(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、水中のセシウムイオンを迅速に吸着することができ、取り扱い性に優れた製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、
2.9〜10mmol/gのカルボキシル基および架橋構造を含有し、かつ、フェロシアン化物を0.1〜5.0重量%含有するビニル系重合体が水中のセシウムイオンを迅速に吸着することができ、取り扱い性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
(1)
2.9〜10mmol/gのカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体中に該重合体に対して0.1〜5.0重量%のフェロシアン化物を含有するフェロシアン化物複合ビニル系重合体。
(2) フェロシアン化物が、プルシアンブルーであることを特徴とする(1)に記載の
フェロシアン化物複合ビニル系重合体。
(3) カルボキシル基の少なくとも一部が多価金属塩型カルボキシル基であることを特
徴とする(1)または(2)に記載のフェロシアン化物複合ビニル系重合体。
(4) 架橋構造が、ニトリル基と1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物の反
応によって形成されるものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のフ
ェロシアン化物複合ビニル系重合体。
(5) カルボキシル基および架橋構造を含有するビニル系重合体とフェロシアン化物と
を水中で混合することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のフェロシアン化物
複合ビニル系重合体の作成法。
(6) カルボキシル基および架橋構造を含有するビニル系重合体を、鉄(II)塩又は
鉄(III)塩の水溶液で処理した後に、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩又はヘキサシアノ
鉄(III)酸塩の水溶液で処理することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載
のフェロシアン化物複合ビニル系重合体の作成法。
(7) (1)〜(4)のいずれかに記載のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を含有
するセシウムイオン吸着材。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体は、該重合体を構成するフェロシアン化物あるいはカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体がそれぞれ有するセシウムイオン吸着性をはるかに上回るセシウムイオン吸着性能を有するものである。かかる本発明によれば、水中のセシウムイオンを迅速に吸着することができ、取り扱い性にも優れた、実用的なセシウムイオン吸着材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はカルボキシル基および架橋構造を含有するビニル系重合体中に、フェロシアン化物を含有するフェロシアン化物複合ビニル系重合体である。
【0012】
本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体の形状としては、繊維状、粒子状、フィルム状などを挙げることができるが、フェロシアン化物の含有のさせやすさや重合体中のフェロシアン化物を効率的に利用する観点から、比表面積を大きくすることのできる形状、大きさであることが望ましい。
【0013】
本発明に採用するカルボキシル基および架橋構造を含有するビニル系重合体におけるカルボキシル基の量としては、1〜10mmol/gであり、より好ましくは3〜7mmol/gである。カルボキシル基の量が下限に満たない場合には、セシウムイオン吸着速度が十分でないことがあり、上限を超える場合には、重合体の水膨潤性が高くなりすぎて、水分に接触して粘着性を帯びる、あるいは実用上満足し得る物性が得られないなどの問題が発生することがある。
【0014】
また、カルボキシル基のカウンターカチオンとしては、Li、Na、Kなどのアルカリ金属のイオンやアンモニウムイオンなども採用しうるが、少なくとも一部が、Mg、Caなどのアルカリ土類金属やZn、Fe、Co、Ni、Cuなどの遷移金属等の多価金属イオンであるほうが、重合体中からのフェロシアン化合物の離脱が少なくなるので望ましい。この理由は明らかでないが、多価金属イオンをカウンターカチオンとする場合、重合体中の複数のカルボキシル基が多価金属イオンによってイオン架橋されることによって、フェロシアン化物の離脱が抑制されるのではないかと考えられる。なお、本発明においては、多価金属イオンをカウンターカチオンとするカルボキシル基を多価金属塩型カルボキシル基とも呼称する。
【0015】
ビニル系重合体へのカルボキシル基の導入の方法としては、特に限定は無く、例えばカルボキシル基を有する単量体を単独重合又は共重合可能な他の単量体と共重合することによって重合体を得る方法、化学変性によりカルボキシル基を導入する方法、あるいはグラフト重合によりカルボキシル基を導入する方法等が挙げられる。
【0016】
カルボキシル基を有する単量体を重合してカルボキシル基を導入する方法としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸又はその塩等のカルボキシル基を含有するビニル系単量体の単独重合、あるいは2種以上の該単量体からなる共重合、あるいは、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合により、共重合体を得る方法が挙げられる。
【0017】
化学変性によりカルボキシル基を導入する方法としては、例えば化学変性処理すればカルボキシル基を得られるような官能基を有する単量体よりなる重合体を得た後に、加水分解によってカルボキシル基に変換する方法が挙げられる。このような方法をとることのできる単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等の誘導体などが挙げられ、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等のエステル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水物、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、ノルマル−t−ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。
【0018】
このほかにも、二重結合、ハロゲン基、水酸基、アルデヒド基等の酸化可能な極性基を有する重合体の酸化反応によりカルボキシル基を導入する方法も用いることができる。この酸化反応については、通常用いられる酸化反応を用いることができる。
【0019】
上述のようにしてビニル系重合体にカルボキシル基を導入することができるが、該ビニル系重合体においては上記の単量体だけでなく、これらと共重合可能な他の単量体を共重合してもよい。例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のビニリデン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸およびこれらの塩類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メチルイソブテニルケトン、メチルイソプロペニルケトン等の不飽和ケトン類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ジクロロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、モノフルオロ酢酸ビニル、ジフルオロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリルアミドおよびそのアルキル置換体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ビニルステアリン酸、ビニルスルフィン酸等のビニル基含有酸化合物、またはその塩、その無水物、その誘導体等;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレンおよびそのアルキルまたはハロゲン置換体;アリルアルコールおよびそのエステルまたはエーテル類;N一ビニルフタルイミド、N一ビニルサクシノイミド等のビニルイミド類;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N一ビニルピロリドン、N一ビニルカルバゾール、ビニルピリジン類等の塩基性ビニル化合物;アクロレイン、メタクリロレイン等の不飽和アルデヒド類;グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができる。
【0020】
また、本発明に採用する架橋構造は特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋等いずれの構造のものでもよい。架橋構造を導入する量としては、上述したカルボキシル基量が得られる範囲で決定すればよいが、形態安定性が求められるならば、架橋構造を多くすることが望ましい。
【0021】
また、架橋構造を導入する方法においても、特に限定はなく、骨格となる重合体の重合段階における架橋性単量体による架橋、重合体を得た後での後架橋、物理的なエネルギーによる架橋構造の導入など、一般に用いられる方法によることができる。特に、骨格となる重合体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、および重合体を得た後の後架橋による方法では、共有結合による強固な架橋を導入することが可能である。
【0022】
例えば、架橋性単量体を用いる方法では、既述の架橋性ビニル化合物を、カルボキシル基を有する、あるいはカルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体と共重合することにより共有結合に基づく架橋構造を導入することができる。なお、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体を採用する場合には、架橋構造導入後に加水分解処理などによってカルボキシル基への変性を行うことになるので、かかる処理において損なわれることのない架橋構造を導入できる架橋性単量体を採用することが望ましい。
【0023】
このような方法により導入される架橋構造としては、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物により誘導されたものを挙げることができ、なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、カルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0024】
また、後架橋による方法としても特に限定はなく、例えば、ニトリル基を有するビニルモノマーを共重合させたニトリル系重合体の含有するニトリル基と、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物を反応させる後架橋法を挙げることができる。
【0025】
ここでいうニトリル基を有するビニルモノマーとしては、ニトリル基を有する限りにおいては特に限定はなく、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、コスト的に有利であり、また、単位重量あたりのニトリル基量が多いアクリロニトリルが最も好ましい。
【0026】
また、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物としては、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物が好ましい。1分子中の窒素原子の数の上限は特に制限されないが、12個以下であることが好ましく、さらに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素数が上記上限を超えると分子が大きくなり、重合体中に架橋を導入しにくくなる場合がある。また、ヒドラジン系化合物を用いた場合、形成される架橋構造が酸、アルカリに対しても安定であり、好ましい。この場合に得られる架橋構造に関しては、その詳細は同定されていないが、トリアゾール環あるいはテトラゾール環構造に基づくものと推定されている。
【0027】
2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、へキサメチレンジアミンなどのジアミン化合物、ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)などのトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどのテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどで2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物が例示される。
【0028】
また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネートなどが例示される。
【0029】
以上に述べてきた本発明に採用するカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体の製造方法の具体的な例としては、架橋性単量体としてジビニルベンゼン、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体としてアクリロニトリルを採用して得られた共重合体を加水分解処理することにより、粒子状のビニル系重合体を得る方法が挙げられる。
【0030】
この場合、共重合組成については、上述したカルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよく、例えば、ジビニルベンゼンを10重量%以上、アクリロニトリルを50重量%以上使用する例が挙げられる。
【0031】
加水分解処理については、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア等の塩基性水溶液、或いは硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸または、蟻酸、酢酸等の有機酸を添加し、加熱処理する手段等を採用することができる。
【0032】
また、加水分解処理の後に、カルボキシル基のカウンターイオンを変更する処理を行ってもよい。具体的には、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩水溶液によるイオン交換処理を行うことで、所望の金属イオンをカウンターイオンとする塩型カルボキシル基とすることができる。さらに、水溶液のpHや金属塩の濃度や種類を調整することで、異種のカウンターイオンを混在させたり、その割合を調整したりすることも可能である。かかる手段により、カルボキシル基を多価金属塩型カルボキシル基に変更することも可能である。
【0033】
また、上述した後架橋による製造方法については、重合体に賦形した後に架橋構造を導入することができるため、繊維形状を有するカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体を得るのに適している。かかる製造方法の具体的な例としては、アクリロニトリル系重合体を湿式紡糸などの手法で繊維状としたもの、すなわちアクリル繊維をヒドラジン系化合物と反応させて架橋構造を導入し、加水分解処理する方法が挙げられる。
【0034】
かかる例において、アクリロニトリル系重合体の共重合組成については、繊維形成性や繊維物性、上述したカルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよいが、アクリロニトリル50重量%以上を採用することが望ましい。また、架橋構造の導入量に関わるヒドラジン系化合物との反応条件については、アクリル繊維をヒドラジン系化合物濃度が5〜60重量%の水溶液中で、50〜150℃、5時間以内で処理する条件などを挙げることができる。
【0035】
また、加水分解処理については、上述した手段を採用することができ、ヒドラジン系化合物による架橋導入と同時に加水分解処理を行うこともできる。
【0036】
また、本発明に採用するフェロシアン化物としては、一般式M
2[Fe(CN)
6](ただしMはCu,Co,Ni,Zn,Cd,Mn,Feなどの二価の遷移金属)で表わされるフェロシアン化物、又はこれらのMの一部が、一価の陽イオンにより置換されているフェロシアン化物で水に難溶のものを挙げることができるが、コスト、入手のしやすさからプルシアンブルー(フェロシアン化鉄(III))が特に望ましい。
【0037】
かかるフェロシアン化物を上述したカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体に含有させる方法としては、上述のカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体を、フェロシアン化物の水分散液で処理する方法やフェロシアン化物を該繊維中で析出させる方法があげられる。
【0038】
フェロシアン化物の水分散液で処理する方法としては、例えば、前述したカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体を、0.5〜5%のフェロシアン化物の水分散液中、40〜60℃で、1〜10時間処理する方法があげられる。この処理方法で作成した場合、重合体が水によって膨潤した状態となり、微分散されたフェロシアン化合物が、主に重合体の表層部付近に取り込まれると考えられる。なお、上述したようにこの時に用いられる重合体中のカルボキシル基のカウンターカチオンは、Mg、Caなどのアルカリ土類金属、Zn、Fe、Co、Ni、Cuなどの遷移金属等、多価の金属塩であるほうが、重合体中からのフェロシアン化合物の離脱が少なく望ましい。
【0039】
また、フェロシアン化物を重合体中で析出させる方法としては、例えば、上述のカルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体を、1〜10%の鉄(III)塩水溶液中、40〜60℃で、1〜8時間処理した後に、0.1〜5%のヘキサシアノ鉄(II)酸塩水溶液中、40〜60℃で、1〜10時間処理する方法や、前記重合体を1〜10%の鉄(II)塩水溶液中、40〜60℃で、1〜8時間処理した後に、0.1〜5%のヘキサシアノ鉄(III)酸塩水溶液中、40〜60℃で、1〜10時間処理する方法などが挙げられる。これらの処理方法で作成した場合、重合体中の鉄イオンとヘキサシアノ鉄塩が反応することでフェロシアン化鉄(III)、すなわちフェロシアン化物が生成するが、フェロシアン化物の水分散液で処理する方法と比較し、より微細なフェロシアン化合物が、重合体のより内部にまで取り込まれると考えられる。
【0040】
なお、前記カルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体に還元性がある場合には、上記方法において、鉄(III)塩での処理後に、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩で処理する方法を採用することが可能であり、前記重合体に酸化性がある場合には、鉄(II)塩での処理後にヘキサシアノ鉄(II)酸塩で処理する方法を採用することも可能である。
【0041】
ここで、前述の鉄(III)塩としては例えば、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)があげられ、前述の鉄(II)塩としては例えば、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)があげられる。
【0042】
また、前述のヘキサシアノ鉄(II)酸塩としては、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムがあげられ、前述のヘキサシアノ鉄(III)酸塩としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムがあげられる。
【0043】
含有させるフェロシアン化物量としては、カルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体に対して、0.1〜5.0重量%であり、好ましくは1.0〜3.0重量%である。フェロシアン化物量が下限に満たない場合には、水溶液中のセシウムイオン吸着速度が十分でないことがあり、上限を超える場合には、重合体中からのフェロシアン化物の脱落が多くなる。
【0044】
上述してきた本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体は、フェロシアン化物単体に比べて、水中のセシウムイオンを極めて速く吸着することができる。この理由は明らかではないが、水中のセシウムイオンが該重合体中に存在するカルボキシル基にイオン的に吸着されることで、重合体中、すなわちフェロシアン化物周辺のセシウムイオン濃度が高められ、フェロシアン化物へのセシウムイオン吸着速度が速くなるものと考えられる。また、フェロシアン化物は重合体中に固定化されているため、使用後の回収が容易である。
【0045】
このように本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体は優れたセシウムイオン吸着性能を有するため、該重合体単独あるいは他の素材と組み合わせることでセシウムイオン吸着材として利用することができる。
【0046】
例えば、本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体が繊維状の場合は、不織布、織物、編み物、糸、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等、さまざまな形態のセシウムイオン吸着材として提供することができる。また、このとき、他の素材として、公用されている綿、麻、絹、羊毛、などの天然繊維、レーヨンなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維、無機繊維、あるはガラス繊維等を組み合わせてもよい。
【0047】
また、本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体が粒子状の場合は、紙、不織布、糸、織物、編み物などにバインダーなどで固着させたり、フィルム、シート、ゴム、発泡体などに練り込んだりするなどして、セシウムイオン吸着材として利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。
【0049】
<カルボキシル基量の測定>
十分乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの1mol/l塩酸水溶液を加え30分間放置したのちガラスフィルターで濾過し水を加えて水洗する。この処理を3回繰り返したのち、濾液のpHが5以上になるまで十分に水洗する。次にこの試料を200mlの水に入れ1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にした後、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V[ml])を求め、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g] =0.1×V/W1
【0050】
<プルシアンブルー量の測定(実施例1〜6、8)>
酸分解−フレーム原子吸光法により、試料中のFeの重量分(W2[%])を測定し、プルシアンブルーの式量859.2及び、その内の鉄組成量390.9から、次式で試料中のプルシアンブルー量を算出した。
試料中のプルシアンブルー量[%]= W2/390.9×859.2
【0051】
<プルシアンブルー量の測定(実施例7)>
処理後のヘキサシアノ鉄(II)カリウム水溶液に、硫酸鉄(III)溶液を加え、生成するフェロシアン化鉄(III)の吸光度から、消費されたヘキサシアノ鉄(II)カリウム量(W3[g])を求め、プルシアンブルーの式量859.2、ヘキサシアノ鉄(II)カリウムの式量368.4及び、消費されたヘキサシアノ鉄(II)カリウムに対するプルシアンブルーの生成比3:1から、得られた試料(W4[g])中のプルシアンブルー量を次式で算出した。
試料中のプルシアンブルー量[%]= W3/368.4/3×859.2/W4×100
【0052】
<セシウムイオン吸着速度の測定>
塩化セシウムを溶解させ、セシウムイオン濃度を8ppmとした人工海水(八洲薬品株式会社製アクアマリン)80g中に、評価用試料4gを加え、経過時間ごとのセシウムイオン濃度をICP−発光スペクトルにより測定した。
【0053】
<実施例1>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のロダンソ−ダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸した後、乾燥してアクリル系繊維を得た。得られた繊維に、15%ヒドラジン水溶液中で110℃×3時間架橋導入処理を行い水洗した。次に、8%硝酸水溶液中で110℃×1時間酸処理を行い水洗した後、5%水酸化ナトリウム水溶液中で、90℃×2時間加水分解処理を行い水洗した。その後、5%硫酸マグネシウム水溶液中で、70℃×2時間処理を行い水洗し、マグネシウム塩型カルボキシル基と架橋構造を有する繊維状のビニル系重合体を得た。得られた重合体のカルボキシル基量を測定した結果を表1に示す。次に、この繊維状の重合体を0.3%のプルシアンブルーを含有する水分散液中で70℃×3時間処理を行い水洗し、80℃で12時間乾燥させて、カルボキシル基がマグネシウム塩型であり、プルシアンブルーを含有する繊維状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。得られた重合体のプルシアンブルー含有量およびセシウムイオン吸着速度を測定した結果を表1に示す。
【0054】
<実施例2〜4>
実施例1において、加水分解時間、及びプルシアンブルー水分散液濃度を調整することで、カルボキシル基量、プルシアンブルー含有量を調整した繊維状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0055】
<実施例5>
実施例1において、硫酸マグネシウムの代わりに、硝酸亜鉛を使用した以外は同様の操作を行い、カルボキシル基が亜鉛塩型であり、プルシアンブルーを含有する繊維状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0056】
<実施例6>
実施例1において、5%硫酸マグネシウム水溶液中での処理を省略する以外は同様な操作を行い、カルボキシル基がナトリウム塩型であり、プルシアンブルーを含有する繊維状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0057】
<実施例7>
実施例1の5%水酸化ナトリウム水溶液中で処理した後の繊維状の重合体に対して、8%硫酸鉄(III)水溶液中で、50℃×3時間処理を行い水洗した。その後、0.1%ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液中で、50℃×5時間処理を行い水洗し、80℃で12時間乾燥させてプルシアンブルーを含有する繊維状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0058】
<実施例8>
カルボキシル基およびジビニルベンゼン由来の架橋構造を有するアクリル系重合体である弱酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIRC76)に対して、実施例1における硝酸水溶液中での処理以降の処理を同様に行い、カルボキシル基がマグネシウム塩型であり、プルシアンブルーを含有する粒子状のフェロシアン化物複合ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0059】
<比較例1>
実施例1におけるプルシアンブルー水分散液処理前のマグネシウム塩型カルボキシル基と架橋構造を有する繊維状のビニル系重合体について、評価結果を表1に示す。
【0060】
<比較例2>
実施例1における5%水酸化ナトリウム水溶液中で処理した後のナトリウム塩型カルボキシル基と架橋構造を有する繊維状のビニル系重合体について、評価結果を表1に示す。
【0061】
<比較例3>
実施例1で得られたフェロシアン化物複合ビニル系重合体4g中に含有されるプルシアンブルー量と同量のプルシアンブルー粉末(60mg)を用いて、セシウムイオン吸着速度を測定した結果を表1に示す。なお、この時の24時間後のセシウムイオン濃度は2.6ppmであり、プルシアンブルー粉末のみではセシウムイオン吸着速度が非常に遅いことが理解される。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、カルボキシル基および架橋構造を有し、プルシアンブルーを含有する本発明のフェロシアン化物複合ビニル系重合体(実施例1〜8)は、フェロシアン化物を含有せず、カルボキシル基および架橋構造のみを有するビニル系重合体(比較例1、2)及び、プルシアンブルー単体(比較例3)と比較し、セシウムイオン吸着速度が飛躍的に早いことが分かる。
【0064】
具体的にみると、30分経過時点での比較例1、3のセシウムイオン濃度はそれぞれ7.2ppmと5.4ppmであるのに対して、これらを複合したものに相当する実施例1のセシウムイオン濃度は1.2ppmとなっている。また、同様に30分経過時点での比較例2、3のセシウムイオン濃度はそれぞれ7.3ppmと5.4ppmであるのに対して、これらを複合したものに相当する実施例6のセシウムイオン濃度は1.6ppmとなっている。これらのことなどから、カルボキシル基および架橋構造を有するビニル系重合体とフェロシアン化物を複合することで、各々の成分が本来有するセシウムイオン吸着速度を合わせたよりもはるかに大きいセシウムイオン吸着速度が発揮されることが理解される。
【0065】
また、実施例1、5、6で得られたフェロシアン化物複合ビニル系重合体を、室温で純水中に含浸させ、遠心脱水(3000rpm×5分)を行う操作を5回行った後のプルシアンブルー含有量を表1に示す。一価金属イオンであるナトリウムイオンをカルボキシル基のカウンターカチオンとして持つ実施例6に対して、多価金属イオンをカルボキシル基のカウンターカチオンとして持つ実施例1、5は、プルシアンブルーの脱落が少ないことが分かる。