(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加工対象物の内部に割断予定線に沿って、前記加工対象物に対して透明な第1のレーザを、前記加工対象物の表面が加工されないレーザの出力で照射して、第1の領域の光吸収率を一時的に高くする第1の工程と、
前記一時的に光吸収率が高くなった第1の領域の光吸収率が元に戻る前に、前記加工対象物に対して透明な第2のレーザを照射して、前記第1の領域の少なくとも一部を含む領域又は前記第1の領域の近傍の領域である、可視光及び近赤外光に対しては少なくとも透明であって前記加工対象物に対して屈折率が変化している第2の領域を形成する第2の工程と、
前記加工対象物の表面に集光するように、前記加工対象物の表面が加工されない出力で第3のレーザを照射して、前記第2の領域を起点として前記割断予定線に沿って前記加工対象物を割断する第3の工程と
を有するレーザによる割断方法。
前記第1の領域は、加工対象物の前記第1のレーザ及び第2のレーザが入射する表面から加工対象物の厚さ1/2以内の距離である請求項1に記載のレーザによる割断方法。
前記第3の工程は、レーザ照射した面と対向する面に刃を押し込むことで、前記割断予定線に沿って前記加工対象物を割断する工程を含む請求項2に記載のレーザによる割断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、加工対象物の表面でレーザ光をほとんど吸収させないように、加工対象物の内部に集光点を合わせて光の非線形吸収を局所的に発生させて改質領域を形成し、加工対象物の表面の溶融を防止している。加工対象物に使用される材料、及び材料の表面状態によって異なるが、一般的に材料のレーザによる加工閾値は材料の表面に比べて内部のほうが高いとされている。例えば、
図1(a)に示すように、屈折率が1で表面の加工閾値と内部の加工閾値の比が1:4の材料において、開口数(NA)が0.5のレンズ1を用いて材料の表面下20μmの位置に集光点を合わせてレーザ2を照射すると、表面3でのレーザ2の集光径は20μmとなり、レーザ2の集光点4での集光径は1.2μmとなる。このとき、表面3とレーザ2の集光点4のレーザによるパワー密度の比が1:140となるため、材料の表面3に損傷を与えずに内部のみを加工できる。
なお、
図1(a)、1(b)において、記号P1は、表面に焦点を合わせるときのレンズ2の位置であり、記号P2は、表面3から内部方向に20μmの位置に焦点を合わせるときのレンズ2の位置である。
【0005】
しかし、実際に加工対象物に使用される材料の屈折率は1以上である。例えば、炭化ケイ素(SiC)及び窒化ガリウム(GaN)等の高バンドギャップ半導体では屈折率はおよそ3であり、発光ダイオードに用いられているサファイアでも屈折率は1.8である。材料の屈折率が変わると、表面と集光点のパワー密度の比率は大きく変わってくる。つまり、材料の屈折率が3の場合は
図1(b)に示すように、
図1(a)と比較して材料内部での光の開口数が1/3になるので焦光点4の直径が3倍(3.6μm)になり、かつ、材料に光が侵入した後の長さが3倍になるので材料の表面3での集光点の直径は1/3(6.7μm)になる。よって、屈折率が3の材料の内部では、表面と集光点のレーザによるパワー密度の比が1:3.5となる。したがって、表面3の加工閾値と内部の加工閾値の比が1:4の材料では、表面3に損傷を全く与えずに内部のみを加工(アブレーション)することは困難である。
【0006】
また、材料の表面に少しでも傷がつくと光はそこで吸収又は散乱されるので光が材料の内部まで到達しない恐れがある。その上、割断の起点となる改質領域を材料内部に形成するほどの加工には内部の加工閾値以上のエネルギーを照射する必要があるので、表面のパワー密度はさらに大きくなる。よって、材料の表面近傍で改質領域を形成することは困難である。例えば、材料がSiCの場合、厚さ100μmに対して表面から80μm以上内部に入った部分で加工が行われている。さらに、改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する方法として、改質領域から遠い側の面に刃(ブレード)などを押し込むことで該改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する方法がある。このような方法を使用する場合、材料の表面近傍で改質領域を形成すると材料が割断されやすいので、材料の表面近傍で改質領域を形成できると割断性が向上する。
【0007】
そして、半導体デバイスの構造において、改質領域形成のためのレーザが入射される面と対向する面に電極等の薄膜があるパターンで堆積されている場合、加工対象物の内部に集光点を合わせて光の非線形吸収を局所的に発生させて改質領域を形成する際に、集光点で非線形吸収されなかった残りの光がそれらの薄膜に届いて損傷を与えてしまうことがある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、加工対象物の表面の損傷を低減すると共に、レーザ入射側の表面近傍においても効率良く改質領域を形成することが可能なレーザによる割断方法、及びレーザ割断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、加工対象物の内部に割断予定線に沿って、前記加工対象物に対して透明な第1のレーザを、前記加工対象物の表面が加工されない出力で照射して、第1の領域の光吸収率を一時的に高くする第1の工程と、前記一時的に光吸収率が高くなった第1の領域の光吸収率が元に戻る前に、前記加工対象物に対して透明な第2のレーザを照射して、前記第1の領域の少なくとも一部を含む領域又は前記第1の領域の近傍の領域である、可視光及び近赤外光に対しては少なくとも透明であって前記加工対象物に対して屈折率が変化している第2の領域を形成する第2の工程と、
前記加工対象物の表面に集光するように、前記加工対象物の表面が加工されない出力で第3のレーザを照射して、前記第2の領域を起点として前記割断予定線に沿って前記加工対象物を割断する第3の工程とを有するレーザによる割断方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、加工対象物を割断するレーザ割断装置であって、前記加工対象物の内部に光吸収率を一時的に高くする第1の領域を形成するための、前記加工対象物に対して透明な第1のレーザであって、前記加工対象物の表面が加工されない出力に調整される第1のレーザと、前記加工対象物の内部に前記第1の領域の少なくとも一部を含む領域又は前記第1の領域の近傍の領域である、可視光及び近赤外光に対しては少なくとも透明であって前記加工対象物に対して屈折率が変化している第2の領域を形成するための、前記加工対象物に対して透明な第2のレーザとを発振可能に構成されたレーザ光発生装置と、前記レーザ光発生装置の、該レーザ光発生装置から発生したレーザの後流側に設けられ、前記加工対象物を設置可能な設置面を有し、該設置面の面内方向および該設置面の法線方向に移動可能な加工対象物支持部と
、割断予定線に沿って前記加工対象物を割断する第3のレーザと、を備え、前記レーザ光発生装置は、前記第1のレーザと、該第1のレーザのパルスから、前記一時的に光吸収率が高くなった第1の領域の光吸収率が元に戻るまでの所定時間以内の時間だけ遅延した第2のレーザとを空間的に重畳して出射できるように構成されて
おり、前記第3のレーザは、前記加工対象物の表面が加工されない出力で前記加工対象物の表面に集光するように照射する、レーザ割断装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工対象物の表面の損傷を低減すると共に、レーザ入射側の表面近傍においても効率良く改質領域を形成することができる。従って、加工対象物の割断性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0014】
本発明の一実施形態では、加工対象物(例えば、基板)の内部に改質領域を形成する前段階として、表面加工閾値よりも小さいパワーの第1のレーザ光を加工対象物の内部に集光させて、該内部にプラズマを発生させて光吸収率増加領域を一時的に形成する。次いで、改質領域形成段階として、一時的に光吸収率が増加している間に、表面加工閾値よりも小さいパワーの第2のレーザ光を上記光吸収率増加領域の少なくとも一部、又はその近傍に集光させて、上記加工対象物の内部に改質領域を形成する。
本発明において「改質領域」とは、可視光及び近赤外光に対しては少なくとも透明であり、該改質領域の周囲(非改質領域)に対して屈折率が変化している領域である。該改質領域は、好ましくは、溶融によって形成された領域ではなく、上記非改質領域に対してほとんど組成変化が起こっていない領域である。なお、本実施形態の改質領域として求められことの1つは、少なくとも可視光、近赤外光に対して透明であることであるので、改質領域は、可視光及び近赤外光を少なくとも透過するような組成であれば、元の組成(非改質領域の組成)から変化しても良い。
【0015】
例えば、本発明の一実施形態に係る改質領域は、第1及び第2のレーザ光によって加工対象物の内部に形成されたクラックを含む場合がある。この場合、該クラックの周囲の領域は、非改質領域に対して屈折率が変化しているので、このようなクラックを含む、屈折率が変化した領域が改質領域となる。また、本発明の一実施形態では、改質領域は、クラックのように微小の空洞にならない程度のヒビを含む場合もある。この場合においても、ヒビおよびその周辺部は、非改質領域に対して屈折率が変化しているので、ヒビを含む、屈折率が変化した領域が改質領域となる。
【0016】
また、本発明において「光吸収率増加領域」とは、第1のレーザ光が所定の条件で照射されて加工対象物の内部に発生されたプラズマにより一時的に形成される領域であって、上記所定の条件の第1のレーザ光が照射されてから所定時間(所定期間)だけ一時的に、第2のレーザ光に対する吸収率が増加する領域である。よって、光吸収率増加領域は、上記所定時間過ぎると、元の状態に戻る。
【0017】
そして、本発明において「加工閾値」とは材料で加工が生じる最小パワーである。さらに、本発明において「表面加工閾値」とは、レーザの焦点を内部としたときに材料表面で加工が生じるレーザの最小パワーP
minのことである。例えば、材料の表面から内部Zの位置に加工する場合の表面加工閾値P
minをもとめる方法は、レーザ焦点を材料表面から内部Zの位置に合わせて、レーザパワーを0Wから徐々に上げていき、材料表面が加工されたときのレーザパワーを表面加工閾値P
minとする方法である。例として、材料がSiC、材料の表面から内部への距離Z=45μmに走査速度100mm/sのレーザ(レーザ条件:パルス幅=500fs, 繰返し周波数1MHz)で照射した場合のP
minは約1Wであった。表面加工閾値はZの値によって変わる材料固有の値であり、通常Zが大きくなると材料表面でのレーザのエネルギー密度が小さくなるため、表面加工閾値も大きくなる。
【0018】
さらに、本発明において「所定時間」とは、加工対象物の内部の一領域が、所定の条件で入射した第1のレーザによって光吸収率増加領域となった時から、該光吸収率増加領域から元の状態に戻るまでの期間である。すなわち、光吸収率増加領域の形成が継続されている期間である。さらに、本発明において「表面近傍」とは、加工対象物の表面から加工対象物の厚さ1/2以内の距離である。
【0019】
(第1の実施形態)
図2は、本実施形態に係るレーザ割断装置20の模式図である。
レーザ割断装置20は、第1のレーザとして短パルスレーザであるフェムト秒レーザ、第2のレーザとして第1のレーザよりも長パルスレーザであるナノ秒レーザをそれぞれ単一に出射することができ、かつ、第1のレーザと該第1のレーザのパルスから所定時間だけ遅延した第2のレーザとを空間的に重畳して出射することが可能なレーザ光発生装置21を備えている。該レーザ光発生装置21は、光源22、1/2波長板23、偏光ビームスプリッタ(PBS)24、ミラー25、遅延回路26、及び1/2波長板27を有している。
【0020】
光源22は、フェムト秒レーザ及びナノ秒レーザをそれぞれ単独で発振することもできるし、フェムト秒レーザ及びナノ秒レーザを同期して発振することもできるように構成されている。該光源22は、フェムト秒レーザを発振する短パルス光源22aと、ナノ秒レーザを発振する長パルス光源22bとを有する。ただし、本実施形態では、該光源22がフェムト秒レーザを発振する短パルス光源22aと、ナノ秒レーザを発振する長パルス光源22bとを有しているが、これに限定されるものでない。改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する方法として、加工対象物に対して該加工対象物の表面に集光するように吸収性を有するレーザ光を加工対象物の表面が溶融しないエネルギーで照射し、加工対象物の内部の改質領域を起点として加工対象物の表面にクラックを到達させて加工対象物を切断する方法がある。このような方法を使用する場合、光源は、加工対象物の表面をスクライブするための超短パルスレーザを別途有しても良い。また、光源は、フェムト秒レーザを発振する複数の短パルス光源、及び/又はナノ秒レーザを発振する複数の長パルス光源を有してもかまわない。
【0021】
本実施形態では、第1のレーザとしてフェムト秒レーザを用いているが、第1のレーザによって照射されるエネルギー(パワー)が加工対象物の表面加工閾値より低く(加工対象物の表面が加工されないようにして)、加工対象物の内部に光吸収率増加領域を形成できるのであれば、これに限定されるものではない。つまり、該第1のレーザによって照射されるエネルギーが加工対象物の表面加工閾値より低く、加工対象物の内部に光吸収率増加領域を形成できるように、該第1のレーザのパルス幅及びパワーは決定される。
【0022】
本実施形態では、第2のレーザとして第1のレーザよりレーザパワーの高いナノ秒レーザを用いているが、該第2のレーザの照射によって光吸収率増加領域から改質領域を形成できるのであれば、これに限定されるものではない。つまり、該第2のレーザの照射によって光吸収率増加領域から改質領域を形成できるように、該第2のレーザのパルス幅及びパワーは決定される。一般に、パルス幅が短いほど表面加工閾値は下がる。よって、例えば、第2のレーザとしてフェムト秒レーザを用いる場合は、第2のレーザとしてナノ秒レーザを用いる場合よりも第2のレーザのパワーは小さくなる。
よって、第1及び第2のレーザによって、加工対象物の表面を損傷することなく、あるいは該表面の損傷を低減して、加工対象物の内部に光吸収率増加領域及び改質領域を形成できるのであれば、第2のレーザのパルス幅は第1レーザのパルス幅より長い必要はなく、同じ又は短くても良い。また、第1及び第2のレーザによって、加工対象物の表面を損傷することなく、あるいは該表面の損傷を低減して、加工対象物の内部に光吸収率増加領域及び改質領域を形成できるのであれば、第1及び第2のレーザのパワーは同じでも異なっても良い。
なお、第1のレーザのパルス幅は、500fs以上10ps以下であることが好ましく、第2のレーザのパルス幅は、数百fs以上数十ns以下であることが好ましい。
【0023】
短パルス光源22aの、レーザの進行方向の後流側には1/2波長板23が設けられており、該1/2波長板23の後流側にPBS24が設けられている。本実施形態では、短パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザが、PBS24に対してP偏光で入射するように1/2波長板23は構成されている。よって、短パルス光源22aから出力されたフェムト秒レーザは、1/2波長板23にてP偏光になり、PBS24をそのまま透過する。
なお、本明細書においては、光源22から出力されたレーザの進行方向の後流側を単に“後流側”と呼び、光源22から出力されたレーザの進行方向の上流側を単に“上流側”と呼ぶことにする。
【0024】
長パルス光源22bの後流側には、ミラー25、遅延回路26、及び1/2波長板27がこの順番で設けられており、ミラー25にて反射された、長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザが、遅延回路26及び1/2波長板27を介してPBS24に入射するように、ミラー25、遅延回路26、及び1/2波長板27は位置決めされている。本実施形態では、長パルス光源22bから発振されたナノ秒レーザが、PBS24に対してS偏光で入射するように1/2波長板27は構成されている。よって、1/2波長板27の上流側から入射されたナノ秒レーザは、1/2波長板27にてS偏光になり、PBS24にて反射されてPBS24の後流側に出射される。
【0025】
本実施形態では、短パルス光源22a及び長パルス光源22bからフェムト秒レーザ及びナノ秒レーザを同期して発振した場合に、長パルス光源22bから発振されたあるナノ秒レーザパルスが、該ナノ秒レーザパルスと同期して発振された短パルス光源22aから発振されたフェムト秒レーザパルスよりも所定時間遅延してPBS24に入射するように、遅延回路26は構成されている。なお、該所定時間は、第1のレーザとしてフェムト秒レーザを加工対象物に入射して生じた光吸収率増加領域の形成が持続する期間(例えば、数ns以内の時間)である。従って、短パルス光源22aからのフェムト秒レーザの発振と長パルス光源22bからのナノ秒レーザの発振とを同期して行うと、あるフェムト秒レーザパルス28aと該フェムト秒レーザパルス28aと同期して発振されたナノ秒レーザパルス28bとは、PBS24から上記所定時間だけ時間的にずれて出射される。つまり、PBS24からは、フェムト秒レーザパルス28aから上記所定時間だけ遅れてナノ秒レーザパルス28bが出射される。ただし、本実施形態では、フェムト秒レーザパルスとナノ秒レーザパルスのパルス間の時間を制御するために遅延回路を設けているが、フェムト秒レーザパルスとナノ秒レーザパルスとの間の時間を制御できるように光源22を構成しても良い。
【0026】
PBS24の後流側には、出力減衰器29及びビーム径調整器30がこの順番で配置されている。よって、PBS24から出射された、フェムト秒レーザの単体、又はナノ秒レーザの単体は、出力減衰器29にて所望の出力に減衰され(エネルギーが調節され)、ビーム径調節器30にて所望のビーム径に調整されて後流側に出射される。例えば、第2のレーザの集光ビーム径を第1のレーザの集光ビーム径より大きくすると、第1及び第2のレーザの集光位置を合わせる場合に容易に改質領域を形成できる利点がある。改質領域は、第1のレーザで生じたプラズマに第2のレーザを線形吸収させて形成させるため、改質領域は第1のレーザの集光位置に依存するからである。よって、改質領域は、光吸収率増加領域の少なくとも一部を含む領域又は光吸収率増加領域の近傍の領域の場合がある。
【0027】
ビーム径調整器30の後流側には、短パルス光源22aから出射されたフェムト秒レーザ及び長パルス光源22bから出射されたナノ光レーザの双方は反射し、可視光は透過するように構成されたダイクロイックフィルタ31、レンズ32、及びXYZステージ33がこの順番で設けられている。よって、ビーム径調整器30から出射された、フェムト秒レーザの単体、又はナノ秒レーザ単体は、ダイクロイックフィルタ31にて反射され、レンズ32を介してXYZステージ33に保持された加工対象物34に入射する。
【0028】
レンズ32は一般的に入手可能ないずれのレンズを使用できる。高い開口度のレンズを用いれば、表面と集光点のレーザによるパワー密度のコントラストを上げることができるが、開口度が高くなれば、必要なストリート幅(切断の為の切りしろであり、その部分には薄膜等の活性層は堆積されていない領域)は広くなる為、高密度で活性層が密集する半導体デバイスには向かない。本実施形態では、高い開口度のレンズを用いなくとも加工対象物の内部、特に表面近傍に改質領域を形成できる。
【0029】
XYZステージ33のX軸及びY軸はXYZステージ33の加工対象物を設置するための設置面の面内方向にあり、Z軸は該設置面の法線方向である。XYZステージ33は、上記設置面上に設置された加工対象物34を、X軸、Y軸、Z軸に沿って所望に応じて移動できるように構成されている。
また、本実施形態では、レンズ32により集光された可視光の焦点と、レンズ32により集光されたフェムト秒レーザ及びナノ秒レーザの焦点とは一致している。
【0030】
本実施形態では、加工対象物34をSiCとしているがこれに限定されるものではなく、他の加工対象物の例としてGaN及びサファイア等が挙げられる。また、第1のレーザにより一時的に光吸収率増加領域を形成し、第2のレーザにより改質領域を形成できる材料であれば、いずれの材料を用いることができる。加工対象物の屈折率が大きくなると、表面と集光点のレーザによるパワー密度のコントラストは大きく変わってくるが、加工対象物の屈折率が1.5より大きくても実施できる。特に、加工対象物の屈折率が2以上である場合により効果的である。
【0031】
XYZステージ33の設置面と対向して、CCDカメラ35が設けられている。該CCDカメラ35は可視光を発振する可視光光源を有しており、該可視光光源から発振された可視光がダイクロイックフィルタ31を介してXYZステージ33に保持された加工対象物34に入射し、該加工対象物34にて反射された可視光がダイクロイックフィルタ31を介してCCDカメラの撮像素子に入射するように、CCDカメラ35、ダイクロイックフィルタ31、レンズ32、及びXYZステージ33が位置決めされている。
【0032】
XYZステージ33及びCCDカメラ35には、XYZステージ33及びCCDカメラ35を制御する制御部36が電気的に接続されている。この制御部36は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU、及びこのCPUによって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM、CPUの処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM、及びフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリなどを有する。また、制御部36には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部37、XYZステージ33の入力・設定状態、CCDカメラ35の撮像画像などをはじめとする種々の表示を行う表示部38(例えば、ディスプレイ)が接続されている。なお、上記制御部36は、出力減衰器29の減衰率を調節するように構成されていても良い。
【0033】
以下で、本実施形態に係る、加工対象物の割断方法を説明する。
図3は、本実施形態に係る、加工対象物のレーザによる割断方法の手順を示す図である。
ステップS31において、第1のレーザであるフェムト秒レーザを(該レーザにとって)透明な加工対象物34の内部に集光点を持つように照射して、加工対象物34の内部に光吸収率増加領域を形成する。ステップS33における割断処理を考慮して、レーザを照射する位置は加工対象物34の表面近傍でも良い。
【0034】
第1のレーザによって照射されるエネルギーが加工対象物34の表面加工閾値より低く、加工対象物34の内部に光吸収率増加領域を形成できるように、該第1のレーザのパルス幅及びパワーを決定する。つまり、該第1のレーザは表面加工閾値よりも低く、かつ加工対象物34の内部にプラズマを発生させるのに最低限必要なエネルギー(パワー)を少なくとも有しているので、集光点でない加工対象物の表面が損傷されない、あるいは該損傷は少なく、集光点近傍でのみ局所的かつ一時的に光吸収率が上がる部分が形成される。
【0035】
次に、ステップS32において、第1のレーザの照射によって光吸収率増加領域を形成した後所定時間以内に、第2のレーザであるナノ秒レーザを(該レーザにとって透明な)加工対象物34の光吸収率増加領域に照射して、加工対象物34の内部に改質領域を形成する。この改質領域は、切断したいラインである切断予定ラインに沿って連続的もしくは断続的に形成され、加工対象物34の表面からの深さ方向に対して複数の深さに改質領域を形成することもできる。この改質領域が加工対象物の割断のための起点となるが、クラックを含む改質領域が表面に到達していても良い。
【0036】
第2のレーザの照射によって光吸収率増加領域から改質領域を形成できるように、該第2のレーザのパルス幅及びパワーは決定される。つまり、第1のレーザの照射によって一時的に光吸収率が増加している領域に第2のレーザを照射することで光の線形吸収が起こり、加工対象物の内部に改質領域を形成できる。本実施形態のように、パルス幅が第1のレーザより長い第2のレーザを使用した場合、光の非線形吸収の発生を抑制できるので、加工対象物の表面を損傷せずに、あるいは該損傷をより一層低減して加工対象物の内部に改質領域を形成できる。また、第2のレーザのパルス幅を第1のレーザのパルス幅よりも長くすることにより、表面加工閾値をより大きくとることができ、第2のレーザ光をより高いパワーにすることができる。よって、改質領域の形成領域を増加させることができ、割断をより容易にすることができる。また、第1のレーザの照射より集光点近傍における光吸収率は一時的に上昇しているので、第2のレーザによって照射されるエネルギーは小さくても改質領域を形成できる。
【0037】
よって、第1及び第2のレーザによって、加工対象物の表面を損傷することなく、加工対象物の内部に光吸収率増加領域及び改質領域を形成できるのであれば、第2のレーザのパルス幅は第1レーザのパルス幅より長い必要はなく、同じ又は短くても良い。また、第1及び第2のレーザによって、加工対象物の表面を損傷することなく、あるいは該損傷を低減して、加工対象物の内部に光吸収率増加領域及び改質領域を形成できるのであれば、第1及び第2のレーザのパワーは同じでも異なっても良い。
【0038】
加工対象物34の内部の所定の位置にレンズ32を介したフェムト秒レーザやナノ秒レーザの焦点を設定する場合は、制御部36がCCDカメラ35にて取得された各撮像データに基づいて、可視光のレンズ32を介した焦点が加工対象物34の表面と一致する時の、XYZステージ33の位置を取得する。この取得した位置を基準位置として、該基準位置を用いてXYZステージ33のZ軸方向の位置を変動させる。例えば、加工対象物34の表面からxμmの位置に上記焦点を設定したい場合は、ユーザが入力操作部37により、加工対象物34の表面から焦点までの距離に関する焦点距離情報としてxμmを入力し、さらに加工対象物34の屈折率を入力する。制御部36は、RAMに格納された基準位置に基づいてXYZステージ33を移動させ、加工対象物34の表面がレンズ32からの焦点と一致するようにする。次いで、制御部36は、ユーザから入力された焦点距離情報及び加工対象物34の屈折率に基づいて、入力された屈折率におけるxμmの対応距離を演算し、該演算結果に基づいて、加工対象物34の表面から内部に向かってxμmの位置に焦点位置が来るように上記基準位置から所定距離だけ下方(Z軸方向であって、レンズ32から遠ざかる方向)にXYZステージ33を移動させる。これにより、レンズ32から集光したフェムト秒レーザ及びナノ秒レーザの焦点は、加工対象物34の内部の所定の場所に位置することになる。
【0039】
その後、ステップS33において、割断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加える、もしくは加工対象物に温度差を与えて熱応力を発生させることで、改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する。例えば、改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する方法として、改質領域から遠い側の面に刃などを押し込むことで該改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する方法がある。また、改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断する別の方法として、加工対象物に対して該加工対象物の表面に集光するように吸収性を有するレーザ光を加工対象物の表面を溶融させないエネルギーで照射し、加工対象物の内部の改質領域を起点として加工対象物の表面にクラックを到達させて加工対象物を切断する方法がある。この時、光源22が有する超短パルスレーザ等を用いて加工対象物の表面をスクライブして加工対象物を割断しても良い。また、人為的な力を加えて改質領域を起点として割断予定ラインに沿って加工対象物を割断しても良い。
図4(a)において、符号41は割断予定ラインであり、該割断予定ライン41に沿って加工対象物34を割断する。このような割断予定ラインは、仮想的な線であっても良いし、加工対象物34の表面に実際に書かれた線であっても良い。制御部36が、割断予定線41に沿ってレーザが走査されるようにYXZステージ33を移動させることにより、
図4(b)に示すように、加工対象物34の内部において、割断予定線に沿った改質領域42を形成することができる。
【0040】
以下において、
図3の割断方法の手順で割断された加工対象物の割断性を評価する。
加工対象物34としての100μmの厚さの材料SiCの表面から内部へ30μmの位置(つまり、表面近傍)に、(1)ステップS31にてフェムト秒レーザである第1のレーザ(パワー:600mW)を照射後、ステップS32にてナノ秒レーザである第2のレーザ(パワー:1W)を照射した場合と、(2)フェムト秒レーザである第1のレーザ(パワー:1.5W)を照射した場合とで改質領域の形成の有無を確認した。(1)の場合は、光が表面で吸収されることなく該位置に改質領域を形成できることが確認できたが、(2)の場合は、光が材料の表面で吸収されて該表面が加工され、該位置に改質領域を形成することができなかった。(1)及び(2)の場合のいずれも、材料は500mm/sの一定速度で加工された。
【0041】
材料の内部に形成された改質領域の効果を確かめるために、(1)及び(2)の場合とでブレーカによる加工対象物の割断性を比較した。ここで、
図5(a)、(b)に示すように、ブレーカを使った加工対象物の割断性の評価とは、レーザ照射した面と対向する面に、加工対象物が割断されるまで割断予定ラインに沿ってブレーカの刃51を押込み、ブレーカの押込み量を測定することで割断性を評価するものである。ブレーカの押込み量とは、
図5(b)の矢印で示すように、ブレーカの刃51が材料表面から押し込まれる長さであり、ブレーカの押込み量が小さい程、割断性は高く割れやすい。保護シート52はブレーカの刃51を押込む際にブレーカの刃51から加工対象物を保護するものであり、材料表面に形成された割断予定ラインの両側を押さえることで割断予定ラインに沿って加工対象物を割断できる。
【0042】
材料の内部に改質領域を形成した(1)の場合はブレーカの押込み量が20μmであり、材料の内部に改質領域を形成していない(2)の場合はブレーカの押込み量が70μmであった。よって、材料の内部に改質領域を形成すると割断性は高く割れやすいことが確認できた。
【0043】
次に、
図3の割断方法の手順で割断された加工対象物の割断性を改質領域の形成位置に基づいて評価する。(1)の場合と、(3)(1)の場合のレーザと同じ条件で100μmの厚さの材料SiCの表面から内部へ90μmの位置に改質領域を形成した場合とでブレーカによる加工対象物の割断性を比較したところ、(1)の場合はブレーカの押込み量が20μmであり、(3)の場合はブレーカの押込み量が70μmであった。よって、材料の表面近傍に改質領域を形成すると割断性は高く割れやすいことが確認できた。
【0044】
以上の評価から、本実施形態に係る加工対象物の割断方法を使用すると、加工対象物の表面を損傷することなく、あるいは該損傷を低減して、加工対象物のレーザ入射面近傍においても改質領域を形成することができる。また、第1のレーザの照射より集光点近傍における光吸収率は一時的に上昇しているので、第2のレーザによって照射されるエネルギーは小さくても改質領域を形成できることから、加工対象物の内部に改質領域を効率的に形成できる。例えば、第1及び第2のレーザを使った場合に第1のレーザの照射によって一時的に上昇する光吸収率は90%近くになるのに対して、第1のレーザのみを使った場合の光の非線形吸収率は60%である。
【0045】
さらに、本実施形態に係る加工対象物の割断方法を使用すると、加工対象物の表面近傍に改質領域を形成できるので、ブレーカを使って加工対象物を割断する際に割断性を向上させることができる。また、加工対象物の表面近傍に改質領域を形成できれば、改質領域形成後、加工対象物を反転させる等の移動をしないでそのままレーザ照射した面と対向する面に割断予定ラインに沿ってブレーカの刃を押込み割断できるので、効率的に加工対象物を割断できる。
【0046】
(第2の実施形態)
図6に示すように、本実施形態に係る加工対象物の割断装置を利用して、加工対象物の内部、特に表面近傍に光導波路を形成することもできる。以下で、本実施形態に係る、光導波路形成方法を説明する。
【0047】
まずは、第1のレーザ61であるフェムト秒レーザを(該レーザにとって)透明な加工対象物62の内部の導波路形成予定線63に沿って走査するように照射して、加工対象物62の内部に光吸収率増加領域を形成する。導波路が形成される位置を考慮してレーザを照射する位置は加工対象物の表面近傍でも良い。該第1のレーザ61によって照射されるエネルギーが加工対象物62の表面加工閾値より低く、加工対象物62の内部に光吸収率増加領域を形成できるように、該第1のレーザ61のパルス幅及びパワーは決定される。
【0048】
次に、第1のレーザ61の照射によって光吸収率増加領域を形成した後所定時間以内に、第2のレーザ61であるナノ秒レーザを(該レーザにとって透明な)加工対象物62の光吸収率増加領域に走査するように照射して、加工対象物62の内部に改質領域を形成する。該第2のレーザ61の照射によって光吸収率増加領域から改質領域を形成できるように、該第2のレーザ61のパルス幅及びパワーは決定される。上述したように、該改質領域は可視光及び近赤外光に対しては少なくとも透明であり、該改質領域の周囲(非改質領域)に対して屈折率が変化している領域であるので、光導波路が導波路形成予定線63に沿って加工対象物62の内部に形成されることになる。
【0049】
このような光導波路形成方法を使用すると、平面的な複数の膜からコアとクラッドを形成しないので、エッチング等の処理を行う必要も無く、任意の方向や形状に高密度な3次元の光導波路を形成できる。例えば、隣接する複数の導波路形成予定線63に沿って第1及び第2のレーザ61を照射すると、ほぼ矩形の導波路が形成される。また、
図7に示すように、ラインではなくドット加工された複数の光導波路を形成することもできる。
【0050】
第1のレーザのみを使って生じる光の非線形吸収の場合、吸収率がピークパワーの2乗に比例して変化するので、照射されるエネルギーが少し変わっただけで加工対象物の品質が大きく変わってしまう。さらに、光の非線形吸収が生じると加工閾値を超えた瞬間に急劇に加工が始まるので超微細加工を行うためのエネルギー調整が難しい。第1及び第2のレーザを使う際に生じる光の線形吸収の場合、光の吸収量は入射光量に比例して大きくなるために所望の量だけ吸収させることができるので超微細加工が可能である。
【0051】
よって、本実施形態の光導波路形成方法を使用すると、加工対象物の表面の損傷を防止、あるいは低減すると共に、加工対象物の内部、特に表面近傍に効率良く光導波路を形成することが可能である。