特許第5967402号(P5967402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967402
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】床コンクリートのひび割れ抑制構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   E04B1/62 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-263648(P2011-263648)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-117089(P2013-117089A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 晴一郎
(72)【発明者】
【氏名】富樫 貞雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 加奈
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−331670(JP,A)
【文献】 特開平02−058655(JP,A)
【文献】 特開2006−028897(JP,A)
【文献】 実開昭62−124110(JP,U)
【文献】 特開2006−009460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62
E04B 5/00 − 5/48
E04B 1/24
E04B 2/88 − 2/96
E04F 15/14
E02D 27/00 − 27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床コンクリートとこの床コンクリートに設けられる構造体とを、床コンクリートの乾燥収縮や温度差による膨張に対する緩衝材を介して接続したものであり、前記緩衝材はネオプレーンゴムで構成されることを特徴とする床コンクリートのひび割れ抑制構造。
【請求項2】
前記構造体は建物の柱脚であり、前記緩衝材をこの柱脚の周囲に接着したことを特徴とする請求項1に記載の床コンクリートのひび割れ抑制構造。
【請求項3】
前記柱脚はその下端に設けたベースプレートを介して建物の基礎にボルトで固定されるものであり、前記ベースプレート上面から突出した前記ボルトの端部に絶縁材を被覆して前記ボルトの拘束から前記床コンクリート縁切りしたことを特徴とする請求項2に記載の床コンクリートのひび割れ抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の土間コンクリートやスラブコンクリートなどの床面用の床コンクリートの乾燥収縮等に伴うひび割れ発生を抑制するようにした床コンクリートのひび割れ抑制構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土間コンクリートにおいては、コンクリートの乾燥収縮や温度差による膨張に伴うひび割れを集中させる目的で、図3に示すように、ひび割れ誘発目地1をメッシュ状に土間コンクリート2に設けている。
【0003】
この目地1は通常、カッター等でコンクリート2の表面に切れ込みを入れることにより施工されるが、土間コンクリート2内にワイヤーメッシュ筋などの鉄筋を配筋する構造の場合には、目地1の位置で鉄筋を切断する手間や、あるいは、目地1の位置で不連続となるように予め配筋しておくといった手間がかかり、コストを押し上げる要因となっていた。
【0004】
こうした問題に対し、施工能率を高めて手間を少なくした誘発目地として、例えば特許文献1の構造が知られている。
【0005】
また、柱脚3周りの目地1については施工性等を考慮して柱脚3から所定距離隔てて配置されるのが通常である。
【0006】
この柱脚3周りの土間コンクリート2を施工する場合には、まず、図4に示すように、柱脚3から所定距離隔てた位置にエラスタイト等の緩衝材からなる目地部材4を配置した後、この目地部材4の外側の部分に先行して土間コンクリート2aを打設し、次いで柱脚3周囲の部分に根巻コンクリート2bを打設する。そして最後に、不陸調整のためこれら土間コンクリート2a、目地部材4、根巻コンクリート2bの表面を覆うようにセルフレベリング材などの仕上材5を敷設して表面を平滑に仕上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−240769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、システムキッチン等のショールームにおいては床面の見栄えにも十分配慮する必要がある。ここで、床面のひび割れ防止のために上記のひび割れ誘発目地を土間コンクリートに設けた場合には、仕上材を通じて目地のラインが床面に浮かび上がったり、あるいは、目地を挟んで別々に打設した土間コンクリート間で段差が生じたりして、床面の美観が損なわれてしまう。さらに、こうした段差等によってシステムキッチンの底面と床面との間に隙間が生じる場合も見栄えが損なわれることになる。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、土間コンクリートやスラブコンクリートなどの床面用の床コンクリートにおいて、目地によって床面の美観を損ねない床コンクリートのひび割れ抑制構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造は、床コンクリートとこの床コンクリートに設けられる構造体とを、床コンクリートの乾燥収縮や温度差による膨張に対する緩衝材を介して接続したものであり、前記緩衝材はネオプレーンゴムで構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造は、上述した請求項1において、前記構造体は建物の柱脚であり、前記緩衝材をこの柱脚の周囲に接着したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造は、上述した請求項2において、前記柱脚はその下端に設けたベースプレートを介して建物の基礎にボルトで固定されるものであり、前記ベースプレート上面から突出した前記ボルトの端部に絶縁材を被覆して前記ボルトの拘束から前記床コンクリート縁切りしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、床コンクリートとこの床コンクリートに設けられる構造体とを、緩衝材を介して接続したので、土間コンクリートやスラブコンクリートなどの床面用の床コンクリートにおける乾燥収縮や熱膨張等に伴う変位は緩衝材によって吸収され、コンクリートの内部応力は構造体による拘束を受けにくくなる。
【0014】
したがって、床コンクリートの中間部に目地を設けることなくコンクリートのひび割れを抑制することができ、目地によって床面の美観を損ねない床コンクリートのひび割れ抑制構造を提供することができるという効果を奏する。
【0015】
また、この構造体周囲の床コンクリートは一度に打設できるため従来の目地のように両側で段差が生じるおそれもない。床面に目地のラインも段差も生じないので、システムキッチン等のショールームの床面にふさわしい見栄えに配慮された美しい外観の床面を提供することができる。
【0016】
また、本発明の他の構成によれば、上述した構成において、前記構造体は建物の柱脚であり、前記緩衝材をこの柱脚の周囲に接着したので、構造体として建物の土間コンクリートと境界面を有して設けられることが多い柱脚を用いることができる。
【0017】
また、緩衝材を柱脚の周囲に接着する構成とすることで柱脚および土間コンクリートの施工性が高められる。また、この柱脚周囲の土間コンクリートは一度に打設できるため従来の目地のように両側で段差が生じるおそれもない。
【0018】
また、本発明の他の構成によれば、上述した構成において、前記柱脚はその下端に設けたベースプレートを介して建物の基礎にボルトで固定されるものであり、前記ベースプレート上面から突出した前記ボルトの端部に絶縁材を被覆して前記床コンクリートと縁切りしたので、床コンクリートとボルトの端部との直接的な接触が回避され、ボルトによる拘束に起因する床コンクリートのひび割れ発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造の一例を示す側断面図である。
図2図2は、本発明に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造の一例を示す上面図である。
図3図3は、従来の土間コンクリートのひび割れ誘発目地構造の一例を示す上面図である。
図4図4は、従来の土間コンクリートのひび割れ誘発目地構造の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例では建物の土間コンクリートに適用される場合を例にとり説明するが、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図1および図2(1)に示すように、本発明に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造10は、建物の土間コンクリート12(床コンクリート)とこの土間コンクリート12に隣接して設けた角形鋼管からなる鉄骨柱脚14(構造体)とを、緩衝材16を介して接続したものである。
【0022】
鉄骨柱脚14は、その下端に溶接された矩形のベースプレート18を介して敷砂20を挟んで建物のコンクリート基礎22にアンカーボルト24および締結ナット26によって固定されている。アンカーボルト24はベースプレート18の四隅に配置してある。
【0023】
一方、部屋の床面を構成する土間コンクリート12は、敷砂20および断熱材28の上に打設されており、その内部には格子状に組まれたワイヤーメッシュ筋30が上下二段に配筋されている。
【0024】
緩衝材16は、土間コンクリート12の乾燥収縮や熱膨張等、あるいは、鉄骨柱脚14が変形することによって土間コンクリート12と鉄骨柱脚14とが相対的に変位した際の土間コンクリート12に対する応力負担を低減するためのものである。緩衝材16は、鉄骨柱脚14の周囲に巻き付けて接着剤等で接着することで鉄骨柱脚14と一体化してある。
【0025】
緩衝材16の材質としては、土間コンクリート12の乾燥収縮や熱膨張などに伴う変位を吸収可能なシート状の可撓性材料を用いることができ、例えば発泡ポリエチレンフォームやネオプレーンゴム等で構成可能である。緩衝材16の巻厚は例えば15mm程度とすることができる。
【0026】
また、ベースプレート18上面から突出したアンカーボルト24の端部には絶縁材32が被覆してあり、その周辺の土間コンクリート12と縁切りしてある。こうすることで、土間コンクリート12とアンカーボルト24の端部との直接的な接触が回避され、アンカーボルト24の端部が土間コンクリート12を拘束することによるひび割れ発生を未然に防止することができる。ここで、絶縁材32としては、例えば発泡ポリエチレンからなる材料を用いることが可能である。また、絶縁材32は、図2(1)に示すように、四隅全てのアンカーボルト24の端部を含むようにベースプレート18上面に沿って連続的に被覆してもよいし、四隅のアンカーボルト24の端部のみに被覆配置してもよい。
【0027】
なお、本実施例ではベースプレート18外縁のコンクリート基礎22上にも絶縁材34を設けてある。こうすることで、土間コンクリート12の荷重がなるべくベースプレート18に作用しないようにしている。
【0028】
以上のように構成した本発明のひび割れ抑制構造10によれば、土間コンクリート12における乾燥収縮や熱膨張等に伴う変位は緩衝材16によって吸収され、コンクリート12の内部応力は鉄骨柱脚14による拘束を受けにくくなる。
【0029】
したがって、土間コンクリート12の中間部に目地を設けることなくコンクリートのひび割れを抑制することができ、従来のひび割れ誘発目地を設ける場合に比べて床面の美観を損ねることがない。また、この鉄骨柱脚14の周囲の土間コンクリート12は一度に打設できるため従来の目地のように両側で段差が生じるおそれもない。
【0030】
特に、本発明によれば、床面に目地のラインも段差も生じないので、システムキッチン等のショールームの床面にふさわしい見栄えに配慮された美しい外観の床面を得ることができる。
【0031】
また、本発明によれば、土間コンクリートと境界面を有して設けられることが多い柱脚の周囲に緩衝材を接着する構成としている。緩衝材16を予め柱脚14に巻き付けて一体化しておき、この周囲に土間コンクリート12を打設する手順により施工すれば、柱脚14とこの周囲の土間コンクリート12の施工性が向上する。
【0032】
上記の実施の形態において、床コンクリートとして建物の土間コンクリート12の場合を例にとり説明したがこれに限るものではなく、例えば、表面にひび割れを誘発するおそれのあるスラブコンクリートとしても適用可能であり、いずれにしても上記の実施例と同様の作用効果を奏することができる。
【0033】
また、上記の実施の形態において、構造体として角形鋼管からなる鉄骨柱脚14を用いて説明したが、これに限るものではなく、例えば、図2(2)に示されるような円形鋼管からなる鉄骨柱脚14aとしても適用可能であり、いずれにしても上記の実施例と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
なお、上記の実施の形態において、ひび割れをより一層抑制するために、土間コンクリート12打設後のコンクリート養生期間を十分確保することが好ましい。例えば数日間周囲にシートを張り、表面にシートを敷き、散水による湿潤養生等を実施するようにしてもよい。また、土間コンクリート12の混和材として膨張剤を添加するようにしてもよい。
【0035】
さらに、コンクリート養生後においては、土間コンクリート12上での作業に高所作業車などの重量のある設備は使用せず、電動ローリングや梯子リフトなどの軽量な仮設足場設備を使用して硬化した土間コンクリート12に負担が掛からぬようにすることが好ましい。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、床コンクリートとこの床コンクリートに設けられる構造体とを、緩衝材を介して接続したので、土間コンクリートやスラブコンクリートなどの床面用の床コンクリートにおける乾燥収縮や熱膨張等に伴う変位は緩衝材によって吸収され、コンクリートの内部応力は構造体による拘束を受けにくくなる。
【0037】
したがって、床コンクリートの中間部に目地を設けることなくコンクリートのひび割れを抑制することができ、目地によって床面の美観を損ねない床コンクリートのひび割れ抑制構造を提供することができる。
【0038】
また、この構造体周囲の床コンクリートは一度に打設できるため従来の目地のように両側で段差が生じるおそれもない。床面に目地のラインも段差も生じないので、システムキッチン等のショールームの床面にふさわしい見栄えに配慮された美しい外観の床面を提供することができる。
【0039】
また、本発明の他の構成によれば、上述した構成において、前記構造体は建物の柱脚であり、前記緩衝材をこの柱脚の周囲に接着したので、構造体として建物の土間コンクリートと境界面を有して設けられることが多い柱脚を用いることができる。
【0040】
また、緩衝材を柱脚の周囲に接着する構成とすることで柱脚および土間コンクリートの施工性が高められる。また、この柱脚周囲の土間コンクリートは一度に打設できるため従来の目地のように両側で段差が生じるおそれもない。
【0041】
また、本発明の他の構成によれば、上述した構成において、前記柱脚はその下端に設けたベースプレートを介して建物の基礎にボルトで固定されるものであり、前記ベースプレート上面から突出した前記ボルトの端部に絶縁材を被覆して前記床コンクリートと縁切りしたので、床コンクリートとボルトの端部との直接的な接触が回避され、ボルトによる拘束に起因する床コンクリートのひび割れ発生を未然に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明に係る床コンクリートのひび割れ抑制構造は、建物の土間コンクリートやスラブコンクリートなどの床面用の床コンクリートの乾燥収縮等に伴うひび割れ発生を抑制するのに有用であり、特に、床コンクリートの中間部にひび割れ誘発目地を設けることなく床面の美観を確保し、これによりシステムキッチン等のショールームの床面にふさわしい見栄えに配慮された美しい外観の床面を得るのに適している。
【符号の説明】
【0043】
10 床コンクリートのひび割れ抑制構造
12 土間コンクリート(床コンクリート)
14 鉄骨柱脚(構造体)
16 緩衝材
18 ベースプレート
20 敷砂
22 コンクリート基礎(基礎)
24 アンカーボルト(ボルト)
26 締結ナット
28 断熱材
30 ワイヤーメッシュ筋
32,34 絶縁材
図1
図2
図3
図4