかの判定33とを行い、前記判定31が成立するときに、前記判定出力CN3を1として出力し、前記判定31が成立せず且つ前記判定33が成立するときに、前記判定出力CN3を0として出力し、前記判定31が成立せず且つ前記判定33も成立しないときに、前記判定出力CN3を1として出力することにより、より効果的に達成される。
【0024】
また、本発明の上記目的は、前記モータ補正信号の漸減が、ゼロに向けての漸減であることにより、或いは前記閾値TH1及びTH2はゼロよりも大きく、前記閾値TH3及びTH4は前記舵角1に対して均等な所定値S3の差を設定していることにより、或いは前記モータ補正信号の漸減後に、前記モータ補正信号が前記閾値TH2未満となったとき、前記舵角1の記憶と前記閾値TH3及びTH4の設定を解除することにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、直進走行状態でモータ補正信号が閾値を超えると、そのときの舵角を記憶すると共に、その舵角に対して上下(±)に新たな閾値を設定し、以後、舵角が新たな閾値で指定される範囲を外れたか否かを判定し、舵角がこの範囲を外れたときにモータ補正信号をゼロに向けて漸減し、モータ補正信号が閾値未満になったときに記憶した舵角及びそれに伴う閾値を解除(リセット)している。
【0026】
これにより、モータ補正信号の制限を緩和することができ、片流れ時或いは横流れ時の運転者の負荷低減効果をより得ることができ、安全で操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
図2】電動パワーステアリング装置のコントロールユニット(ECU)の構成例を示すブロック図である。
図3】従来の補正装置の構成例を示すブロック図である。
図4】従来の補正装置の特性例を示す特性図である。
図5】本発明の動作原理を示すタイムチャートである。
図6】本発明の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の動作例を示すフローチャートである。
図8】本発明の動作例(シミュレーション結果)を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では図5(A)及び(B)に示すように、モータ補正信号に対して最大補正値よりも小さい閾値TH1及びTH2(TH1>TH2)が設定されると共に、舵角θに対して直進判定のための直進判定閾値uth及びdthが設定されている。舵角θが直進判定閾値uth及びdthの範囲内となっている状態で、つまり直進走行状態でモータ補正信号が閾値TH1を超えると(時点t11)、そのとき(時点t11)の舵角θ1をメモリに記憶すると共に、舵角θ1に対して上下(±S3)に新たな閾値TH3及びTH4を設定し、以後、舵角θが新たな閾値TH3からTH4までの範囲を外れたかを判定する。記憶された舵角θ1に対して閾値TH3及びTH4はそれぞれ閾値S3の幅を有している。つまり、TH3−θ1=S3,θ1−TH4=S3である。そして、例えば時点t12に舵角θが新たな閾値TH4より小さくなる(運転者が意図的に操舵したと判断)と、モータ補正信号をゼロに向けて漸減し、モータ補正信号が閾値TH2未満になったとき(時点t13)に記憶した舵角θ1及びそれに伴う閾値TH3及びTH4を解除(リセット)する。このように本願発明には、片流れ抑制若しくは横流れ抑制から離脱する機能が追加されている。
【0029】
ただし、図5の例では時点t13以降も直進判定が成立しているので(舵角θは直進判定閾値uth及びdthの範囲内)、モータ補正信号は変化する。
【0030】
これにより、運転者に違和感なく片流れ抑制若しくは横流れ抑制から離脱できるようになり、モータ補正信号の制限を緩和することができ、より横流れ時或いは片流れ時の運転者の負荷低減効果を得ることができ、安全で操舵フィーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【0031】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図6は本発明の構成例を図3に対応させて示しており、リミッタ104からのモータ補正信号SG4をメモリユニット181に入力し、メモリユニット181からの今回データのモータ補正信号SG6、1サンプリング前(前回データ)のモータ補正信号SG6−1と所定条件とを比較し、判定出力CN1を出力する条件判定部140が設けられている。条件判定部140は下記数1に従って、判定出力CN1を判定して出力する。
(数1)
条件A1:|今回データ|>閾値TH1かつ|前回データ|≦閾値TH1のとき、判定出力CN1=1
条件B1:上記以外のとき、判定出力CN1=0

条件判定部140からの判定出力CN1は次段の条件判定部150に入力され、条件判定部150には更に直進判定結果SR、舵角θ、メモリユニット181の出力SG6及びメモリユニット182からの判定出力CN2が入力され、条件判定部150からは判定結果である判定出力CN4及びCN5が出力される。条件判定部150は下記数2に従って判定し、判定出力CN4及びCN5を出力する。
(数2)
条件A2:|SG6|<閾値TH2かつCN2=1、又はSR=0のとき、判定出力CN4=0、CN5=0
条件B2:|SG6|<閾値TH2かつCN2=1、又はSR=0が不成立で、CN1=1かつSR=1のとき、判定出力CN4=舵角θ(今回)、CN5=1
条件C2:|SG6|<閾値TH2かつCN2=1、又はSR=0以外で、CN1=1かつSR=1が不成立のとき、判定出力CN4=前回CN4、CN5=前回CN5

条件判定部150の判定出力CN4及びCN5は条件判定部170に入力され、条件判定部170には更に舵角θが入力され、条件判定部170からは判定出力CN3が出力される。条件判定部170は下記数3に従って判定し、判定出力CN3を出力する。
(数3)
条件A3:CN5=0のとき、CN3=1
条件B3:CN5=1で、|θ−CN4|>閾値S3のとき、CN3=0
条件C3:CN5=1で、|θ−CN4|≦閾値S3のとき、CN3=1

CN5=1の時にはCN4=舵角θ1であるので、上記条件B3及び条件C3は以下でも良い。
条件B3:CN5=1で、θ>TH3又はθ<TH4のとき、CN3=0
条件C3:CN5=1で、θ≦TH3かつθ≧TH4のとき、CN3=1

直進判定部110及び直進時間判定部120で直進状態判定部を構成し、条件判定部140、150及び170、メモリユニット107、181及び182、リセットテーブル130、符号反転部131、ゲイン部101、切替部102、論理出力部180、加算部103、リミッタ104で適応演算部を構成し、乗算部105及びリミッタ106で出力演算部を構成している。また、直進状態判定部、適応演算部、車速感応ゲイン部133、出力演算部でモータ電流補正値Imcを算出して出力するモータ電流補正値算出部を構成している。
【0033】
このような構成において、その動作例を図7のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
先ず舵角θ、SAT推定値及び車速Vを読み取り(ステップS2)、直進判定部110は特許文献3と同様に直進を判定して判定信号SDを出力する(ステップS3)。判定信号SDは直進時間判定部120に入力され、特許文献3と同様にして直進時間の判定をされ(ステップS4)、直進判定結果SRは条件判定部150及び論理出力部180に入力される。
【0035】
一方、SAT推定値はゲイン部101及びリセットテーブル130に入力され、舵角θは条件判定部150及び170並びにリセットテーブル130に入力され、前述と同様にリセットテーブル130からのリセットゲインRGは符号反転部131を経て、乗算部132でメモリユニット107の出力と乗算されて切替部102の接点102bに入力される。また、SAT推定値はゲイン部101を経て切替部102の接点102aに入力される(ステップS5)。切替部102の出力SG3加算部103及びリミッタ104を経てモータ補正信号SG4として出力され、モータ補正信号SG4は乗算部105に入力されると共に、メモリユニット181を経てデータSG6として条件判定部140に入力されている。
【0036】
条件判定部140は、入力されたデータSG6及び閾値TH1に基づいて前記数1の条件判定処理#1を行い(ステップS10)、判定出力CN1を出力する。判定出力CN1は条件判定部150に入力され、条件判定部150は判定出力CN1、直進判定結果SR、閾値TH2等に基づいて前記数2の条件判定処理#2を行い(ステップS20)、判定出力CN4及びCN5を出力する。判定出力CN4及びCN5は条件判定部170に入力され、条件判定部170は判定出力CN4及びCN5、舵角θ及び閾値S3又は閾値TH3,TH4に基づいて前記数3の条件判定処理#3を行い(ステップS40)、判定出力CN3を出力する。また、判定出力CN5はメモリユニット182を経て判定出力CN2として条件判定部150に入力されている。
【0037】
判定出力CN3は論理出力部180に入力され、論理出力部180で直進判定結果SRとの出力処理#1が行われる(ステップS50)。論理出力部180からの操舵状態信号SWは、直進かつ無操舵のときに切替部102を接点102aとし、非直進又は操舵のときに切替部102を接点102bとするように切替える(ステップS51)。
【0038】
切替部102の出力である信号SG3は加算部103でメモリユニット107の出力信号を加算し、加算結果をリミッタ104を経てモータ補正信号SG4とし、モータ補正信号SG4がメモリユニット181を経て、条件判定部140及び150に入力される(ステップS52)。また、モータ補正信号SG4は出力演算部としての乗算部105及びリミッタ106を経て出力処理#2され(ステップS53)、モータ電流補正値Imcとして出力される(ステップS54)。モータ電流補正値Imcにより電流指令値を補正する。
【0039】
図8はシミュレーション結果を示しており、図8(A)は舵角θの変化と記憶された舵角θを示しており、図8(B)はSAT推定値及び横流れ抑制、片流れ抑制(補正値)を示し、図8(C)は直進判定フラグCF及び無操舵判定フラグNFのON/OFF状態を示している。
【0040】
直進判定フラグCFは時点t2以降ONであり、無操舵判定フラグNFは時点t1〜t7でONであり、時点t7〜t8でOFFとなり、時点t8以降ONとなっている。時点t3、時点t5にモータ補正信号(SG4)が閾値TH1を超えるので、この時点にそのときの舵角θを記憶する(記憶値θ)。また、時点t7に、舵角θは閾値TH4(=θ−S3)よりも小さくなるので、この時点t7からリセット処理が始まっている。
【0041】
なお、上述ではステアリング機構に付加される作用力としてSAT推定値を挙げて説明しているが、センサで検出した値であっても良い。また、信号や検出値の絶対値を求めて閾値と比較するようにしているが、閾値を正負の2つとすれば、絶対値でなくても同様な比較動作が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ハンドル
2 コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)
10 トルクセンサ
12 車速センサ
14 舵角センサ
15 オートクルーズスイッチ
20 モータ
30 コントロールユニット(ECU)
31 電流指令値演算部
35 PI制御部
36 PWM制御部
37 インバータ
100A、100 モータ電流補正値算出部
110 直進判定部
120 直進時間判定部
130 リセットテーブル
133 車速感応ゲイン部
140、150、170 条件判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8