特許第5967487号(P5967487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967487
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】貝類の育成装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20060101AFI20160728BHJP
   A01M 29/30 20110101ALI20160728BHJP
【FI】
   A01K61/00 E
   A01M29/30
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-24119(P2013-24119)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-150770(P2014-150770A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
(73)【特許権者】
【識別番号】502286890
【氏名又は名称】大分県漁業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内木 敏人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勘治
(72)【発明者】
【氏名】大村 修一
(72)【発明者】
【氏名】片野 晋二郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】園 利喜春
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3131950(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3137857(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
A01M 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底の上部を上部被覆網により被覆することにより外界と隔離した貝類の育成装置において、
前記上部被覆網と海底との間に、空間ができるようにスペーサ手段を設置し
前記スペーサ手段が、前記上部被覆網を海底から一定距離を維持するように被覆エリア周囲に設けた支持支柱により構成されており、
前記上部被覆網は、前記被覆エリアの外側で固定杭によって海底に固定されていることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項2】
請求項に記載の貝類の育成装置において、
前記支持支柱は、前記被覆エリア周囲に沿って立てられた複数の周囲支持支柱と、前記被覆エリアの内側に設けられた中央支持支柱により構成されていることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の貝類の育成装置において、
前記中央支持支柱の上端部から複数本の補強用ロープが前記周囲支持支柱に向けて放射状に張設され、
さらに、所定の周囲支持支柱の上部からは側張ロープが前記被覆エリアの外側に延設され、前記側張ロープは海底近傍でロープ固定用支柱に連結されており、
前記上部被覆網は、前記補強用ロープおよび前記側張ロープによって下方から保持されていることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の貝類の育成装置において、
前記周囲支持支柱が、上下方向の複数箇所で、互いに隣の周囲支持支柱と連結部材により連結されていることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の貝類の育成装置において、
前記周囲支持支柱に沿って壁網を設けたことを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の貝類の育成装置において、
前記壁網は、下部を海底に埋設し、上部が海底から露出して上方に立ち上がっていることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の貝類の育成装置において、
前記上部被覆網が可撓性を有する網からなり、前記壁網が柔軟なプラスチック素材であることを特徴とする貝類の育成装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の貝類の育成装置において、
前記スペーサ手段が平面視円形であることを特徴とする貝類の育成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリ、ハマグリ、バカガイ等の貝類の育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、潜砂性二枚貝の育成に際して、生息地である砂地である海底に保護ネットを直接に敷設する保護ネット敷設方法およびその装置が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、潜砂性二枚貝の育成装置として、全体が繊維素材によるネットで構成され、本体は上部及び底部に開口部を有し、上部開口部は開閉に際し蓋ネットを設けて成る方形状の立体形を呈した二枚貝保護ネットが公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載の二枚貝保護ネットは、前記蓋ネットの形状がドーム状の斜面を形成する立体形を呈し、前記蓋ネットの頭頂部に浮体を設けて構成したものである。
【0005】
そして、前記二枚貝保護ネットは、干潟(海底)などに載置し、重石、杭などで固定若しくは埋設固定し、二枚貝の生育時は上部開口部を蓋ネットで閉じておくものである。干潮時の干潟における二枚貝保護ネットは、平面形状を成して概ね全体が砂面に接した状態を形成する。蓋ネット中央辺りへ設けた浮体により、蓋ネットは潮の満ち上がりによって持ち上げられ蓋ネットの有する形状斜面を形成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−195215号
【特許文献2】実用新案登録第3137857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の保護ネット敷設方法は、海底100に保護ネット102を密着して敷設する構成である(図8(a)参照)。そのため、特に、波浪や雨、風により地砂が移動しやすい環境では、保護ネット102およびその内部に砂泥103が堆積してしまう(図8(b)参照)。
【0008】
潜砂性二枚貝101は、海底表面まで移動して摂餌したり、呼吸したりする必要があるが、保護ネット102が海底表面に接触した状態が維持されると、二枚貝101が摂餌したり、呼吸したりする妨げとなり、二枚貝101の成長の鈍化、生残の低下等、生育に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の二枚貝保護ネットは、干潟に設置または埋設され、蓋ネットが海中に浮遊する構成である。そして、二枚貝保護ネットの設置場所が干出(海底が露出)した時には、浮体により蓋ネットが持ち上げられないため、蓋ネットと干潟表面とのスペースが充分に確保できなくなる。また、藻類やフジツボ等の生物が蓋ネットに付着すると、その重みで干出時以外でも浮体により蓋ネットが持ち上げられなくなり、二枚貝の生育に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0010】
特許文献1及び2では、共通して、二枚貝の生息するエリアのすぐ外側(保護ネットの外側)は直射日光が当たりやすかった。それにより周囲の地温が上昇しやすく、保護ネット内の地温にも影響を与えやすいことから、特に夏場は二枚貝の生育に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0011】
また、図9に示すように、特許文献2に記載の二枚貝保護ネット102において、自然界でありがちな偏った方向からの波浪等の外力により、二枚貝保護ネット102内の砂泥103及び二枚貝101は、外力の反対側に集積されることとなる。このため、二枚貝101の生育に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は、潜砂性二枚貝等の貝類の生育環境が悪化するのを防止する貝類の育成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、海底の上部を上部被覆網により被覆することにより外界と隔離した貝類の育成装置において、前記上部被覆網と海底との間に、空間ができるようにスペーサ手段を設置したことを特徴とする。
【0014】
前記本発明は、上部被覆網と海底との間に、空間ができるようにスペーサ手段を設置したので、潮の満ちているとき以外の干潟のときであっても、あるいは、上部被覆網の上面に砂が堆積することがあっても、前記スペーサ手段は上部被覆網と海底との間に空間を維持する。このため、貝類は上部被覆網と離間する海底近くまで自由に移動して摂餌したり、呼吸したりすることが可能となり、貝類の生育に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【0015】
前記本発明の貝類の育成装置において、前記スペーサ手段が、前記被覆網を海底から一定距離を維持するように被覆エリア周囲に設けた支持支柱により構成されている。
【0016】
前記本発明は、上部被覆網が支持支柱により支持されることとなるため、潮の干満による水位の変化によって、上部被覆網の形状が変化を受け難くなる。例えば、上部被覆網が矩形状を呈している場合には、その矩形状を維持して敷設することが可能となる。このため、上部被覆網による被覆スペースを海底に確実に確保でき、外界との確実な隔離効果が得られる。また、前記スペーサ手段が支持支柱により構成されるため、支持支柱を海底の任意の位置に設け、自由な規模に設置することが可能となる。また、支持支柱という簡単な構成であるため、支持支柱を使用して上部被覆網を容易に敷設するこが可能となる。
【0017】
前記本発明の貝類の育成装置において、前記支持支柱は、被覆するエリア周囲に沿って立てられた複数の周囲支持支柱と、前記周囲支持支柱により囲まれたエリアの内側に設けられた別の支持支柱により構成されている。
【0018】
前記本発明は、周囲支持支柱により囲まれたエリアの内側に別の支持支柱を設けて、上部被覆網を支持する構成であるので、周囲支持支柱により囲まれたエリアを大きく設定しても、別の支持支柱が上部被覆網を支持する。この結果、上部被覆網が海面上に露出する場合であっても、上部被覆網が垂れ下がって海底に接触するのを防止して、海底とのスペースを維持することができる。
【0019】
前記本発明の貝類の育成装置は、前記周囲支持支柱が、上下方向の複数箇所で、互いに隣の周囲支持支柱と連結部材により連結されていることにある。
【0020】
前記本発明は、前記周囲支持支柱の複数箇所を連結部材により連結することにより、波浪等による外力に対する耐力を得られる。また、例えば、連結部材を海底に埋設させることにより、さらに耐力を増加させることも可能となる。
【0021】
前記本発明の貝類の育成装置において、前記周囲支持支柱に沿って壁網を設けたことにある。前記本発明は、壁網を周囲支持支柱によって海底に対して支持しているので、潮の干満による水位の変化で壁網の形状が変化し難くなる。また、壁網は、上部被覆網で覆われており、波等の外力から守られている。このため、壁網は、潮の干満や横からの外力による影響を受けることが少なくなり、貝類を生育する壁網内部と外界との確実な隔離効果が得られる。この結果、外界からの捕食生物の侵入防止と、壁網を周囲支持支柱によって支持するため、貝類を生育する壁網内部の形状や規模を自由に設定することができる。
【0022】
また、自然界でありがちな偏った方向からの波浪等の外力が、前記本発明の貝類の育成装置に作用する。本願発明の貝類の育成装置は、壁網と上部被覆網からなる2重網により、偏った方向からの波浪等の横からの外力は弱まり、このため、砂と二枚貝が外力の反対側方向に集積するのを防止し、二枚貝の生育に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0023】
前記本発明の貝類の育成装置において、前記壁網は、下部を海底に埋設し、上部が海底から露出して上方に立ち上がっていることにある。前記本発明は、壁網の下部が海底に埋設されているので、波浪や海流、海底の起伏の変化に対して、充分な隔離効果が確保できる。これにより、波浪に対する対抗性が向上し、装置の強度を確保できる。また、外界からの捕食生物の侵入も防止できる。
【0024】
前記本発明の貝類の育成装置は、前記上部被覆網が可撓性を有する網からなり、前記壁網が柔軟なプラスチック素材である。前記本発明は、上部被覆網と壁網の低コスト化が図れ、運搬や取り扱いが便利となると共に軽量化が図れ、育成装置の敷設の容易化を図れる。しかも、特許文献2に記載した保護ネットのような構造体内で育成する場合に比し、自由な規模に設置でき、大型化を容易に実現できる。
【0025】
前記本発明の貝類の育成装置は、前記スペーサ手段(周囲支持支柱の配置および壁網の取付け形状)が平面視円形である。
【0026】
前記本発明は、水平方向の波浪や風を受けた際、スペーサ手段の周表面が凸状の円形となっているため、平面視四角形や三角形の場合に比し、衝撃を分散し易くなり、その形状を維持し易くなる。その結果、波浪に対する対抗性が向上し、装置の強度を確保できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上部被覆網の貝類の育成に使用される部分が、海底に不用意に接触するのを防止できるため、貝類が自由に摂餌したり、呼吸したりする妨げとなることはなく、貝類の生育環境が悪化するのを防止できる。さらに、上部被覆網が広く育成装置を覆うため、夏季の直射日光の照射による干潟の地温の上昇を抑え、二枚貝の生育に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る育成装置の全体を示す斜視図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】育成装置の一部断面を含む側面図である。
図4】育成装置の要部を示す断面図である。
図5】(a)〜(c)は育成装置の敷設工程を示す断面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る育成装置の全体を示す斜視図である。
図7】育成装置の一部断面を含む側面図である。
図8】従来例を示し、(a)は海底に保護ネットを直接敷設した状態の断面図、(b)は保護ネット上に砂が堆積した状態の断面図である。
図9】二枚貝保護ネットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1図5は、本発明の一実施形態を示す。
【0030】
本発明の実施形態に係る二枚貝の育成に使用される貝類の育成装置について説明する。図1は育成装置の全体を示す斜視図、図2図1のA−A線断面図、図3は育成装置の一部断面を含む側面図、図4は育成装置の要部を示す断面図である。
【0031】
育成装置1は、図1図3に示すように、貝類としての二枚貝9を育成する被覆エリアを上方から覆う上部被覆網2と、上部被覆網2と海底6との間に空間7を形成するためのスペーサ手段3とを備えている。なお、図1において、スペーサ手段3を構成する主要部材等は、上部被覆網2に被覆されているが、それぞれの部材を明確に認識できるように、実線で表示している。
【0032】
上部被覆網2は、可撓性を有する矩形状の網から形成されている。上部被覆網2の網目の目開き(目合い)は、例えば、9mmに設定されている。この目開きは、任意に設定可能であり、二枚貝9の大きさよりも小さく設定されている。なお、上部被覆網2の形状および大きさは、育成装置1の規模により適宜設定可能である。
【0033】
スペーサ手段3は、支持支柱から構成されており、複数本の周囲支持支柱30と、周囲支持支柱30の内側に設けられる別の支持支柱(中央支持支柱)31とを備えている。
【0034】
周囲支持支柱30は、被覆エリアを区画するように間隔をおいて海底6に立設された支柱からなる。周囲支持支柱30は、例えば、鉄鋼管からなり、所定の間隔をおいて平面視円形に配置されている。
【0035】
互いに隣り合う周囲支持支柱30の上下部は、図4に示すように、合成樹脂パイプからなる連結部材32、33により連結されている。連結部材32、33により周囲支持支柱30は、互いに並行で垂直姿勢を強固に維持する。なお、周囲支持支柱30の連結部材32、33による連結は、上下方向の2箇所に限らず、3箇所以上の複数箇所であってもよい。周囲支持支柱30の下方半分と連結部材33が海底6に埋設されている。
【0036】
中央支持支柱31は、鉄鋼管からなり、周囲支持支柱30の区画する被覆エリアの中心に立設され、中央支持支柱31の高さは周囲支持支柱30の高さよりも若干高く設定されている。中央支持支柱31の上端部には、複数本の補強用ロープ4の一端が連結されている。それぞれの補強用ロープ4の他端側は、周囲支持支柱30の上部に連結されており、周囲支持支柱30に向けて放射状に張設されている。
【0037】
また、所定の周囲支持支柱30の上部から側張ロープ4aが、上部被覆網2の4隅方向に延設され、上部被覆網2よりも外側に立設されたロープ固定用支柱35に連結されている。なお、ロープ固定用支柱35は、周囲支持支柱30よりも低く(短く)設定されており、側張ロープ4aとロープ固定用支柱35との連結部分は、海底6近傍に設定されている。
【0038】
壁網5は、帯状に形成されており、周囲支持支柱30に沿って円形に設けられている。壁網5は、柔軟性の高いプラスチック性の素材から構成されている。例えば、押出成形による編んでいない目のプラスチックネットが採用され、壁網5の目開きは、上部被覆網2の目開きと同等に設定されている。壁網5の下部は、海底に埋設され、上部は海底から露出して上方に立ち上がっている。
【0039】
壁網5の円周方向には、複数の鉄筋からなる保持部材36が間隔をおいて立設されている。すなわち、保持部材36の下部は海底6に埋設されており、上部はフック状に形成され、フック部36aは、壁網5の上辺部および連結部材32に上方から係合されている。
【0040】
上部被覆網2は、壁網5、中央支持支柱31および周囲支持支柱30を上方から被覆するように中央支持支柱31および周囲支持支柱30に支持されている。すなわち、中央支持支柱31および周囲支持支柱30は、上部被覆網2と海底6との間には空間7を常時形成するようになっている。上部被覆網2の4隅2aは、固定杭11で海底6に固定されており、また、上部被覆網2の適宜部分には、重石としての土嚢8が載置されている。
【0041】
上部被覆網2は、固定杭11および土嚢8により、中央支持支柱31および周囲支持支柱30に支持された状態で固定することができるが、上部被覆網2は、中央支持支柱31および周囲支持支柱30に紐等で締結してさらに強固に支持するようにしてもよい。なお、補強用ロープ4および側張ロープ4aは、中央支持支柱31および周囲支持支柱30を補強する機能と、上部被覆網2を下方から保持する機能とを備えている。また、補強用ロープ4および側張ロープ4aは、上部被覆網2の上方から張設することも可能である。
【0042】
本実施形態の貝類の育成装置1は以上の構成からなり、次に、かかる育成装置1の敷設(設置)方法について、図5を参照しながら説明する。
【0043】
先ず、干潟(海底6)に、中央支持支柱31を打ち込む。次に、中央支持支柱31を中心にして円を海底6に描き、この円に沿って複数本の周囲支持支柱30を所定間隔に打ち込む。次に、円形に配置された周囲支持支柱30に沿って環状溝60を掘る(図5(a)参照)。なお、先に環状溝60を掘った後に、環状溝60に沿って周囲支持支柱30を打ち込むことも可能である。また、周囲支持支柱30を円形に打ち込んだ後に、周囲支持支柱30の円形中央部に中央支持支柱31を打ち込むことも可能である。
【0044】
さらに、壁網5と連結部材32、33とを連結し、環状溝60に挿入し、周囲支持支柱30と壁網5とを連結する(図5(b)参照)。なお、壁網5と連結部材32、33との連結は、所定の長さの連結部材32、33を適宜連結して行う。このように、一体となった周囲支持支柱30および壁網5の下部を埋設する。
【0045】
さらに、保持部材36を打ち込んで、フック部36aを壁網5の上辺部および連結部材32に上方から係合する。壁網5で区画される略円形のエリアが被覆エリアとなる。なお、周囲支持支柱30の間隔は任意に設定することができ、保持部材36は、必ずしも設ける必要はない。
【0046】
周囲支持支柱30の下部同士は、連結部材33が環状に連結され、しかも、連結部材33が埋設されていることから、周囲支持支柱30は強固に立設された状態となる。
【0047】
次に、補強用ロープ4を中央支持支柱31および周囲支持支柱30間に連結する。また、側張ロープ4aを周囲支持支柱30および海底6に打ち込まれているロープ固定用支柱35間に連結する(図5(c)参照)。なお、ロープを中央支持支柱31、周囲支持支柱30およびロープ固定用支柱35にわたって連結する場合には、一本のロープで連結するようにしてもよい。
【0048】
さらに、上部被覆網2で周囲支持支柱30および壁網5を上方から覆う。このように、周囲支持支柱30および壁網5を覆う上部被覆網2の4隅2aを、固定杭11で海底6に固定するとともに、上部被覆網2の適宜位置にそれぞれ土嚢8を設置する(図1および図2参照)。
【0049】
以上の構成からなる育成装置1は、海底6を掘る作業が、周囲支持支柱30および壁網5の下部を埋設する(被覆エリアを区画する)環状溝60を掘ればよいだけなので、その作業を容易に行うことができ、大型の被覆エリアを備えた育成装置1の設置が容易に可能となる。
【0050】
また、上部被覆網2は、潮の干満とは無関係に海底6との間に空間7を有しているため、上部被覆網2が邪魔になることなく、二枚貝9は自由に移動して摂餌したり、呼吸したりすることができ、二枚貝9の生育環境が悪化するのを防止することができる。仮に、二枚貝9が生育する海底6に砂が堆積した場合であっても、海底6は上部被覆網2と離間しているので、二枚貝9の摂餌や呼吸を妨げることがない。特に、波浪や雨、風により地砂が移動しやすい環境では、上部被覆網2上に砂泥が移動し、砂泥は上部被覆網2の目を介して海底6に堆積する場合がある。このように海底6に砂泥が堆積しても、上部被覆網2とは離間しているため、二枚貝9の摂餌や呼吸を妨げることがなく、成育に悪影響を及ぼすことがほとんどない。なお、海底6に堆積する砂泥は、上部被覆網2の目から外界に移動できるため、二枚貝9を自然の環境で育成することができる。また、上部被覆網2が広く育成装置1(周囲支持支柱30および壁網5の全体)を覆うため、二枚貝9が生息するエリアよりも広い範囲で、直射日光の照射による干潟の地温の上昇を抑えることができる。
【0051】
しかも、上部被覆網2は、二枚貝9をエイ等の食害から保護するとともに、壁網5は下部が埋設されていると共に上部が海底6から露出して上方に立ち上がっているため、壁網5は海底から侵入しようとする捕食生物から保護することも可能である。
【0052】
また、円形に配置された周囲支持支柱に壁網を円形に取付けているため、上部被覆網2が若干垂れて壁網5に接触した場合であっても、上部被覆網2が壁網5で局部的に直角または鋭角に屈曲し難くなる。例えば、壁網5が平面視矩形状の場合は、その角部に上部被覆網2が引っかかり易くなるが、本実施の形態の壁網5は円形であるため、上部被覆網2が壁網5に引っかかり難くなる。しかも、壁網5を円形に周囲支持支柱に取付けているため、壁網5に屈曲部分が形成されない。従って、上部被覆網2および壁網5の素材の劣化が遅くなり、上部被覆網2および壁網5を長期にわたって使用することが可能となる。
【0053】
また、スペーサ手段3に周囲支持支柱30および中央支持支柱31を採用し、周囲支持支柱30に可撓性を有する壁網5を取付ける構成であるため、被覆スペースを容易に設定することができ、自由な規模の育成装置1の設置が可能となる。また、壁網5は柔軟性を有し、ロール状に巻きつければ、機能や強度を失うことなく、コンパクトに持ち運びができる。さらに、上部被覆網2は可撓性を有し、運搬や取り扱いが便利であり、周囲支持支柱30および壁網5等の他の部材と結節せずに上部を覆っているため、上部被覆網2は、二枚貝9の成長に応じて目合いの大きなものとの交換も容易に行うことができる。よって、本発明は、増殖を目的とした母貝育成施設や、養殖を目的として管理のし易い施設等に採用することが可能となる。
【0054】
図6および図7は、本発明の他の実施形態を示す。なお、前記実施形態と同一部材は同一符号を付して、それぞれの部材の説明は省略する。
【0055】
図6は、本発明の他の実施形態に係る育成装置の全体を示す斜視図で、図7は、育成装置の一部断面を含む側面図である。
【0056】
本実施形態は、中央支持支柱31、ロープ固定用支柱35、補強用ロープ4および側張ロープ4aを省略した構成のものである。かかる育成装置1においても、周囲支持支柱30および壁網5を設けているため、周囲支持支柱30および壁網5がスペーサ手段として機能を発揮する。このため、上部被覆網2と海底6との間に、空間7を形成することが可能である。
【0057】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、周囲支持支柱30および壁網5は、円形に形成したが、それ以外に多角形等の任意の形状が可能である。
【0058】
また、図1に示す育成装置1の中央支持支柱31は、周囲支持支柱30よりも高く設定したが、それぞれ同等に設定しても、あるいは、中央支持支柱31を周囲支持支柱30よりも低く設定することも可能である。
【0059】
また、周囲支持支柱30により囲まれたエリア内に設ける支持支柱は、一本に限らず、複数本を所定間隔おいて設けることも可能である。しかも、スペーサ手段3は、支持支柱に限られるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 育成装置
2 上部被覆網
3 スペーサ手段(支持支柱)
4 補強用ロープ
4a 側張ロープ
5 壁網
6 海底
7 空間
9 二枚貝(貝類)
30 周囲支持支柱(支持支柱)
31 中央支持支柱(支持支柱)
32、33 連結部材
35 ロープ固定用支柱
60 環状溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9