(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケースに形成した電源ケーブル挿通孔に通してあり前記ケース内部に配設した固定子又は回転子に接続された電源ケーブルと、前記電源ケーブル挿通孔における前記ケースと前記電源ケーブルとの隙間を埋めるシール材とを備えることを特徴とする請求項1に記載の電動モータ。
【背景技術】
【0002】
大型の工場や店舗等における空調システムには、ファンコイルユニットを用いたものがある。また、ファンコイルユニットは、クリーンルームの空調にも用いられている(特許文献1及び特許文献2を参照。)。ファンコイルユニットは、熱交換器及び送風機を備える。
【0003】
ファンコイルユニットの送風機は、ファンと、ファンを回転させる電動モータとを備える。この送風機の電動モータには、全閉型と呼ばれるものが用いられる。この種の電動モータは、ケースの外部から内部に塵埃や水分が進入しにくく、ケースの内部で生じた塵埃も外部に放出されにくい。
【0004】
また、電動モータには、回転子に冷却用のフィンを設けたものがある。このフィンは、回転子とともに回転してケース内部に気流を発生させる。この気流によりケース内部の空気がかき混ぜられ、ケース内部で生じた熱がケース外部に効率よく放熱される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動モータは、ケースに形成した出力軸挿通孔に通した出力軸により回転運動を出力する。ケースの出力軸挿通孔は、出力軸の回転を阻害しないよう、ケースと回転軸との間に所定の隙間が生じる寸法で形成されている。そのため、電動モータを動作させると、ケース内部の温度上昇やフィンで空気がかき混ぜられることにより、ケース内部の空気が上記の隙間を通ってケース外部に吹き出す。
【0007】
また、出力軸は、軸受を介してケースに回転可能に支持されている。そのため、電動モータの動作時には、軸受に付着しているグリスが分離して粒子化しケース内部を浮遊する。したがって、ケース内部の空気がケース外部に吹き出すと、それにともない粒子化したグリスなどのケース内部で発生した塵埃がケース外部に放出される。
【0008】
ファンコイルユニットにおける空気吹出口にエアフィルタを設けていない場合、電動モータから放出された塵埃は室内に送り出される。この場合、ファンコイルユニットから室内に吹き出した空気における塵埃の濃度は、0.01〜0.1個/cf(粒径≧0.3μm)程度である。そのため、要求される清浄度クラスが低い場合は、電動モータから放出された塵埃を室内に送り出しても支障はない。
【0009】
しかしながら、要求される清浄度クラスが高い場合は、上記のような低濃度の塵埃も許容することができない。そのため、要求される清浄度クラスの高い場所で用いるファンコイルユニットは、電動モータから放出される塵埃を減らす必要がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電動モータの内部から外部に放出される塵埃の量を減らすことが可能な電動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の請求項1に係る電動モータは、ケースと、前記ケースに形成した出力軸挿通孔に通した出力軸とを備えた電動モータにおいて、
前記ケースは、前記出力軸の周囲を覆うように突出し、端面に前記出力軸挿通孔を有するとともに内部に軸受を収容した軸受固定部を有し、
かつ前記軸受固定部と前記出力軸挿通孔から前記ケースの外部に突出した前記出力軸の周囲とを覆うように前記ケースにチャンバを設けることにより、前記ケースの
前記出力軸挿通孔を通って前記ケースの内部から外部へ向けて吹き出す空気を滞留させる空間を形成
し、前記チャンバには、前記出力軸挿通孔における前記ケースと前記出力軸との隙間よりも小さい隙間を確保する態様で、前記チャンバに前記出力軸を通すための回転軸挿通孔を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る電動モータは、上記請求項1に係る電動モータにおいて、前記ケースに形成した電源ケーブル挿通孔に通してあり前記ケース内部に配設した固定子又は回転子に接続された電源ケーブルと、前記電源ケーブル挿通孔における前記ケースと前記電源ケーブルとの隙間を埋めるシール材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電動モータでは、ケースの出力軸挿通孔内におけるケースと出力軸との隙間を通ってケースの内部から外部へ向けて吹き出す空気が、チャンバにより形成した空間に滞留する。また、ケース内部からチャンバに空気が流入する場合、同時にチャンバ内の空気がケースと出力軸との隙間を通ってケース内部に流入する。ケース及びチャンバの合算した容積は一定であるため、両者を含めた空間内で気流の動きはあっても、この空間から外部へ流出する空気の量は減少する。すなわち、本発明に係る電動モータにおいてケース内部から電動モータの外部に吹き出す空気の量は、チャンバを設けていない場合に比べて少なくなる。ケース内部で発生した塵埃は、電動モータの外部に吹き出す空気によって電動モータの外部に放出される。そのため、電動モータの外部に吹き出す空気の量が少なくなれば、空気とともに放出される塵埃の量が少なくなる。したがって、本発明に係る電動モータは、ケース内部から外部に放出される塵埃の量を減らすことができる。
【0014】
このような電動モータをファンコイルユニットにおける送風機の動力として用いれば、空気吹出口にエアフィルタを設けていない場合でも、室内に吹き出す空気の清浄度を高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電動モータの実施の形態を詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である電動モータの概略構成を示す断面図である。
図2は、
図1に示した電動モータのチャンバ部分を拡大した断面図である。
図3は、
図2に示したA−A線における横断面を示す断面図である。
【0018】
本実施の形態では、電動モータの一例として、3相交流かご形誘導モータを挙げる。この種の電動モータは、ファンコイルユニットにおける送風機の動力として用いられる。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態の電動モータ1は、かご形回転子2及び固定子3を収容するケース4と、かご形回転子2に接続された回転軸(出力軸)5と、給電基板6を介して固定子3に接続された電源ケーブル7とを備える。
【0020】
かご形回転子2は、複数の棒状導体とそれらを短絡させる短絡環とで構成されるかご形構造の回転子である。このかご形回転子2は、回転軸5及び軸受8を介してケース4に回転可能に支持されている。回転軸5はかご形回転子2に固定されており、電動モータ1の動作時にはかご形回転子2とともに回転する。軸受8は玉軸受であり、内輪が回転軸5に固定され、外輪がケース4の軸受固定部401,402に固定されている。
【0021】
また、回転軸5は、かご形回転子2の回転運動を電動モータ1の外部に取り出す出力軸でもある。そのため、回転軸5は、ケース4に形成した回転軸挿通孔(出力軸挿通孔)403に通してケース4の外部まで延設させている。
【0022】
また、かご形回転子2における回転軸5の軸心方向の両端には、冷却用のフィン9が設けられている。フィン9は、かご形回転子2が回転することにより回転軸5の径外方向へ向けて放射状に空気を押し出す気流Fが生じるよう構成されている。
【0023】
固定子3は、かご形回転子2を回転させるための回転磁界を生成するものであり、複数の電磁石で構成される。各電磁石のコイルは、ケース4の内部に配設した給電基板6を介して電源ケーブル7に接続されている。電源ケーブル7は、ケース4に形成した電源ケーブル挿通孔404に通してケース4の外部に引き出されている。電源ケーブル挿通孔404は、電源ケーブル7を通す際などに電源ケーブル7の被覆に傷が付かないよう、余裕を持たせた寸法で形成される。そのため、電源ケーブル挿通孔404におけるケース4と電源ケーブル7との間には隙間が生じる。本実施の形態の電動モータ1は、この隙間をシール材10で埋めている。
【0024】
さて、電動モータ1においてフィン9の回転により生じた気流Fは、
図1に示すようにケース4の内部壁面に沿って流れる。このとき、
図1におけるケース4の下方側を流れる気流Fの一部は、電源ケーブル挿通孔404が形成された箇所を通る。電源ケーブル挿通孔404におけるケース4と電源ケーブル7との間に隙間がある場合、ケース内部の空気の一部がその隙間を通ってケース4の外部に吹き出してしまう。しかしながら、本実施の形態の電動モータ1は、その隙間をシール材10で埋めているので、ケース4と電源ケーブル7との隙間を通ってケース4の外部に空気が吹き出すことはない。
【0025】
また、ケース4の内部壁面に沿って流れる空気の一部は、軸受8の近傍で合流する。軸受8の近傍で合流した空気は、その大半が回転軸5に沿ってフィン9側に流れる(
図1及び
図2の気流Fa)。しかしながら、回転軸挿通孔403を設けた側にある軸受8の近傍で合流した空気の一部は、
図2に示すように、軸受8の隙間、軸受8とケース4との隙間、及び回転軸挿通孔403におけるケース4と回転軸5との隙間を通ってケース4の外部へ向けて吹き出す(
図1及び
図2の気流Fb)。
【0026】
電動モータ1の動作時には、ケース4の内部に塵埃が発生する。発生する塵埃は、軸受8に付着しているグリスが分離して粒子化したものや、回転軸5などの磨耗により生じた粒子である。これらの塵埃は、フィン9の回転により生じた気流Fにのってケース4の内部を浮遊する。そのため、塵埃の一部は、
図1及び
図2に示した気流Fbにのってケース4の外部に向けて放出される。気流Fbにのって流れる塵埃がそのまま電動モータ1の外部に放出されると、放出された塵埃により電動モータ1の周囲の空気が汚染される。
【0027】
そこで、本実施の形態の電動モータ1は、
図1及び
図2に示すように、ケース4と回転軸5との隙間を通ってケース4の外部へ向けて吹き出す空気を滞留させる空間Cを形成するチャンバ11をケース4の外側に設けている。
【0028】
チャンバ11は、
図2及び
図3に示すように、回転軸5の周囲に円柱状の空間Cを形成する部材であり、回転軸挿通孔1101aを有する底部1101と、円筒状の側壁部1102と、側壁部1102の開口端から径外方向に張り出したフランジ部1103とで構成されている。チャンバ11の回転軸挿通孔1101aは、チャンバ11と回転軸5との隙間Dが1mm程度になるように形成している。側壁部1102は、開口端側がケース4における軸受固定部401と略嵌合してチャンバ高さhの空間Cが形成される寸法に形成している。フランジ部1103は、チャンバ11をケース4にネジ止めするためのネジ挿通孔を形成可能な寸法に形成している。
【0029】
本実施の形態の電動モータ1では、ケース4と回転軸5との隙間を通ってケース4の内部から外部に向けて吹き出す空気がチャンバ11により形成された空間Cに滞留する。ケース4の内部からチャンバ11内の空間Cに空気が流入した場合、同時に空間Cの空気がケース4と回転軸5との隙間を通ってケース4の内部に流入する(
図3の気流Fc)。ケース4及びチャンバ11の合算した容積は一定であるため、両者を含めた空間内で気流の動きはあっても、この空間から電動モータ1の外部へ流出する空気の量は減少する。すなわち、チャンバ11を設けることで、ケース4の内部から電動モータ1の外部に吹き出す空気の量を減少させることができる。そのため、本実施の形態の電動モータ1は、ケース4の内部から電動モータ1の外部に放出される塵埃の量を減らすことができる。このチャンバ11で形成する空間Cと作用効果との関係について、
図4から
図6までを参照しながら説明する。
【0030】
図4は、電動モータの側面温度と発塵量との関係を示すグラフ図である。
図5は、チャンバ高さhと発塵量との関係を示すグラフ図である。
図6は、チャンバ高さhと発塵防止率との関係を示すグラフ図である。なお、
図4から
図6までの各図における対策なしとは、チャンバ11を設けていないことを意味する。また、
図4及び
図5における発塵量とは、電動モータの外部に放出された塵埃の量を意味する。又、
図6における発塵防止率は、対策なしの場合の発塵量を基準とし、どれだけ発塵量を減らすことができたかを百分率で表した値である。
【0031】
本願発明者は、チャンバ11により空間Cを形成することの効果を確認するために、チャンバ高さhと発塵量との関係を調べた。まず、チャンバ高さhを10mm、20mm及び30mmにした電動モータ1のそれぞれと、チャンバ11を設けていない電動モータについて、電動モータ1の側面温度と発塵量との関係を測定した。その測定結果を
図4に示す。なお、測定に使用した電動モータは出力950Wの3相かご形誘導モータであり、モータ回りの風速を0.1m/s以下にした状態で動作させて測定している。
【0032】
図4からわかるように、対策なしの場合、側面温度の上昇にともない発塵量が増加している。これに対し、チャンバ11を設けた場合、側面温度40℃以上での発塵量は、側面温度によらずほぼ一定になった。しかも、チャンバ高さhを高くするほど発塵量は少なくなっている。
【0033】
測定に使用した電動モータは、ファンコイルユニットに用いられるものであり、その場合にはモータ回りの風速が2〜4m/sの状態で動作させる。このとき、電動モータの温度は40〜70℃の範囲内で安定する。そこで、
図4に示したグラフから各電動モータが側面温度70℃のときの発塵量を抽出すると、
図5に示すようになっている。対策なしの場合、発塵量(粒径≧0.3μm)は約14000個/minになった。一方、チャンバ11を設けた電動モータ1における発塵量は、チャンバ高さhが10mmのものでは約7500個/min、20mmのものでは約1500個/min、30mmのものでは0個/minになった。
【0034】
図5に示した発塵量からチャンバ高さhと発塵防止率との関係を求めると、
図6に示すようになる。すなわち、チャンバ11を設けた電動モータ1における発塵防止率は、チャンバ高さhが10mmのものでは約50%、20mmのものでは約90%、30mmのものでは100%となる。
【0035】
このように、チャンバ高さhが高くなるほど発塵量、すなわちケース4の内部から電動モータ1に放出される塵埃の量が少なくなる理由としては、ケース4と回転軸5との隙間からチャンバ11により形成した空間Cに吹き出す空気の吹き出し高さが30mm以下であることが考えられる。吹き出し高さが30mm以下の場合、チャンバ高さhを30mmにすると、空間Cに吹き出した空気が回転軸挿通孔1101aにおけるチャンバ11と回転軸5との隙間に流れ込むのを防げ、完全に空間Cに滞留させることができる。一方、チャンバ高さhが10mm又は20mmのときは、空間Cに吹き出した空気の一部が回転軸挿通孔1101aにおけるチャンバ11と回転軸5との隙間に流れ込み、電動モータ1の外部に漏れ出すため、塵埃が放出される。しかしながら、チャンバ高さhが10mm又は20mmの場合でも電動モータ1の発塵量は、チャンバ11を設けていない場合に比べて半分以下に抑えることができている。
【0036】
このように、本実施の形態の電動モータ1は、ケース4と回転軸5との隙間を通りケース4の内部から外部に向けて吹き出す空気を滞留させる空間Cを形成するチャンバ11を設けたことで、電動モータ1の内部から外部に放出される塵埃の量を減らすことができる。また、本実施の形態の電動モータ1では、ケース4と電源ケーブル7との隙間をシール材10で埋めているので、この隙間から塵埃が放出されることもない。そのため、本実施の形態の電動モータ1は、たとえば、要求される清浄度クラスの高い場所に設置するファンコイルユニットに用いることもできる。
【0037】
また、本実施の形態の電動モータ1は、周知の一般的な構成の電動モータに対してケース4と電源ケーブル7との隙間をシール材10で埋めるとともに、チャンバ11を取り付けるだけでよい。すなわち、本実施の形態の電動モータ1は、外部に放出される塵埃の量の低減を簡単かつ廉価な構成により実現できる。
【0038】
以上、本発明を上記実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることはもちろんである。
【0039】
たとえば、ケース4と回転軸5との隙間から空間Cに吹き出す空気の吹き出し高さは、電動モータの構成や出力によって異なると考えられる。そのため、チャンバ高さhは、上記の値に限らず、チャンバ11を設ける電動モータにおける空気の吹き出し高さに応じて設定すればよいことはもちろんである。
【0040】
また、
図2に示したチャンバ11と回転軸5との隙間Dは、回転軸5の回転を妨げない範囲で極力小さくすることが好ましい。チャンバ11の回転軸挿通穴1101aを機械加工で形成する場合、隙間Dは0.2mm程度まで小さくできる。チャンバ11と回転軸5との隙間Dを小さくすると、空間Cに滞留する空気がチャンバー11と回転軸5との隙間に流入しにくくなる。そのため、ケース4の内部から空間Cへ吹き出す空気の量が減少し、結果として空気の吹き出し高さも低くなり、電動モータ1の外部に放出される塵埃の量を一層低減できる。さらに、チャンバ11による上記の効果は、チャンバ11と回転軸5との隙間Dをケース4と回転軸5との隙間よりも小さくことでより一層高まると考えられる。
【0041】
また、チャンバ11により形成する空間Cは、
図2及び
図3に示した円柱状に限らず、ケース4と回転軸5との隙間から吹き出した空気を滞留させることができればどのような形状であってもよい。すなわち、空間Cは、四角柱(直方体)状などの多角柱状であってもよい。
【0042】
さらに、電動モータは、ケース4から相反する2方向に出力軸を設けたものであってもよい。また、電動モータは、実施の形態で挙げた3相交流かご形誘導モータに限らず、直流モータなどの他の構成のモータであってもよい。