(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967353
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】ダストカバー
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20160728BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20160728BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
F16C11/06 Q
F16J3/04 B
F16J15/52 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-46377(P2012-46377)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-181614(P2013-181614A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】宝泉 達郎
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−040439(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00−11/12
F16J 3/04,15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径側へ凸形状の折り返し形状をなす環状谷部及び前記環状谷部の両側にあって外径側へ凸形状の折り返し形状をなす環状山部を有する伸縮変形可能な蛇腹状の可撓筒部と、この可撓筒部の一方の端部に形成され、ボールジョイントのハウジングに固定されるクランプ部と、前記可撓筒部の他方の端部に形成され、前記ハウジングに揺動・回転可能に結合されたボールスタッドに摺動可能に密嵌されるシールリップとを備え、前記環状谷部又は環状山部の部位を構成する面、及びその面と伸縮方向に対向しかつ前記部位と同一もしくは隣接する環状谷部又は環状山部の部位を構成する面の双方に、それぞれ前記可撓筒部の圧縮変形状態において円周方向へ互いに係合される係合部が設けられたことを特徴とするダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング装置のリンク部やシフトレバーのボールジョイントなどに取り付けられるダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術によるダストカバーとして、例えば
図8に示すようなものがある。
【0003】
すなわちこのダストカバー100は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、自在に変形可能な可撓筒部101を有し、下端部に形成されたクランプ部102がボールジョイント200のハウジング201に緊結固定され、上端部に形成されたシールリップ103が、ハウジング201の内周の軸受部202にボール部203aにより揺動可能及び回転可能に結合されたボールスタッド203の軸部203b及び鍔部203cに円周方向摺動可能に密嵌されることによって、ボールジョイント200内への水やダストの浸入を防止すると共に、ボールジョイント200内に封入されたグリース(不図示)の流出を防止するものである(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
この種のダストカバー100は、ボールスタッド203の揺動に対しては可撓筒部101が屈伸変形することによって追随し、ボールスタッド203が回転動作した場合は、このボールスタッド203の軸部203b及び鍔部203cに対してシールリップ103が円周方向へ滑ることで可撓筒部101の捩れによる耐久性の低下を防止している。
【0005】
しかしながら、例えば
図9に示すように、可撓筒部101が環状谷部101aを介して複数の環状山部101bを有する蛇腹状をなすものである場合(例えば下記の特許文献2参照)は、
図8のボールスタッド203の揺動回転動作の際にシールリップ103の摺動抵抗によって可撓筒部101が捩れやすくなってしまう問題があった。そして、このような捩れを防止するための対策としては、可撓筒部101の肉厚を大きくすることによってその剛性を向上させるしかなく、肉厚を大きくした場合は変形を受けた時の歪が大きくなるため、繰り返し屈伸変形に対する耐疲労性が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−252519号公報
【特許文献2】特開2007−239970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、可撓筒部の柔軟な変形性を損なうことなく、ボールスタッドの回動に伴う可撓筒部の捩れを有効に防止可能なダストカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るダストカバーは、
内径側へ凸形状の折り返し形状をなす環状谷部及び
前記環状谷部の両側にあって外径側へ凸形状の折り返し形状をなす環状山部を有する伸縮変形可能な蛇腹状の可撓筒部と、この可撓筒部の一方の端部に形成され、ボールジョイントのハウジングに固定されるクランプ部と、前記可撓筒部の他方の端部に形成され、前記ハウジングに揺動・回転可能に結合されたボールスタッドに摺動可能に密嵌されるシールリップとを備え、前記環状谷部
又は環状山部の部位を構成する面、及びその面と伸縮方向に対向しかつ前記部位と同一もしくは隣接する環状谷部又は環状山部の部位を構成する面の双方に、それぞれ前記可撓筒部の圧縮変形状態において円周方向へ互いに係合される係合部が設けられたものである。
【0009】
本発明のダストカバーは、ボールジョイントに適宜圧縮状態で装着することによって、あるいはボールジョイントのボールスタッドの揺動への追随変形に伴う圧縮によって、可撓筒部の環状谷部又は
環状山部の部位を構成する面、及びその面と伸縮方向に対向しかつ前記部位と同一もしくは隣接する環状谷部又は環状山部の部位を構成する面の双方に、それぞれ設けられた係合部が互いに係合され、これによって前記環状谷部
又は環状山部の部位を構成する面、及びその面と伸縮方向に対向しかつ前記部位と同一もしくは隣接する環状谷部又は環状山部の部位を構成する面の円周方向相対変位が規制されるので、ボールスタッドの回転による可撓筒部の捩れ変形が抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るダストカバーによれば、可撓筒部の肉厚を増大させることなく、係合部の円周方向係合作用によって可撓筒部の捩れを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るダストカバーの第一の実施の形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係るダストカバーの第一の実施の形態を示す側面図である。
【
図3】本発明に係るダストカバーの第一の実施の形態を示す断面図である。
【
図4】本発明に係るダストカバーの第一の実施の形態を、ボールジョイントに装着した状態を示す断面図である。
【
図5】本発明に係るダストカバーの第一の実施の形態を、ボールジョイントに装着した状態におけるボールスタッドの揺動時の変形を示す断面図である。
【
図6】本発明に係るダストカバーの第二の実施の形態を示す斜視図である。
【
図7】本発明に係るダストカバーの第二の実施の形態を示す要部拡大図である。
【
図8】従来の技術に係るダストカバーの一例を、ボールジョイントに装着した状態を示す断面図である。
【
図9】従来の技術に係るダストカバーの他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るダストカバーの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず
図1〜
図5は、第一の実施の形態を示すものである。
【0013】
すなわち、第一の実施の形態のダストカバー1は、
図1、
図2及び
図3に示すように、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)によって成形されたものであって、環状谷部111を介して一対の環状山部112,113が形成された伸縮変形可能な蛇腹状の可撓筒部11と、この可撓筒部11の下端(請求項1における一方の端部に相当する)に形成された環状のクランプ部12と、可撓筒部11の上端(請求項1における他方の端部に相当する)に形成された内周シールリップ13及び外部シールリップ14とを備える。また
図3に示すように、内周シールリップ13及び外部シールリップ14が形成された上端部には、金属製の補強環15が埋設されている。
【0014】
可撓筒部11における環状谷部111を挟んで伸縮方向へ互いに対向する面のうち一方の面、すなわち図示の例では環状谷部111の上側の壁面111aには、複数の係合突部114が円周方向等間隔で形成されており、前記環状谷部111を挟んで伸縮方向(上下方向)へ互いに対向する面のうち他方の面、すなわち図示の例では環状谷部111の下側の壁面111bには、複数の係合凹部115が円周方向等間隔で形成されている。
【0015】
係合突部114及び係合凹部115は請求項1に記載された係合部に相当するものであって、互いに同位相上にあり、係合突部114よりも係合凹部115の縦横の幅がわずかに大きく、すなわち係合突部114と係合凹部115は互いに遊嵌可能となっている。また、これら係合突部114及び係合凹部115は金型を用いたダストカバー1の成形工程において形成される。
【0016】
上記の構成を備える第一の実施の形態のダストカバー1は、
図4に示すように、ボールジョイント2に装着される。
【0017】
詳しくは、ボールジョイント2は、ハウジング21と、このハウジング21内に設けられた合成樹脂製の軸受部22と、この軸受部22に回動自在に保持されたボール部231により揺動可能及び回転可能に結合されたボールスタッド23からなり、ハウジング21の上端開口部から外部へボールスタッド23の軸部232が延びている。
【0018】
ダストカバー1は、下端に形成されたクランプ部12がハウジング21の上端部外周面に形成された溝21aに密嵌された状態でスナップリング16によって緊結固定され、上端部に形成された内周シールリップ13がボールスタッド23の軸部232の外周面に円周方向摺動可能に密接されると共に、外部シールリップ14が、ボールスタッド23の軸部232に設けられた鍔部233の下面に円周方向摺動可能に密接される。そしてこの装着状態では、可撓筒部11は適当に圧縮されており、環状谷部111の上側の壁面111aに形成された係合突部114と、環状谷部111の下側の壁面111bに形成された係合凹部115が互いに遊嵌され、これによって円周方向に係合されている。
【0019】
このダストカバー1は、ボールジョイント2内への水やダストの浸入を防止すると共に、ボールジョイント2内に封入されたグリース(不図示)の流出を防止するものである。そして
図5に示すように、ボール部231を中心とするボールスタッド23の揺動に対して可撓筒部11が屈伸変形することによって追随することができる。
【0020】
また、ボールスタッド23が回動した場合は、このボールスタッド23の軸部232及び鍔部233に対する内周シールリップ13及び外部シールリップ14の滑りを生じる。このとき、ボールスタッド23の軸部232及び鍔部233に対する内周シールリップ13及び外部シールリップ14の摩擦抵抗によって、可撓筒部11には捩れ変形力が作用することになるが、環状谷部111の上側の壁面111aに形成された係合突部114と、環状谷部111の下側の壁面111bに形成された係合凹部115が互いに円周方向に係合しているため、これによって環状谷部111の両側の対向面(壁面111a,111b)間の円周方向相対変位が規制され、したがって可撓筒部11の捩れ変形が有効に抑制される。
【0021】
しかも、このような捩れ変形の抑制は、可撓筒部11の肉厚の増大により得ているものではないため、蛇腹状をなす可撓筒部11の柔軟な追随性が損なわれず、かつ耐疲労性を確保することができる。
【0022】
なお、図示の例では係合突部114及び係合凹部115は略長方形状となっているが、他の形状、例えば円形や台形などであっても良い。また、図示の例とは逆に、係合凹部115を環状谷部111の上側の壁面111aに形成し、係合突部114を環状谷部111の下側の壁面111bに形成しても、同様の効果を実現することができる。
【0023】
次に
図6及び
図7は、本発明に係るダストカバーの第二の実施の形態を示すものである。この実施の形態のダストカバー1は、環状谷部111の下側の壁面111bに、上述した第一の実施の形態における各係合凹部115に代えて、係合突部114の円周方向両側に隣接する位置と同位相上に位置する各一対の係合突条116,117を形成したもので、その他の部分は第一の実施の形態と同様に構成されている。
【0024】
係合突条116,117は円周方向に対して直交する方向へ延びるものであって、
図7に示すボールジョイント2への装着状態では、可撓筒部11が適当に圧縮変形されることによって、係合突部114をその円周方向両側から挟むように遊嵌され、これによって係合突部114と係合突条116,117が円周方向に対して互いに係合されるようになっている。
【0025】
したがって第一の実施の形態と同様、ボールスタッド23が回動したときの内周シールリップ13及び外部シールリップ14の摩擦抵抗によって可撓筒部11に捩れ変形力が作用しても、係合突部114と係合突条116,117の係合によって環状谷部111の両側の対向面(壁面111a,111b)間の円周方向相対変位が規制され、可撓筒部11の捩れ変形が有効に抑制される。
【0026】
なお、図示の例とは逆に、係合突条116,117を環状谷部111の上側の壁面111aに形成し、係合突部114を環状谷部111の下側の壁面111bに形成しても同様の効果を実現することができる。
【0027】
また、上述した各実施の形態では、係合突部114と係合凹部115、あるいは係合突部114と係合突条116,117を可撓筒部11の外側面に形成しているが、これを例えば
図4における環状山部112の互いに対向する内面112a,112b及び(又は)環状山部113の互いに対向する内面113a,113bに形成しても、同様の効果を実現することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ダストカバー
11 可撓筒部
111 環状谷部
111a,111b 壁面(対向面)
112,113 環状山部
114 係合突部(係合部)
115 係合凹部(係合部)
116,117 係合突条(係合部)
12 クランプ部
13 内周シールリップ
14 外部シールリップ
2 ボールジョイント
21 ハウジング
22 軸受部
23 ボールスタッド
231 ボール部
232 軸部
233 鍔部