(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ECUによるバルブ開閉タイミングの制御は、クランクシャフトの回転数に沿って行うが、アイドリング時やそれに近い場合の低いエンジン回転数の状態では、ECUへの入力情報が少なくなることによって、位相可変装置の応答性が低くなり適切に制御できず、所望のエンジン性能を得ることができないという問題があった。よって低回転域であっても位相可変装置が十分な応答性を得ることができる位相可変装置の制御方法及びそのような制御装置を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の発明は、内燃機関11のクランクシャフト22に対するカムシャフト53の回転位相を変化させることで、機関弁のバルブタイミングを変化させる位相可変装置51の制御方法であって、前記位相可変装置51には、前記クランクシャフト22から回転を伝達される駆動回転体と、この駆動回転体と同軸の前記カムシャフト側の従動回転体と、これらの回転体同士の相対角度を、電磁クラッチ70を用いて変更し、位相可変装置51を制御する位相可変機構と、を備えると共に、前記クランクシャフト22の回転速度値及び前記カムシャフト53の回転速度値とから算出する両シャフト間の現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、を位相可変装置推定器51に入力し、これらの入力を基に当該推定器51においてカルマンフィルタを用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算し、この演算した推定値をフィードバック信号としてスライディングモード制御器103に入力し、その入力を基に当該スライディングモード制御器103において前記推定器51における演算と共通のパラメータを使用して前記電磁クラッチ70への1ステップ後の指令値を演算し、この演算した指令値を前記位相可変装置51に出力することを特徴とする位相可変装置の位相制御方法である。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、前記電磁クラッチ70への指令値を、前記スライディングモード制御器103からの出力値と、事前に登録された目標相対角度とするためのフィードフォワード制御器111からの出力値と、により演算していることを特徴とする請求項1に記載の位相制御方法である。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、前記内燃機関11の前記クランクシャフト22又は前記カムシャフト53の回転角を検出するセンサからのセンサフラグが立っていない時は、前記カルマンフィルタが、前記電磁クラッチ70への現ステップでの指令値のみから1ステップ後の相対角度推定値を演算すると共に、前記センサフラグが立った時は、前記カルマンフィルタが、前記現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップでの指令値と、を用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の位相制御方法である。
【0009】
また、請求項4記載の発明は、前記現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、からカルマンフィルタを用いて位相可変装置51のシステム同定を行い、このシステム同定により求めたパラメトリックモデルにより1ステップ後の相対角度推定値を演算することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の位相制御方法である。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、内燃機関11のクランクシャフト22に対するカムシャフト53の回転位相を変化させることで、機関弁のバルブタイミングを変化させる位相可変装置51の制御装置であって、前記位相可変装置51には、前記クランクシャフトから回転を伝達される駆動回転体と、この駆動回転体と同軸の前記カムシャフト53側の従動回転体と、これらの回転体同士の相対角度を、電磁クラッチ70を用いて変更し、位相可変装置51を制御する位相可変機構と、を備えると共に、前記制御装置が、前記クランクシャフト22の回転速度値及び前記カムシャフト53の回転速度値とから算出する両シャフト間の現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、からカルマンフィルタを用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算する位相可変装置推定器107を備えると共に、前記推定値をフィードバック信号として入力し、その入力を基に前記推定器107における演算と共通のパラメータを使用して電磁クラッチ70への1ステップ後の指令値を演算し、当該指令値を出力するスライディングモード制御器103を備えたことを特徴とする位相制御装置である。
【0011】
また、請求項6記載の発明は、前記電磁クラッチ70への指令値を、前記スライディングモード制御器103からの出力値と、事前に登録された目標相対角度とするためのフィードフォワード制御器111からの出力値と、により演算していることを特徴とする請求項5に記載の位相制御装置である。
【0012】
また、請求項7記載の発明は、前記内燃機関11の前記クランクシャフト22又は前記カムシャフト53の回転角を検出するセンサからのセンサフラグが立っていない時は、前記カルマンフィルタが、前記電磁クラッチ70への現ステップでの指令値のみから1ステップ後の相対角度推定値を演算すると共に、前記センサフラグが立った時は、前記カルマンフィルタが、前記現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップでの指令値と、を用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算しフィードバックする位相可変装置推定器107を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の位相制御装置である。
【0013】
また、請求項8記載の発明は、前記現ステップでの相対角度と、前記電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、からカルマンフィルタを用いて位相可変装置51のシステム同定を行い、このシステム同定により求めたパラメトリックモデルにより1ステップ後の相対角度推定値を演算しフィードバックする位相可変装置推定器107を備えたことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の位相制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1又は請求項5に記載の発明によれば、クランクシャフト22及びカムシャフト53の回転速度値から算出する現ステップでの相対角度と電磁クラッチ70への現ステップの指令値とから、推定器107においてカルマンフィルタを用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算し、これをフィードバック信号としてスライディングモード制御器103に入力し、その入力を基に制御器103において電磁クラッチ70への1ステップ後の指令値を演算するので、クランクシャフトの回転数が小さい場合でも、制御器103への必要な数の入力信号を得ることができ、また推定器107における相対角度推定値の演算と制御器103における指令値の演算とで共通のパラメータを使用するので、推定器107の推定したモデル情報をスライディングモード制御器103の制御に生かすことが可能となり、位相可変装置を高応答で制御でき且つ制御性能を向上できる。
【0015】
請求項2又は請求項6に記載の発明によれば、請求項1又は請求項5に記載の発明の効果に加えて、電磁クラッチへの指令値を、スライディングモード制御器からの出力値と、事前に登録された目標相対角度を出力するフィードフォワード制御器からの出力値とにより算出していることにより、システム全体をより外乱に強くできる。
【0016】
請求項3又は請求項7に記載の発明によれば、請求項1、2又は請求項5、6に記載の発明の効果に加えて、シャフトの回転角を検出するセンサのフラグが立っていない時は、カルマンフィルタが、電磁クラッチへの現ステップでの指令値のみから1ステップ後の相対角度推定値を演算すると共に、センサフラグが立った時は、カルマンフィルタが、現ステップでの相対角度と、電磁クラッチの現ステップでの指令値と、を用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算することにより、センサが反応したときに精度の高い値を取り込んで演算することができ、電磁クラッチに精度の高い指令を行うことができる。
【0017】
請求項4又は請求項8に記載の発明によれば、請求項1から3又は請求項5から7のいずれかに記載の発明の効果に加えて、カルマンフィルタを用いて位相可変装置のシステム同定を行い、このシステム同定で求めたパラメトリックモデルにより1ステップ後の相対角度推定値を演算することにより、制御モデルの精度を上げることができる。これにより電磁クラッチにより精度の高い指令を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、位相可変装置とその制御器を実装する車両用内燃機関の一実施形態の構成図である。内燃機関11の吸気管12には、電子制御スロットル14が介装され、該電子制御スロットル14及び吸気バルブ15を介して、燃焼室16内に空気が吸入される。
【0021】
燃焼排気は燃焼室16から排気バルブ17を介して排出され、浄化された後大気中に放出される。前記吸気バルブ15及び排気バルブ17は、それぞれ排気側カムシャフト21,吸気側カムシャフト20に設けられたカムによって開閉駆動されるが、吸気側カムシャフト20には、クランクシャフト22に対するカムシャフトの位相即ち相対角度を変化させることで、バルブタイミングを変化させる位相可変装置51が設けられている。
【0022】
尚、本実施形態では吸気バルブ15側にのみ位相可変装置51を備える構成としたが、吸気バルブ15側に代えて、又は、吸気バルブ15側と共に、排気バルブ17側に位相可変装置51を備える構成であっても良い。
【0023】
また、各気筒の吸気バルブ15上流側の吸気ポート13には、電磁式の燃料噴射弁18が設けられ、該燃料噴射弁18は、エンジンコントロールユニット(ECU)151からの噴射パルス信号によって開弁駆動されると、所定圧力に調整された燃料を吸気バルブ15に向けて噴射する。
【0024】
マイクロコンピュータを内蔵するECU151には、各種センサからの検出信号が入力され、該検出信号に基づく演算処理によって、前記電子制御スロットル14,位相可変装置51及び燃料噴射弁18などを制御する。そしてこのECU151に本発明にかかる、位相可変装置51の位相制御装置102が組み込まれている。
【0025】
前記各種センサとしては、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ19、クランクシャフト22から回転信号を取り出すクランク角センサ23、吸気側カムシャフト20から回転信号を取り出すカム角センサ24などが設けられている。
【0026】
次に本発明の位相制御器102の制御対象である位相可変装置51の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図2には位相可変装置51の縦断面図を、
図3には
図2の位相可変装置の内部構造を示す斜視図を示す。
【0027】
図2及び
図3の位相可変装置51は、自動車用の内燃機関11に組み付け一体化された形態で用いられ、クランクシャフト22の回転に同期して吸排気バルブ15、17が開閉するようにクランクシャフト22の回転をカムシャフト53に伝達するとともに、内燃機関11の負荷や回転数などの運転状態によって内燃機関の吸排気バルブ15,17の開閉のタイミングを変化させるための装置として構成されている。
【0028】
位相可変装置51は内燃機関11のクランクシャフト22の駆動力が伝達されるスプロケットである円環状の外筒部52と、この外筒部52と同軸に配置されて外筒部52に対し相対回動可能で、カムシャフト53の一部を構成する従動側の円環状の内筒部54と、外筒部52と内筒部54にそれぞれヘリカルスプライン係合して外筒部52と内筒部54間に介装され、軸方向に移動して外筒部52に対する内筒部54の位相を変える中間移動部材55と、この中間移動部材55を動作させ、内筒部54のカムシャフト53非配設側に設ける電磁ブレーキ手段56と、を備えて構成されており、電磁ブレーキ手段56は、カバー(エンジンケース)57に取り付けられている。中間移動部材55と、電磁ブレーキ手段56とにより、位相可変機構を構成する。本実施形態では、外筒部52が駆動回転体であり、内筒部54が従動回転体である。なお、本件において位相可変機構は電磁ブレーキ手段56により駆動されたが、この電磁ブレーキ手段56には電動モータで駆動する方式を含み、また位相可変機構は油圧駆動される場合もある。
【0029】
外筒部52は、内周縁にリング状の凹部58が設けられたスプロケット本体59と、スプロケット本体59の側面に密着し、凹部58と協働してフランジ係合溝58Aを画成する内フランジプレート60と、内フランジプレート60をスプロケット本体59に共締め固定し、中間移動部材55とのスプライン係合部が内周に形成されたスプラインケース61とから構成されている。
【0030】
凹部58の開口側の大径凹部58aと、凹部58の奧側の小径凹部58bとの間には、後述する内筒部54側のフランジ62の外周縁と正対する段差部58cが設けられている。
【0031】
スプロケットである外筒部52(スプロケット本体59)には、内燃機関11のクランクシャフト22の回転がチェーンCを介して伝達される。符号63は、スプロケット本体59と内フランジプレート60とスプラインケース61を固定一体化する締結ねじで、スプロケット本体59と内フランジプレート60とスプラインケース61でスプロケット(外筒部52)を構成することで、フランジ係合溝58Aの形成が容易で、外筒部52(スプラインケース61)におけるスプライン係合部64の形成も容易となっている。
【0032】
また、中間移動部材55の内外周面の一部には雌雄ヘリカルスプライン65、66が設けられ、内筒部54の外周面には雄ヘリカルスプライン67が設けられている。スプラインケース61の内周面には雌ヘリカルスプライン68が設けられている。そして、中間移動部材55の内外のスプライン65、66は逆方向ヘリカルスプラインとして形成されているので、中間移動部材55の軸方向への僅かな移動で、外筒部52に対し内筒部54の位相を大きく変化させることができる。中間移動部材55の外周面には雄角ねじ部69が形成されている。
【0033】
電磁ブレーキ手段56は、カバー(エンジンケース)57に支持された電磁クラッチ70と、ベアリング71によって内筒部54に回転可能に支承されるとともに、中間移動部材55の雄角ねじ部69が螺合し、電磁クラッチ70の制動力が伝達される回転ドラム72と、回転ドラム72と外筒部52間に軸方向に介装されたねじりコイルばね73とを備えて構成されている。
【0034】
電磁クラッチ70は、カバー57のボス部57aの外周側に装着されている。回転ドラム72の内周面には雌角ねじ部74が設けられており、回転ドラム72と中間移動部材55は、角ねじ部74、69に沿って周方向に相対回動できる。即ち、中間移動部材55は、角ねじ部74、69に沿って回動しながら軸方向に移動できる。
【0035】
また、回転ドラム72と外筒部52とは、巻き上げられたねじりコイルばね73で連結されており、回転ドラム72に制動力が作用しない状態では、外筒部52、内筒部54、中間移動部材55および回転ドラム72は、一体となって回転する。また、回転ドラム72と外筒部52(スプラインケース61)間に介装したねじりコイルばね73は軸方向に介装されているため、それだけ位相可変装置全体が軸方向には延びるが、半径方向にはコンパクトとなっている。
【0036】
そして、電磁クラッチ70のON・OFFおよび電磁クラッチ70への通電量を制御することによって、中間移動部材55が角ねじ部74、69に沿って回動しながら軸方向に移動し、これによって外筒部52と内筒部54の位相が変化して、カムシャフト53のカム53aによるバルブの開閉のタイミングが調整される。
【0037】
即ち、電磁クラッチ70をONする前(非通電時)は、電磁クラッチ70は、
図2の二点鎖線に示す位置にあって、回転ドラム72と電磁クラッチ70間には隙間が形成されており、外筒部52と内筒部54は位相差なく一体に回転している。そして、電磁クラッチ70をON(通電)すると、電磁クラッチ70が
図2右方向にスライドして回転ドラム72を吸引し、これにより回転ドラム72には電磁クラッチ70から伝達される制動力が作用する。
【0038】
そして、制動力が作用する回転ドラム72に外筒部52に対する回転遅れが生じ、即ち、中間移動部材55が角ねじ部69、74によって前進(
図2右方向に移動)し、中間移動部材55の雌雄ヘリカルスプライン65、66によって、内筒部54(カムシャフト53)が外筒部52(スプロケット本体59)に対し回動してその位相が変わる。そして、回転ドラム72は、伝達された制動力とねじりコイルばね73のばね力とがバランスする位置(内筒部54が外筒部52に対し所定の位相差をもつ位置)に保持される。
【0039】
一方、電磁クラッチ70をOFFにすると、その制動力が回転ドラム72に伝達されないため、ねじりコイルばね73のばね力だけが作用する中間移動部材55は、角ねじ部69、74によって後退(
図2左方向に移動)して元の位置となり、この間に、内筒部54(カムシャフト53)が外筒部52(スプロケット本体59)に対し順方向もしくは逆方向に回動して、その位相差がなくなる。
なお実施形態として、ねじりコイルばね73と制動力とのバランスにより位相可変機構を動作させる方式について説明したが、例えば二つの電動手段により位相可変機構を動作させる方式であっても問題ない。
【0040】
また、内筒部54の外周面(スプロケット本体59とのジャーナル面)にはフランジ62が周設され、一方、外筒部52(スプロケット本体59)の内周面には、フランジ62が係合するフランジ係合溝58Aが周設され、フランジ62の側面とフランジ係合溝58Aの側面間に摩擦トルク付加部材75、76が介装されている。これにより、外筒部52と内筒部54間の相対摺動部の摩擦トルクが高められて、中間移動部材55と外筒部52および内筒部54間のヘリカルスプライン係合部67、65、66、64、角ねじ部69、74における歯部同士がぶつかる打音の発生が抑制されている。
【0041】
図4には、本発明の実施形態にかかる制御方法の制御対象である位相可変装置51の制御系設計モデルを示す。制御系設計モデルでは、初期トルクを付与されたねじりコイルばね73のばねトルク方向に対抗するように、電磁クラッチ70のクラッチトルクが作用し、外筒部52に対する内筒部54の相対角度が位相変換方向に生じることを表している。そしてこの設計モデルの状態方程式を数式1に示す。
【0043】
X(t)は制御対象である位相可変装置51の内部状態を表す状態変数、d(t)は位相可変装置51への入力変数、y(t)は位相可変装置の出力変数、A、B、C、Dは位相可変装置51の構成要素から求めることができる係数を示している。
【0044】
図5には、本発明の実施形態にかかる制御装置の制御構成のブロック図を示す。本発明にかかる位相制御装置は、スライディングモード制御器103、クランク角センサ23及びカム角センサ24からの位置情報を受け取りカムの回転速度差を演算する速度差演算器105、その速度差演算器105からの速度の値を積分する積分器106、この積分器106の出力から相対角度推定値を演算する位相可変装置推定器107、事前に登録していた目標相対角度にするための出力値を演算するフィードフォワード制御器111、他に減算器108、微分器109、加算器110、及び加算器110からの出力信号を受け電磁クラッチ70を制御するPWM(パルス幅変調)駆動回路104により構成する。そしてこのPWM駆動回路からの電流により位相可変装置51の電磁クラッチ70を制御する。
【0045】
電磁クラッチ70への指令値を、スライディングモード制御器103からの出力値と、事前に登録された目標相対角度を出力するフィードフォワード制御器111からの出力値とにより算出していることにより、システム全体をより外乱に強くできる。
【0046】
各制御器の状態方程式等について説明する。フィードフォワード制御を行うための相対角度の目標軌道の状態方程式を数式2に示す。r(t)は目標変換角、X
r(t)はフィードフォワード制御システム内部状態、A
rはフィードフォワード制御システム行列、B
rはフィードフォワード制御入力行列である。この時の入力目標値はステップ入力である。数式1、数式2より状態方程式数式3を得ることができる。
【0049】
d(t)をフィードバックによるd
1(t)とフィードフォワード入力d
2(t)に分けると数式4となり、フィードフォワード入力は数式5により与えられる。このときEは目標変換角と現在変換角の偏差である。
【0052】
スライディングモード制御器103の設計は、第一段階として切替超平面(等価制御入力)の設計、第二段階として到達則(非線形切替入力)の設計及びチャタリング防止の設計がある。第一段階である、状態を拘束する切替超平面の設計は、基本的に線形制御系の設計であるので線形制御理論である最適制御理論による方法で設計を行う。具体的には数式4に積分器を加えた拡大系とし数式6を得、数式8にある評価関数を用いる。ここでQはスライディングモード重み関数を示す。数式8の評価関数Jを最小にする解は、数式9のリカッチ方程式の正定対称唯一解P
Eを用いて表され、切替超平面は数式10で表すことができる。スライディングモードにあるときは、数式11の条件が適用され、数式12より数式13のように等価制御入力d
leqが求まる。このときσはスライディングモード切替関数である。
【0061】
切替超平面の設計後、切替超平面に状態を拘束させるために第二段階の到達則の設計を行う。到達則の設計は最終スライディングモード制御法により行う。最終スライディングモード制御法により非線形切替入力は数式14で定義される。チャタリング現象を防止するために平滑関数を用い、更に加速率到達則関数を用いると非線形切替入力が数式15のように求まる。このときγはスライディングモードリレー入力ゲインである。
【0064】
よってスライディングモード制御器103は数式16のように表すことができ、更にフォードフォワード制御器を用いた、本発明の実施形態にかかる場合は、数式17のように表すことができる。
【0067】
位相可変装置推定器107を構成するカルマンフィルタについて
図5により説明する。数式1を制御周期で離散化すると数式18となる。各文字の右下に付した「d」は、離散化を表す。位相可変装置推定器107には、複数の入力により一つの相対角度推定値を出力する。まず、クランクシャフト22の回転を検知するクランク角センサ23により算出した回転速度値と、吸気側カムシャフト20の回転を検知するカム角センサ24により算出した回転速度値から、速度差演算器105によりそれらシャフトの速度差を演算し、積分器106により、シャフト間の現ステップでの相対角度(以下「現ステップでの相対角度」とする)を演算し、位相可変装置推定器107の入力とする。また、電磁クラッチ70への現ステップの指令値も位相可変装置推定器107の入力とする。そして、これらの入力から位相可変装置推定器107を構成するカルマンフィルタを用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算し、これをフィードバック信号としてスライディングモード制御器103に入力する。
【0069】
クランクシャフト22及びカムシャフト53の回転速度値から算出する現ステップでの相対角度と、電磁クラッチ70への現ステップの指令値とからカルマンフィルタを用いて1ステップ後の相対角度推定値を算出し、これをフィードバック信号としてスライディングモード制御器103に入力することにより、クランクシャフト22の回転数が小さい場合でも、制御器への必要な数の入力信号を得ることができる。これにより制御システムを高応答で、かつ安定にすることができる。
【0070】
位相可変装置推定器107について
図6のブロック図により詳細に説明する。
図6の位相可変装置推定器107は、
図5に合わせて右に入力、左に出力として示す。本発明の第一実施形態にかかる位相可変装置推定器107は、数式19及び数式20に表すカルマンフィルタ121(数式19第一式、数式20第一式)、115(数式20第三式)、117(数式20第五式)、118(数式20第二式)と、センサフラグにより入力を切り替える複数の切替スイッチ113、115等から構成する。ここでP
dは離散化した誤差の共分散行列、Q
dはカルマンフィルタ重み関数、K
dは離散化したカルマンゲイン、またXの上に付した「^」は推定値であることを表す。センサフラグは、カムシャフト53の回転数を算出するための近接センサであるカム角センサ24であり、このカム角センサがONになっている状態が、センサフラグが立っている状態、OFFになっている状態が、センサフラグが立っていない状態である。なお、センサの種類によっては、ONとOFFが逆になる場合もあり、また、カムシャフト53のセンサでなくクランクシャフト22のセンサである場合もある。
【0073】
センサフラグが立っていない時、切替スイッチ113、116では共に、119の0値を選択する。これにより第一切替スイッチ113からの出力は必ず0となり、数式19の第一式のカルマンフィルタ120は、電磁クラッチ70への現ステップでの指令値のみから1ステップ後の相対角度推定値を演算する。この状態をオープンループ推定とする。
【0074】
センサフラグが立っているとき、切替スイッチ113、116は共に0値119以外を選択する。この時相対角度推定値は、現ステップでの相対角度と、電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、を用いてカルマンフィルタ115、117、118、120により演算される。この状態をクローズドループ推定とする。このカルマンフィルタは非線形のシステムに用いられるUnscentedカルマンフィルタである。
【0075】
シャフトの回転角を検出するセンサのフラグが立っていない時は、カルマンフィルタが、電磁クラッチ70への現ステップでの指令値のみから1ステップ後の相対角度推定値を演算すると共に、センサフラグが立った時は、カルマンフィルタが、現ステップでの相対角度と、電磁クラッチ70の現ステップでの指令値と、を用いて1ステップ後の相対角度推定値を演算することにより、センサが反応したときに精度の高い値を取り込んで演算することができ、電磁クラッチに精度の高い指令を行うことができる。
【0076】
本発明の第一実施形態にかかる位相制御方法で、内燃機関11を制御した結果を
図7に示す。
図7(a)は位相可変装置推定器107を用いていないもの、
図7(b)は第一実施形態にかかる位相可変装置推定器107により状態推定を行ったものである。グラフのX軸は時間で、Y軸は位相即ち位相可変装置51内の外筒部52と内筒部54との相対角を示している。内燃機関11の回転数は1000[rpm]で、一点鎖線で示したグラフが位相の指令値であり、実線が位相の実測値である。特に位相を変化させた直後の部分(○で囲った部分)において、オーバーシュートやアンダーシュートを抑えることができ、良好な応答性を得ることができた。
【0077】
本発明の第二実施形態にかかる位相可変装置推定器107は、位相可変装置51のシステム同定を行い、相対角度推定値を演算する。詳細には、現ステップでの相対角度と、電磁クラッチ70への現ステップの指令値と、から、位相可変装置推定器107内のカルマンフィルタを用いて、位相可変装置51のシステム同定を行う。このシステム同定により位相可変装置51内の各要素の状態を特定したパラメトリックモデルを作成することができる。例えば、位相可変装置51内の温度環境が変化した場合のばね定数や、粘性などを含んだモデルとして特定できる。そしてこのシステム同定により求めたパラメトリックモデルにより1ステップ後の相対角推定値を演算する。
【0078】
カルマンフィルタを用いて位相可変装置51のシステム同定を行い、このシステム同定で求めたパラメトリックモデルにより1ステップ後の相対角度推定値を演算することにより、制御モデルの精度を上げることができる。これにより電磁クラッチ70により精度の高い指令を行うことができる。
【0079】
なお、本件においてはスライディングモード制御器103を用いたシステムにカルマンフィルタ等の位相可変装置推定器107を用いた制御方法及び制御装置を提案したが、スライディングモード制御器107以外のPID制御器のような一般的なフィードバック制御器を用いた制御方法や制御装置も可能である。