【0005】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
まず、第1の実施形態に係るグラフェン基板の製造方法の概略について、
図1を参照して説明する。
まず、
図1(a)に示すように、炭素3と金属4を含む炭化物層2上に、金属層1を配置して炭化物層2と接触させ、金属層/炭化物層の2層構造を加熱する。
すると、
図1(b)に示すように、金属層1は液体となり、炭化物層2の表層に存在する炭素3と金属4が金属層1に溶解する。
即ち、金属層1は液体状態で炭素3を溶解するためのフラックスとして働く。
ここで、金属層1としては、高温でも炭素固溶度が著しく低いもの、具体的には炭素固溶度がppmレベルのものを用いる。
そのため、金属層1へ極微量の炭素3だけが溶解すると伴に、著しく低い炭素固溶度が律速となって、金属層1へ金属4も極微量しか溶解しない。
最後に、
図1(c)に示すように、炭素3が極微量溶解した金属層1を冷却すると、金属層1の炭素固溶度が減少し、過飽和状態となるため、炭素3は炭化物層2の表面にグラフェン7として析出する。
この時、2次元構造を持つグラフェン7として析出し、無定形のアモルファス炭素として析出しないのは、フラックス1がグラフェン形成の触媒として働くという効果のためであると考えられる。
また、基板2の表面が平滑であることと、基板2とグラフェン構造の表面構造が格子整合することとがグラフェンの層成長を促進する働きがあると考えられる。
なお、
図1(c)の冷却時に、金属4は通常析出しない。これは、金属4の固溶度が室温でも数百ppmから%レベルであるため、過飽和とならないためである。ただし、冷却時間が長い場合など、金属4の再結晶条件が揃うと、稀に金属4が析出することがある。その場合、金属微粒子としてグラフェン層上に付着するだけなので、それらはグラフェン上から酸やアルカリなどにより容易に除去できる。
そのため、グラフェンのみを選択的に炭化物層2の表面に介在物無しで直接形成することが可能となる。
以上が、本発明で示されるフラックス法によるグラフェン基板の製造方法の概略である。
次に、
図2を参照してグラフェン基板8の製造方法をより具体的に説明する。
始めに、
図2(a)に示すように、表面に炭化物層2を有する基板12を用意する。
なお、基板12は少なくとも表面に炭化物層2があればよいので、適当な基板上に炭化物層2を形成したものでもよいし、基板12全体を炭化物で形成したものでもよい。
なお、基板12の表面は適当な方法で予め清浄しておく。
前述の通り、炭化物層2中の炭素3がグラフェン7の原料である。炭化物層2の材料として、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)。炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することが出来る。
次いで、
図2(b)で示すように、金属層1を基板12上に配置し、気泡が入らないように金属層1と炭化物層2を密着して配置する。
前述の通り、金属層1は炭素3を融解させるフラックスとしての役割がある。
また、前述の通り、金属層1としては、炭素固溶度がppmレベルのものを用いる。
このような、炭素固溶度の低い金属を使用することは、グラファイトではなく、極薄の原子層薄膜であるグラフェンを形成する上で必須条件である。
このような金属としては、例えばガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)の群から選ばれる少なくとも1つを用いることが出来る。
なお、金属層1と炭化物層2の密着作業を室温で行う場合、室温付近で液体であるものが扱い易い。
例えば、室温付近で液体である金属としては、ガリウム(融点:29.8℃)、ガリウム・インジウム合金(融点:15.7℃程度)、ガリウム・インジウム・スズ合金(融点:19℃)、ビスマス・鉛・スズ・カドミウム・インジウム合金(融点:46.7℃程度)などが挙げられる。
ただし、適当な加熱のもとで密着作業を扱う場合は、必ずしも室温付近の融点を持つ金属を用いる必要はない。
次いで、真空下または不活性ガス気流下で適当な加熱装置、例えば、電気炉などを用いて、基板12と金属層1(金属層/炭化物層の2層構造)を加熱する。
すると、
図2(c)に示すように、基板12の表面から、炭化物層2を構成する炭素3と金属4が金属層1に溶解する。
加熱する温度は、800℃〜1200℃が望ましく、900℃〜1100℃がより好ましい。
800℃という温度範囲の下限は、グラフェン化に最低限必要な温度であり、1200℃という上限は、溶解する炭素3の量をグラフェンの層数が10層程度に相当する量に抑制する必要性から決まる。
また、加熱温度を900〜1100℃の範囲に設定すると、特に高品質なグラフェンを形成できる。
ここで「高品質なグラフェン」とは結晶性の高いグラフェンを意味する。
具体的には、ラマン分光で得られるDバンドとGバンドの比であるD/G比が小さいグラフェンである。D/G比は出来るだけ小さいほうが良く、D/G比≦0.2が望ましい。
なお、DバンドはDefect bandの略称で、1350cm
−1付近に現れる欠陥構造に由来するラマンバンドであり、GバンドはGraphite bandの略称で、〜1580cm
−1付近に現れる理想結晶におけるC−C結合の全対称伸縮振動に由来するラマンバンドある。
また、グラフェン品質の極限を考えると、最高品質は、完全結晶で、D/G比=0、最低品質は、アモルファスで、D/G比≧1となる。
次に、
図2(d)に示すように、金属層/炭化物層(基板12)の2層構造を冷却すると、金属層1に溶解した炭素3が析出し始め、最終的に、
図2(e)に示すように、グラフェン7が基板12に形成される。
この際、前述の通り、金属層1に溶解した金属4は過飽和とならないので、通常は析出せず、グラフェン7のみが介在物なしで基板12表面に直接形成される。
加熱温度が800℃を超える場合、加熱した温度から800℃まで降温する時間は、30〜150分が望ましく、60〜120分が最適である。
30分という降温時間の下限は、グラフェン化に最低限必要な時間であり、150分という降温時間の上限は、これ以上時間を掛けるとグラフェン7の品質に劣化が起こるため、品質維持という必要性から決まる。
また、最適な降温時間を60〜120分とした理由は、この範囲で降温することにより、特に高品質なグラフェンを形成できるためである。
一方、加熱温度が800℃の場合は、その温度を30〜150分間維持するのが望ましく、60〜120分間維持するのが最適である。
なお、800℃まで降温した後の降温条件は任意の条件でよく、例えば自然冷却すればよい。
最後に、金属層1の大部分を吸引など適当な方法で物理的に取り除き、さらに残渣の金属層1を酸などで完全に溶解して除去すると、
図2(f)に示すように、グラフェン基板8が得られる。
金属層1の残渣を溶解する酸としては塩酸(HCl)、硫酸(H
2SO
4)、硝酸(HNO
3)などを用いることが可能で、適当な温度(〜80℃)に酸を加熱すると、金属層1の溶解を促進出来る。また、前述の通り、冷却時間が長い場合(約90分以上の場合)、稀に金属4が微粒子(粒径:数マイクロメートル)としてグラフェン上に析出する場合がある。この場合、金属微粒子を酸やアルカリなどで除去する。
このように、第1の実施形態によれば、金属層1を炭化物層2と接触させ、金属層1と炭化物層2を加熱することで金属層1中に炭化物層2中の炭素3を溶解させ、次いで金属層1と炭化物層2を冷却して金属層1中の炭素3を炭化物層2の表面にグラフェン7として析出させることにより、グラフェン基板8を製造している。
そのため、グラフェン基板8のスケールアップが容易であり、大面積のグラフェン基板を製造できるという利点が得られる。
さらに、第1の実施形態ではSiC熱分解グラフェンの場合のような、高温(〜1600℃)処理や、基板12の水素プラズマ処理・シラン処理が不要であるので、低コスト化が図れる。
さらに、第1の実施形態によれば、基板12は表面に炭化物層2を有するので、一般的に絶縁体である。すなわち、グラフェン基板8はグラフェン・オン・インシュレータ(graphene on insulator、絶縁体上グラフェン)基板である。
そのため、ガリウム・アモルファス炭素界面成長グラフェンの場合とは全く異なり、第1の実施形態のグラフェン基板8はそのまま、グラフェン素子の製造に使用できる。
さらに、第1の実施形態では、CVDグラフェンの場合のような、グラフェン7の品質を劣化させる転送工程を必要としないので、高品質を維持しつつ、グラフェン素子を製造できる利点が得られる。
即ち、第1の実施形態に係るグラフェンの製造方法は、量産性があり、高品質のグラフェンが得られると同時に、低製造コストで、半導体装置製造に直接使用可能である。
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態は、基本的な製造の手順は第1の実施形態と同様であるが、異なる点が2つある。
1つ目の相違点は、金属層1の蒸発や流動を防ぐための工夫が施されている点、具体的には金属層1を炭化物層2(基板12)と第2の基板20で挟み込んでいる点である。
2つ目の相違点は、第2の基板20上にグラフェン7を直接形成している点である。
以下、
図3を参照して第2の実施形態に係るグラフェン基板8a、8bの製造方法について説明する。
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
まず、
図3(a)に示すように、基板12を用意する。
次に、
図3(b)に示すように、基板12上に金属層1を配置し金属層1と炭化物層2を接触させる。
次に、
図3(c)に示すように、金属層1上に第2の基板20(耐熱材料層)を配置して両者を接触させる。
第2の基板20の材料としては、上記で示した炭化物(炭化物層2を構成する炭化物)のほか、石英(SiO
2)、アルミナやサファイヤ(Al
2O
3)、窒化ホウ素(BN)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化アルミニウム(AlN)など、耐熱性のある材料から選択可能である。
このように、第2の基板20を金属層1上に密着して配置すると、第1の実施形態と比べて加熱時の金属層1の蒸発を減少させることができる。
次に、
図3(d)に示すように、加熱・冷却によりグラフェン7を形成する。
この際、
図3(d)に示すように、基板12のみならず、第2の基板20にもグラフェン7が成長する。
そのため、炭化物層2(基板12)上のグラフェン基板8aは勿論、第2の基板20上のグラフェン基板8bも、グラフェン素子の製造に用いることが可能である。
従って、
図3の配置を利用することにより、様々な材質の基板上にグラフェンを製造できる。
最後に、
図3(e)に示すように、金属層1を基板12および第2の基板20から除去してグラフェン基板8a、8bが完成する。
このように、第2の実施形態によれば、金属層1を炭化物層2上に配置し、金属層1と炭化物層2を加熱することで金属層1中に炭化物層2中の炭素3を溶解させ、次いで金属層1と炭化物層2を冷却して金属層1中の炭素3を炭化物層2の表面にグラフェン7として析出させることにより、グラフェン基板8aを製造している。
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
また、第2の実施形態によれば、金属層1の上に第2の基板20を密着して配置してから金属層1を加熱・冷却してグラフェン7を析出させている。
そのため、第1の実施形態と比べて加熱時の金属層1の蒸発量を減少させることができる。
また、第2の基板20上のグラフェン基板8bも、グラフェン素子の製造に用いることが可能である。
次に、第3の実施形態について、
図4を参照して説明する。
第3の実施形態は、第1の実施形態において、基板12上に金属層1を配置するのではなく、ホルダ21内に金属層1を配置し、その上に基板12を配置してグラフェン基板8を形成するものである。
なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
以下、
図4を参照して第3の実施形態に係るグラフェン基板8の製造方法について説明する。
まず、
図4(a)に示すようにホルダ21を用意する。
ホルダ21は
図4(a)に示すように、二段階に凹部が形成された箱型の形状を有しており、下段側凹部41(底面側の凹部)が金属層1の寸法・形状に対応しており、上段側凹部43(上面側の凹部)が基板12の寸法・形状に対応している。
また、ホルダ21の材質は、後述する熱処理に耐えられる材料であれば良い。
このような材料としては、例えば石英(SiO
2)、アルミナやサファイヤ(Al
2O
3)、窒化ホウ素(BN)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化アルミニウム(AlN)などが挙げられる。
次に、
図4(b)に示すように、ホルダ21の下段側凹部41に金属層1を配置する。
次に、
図4(c)に示すように、ホルダ21の上段側凹部43に基板12を配置し、炭化物層2を金属層1と接触させる。
次に、
図4(d)に示すように、加熱・冷却によりグラフェン7を形成する。
ここで、
図4(d)の状態では、金属層1はホルダ21に保持され、底面と側面はホルダ21に接触し、上面は基板12と接触している。
そのため、加熱時に溶融した金属層1はホルダ21によって流動を抑制され、金属層1によって上方への蒸発を防止されている。
そのため、金属層1の蒸発や流動による損失を最小限にすることができる。
最後に、
図4(e)に示すように、基板12をホルダ21から取り出し、金属層1を基板12から除去してグラフェン基板8が完成する。
このように、第3の実施形態によれば、金属層1を炭化物層2上に配置し、金属層1と炭化物層2を加熱することで金属層1中に炭化物層2中の炭素3を溶解させ、次いで金属層1と炭化物層2を冷却して金属層1中の炭素3を炭化物層2の表面にグラフェン7として析出させることにより、グラフェン基板8を製造している。
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
また、第3の実施形態によれば、ホルダ21内に金属層1を配置し、その上に基板12を配置してグラフェン基板8を製造している。
そのため、金属層1の蒸発や流動による損失を最小限にすることができる。
次に、第4の実施形態について、
図5を参照して説明する。
第4の実施形態は、第2の実施形態において、ホルダ21a内でグラフェン基板8a、8bを製造するものである。
なお、第4の実施形態において、第2の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
以下、
図5を参照して第4の実施形態に係るグラフェン基板8a、8bの製造方法について説明する。
まず、
図5(a)に示すように、ホルダ21aを用意する。
ホルダ21aは凹部を有する箱型の形状をしており、材料は第3の実施形態のホルダ21と同様である。
なお、ホルダ21aはホルダ21とは異なり、凹部は1段であり、基板12に対応した形状を有している。
次に、
図5(b)に示すように、ホルダ21a内に基板12を、炭化物層2が上(ホルダ12aの開放端側)を向くように配置する。
次に、
図5(c)に示すように、基板12上にスペーサ22を配置する。
スペーサ22は枠状の形状を有しており、枠の外周形状はホルダ21aの内周形状に対応しており、枠の内周の形状は金属層1の外周形状に対応している。
スペーサ22の材質は、ホルダ21、21aと同様に後述する熱処理に耐えられる材料であれば良い。
即ち、具体的には石英(SiO
2)、アルミナやサファイヤ(Al
2O
3)、窒化ホウ素(BN)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化アルミニウム(AlN)などが挙げられる。
次に、
図5(d)に示すように、スペーサ22の枠内に金属層1を配置し、基板12の炭化物層2と接触させる。
次に、
図5(e)に示すように、スペーサ22および金属層1上に第2の基板20を配置し、金属層1に接触させる。
次に、
図5(f)に示すように、加熱・冷却によりグラフェン7を形成する。
ここで、金属層1は底面が基板12と、側面がスペーサ22と、上面が第2の基板20とそれぞれ接触している。
即ち、加熱の際には、金属層1は基板12とスペーサ22によって流動を阻止され、第2の基板20によって上方への蒸発を阻止される。
最後に、
図5(g)に示すように、基板12と第2の基板20をホルダ21aから取り出して金属層1を除去し、グラフェン基板8a、8bが完成する。
なお、基板12と第2の基板20の配置場所は逆でも良い。
このように、第4の実施形態によれば、金属層1を炭化物層2と接触させ、金属層1と炭化物層2を加熱することで金属層1中に炭化物層2中の炭素3を溶解させ、次いで金属層1と炭化物層2を冷却して金属層1中の炭素3を炭化物層2および第2の基板20の表面にグラフェン7として析出させることにより、グラフェン基板8、8aを製造している。
従って、第2の実施形態と同様の効果を奏する。
また、第4の実施形態によれば、ホルダ21aとスペーサ22を用い、金属層1が、底面は基板12と、側面はスペーサ22と、上面は第2の基板20とそれぞれ接触した状態で加熱・冷却によりグラフェン7を形成する。
そのため、第2の実施形態と比較して、加熱時の金属層1の流動や蒸発を阻止または減少させることができる。
次に、第5の実施形態について説明する。
第5の実施形態は、第1〜第4の実施形態において、種々の表面形状を有する基板12の表面にグラフェン7を形成したものである。
図6(a)に示す基板12aは、第1〜第4の実施形態で用いた基板12と同様の平面形状、即ち平坦な平面形状を有している。
そのため、第1〜第4の実施形態で説明した方法により、平坦な基板12aから、平坦なグラフェン7aを有する平坦なグラフェン基板8aが得られる。
一方、
図6(b)では凸型の3次元構造を持つグラフェン基板8b、
図6(c)では波型の3次元構造を持つグラフェン基板8c、
図6(d)では凹型の3次元構造を持つグラフェン基板8dが得られる。
ここで、
図6(b)〜(d)において、3次元構造が十分大きい(100μm以上)場合、液化した金属層1は炭化物層2のすべての面と接することができる為、3次元構造のすべての面がグラフェン化する。一方、
図6(e)や(f)において、3次元構造の周期寸法が概ね100μm以下と小さい場合は、液化した金属層1は炭化物層2の3次元構造のすべての面に接することが出来ない。
これは金属層1を構成する金属の界面張力のためである。
そのため、例えば、
図6(e)の場合、拡大
図9eに示すように、炭化物層2の波型構造(凹凸形状)において山の頂点部分(凸部)のみがグラフェン化するため、グラフェン基板8eの拡大
図10eに示すように、短冊状グラフェン7eを頂くグラフェン基板8eが得られる。
また、
図6(f)の場合、拡大
図9fに示すように、液化したフラックスはメッシュ構造内部に浸透することが出来ず、メッシュ構造の表面のみと接する。
この場合は、メッシュ構造の周期が十分小さいためにグラフェン化がメッシュ(凸部)を架橋するようにして進行する。
この結果、拡大
図10fに示すように、メッシュ構造を2次元グラフェン7fが被覆したグラフェン基板8fが得られる。これらグラフェン基板8a〜8fを元に、後述する様々なグラフェン素子を作製することが可能である。
次に、第6の実施形態について説明する。
第6の実施形態は、第1の実施形態に係るグラフェン基板8を用いて電界効果トランジスタ37を製造したものである。
なお、第6の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
以下、
図7を参照して第6の実施形態に係る電界効果トランジスタ37の製造方法について説明する。
ここでは、標準的なリソグラフィー技術を用いてグラフェン7をチャネルとして有する電界効果トランジスタ37を製造する手順が例示されている。
まず、
図7(a)で示すように、炭化物層2を表層に持つ基板12もしくは炭化物基板を用意し、第1の実施形態に係る方法により
図7(b)に示すように、基板12がグラフェン7で被覆されたグラフェン基板8を得る。
次いで、レジスト塗布、リソグラフィー露光、ウェットエッチングにより、
図7(c)に示すように、マスク31を形成し、マスク31で覆われた以外のグラフェン7を酸素プラズマでドライエッチングすることで、
図7(d)に示すように、グラフェン7からなるソース・ドレイン電極コンタクト部分32、ならびに、グラフェン・チャネル33を得る。
次いで、
図7(e)に示すように、ソース・ドレイン電極34を蒸着により形成し、さらに、
図7(f)に示すように、ゲート絶縁体35を蒸着により形成する。
最後に、
図7(g)に示すように、ゲート電極36をゲート絶縁体35上に蒸着により形成することで、最終的に、グラフェン7をチャネルとして有する電界効果トランジスタ37を得る。
なお、
図7は
図6(a)の平坦なグラフェン基板8aから出発して電界効果トランジスタ37を製造した例であるが、
図6(b)〜
図6(f)の様々な表面構造を持つグラフェン基板8b〜8fから出発すれば、様々なグラフェン素子を得ることが可能である。
例えば、
図6(b)〜
図6(d)に示される3次元構造のグラフェン基板8b〜8dからは、機械要素部品、センサー、アクチュエターと電子回路を組み合わせたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やNEMS(Nano Electro Mechanical Systems)に代表されるメカノエレクトロニクス分野の半導体装置を得ることが出来る。
また、
図6(c)〜
図6(f)の周期構造を持つグラフェン基板8c〜8fからは、その周期が遠赤外からテラヘルツ電磁波帯の波長程度である場合、増幅器、発信器、光源、レーザー、超高速・広帯域情報通信機器などのオプトエレクトロニクス分野の半導体装置を得ることが出来る。
さらに、
図6(e)や
図6(f)の微細な周期構造を持つグラフェン基板6e、6fから出発すれば、太陽電池、省エネルギー発光ダイオード照明、熱電変換素子などの環境・エネルギー分野の半導体装置を得ることが可能である。
【実施例】
【0006】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
図5に示す方法により種々の加熱温度でグラフェン基板8a、8bを作製し、作製したグラフェン基板8a、8b中のグラフェン7の構造と加熱温度との関係を調べた。具体的な手順は以下の通りである。
まず、基板12(炭化物層2)として炭化ケイ素基板(6H−SiC/シリコン面、10×10×0.45mmt)、第2の基板20としてサファイヤ基板(10×10×1mmt)を用意し、イソプロピルアルコール、アセトンの順で洗浄した。
なお、サファイヤ基板は大気中1000℃で1時間加熱することで、炭素化合物を完全に除去した。
次いで、
図5に示すように、サファイヤ基板をホルダ21aに嵌め込んだ後、溶融したガリウム200μl(マイクロリットル、約1g)をサファイヤ基板上に配置し、さらに、炭化ケイ素基板をガリウム上に配置した。
このサンプルを6個用意した。次いで、サファイヤ基板/ガリウム/炭化ケイ素基板を保持したホルダ21aを電気炉内にセットし、真空ポンプで排気した後、ホルダ等に付着している可能性のある有機物等を除去するために、30分間、300℃で予備加熱した。
次に、グラフェン成長のための加熱した後・室温まで冷却した。
加熱温度は、
図8に示すように、6個のサンプルについて、それぞれ(1)600℃、(2)800℃、(3)900℃、(4)1000℃、(5)1100℃、(6)1200℃とした。
また、冷却温度は
図8に示すように、(1)と(2)の場合、90分間、加熱温度と同温度で維持し、(3)〜(6)の場合は、それぞれ、800℃まで降温する時間を90分に固定した。
その後、ホルダ21aから基板12および第2の基板20を取り出し、ガリウムをピペットで吸引した後、80℃に加熱した濃塩酸中に基板12を30分間浸漬し、ガリウム残渣を除去した。また、グラフェン上にSiC基板由来のシリコン微粒子の析出が認められる場合は、80℃に加熱した50%水酸化カリウム水溶液または25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液中に基板12を60分間浸漬し、シリコン微粒子を除去した。
最後に、イソプロピルアルコール、アセトンで基板12を洗浄した後、窒素ブローで乾燥させた。
以上の工程により試料が完成した。
次に、炭化ケイ素基板(グラフェン基板8a)・サファイヤ基板(グラフェン基板8b)の表面のグラフェン形成状態をラマン分光法により評価した。
その結果、炭化ケイ素基板・サファイヤ基板由来のグラフェン基板8a、8bのどちらとも、(1)600℃、の場合では、D/G比が1程度と大きいことから、グラフェン化が殆ど起こらず、アモルファス的であると評価される一方、(2)800℃、〜(6)1200℃の場合、D/G比≦0.2と小さいことから、グラフェン化が十分進行し、グラフェン7の品質は高いと評価できることが分かった。
また、グラフェン7の層数は単層から10層の範囲にあり、加熱温度が高くなるにつれ、層数の増大が見られた。
特に、(3)〜(5)の場合、グラフェン7の品質は非常に高かった。
以上より、本発明のグラフェン基板8a、8bを製造するのに適する加熱温度は800〜1200℃であり、最適な加熱温度は900〜1100℃と考えられる。
(実施例2)
実施例1において、加熱温度を一定にし、種々の冷却速度で冷却を行い、作製したグラフェン基板8a、8bのグラフェン7の構造と冷却速度との関係を調べた。
具体的には、6つのサンプルを用意し、
図9に示すように、加熱温度をグラフェン成長に最適な1000℃とし、降温時間をそれぞれ、(1)0分、(2)30分、(3)60分、(4)90分、(5)120分、(6)150分、(7)180分としてグラフェン基板8a、8bを製造した。他の条件は実施例1と同様とした。
なお、ここでいう降温時間とは、1000℃から800℃まで冷却する時間のことである。
次に、炭化ケイ素基板(グラフェン基板8a)・サファイヤ基板(グラフェン基板8b)の表面のグラフェン形成状態をラマン分光法により評価した。
その結果、炭化ケイ素基板・サファイヤ基板由来のグラフェン基板8a、8bのどちらでも、(1)の場合では、D/G比が1程度と大きいことから、グラフェン化が殆ど起こらず、アモルファス的であると評価される一方、(2)〜(6)の場合、D/G比≦0.2と小さいことから、グラフェン化が十分進行し、グラフェン7の品質は高いと評価できることが分かった。層数は単層から10層の範囲であった。特に、(3)〜(5)の場合、D/G比が0.1以下であることから、グラフェン7の品質は非常に高いと評価できた。しかし、(7)の場合、D/G比≦0.2と小さいことから、グラフェン化は起こっていると評価されるが、2700cm
−1付近の2Dバンド(Dバンドの倍音)の形状と中心波数から判断すると、グラフェンの層数は10層を大幅に超えていることから、グラフェンとしての品質は低下していることが分かった。
以上より、本発明のグラフェン基板8a、8bを製造するのに適する降温時間は30〜150分であり、最適な降温時間は60〜120分と考えられる。
(実施例3)
組成の異なる種々の炭化物基板(基板12)に種々の加熱温度条件下でグラフェン基板を作製し、炭化物基板を構成する炭化物の種類と加熱温度条件の関係を評価した。具体的に手順は以下の通りである。
まず、基板12(炭化物層2)として、6H−SiC/炭素面、4H−SiC/シリコン面、4H−SiC/炭素面の基板、および炭化タングステン、炭化チタンの基板12を複数用意し、実施例1と同じ種々の熱処理条件でグラフェン基板8を作製した。
結果を
図10に示す。
なお、
図10は、本発明によるグラフェン基板製造に適する加熱温度と降温時間の範囲を温度プロファイル上に示したものである。
図10に示すように、どの種類の炭化物を用いた場合でも、加熱温度は800〜1200℃、降温時間は30〜150分の範囲にある場合に、高品質なグラフェン7が得られた。
(実施例4)
実施例1と同様の条件でグラフェン基板8aを作製し、グラフェン7の表面状態および構造を評価した。
まず、グラフェン基板8aを作製した。
具体的には、実験条件は実施例1と同様で、加熱温度1000℃、800℃までの降温時間は60分の条件下でグラフェン基板8aを作製した。
図11(a)に、グラフェン形成前の基板12(炭化ケイ素基板、6H−SiC/シリコン面、10×10×0.45mmt)を、
図11(b)にグラフェン形成後の基板(グラフェン基板8a)を示す。
なお、
図11(b)の四隅の矢印はガリウムが接触した部分としない部分の境界を示す。
図11(a)、(b)の比較から明らかなように、
図11(b)では、中央部がグラフェン7で覆われていた。
次に、
図11(b)のグラフェン基板表面のラマンスペクトルを求めた。
結果を
図11(c)に示す。
図11(c)から明らかなように、欠陥の存在を示す1350cm
−1付近のDバンドは十分小さく(D/G比〜0.05)、1580cm
−1付近のGバンドと2700cm
−1付近の2Dバンドの比が約1:1であることから、2層程度のグラフェン7が支配的であることが分かった。
(実施例5)
実施例1と同様の実験条件で、第2の基板20の材質が、炭化ケイ素(6H−SiC/シリコン面、半絶縁体性)、石英、アルミナ、六方晶系窒化ホウ素の場合を試験した結果、実施例1と同様、どの第2の基板20の表面にもグラフェン7が形成されることが確認された。従って、本発明によれば、第2の基板20は耐熱性があれば、グラフェン形成が可能であることが証明された。
(実施例6)
本発明の方法で得られたグラフェン基板8(炭化ケイ素上グラフェン)を用いて、
図7に示す手順に従って電界効果トランジスタ37を作製した。
なお、グラフェン基板の作製条件は、加熱温度を1000℃とし、800℃までの降温時間は90分とした他は実施例1と同様とした。
次に、得られた電界効果トランジスタ37を、プローバーと半導体パラメーターアナライザーを用いて、室温で伝導特性を評価した。
その結果、ドレイン電流のゲート電圧依存性(輸送特性)は、0V付近のディラックポイントでドレイン電流が最小となり、ゲート電圧をマイナス側、プラス側どちらに掃引してもドレイン電流が増大するという、グラフェンに典型的な両極性伝導を呈した。
従って、本発明の方法を用いてグラフェン素子を製造できることが証明された。
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、本実施形態ではグラフェン基板を用いて電界効果トランジスタを製造した場合について説明したが、本発明は何らこれに限定されることはなく、例えば論理回路、記憶素子回路、AD(アナログ・デジタル)コンバーターなどのエレクトロニクス分野の半導体装置を製造することも可能である。
なお、本出願は、2010年11月4日に出願された、日本国特許出願第2010−247122号からの優先権を基礎として、その利益を主張するものであり、その開示はここに全体として参考文献として取り込む。