(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967455
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】複合構造、履物および複合要素を製造する方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/08 20060101AFI20160728BHJP
A43B 23/16 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
B32B5/08
A43B23/16
【請求項の数】42
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-509444(P2014-509444)
(86)(22)【出願日】2012年5月3日
(65)【公表番号】特表2014-514194(P2014-514194A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012036338
(87)【国際公開番号】WO2012151408
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2014年1月7日
(31)【優先権主張番号】13/100,689
(32)【優先日】2011年5月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】314006455
【氏名又は名称】ナイキ イノヴェイト シーヴィー
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(74)【代理人】
【識別番号】100183450
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 太知
(72)【発明者】
【氏名】デュア,ブペシュ
(72)【発明者】
【氏名】ホーキンソン,カレン,エイ.
(72)【発明者】
【氏名】シェイファー,ベンジャミン,エイ.
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−130991(JP,A)
【文献】
特開平08−109553(JP,A)
【文献】
特開2008−114382(JP,A)
【文献】
特開平08−003877(JP,A)
【文献】
特開平11−170461(JP,A)
【文献】
特開平09−056409(JP,A)
【文献】
特公昭49−013947(JP,B1)
【文献】
特開2005−344225(JP,A)
【文献】
実開平01−153923(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
A43B 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、反対側の第2の面とを有する編成部材であって、編成構造を形成する融着糸と非融着糸とが組み込まれており、前記融着糸が少なくとも部分的に熱可塑性ポリマー材料で形成され、少なくとも前記第1の面に配置される複数の第1ループと少なくとも前記第2の面に配置される複数の第2ループとが前記融着糸に形成される編成部材と、
前記第1の面に近接して配置された被接着部材であって、前記融着糸の前記熱可塑性ポリマー材料によって前記第1の面に熱接着されている被接着部材とを備え、
前記複数の第1ループは、前記第1の面側において前記非融着糸の周辺で延びており、前記複数の第2ループは、前記第2の面側において前記非融着糸の周辺で延びている複合構造。
【請求項2】
前記融着糸が、芯部と、少なくとも部分的に前記芯部の周囲に延びている鞘部とを備え、前記芯部が、非融着材料で形成され、前記鞘部が、前記熱可塑性ポリマー材料で形成されている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項3】
前記融着糸および前記非融着糸が、(a)前記第1の面と、(b)前記第2の面と、(c)前記第1の面と前記第2の面との間に配置されている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項4】
前記融着糸および前記非融着糸が、前記編成部材の少なくとも一部において互いに被覆されるように配置され、互いに平行に走っている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項5】
前記第1の面が、第1の領域と、第2の領域とを備え、前記融着糸が、前記第1の領域に存在し、前記融着糸が、前記第2の領域に存在しない、請求項1に記載の複合構造。
【請求項6】
前記被接着部材が、前記第1の領域の形状を有し、前記第1の領域に熱接着されている、請求項5に記載の複合構造。
【請求項7】
前記被接着部材が、布帛材料、ポリマー発泡要素、ポリマーシートのうちの1つである、請求項1に記載の複合構造。
【請求項8】
前記非融着糸が、天然繊維、熱硬化性ポリマー材料の少なくとも一方で形成されている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項9】
前記編成部材および前記被接着部材が、衣料品に組み込まれている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項10】
前記衣料品が、履物である、請求項9に記載の複合構造。
【請求項11】
前記被接着部材は、前記履物の前側領域に固定されたつま先ガードと、前記履物の踵領域に設けられた踵カウンタ部材と、着用者に加わった力を減衰するように構成された部材とのうちのいずれかを少なくとも含む、請求項10記載の複合構造。
【請求項12】
前記編成部材が、前記衣料品の首開口部周辺を形成しており、前記被接着部材が、前記首開口部周辺の耐伸張性を強化する部材を含む、請求項9に記載の複合構造。
【請求項13】
前記編成部材が、前記衣料品の肘領域を形成しており、前記被接着部材が、前記肘領域に固定されている、請求項9に記載の複合構造。
【請求項14】
前記編成部材は、平編みによって形成されている、請求項1に記載の複合構造。
【請求項15】
甲部と、靴底構造体とを有する履物であって、前記甲部が、
履物の長さの少なくとも一部に沿って延びる編成部材であって、第1の面と、反対側の第2の面とを有し、編成構造を形成する融着糸と非融着糸とが組み込まれており、前記融着糸が少なくとも部分的に熱可塑性ポリマー材料で形成され、前記融着糸が複数の第1ループを形成しており、前記非融着糸が複数の第2ループを形成しており、前記第1ループが少なくとも前記第1の面に配置されるように前記第1ループと前記第2ループとが連結されて一体の編成構造を形成している編成部材と、
前記編成部材とは独立して設けられ前記第1の面に近接して配置された被接着部材であって、前記融着糸の前記熱可塑性ポリマー材料によって前記第1の面に熱接着されている被接着部材とを備え、
前記融着糸の前記第1ループは、前記第1の面に配置され、前記第2の面には配置されていない、履物。
【請求項16】
前記第1の面が、履物の外面の少なくとも一部を形成する、請求項15に記載の履物。
【請求項17】
前記被接着部材が、履物の踵領域において履物の側部から内側まで延びる踵カウンタ部材である、請求項16に記載の履物。
【請求項18】
前記被接着部材が、履物の前側領域において履物の側部から内側まで延びるつま先ガードである、請求項16に記載の履物。
【請求項19】
前記被接着部材が、履物の側部に配置された印である、請求項16に記載の履物。
【請求項20】
前記第1の面が、履物の内面の少なくとも一部を形成し、前記内面が、装着者の足を受け入れるための空間の少なくとも一部を前記甲部内に形成する、請求項15に記載の履物。
【請求項21】
前記被接着部材が、履物の踵領域に配置される踵カウンタ部材である、請求項20に記載の履物。
【請求項22】
前記融着糸が、芯部と、少なくとも部分的に前記芯部の周囲に延びている鞘部とを備え、前記芯部が、非融着材料で形成され、前記鞘部が前記熱可塑性ポリマー材料で形成されている、請求項15に記載の履物。
【請求項23】
前記融着糸および前記非融着糸が、前記編成部材の少なくとも一部において互いに被覆されるように配置され、互いに平行に走っている、請求項15に記載の履物。
【請求項24】
前記第1の面が、第1の領域と、第2の領域とを備え、前記融着糸が、前記第1の領域に存在し、前記融着糸が、前記第2の領域に存在しない、請求項15に記載の履物。
【請求項25】
前記被接着部材が、前記第1の領域の形状を有し、前記第1の領域に熱接着されている、請求項24に記載の履物。
【請求項26】
前記被接着部材が、布帛材料、ポリマー発泡要素、ポリマーシートのうちの1つである、請求項15に記載の履物。
【請求項27】
前記非融着糸が、天然繊維、熱硬化性ポリマー材料の少なくとも一方で形成されている、請求項15に記載の履物。
【請求項28】
甲部と、靴底構造体とを有する履物であって、前記甲部が、
履物の長さ方向に延び、外面と、反対側の内面とを定義する基本部材であって、前記外面が履物の外側を向いており、前記内面が装着者の足を受け入れるための空間の少なくとも一部を前記甲部内に形成する基本部材と、
第1の面と、反対側の第2の面とを有する編成部材であって、編成構造を形成する融着糸と非融着糸とが組み込まれており、前記融着糸が複数の第1ループを形成しており、前記非融着糸が複数の第2ループを形成しており、前記第1ループが少なくとも前記第1の面に配置されるように前記第1ループと前記第2ループとが連結されて一体の編成構造を形成し、前記融着糸が少なくとも部分的に熱可塑性ポリマー材料で形成され、前記編成部材の前記第1の面が前記融着糸の前記熱可塑性ポリマー材料で前記基本部材に熱接着されている前記基本部材とは独立して設けられた編成部材とを備え、
前記融着糸の前記第1ループは、前記第1の面に配置され、前記第2の面には配置されていない、履物。
【請求項29】
前記編成部材が、履物の踵領域において履物の側部から内側まで延びる踵カウンタ部材である、請求項28に記載の履物。
【請求項30】
前記編成部材が、履物の前側領域において履物の側部から内側まで延びるつま先ガードである、請求項28に記載の履物。
【請求項31】
前記編成部材が、履物の側部に配置された印である、請求項28に記載の履物。
【請求項32】
融着糸と非融着糸とで布帛を編成して、前記非融着糸の周辺でループ状に延びるように前記融着糸を前記布帛の第1の面および第2の面に配置する工程と、
前記布帛の前記第1の面を被接着部材に接触させて配置する工程と、
前記布帛および前記被接着部材を加熱して、前記融着糸の熱可塑性ポリマー材料と前記被接着部材との間に熱接着部を形成する工程とを含む、複合要素を製造する方法。
【請求項33】
前記編成する工程が、前記布帛の片面に前記融着糸を集中させる工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記編成する工程が、前記布帛の片面から前記布帛の反対側の面に前記融着糸を延ばす工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記編成する工程は、前記融着糸が、非融着材料で形成された芯部と、前記熱可塑性ポリマー材料で形成され、少なくとも部分的に前記芯部の周囲に延びている被覆部とを備えるように、前記融着糸を選択する工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記編成する工程が、前記融着糸および前記非融着糸を互いに被覆するように配置する工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記加熱する工程が、前記布帛と前記被接着部材を共に圧縮する工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記布帛および前記被接着部材を衣料品に組み込む工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記布帛および前記被接着部材を前記衣料品に組み込む工程が、前記布帛および前記被接着部材を履物に組み込む工程を含み、
前記被接着部材を前記履物に組み込む工程が、つま先ガードを前記履物の前側領域に固定する工程と、踵カウンタ部材を前記履物の踵領域に配置する工程と、着用者に加わった力を減衰するように構成された部材を形成する工程とのうちのいずれかを少なくとも含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記布帛を前記衣料品に組み込む工程が、前記布帛によって前記衣料品の首開口部周辺を形成する工程を含み、前記被接着部材を前記衣料品に組み込む工程が、前記首開口部周辺の耐伸張性を強化する部材を前記首開口部周辺に配置する工程を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記布帛を前記衣料品に組み込む工程が、前記布帛によって前記衣料品の肘領域を形成する工程を含み、前記被接着部材を前記衣料品に組み込む工程が、前記被接着部材を前記肘領域に固定する工程を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記編成する工程が、前記布帛を平編みによって形成する工程を含む、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、衣料品に用いられる複合構造、当該衣料品の一例としての履物、および複合要素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広範な編成構造、素材、特性を有する編成部材が、様々な製品に利用されている。例えば、編成部材は、衣料品(例えば、シャツ、ズボン、靴下、ジャケット、下着、履物)、スポーツ用備品(例えば、ゴルフバッグ、野球ボール、フットボール用手袋、サッカーボール制限構造体)、入れ物(例えば、バックパック、バッグ)、家具(例えば、椅子、ソファー、車の座席)用の張り物に利用することができる。また、編成部材は、ベッドカバー(例えば、シーツ、毛布)、テーブルカバー、タオル、旗、テント、帆、パラシュートにも利用することができる。編成部材は、自動車や航空宇宙用途の構造体や、フィルタ材料、医療用繊維製品(例えば、包帯、綿球、インプラント)、堤防強化のための地質用繊維製品、作物保護のための農業用繊維製品、熱や放射線から保護または防護する工業用衣料品としても利用することができる。したがって、編成部材は、個人用目的にも産業用目的にも様々な製品に組み込むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、新規な複合構造、履物、および、複合要素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
複合構造が、編成部材と被接着部材とを備えたものとして以下に開示されている。編成部材は、第1の面と、反対側の第2の面とを有する。編成部材は、編成構造を形成する融着糸と非融着糸とを含む。融着糸は、少なくとも一部が熱可塑性ポリマー材料で形成され、少なくとも第1の面上に配置される。被接着部材は、第1の面に近接して配置され、融着糸の熱可塑性ポリマー材料によって第1の面に熱接着されている。
【0005】
複合要素の製造方法も、以下に開示されている。この方法は、布帛の少なくとも片面上に融着糸を配置するように、融着糸と非融着糸とで布帛を編成する工程を含む。布帛の片面を、被接着部材に接して配置する。さらに、布帛および被接着部材を加熱して、融着糸の熱可塑性ポリマー材料と被接着部材との間に熱接着部を形成する。
【0006】
本発明の態様を特徴付ける新規な利点および特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に指摘されているが、新規な利点や特徴をよりよく理解するために、本発明に関連する様々な構成や概念を説明、図示した以下の記載事項や添付図面を参照することができる。
【0007】
前記の要旨および以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読むと、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図1の切断線3―3により定義される、複合要素の概略横断面図である。
【
図4A】複合要素の更なる構成を示す、
図3に対応する概略横断面図である。
【
図4B】複合要素の更なる構成を示す、
図3に対応する概略横断面図である。
【
図4C】複合要素の更なる構成を示す、
図3に対応する概略横断面図である。
【
図5A】編成部材の融着糸の様々な構成の斜視図である。
【
図5B】編成部材の融着糸の様々な構成の斜視図である。
【
図5C】編成部材の融着糸の様々な構成の斜視図である。
【
図6A】編成部材の融着糸のフィラメントの構成を示す。
【
図6B】編成部材の融着糸のフィラメントの構成を示す。
【
図7A】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7B】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7C】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7D】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7E】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7F】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7G】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7H】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7I】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図7J】複合要素の更なる構成を示す、
図1に対応する斜視図である。
【
図8A】複合要素の更なる構成を示す、
図2に対応する分解斜視図である。
【
図8B】複合要素の更なる構成を示す、
図2に対応する分解斜視図である。
【
図8C】複合要素の更なる構成を示す、
図2に対応する分解斜視図である。
【
図9A】編成部材接着を行う方法の概略斜視図である。
【
図9B】編成部材接着を行う方法の概略斜視図である。
【
図9C】編成部材接着を行う方法の概略斜視図である。
【
図10】シャツの構成を有する衣料品の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
編成部材接着に関連する様々な概念が、以下の説明および添付図面により開示されている。
【0010】
〈複合要素構成〉
図1、
図2に、複合要素100が、編成部材110と被接着部材120とを備えたものとして描かれている。部材110、120は、編成部材接着により共に固定されている。下記に詳述するが、編成部材接着は、一般的に、編成部材110内の融着材料(例えば、熱可塑性ポリマー材料)を利用して、部材110、120を相互に接合または固定する熱接着部を形成することを含む。すなわち、熱接着によって編成部材110の融着材料で被接着部材120を編成部材110に接合する。後述する複合要素100の様々な構成は、編成部材接着を実施可能な一般的な構成を例示するものである。このように、上記の背景で述べた多数の製品を含め、様々な製品に、複合要素100の様々な構成を利用することができる。以下、編成部材接着を実施する方法を具体的に例示するために、シャツ200や履物300など、様々な衣料品について説明する。
【0011】
編成部材110は、第1の面111と、反対側の第2の面112とを定義する略平面構造を有するように、編成工程によって製造される。
図3に示すように、編成部材110は、編成工程により非融着糸113および融着糸114から形成される。すなわち、編成部材110は、編成工程において、糸113、114が共に機械的に操作された編成構造を有する。例えば、手編み、平編み、幅広管状丸編み、幅狭管状丸編みジャカード、シングル丸編みジャカード、ダブル丸編みジャカード、経編みトリコット、経編みラッシェル、ダブルニードルバーラッシェルなど、様々なタイプの編成方法を利用して、編成部材110を形成することができる。さらに、編成部材110を製造するために、少なくとも2本の糸(例えば、糸113、114)で編成構造を形成可能なあらゆる編成方法を利用することができる。
【0012】
非融着糸113が、非融着材料から形成されるのに対して、融着糸114は、融着材料から形成される。非融着材料としては、様々な熱硬化性ポリマー材料(例えば、ポリエステル、アクリル)、天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛)が例示される。適度の熱に曝されると、熱硬化性ポリマー材料は安定性を維持する傾向がある。さらに、高熱に曝されると、熱硬化性ポリマー材料および天然繊維は、燃焼あるいは劣化する可能性がある。融着材料としては、様々な熱可塑性ポリマー材料(例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン)が例示される。熱硬化性ポリマー材料や天然繊維とは対照的に、熱可塑性ポリマー材料は、加熱されると溶融し、冷却されると固体に戻る。特に、充分な熱に曝されると、熱可塑性ポリマー材料は、固体状態から軟化状態または液体状態に相変化し、充分に冷却されると、軟化状態または液体状態から固体状態に相変化する。ある構成において、非融着糸113に使用する非融着材料も、熱可塑性ポリマー材料とすることができ、この場合、特に、非融着糸113に使用する熱可塑性ポリマー材料の融点が、融着糸114に使用する熱可塑性ポリマー材料の融点よりも高い。
【0013】
上記のように、熱可塑性ポリマー材料は、加熱時には溶融し、冷却時には固体状態に戻る。この特性に基づき、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料を利用して、編成部材110と被接着部材120とを接合する熱接着部を形成することができる。ここで使用されているように、用語「熱接着」またはその変異形は、冷却時に2つの部材を相互固定するように、少なくとも一方の部材内の熱可塑性ポリマー材料を軟化または溶融することを伴う、2つの部材間を固定する技術として定義される。同様に、用語「熱接着部」またはその変異形は、冷却時に2つの部材を相互固定するように、少なくとも一方の部材内の熱可塑性ポリマー材料の軟化または溶融を伴う工程により2つの部材を接合する接着部、結合部または構造として定義される。
【0014】
一般的には、熱接着としては、(a)2つの部材内の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化して、熱可塑性ポリマー材料が互いに混ざり合って(例えば、熱可塑性ポリマー材料の境界層を越えて拡散し)、冷却時に共に固定されること、(b)第1の部材内の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化して、熱可塑性ポリマー材料が第2の部材の構造内に侵入または浸透し、冷却時に共に固定されること、(c)第1の部材内の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化して、熱可塑性ポリマー材料が第2の部材の裂孔や空洞に侵入または浸透し、冷却時に共に固定されることが例示される。このように、2つの部材が熱可塑性ポリマー材料を含む場合、または、一方の部材のみが熱可塑性ポリマー材料を含む場合に、熱接着が起こりえる。さらに、熱接着は、一般的に、縫合や接着剤、その他の接合技術の利用を伴わないが、熱可塑性ポリマー材料で部材を直接相互接着することを伴う。しかし、ある状況においては、熱接着部や、熱接着による部材の接合を補うために、縫合や接着剤、その他の接合技術を利用してもよい。
【0015】
複合要素100に関連する熱接着の更なる具体例について説明する。一般的に、被接着部材120は、編成部材110に接合される任意の要素であり、布帛要素(例えば、編布、織布、不織布)、ポリマーシート、ポリマー発泡層、皮革またはゴム要素、プレートなどが例示される。被接着部材120が布帛要素から形成される構成において、熱接着は、融着糸114内の熱可塑性ポリマー材料の溶融や軟化を伴い、熱可塑性ポリマー材料が、被接着部材120の布帛要素内や、布帛要素の個々のフィラメントやファイバ、糸条の周りに侵入して、冷却時に部材110、120を共に固定することができる。被接着部材120が熱可塑性ポリマー材料を組み込んだ布帛要素から形成される同様の構成において、熱接着は、融着糸114および被接着部材120の布帛要素内の熱可塑性ポリマー材料の溶融や軟化を伴い、熱可塑性ポリマー材料が混ざり合って、冷却時に共に固定することができる。さらに、被接着部材120が熱可塑性ポリマー材料(例えば、布帛、ポリマーシート、ポリマー発泡層、皮革またはゴム要素、プレート)を組み込んだ構成においては、熱接着は、融着糸114および被接着部材120内の熱可塑性ポリマー材料の溶融または軟化を伴い、熱可塑性ポリマー材料が混ざり合って、冷却時に共に固定することができる。さらに、被接着部材120がポリマーシート、ポリマー発泡層、皮革またはゴム要素、またはプレートである構成において、熱接着は、融着糸114内の熱可塑性ポリマー材料の溶融または軟化を伴い、熱可塑性ポリマー材料が被接着部材120の裂孔や空洞に侵入して、冷却時に部材110、120を共に固定することができる。複合要素100の構成の多くは、縫合や接着剤、その他の接合技術の利用を伴わないが、熱接着部や、熱接着による部材110、120の接合を補うために、これらの接合技術を利用してもよい。
【0016】
上記説明に基づき、編成部材接着は、一般的に、編成部材110の融着糸114内の融着材料(例えば、熱可塑性ポリマー材料)を利用して、部材110、120を共に接合または固定する熱接着部を形成することを含む。すなわち、熱接着により、融着糸114の融着材料で被接着部材120を編成部材110に接合する。熱接着部を形成するために、編成部材110における被接着部材120に近接する部分に融着部を配置する場合がある。したがって、被接着部材120を第1の面111に固定するならば、融着材料を第1の面111に配置し、これにより、被接着部材120に対する熱接着部を第1の面111に形成することになる。
図3を参照して、非融着糸113は、編成部材110全体に第1の面111から第2の面112に効果的に延びる一方、融着糸114は、第1の面111に集中している。この構成において、融着糸114の融着材料は、被接着部材120に接触して、第1の面111において部材110、120の間に熱接着部を形成するように配置される。この構成を達成するために、糸(例えば、融着糸114)が片面または両面に集中または存在している任意の編成構造を利用することができる。
【0017】
図3の構成は、部材110、120の間に熱接着部を形成するのに適切な構造を提供するが、その他様々な編成構造でも熱接着部を形成することができる。
図4Aを参照して、例えば、非融着糸113は、編成部材110全体に第1の面111から第2の面112に効果的に延びる一方、融着糸114は、面111、112の両面に集中している。更なる例として、
図4Bは、融着糸114における第1の面111に配置された部分が、非融着糸113の一部で被覆された構造を示す。すなわち、糸113、114が、第1の面111に沿って平行に走っている。また、
図4Cは、糸113、114が互いに被覆するように配置された別の構成を示し、この構成においては、糸113、114が、編成部材110全体に平行に走っている。したがって、編成部材110内の糸113、114の構成は、かなり異なる。
【0018】
再び
図3を参照して、融着糸114は、第1の面111に集中し、非融着糸113の一定の部位周辺に延びるループを形成している。この構成は、解編や解離の可能性に配慮したものである。加熱すると、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料が、軟化または溶融し、非融着糸113の一定部位を効果的に解離する可能性がある。すなわち、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料の溶融または軟化によって、融着糸114は編成構造を維持するループをもはや形成しないので、編成部材110の編成構造が解れたり、非密着状態または解離状態になる。これが発生するのを防止するために、
図4B、
図4Cの構成を利用してもよい。すなわち、糸113、114が平行に走るように互いに被覆するように配置されてもよい。したがって、融着糸114が軟化または溶融しても、非融着糸113は完全な状態を保ち、編成構造を効果的に維持する。
【0019】
融着糸114の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化しても、編成構造を解離させない更なる方法として、融着糸114の一部を融着材料と非融着材料の両方で形成する方法がある。
図5Aを参照して、例えば、融着糸114の一部が、様々な融着フィラメント115および非融着フィラメント116を有するものとして描かれている。融着フィラメント115が溶融または軟化しても、非融着フィラメント116が存在して、編成構造の解離を防止する。同様の構成において、
図5Bには、フィラメント115、116が芯鞘構造を形成するものとして描かれている。すなわち、融着フィラメント115が周囲に配置されて鞘部を形成し、非融着フィラメント116が中央に配置されて芯部を形成している。同様に、
図5Cには、融着フィラメント115が非融着フィラメント116で形成された芯部に螺旋状に巻き付いた構成が描かれている。
【0020】
融着糸114の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化しても、編成構造を解離させない更なる方法として、融着糸114内の個々のフィラメントを融着材料と非融着材料の両方で形成する方法がある。
図6Aを参照して、例えば、各フィラメント117は、芯鞘構造の融着部118と非融着部119とを備えている。すなわち、融着部118は、周囲に配置されて鞘部を形成し、非融着部119は、中央に配置されて芯部を形成している。更なる構成において、
図6Bには、半分を融着部118で形成し、もう半分を非融着部119で形成したフィラメント117が描かれている。したがって、融着糸114は、熱に曝されると、ほんの一部が溶融または軟化する多数のフィラメント117から形成することができる。
【0021】
図1〜
図3の複合要素100の構成は、編成部材接着を利用して部材110、120を接合する方法を例示している。編成部材接着が様々な製品に利用可能であることを考慮すると、複合要素100に関する数々の態様は、
図1〜
図3に示す構成とは異なるものであってもよい。さらに、部材110、120のいずれかの変更により、複合要素100の特性を変更し、編成部材接着を利用する製品を強化することができる。
図7Aを参照して、例えば、被接着部材120は、編成部材110よりも大きな寸法を有するものとして描かれている。
図7Bには、被接着部材120に複数の開口部121を形成した構成が描かれている。例えば、被接着部材120がポリマーシート、ポリマー発泡要素またはプレートである場合、開口部121を利用して、複合要素100の流体透過性や柔軟性を高めることができる。部材110、120は、一定の厚さを有していてもよいが、部材110、120の片方または両方の厚さが不均一であってもよい。
図7Cを参照して、例えば、被接着部材120は、先細りの構成を有する。部材110、120は、両方とも平面であってもよいが、部材110、120の片方または両方が、輪郭形成された(contoured)構成を有していてもよい。
図7Dを参照して、例えば、部材110、120は、湾曲している。
図4A、
図4Cの構成において、融着糸114は、両面111、112に集中している。これによって、被接着部材120を面111、112のいずれにも熱接着できるという利点を提供できる。例えば、
図7Eには、1つの被接着部材120を第1の面111に熱接着し、もう1つの被接着部材120を第2の面112に熱接着した構成が描かれている。
【0022】
図7A〜
図7Eに示す複合要素100の様々な構成の様々な構造的な態様に加えて、複合要素100は、審美性や情報供与性など非構造的な利点を提供することができる。
図7Fを参照して、例えば、被接着部材120は、編成部材接着により編成部材110に固定された文字「A」である。文字「A」などの印を利用して、製品に関する情報、例えば、製造業者の商標を付与することができる。同様に、
図7Gには、衣料品に関する注意書きを記載したプラカードとしての被接着部材120が描かれている。
【0023】
図4A、
図4Cを参照して、融着糸114は、面111、112の両面に配置されている。これらの構成において、被接着部材120は、面111、112のいずれに固定してもよい。
図7Hを参照して、被接着部材120を編成部材110に巻き付けて、面111、112の両面に接着してもよい。更なる構成において、縫合の代わりに部材110、120の間に継ぎ目を形成するために、
図7Iに示すように、部材110、120をそれらの端縁で熱接着してもよい。
図7Jを参照して、様々な紐体133を部材110、120の間に配置して、部材110、120を熱接着してもよい。紐体133は、例えば、その長さ方向の伸張に抗するものであってもよい。このように、例えば、本願明細書に引用により組み込まれている、Meschterに付与されたUSP No.7,770,307に開示されているように、部材110、120と紐体133との組み合わせを履物に利用することができる。
【0024】
複合要素100の利点は、部材110、120の両方の特性を組み合わせて複合要素100の全体的な特性を強化することである。被接着部材120が布帛である構成において、被接着部材120は、編成部材110とは異なる布帛特性を有していてもよい。したがって、得られた複合要素100は、部材110、120の両方の布帛特性を呈することができる。被接着部材120がポリマーシートである場合には、被接着部材120は、耐流体透過性や耐摩耗性を付与することができる。例えば、被接着部材120がポリマー発泡要素などの圧縮性材料で形成されている場合、複合要素100は、緩衝性(すなわち、衝撃力の減衰)を長所とする衣料品、例えば、他の競技者や機器との接触や衝撃を伴うスポーツ活動用のパッドに適している。被接着部材がプレートである場合にも、同様の保護属性がある。
【0025】
編成部材接着以外の方法(例えば、接着剤や縫合)を利用して部材110、120を接合する場合にも、部材110、120の特性の組み合わせがあり得る。しかし、編成部材接着の利点は、接着剤などの要素が、部材110、120の間に存在しないことである。例えば、接着剤(例えば、ホットメルト)は、複合要素100の流体透過性を損なう可能性がある。また、接着剤は、被接着部材120の端縁周辺に現れて製品の審美性を低減する。さらに、縫合は、時間のかかる方法であり、ステッチが、部材110、120のいずれかを圧縮したり、複合要素100の外観に現れたりする。したがって、例えば、他の接合方法において、編成部材接着100を利用することによって、上記の不都合を軽減することができる。
【0026】
融着糸114が、編成部材110全体に広がっていてもよい。編成部材接着の利点の付与に加えて、融着糸114は、編成部材110の構造を硬直化したり、硬化したりする効果を有する場合がある。特に、融着糸114を利用して非融着糸113を部分的に相互接合することができ、融着糸114は、非融着糸113の相対的な位置を固定または係止する効果を有し、これにより耐伸張性や剛性を付与することができる。すなわち、融着糸114により非融着糸113を部分的に相互に融着すると、非融着糸113の融着部分は、互いに相対的に滑ることはなく、編成構造の相対移動による編成部材110の歪みや永久伸張を防止することができる。さらに、編成部材110の一部が損傷したり、非融着糸113の一部が切断されたりした場合に、解編を制限するという利点がある。
【0027】
融着糸114は、編成部材110の全体に広がっていてもよいが、融着糸114は、編成部材110の特定の領域に限定してもよい。
図8Aを参照して、例えば、複合要素100の分解斜視図には、編成部材110が、接着領域131と周縁領域132とを有するものとして描かれている。接着領域131は、第1の面111において、被接着部材120が編成部材110に熱接着されている部分に対応する。さらに、融着糸114を接着領域131に限定してもよい。すなわち、融着糸114は、周縁領域132に不在であってもよい。ある構成においては、周縁領域132において非融着糸113の部分的な相互接合をしないことによって、利点が得られる。したがって、編成部材110の特定の領域に融着糸114を配置することによって、編成部材接着を特定領域で実施する一方、他の領域においては融着糸114の効果を減じることができる。
図8Bに、同様の構成が描かれており、この構成では、第1の面111において、被接着部材120が編成部材110に接合されている部分に様々な接着領域131が形成されている。ある構成においては、接着領域131は個々のステッチであってもよく、融着糸114は、第1の面111に存在し、露出している。
【0028】
編成部材110は、略平面の連続構成を有していてもよい。ある構成において、
図8Cに示すように、編成部材110の編成構造は、様々な凹部133または開口部134を形成してもよい。すなわち、編成構造は、特定部位の編成構造を変化させることによって、表面形状などの要素を形成するように編成してもよい。あるいは、例えば、エンボスによって凹部133などの表面形状を形成してもよい。複合要素100の審美性の強化に加えて、凹部133や開口部134は、流体透過性や柔軟性などの特性を向上する一方で、複合要素100全体の質量を低減することができる。
【0029】
上記説明に基づき、複合要素100は、編成部材接着によって部材110、120を共に固定する構成を有する。一般的に、編成部材接着は、編成部材110内の融着材料(例えば、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料)を利用して、部材110、120を相互に接合または固定する熱接着部を形成することを含む。上記の複合要素100の様々な構成は、編成部材接着を実施可能な一般的な構成を例示する。このように、製品に様々な利点を付与するために、複合要素100の様々な構成を様々な製品に利用することができる。
【0030】
〈接着方法〉
以下、編成部材接着を実行する一般的な方法について詳述する。この方法の予備態様として、編成部材110を編成工程により形成する。一般的に、編機は、非融着糸113と融着糸114とで布帛(すなわち、編成部材110)を編成するようにプログラムされている。さらに、編機は、少なくとも片面、例えば、第1の面111に融着糸113を配置してもよい。したがって、実際、編成工程は、融着糸114を第1の面111に集中させることを含めてもよい。ある構成において、編成工程で、第1の面111から第2の面112へと融着糸114を延ばしてもよいし、糸113、114を互いに被覆するように配置してもよい。機械編みではなく、手編みを採用してもよい。
【0031】
編成部材110が形成されると、
図9Aに示すように、部材110、120の両方を熱プレス140内に配置することができる。特に、第1の面111における接着予定の箇所に近接して被接着部材120を配置し、部材110、120の両方を熱プレス140の対向部141、142の間に配置してもよい。配置後、
図9Bに示すように、対向部141、142を互いに近接移動させて、部材110、120に対して圧縮、加熱することができる。すなわち、部材110、120を圧縮し、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料が溶融または軟化する温度まで加熱してもよい。対向部141、142による圧縮により、溶融または軟化した熱可塑性ポリマー材料は、部分的に被接着部材120に接触または係合可能となる。充分な加熱および圧縮の後に、
図9Cに示すように、対向部141、142を離間し、部材110および120を取り出すことができる。冷却の後、融着糸114の熱可塑性ポリマー材料は、部材110、120を互いに接合する熱接着部を確実に形成する。
【0032】
熱プレス140は、部材110、120を同時に加熱、圧縮するという利点を提供する。他の接着工程においては、熱プレス140または冷間プレス内で部材110、120を圧縮する前に、加熱してもよい。利用可能な加熱方法としては、熱伝導、赤外線、超音波、高周波、無線周波、振動加熱、蒸気加熱が例示される。
【0033】
〈製品構成〉
上記の編成部材接着工程の後、複合要素100は、上記の背景に記載の数多くの製品を含む様々な製品の1つに組み込むことができる。編成部材接着に関する概念を組み込める製品の具体例として、以下、2種類の衣料品、シャツ200および履物300について説明する。
【0034】
図10において、シャツ200は、胴体領域201と、胴体領域201から外方に延びる1対の腕領域202とを備えるものとして描かれている。胴体領域201は、着用者の胴体に対応し、着用時に胴体の少なくとも一部を覆う。同様に、腕領域202は、着用者の腕に対応し、着用時に腕の少なくとも一部を覆う。胴体領域201および腕領域202は、両方とも編成部材110と同様の布帛で形成してもよい。すなわち、胴体領域201および腕領域202を形成する布帛を、少なくとも部分的に、融着糸114と同様の特性を有する融着材料を組み込んだ糸で形成してもよい。さらに、融着材料が、シャツ200の外面の少なくとも一部を形成するように、配向されていてもよい。胴体領域201および腕領域202を形成する布帛を、少なくとも部分的に、非融着糸113と同様の特性を有する非融着材料を組み込んだ糸で形成してもよい。
【0035】
上記のシャツ200の構成の場合、編成部材接着により様々な部材203〜205をシャツ200に固定することができる。特に
図10を参照して、2つの部材203が、腕領域202の肘領域に固定されており、部材203は、肘領域に耐摩耗性を付与するポリマーまたは皮革シートとすることができる。また、部材204が、胴体領域201の首開口部周辺に配置されており、部材204は、首開口部周辺でこの領域の耐伸張性を強化するポリマーシートとすることができる。さらに、2つの部材205が、胴体領域201の側面領域に接着されており、部材205は、スポーツ活動中に着用者の側部に加わった力を減衰するポリマー発泡要素とすることができる。したがって、編成部材接着の一般的な概念をシャツ200に利用して、様々な利点を付与することができる。さらに、帽子類、ズボン、下着、靴下、手袋など、他のタイプの様々な衣料品に同様の概念を適用して、同様の利点を付与することができる。
【0036】
図11〜
図13に、他のタイプの衣料品である履物300が、靴底構造体301と甲部302とを備えたものとして描かれている。履物300は、走行に適した構成を有するものとして描かれているが、例えば、バスケットボールシューズ、サイクリングシューズ、クロストレーニングシューズ、フットボールシューズ、ゴルフシューズ、ハイキングシューズやブーツ、スキー/スノーボードブーツ、サッカーシューズ、テニスシューズ、ウォーキングシューズなど、広範な履物スタイルに編成部材接着の概念を適用することができる。編成部材接着に関連する概念は、ドレスシューズやローファ、サンダルなど、一般的にスポーツ用ではないと考えられる履物スタイルにも利用することができる。したがって、編成部材接着は、多種多様な履物スタイルに利用可能である。
【0037】
靴底構造体301は、甲部302に固定され、履物300着用時に足と地面との間に広がる。一般的に、靴底構造体301は、従来型の構成であってもよいし、非従来型の構成であってもよい。甲部302は、安全快適に着用者の足を受け入れるための構造を提供する。特に、靴底構造体301に対して足を受け止めて固定するための空間が、履物300内に甲部302の様々な要素によって形成されている。甲部302内の空間表面は、足を収容し、足の内側および側部に沿って足の甲およびつま先領域上に広がり、さらに足の下および足の踵領域周辺に広がるような形状である。この構成において、少なくとも甲部302の外面を編成部材110と同様の布帛で形成してもよい。すなわち、外面を形成する布帛は、少なくとも部分的に、融着糸114と同様の特性を有する融着材料を組み込んだ糸で形成してもよい。さらに、この融着材料を外面の少なくとも一部の上に配置してもよい。布帛は、少なくとも部分的に、非融着糸113と同様の特性を有する非融着材料を組み込んだ糸で形成してもよい。
【0038】
上記の履物300の構成の場合、編成部材接着により様々な部材303〜306を甲部302の布帛に固定してもよい。例えば、部材303は、甲部302の前側領域に固定されており、履物300の側部から内側まで延びる耐磨耗性つま先ガードを形成するポリマーまたは皮革シートとすることができる。部材304は、履物300の踵領域周辺に配置され、履物300の側部から内側まで延びて、歩行や走行などの移動行動の際に足の側方移動に抗する踵カウンタ部材を形成する。部材304は、甲部302の外面に固定されているが、融着材料が内面に存在する場合は、部材304を内面に固定してもよい。例えば、様々なポリマーシート、プレートを部材304に利用することができる。部材305は、甲部302のスロート領域周辺に広がるポリマーまたは皮革シートであり、靴紐の張力に対して紐通し孔を補強するためのものである。さらに、文字「XYZ」を形成している3つの部材306が、甲部302の側部に配置され、商標などの印を表現している。したがって、編成部材接着の一般的な概念を履物300に利用して、様々な利点を付与することができる。
【0039】
上記の履物300の構成において、甲部302の外面を形成する布帛は、融着材料を組み込んだ糸で部分的に形成されるものとして説明されている。しかし、
図11〜
図13に示す構成においては、甲部302の外面は、履物甲部に一般的に利用されている任意の素材で形成した基本要素とすることができる。すなわち、甲部の外面は、熱可塑性ポリマー材料を含むものでもよいし、含まないものでもよい。さらに、融着材料を含む糸を組み込んだ布帛で部材303〜306を形成してもよい。換言すれば、部材303〜306が編成部材110の構成を有していてもよい。このように、部材303〜306の融着材料を利用して、甲部302に対する熱接着部を形成してもよい。
【0040】
本発明は、様々な構成を参照して、上記および添付図面に開示されている。しかし、本開示が果たす目的は、本発明に関する様々な特徴および概念を例示することであり、本発明の範囲を限定することではない。当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上記の構成に対して数々の変形および変更が可能であることを認識するであろう。