(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に示されるように摺動面6を円錐面とした免震滑り支承では、
図11に示すように原位置の近傍では支承体7の頂部と摺動面6との間で十分な接触面積(斜線を付して示した環状の範囲)を確保し得るものの、円錐面の円周方向の曲率は半径に反比例して変化することから変位が大きくなるにつれて円周方向の接触長さが小さくなることが不可避であり、したがって
図12に示すように支承体7が摺動面6の最外周部に移動したときには十分な接触面積を確保し得なくなる。
したがって、この免震滑り支承は軸力が大きくなる大規模建物には適用し難いものであるし、いずれにしても摺動面6および支承体7を十分に頑強なものとして耐荷重性能を確保する必要があり、必然的に大形化せざるを得ないしコスト高とならざるを得ない。
【0009】
また、特許文献2に示されるように復元ばねにより復元力を得るものでは、復元ばねのばね剛性により短周期化して免震性能が低下してしまうことが不可避である。特に、復元ばねに摩擦抵抗力以上の大きな復元力を与えて残留変位を完全に無くす場合には、復元ばねのばね剛性により滑り開始時の抵抗力が大きく増大することになるから、せっかく摩擦係数μを十分に小さくしたのに加速度に対して摩擦抵抗力(ひいては摩擦係数)を増加したことと同じになり、必然的に本来の免震性能が大きく損なわれてしまう。
【0010】
以上のように、従来の滑り支承や滑り免震機構はいずれも一長一短があり十分に有効適切なものは実用化されていないのが実状である。
上記事情に鑑み、本発明は構成が簡単でローコストに製作可能であり、しかも残留変位を十分に抑制できる有効適切な滑り免震機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構であって、前記上部構造体の底部に固定される上部案内部材と、前記下部構造体の上部に固定される下部案内部材と、前記上部案内部材および前記下部案内部材の間に介装される摺動子からなり、前記摺動子は、前記上部案内部材に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに、前記下部案内部材に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、前記摺動子と前記上部案内部材との摺動面は、いずれも前記水平一方向に沿いかつ水平面に対して互いに逆方向に同角度ずつ傾斜してい
る第1上部傾斜面と第2上部傾斜面とが前記水平他方向に並設配置されて構成され、
前記第1上部傾斜面において前記摺動子が前記上部案内部材と接触可能な面と、前記第2上部傾斜面において前記摺動子が前記上部案内部材と接触可能な面と、は同一面積となるように構成され、前記摺動子は、常に前記第1上部傾斜面および前記第2上部傾斜面の少なくとも一方において前記上部案内部材と接触可能な面が該上部案内部材と全面的に接触し、前記摺動子と前記下部案内部材との摺動面は、いずれも前記水平他方向に沿いかつ水平面に対して互いに逆方向に同角度ずつ傾斜してい
る第1下部傾斜面と第2下部傾斜面とが前記水平一方向に並設配置されて構成さ
れ、前記第1下部傾斜面において前記摺動子が前記下部案内部材と接触可能な面と、前記第2下部傾斜面において前記摺動子が前記下部案内部材と接触可能な面と、は同一面積となるように構成され、前記摺動子は、常に前記第1下部傾斜面および前記第2下部傾斜面の少なくとも一方において前記下部案内部材と接触可能な面が該下部案内部材と全面的に接触していることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の滑り免震機構であって、前記上部案内部材に形成されている前記第1上部傾斜面と前記第2上部傾斜面との間には前記水平一方向に沿う上部ガイド溝が形成されているとともに、前記摺動子の上面に形成されている前記第1上部傾斜面と前記第2上部傾斜面との間には前記上部ガイド溝に係合して該摺動子の前記水平一方向への摺動を案内しつつ他の方向への変位を拘束する上部ガイド部が形成され、前記下部案内部材に形成されている前記第1下部傾斜面と前記第2下部傾斜面との間には前記水平他方向に沿う下部ガイド溝が形成されているとともに、前記摺動子の下面に形成されている前記第1下部傾斜面と前記第2下部傾斜面との間には前記下部ガイド溝に係合して該摺動子の前記水平他方向への摺動を案内しつつ他の方向への変位を拘束する下部ガイド部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の滑り免震機構であって、前記摺動面の摩擦係数μが μ=0.02〜0.1 の範囲に設定され、かつ該摺動面の水平面に対する傾斜角θが tanθ=0.005〜0.03 の関係を満たすように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摺動子を上部案内部材および下部案内部材に対して水平二方向に摺動させるための摺動面を水平面に対して傾斜する傾斜面としたので、地震時には摺動子を水平各方向に相対変位させて任意の方向に対する免震効果が得られることはもとより、自ずと復元力が得られて残留変位を抑制することができる。
特に、摺動子を上部案内部材に対して水平一方向に摺動させるための摺動面を水平面に対して逆方向に傾斜する第1上部傾斜面と第2上部傾斜面により構成してそれらを水平他方向に並設配置するとともに、摺動子を下部案内部材に対して水平他方向に摺動させるための摺動面を水平面に対して逆方向に傾斜する第1下部傾斜面と第2下部上部傾斜面により構成してそれらを水平一方向に並設配置したので、地震時における水平一方向への変位が生じた際にも第1上部傾斜面と第2上部傾斜面のいずれか一方が常に全面的に接触しており、また水平他方向への変位が生じた際には第1下部傾斜面と第2下部傾斜面のいずれか一方が常に全面的に接触しており、したがって上部構造体の自重は常に摺動子の中心に作用して摺動子に偏芯モーメントが生じることがなく、以て摺動子の鉛直回転(ロッキング)を確実に防止し得て優れた免震性能を発揮し得る。
【0015】
また、上部案内部材と摺動子の上面に摺動子を水平一方向にのみ摺動させるために互いに係合する上部ガイド溝と上部ガイド部を設けるとともに、下部案内部材と摺動子の下面に摺動子を水平他方向にのみ摺動させるために互いに係合する下部ガイド溝と下部ガイド部を設けることにより、摺動子の回転をさらに確実に防止することができる。
【0016】
さらに、摺動面の摩擦係数μを μ=0.02〜0.1 の範囲に設定し、かつ摺動面の水平面に対する傾斜角θを tanθ=0.005〜0.03 の関係を満たすように設定することにより、摺動面を僅かに傾斜させて小さな復元力を与えることで加速度の増加を極力抑えつ残留変位を大きく減らすことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の滑り免震機構の実施形態を説明するに先立ち、まず本発明の基礎となった先行発明の滑り免震機構(本出願人が先に特願2011−278620において提案したもの)について
図4〜
図9を参照して説明する。
【0019】
先行発明の滑り免震機構は、
図5(b)、(c)に示すように免震対象物である上部構造体11をその支持構造物である下部構造体12に対して水平各方向に滑動自在に支持するためのもので、上部構造体11の底部に固定される上部案内部材13と、下部構造体12の上部に固定される下部案内部材14と、それら上部案内部材13および下部案内部材14の間に介装される摺動子15からなり、摺動子15を上部案内部材13に対して水平一方向(図ではX−X方向として示す)にのみ摺動可能に保持するとともに、下部案内部材14に対してはその方向とは直交する水平他方向(図ではY−Y方向として示す)にのみ摺動可能に保持する構成としたことを主眼とする。
【0020】
具体的には、
図4(b)に示すように、上部案内部材13および下部案内部材14はいずれも断面矩形の横長のブロック状をなす同一形状、同一寸法の部材であって、長さ方向が互いに直交する向きとされて上下方向に間隔をおいた状態で対向配置され、その状態で
図5(b),(c)に示すように上部構造体11の底部と下部構造体12の上部に対してそれぞれ固定されるものである。
【0021】
それら上部案内部材13と下部案内部材14の対向面側(すなわち上部案内部材13の下面側および上部案内部材13の上面側)には、それぞれの長さ方向に沿う溝が形成されているとともに、それらの溝の深さは中央部から両側に向かって漸次浅くなるようにされており、したがって溝の底面は緩慢なV形に傾斜する傾斜面とされている。
そして、上部案内部材13は溝が下向きとなる状態でX−X方向に沿う向きで上部構造体11の底部に固定されることにより、この上部案内部材13に形成されている溝の底面はX−X方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する下向きの上部傾斜面16となっている。
一方、下部案内部材14は溝が上向きとなる状態でY−Y方向に沿う向きで下部構造体12の上部に固定されることにより、この下部案内部材14に形成されている溝の底面はY−Y方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する上向きの下部傾斜面17となっている。
なお、後述するように上部傾斜面16および下部傾斜面17の傾斜角θは十分に小さいものであるが、構成を分かりやすくするため図では傾斜角θを大きく誇張して示している。
【0022】
摺動子15は、上部案内部材13と下部案内部材14の双方の溝内に同時に配置可能な正方形状の部材であって、
図4(a)に示すようにその上面が上部傾斜面16に対応して緩慢なΛ形に傾斜する上向きの上部傾斜面18とされ、下面が下部傾斜面17に対応して緩慢なV形に傾斜する下向きの下部傾斜面19とされている。このような摺動子15は、
図4(a)に示すように同一形状、同一寸法とした2部材の一方を反転させて向きを90°変えた状態で双方を重ね合わせて一体化することで容易に製作することができる。
そして、この摺動子15はその上部傾斜面18および下部傾斜面19がそれぞれ上部案内部材13に形成されている上部傾斜面16および下部案内部材14に形成されている下部傾斜面17に密着した状態で双方の溝内に保持され、これにより上部案内部材13に対してはX−X方向にのみ摺動可能とされ、下部案内部材14に対してはY−Y方向にのみ摺動可能とされ、それ以外の方向への変位や摺動は拘束されるようになっている。
したがって、上部構造体11と下部構造体12との間で任意の水平方向への相対変位が生じた際には、摺動子15は上部傾斜面16に対してX−X方向に相対変位しつつ下部傾斜面17に対してY−Y方向に相対変位し、これにより上部構造体11と下部構造体12との間で生じる水平各方向(全方向)への相対変位に追随して変位し得るものとなっている。
【0023】
この先行発明の滑り免震機構においては、各摺動面の摩擦係数(すなわち上部案内部材13における上部傾斜面16と摺動子15の上面の上部傾斜面18との間の摩擦係数、および下部案内部材14における下部傾斜面17と摺動子15の下面の下部傾斜面19との間の摩擦係数)をいずれもμとし、かつそれら摺動面の水平面に対する傾斜角をいずれもθとした場合、それら摩擦係数μおよび傾斜角θを tanθ=(0.1〜0.4)μ の関係を満たすように設定することが好ましいとされ、それによりそれら摩擦係数μと傾斜角θに応じた復元力が自ずと得られて優れた復元特性を備えるものである。
特に、摩擦係数μは一般的な滑り支承の場合と同等のμ=0.1程度とすることが好適であり、その場合において上記のように tanθ=(0.1〜0.4)μ とする場合には tanθ=0.01〜0.04 であるから、たとえばtanθ=0.02(すなわち勾配角1/50、θ≒1.1°)程度と設定することが好適であるとされている。
そのようなわずかな傾斜角θであれば、免震層の水平変位が500mmの場合であっても鉛直変位はわずか10mm程度であり、したがってこの滑り免震機構全体の上下方向の所要寸法は十分に小さくできるし、上部構造体11と下部構造体12との間に確保するべき鉛直方向の免震クリアランスも些少で済む。
【0024】
先行発明の滑り免震機構の地震時における挙動と作用効果について以下に詳述する。
(1)
図6に模式的に示すように、上部構造体11の自重(すなわち滑り免震機構に作用する鉛直方向の軸力)をWとし、上部案内部材13が下部案内部材14に対して水平方向に変位した際の復元力をFとすると、復元力Fは F=Wtanθ である。
これは、構造的には
図7に示すモデルのように上部構造体11と下部構造体12の間に復元ばねKを設置してそれに予引張力Fを与えた場合と等価であって、免震層の変位によらず一定の復元力Fが作用するものとなる。
この場合、各摺動面の摩擦係数μを tanθ≧μ となるように設定すると残留変位を完全に除去できる完全復元力が得られるが、その1/3〜1/10程度とすることによってもほぼ残留変形をなくすことができることが実験・解析的に明らかにされてきた。したがって、たとえば上記のように tanθ=(0.1〜0.4)μ とした場合には F=Wtanθ=(0.1〜0.4)μW であり、さらに摩擦係数μ=0.1とした場合には F=(0.01〜0.04)W となる。
そして、この滑り免震機構の復元力特性は、
図8に示すように摩擦による復元力特性と傾斜による復元力特性とを合成したものとなり、変位が同一の摩擦ダンパーと同じ履歴エネルギーをもち、変位によらず一定の復元力をもつことから、矩形をずらして並べたような形の復元力特性となる。
【0025】
(2) 摺動子15と上部案内部材13および下部案内部材14との摺動面は傾斜した平面であり、したがって地震時にどんなに変位した場合でも、摺動子15の上面および下面の半分の接触面積が常に確保される。このため、摺動面を円錐面とする特許文献1の免震滑り支承による場合のように変位に応じて接触面積が低下することはなく、大きな軸力にも支障なく対処し得る。
たとえば、基準面圧20MPa(20N/mm
2)とすると、摺動子15の平面形状が800mm×800mmの正方形の場合、水平変位時の接触面積は0.32m
2であり、自重(長期軸力)はW=6.4MN=640tonfとなり、従来一般の免震滑り支承と同様に大きな耐荷重が容易に得られる。
また、摺動面はわずかに傾斜する単なる平滑な平坦面として形成すれば良いので、
図10に示した滑り振り子型免震機構や
図11に示した免震滑り支承のように摺動面を高精度の球面や円錐面とする場合に比べれば遙かに簡略に製作できるし、十分にコストダウンを図ることができる。
【0026】
(3) 摺動子15の平面形状を四角形とすれば、上部案内部材13および下部案内部材14との間で鉛直方向まわりの相対回転(ねじれ)は基本的に生じないから、免震層にねじれ(水平面内の回転変位)を生じない。
【0027】
(4) 上記のようにF=(0.1〜0.4)μW、μ=0.1とした場合、滑りを生じ始めるときの水平荷重F
0は、傾斜角θが小さいので、cosθ=1とすると、下式となる。
F
0=μW+F=(1.1〜1.4)μW=(0.11〜0.14)W
したがって、免震構造物に生じる応答加速度は110〜140galで頭打ちされることになる。一方、積層ゴムやダンパーからなる従来一般的な免震構造では、加速度の頭打ちができず、過大な入力時での加速度は本実施形態の滑り免震機構による場合の方が小さくできる。また、
図10に示した従来の滑り振り子型免震機構(FPS)や積層ゴムを免震支承に使用した場合には、免震層の固有周期が存在してその周期で加振入力された場合には共振により応答が大きくなる特性があるが、本実施形態の滑り免震機構では固有周期が存在しないので共振することがない。
【0028】
(5) 先行発明の滑り免震機構によれば、上記のF
0以下の水平力が作用しても水平変位が生じないという、いわば「トリガー特性」を有する。そのため、風や交通振動などの小さな外乱では揺動を起こさず、振動障害を生じ難い。
【0029】
(6) 先行発明の滑り免震機構は摩擦抵抗力を減衰に利用しているため、オイルダンパーや鉛ダンパー等のダンパーが不要であり、ローコストな免震構造を実現可能である。
【0030】
以上のように、先行発明の滑り免震機構は簡単な構成でありながら基本的に優れた免震特性を備えるものではあるが、以下の点で若干の改良の余地を残している。
すなわち、上記の滑り免震機構における摺動子15は上部案内部材13および下部案内部材14に対して回転せずに並進することが理想的であるが、実際上はそれらの剛性が有限なことや、寸法精度上の誤差も含めて摺動面にわずかな隙間が生じることは不可避であることにより、摺動子15が上部案内部材13や下部案内部材14に対して僅かながら相対回転を生じることは完全には防止し得ない。
特に、摺動子15の水平面での回転(ねじれ)は特に問題にはならないものの、鉛直面内での回転であるロッキングが生じた場合には無視し得ない悪影響が及ぶことが想定される。
【0031】
そのことについて
図9を参照して詳述すると、先行発明の滑り免震機構では常時においては(a)に示すように各摺動面が全面的に密着しており、地震変位時には(b)に示すように摺動面の1/2が密着している状態になる(上記(2)参照)。
つまり、摺動子15の上部傾斜面16および下部傾斜面17の1辺の長さをそれぞれB=2Dとした場合、常時における摺動面の密着面積は2BD=B
2であり、地震変位時における摺動面の密着面積はBD=B
2/2となり、その場合においては上部構造体11の自重Wは摺動子15の中心から偏位量e≒D/2=B/4だけ移動した位置に作用することになる。
【0032】
この場合において、摺動子15下面の鉛直応力分布について着目すると、常時の分布応力度σ
0は σ
0=W/B
2 であって(a)に示すように下面全体で一定であるが、地震変位時には e/B=1/4>1/6 より(b)に示すように三角形分布となり、接触しない側の端部からB/4までの範囲は鉛直方向反力が0となり、最大反力は 8σ
0/3 となる。
このように、摺動子15に対して自重Wが偏芯して作用することで、摺動子15下面の一部に浮き上がり(鉛直反力0の領域)が生じることとなる。
これに、摺動面に沿って作用する摩擦力が加わることで摺動子15下面におけるモーメントが増大し、その結果、摺動子15がロッキング(鉛直面内における回転)しやすくなる。この傾向は、(b)に示しているように摩擦力により生じるモーメントと偏芯モーメントが同じ向きとなる除荷時(水平変位が減少して原位置に復帰するとき)において顕著となる。
そして、そのようなロッキングが生じると、滑りを伴わずに変位が進んで所定の履歴エネルギーを吸収できなくなることから、免震性能が低下して所望の免震効果が得られない場合が生じることも想定される。特に、上部案内部材13のとりつく上部構造体11の基礎の曲げ剛性が小さい場合には、上部案内部材13が水平面から回転を生じやすくなり、ロッキングによる免震性能の低下を招くおそれがある。
【0033】
そこで本発明は、先行発明の滑り免震機構における上記のような問題点を解決するべく、摺動子15に偏芯モーメントが生じてそれに起因するロッキングが生じることを確実に防止するための改良を加えたことを主眼とするものである。
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図3を参照して説明するが、本発明は先行発明の基本構成を踏襲してそれを改良したものであるので、以下で説明する本発明の実施形態である滑り免震機構における構成要素のうち、上述した先行発明の滑り免震機構における構成要素に対応するものには同一符号を付してそれについての詳細な説明は省略ないし簡略化する。
【0034】
上述した先行発明の滑り免震機構では、
図4に示したように、上部案内部材13の摺動面はΛ形に緩慢に傾斜する上部傾斜面16とされ、下部案内部材14の摺動面はV形に緩慢に傾斜する下部傾斜面17とされていたのに対し、本実施形態の滑り免震機構では、
図1に示すように上部案内部材13の摺動面を水平一方向(
図1におけるX−X方向)に沿いかつ水平面に対して互いに逆方向に同角度ずつ傾斜している同一面積の第1上部傾斜面16aと第2上部傾斜面16bとを水平他方向(
図1におけるY−Y方向)に並設配置した構成とし、下部案内部材14の摺動面を水平他方向(
図1におけるY−Y方向)に沿いかつ水平面に対して互いに逆方向に同角度ずつ傾斜している同一面積の第1下部傾斜面17aと第2下部傾斜面17bとを水平一方向(
図1におけるX−X方向)に並設配置した構成としている。
【0035】
具体的には、本実施形態の上部案内部材13は、下面が第1上部傾斜面16aとされている1枚の帯板状の主部材13aと、その主部材13aと長さが同一で幅が半分とされているとともに下面が第2上部傾斜面16bとされている2枚の帯板状の副部材13bとの組み合わせにより構成されていて、主部材13aの両側に副部材13bをそれらの一端側をラップさせた状態で長さ方向の位置をずらして並設配置することによって上部案内部材13および上部傾斜面16の全体が形成されており、この上部傾斜面16は全体として緩慢なΛ型の摺動面と同様に機能するものとなっている。
同様に、本実施形態の下部案内部材14は上面が第1下部傾斜面17aとされている1枚の帯板状の主部材14aと、その主部材14aと長さが同一で幅が半分とされているとともに上面が第2下部傾斜面17bとされている2枚の帯板状の副部材14bとの組み合わせにより構成されていて、主部材14aの両側に副部材14bをそれらの一端側をラップさせた状態で長さ方向の位置をずらして並設配置することによって下部案内部材14および下部傾斜面17の全体が形成され、この下部傾斜面17は全体として緩慢なV型の摺動面と同様に機能するものとなっている。
【0036】
一方、摺動子15の上面中央部には上部案内部材13における主部材13aの下面に形成されている第1上部傾斜面16aに対応する第1上部傾斜面18aが形成されているとともに、その両側には上部案内部材13における副部材13bの下面に形成されている第2上部傾斜面16bに対応する第2上部傾斜面18bが形成されていて、それら第1上部傾斜面18aおよび第2上部傾斜面18bの全体により上部傾斜面18が形成されている。
同様に、摺動子15の下面中央部には下部案内部材14における主部材14aの上面に形成されている第1下部傾斜面17aに対応する第1下部傾斜面19aが形成されているとともに、その両側には下部案内部材14における副部材14bの上面に形成されている第2下部傾斜面17bに対応する第2下部傾斜面19bが形成されていて、それら第1下部傾斜面19aおよび第2下部傾斜面19bの全体により下部傾斜面19が形成されている。
【0037】
また、上部案内部材13を構成している主部材13aと副部材13bとの間には上部ガイド溝20としての若干の間隔が確保されているとともに、下部案内部材14を構成している主部材14aと副部材14bとの間には下部ガイド溝21としての若干の間隔が確保されている。
そして、摺動子15の上面には上部ガイド溝20に係合して摺動子15のX−X方向への摺動を案内しつつ他の方向への変位を拘束する上部ガイド部22が形成されているとともに、摺動子15の下面には下部ガイド溝21に係合して摺動子15のY−Y方向への摺動を案内しつつ他の方向への変位を拘束する下部ガイド部23が形成されている。
【0038】
上記構成のもとに、本実施形態の滑り免震機構は、基本的に上述した先行発明の滑り免震機構と同様に機能して上記の効果(1)〜(6)を奏し得るものであることに加えて、さらに以下のような効果を奏して先行発明の問題点を解決し得るものである。
【0039】
本実施形態の滑り免震機構の作用および効果について
図2を参照して説明すると、
図2(a)に示すように、常時においては摺動子15が上部案内部材13および下部案内部材14の中心位置に配置されていて、摺動子15の上面全体(すなわち第1上部傾斜面18aおよび第2上部傾斜面18bの全体)が上部案内部材13の下面(すなわち第1上部傾斜面16aおよび第2上部傾斜面16b)に密着しており、かつ摺動子15の下面全体(すなわち第1下部傾斜面19aおよび第2下部傾斜面19bの全体)が下部案内部材14の上面(すなわち第1下部傾斜面17aおよび第2下部傾斜面17b)に密着している。
【0040】
その状態から地震時に水平変位が生じた場合、たとえば(b)に示すように上部構造体11が下部構造体12に対し水平一方向(図ではX−X方向に沿って右方)に水平変位した場合、上部案内部材13を構成している副部材13bの下面に形成されている第2上部傾斜面16bと摺動子15の上面両側に形成されている第2上部傾斜面18bとの間で摺動が生じ、上部案内部材13を構成している主部材13aの下面に形成されている第1上部傾斜面16aと摺動子15の上面中央部に形成されている第1上部傾斜面18aとの間では若干の隙間(浮き上がり)が生じ、この場合の摺動面の接触面積は全体の半分となる。
また、(c)に示すように上部構造体11が逆方向(X−X方向に沿って左方)に水平変位した場合には、上部案内部材13を構成している主部材13aの下面に形成されている第1上部傾斜面16aと摺動子15の上面中央部に形成されている第1上部傾斜面18aとの間で摺動が生じ、上部案内部材13を構成している副部材13bの下面に形成されている第2上部傾斜面16bと摺動子15の上面両側に形成されている第2上部傾斜面18bとの間では若干の隙間(浮き上がり)が生じ、この場合の摺動面の接触面積は全体の半分となる。
勿論、水平他方向(Y−Y方向)に沿う水平変位が生じた際には下部案内部材14と摺動子15の下面との間で同様の摺動と浮き上がりが生じ、水平二方向(X−X方向およびY−Y方向)の水平変位が同時に生じた際、すなわち任意の水平方向の変位が生じた際には以上の挙動が同時に生じる。
【0041】
上記のように地震時においては摺動面での接触面積が半分になること自体は上記(2)において既に述べたように先行発明においても同様であるが、先行発明においては上下の摺動面を摺動方向に沿って単にV形あるいはΛ形に傾斜する傾斜面としていることから
図9に示したように摺動子の片側に偏芯モーメントが生じてそれに起因してロッキングが生じるものであるのに対し、本実施形態では上下の摺動面を構成している第1上部傾斜面16a、18aと第2上部傾斜面16b、18b、および第1下部傾斜面17a、19aと第2下部傾斜面17b、19bをそれぞれ摺動方向に長い長方形状としてそれらを摺動方向に直交する方向に並設配置しているので、水平変位時にも自重Wは常に摺動子15の中心位置に作用して偏芯モーメントが生じることはなく、その結果、摺動子15にロッキングが生じることはない。
同時に、摺動子15の鉛直方向反力分布は常に均等分布となり、接触面に過大な面圧が生じることもないので摩擦材の磨耗も小さくなる。
さらに、地震時には摺動面に沿って作用する摩擦力があるが、その摩擦力により摺動子15に生じる転倒モーメントは偏芯モーメントを生じる先行発明の場合に比べて僅かとなり、これによっても摺動子15の回転(ロッキング)は生じ難いものとなる。
【0042】
また、本実施形態では上部案内部材13および下部案内部材14にそれぞれ上部ガイド溝20および下部ガイド溝21を設けるとともに摺動子15にはそれら上部ガイド溝20および下部ガイド溝21に係合しつつ摺動する上部ガイド部22および下部ガイド部23を設けているので、摺動子15は摺動方向にのみ安定に案内されて移動可能であるものの他方向への変位は確実に拘束され、これによっても摺動子15の鉛直回転(ロッキング)はもとより水平回転もより確実に防止することができる。
【0043】
しかも、先行発明ではブロック状の上部案内部材13および下部案内部材14に対してV形の溝を形成する必要があるので、その加工は必ずしも容易ではなくコスト高にならざるを得ないものであったが、本実施形態では一面を若干の傾斜面としただけの単なる帯板状の主部材13a、14aと副部材13b、14bとを組み合わせてそれらを並設配置することのみで上部案内部材13と下部案内部材14とを形成でき、かつそれらの間に若干の間隔を確保することのみで上部ガイド溝20と下部ガイド溝21を自ずとを形成できるものであり、したがって複雑な加工を必要とせず容易にかつ安価に製作することが可能となる。
【0044】
以上で本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜の設計的変更や応用が可能であることは当然である。
【0045】
たとえば、本発明においても先行発明の場合と同様に摺動面の摩擦係数μや傾斜角θは任意に設定すれば良いのであるが、本発明においては摺動面の摩擦係数μを μ=0.02〜0.1 の範囲に設定し、かつ摺動面の水平面に対する傾斜角θを tanθ=0.005〜0.03 の関係を満たすように設定することが好適である。
勿論、 tanθ≧μ となるように設定すると残留変位を完全に除去できる完全復元力が得られるが、その1/3〜1/10程度とすることによってもほぼ残留変形をなくすことができることは先行発明の場合と全く同様である。
【0046】
なお、上記のように摩擦係数μ=0.02〜0.1程度とする滑り支承は免震部材として一般的なものであり、傾斜角はたとえばtanθ=0.02(勾配角:1:50)の場合、θ=1.1°に相当するので、そのような勾配では免震層の水平変位が500mmに対する鉛直変位は10mm程度に過ぎない。
また、傾斜角θ(勾配)は、施工精度を考慮して下限をtanθ=0.005=1/200、摺動面が変わる時の衝撃力(加速度)を考慮して上限をtanθ=0.03とした。この衝撃力は変位0で生じるが、一般的に加速度が最大となるのは変位が最大のときなので、変位0時の加速度は小さく、これが問題になることはない。
また、その場合における復元力Fは F=Wtanθ=(0.005〜0.03)Wであり、これは、上部構造体11と下部構造体12の間に予引張力Fの低荷重ばねを設置した場合と同じで、免震層の変位によらず一定の復元力Fが作用することになる。
さらに、この場合においては、滑りを生じ始めるときの水平荷重F
0は傾斜角θが小さいので、cosθ≒1、摩擦係数μ=0.02〜0.1とすると、F
0=μW+F=(0.025〜0.13)W となり、したがって上部構造体11に生じる応答加速度は25〜130galで頭打ちされることになり、このことも先行発明の場合と同様である。
【0047】
また、本発明においては、上部傾斜面16,18を構成している第1上部傾斜面16a、18aと第2上部傾斜面16b、18b、下部傾斜面17,19を構成している第1下部傾斜面17a、19aと第2下部傾斜面17b、19bの具体的な形状や寸法は任意であって、それらについては様々な変形が考えられる。
たとえば、
図3は上記実施形態に対する一変形例を示すもので、これは上部案内部材13における上部傾斜面16を上記実施形態のように全体として緩慢なΛ形に傾斜させることに代えて、上部案内部材13を構成している主部材13aおよび副部材13bの向きを変更することによって全体として緩慢なV形に傾斜するようにしたものであり、この場合も上記実施形態と全く同様に機能するものである。
勿論、下部案内部材14と摺動子15との間の摺動面についても、下部案内部材14を構成している主部材14aおよび副部材14bの向きを変更することによって上記実施形態のように全体として緩慢なV形に傾斜させることに代えて緩慢なΛ形に傾斜するようにしても同様である。