(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967355
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】エンジンのチェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20160728BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-62241(P2012-62241)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-194817(P2013-194817A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】成田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 知治
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−030627(JP,A)
【文献】
特開平10−196747(JP,A)
【文献】
特開2011−226534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのタイミングチェーンに張力を付与するプランジャが突き出し自在に収められたシリンダと、前記シリンダ内へエンジンのオイルギャラリからのオイルを供給する供給路と、前記シリンダ内のオイルを外部へ排出させる排出路とを有し、前記排出路からのオイルの排出により、前記プランジャの突出量を可変させ、前記タイミングチェーンの張力を一定に保つエンジンのチェーンテンショナであって、
前記排出路は、前記シリンダ内の油圧に応じて外部へオイルを排出する第一排出路と、前記エンジンのオイルギャラリからの油圧に応じて外部へオイルを排出する第二排出路とを含む複数の通路で構成されるとともに、当該排出路をなす複数の通路の流路断面積の合計が前記供給路の流路断面積よりも小さくしてあり、少なくとも前記第一排出路及び第二排出路にはオイルの排出量を可変する排出量可変手段がそれぞれ設けられ、
前記第一排出路の前記排出量可変手段は、前記エンジンのオイルギャラリからの油圧と前記タイミングチェーンの張力によって定まる前記シリンダ内の油圧に応じて前記第一排出路から外部へ排出されるオイルの排出量を可変し、
前記第二排出路の前記排出量可変手段は、前記エンジンのオイルギャラリからの油圧に応じて前記第二排出路から外部へ排出されるオイルの排出量を可変する
ことを特徴とするエンジンのチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記第二排出路の前記排出量可変手段は、前記オイルギャラリの油圧が通常時のときよりも低いとき、前記第二排出路からの排出量を減らすものであることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記第二排出路の前記排出量可変手段は、前記第二排出路に排出量を変更する弁部を設けて構成され、前記弁部が、前記オイルギャラリからのオイルの油圧が、通常時よりも低くなると、閉じ側へ変位し、前記第二排出路からの排出量を減らすものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジンのチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記弁部は、前記第二排出路を開閉する弁体がスライド自在に収められた筒形の弁室と、前記弁室の片側へ前記オイルギャラリからのオイルを導くオイル通路と、前記弁室の反対側から前記弁体を付勢し、前記オイルギャラリの油圧が低くなると、前記弁体を閉じ側へ変位させる付勢部材とを有して構成されることを特徴とする請求項3に記載のエンジンのチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記弁部は、前記オイルギャラリの油圧が高くなるにしたがい、徐々に開き側へ変位するものであることを特徴とする請求項3に記載のエンジンのチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記第二排出路の前記排出量可変手段は、前記エンジンの運転状態に応じてタイミングチェーンの張力が設定され、当該設定された張力に基づき前記第二排出路から排出されるオイルの排出量を定める排出量設定手段と、設定された排出量にしたがって前記第二排出路からのオイルの排出量を調整する排出量調整手段とを有して構成されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸出力をカムシャフトへ伝えるタイミングチェーンの張力を保持するエンジンのチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式のエンジンの多くは、タイミングチェーンを用いて、クランクシャフトの軸出力をカムシャフトへ伝えている。タイミングチェーンは適正な張りが求められるため、エンジンでは、プランジャの突き出しでチェーンへ張力を付与するチェーンテンショナを用いて、タイミングチェーンに適正な範囲で張力を与えている。
チェーンテンショナの多くは、特許文献1にも開示されているようなプランジャが突き出し自在に収められたシリンダに、エンジンのオイルギャラリからのオイルを受ける供給路と、シリンダ内のオイルを外部へ排出させる排出路とを設けた構造が用いられている。
【0003】
これで、排出路からのオイルの排出量にしたがい、プランジャの突出量を可変させ、タイミングチェーンの張力を一定に保つ。すなわち、タイミングチェーンの張力が不足すると、プランジャが、シリンダ内に満たされるオイルの油圧で押されてシリンダから突き出し、タイミングチェーンの張力が過度になると、外部へ排出されるオイルの排出量が多くなり、プランジャが退避(戻る)という挙動で、タイミングチェーンの張力を一定に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−154850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンは、運転状態が変化したりオイルの状態が変化(劣化を含む)したりなどする。このようなことが生じると、エンジンのオイルギャラリからのオイルの油圧は変化する。ディーゼルエンジンでは、オイルパン内に貯留されたオイルが劣化、例えば燃焼室の未燃燃料(軽油)が要因で、かなり希釈されると、エンジンの内部を循環するオイルの粘度が低下し、オイルギャラリからの油圧を通常時のときよりも低下させてしまう。
【0006】
ところが、上記チェーンテンショナは、エンジン(オイルギャラリ)の通常時における油圧に依存して張力を保つ構造なので、こうした油圧の変化にプランジャの突出量が対応できない。
そこで、本発明の目的は、プランジャの突出量が応答性よく変えられるエンジンのチェーンテンショナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、エンジンのタイミングチェーンに張力を付与するプランジャが突き出し自在に収められたシリンダと、シリンダ内へエンジンのオイルギャラリからのオイルを供給する供給路と、シリンダ内のオイルを外部へ排出させる排出路とを有し、排出路からのオイルの排出により、プランジャの突出量を可変させ、タイミングチェーンの張力を一定に保つエンジンのチェーンテンショナであって、排出路は、シリンダ内の油圧に応じて外部へオイルを排出する第一排出路と、エンジンのオイルギャラリからの油圧に応じて外部へオイルを排出する第二排出路とを含む複数の通路で構成されるとともに、
当該排出路をなす複数の通路の流路断面積の合計が供給路の流路断面積よりも小さくしてあり、少なくとも第一排出路及び第二排出路にはオイルの排出量を可変する排出量可変手段がそれぞれ設けられ、第一排出路の排出量可変手段は、エンジンのオイルギャラリからの油圧とタイミングチェーンの張力によって定まるシリンダ内の油圧に応じて第一排出路から外部へ排出されるオイルの排出量を可変し、第二排出路の排出量可変手段は、エンジンのオイルギャラリからの油圧に応じて第二排出路から外部へ排出されるオイルの排出量を可変することとした。
これにより、プランジャの突出量は、供給されるオイルの油圧を考慮して可変されるので、応答性よく突出量の可変が行える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、簡単な構造でタイミングチェーンの張力が一定に保てるよう、
第二排出路の排出量可変手段は、オイルギャラリの油圧が通常時のときよりも低いとき、
第二排出路からの排出量を減らす手段とした
。
【0009】
請求項3に記載の発明は、簡単な構造ですむよう、第二排出路の排出量可変手段は、第二排出路に排出量を変更する弁部を設けて構成され、弁部が、オイルギャラリからのオイルの油圧が、通常時よりも低くなると、閉じ側へ変位し、第二排出路からの排出量を減らすものとした
。
【0010】
請求項4に記載の発明は、さらにコスト的に安価な構造ですむよう、弁部は、第二排出路を開閉する弁体がスライド自在に収められた筒形の弁室と、弁室の片側へオイルギャラリからのオイルを導くオイル通路と、弁室の反対側から弁体を付勢し、オイルギャラリの油圧が低くなると、弁体を閉じ側へ変位させる付勢部材とを有して構成される構造を採用した。
請求項5に記載の発明は、オイルギャラリの油圧が高くなるとき、プランジャの突出量が急激に変化しないよう、
弁部を、オイルギャラリの油圧が高くなるにしたがい、徐々に開き側へ変位させることにした。
【0011】
請求項6に記載の発明は、エンジンの運転状態に応じた適切な張力が保てるよう、第二排出路の排出量可変手段は、エンジンの運転状態に応じてタイミングチェーンの張力が設定され、当該設定された張力に基づき第二排出路から排出されるオイルの排出量を定める排出量設定手段と、設定された排出量にしたがって第二排出路からのオイルの排出量を調整する排出量調整手段とを有して構成するものとした。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、プランジャの突出量はオイルギャラリの油圧を考慮して可変されるから、プランジャの突出量を応答性よく可変することができる。
請求項2の発明によれば、簡単な構造でタイミングチェーンの張力を一定に保つことができる
。
【0013】
請求項3の発明によれば、第二排出路の排出量可変手段は、弁構造を用いるだけでの簡単な構造ですむ
。
請求項4の発明によれば、コスト的に安価な弁部ですみ、安価な第二排出路の排出量可変手段が実現できる。
【0014】
請求項5の発明によれば、プランジャの突出量の急激な変化を抑えることができる。
請求項6の発明によれば、エンジンの運転状態に応じた適切な張力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るチェーンテンショナを、同テンショナを組み込んだエンジンと共に示す正面図。
【
図3】本発明の第2の実施形態の要部となるチェーンテンショナの構造示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を
図1および
図2に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
図1はレシプロ式のエンジン、例えばディーゼルエンジンの正面図を示していて、
図1中1はエンジン本体を示している。同エンジン本体1を説明すると、エンジン本体1は、気筒(図示しない)が形成されたシリンダブロック2をもつ。このシリンダブロック2の上部に、動弁機構(図示しない)を収めたシリンダヘッド3およびヘッドカバー4が搭載され、下部に、オイル圧送ポンプ(図示しない)が収められたオイルパン5が設けられている。
【0017】
シリンダブロック2の正面側の端壁からは、気筒内に収めてあるピストン(図示しない)とつながるクランクシャフト7の端部が突き出ている。このクランクシャフト7の端部には、クランクスプロケット8が設けてある。またシリンダヘッド3の正面側の端壁からは、動弁機構を構成するカムシャフト9の端部が突き出ている。このカムシャフト9の端部には、カムスプロケット10が設けてある。
【0018】
クランクスプロケット8とカムスプロケット10間には、タイミングチェーン13が掛け渡され、クランクシャフト7の軸出力がカムシャフト9へ伝達され、各気筒の吸・排気弁(図示しない)を駆動する構造にしている。オイル圧送ポンプは、オイルパン5内に貯留されたオイル(図示しない)を、シリンダブロック2に設けたメインオイルギャラリ2a(
図1に一部だけ図示:本願のオイルギャラリに相当)を通じて、潤滑の必要とされる各部へ供給する。
【0019】
シリンダブロック2、シリンダヘッド3の正面側の端壁には、チェーンカバー14が設けられ(一部しか図示せず)、各スプロケット8,10およびタイミングチェーン13を覆い、外部から隔てている。ちなみに、チェーンカバー14の下部壁(図示しない)は、オイルパン5内と連通するオイル戻し孔(図示しない)を有する。
またシリンダブロック2の正面側の端壁のうち、クランクスプロケット8、カムスプロケット10間のタイミングチェーン13を挟んだ、タイミングチェーン13の引っ張り側には、固定式のチェーンガイド15が設けられる。反対側のタイミングチェーン13の緩み側には、可動式、ここでは搖動式のチェーンガイド16が設けられている。この搖動式のチェーンガイド16に、チェーンテンショナ19が組み付き、チェーンガイド16を通じて、タイミングチェーン13に張力を与える。
【0020】
このチェーンテンショナ19には、エンジンのオイルギャラリからのオイル、例えばメインオイルギャラリ2aからのオイルを用いて、プランジャ26を突き出させるプランジャ部21が用いられている。
図2にはこのプランジャ部21の概略的な構造が示されている。
プランジャ部21を説明すると、23は、シリンダブロック2の端壁部分に取り付けられた盤状のベースを示している。同ベース23は、チェーンガイド16の搖動側に形成されている押力受部16aと隣接した地点に設けられる。ベース23には、押力受部16aと向き合う方向に沿ってシリンダ25が形成されている。シリンダ25は、押力受部16a側を開口させた有底筒形をなしている。このシリンダ25内に、上記プランジャ、ここでは先端側を底部とした有底筒形のプランジャ26が摺動自在に収められ、シリンダ25の内部に圧力室25aを形成している。ちなみにプランジャ26の先端となる底壁26aには、プランジャ26の内外を連通させる孔で形成されたオイル排出孔28
(第一排出路)が形成されている。
【0021】
シリンダ25の圧力室25aは、ベース23に形成されたオイル供給通路30(本願の供給路に相当)と連通している。このオイル供給通路30は、エンジンのメインオイルギャラリ2aから延びる通路(図示しない)と連通している。オイル供給通路30には、逆止弁31が設けられ、オイル供給通路30、逆止弁31を通じて圧力室25aへ供給されるメインオイルギャラリ2aからのオイルにて、プランジャ26をシリンダ25外へ突き出させる構造としている。このプランジャ26により、チェーンガイド16の押力受部16aを押し、チェーンガイド16を搖動させ、タイミングチェーン13を張る。
【0022】
またプランジャ26内には、ベント構造として、例えばベントディスク33
(第一排出路の排出量可変手段)が移動自在に収められている。このベントディスク33は、スプリング部材34により、オイル排出孔28を塞ぐ方向に付勢されていて、ベントディスク33によるオイル排出孔28からのオイルの排出で、プランジャ26の突出量を可変させる構造としている。
すなわち、タイミングチェーン13の張力が不足すると、ベントディスク33が閉側に変位して、オイル排出孔28を小さくあるいは閉じ、圧力室25a内におけるオイルの油圧を高め、同油圧でプランジャ26をシリンダ25から突出させる。反対にタイミングチェーン13の張力が過度になると、荷重がプランジャ26へ加わる挙動で、圧力室25a内におけるオイルの油圧が過度に高まり、同圧力に応じて、ベントディスク33を開側に変位させる。これで、オイル排出孔28からオイルを外部(チェーンカバー内)へ排出させ、プランジャ26の退避を許す。つまり、プランジャ26の突出量は、オイル排出孔28から排出されるオイルの排出量にしたがい、タイミングチェーン13の張力が一定(適正な張力範囲)に保てるよう可変される。
【0023】
このチェーンテンショナ19には、プランジャ26の突出量を応答性よく可変できるよう工夫が施されている。このため、チェーンテンショナ19には、排出されるオイルの排出量をエンジンからのオイルの油圧で可変する排出量可変機構35(
第二排出路の排出量可変手段)が組み込まれている。
ここで、オイルパン5内のオイルは、シリンダとピストンとの間を通じて燃焼室から漏れる未燃燃料(軽油)で希釈されやすい。希釈されると、オイルの粘度は低下し、所定に保たれるはずの油圧が低下する。ここで、チェーンテンショナ19は、メインオイルギャラリ2aの油圧が通常範囲にあるときを前提として作動するため、通常範囲以下に油圧が低下した場合、プランジャ26の突出量は確保され難くなる。
【0024】
こうしたプランジャ26の応答性を改善するために、
図2に示されるような排出量可変機構35を用いて、メインオイルギャラリ2a(エンジン)の油圧が通常時のときよりも低くなるとき、オイルの排出量を減らす構造にしている。
ここでは、排出量可変機構35は、オイル排出系統をオイル排出孔28からの一系統でなく、複数の系統から形成される排出路37を用い、複数系統(排出路37)の一部に弁部38を組み付けて、メインオイルギャラリ2aの油圧が、通常時(適正な張力範囲)より低下すると、オイルの総排出量を変更する構造が用いられる。
【0025】
具体的には
図2に示されるように排出路37は、ベース23に、オイル排出孔28とは別に、圧力室25のオイルを外部へ排出させるオイル排出通路40(
第二排出路)を設けて構成される。オイル排出通路40は、一端が圧力室25と連通し、他端がベース23外(チェーンカバー内)に開口する通路で形成される。ちなみに、オイル排出孔28がなす流路断面積A1とオイル排出通路40がなす流路断面積A2との合計は、オイル供給路30がなす流路断面積Bよりも小さく設定されている(「A1+A2」<B)。つまり、オイル排出通路40とオイル排出孔28との二つの通路から排出されるオイルの総排出量は、オイル供給路30から圧力室25へ供給されるオイルの供給量よりも小さくしてある(プランジャ26に油圧が加わりやすくするため)。
【0026】
弁部38は、
図2に示されるようにオイル排出通路40に設けられる。同弁部38は、オイル排出通路40と交差する方向に設けた筒形の弁室42と、オイル排出通路40を開閉するよう弁室42内にスライド自在に収められたピン形の弁体44と、弁室42の弁体44を挟んだ片側の端部と連通するオイル通路46と、弁室42の反対側から弁体44を付勢するスプリング部材48とを有して構成される。
【0027】
オイル通路46の残る端部は、エンジン本体1、例えばメインオイルギャラリ2aと連通していて、弁室42の片側へエンジンのオイルが導かれる。つまり、メインオイルギャラリ2aからの油圧が弁体44に加わるようにしている。スプリング部材48は、弁体44を閉じ側に付勢させる付勢部材である。通常、弁体44は、メインオイルギャラリ2aから供給されるオイルの油圧によって、
図2中の二点鎖線のようにスプリング部材48の弾性力に打ち勝ち、オイル排出通路40を開放させる。オイルの油圧が、通常時(適正な張力範囲)よりも低下したとき、弁体44がスプリング部材48の弾性力により、閉じ側へ変位してオイル排出通路40を閉じ、オイルの総排出量を減らす、特に通常時の高い油圧のときに比べてオイルの排出量を少なくしている。これで、エンジンから供給されるオイルの油圧が通常時よりも低下したとき、通常のときと同様の応答性を確保すべく、プランジャ26を突出させるようにしている。
【0028】
すなわち、通常の、適正なオイルの油圧のもとで突出するプランジャ26によって、タイミングチェーン13に適正な張力を与えている際、例えばエンジンのオイルが、燃料の混入による希釈で、かなり粘度が低下したとする。すると、メインオイルギャラリ2aからのオイルの油圧は、このオイル劣化により、通常時よりも低下してしまう。
ここで、通常では、プランジャ26は、圧力室25aに供給されるオイルよりも、圧力室25aから排出されるオイルが少ない状況で作動するため、応答性よく突出するが、上記のようにメインオイルギャラリ2aからの油圧が低下すると、オイルの供給量が減少し、オイルの排出量に対して不足する状態になるため、プランジャ26の応答性が損なわれる。
【0029】
このとき、排出量可変機構35では、メインオイルギャラリ2aからの油圧が下がることによって弁体44が、スプリング部材48の弾性力により、閉じ側へ変位し、オイル排出通路40を狭める、あるいは閉じる。
これにより、チェーンテンショナ19からのオイルの総排出量は減少し、オイルの排出量に対するオイルの供給不足を解消する。これで、再びプランジャ26は、圧力室25aのオイルにより突き出る。すなわち、プランジャ26の突出量が可変され、タイミングチェーン13に適正な張力を付与する。むろん、オイルの劣化が解消され、メインオイルギャラリ2aからの油圧が回復すると、オイル排出通路40は、弁体44の開き側の変位により開放される。ちなみに、弁体44は、スプリング部材48の弾性力により弁体44に加わる油圧が高くなると、徐々に開き側へ変位する。
【0030】
したがって、プランジャ26の突出量は、排出量可変機構35により、メインオイルギャラリ2aからの油圧を考慮して可変されるため、油圧が通常時ときより低下するような状況でも、プランジャ26の突出量を応答性よく可変することができる。それ故、常にタイミングチェーン13の張力を一定に保つことができる。
しかも、排出量可変機構35は、メインオイルギャラリ2aの油圧が通常時のときよりも低いとき、オイルの排出量を減らすだけなので、簡単な構造で、タイミングチェーン13の張力を一定に保つことができる。特にオイルの排出量は、通常時の高い油圧のときよりも少なくしてあるので、低下する油圧に対して迅速に対処できる。そのうえ、排出量可変機構35は、排出路37を複数の通路(オイル排出孔28、オイル排出通路40)で形成し、同通路に弁部38を設けた構造を用いたので、既存の通路構造を用いた簡単な構造ですむ。加えて、排出路37をなすオイル排出孔28の流路断面積A1と、オイル排出通路40の流路断面積A2との合計を、オイル供給路30の流路断面積Bよりも小さくしてあるから、高い応答性で、タイミングチェーン13に一定の張力を付与できる。
【0031】
特に排出量可変機構35の弁部38は、スライド式の弁構造を用いたので、コスト的に安価で、安価な排出量可変機構35が実現できる。しかも、弁部38の弁体44は、オイルの油圧が高くなるとき、徐々に開き側に変位するようにしてあるので、オイルの油圧が急激に高くなることがあっても、プランジャ26の突出量が急激に変化することはなく、タイミングチェーン13に過度な負担を強いることはない。
【0032】
第1の実施形態では、弁部として、スライド式の弁構造を採用したが、これに限らず、他の弁構造、例えば電磁弁を用いて、オイルギャラリの油圧が低下するとき、オイル排出通路を閉じる方向へ変位させてもよく、弁構造には限定されるものではない。
図3は、本発明の第2の実施形態を示す。
本実施形態は、第1の実施形態のようなメインオイルギャラリの油圧が低下するとオイルの総排出量を可変したのではなく、エンジンの運転状態に応じたタイミングチェーンの張力を用いて、オイルの総排出量を制御して、タイミングチェーンの張力を一定にするものである。
【0033】
すなわち、
図3に示されるように本実施形態は、スライド式の弁部38の代わりに電磁弁50(本願の排出量調整手段に相当)を設け、同電磁弁50に制御部52を接続して、制御部52に予め設定されたエンジンの運転状態に応じたオイル排出量にしたがい電磁弁50(本願の排出量調整手段に相当)の開度を調整する。具体的には、制御部52では、エンジンの運転状態に応じたタイミングチェーン13の張力が設定してある。さらに制御部52には、設定された張力に基づき排出路37から排出されるオイルの総排出量を定める排出量設定機能(排出量設定手段に相当)と、設定された総排出量にしたがってオイル排出通路40からのオイルの排出量を電磁弁50で調整する調整機能(本願の排出量調整手段に相当)が設定されていて、エンジンの運転状態に基づいたオイルの排出量にしたがい、電磁弁50の開度を調整して、プランジャ26の突出量を可変する構造とした。
図3において、
図2と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略した。
【0034】
これにより、例えば制御部52は、エンジンの運転状態、例えば制御部52へ入力されるエンジンの回転数信号や油圧信号などにより、エンジンが低回転数で油圧が低いとき、電磁弁52でオイルの排出量を多くして張力を弱め、エンジンが高回転数で油圧が高いとき、電磁弁52でオイルの排出量を少なくして張力を高める。これで、常にプランジャ26の応答性は良好に保たれ、エンジンの運転状態に応じて適切にタイミングチェーン13の張力を一定に保つことができる。特にエンジンが低回転数で低油圧のとき、オイルの排出量を多くして、タイミングチェーン13の張力を弱める構造は、エンジンのフリクションの低減も図ることができる。
【0035】
なお、第2の実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば電磁弁を用いたが、他の開閉構造を用いても構わない。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン本体
2a メインオイルギャラリ(オイルギャラリ)
13 タイミングチェーン
16 可動式のチェーンガイド
19 チェーンテンショナ
25 シリンダ
26 プランジャ
28 オイル排出孔
(第一排出路)
30 オイル供給通路(供給路)
33 ベントディスク(第一排出路の排出量可変手段)
35 排出量可変機構(
第二排出路の排出量可変手段)
37 排出路
38 弁部
40 オイル排出通路(第二排出路)
42 弁室
44 弁体
46 オイル通路
48 スプリング部材(付勢部材)
50 電磁弁(排出量調整手段)
52 制御部(排出量設定手段)