(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967352
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60K 28/10 20060101AFI20160728BHJP
B60K 26/04 20060101ALI20160728BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
B60K28/10 Z
B60K26/04
F02D29/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-33409(P2012-33409)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-169829(P2013-169829A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】宇恵 崇
(72)【発明者】
【氏名】脇田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】天野 正規
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 彩香
【審査官】
岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−030548(JP,A)
【文献】
特開2012−001027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 26/00−26/04
B60K 28/00−28/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が停止した場合に、停止位置における路面の勾配を検出する勾配検出手段と、
検出された前記勾配に基づいて、該車両が発進した場合に予め定めた所定の車速となるようなアクセルペダルのアクセル開度を設定する設定手段と、
運転者により前記アクセルペダルが踏み込まれた場合には、前記アクセル開度以上に踏み込まれないように、操作反力により該アクセルペダルの踏み込み量を減少させるペダル制御手段と、を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記所定の車速は、車両の発進時に通常利用される速度領域の速度であることを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記車両の発進時に通常利用される速度領域の速度が、クリープ現象により走行する際の車速であることを特徴とする請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記ペダル制御手段により前記アクセルペダルが規制された後、さらに運転者がアクセルペダルを所定のアクセル開度以上のアクセル開度となるように踏み込む場合には、前記アクセルペダルの規制を解除することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクセルペダルを操作する操作力に対して反発する力であるアクセル反力を利用した車両の運転支援装置として、車速に比例したアクセルペダル反力指示値を算出し、この反力指示値となるようにアクセルペダルを制御するものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された運転支援装置では、アクセルペダルを踏み込みすぎた場合などにアクセルペダル反力をもってペダルを押し返すことで、アクセルペダルの過度の踏み込みを防止して燃費を向上させている。
【0003】
さらに、特許文献1に記載された運転支援装置では、坂道で停止中から発進する場合にアクセルペダル反力を強めることでアクセルペダルの踏み込みすぎを防止して燃費をさらに向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−113556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合に、アクセルペダルの踏み込みすぎを防止するために、アクセルペダルの反力を一律に強めるとすれば、車両が前進しないことも考えられるため、単純にアクセルペダル反力を強めることは好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、坂道で発進する場合に、適切にアクセルペダルを規制して運転者の運転を支援することができる運転支援装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の運転支援装置は、車両が停止した場合に、停止位置における路面の勾配を検出する勾配検出手段と、検出された前記勾配に基づいて、該車両が発進した場合に予め定めた所定の車速となるようなアクセルペダルのアクセル開度を設定する設定手段と、運転者により前記アクセルペダルが踏み込まれた場合に
は、前記アクセル開度以上に踏み込まれないように
、操作反力により該アクセルペダルの踏み込み量を減少させるペダル制御手段と、を備えることを特徴とする。本発明では、設定手段により勾配に基づいて車両が発進した場合に所定の車速となるようなアクセルペダルのアクセル開度を設定し、運転者の要求するアクセル状態がこのアクセル開度よりも大きな開度となる場合にアクセルペダルの踏み込みを規制している。これにより、坂道で発進する場合に運転者が必要以上に踏み込もうとしても適切なアクセルペダル反力により運転者の運転を支援することができる。
【0008】
アクセルペダルの規制についてはアクセルペダルを設定位置以上に踏み込めないようにロックすることも考えられるが、アクセルペダルの操作反力を用いて踏み込みにくくすることによって運転者の運転支援を行うことで、必要な場合には設定位置以上踏みこめる自由度を与えつつ運転支援をすることができる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態としては、前記所定の車速は、車両の発進時に通常利用される速度領域の速度であることが挙げられる。
【0010】
前記ペダル制御手段により前記アクセルペダルが規制された後、さらに運転者がアクセルペダルを所定のアクセル開度以上のアクセル開度となるように踏み込む場合には、前記アクセルペダルの規制を解除することが好ましい。このように坂道で発進することで、運転者が所定の車速以上の速度を要求する場合にこの要求に応じることができ、運転者に煩わしさを感じさせにくい。
【0011】
本発明の好ましい実施形態としては、前記車両の発進時に通常利用される速度領域の速度がクリープ現象により走行する際の車速であることが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の運転支援装置によれば、坂道で発進する場合に、適切にアクセルペダルを規制して運転者の運転を支援することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1の運転支援装置を示すブロック図である。
【
図2】実施形態1の運転支援装置が有するマップを示す図である。
【
図3】実施形態1の運転支援装置の制御フローを示すフローチャートである。
【
図4】実施形態2の運転支援装置の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
本発明の運転支援装置について
図1、
図2を用いて説明する。
車両Iは、運転支援装置10を有する。運転支援装置10は、車両が停止状態にある場合に、停止位置での路面の勾配を検出し、この勾配に基づいて車両が発進した場合にクリープ速度となるアクセル開度を設定し、発進時にはこのアクセル開度となるようにアクセルペダル21を規制するものである。運転支援装置10について、以下詳細に説明する。
【0015】
運転支援装置10は、傾斜センサ11と、車速検出手段12と、ブレーキ状態検出手段13と、アクセルペダルの開度を検出する開度検出手段14とを備える。また、運転支援装置10は、設定手段15と、ペダル制御手段16とを備える。
【0016】
傾斜センサ11は、車両Iが停止している停止位置での路面の勾配を検出する勾配検出手段である。本実施形態では、傾斜センサ11は停止位置での路面の傾斜を直接検出することができる。傾斜センサ11は、検出した停止位置での路面の傾斜角度を設定手段15に入力する。
【0017】
車速検出手段12は、車両Iの車速を検出する車速センサである。車速検出手段は、検出した車速を設定手段15及びペダル制御手段16に入力する。
【0018】
ブレーキ状態検出手段13は、ブレーキ状態、即ちブレーキがかかった状態であるかどうかを検出する。ブレーキ状態検出手段13は、検出したブレーキ状態を設定手段15に入力する。
【0019】
開度検出手段14は、アクセルペダル21の開度を検出する。開度検出手段14は、アクセルペダル21の開度をペダル制御手段16に入力する。
【0020】
設定手段15は、停車位置での路面の勾配から発進時にクリープ速度となるようなアクセル開度を設定するものである。ここで、クリープ速度とはクリープ現象により走行する場合の車速をいう。設定手段15は、車両Iが停止しているかどうかを、入力された車速が0km/hであり、かつ、入力されたブレーキ状態がオン状態であるかどうかにより判断する。車速が0km/hで、かつ、ブレーキがオンである場合には、設定手段15は、車両Iが停止していると判断する。
【0021】
設定手段15は、車両Iが停止していると判断した場合には、傾斜センサ11から入力された路面の傾斜角度から、停止位置の路面が勾配があるかどうかを判断し、勾配がある場合には、勾配の傾斜角度から車両が発進した場合にクリープ速度となるアクセル開度Aを算出する。本実施形態では、アクセル開度Aを算出するのにマップを用いた。マップについて
図2に示す。
図2に示すように、マップは、傾斜角度に対するアクセル開度Aを示すものである。このマップは実験等により得られたものである。なお、本実施形態では傾斜角度とアクセル開度Aとは線形依存性があるが、これに限定されない。例えば、車種等によって適宜設定されるが、傾斜角度が大きくなるとアクセル開度Aも大きくなる傾向にある。設定手段15は、この傾斜角度とアクセル開度との関係を示すマップから、傾斜角度に対応して車両が発進した場合にクリープ速度となるアクセル開度Aを算出する。設定手段15は、設定したアクセル開度Aをペダル制御手段16に入力する。
【0022】
ペダル制御手段16は、アクセルペダル21の開度を開度検出手段14から取得する。そして、アクセルペダル21が踏み込まれて車両Iが発進する場合に、設定されたアクセル開度Aよりも運転者の踏み込みによるアクセル開度が大きくなるような入力があった場合には、運転者の踏み込みによるアクセル開度がアクセル開度Aよりも大きくならないように、操作反力によりアクセルペダル21の踏み込みを規制する。これにより、坂道発進時において運転者がアクセルペダル21を踏み込みすぎることを防止できる。
【0023】
ペダル制御手段16は、車速検出手段12から検出された車速が所定値以上となるまではアクセル反力制御を続ける。そして、車速が所定値以上となった場合には、アクセル反力を徐々に解除し、徐々に運転者がアクセルペダルを踏み込んで所望の車速で走行できるようにする。
【0024】
本実施形態の運転支援装置を有する車両は、このように、坂道で停止中において発進する場合に、勾配に応じた適切なアクセルペダル反力で運転者のアクセルペダルの踏み込み量を規制して、適切な速度で坂道発進することができる。この場合に、勾配に応じてアクセル開度を設定しないでアクセル開度を規制すると、例えば勾配が急である場合に規制した踏み込み量では踏み込み量が足りないことも考えられる。これに対し、本実施形態では勾配に応じて適切なアクセル開度を設定できるので、適切に踏み込み量を規制することができる。従って、運転者はいつ車両が動き出すかどうかを探りながらアクセルペダルを操作することなく、ドライバーの操作が容易となり負担を軽減することができる。
【0025】
本発明の制御フローについて
図3を用いて説明する。
【0026】
初めに、車両Iが停止すると、制御がスタートし、ステップS1へ進む。
ステップS1では、設定手段が、車速0km/hであり、ブレーキ状態がオンであるかどうかを判断する。車速0km/hであり、ブレーキ状態がオンである場合には(YES)、ステップS2へ進む。それ以外の場合には(NO)処理は終了する。
【0027】
ステップS2では、設定手段は、入力された傾斜角度から、停止位置の路面が勾配があるか否か、即ち坂道であるかどうかを判断する。勾配がある場合(YES)、即ち停止位置が坂道である場合はステップS3へ進む。勾配がない場合(NO)、即ち停止位置が坂道でない場合、処理は終了する。
【0028】
ステップS3では、勾配、即ち停止位置の坂道の傾斜角度から、
図2に示すマップを用いてアクセル開度Aを算出する。ステップS4へ進む。
【0029】
ステップS4では、設定手段はアクセル開度Aをペダル制御手段へ入力する。ステップS5へ進む。
【0030】
ステップS5以降は、発進時における制御である。
ステップS5では、ペダル制御手段が、運転者によりアクセルペダルが踏み込まれた場合に、踏み込みによるアクセル開度が、アクセル開度A以上であるかどうかを判断する。踏み込みによるアクセル開度がアクセル開度Aよりも小さい場合(NO)は、ステップS5に戻る。即ち、踏み込みによるアクセル開度がアクセル開度Aよりも大きくなるまでこのステップを繰り返し、アクセル反力を発生させない。踏み込みによるアクセル開度がアクセル開度A以上である場合(YES)には、ステップS6へ進む。
【0031】
ステップS6では、ペダル制御手段はアクセル反力を発生させて、運転者のアクセルペダルの踏み込みすぎを防止する。これにより、車両はクリープ速度程度で進行する。ステップS7へ進む。
【0032】
ステップS7では、ペダル制御手段は、車速が所定値以上(例えばクリープ速度よりやや速い値)であるかどうかを判断する。車速が所定値以上となった場合には(YES)、ステップS8へ進む。車速が所定値未満である場合(NO)、ステップS6へ戻り、ペダル制御手段は反力を発生させる制御を繰り返す。即ち、ペダル制御手段は所定の車速となるまでは反力をもってアクセルペダルを制御する。
【0033】
ステップS8では、ペダル制御手段は、アクセル反力を徐々に解除する。即ち、所定の車速以上となった場合には反力が解除され運転者は徐々にアクセルを踏み込みやすくなり、これにより所望のスピードで車両を運転することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の運転支援装置は、坂道で停止中から発進する場合に、路面の勾配に応じた適切なアクセルペダル開度を算出でき、これによりアクセルペダル反力で運転者のアクセルペダルの踏み込み量を規制して、適切な速度で坂道発進することができるように運転支援を行うことができる。
【0035】
(実施形態2)
本実施形態では、ペダル制御手段16は、運転者にとってアクセル反力が煩わしくないようにアクセル反力の制御を行う。具体的には、
図3に示す制御フローとは
図4に示すようにステップS11及びS12が付加されている点が実施形態1とは異なる。
【0036】
即ち、本実施形態においては、ペダル制御手段は、反力発生後のアクセルペダルの踏み込み量であるアクセルペダル開度が所定のアクセル開度Aよりもさらに大きいアクセル開度B(B>A)以上であった場合には、アクセル反力を解除する。これにより、アクセル開度に従った加速で車両は発進する。
【0037】
本実施形態では、ステップS6でアクセル反力が発生した後に、ステップS11へ進む。ステップS11では、運転者の踏み込みによるアクセル開度がアクセル開度B以上であるかどうかを判断する。アクセル開度がアクセル開度B以上である場合には(YES)、ステップS12へ進む。アクセル開度がアクセル開度B未満である場合には(NO)、ステップS7へ進む。即ち通常と同様の制御となる。
【0038】
ステップS12では、アクセル反力を解除する。これにより、アクセル開度に従った加速で車両Iが発進する。
【0039】
本実施形態では、アクセル開度Aよりも大きいアクセル開度で踏み込むことでアクセル反力が発生した後に、運転者がさらに踏み込むことでアクセル開度がアクセル開度B以上となった場合には、運転者はクリープ速度程度で発進することを望んでいないと考えられるので、この場合にはアクセル開度に従った加速で車両を発進させている。
【0040】
このように、本実施形態によれば坂道で停止中から発進する場合に、適切なアクセルペダル反力で運転者の運転を支援することができるだけでなく、運転者が発進時に加速を要求した場合にはアクセル反力を解除することができるので、運転者が運転時に煩わしさを感じることはない。また、アクセル反力によりアクセルペダルを規制することで、簡易に運転者に運転支援をすることができると共に、運転者が急加速意図を有する場合にはその意図をくみ取ることができ、優先させることができる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に限定されない。
本発明では
図2に示すマップによりアクセル開度を設定したが、これに限定されない。例えば、車両重量、タイヤ半径、ギヤ比等の車両情報から勾配をクリープ速度で発進するのに必要なエンジントルクを算出し、これに基づいて必要なアクセル開度を算出してもよい。
【0042】
本発明では、アクセルペダルの過度な踏み込みを抑制するためにアクセル反力によりアクセルペダルの踏み込みを制御したがこれに限定されない。運転者に対してアクセルペダルの踏み込みを規制することができればよく、例えばアクセルペダルを振動させるように構成してもよい。また、車両の表示部にアクセルペダルの踏み込む量を表示して運転者にアクセルペダルの踏み込み量を認識させることでアクセルペダルの踏み込みを規制してもよい。
【0043】
本発明では、勾配検出手段として傾斜センサを例示したがこれに限定されない。停止位置での勾配を検出できるものであればよく、例えば予め地図データを登録し、車両の現在位置を取得してこの地図データから現在位置の路面の勾配を検出するように構成してもよい。また、車両に予め搭載された各種センサの値を組み合わせて勾配を推定するようにしても良い。
【0044】
本実施形態では、発進時の速度がクリープ速度となるようにアクセル開度を制御したが、これに限定されない。予め定めた所定の速度(発進時に車両が通常利用する速度領域の速度)となるように規定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の運転支援装置を有する車両は適切にアクセルペダルを規制して運転者の運転を支援することができる。従って車輌製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 運転支援装置
11 傾斜センサ
12 車速検出手段
13 ブレーキ状態検出手段
14 開度検出手段
15 設定手段
16 ペダル制御手段
21 アクセルペダル
I 車両