特許第5967436号(P5967436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967436新規フラバノン化合物、新規スチルベン化合物、抗菌剤、抗酸化剤及び高抗菌抗酸化養蜂組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967436
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】新規フラバノン化合物、新規スチルベン化合物、抗菌剤、抗酸化剤及び高抗菌抗酸化養蜂組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/32 20060101AFI20160728BHJP
   C07D 311/30 20060101ALI20160728BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20160728BHJP
   A61K 35/64 20150101ALI20160728BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20160728BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20160728BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160728BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20160728BHJP
   C07C 39/21 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C07D311/32CSP
   C07D311/30
   A61K31/353
   A61K35/64
   A61K31/352
   A61K31/05
   A61P31/04
   A61P39/06
   C07C39/21
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-222515(P2012-222515)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2013-189421(P2013-189421A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-45936(P2012-45936)
(32)【優先日】2012年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512053130
【氏名又は名称】特定非営利活動法人エーピーエスディ
(72)【発明者】
【氏名】乾 沙王里
(72)【発明者】
【氏名】島村 裕子
(72)【発明者】
【氏名】増田 修一
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 茂則
(72)【発明者】
【氏名】細谷 孝博
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン ティ モーリー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】西屋 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】白藤 謙一
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−269650(JP,A)
【文献】 国際公開第03/013554(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02277387(EP,A1)
【文献】 特開2005−029778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1に示される構造を有するフラバノン化合物 solophenolA
【化1】
【請求項2】
下記化16に示される構造を有するフラバノン化合物 solophenolB
【化16】
【請求項3】
下記化17に示される構造を有するフラバノン化合物 solophenolC
【化17】
【請求項4】
下記化18に示される構造を有するフラバノン化合物 solophenolD
【化18】
【請求項5】
下記化1に示される構造を有するスチルベン化合物 solomonin
【化21】
【請求項6】
特許請求の範囲第1項から第5項に記載された新規化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする高抗菌性組成物
【請求項7】
特許請求の範囲第1項から第5項に記載された新規化合物を含有することを特徴とする高抗酸化組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高抗菌性、高抗酸化性組成物に関し、さらに詳しくはソロモン産養蜂産物中のプロポリス画分、さらに詳しくは、新規な4種のフラバノン化合物solophenol A、solophenol B、solophenol C、solophenol D、および新規な1種のスチルベン化合物solomonin、並びにこれら化合物の一種以上を含むことを特徴とする新規な高抗菌性、高抗酸化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄産のプロポリスが抗菌性、抗酸化性が高いことが知られている(特許文献1参照)また、沖縄産のプロポリスからテトラヒドロキシゲラニルフラバノンが見出されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 抗酸化剤、抗菌剤、抗腫瘍剤および飲食品 特開2005−29778
【特許文献2】 フラバノン化合物、抗酸化剤、抗菌剤、抗腫瘍剤および飲食品 特開2005−29560
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経済の発展に伴い健康に対する需要、とりわけ抗菌性、抗酸化性物質が注目されている。とりわけ天然物に対するニーズが大きく、多くの天然素材の抗菌性、抗酸化性が研究されており、一部には化粧品や健康食品として実用化され人気を呼んでいるものもある。養蜂産物もこれらの成功例の一つで、たとえばプロポリスやロイヤルゼリーなどは蜂が巣箱や幼虫をカビや菌、酸化ストレスから防御する物質だという神話にも似たストーリーと消費者の天然物指向からきわめて高価で取り扱われている。
しかしながら、実はこれらの養蜂組成物の抗菌、抗酸化活性は産地や季節、ロットにより大きく変動し、その効果も他の化学合成された抗菌剤、抗酸化剤に遙かに及ばないのが現実である。このような中、より強く安定した抗菌性、抗酸化性を有する養蜂組成物を求める研究も盛んであり、たとえばポッカコーポレーションによる沖縄産プロポリスの研究(先行技術文献)などが知られているがその活性は十分とは言い難く、真に有効で安定な天然の高抗菌性、高抗酸化性組成物が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは一般に抗菌性、抗酸化性が高いことで知られている養蜂組成物に注目し、さらに抗菌性が高い養蜂組成物はより蜂が生活する上で高い抗菌性が要求される多湿な地帯で見つかるであろうという仮説を立てた。また、同様に抗酸化性が高い養蜂組成物は高温地帯で見つかるであろうと考えた。さらには、高い抗菌性、抗酸化を安定的に得るには季節変動が少ない地帯で植生が豊な土地が有利であり、これまでにあまり養蜂業が知られていない地帯では新たな抗菌性、抗酸化性を有する化合物や組成物が見いだせる可能性が高いと考えた。発明者らは自らが発展途上国の支援活動を行っている南太平洋ソロモン諸島こそが適地であり、有用な化合物や組成物の発見、発明、その産業化が現地の発展につながるとの信念を持ち、現地スタッフと協力して全く養蜂業の無かったソロモン諸島での養蜂を開始、幾多の苦労の末に得た養蜂組成物からこれまでに知られていない高抗菌、高抗酸化組成物を抽出分離することに成功し、さらにはこの組成物から新規な4種のフラバノン化合物および1種のスチルベン化合物の抽出と同定に成功し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば消費者の嗜好が高い天然物の食品から、高い抗菌性、高い抗酸化性の組成物を得ることが出来、抗菌製品、化粧品、健康食品、食品加工、食品、飲料、医薬品原料などで健康で快適な生活に資することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】 solophenol Aの物理化学的特徴をまとめた。
図2】 solophenol AのNMRデータを示す。
図3】 solophenol AのH−NMRのチャートを示す。
図4】 solophenol Aの13C−NMRのチャートを示す。
図5】 solophenol AのH−H COSYスペクトルのチャートを示す。
図6】 solophenol AのHSQCスペクトルのチャートを示す。
図7】 solophenol AのHMBCスペクトルのチャートを示す。
図8】 solophenol AのCDスペクトルのチャートを示す。
図9】 solophenol Aのマススペクトルのチャートを示す。
図10】 solophenol AのUVスペクトルのチャートを示す。
図11】 solophenol Aの赤外スペクトルのチャートを示す。
図12】 プロポリス画分の抗菌性試験結果を示す。
図13】 プロポリスの分離チャートを示す。
図14】 solophenol Bの物理化学的特徴をまとめた。
図15】 solophenol BのUPLC−TOF−MSスペクトルのチャートを示す。
図16】 solophenol BのIRスペクトルのチャートを示す。
図17】 solophenol BのH−NMRスペクトルのチャートを示す
図18】 solophenol Bの13C−NMRスペクトルのチャートを示す。
図19】 solophenol BのHSQCスペクトルのチャートを示す。
図20】 solophenol BのHMBCスペクトルのチャートを示す。
図21】 solophenol BのHMBC相関を示す
図22】 solophenol Bの構造を示す。
図23】 solophenol Cの物理化学的特徴をまとめた。
図24】 solophenol CのUPLC−TOF−MSスペクトルのチャートを示す。
図25】 solophenol CのIRスペクトルのチャートを示す。
図26】 solophenol CのH−NMRスペクトルのチャートを示す
図27】 solophenol Cの13C−NMRスペクトルのチャートを示す。
図28】 solophenol CのHSQCスペクトルのチャートを示す。
図29】 solophenol CのHMBCスペクトルのチャートを示す。
図30】 solophenol CのHMBC相関を示す
図31】 solophenol Cの構造を示す。
図32】 solophenol Dの物理化学的特徴をまとめた。
図33】 solophenol DのUPLC−TOF−MSスペクトルのチャートを示す。
図34】 solophenol DのIRスペクトルのチャートを示す。
図35】 solophenol DのH−NMRスペクトルのチャートを示す
図36】 solophenol Dの13C−NMRスペクトルのチャートを示す。
図37】 solophenol DのHSQCスペクトルのチャートを示す。
図38】 solophenol DのHMBCスペクトルのチャートを示す。
図39】 solophenol DのHMBC相関を示す
図40】 solophenol Dの構造を示す。
図41】 solomoninの物理化学的特徴をまとめた。
図42】 solomoninのUPLC−TOF−MSスペクトルのチャートを示す。
図43】 solomoninのIRスペクトルのチャートを示す。
図44】 solomoninのH−NMRスペクトルのチャートを示す
図45】 solomoninの13C−NMRスペクトルのチャートを示す。
図46】 solomoninのH−H−COSYスペクトルのチャートを示す。
図47】 solomoninのHSQCスペクトルのチャートを示す。
図48】 solomoninのHMBCスペクトルのチャートを示す。
図49】 solomoninのHMBC相関を示す
図50】 solomoninの構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のsolophenol Aはソロモン産の養蜂産物から見出された下記の化学構造式を示すものである。
【0009】
化合物
【化1】
【0010】
本発明のsolophenol Bはソロモン産の養蜂産物から見出された下記の化学構造式を示すものである。
【0011】
化合物
【化16】
【0012】
本発明のsolophenol Cはソロモン産の養蜂産物から見出された下記の化学構造式を示すものである。
【0013】
化合物
【化17】
【0014】
本発明のsolophenol Dはソロモン産の養蜂産物から見出された下記の化学構造式を示すものである。
【0015】
化合物
【化18】
【0016】
本発明のsolomoninはソロモン産の養蜂産物から見出された下記の化学構造式を示すものである。
【0017】
化合物
【化21】
【0018】
本発明の抗菌剤、抗酸化剤は養蜂産物から抽出されることを特徴とし、食品や飲料などに利用する場合は養蜂産物をそのまま添加しても良いし、必要に応じて抽出、分離、さらには加工して用いることが出来る。
【0019】
本発明の組成物は十分な抗菌活性、抗酸化活性を有するが必要に応じて既存の抗菌剤や抗菌成分、抗酸化剤を添加して使用することも出来る。これらの既存の抗菌剤としては、各種抗生物質、合成殺菌剤、銀などの金属、酸、塩などを、抗酸化剤としては合成還元剤や各種ビタミン、コエンザイムQ、アスタキサンチンなどが挙げられる。
【0020】
本発明の抗菌剤、抗酸化剤及び養蜂組成物を得るための養蜂は通常の養蜂が用いることが出来、特別な工夫は不要である。使用できる蜂は西洋ミツバチ、日本ミツバチのいずれでも構わないし、現地では土着の小型ミツバチあるいは、西洋ミツバチとアフリカミツバチが交配したアフリカ蜂化ミツバチも使用することが出来る。
【0021】
本発明の抗菌剤、抗酸化剤及び養蜂組成物を得るための養蜂産物は、ハチミツ、蜂の巣、プロポリス、ロイヤルゼリー、蜂の子、蜂のいずれでも構わないが得率の高いのはプロポリスである。より多くのプロポリスを得るには養蜂箱の中にプロポリスネットを設置するのがよい。
【0022】
本発明の抗菌剤、抗酸化剤及び養蜂組成物を得るための養蜂は目的物が得られればどこで養蜂をしても差し支えないが、高温多湿地帯が望ましく、より望ましくは熱帯雨林を持つ南太平洋地域が望ましい。同地で高抗菌、高抗酸化の養蜂組成物が得られるのは蜂が悪環境で生き抜くために身につけた生きるための術であると思われ、4000種類とも言われる熱帯植物のどこから有効成分を運んでくるのかは不明であるが、季節変動が少ない熱帯地域に属する同地では安定した品質の産物が得られる。
【0023】
養蜂産物からの組成物や抗菌剤、抗酸化剤の分離は公知の手法を用いることが出来、特に制限はされないが、粉砕、抽出、分離、濃縮などの手法が使われる。粉砕には手での破壊、ミキサーなどの粉砕器の使用、すり鉢の使用などが、抽出には水、エタノール、有機溶剤による抽出が、分離には相分離やクロマトグラフィー、遠心分離などが、濃縮には加熱濃縮、減圧濃縮、凍結乾燥などが挙げられる。
【0024】
本発明のsolophenol A、solophenol B、solophenol C、solophenol D、solomoninは抗菌剤、抗酸化剤として使用できるばかりか医薬品や化学品の有効成分や有効成分合成の原料として使用できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
<化合物の単離同定>
ソロモン国マライタ州フィユ村の農業専門学校APSDソロモンファーマカルチャーセンターで西洋ミツバチを用いた養蜂を実施し養蜂箱よりプロポリス画分を得た。このプロポリスの原塊49.5gを乳鉢で粉砕後500mlのエタノールで室温下24時間抽出し、濾過濃縮後34.8gの抽出物を得た。その抽出物を通常のシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メルク製シリカゲル60 360mm×50mm)で粗分画し、24個の分画物を得た。
溶出はヘキサン、酢酸エチル、メタノールのグラジエント方式を用いた。その分画の1つより、分取HPLC(資生堂ODSカラム250mm×20mm)を用いて5個の成分を単離した。
展開溶剤は水:アセトニトリル=70:30(0.1% TFA)、流量10ml/minの条件を用いた。
18分の留分に新規な単一成分6.1mgを得たため、ESI−MS,NMR,CD等の各種分析機器を用いて構造解析を行ったところ新規なフラバノン化合物(化1)を見出しsolophenol Aと命名した。
solophenol Aの構造解析の過程を以下に記載する。
【0027】
<新規化合物の同定>
solophenol A物理化学的性質を(図1)に要約した。ESI−MSでは、Positiveモードでm/z493.07に(M+H)、m/z515.33に(M+Na)、m/z537.27に(M+K)、Negativeモードでm/z491.27に(M−H)の分子イオンピークが観測されたことより、分子量が492であることが明らかになった(図9)。
H−NMRスペクトルにおいて、積分値より36個のプロトンが観測され、δ6.84,δ7.01は芳香族性のプロトン、δ12.18は水酸基のプロトンと推定された(図3)。
13C−NMRスペクトルにおいて、30本のシグナルが観測され、δ197.99にカルボニル炭素と思われるシグナルが観測された(図4)。またH−H COSYスペクトルを測定し結果を(図5)に示す。
以上の情報及び高分解能FAB−MSの結果から、分子式をC3036と推定した。
HSQCスペクトル(図6)、HMBCスペクトル(図7)より平面構造を導いた。
さらに、CDスペクトルを測定したところ、310nmで正のコットン効果を、293nmで負のコットン効果を示した(図8)。フラバノンに関して報告されているCDスペクトルの文献値と比較し、2位の立体配置をSと決定した。以上の結果から、本化合物を(2S)−5,7,3′,4′−tetrahydroxy−8−(3′′′,3′′′−dimethylallyl)−2′−geranyl flavanoneであると同定した(化1)。本化合物は、文献未記載の新規化合物であり、solophenol Aと命名した。
【実施例2】
【0028】
<分画成分の同定>
実施例1に示した分収HPLCで引き続き22分に4.0mg、展開溶剤を水:アセトニトリル=63:37(0.1% TFA)に変更して、23分に8.6mg、24分に3.5mgの画分を分取した。
実施例1同様に構造解析を行い化合物2 bonannione A、化合物3 sophoraflavanone A、化合物4 (2S)−5,7−dihydroxy−4′−methoxy−8−prenylflavanoneであると同定した。
化合物2(bonannione A)
【化2】
化合物3(sophoraflavanone A)
【化3】
化合物4((2S)−5,7−dihydroxy−4′−methoxy−8−prenylflavanone)
【化4】
化合物2,3,4は共に既知の化合物であり、これら化合物を著量含むことから本発明の組成物が抗菌性、抗酸化性を有することは明らかである。特に化合物3が養蜂産物であるプロポリスから見出されたのは初めてのことであり、当該発明の抗菌剤、抗酸化剤、養蜂組成物が既存のものと大きく異なることを示している。
【実施例3】
【0029】
<抗菌活性試験(ペーパーディスク法)>
グラム陽性菌の代表として、Staphylococcus aureus 黄色ブドウ球菌 FDA209P及び Bacillus subtilis 枯草菌 NBRC3134を、グラム陰性菌の代表としてPseudomonas aeruginosa 緑膿菌 NBRC13275を各菌液500μL、Nutrient agar培地19.5mLをシャーレに播き凝固させた。実施例1同様に抽出したソロモン諸島産プロポリスのEtOH抽出物をMeOHで濃度20mg/mLに調製した。その試料をクリーンベンチ内でフィルター(0.2μm)に通し、ペーパーディスク(φ8mm)に50μLずつ浸み込ませ、乾燥させた後、培地上に置き、それをインキュベーター内で、37℃で24時間、静置培養した。その後、形成された阻止円の直径を二方向から測定し、平均値を求め、抗菌活性を比較した。
また、上記と同様にして調製した沖縄産プロポリス(オオバギタイプ)及びブラジル産プロポリス(バッカリスタイプ)のEtOH抽出物と比較例として示した。
結果を表1に示す。また、参考に図12に試験の様子を示す。
【表1】
表1より明らかなようにソロモン産プロポリスは一般に流通し抗菌性が高いとされているブラジル産プロポリスより遙かに抗菌性が高く、ブラジル産で全く効果が見られなかった黄色ブドウ球菌にも効果が見られた。さらに、近年高い抗菌性で注目される沖縄産のプロポリスより高い抗菌性を示している。この抗菌性は、雨期に取れたプロポリスも乾期に取れたプロポリスも同様であり、性能の高い安定性が示された。
【実施例4】
【0030】
実施例2、実施例3同様に実施し、ソロモン産プロポリスより抗菌性の高い成分として上述の化合物に加えpropolin Iを得た。propolin Iを加えた5化合物についてMIC(Minimum Inhibitory Concentration)を求めた。MICを求める方法としては、国際的な標準法であるClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠した微量液体希釈法を用いた。
CAMHB(Cation Adjusted Mueller−Hinton Broth)液体培地表2を作製した。次に、7mLずつ分注した18mm試験管をオートクレーブで、120℃で20分間、滅菌し、そこに、各試験菌を植菌して37℃で24時間、振とう培養した。それを、クリーンベンチ内で、1×10cfu/mLにCAMHBで調製し、96穴プレートに5/μL/wellずつ添加した。各化合物は、濃度を1,2,4,8,16,32,64,128,256,512mg/Lになるように、CAMHBで調製し、100μLずつ添加した。十分撹拌させた後、37℃で18時間、振とう培養した。
なお、これらの化合物は水に溶けにくいものであるため、試料をEtOHに溶かし、1%EtOH溶液とした。
培養後、肉眼で観察し、試験管内の菌の増殖が完全に阻止された試料の最小濃度をMICと判定した。結果を表3に示す。
【表2】
【表3】
試験をした5化合物すべてが抗菌性を示しとりわけ本発明のsolophenol A及び化合物2,3、Propolin Iの抗菌活性は強かった。本発明のsolophenol AはとりわけS.aureusに対する活性が強く既知のプロポリスで知られている抗菌物質に少ない性質であるため有用である。
【実施例5】
【0031】
抗酸化性を評価するためにDPPHアッセイを実施した。このアッセイは比較的安定なラジカルDPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル)が水素を得ることで無色のヒドラジンになる呈色反応を利用してラジカル捕捉能を測定する手法で、DPPHアッセイの手法はJ.Agric.Food Chem.,50,373−377(2002)に準じた。
結果を表4に示す。
【表4】
表4より明らかなように本発明のsolophenol Aはα−トコフェノールに匹敵する程の非常に強い抗酸化性を有することがわかった。同化合物を含有するソロモン産の養蜂組成物が高い抗酸化性を有することが理解できる。
【実施例6】
【0032】
実施例1記載の化合物の単離同定をさらに進め、新たに新規な3種のフラバノン化合物solophenol B、solophenol C、solophenol D、および新規な1種のスチルベン化合物solomoninの抽出と同定に成功した。単離の過程を(図13)に示す。
【実施例6】
【0033】
<分画成分の同定>
図13に示す分取HPLC画各分から化合物15,19,20は既知化合物であり、それぞれ、没食子酸、puyanin、6′−geranylpinocembrinであった。残りの7個の成分を単離し、化合物16,17,18,21の構造を実施例1及び2同様に各種機器分析により同定したところ、これらは新規の化合物であり以下のように構造を決定した。
【0034】
<新規化合物 化合物16の構造決定>
UPLC−TOF−MSでは、Negativeモードでm/z455.1747に(M−H)の分子イオンピークが観測されたことより、分子量が456であることが明らかになった(図15)。
IRスペクトルを測定したところ、1655,1702cm−1にカルボニル基、2954cm−1にアルキル基、3111cm−1に水酸基の存在を確認した(図16)。
H−NMRスペクトルにおいて、δ6.26,δ6.45,δ6.87,δ6.96は芳香族性のプロトン、δ12.27は分子内水素結合している水酸基のプロトンと推定された(図17)。
13C−NMRスペクトルにおいて、24本分のシグナルが観測され、δ176.99にカルボニル炭素と思われるシグナルが観測された(図18)。
以上の情報とHRESIMSから、分子式をC2528と推定した。
HSQCスペクトル(図19)、HMBCスペクトル(図20)より、(図21)に示すようなプロトンとカーボンのHMBC相関が見られた。
以上のことより、本化合物の構造を(図22)のように導き出すことができた。
以上の結果から、本化合物を
2′−(8″−hydroxy−3″,8″−dimethyl−oct−2″−enyl)−quercetinであると同定した(図22)。
本化合物は、文献未記載の新規化合物でありsolophenol Bと命名した。solophenol Bの理化学的性質を(図14)に要約した。
【0035】
<新規化合物 化合物17の構造決定>
UPLC−TOF−MSでは、Negativeモードでm/z455.1687に(M−H)の分子イオンピークが観測されたことより、分子量が456であることが明らかになった(図24)。
IRスペクトルを測定したところ、1654,1702cm−1にカルボニル基、2965cm−1にアルキル基、3110cm−1に水酸基の存在を確認した(図25)。
H−NMRスペクトルにおいて、δ6.61,δ7.00,δ7.70,δ7.82は芳香族性のプロトン、δ12.43は分子内水素結合した水酸基のプロトンと推定された(図26)。
13C−NMRスペクトルにおいて、24本分のシグナルが観測され、δ176.38にカルボニル炭素と思われるシグナルが観測された(図27)。
以上の情報とHRESIMSから、分子式をC2528と推定した。
HSQCスペクトル(図28)、HMBCスペクトル(図29)より、(図30)に示すようなプロトンとカーボンのHMBC相関が見られた。
以上のことより、本化合物の構造を(図31)ように導き出すことができた。
以上の結果から、本化合物を
6−(8″−hydroxy−3″,8″−dimethyl−oct−2″−enyl)−quercetinであると同定した(図31)。
本化合物は、文献未記載の新規化合物でありsolophenol Cと命名した。solophenol Cの理化学的性質を(図23)に要約した。
【0036】
<新規化合物 化合物18の構造決定>
UPLC−TOF−MSでは、Negativeモードでm/437.1576に(M−H)の分子イオンピークが観測されたことより、分子量が438であることが明らかになった(図33)。
IRスペクトルを測定したところ、1654,1702cm−1にカルボニル基、2956cm−1にアルキル基、3111cm−1に水酸基の存在を確認した(図34)。
H−NMRスペクトルにおいて、δ6.28,δ6.40,δ6.82,δ6.95は芳香族性のプロトン、δ12.30は分子内水素結合した水酸基のプロトンと推定された(図35)。
13C−NMRスペクトルにおいて、25本のシグナルが観測され、δ176.05にカルボニル炭素と思われるシグナルが観測された(図36)。以上の情報とHRESIMSから、分子式をC2526と推定した。
HSQCスペクトル(図37)、HMBCスペクトル(図38)より、(図39)に示すようなプロトンとカーボンのHMBC相関が見られた。
以上のことより、本化合物の平面構造を(図40)のように導き出すことができた。
以上の結果から、本化合物を2′−geranylquercetinであると同定した(図40)。
本化合物は、文献未記載の新規化合物でありsolophenol Dと命名した。solophenol Dの理化学的性質を(図32)に要約した。
【0037】
<新規化合物 化合物21の同定>
UPLC−TOF−MSでは、Positiveモードでm/z449.2674に(M+H)、Negativeモードでm/z447.2524に(M−H)の分子イオンピークが観測されたことより、分子量が448であることが明らかになった(図42)。
IRスペクトルを測定したところ、2922cm−1にアルキル基、3392cm−1に水酸基の存在を確認した(図43)。
H−NMRスペクトルにおいて、δ6.29,δ6.55,δ6.87,δ6.99は芳香族性のプロトン、δ6.81とδ6.96はカップリング定数(J=16.2Hz)より、二重結合のトランス位のプロトンと推定された(図44)。
13C−NMRスペクトルにおいて、26本のシグナルが観測された(図45)。
以上の情報とHRESIMSから、分子式をC2936と推定した。
H−H−COSYスペクトル(図46)、HSQCスペクトル(図47)、HMBCスペクトル(図48)より、(図49)示すようなプロトンとカーボンのHMBC相関が見られた。
以上のことより、本化合物の構造を(図50)のように導き出すことができた。
以上の結果から、本化合物を5′−farnesylpiceatannolであると同定した(図50)。
本化合物は、文献未記載の新規化合物でありsolomoninと命名した。solomoninの理化学的性質を(図41)に要約した。
【実施例7】
【0038】
<抗菌活性試験(微量液体希釈法)>
新たに分離同定された5化合物について実施例4同様MIC(Minimum Inhibitory Concentration)を求めた。結果を表5に示す。
【表5】
表5より本発明の養蜂組成物が抗菌性の強い化合物を含むことは明らかであり、また新規化合物16,17,18のいずれも抗菌性を示すことが明確に示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のsolophenol A,solophenol B,solophenol C,solophenol D、solomoninは抗菌剤、抗酸化剤として使用できるばかりか医薬品や化学品の有効成分や有効成分合成の原料として使用できる。本発明の抗菌剤、抗酸化剤は食品、飲料、食品添加物、健康食品、化粧品、化粧品添加物、抗菌衛生素材として幅広く衛生、健康分野に利用できる。
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