(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明明細書において、「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」における「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」とは、配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する蛋白質と同じ機能を有する蛋白質であって、配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸の一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が付加または挿入されたもの、またはそれらを組み合わせたアミノ酸配列を有する蛋白質を意味する。ここで、上記アミノ酸の欠失、置換または付加あるいは挿入の位置は特に限定されない。以下、本発明明細書において、「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」を「本発明に係る蛋白質」と呼ぶことがある。
【0011】
ここで、本発明に係る蛋白質として、好ましくは、配列番号1〜4および配列番号6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質であり、より好ましくは、配列番号1〜4で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質であり、さらに好ましくは、配列番号1または2で表わされるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質であり、さらに好ましくは、配列番号1または2で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質である。
【0012】
本発明明細書において、「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質のアンタゴニスト」とは、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を減弱ないし阻害する物質を示す。そのような物質として、例えば、
(i)本発明に係る蛋白質へのリガンド結合を阻害し、本発明に係る蛋白質にアゴニスト活性を有しない物質、
(ii)本発明に係る蛋白質の細胞内領域へのホスファターゼの結合を阻害する物質、
(iii)当該ホスファターゼの活性を阻害する物質、および
(iv)本発明に係る蛋白質の細胞内領域に結合したホスファターゼの活性を阻害する物質などが挙げられる。
【0013】
ここで、「細胞内シグナル」とは、例えば、B細胞受容体(B cell receptor(BCR))もしくはB細胞受容体複合体(BCR、CD79A(EMBO J. 7 (11): 3457-3464 (1988))およびCD79B(Eur.J.Immunol. 22 (6): 1621-1625 (1992)))、活性化Fc受容体(例えば、FcγRI(J. Biol. Chem. 266 (20): 13449-13455 (1991)))、CD14/TLR4複合体(Nature 406: 780-785 (2000))、FcεRI(Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 85: 1907-1911 (1988))などから生じる細胞内シグナルが挙げられる。また、「細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制」としては、例えば、本発明に係る蛋白質の細胞内領域に結合したホスファターゼによる細胞内シグナル伝達を担う分子の脱リン酸化が挙げられる。
【0014】
ここで、「本発明に係る蛋白質へのリガンド結合を阻害し、本発明に係る蛋白質にアゴニスト活性を有しない物質」としては、例えば、蛋白質、ポリペプチドもしくはペプチド、抗体、非ペプチド性化合物、有機合成化合物または天然物(例えば、発酵生産物、細胞抽出物、植物抽出物、および動物組織抽出物など)などが挙げられる。
そのような物質として好ましくは、蛋白質、ポリペプチドまたは抗体であり、具体的には、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質もしくはポリペプチドおよびそれらに対する抗体などが挙げられる。
【0015】
「本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質もしくはポリペプチド」とは、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含み、いわゆる、細胞膜貫通領域および細胞内領域を含まない蛋白質またはポリペプチドである。具体的には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域から任意に選択される領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域から任意に選択される領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜137の領域から任意に選択される領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜42の領域から任意に選択される領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域を含み、細胞膜貫通領域および細胞内領域を含まない蛋白質またはポリペプチドである。ここで、「細胞膜貫通領域」とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸228〜250の領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸228〜250の領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸133〜155の領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸138〜160の領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸43〜65の領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸133〜155の領域であり、「細胞内領域」とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸251〜343の領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸251〜343の領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜248の領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸161〜253の領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸66〜158の領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜176の領域である。
【0016】
本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドには、他の蛋白質またはポリペプチドと融合されたものも含まれる。例えば、蛋白質またはポリペプチドの可溶化のために、免疫グロブリンのFcドメインと融合されたものなどが挙げられ、それらは公知の方法により製造することができる。
「本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチド」における「任意の領域」とは、本発明に係る蛋白質に対してアンタゴニスト活性を有するものであれば、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中のいずれの領域ものであってもよい。
【0017】
それら蛋白質またはポリペプチドには、例えば、そのアンタゴニスト活性の維持ないし向上、蛋白質またはポリペプチドの安定化もしくは抗原性の低減のために、その蛋白質またはポリペプチドの一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が付加または挿入されたもの、およびそれらを組み合わせたアミノ酸配列を有するものをも含む。
本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドは、公知のタンパク質発現法および精製法あるいは実施例に記載の方法によって調製することができる。
【0018】
「本発明に係る蛋白質のリガンド結合」における「リガンド」とは、本発明に係る蛋白質の細胞外領域に結合し、本発明に係る蛋白質の機能を誘導する活性を有する生体内物質である。そのようなリガンドとして好ましくはタンパク質である。ここで、「本発明に係る蛋白質の細胞外領域」とは、いわゆる、イムノグロブリンあるいはイムノグロブリン様ドメインといわれるドメインを含む領域であって、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜137の領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜42の領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域である。
「本発明に係る蛋白質にアゴニスト活性を有しない」とは、本発明に係る蛋白質の機能を刺激する活性を持たないことを意味する。
【0019】
「本発明に係る蛋白質の細胞内領域」とは、具体的には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸251〜343の領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸251〜343の領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜248の領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸161〜253の領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸66〜158の領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜176の領域である。本発明に係る蛋白質の細胞内領域には、いわゆる、ITIM(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)様ドメインが存在し、具体的には、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸311〜316および/または336〜341、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸311〜316および/または336〜341、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸216〜221および/または241〜246、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸221〜226および/または246〜251、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸126〜131および/または151〜156または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸169〜174に存在する。
【0020】
「本発明に係る蛋白質の細胞内領域へのホスファターゼの結合を阻害する物質」、「そのホスファターゼの活性を阻害する物質」、または「本発明に係る蛋白質の細胞内領域に結合したホスファターゼの活性を阻害する物質」における「ホスファターゼ」としては、例えば、SHP−1(Nature 352 (6337): 736-739 (1991))、SHP−2 (Proc. Nat. Acad. Sci. 90: 2197-2201 (1993))、SHIP−1 (Proc. Nat. Acad. Sci. 93: 1689-1693 (1996))、SHIP−2(Biochem Biophys Res Commun. 239(3):697-700 (1997))と呼ばれるホスファターゼなどが挙げられる。
【0021】
「本発明に係る蛋白質の細胞内領域へのホスファターゼの結合を阻害する物質」における「細胞内領域へのホスファターゼの結合」とは、ITIM様ドメインにホスファターゼが結合することであり、その結合にはITIM様ドメインに含まれるチロシン残基がリン酸化されることを必要とする。そのようなチロシン残基は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸313番目および338番目のチロシン残基、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸313番目および338番目のチロシン残基、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸218番目および243番目のチロシン残基、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸223番目および248番目のチロシン残基、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸128番目および153番目のチロシン残基または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸171番目のチロシン残基である。
【0022】
「当該ホスファターゼの活性を阻害する物質」または「本発明に係る蛋白質の細胞内領域に結合したホスファターゼの活性を阻害する物質」におけるホスファターゼにより脱リン酸化される標的として、例えば、細胞内シグナル伝達分子であるキナーゼ、イノシトールリン酸などが挙げられる。そのようなキナーゼとしては、例えば、セリン/スレオニンキナーゼ(例えば、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、Ca
2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ、MAPキナーゼおよびMos/Rafキナーゼなど)およびチロシンキナーゼ(例えば、受容体型チロシンキナーゼおよび非受容体型チロシンキナーゼなど)などが挙げられる。イノシトールリン酸としては、例えば、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−三りん酸(Phosphatidylinositol-3,4,5-trisphosphate)などが挙げられる。
【0023】
当該ホスファターゼの標的であるキナーゼとしては、例えば、ERK2(Biochem. Biophys. Res. Commun. 182: 1416-1422 (1992))、BTK(Nature 361 (6409), 226-233 (1993))およびSYK(J. Biol. Chem. 266: 15790-15796 (1991))、JAK1(Molec. Cell. Biol. 11: 2057-2065 (1991))、JAK2(Biochem. Biophys. Res. Commun. 246: 627-633 (1998))、JAK3(Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 6374-6378 (1994))、ZAP70(Cell 71: 649-662 (1992))、BLNK(Immunity 9: 93-103 (1998))、FYN(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83 (15): 5459-5463 (1986))、LCK(Biochim. Biophys. Acta 888 (3): 286-295 (1986))などが挙げられ、より好ましくはERK2である。
【0024】
「本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドに対する抗体」とは、本発明に係る蛋白質へのリガンド結合を阻害し、本発明に係る蛋白質にアゴニスト活性を有しない抗体であれば、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ニワトリ由来抗体、ウサギ由来抗体またはヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、完全型もしくは短縮型(例えば、F(ab')
2、Fab'、FabおよびFv断片など)抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。そのような抗体は、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドを抗原として、公知の抗体または抗血清の製造法あるいは実施例に記載の方法に従って製造することができる。本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドは、公知のタンパク質発現および精製法あるいは実施例に記載の方法によって調製することができる。
【0025】
以上のような、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を減弱ないし阻害する物質は、癌、免疫不全症もしくは感染症の予防および/または治療薬として有用である。
【0026】
本発明明細書において、「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質のアゴニスト」とは、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する物質を示す。そのような物質として、例えば、
(i)本発明に係る蛋白質とその蛋白質が発現する細胞に発現する受容体を架橋する物質、
(ii)本発明に係る蛋白質に対するアゴニスト抗体および
(iii)本発明に係る蛋白質に対するリガンドなどが挙げられる。
ここで、「細胞内シグナル」とは、例えば、B細胞受容体もしくはB細胞受容体複合体、活性化Fc受容体、CD14/TLR4複合体、FcεRIなどから生じる細胞内シグナルが挙げられる。また、「細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する」こととしては、例えば、本発明に係る蛋白質の細胞内領域に結合したホスファターゼによる細胞内シグナル伝達を担う分子の脱リン酸化状態の持続あるいは頻度の増加などが挙げられる。
【0027】
ここで、「本発明に係る蛋白質とその蛋白質が発現する細胞に発現する受容体を架橋する物質」における「受容体」としては、例えば、B細胞受容体もしくはB細胞受容体複合体、活性化Fc受容体、CD14/TLR4複合体、FcεRIなどが挙げられる。
細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する物質としての「本発明に係る蛋白質とその蛋白質が発現する細胞に発現する受容体を架橋する物質」としては、例えば、蛋白質、ポリペプチドおよび抗体などが挙げられる。そのような物質として好ましくは、本発明に係る蛋白質とその蛋白質が発現する細胞に発現する受容体をともに認識する抗体が挙げられる。
【0028】
細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する物質としての「本発明に係る蛋白質に対するアゴニスト抗体」とは、本発明に係る蛋白質を活性化させる抗体であれば、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ニワトリ由来抗体、ウサギ由来抗体またはヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、完全型もしくは短縮型(例えば、F(ab')
2、Fab'、FabおよびFv断片など)抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。そのような抗体は、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドを抗原として、公知の抗体または抗血清の製造法あるいは実施例に記載の方法に従って製造することができる。本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドは、公知のタンパク質発現ならびに精製法によって調製することができる。
【0029】
細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する物質としての「本発明に係る蛋白質に対するリガンド」とは、本発明に係る蛋白質の細胞外領域に結合し、本発明に係る蛋白質の機能を誘導する活性を有する生体内物質であり、そのような物質が蛋白質である場合には、その部分ペプチドを有するポリペプチドをも含む。
以上のように、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質による抑制を保持ないし増強する物質は、自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患または炎症性疾患の予防および/または治療薬として有用である。
【0030】
[本発明のスクリーニング方法]
本発明明細書において、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストをスクリーニングする方法(以下、本発明のスクリーニング方法と呼ぶこともある。)としては、例えば、蛍光偏光ホモジニアスアッセイ、時間分解蛍光アッセイ、蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ、化学増幅型ルミネッセンス プロキシミティーホモジニアスアッセイ、RIアッセイ、バイオルミネッセンス共鳴エネルギー転移アッセイ、Two−ハイブリッドレポータージーンアッセイ、細胞内Ca
2+濃度測定アッセイ、ELISAアッセイなどを用いて実施することができる。
【0031】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストをスクリーニングする方法における「本発明に係る蛋白質の細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチド」とは、配列番号1で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域から任意に選択される領域、配列番号2で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜227の領域から任意に選択される領域、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜137の領域から任意に選択される領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜42の領域から任意に選択される領域また配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域を含むポリペプチドである。ここで、「任意に選択される領域」とは、本発明に係る蛋白質のリガンドに対する結合活性を維持するのに必要とされる領域を意味する。
【0032】
「本発明に係る蛋白質の細胞内領域を含む蛋白質またはポリペプチド」とは、上記ITIM様ドメインの領域を含む蛋白質またはポリペプチドである。ここで、ITIM様ドメインに含まれるチロシン残基はリン酸化されていてもよい。
これらポリペプチドには、任意に、酵素、蛍光物質、蛍光蛋白質、発光物質または放射性同位元素などの検出ラベルが付加されたものが使用できる。これら検出ラベルの付加は、本発明に係る蛋白質の細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチドとリガンドの結合の後あるいは前に、これらを認識する物質あるいは抗体を介して付加されてもよい。具体的には、本発明に係る蛋白質の細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチドあるいはリガンドをビオチン標識し、一方にアビジン標識された上記検出ラベルを添加することによって付加することができる。本発明に係る蛋白質の細胞内領域を含む蛋白質またはポリペプチドとホスファターゼの結合においても同様である。
【0033】
検出ラベルとしての酵素としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。検出ラベルとしての蛍光物質としては、例えば、FITC(Fluorescein isothiocianate)、PI(propidium iodide)、Cy−Chrome、APC(Allophycocyanin)、R−PE(R-phycoerythrin)、蛍光ランタニドキレート(例えば、ユーロピウム、サマリウム、テルビウム、ディスプロシウムなど)などが挙げられる。検出ラベルとしての蛍光蛋白質としては、例えば、GFP(Green Fluorescent Protein)、AmCyan、ZsGreen、ZsYellow、AsRed、RCFP(Reef Coral Fluorescent Protein)、DsRed、AcGFP1、HcRed1、CopGFP、PhiYFP、PhiYFP−m、EYFP、KFP−Redなど挙げられる。検出ラベルとしての放射性同位元素としては、例えば、〔
32P〕、〔
3H〕、〔
125I〕、〔
35S〕および〔
14C〕が挙げられる。検出ラベルとしての発光物質としては、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。
【0034】
本発明明細書において、本発明のスクリーニング方法の「それらの細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチドとリガンドを接触させる工程」における「リガンド」とは、本発明に係る蛋白質の細胞外領域に結合し、本発明に係る蛋白質の機能を誘導する活性を有する生体内物質である。そのようなリガンドとして好ましくは蛋白質である。
「本発明に係る蛋白質の細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチドとリガンドの結合によって変動するシグナル」あるいは「本発明に係る蛋白質の細胞内領域を含む蛋白質またはポリペプチドとホスファターゼの結合によって変動するシグナル」とは、上記検出ラベルとしての蛍光物質または蛍光蛋白質より発せられる蛍光、あるいは放射性同位元素からの放射線などが挙げられる。また、上記検出ラベルとしての酵素と発色基質との反応による発色も挙げられる。上記酵素、蛍光物質、蛍光蛋白質、発光物質、放射性同位元素および発色基質は、市販のものを使用することができる。
【0035】
「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質を発現する細胞」とは、本発明に係る蛋白質を発現する細胞であればよいが、好ましくは、本発明に係る蛋白質を発現する発現ベクターによって、一過的ないし定常的に形質転換された細胞である。そのような発現ベクターとしては、一般に市販されているものを用いることができる。また、形質転換される細胞として、サルCOS−1細胞、COS−7細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、ヒトHEK293T細胞、U937細胞、Jurkat細胞、Hela細胞、Daudi細胞、K562細胞、マウスL細胞などが挙げられる。
【0036】
「リガンドを発現する細胞」とは、リガンドを発現する細胞であればいずれの細胞であってもよいが、好ましくは、リガンドを発現する発現ベクターによって、一過的ないし定常的に形質転換された細胞である。そのような発現ベクターとしては、一般に市販されているものを用いることができ、形質転換される細胞としては、前記した細胞が挙げられる。
「配列番号1〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質を発現する細胞とリガンドを発現する細胞もしくはリガンドの接触によって変動するシグナル」としては、例えば、それら細胞の細胞内cAMP濃度、細胞内Ca
2+濃度、IP
3濃度、細胞内シグナル伝達分子(例えば、Erk2など)のリン酸化あるいは脱リン酸化、本発明に係る蛋白質へのホスファターゼの結合、産生サイトカイン(例えば、インターロイキン2(IL−2)など)量などに対応するシグナル(例えば、発色、蛍光、発光、放射線など)などが挙げられる。
【0037】
本発明のスクリーニング方法として、具体的には、以下の方法により行うことができる。すなわち、本発明に係る蛋白質と共発現する活性化受容体(例えば、BCR)に対する抗体、本発明に係る蛋白質に対する抗体または本発明に係る蛋白質のリガンドをアガロースビーズなどの担体あるいは培養プレートに一緒に固定する。本発明に係る蛋白質を発現している細胞(BIR1強制発現細胞、BCRとBIR1が共発現しているB細胞株、B細胞、単球、末梢血単核球など)を上記固定化担体あるいはプレートに添加して刺激する際に、被験化合物(低分子化合物、ペプチド、可溶化蛋白質、抗体など)を同時に添加する。一定時間培養後、培養上清中に分泌されるインターロイキン2(IL−2)量、細胞内Ca
2+濃度、本発明に係る蛋白質の細胞内チロシン残基のリン酸化、本発明に係る蛋白質へのホスファターゼの結合、またはErk2などの細胞内シグナル伝達分子のリン酸化を指標に、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストをスクリーニングすることができる。
【0038】
また、本発明に係る蛋白質のITIM様ドメインの領域を含むリン酸化ペプチドをビオチン化し、抗ビオチン抗体を固定したアガロースビーズなどの担体あるいは培養プレートに結合させ、被験化合物(例えば、低分子化合物、ペプチド、可溶化蛋白質、抗体など)とA20IIA1.6細胞の溶解液を添加し、一定時間保温する。SHP−1、SHP−2、SHIP−1またはSHIP−2に対する一次抗体を反応させた後、二次抗体を用いてリン酸化ペプチドに結合したホスファターゼ量を測定する。結合ホスファターゼ量を減少させる化合物を、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストとしてスクリーニングすることができる。
【0039】
本発明に係る蛋白質の発現量を減少または増加させる化合物をスクリーニングする方法として、例えば、以下の方法により行うことができる。すなわち、細胞(例えば、BIR1強制発現細胞、ヒト単球細胞株THP−1細胞、U937細胞、ヒト末梢血から単離したCD14陽性細胞(単球)、CD19陽性細胞(B細胞)など)を培養プレートに撒き、炎症刺激剤(例えば、リポポリサッカライド(LPS)、フォルボールミリステートアセテート(PMA)、インターフェロンガンマ(IFN−r)、TNF−αなど)の存在下あるいは非存在下で被験化合物(例えば、低分子化合物、ペプチド、可溶化蛋白質、抗体など)と共に一定時間培養する。細胞からRNAを抽出し、本発明に係る蛋白質に特異的なプライマーを用いて定量的RT−PCRによりRNAレベルでの発現量を測定する。あるいは、培養後の細胞に抗ヒトBIR1モノクローナル抗体を添加し、次にFITC標識した二次抗体を添加し、細胞表面に発現しているBIR1をフローサイトメーターにより定量する。あるいは、培養後に細胞溶解液を調製し、本発明に係る蛋白質に対する抗体を用いてウェスタンブロッティングにより蛋白質レベルでの発現量を測定する。
【0040】
さらに、以下の方法によっても行うことができる。具体的には、BIR1遺伝子の発現制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、CAATボックス、TATAボックスなど)、5’非翻訳領域、翻訳開始部位近傍領域を含むDNAとレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、β―ガラクトシダーゼ遺伝子など)を連結した組み換えベクターを作製し、適当な細胞に導入する。被験化合物の存在下および非存在下で、BIR1遺伝子が転写される環境のもとで該細胞を培養し、該レポーター遺伝子の発現量を測定することによって被験化合物の転写促進活性または転写抑制活性を確認する。BIR1遺伝子の発現制御領域、5’非翻訳領域および翻訳開始部位近傍領域は公知の方法により取得可能である。
【0041】
[本発明の蛋白質]
本発明明細書において、「配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくはその部分ペプチド」における「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」とは、配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列を有する蛋白質の機能と同じ機能を有する蛋白質であって、その配列番号3〜6から選択されるアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が付加または挿入されたもの、およびそれらを組み合わせたアミノ酸配列を有するものも含まれる。ここで、上記アミノ酸の欠失、置換または付加あるいは挿入の位置は特に限定されない。以下、「配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」を「本発明の蛋白質」と呼ぶこともある。
【0042】
さらに、本発明の蛋白質には、少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは全領域において、配列番号3〜6から選択されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列が含まれる。
【0043】
本発明明細書における蛋白質は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である
本発明の蛋白質には、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここで、エステルにおけるRとしては、例えば、C1〜6アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなど)、C3〜8シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなど)、C6〜12アリール基(例えば、フェニル、α−ナフチルなど)、フェニル−C1〜2アルキル基(例えば、ベンジル、フェネチルなど)、α−ナフチル−C1〜2アルキル基(例えば、α−ナフチルメチルなど)、C7〜14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0044】
本発明の蛋白質がC末端以外にカルボキシル基を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば、上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明の蛋白質には、N末端のアミノ酸残基(例えば、メチオニン残基など)のアミノ基が保護基(例えば、C1〜6アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基など)など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、C1〜6アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基など)など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合した糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
【0045】
本発明の蛋白質として好ましくは、配列番号3で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質、または配列番号6で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質であり、より好ましくは配列番号3で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号5で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質、または配列番号6で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
【0046】
本発明明細書において、「配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチド」における「部分ペプチド」(以下、本発明の部分ペプチドと呼ぶこともある。)としては、例えば、本発明の蛋白質の細胞外領域中の任意の領域(例えば、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜137の領域から任意に選択される領域、配列番号5で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜42の領域から任意に選択される領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸1〜132の領域から任意に選択される領域を含むポリペプチド)および、本発明の蛋白質の細胞内領域中の任意の領域(例えば、配列番号3で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜248の領域から任意に選択される領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸161〜253の領域から任意に選択される領域、配列番号4で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸66〜158の領域から任意に選択される領域または配列番号6で表わされるアミノ酸配列のアミノ酸156〜176の領域から任意に選択される領域など)などが挙げられる。ここで、「任意に選択される領域」とは、例えば、本発明の蛋白質のアミノ酸配列のうち少なくとも10個以上、好ましくは20個以上、より好ましくは50個以上、最も好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有する領域などが挙げられる。
【0047】
また、本発明の部分ペプチドには、そのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜2個)が付加または挿入されたもの、およびそれらを組み合わせたアミノ酸配列を有するものも含まれる。上記のようにアミノ酸配列が欠失、置換、付加または挿入されている場合、その位置は特に限定されない。
本発明の部分ペプチドは、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここで、エステルにおけるRとしては、本発明の蛋白質について前記したと同様のものが挙げられる。本発明の部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば、上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0048】
本発明の部分ペプチドには、上記した本発明の蛋白質と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合した糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
【0049】
本発明の蛋白質またはその部分ペプチドの塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、酸付加塩として、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられ、塩基付加塩として、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化マンガン)との塩が用いられる。とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。
【0050】
本発明の蛋白質の部分ペプチドは、本発明に係る蛋白質へのリガンド結合を阻害する物質として、癌、免疫不全症もしくは感染症の予防および/または治療薬あるいは診断用および/または検査用試薬として有用である。さらに、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストのスクリーニングに用いることができる。また、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドは抗原として用いることにより、本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体の作製にも使用できる。
【0051】
[本発明のポリヌクレオチド]
本発明明細書において、「配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド」としては、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードする塩基配列を有するものであればいかなるものであってもよい。一つのアミノ酸をコードするコドンは1〜6種類知られており、例えば、PheにはTTTまたはTTC、LeuにはTTA、TTG、CTT、CTC、CTAまたはCTG、IleにはATT、ATCまたはATA、MetにはATG、ValにはGTT、GTC、GTAまたはGTG、SerにはTCT、TCC、TCAまたはTCG、ProにはCCT、CCC、CCAまたはCCG、ThrにはACT、ACC、ACAまたはACG、AlaにはGCT、GCC、GCAまたはGCG、TyrにはTATまたはTAC、HisにはCATまたはCAC、GlnにはCAAまたはCAG、AsnにはAATまたはAAC、LysにはAAAまたはAAG、AspにはGATまたはGAC、GluにはGAAまたはGAG、CysにはTGTまたはTGC、TrpにはTGG、ArgにはCGT、CGC、CGAまたはCGG、SerにはAGTまたはAGC、ArgにはAGAまたはAGG、およびGlyにはGGT、GGC、GGAまたはGGGがそれぞれ対応しているので、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドには、各アミノ酸に対応する各コドンが任意に組み合わされたポリヌクレオチドが含まれる。以下、配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを「本発明のポリヌクレオチド」と呼ぶこともある。
本発明のポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNA、DNA−RNAハイブリッドのいずれでもよい。
【0052】
本発明明細書において、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号9〜12で表わされる塩基配列から選択される一つの塩基配列を有するDNA以外に、該DNAの相補鎖DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明の蛋白質と実質的に同じ性質を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドも含まれる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法(Molecular Cloning (Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T., Cold Spring Harbor Laboratory Press) (1989)、Gene 10: 63 (1980)など)に従って行うことができる。ハイブリダイゼーション条件は温度、イオン強度、プライマー長などを適宜選択することによって決定できるが、通常、温度が高いほど、またイオン強度が低いほどストリンジェンシーが高まる。高ストリンジェントな条件としては、例えば、0.5M NaHPO
4,7%SDS,1mM EDTAを含む緩衝液による65℃でのハイブリダイゼーション、および0.1XSSC,0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。
【0053】
そのようなポリヌクレオチドとしては、少なくとも20塩基、好ましくは50塩基、より好ましくは100塩基、さらに好ましくは全領域において、配列番号9〜12で表わされる塩基配列から選択される一つの塩基配列を有するDNAと、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNAなどが挙げられる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドのうち、配列番号3で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号9で表わされる塩基配列を有するDNAまたはその部分配列を有するDNAであり、より好ましくは、配列番号9で表わされる塩基配列を有するDNAであり、さらに好ましくは配列番号9で表わされる塩基配列からなるDNAである。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドのうち、配列番号4で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号10で表わされる塩基配列を有するDNAまたはその部分配列を有するDNAであり、より好ましくは、配列番号10で表わされる塩基配列を有するDNAであり、さらに好ましくは配列番号10で表わされる塩基配列からなるDNAである。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドのうち、配列番号5で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号11で表わされる塩基配列を有するDNAまたはその部分配列を有するDNAであり、より好ましくは、配列番号11で表わされる塩基配列を有するDNAであり、さらに好ましくは配列番号11で表わされる塩基配列からなるDNAである。
【0057】
本発明のポリヌクレオチドのうち、配列番号6で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとして好ましくは、配列番号12で表わされる塩基配列を有するDNAまたはその部分配列を有するDNAであり、より好ましくは、配列番号12で表わされる塩基配列を有するDNAであり、さらに好ましくは配列番号12で表わされる塩基配列からなるDNAである。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドを生産するための鋳型として使用することができる。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のスクリーニングにも使用できる。
本発明のポリヌクレオチドは、公知の方法に従って、トランスジェニック動物、ノックアウト動物または本発明の蛋白質もしくは本発明に係る蛋白質の発現が低下した動物を作製するために使用することができる。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドは、例えば、プライマーあるいはプローブとして使用することにより、本発明の蛋白質のmRNAを検出することができるので、免疫不全症、癌もしくは感染症あるいは自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患もしくは炎症性疾患の診断用および/または検査用のプライマーあるいはプローブとして用いることができる。このようなプライマーあるいはプローブは、それらを公知の方法に従い、酵素、蛍光物質、発光物質あるいは放射性同位元素などで標識することができる。
【0060】
本発明のポリヌクレオチドあるいは本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを生体内の細胞に導入し、癌、免疫不全症もしくは感染症あるいは自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患もしくは炎症性疾患を予防および/または治療するための遺伝子治療にも使用できる。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドには、いわゆる、アンチセンスDNA、siRNA(small interfering RNA)、リボザイムなどが含まれる。
本発明のポリヌクレオチドに対するアンチセンスDNAは、本発明のポリヌクレオチドの一部(好ましくはDNA)を上記のようなベクターのアンチセンス領域に挿入することにより製造することができる。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドに対するsiRNAは、本発明の蛋白質をコードするRNAの一部とそれに相補的なRNAを含有する二重鎖RNAである。siRNAは、公知の方法(Nature 411: 494-498 (2001))に準じて、本発明のポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。
【0063】
リボザイムは、公知の方法(TRENDS in Molecular Medicine 7: 221 (2001))に準じて、本発明のポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。例えば、本発明の蛋白質をコードするRNAの一部に公知のリボザイムを連結することによって製造することができる。本発明の蛋白質をコードするRNAの一部としては、公知のリボザイムによって切断され得る部位に近接した部分(RNA断片)が挙げられる。このようなアンチセンスDNA、siRNAあるいはリボザイムは、細胞中の本発明の蛋白質のレベルを下げることができるので、癌、免疫不全症もしくは感染症の予防および/または治療薬として有用である。
【0064】
本発明のポリヌクレオチドあるいは本発明のポリヌクレオチドと相補的な塩基配列またはその一部を有するポリヌクレオチドを、癌、免疫不全症もしくは感染症あるいは自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患もしくは炎症性疾患の予防および/または治療薬として使用する場合は、そのポリヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、定法に従って、ヒトや哺乳動物に投与することができる。そのようなポリヌクレオチドは、そのままであるいは細胞への導入を促進するための補助剤(例えば、リポソーム、HVJリポソームなど)などの担体とともに製剤化して用いることができる。
【0065】
本発明明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、当該分野における慣用略号に基づくものであり、例えば、DNA(デオキシリボ核酸)、cDNA(相補的デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)、Gly(グリシン)、Ala(アラニン)、Val(バリン)、Leu(ロイシン)、Ile(イソロイシン)、Ser(セリン)、Thr(スレオニン)、Cys(システイン)、Met(メチオニン)、Glu(グルタミン酸)、Asp(アスパラギン酸)、Lys(リジン)、Arg(アルギニン)、His(ヒスチジン)、Phe(フェニルアラニン)、Tyr(チロシン)、Trp(トリプトファン)、Pro(プロリン)、Asn(アスパラギン)、Gln(グルタミン)などが挙げられる。また、アミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0066】
[本発明の蛋白質に対する抗体]
本発明明細書において、配列番号3〜6で表わされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドに対する抗体(以下、本発明の抗体と呼ぶことがある。)とは、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドを認識する抗体であれば、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ニワトリ由来抗体、ウサギ由来抗体またはヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、完全型もしくは短縮型(例えば、F(ab')
2、Fab'、FabおよびFv断片など)抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。そのような抗体は、本発明の蛋白質の細胞外領域の部分ペプチドを抗原として、公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。細胞外領域の部分ペプチドは、公知のタンパク質発現ならびに精製法によって調製することができる。
【0067】
本発明の抗体として好ましくはモノクローナル抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体の短縮型抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体および完全ヒト型抗体であり、さらに好ましくはモノクローナル抗体の完全ヒト型抗体である。
本発明の蛋白質またはその部分ペプチドに対する抗体は、本発明の蛋白質を検出することができるので、免疫不全症、癌もしくは感染症あるいは自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患もしくは炎症性疾患の診断用および/または検査用試薬として用いることができる。
【0068】
[蛋白質またはポリペプチドの製造および精製方法]
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストとして挙げられる当該蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質もしくはポリペプチド、本発明のスクリーニング方法において使用される本発明に係る蛋白質の細胞外領域を含む蛋白質またはポリペプチドもしくはその細胞内領域を含む蛋白質またはポリペプチドならびに本発明の蛋白質もしくはその部分ペプチドは、公知のタンパク質発現法および精製法あるいは実施例に記載の方法によって製造することができる。例えば、
(1)生体または培養細胞から精製単離する方法、
(2)ペプチドを合成する方法、および
(3)遺伝子組み換え技術を用いて生産する方法などが挙げられる。
【0069】
工業的には(3)に記載した方法が好ましいが、そのための一般的な技術として、例えばMolecular Cloning (Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T., Cold Spring Harbor Laboratory Press) (1989)、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel,F.M., John Wiley & Sons,Inc. (1989))に記載されるような標準技術を使用できる。
【0070】
遺伝子組み換え技術を用いて蛋白質またはペプチドを生産するための発現系(宿主−ベクター系)としては、例えば、細菌、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞の発現系が挙げられる。
例えば、大腸菌で発現させる場合には、成熟蛋白部分をコードするDNAの5’末端に開始コドン(ATG)を付加し、得られたcDNAを、適当なプロモーター(例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、T7プロモーターなど)の下流に接続し、大腸菌内で機能するベクター(例えば、pBR322、pUC18、pUC19など)に挿入して発現ベクターを作製する。次に、この発現ベクターで形質転換した大腸菌(例えば、E.Coli DH1、E.Coli JM109、E.Coli HB101株など)を適当な培地で培養して、その菌体より目的とする蛋白質またはペプチドを得ることができる。また、バクテリアのシグナルペプチド(例えば、pelBのシグナルペプチドなど)を利用すれば、ペリプラズム中に目的とする蛋白質またはペプチドを分泌することもできる。さらに、他のポリペプチドとの融合蛋白質を生産することもできる。
【0071】
また、酵母で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なプロモーター(例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなど)の下流に接続し、酵母で機能するベクター(例えば、pSH19、pSH15など)に挿入して発現ベクターを作製する。次に、この発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエAH22、AH22R
-、20B−12、シゾサッカロミセス・ポンベNCYC1913、ピッキア・パストリスKM71など)を適当な培地で培養して、目的とする蛋白質またはペプチドを得ることができる。
【0072】
また、昆虫細胞で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなど)の下流に接続し、昆虫細胞で機能するウイルスベクターに挿入して発現ベクターを作製する。昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Sf細胞)が用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(BmN細胞)などが用いられる。Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(In Vivo 13: 213-217 (1977))が用いられる。昆虫としては、カイコの幼虫などが用いられる。昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、Bio/Technology 6: 47-55 (1988)に記載の方法に従って行うことができる。
【0073】
また、哺乳動物細胞で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なベクター(例えば、レトロウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、SV40系ベクターなど)中の適当なプロモーター(例えば、SV40プロモーター、LTRプロモーター、メタロチオネインプロモーターなど)の下流に挿入して発現ベクターを作製する。次に、得られた発現ベクターで適当な哺乳動物細胞(例えば、ヒトHEK293T細胞、サルCOS−1細胞、COS−7細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、マウスL細胞、NS0細胞など)を形質転換し、形質転換体を適当な培地で培養することによって、本発明の蛋白質または部分ペプチドが発現される。さらに、その他のポリペプチド、例えば、抗体の定常領域(Fc部分)をコードするcDNA断片と連結することによって、融合蛋白質を生産することもできる。
【0074】
また、遺伝子組み換え技術を用いて蛋白質またはペプチドを生産する方法として、無細胞合成系(Sambrook J., Molecular Cloning 2ed. (1989))も利用可能である。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の蛋白質を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする蛋白質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、公知の方法、例えば、
(i)M. Bodanszky, M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)、
(ii)Schroeder, Luebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965)、
(iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)(1975)、
(iv)矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、蛋白質の化学IV,205,(1977)、
(v)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻,ペプチド合成,広川書店に記載された方法に従って行われる。
【0075】
以上のようにして得られた蛋白質または部分ペプチドは、一般的な生化学的方法、例えば、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、等電点沈殿、ゲル濾過、限外濾過などによって単離精製することができる。
また、本発明の蛋白質または部分ペプチドを他の蛋白質あるいはタグ(抗体の定常領域、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインA、FLAGタグ、ヘキサヒスチジンタグなど)との融合蛋白質として発現させることも可能である。融合蛋白質は、アフィニティークロマトグラフィーによる精製および/あるいは適当なプロテアーゼ(例えば。エンテロカイネース、トロンビンなど)による切り出しが可能であり、効率よく精製できる利点がある。
【0076】
[ポリヌクレオチドの取得または製造方法]
本発明に係る蛋白質をコードするポリヌクレオチドおよび本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、公知の取得ないし製造方法および精製法あるいは実施例に記載の方法によって取得ないし製造することができる。例えば、化学合成によって、または本発明の蛋白質または部分ペプチドの一部をコードする合成DNAプライマーを用いてPCR法により増幅することによって、あるいは本発明の蛋白質または部分ペプチドの一部をコードする合成DNAをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって得ることができる。
【0077】
本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドをPCR法あるいはハイブリダイゼーション法によって取得するために使用するヒト組織あるいは細胞としては、脾臓、リンパ節、骨髄、白血球、単球、B細胞などが挙げられる。標準的な遺伝子組み換え技術により上記組織あるいは細胞からmRNAを取り出しcDNAライブラリーを作製する。配列番号7〜12で表わされる塩基配列から選択される一つの塩基配列に基づき合成した特異的プローブを用いて該ライブラリーをスクリーニングし目的のcDNAを得ることができる。あるいは、配列番号7〜12で表わされる塩基配列から選択される塩基配列に基づいて、目的とする塩基配列を増幅するためのセンスおよびアンチセンスプライマーを合成し、該cDNAライブラリーを鋳型にしてPCRを行い、目的のcDNAを増幅することができる。PCRは自動サーマルサイクラーを用いて実施するのがよく、その反応は、耐熱性ポリメラーゼ(例えば、Taqなど)、鋳型DNAおよびプライマーの存在下、DNAの変性(例えば、98℃,10〜30秒)、プライマーのアニーリング(例えば、56℃,30秒〜1分)、および4種類の基質(dNTP)の共存下での伸長反応(例えば、72℃,30秒〜10分)を1サイクルとして約25〜40サイクル実施し、さらに70〜75℃で5〜15分加熱することによって行うことができる。また、最近では、ヒトの種々の組織のcDNAライブラリーが市販されており、これらを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、Molecular Cloning (Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T., Cold Spring Harbor Laboratory Press) (1989)またはGene 10: 63 (1980)に記載の方法に従って行うことができる。このようにして得られたDNAは、該DNAを含有するベクターDNAを適当な宿主に導入し、これを増殖させることによって、必要量得ることができる。
【0078】
[抗体の取得または製造方法]
本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質もしくはポリペプチドに対する抗体または本発明の蛋白質またはその部分ペプチドに対する抗体は、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質もしくはポリペプチドまたは本発明の蛋白質もしくはその部分ペプチドのそれぞれを認識し得る抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるものがある。
【0079】
抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチド、本発明の蛋白質の部分ペプチドまたは本発明に係る蛋白質あるいは本発明の蛋白質を発現している細胞(例えば、強制発現細胞など)を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法に従って免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をクローニングする。感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定はされないが、細胞融合に使用する親細胞(ミエローマ細胞)との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスターなどが使用される。感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法に従って行われる。上記免疫細胞と融合されるミエローマ細胞としては、公知の種々の細胞株が使用可能である。免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は公知の方法、例えば、ミルスタインらの方法(Methods Enzymol. 73: 3-46 (1981))などに準じて行うことができる。得られた融合細胞は、通常の選択培地、例えば、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。このHAT培地での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するまで、通常数日から数週間継続される。次に、通常の限界希釈法を実施し、本発明の蛋白質に結合する抗体を産生しているハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。このようにして得られたハイブリドーマの培養上清を精製することによって抗体を取得することができる。精製は、一般的な生化学的方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0080】
ポリクローナル抗体は、哺乳動物(例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジなど)に、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドあるいは本発明の蛋白質または部分ペプチドを感作抗原として免疫し、抗血清を回収し、精製する、通常の方法により製造することができる。精製は、一般的な生化学的方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0081】
また、遺伝子工学的手法を用いても抗体を得ることができる。すなわち、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチド、本発明の蛋白質の部分ペプチド、または本発明に係る蛋白質あるいは本発明の蛋白質を発現している細胞(例えば、強制発現細胞など)を感作抗原として免疫した動物の脾細胞、リンパ球、あるいはモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマからmRNAを取得し、これを鋳型としてcDNAライブラリーを作製する。感作抗原と反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングし、得られたクローンを培養し、培養上清から一般的な生化学的方法、例えば塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより目的とする抗体を精製することができる。抗体を医薬として用いるには、免疫原性の低いヒト化抗体あるいはヒト型抗体が好ましい。ヒト化抗体は、上記モノクローナル抗体の超可変領域を用いて遺伝子工学的手法により作製することができる(Method in Enzymology 203: 99-121(199))。ヒト型抗体は、免疫系をヒトのものと入れ替えたマウス(Nat.Genet. 15: 146-156 (1997))を免疫することにより取得できる。
【0082】
本発明に係る蛋白質に対するアンタゴニストであって、本発明に係る蛋白質の細胞外領域中の任意の領域を含む蛋白質またはポリペプチドに対する抗体は、以下の方法により選別することができる。すなわち、本発明に係る蛋白質と共発現する活性化受容体(例えば、BCRなど)に対する抗体または本発明に係る蛋白質のリガンドをアガロースビーズなどの担体あるいは培養プレートに一緒に固定する。本発明に係る蛋白質を発現している細胞(例えば、B細胞、単球、強制発現細胞など)を上記固定化担体あるいはプレートに添加して刺激する際に、被験抗体を同時に添加する。細胞内Ca
2+濃度、本発明に係る蛋白質の細胞内チロシン残基のリン酸化、本発明に係る蛋白質へのホスファターゼの結合、Erk2などのシグナル伝達分子のリン酸化、またはサイトカイン(例えば、IL−2など)産生量を指標に、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質の抑制を、減弱ないし阻害するかどうかを評価する。
【0083】
本発明に係る蛋白質に対するアゴニスト抗体は以下の方法により選別することができる。すなわち、被験抗体をアガロースビーズなどの担体あるいは培養プレートに一緒に固定する。本発明の蛋白質を発現している細胞(例えば、B細胞、単球、強制発現細胞など)を上記固定化担体あるいはプレートに添加し、細胞内Ca
2+濃度、本発明の蛋白質の細胞内チロシン残基のリン酸化、本発明に係る蛋白質へのホスファターゼの結合、Erk2などのシグナル伝達分子のリン酸化、またはサイトカイン(例えば、IL−2など)産生量を指標に、細胞内シグナル伝達に対する本発明に係る蛋白質の抑制を、保持ないし増強するかどうかを評価する。
【0084】
[医薬品への適用]
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物は、免疫賦活活性を有することから、癌、免疫不全症もしくは感染症の予防および/または治療に用いることができる。
【0085】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる癌または腫瘍として、例えば、舌癌、歯肉癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫(メラノーマ)、上顎癌、鼻癌、鼻腔癌、喉頭癌、咽頭癌、神経膠腫、髄膜腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、甲状乳頭腺癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺髄様癌、原発性肺癌、扁平上皮癌、腺癌、肺胞上皮癌、大細胞性未分化癌、小細胞性未分化癌、カルチノイド、睾丸腫瘍、前立腺癌、乳癌(例えば、乳頭腺癌、面疱癌、粘液癌、髄様癌、小葉癌、硬癌肉腫、転移腫瘍)、乳房ペーシジェット病、乳房肉腫、骨腫瘍、甲状腺癌、胃癌、肝癌、急性骨髄性白血病、急性前髄性白血病、急性骨髄性単球白血病、急性単球性白血病、急性リンパ性白血病、急性未分化性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫(例えば、リンパ肉腫、細網肉腫、ホジキン病など)、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、小児性白血病、食道癌、胃癌、胃・大腸平滑筋肉腫、胃・腸悪性リンパ腫、膵・胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、原発性肝癌(例えば、肝細胞癌、胆管細胞癌など)、肝芽腫、子宮上皮内癌、子宮頸部扁平上皮癌、子宮腺癌、子宮腺扁平上皮癌、子宮体部腺類癌、子宮肉腫、子宮癌肉腫、子宮破壊性奇胎、子宮悪性絨毛上皮腫、子宮悪性黒色腫、卵巣癌、中胚葉性混合腫瘍、腎癌、腎盂移行上皮癌、尿管移行上皮癌、膀胱乳頭癌、膀胱移行上皮癌、尿道扁平上皮癌、尿道腺癌、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、滑液膜肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、ユーイング肉腫、皮膚扁平上皮癌、皮膚基底細胞癌、皮膚ボーエン病、皮膚ページェット病、皮膚悪性黒色腫、悪性中皮癌、転移性腺癌、転移性扁平上皮癌、転移性肉腫、中皮腫(例えば、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫など)などが挙げられる。
【0086】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる免疫不全疾患としては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス感染症による後天性免疫不全症候群(AIDS)(例えば、カンジダ食道炎、カリニ肺炎、トキソプラズマ症、結核、マイコバクテリウム‐アビウム複合体感染症、クリプトスポリジウム症、クリプトコッカス髄膜炎、サイトメガロウイルス感染症あるいは進行性多巣性白質脳症などの日和見感染症など)、重症疾患(例えば、癌、再生不良性貧血、白血病、骨髄線維症、腎不全、糖尿病、肝疾患もしくは脾疾患)に伴う免疫不全および原発性免疫不全症候群などが挙げられる。
【0087】
ウイルスは、感染宿主の免疫防御から逃れるための1つの方法として、免疫細胞の共役抑制因子を利用していると考えられている(Journal Experimental Medicine 191, 11: 1987-1997 (2000))。ウイルス感染は、このようなウイルスのエスケープ機能に一部起因しており、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与によって、免疫細胞のウイルスに対する免疫反応を高めることができると考えられる。
【0088】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる感染症としては、例えば、ヒト肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎、C型肝炎、A型肝炎およびE型肝炎)、ヒトレトロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV1およびHIV2)、ヒトT細胞白血病ウイルスまたはヒトTリンパ向性ウイルス(例えば、HTLV1およびHTLV2)、単純ヘルペスウイルス1型もしくは2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、水痘−帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス(例えば、ヒトヘルペスウイルス6など)、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、おたふくウイルス、インフルエンザウイルス、風邪ウイルス(例えば、アデノウイルス、エンテロウイルスおよびライノウイルスなど)、重症急性呼吸器症候群(SARS)を発症するウイルス、エボラウイルスおよび西ナイルウイルスの感染症などが挙げられる。
その他、例えば、病原性原生動物(例えば、トリパノソーマ、マラリアおよびトキソプラズマ)、細菌(例えば、マイコバクテリウム、サルモネラおよびリステリア)および真菌(例えば、カンジダ)による感染などに対しても有効であると考えられる。
【0089】
本発明に係る蛋白質のアゴニストは、免疫抑制活性を有することから、自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患および炎症性疾患から選択される疾患の予防および/または治療に用いることができる。
【0090】
本発明に係る蛋白質のアゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる自己免疫疾患として、例えば、関節炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性糸球体腎炎、自己免疫性膵島炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性卵巣炎、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、クローン病、ベーチェット病、Wegener肉芽腫症、過敏性血管炎、結節性動脈周囲炎、橋本病、粘液水腫、バセドウ病、アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、突発性血小板減少症、悪性貧血、重症筋無力症、脱髄疾患、大動脈炎症群、乾癬、天疱瘡、類天疱瘡、膠原病(例えば、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、汎発性強皮症、全身性進行性硬化症、皮膚筋炎、結節性多発性動脈炎およびリウマチ熱など)、ギラン・バレー症候群、多腺性自己免疫症候群II型、原発性胆汁性肝硬変、尋常性白斑および1型糖尿病などが挙げられる。さらに、ループス抗凝固因子が高値な疾患も挙げられる。ここで、ループス抗凝固因子が高値な疾患としては、例えば、全身性エリテマトーデス、動脈血栓症(例えば、脳梗塞など)、静脈血栓症、習慣性流産、血小板減少症および抗リン脂質抗体症候群などが挙げられる。
【0091】
本発明に係る蛋白質のアゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる臓器移植後の拒絶反応として、例えば、腎移植、肝移植、心移植および/または肺移植後の拒絶反応、骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病などが挙げられる。
本発明に係る蛋白質のアゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できるアレルギー性疾患として、例えば、喘息、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎(例えば、花粉症など)、アレルギー性結膜炎(例えば、花粉症など)、アレルギー性胃腸炎、アナフィラキシーショック、食物アレルギーなどが挙げられる。
【0092】
本発明に係る蛋白質のアゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与により、その予防および/または治療が期待できる炎症性疾患として、例えば、皮膚炎(例えば、接触性皮膚炎およびアトピー性皮膚炎など)、大腸炎(例えば、潰瘍性大腸炎およびクローン病など)、血管炎(例えば、高安動脈炎、巨細胞動脈炎(側頭動脈炎)、結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎)、アレルギー性皮膚血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、過敏性血管炎、血管炎症候群、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)、結節性血管炎など)、関節炎(例えば、リウマチ関節炎、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、結核性関節炎、化膿性関節炎、乾癬性関節炎、膝内症、特発性骨壊死症および骨関節炎など)、肝炎(例えば、ウイルス性肝炎および自己免疫性肝炎など)、腎炎(例えば、急性糸球体腎炎、慢性腎炎、急速進行性腎炎症候群、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、Goodpasture症候群、メサンギウム増殖性糸球体腎炎(IgA腎症)および間質性腎炎など)、胃炎(例えば、急性感染性胃炎およびアレルギー性胃炎、慢性胃炎など)、膵炎、腸炎、喉頭炎、神経炎などが挙げられる。
【0093】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストは、
(1)本発明の予防剤または治療剤の予防および/または治療効果の補完および/または増強、
(2)本発明の予防剤または治療剤の動態、吸収改善、投与量の低減および/または
(3)本発明の予防剤または治療剤の副作用の軽減のために他の薬剤と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
【0094】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストと他の薬剤の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストを先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストを後に投与してもよく、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0095】
前記他の薬剤は、低分子化合物であってもよく、また高分子の蛋白、ポリペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA、遺伝子)、アンチセンス、デコイ、抗体であるか、またはワクチンなどであってもよい。他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストと他の薬剤の配合比は、投与対象の年齢、体重、投与方法、投与時間、対象疾患もしくは症状またはそれらの組み合わせなどにより適宜選択することができる。例えば、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニスト1質量部に対し、他の薬剤を0.01〜100質量部用いればよい。他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストの予防および/または治療効果を補完および/または増強する他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0096】
上記併用剤により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストの予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。
【0097】
癌に対する化学療法および放射線療法は、リンパ球の増殖を激しく減少させるという副作用が不可避である。本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物の投与は、減少したリンパ球細胞を刺激ないし増殖させる効果を示すと共に、通常の化学療法に付随する激烈な副作用を最小限に抑制することができる。また、放射線療法についても同様である。また、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストまたはそれを含んでなる医薬組成物との併用によって、化学療法剤の用量または照射放射線量を通常使用される用量あるいは照射量から減少させることができる。
【0098】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストは、既存の化学療法薬と併用あるいは合剤化することができる。そのような化学療法薬として、例えば、アルキル化剤、ニトロソウレア薬、代謝拮抗薬、抗癌性抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害薬、ホルモン療法薬、ホルモン拮抗薬、アロマターゼ阻害薬、P糖蛋白阻害薬、白金錯体誘導体、その他免疫療法薬およびその他の抗癌薬が挙げられる。さらに、癌治療補助薬である白血球(好中球)減少症治療薬、血小板減少症治療薬、制吐薬、癌性疼痛治療薬と併用あるいは合剤化できる。
【0099】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストは、その他の免疫賦活物質と併用あるいは合剤化することができる。そのような免疫賦活物質としては、例えば、各種サイトカインや腫瘍抗原などが挙げられる。免疫反応を刺激するサイトカインとしては、例えば、GM−CSF、M−CSF、G−CSF、インターフェロン−α、β、γ、IL−1、IL−2、IL−3およびIL−12などが挙げられる。また、B7リガンド誘導体、CD3抗体、CD28抗体、CTLA−4抗体も免疫反応を高めることができる。
【0100】
癌抗原の投与も、癌細胞に対する免疫担当細胞の特異的免疫反応を高めることができ、本発明に係る蛋白質のアンタゴニストとの併用によって、付加的あるいは相乗的な増強を与えることができる。癌抗原は、遺伝子が明らかなものについては精製タンパク質として、また不明なものについては、癌細胞自体の溶解物として調製することができる。そのような癌抗原として、例えば、悪性黒色腫のMAGE−1、MAGE−3由来のHLA−A1およびHLA−A2拘束ペプチド、MART−1およびgp100が挙げられる。また、乳癌や卵巣癌のHER2/neuペプチドや腺癌のMUC−1ペプチド、さらに、転移性癌のNY−ESO−1も挙げることができる。
【0101】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストは、抗ウイルス薬、抗生物質製剤、抗菌薬、内臓真菌症治療薬と併用あるいは合剤化することができる。
抗ウイルス薬としては、例えば、抗HIV薬、抗インフルエンザウイルス薬、抗ヘルペスウイルス薬、インターフェロン−αもしくはβおよび各種免疫グロブリンが挙げられる。
【0102】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストは、ウイルスもしくは病原体のワクチンと併用あるいは共に製剤化することができる。そのようなワクチンとしては、例えば、ポリオワクチン、麻疹ワクチン、日本脳炎ワクチン、BCGワクチン、3種混合ワクチン、おたふくワクチン、水痘ワクチン、インフルエンザワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンおよびコレラワクチンが挙げられる。ここで、抗HIV薬として、例えば、逆転写酵素阻害薬(例えば、AZT、ddI、3TCおよびd4Tなど)、プロテアーゼ阻害薬(例えば、メシル酸サキナビル、リトナビル、メシル酸ネルフィナビル、アンプレナビル、メシル酸デラビルジン、サキナビルおよびロピナビル/リトナビルなど)、またはCCR5受容体拮抗薬が挙げられる。抗インフルエンザウイルス薬としては、例えば、インフルエンザワクチン、リン酸オセルタミビル、ザナミビル水和物および塩酸アマンタジンなどが挙げられる。
【0103】
本発明に係る蛋白質のアゴニストの自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー性疾患もしくは炎症性疾患の予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬剤としては、例えば、ステロイド薬、非ステロイド系抗炎症薬、免疫抑制薬、抗アレルギー薬(例えば、化学伝達物質遊離抑制薬、抗ヒスタミン薬、トロンボキサン合成酵素阻害薬、トロンボキサン拮抗薬およびTh2サイトカイン阻害薬など)、ホスホジエステラーゼ阻害薬(PDE4)およびメディエーター遊離抑制薬などが挙げられる。
【0104】
ステロイド薬のうち、外用薬としては、例えば、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、フルオシノニド、フランカルボン酸モメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジフルプレドナート、プデソニド、吉草酸ジフルコルトロン、アムシノニド、ハルシノニド、デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、プロピオン酸デプロドン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、酪酸クロベタゾン、プレドニゾロン、プロピオン酸ペクロメタゾンおよびフルドロキシコルチドなどが挙げられる。
【0105】
ステロイド薬のうち、内服薬あるいは注射剤としては、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメタゾンおよびベタメタゾンなどが挙げられ、吸入剤としては、例えば、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、ブデソニド、フルニソリド、トリアムシノロン、ST-126P、シクレソニド、デキサメタゾンパロミチオネート、モメタゾンフランカルボネート、プラステロンスルホネート、デフラザコート、メチルプレドニゾロンスレプタネートおよびメチルプレドニゾロンナトリウムスクシネートなどが挙げられる。
【0106】
非ステロイド抗炎症薬としては、例えば、アスピリン、ロキソニン、ジクロフェナク、セレコキシブ、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、フルルビプロフェンアキセチル、ザルトプロフェン、スプロフェン、ケトプロフェン、プラノプロフェン、フェンチアザク、ドロキシカム、イブプロフェン、アセクロフェナク、アンフェナク・ナトリウム、テノキシカム、オキサプロジン、ピロキシカム、エモルファゾン、トルフェナム酸、インドメタシンファルネシル、マレイン酸プログルメタシン、スリンダク、モフェゾラク、エトドラク、ロナゾラク・カルシウム、アンピロキシカム、メサラジン、デフラザコート、ニメスリド、エトリコキシブ、ケトロラック・トロメタモール、パレコキシブ、ロベンザリット・二ナトリウム、オーラノフィン、ロキソプロフェン・ナトリウム、ブシラミン、アクタリット、けい皮酸ピロキシカム、ナブメトン、サラゾスルファピリジン、ロルノキシカム、メロキシカム、ジアセレイン、ロフェコキシブおよびバルデコキシブなどが挙げられる。
【0107】
塩基性非ステロイド抗炎症薬としては、例えば、塩酸チアラミド、塩酸チノリジン、エピリゾール、エモルファゾンなどが挙げられる。
免疫抑制薬としては、例えば、アザチオプリン、アスコマイシン、エベロリムス、オルソクローンOKT3、コルチコステロイド、サラゾスルファピリジン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、シロリムス、タクロリムス水和物、デオキシスパーガリン、ブシラミン、プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン、メチルプレドニゾロン、メトトレキサート、レフルノミドおよび抗ヒトリンパ球グロブリンなどが挙げられる。
【0108】
抗アレルギー薬のうち、化学伝達物質遊離抑制薬としては、例えば、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、アンレキサノクス、レピリナスト、イブジラスト、ペミロラストカリウム、ダザノラスト、ネドクロミル、クロモグリカートおよびイスラパファントなどが挙げられる。
【0109】
抗アレルギー薬のうち、抗ヒスタミン薬としては、例えば、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸クレマスチン、ジメンヒドリナート、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸トリプロリジン、塩酸プロメタジン、酒石酸アリメマジン、塩酸イソチペンジル、塩酸ホモクロルシクリジン、ヒドロキシジン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸レボカバスチン、アステミゾール、ベポタスチン、デスロラタジン、TAK-427、ZCR-2060、NIP-530、モメタゾンフロエート、ミゾラスチン、BP-294、アンドラスト、オーラノフィンおよびアクリバスチンなどが挙げられる。
【0110】
抗アレルギー薬のうち、トロンボキサン合成酵素阻害薬としては、例えば、塩酸オザグレルおよびイミトロダストナトリウムなどが挙げられ、トロンボキサン拮抗薬としては、例えば、セラトロダスト、ラマトロバン、ドミトロバンカルシウム水和物、KT-2-962などが挙げられ、Th2サイトカイン阻害薬としては、例えば、トシル酸スプラタストソナチモド、T-614、SR-31747などが挙げられる。
【0111】
ホスホジエステラーゼ阻害薬(PDE4)としては、例えば、シロミラスト、ロフルミラスト、アロフィリン、アチゾラム、シパムフィリン、ロリプラム、OPC-6535、ONO-6126、IC-485、AWD-12-281、CC-10004、CC-1088、KW-4490、Iirimilast、ZK-117137、YM-976、BY-61-9987、CC-7085、CDC-998、MEM-1414、ND-1251、Bay19-8004、D-4396、PD-168787、NIK-616、SCH-351591、V-11294Aなどが挙げられる。
【0112】
メディエーター遊離抑制薬としては、例えば、アンレキサノクス、イブジラスト、クロモグリク酸ナトリウム、ダザノラスト、トラニラスト、ペミロラストカリウム、レピリナストなどが挙げられる。
【0113】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストの活性成分を医薬として用いる場合、単独あるいは薬理的に許容される各種製剤補助剤と混合して、医薬組成物として投与することができる。一般的には、目的に応じて、経口投与、静脈内投与、局所投与、経皮投与など、使用に適した製剤調製物の形態で投与される。
【0114】
そのような成分の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間などにより異なるが、通常、成人一人あたり、1回につき、1ngから10000mgの範囲で、数日に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、1ngから1000mgの範囲で、数日に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
もちろん前記したように、投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で充分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0115】
本発明に係る蛋白質のアンタゴニストあるいはアゴニストと他の薬剤の併用剤を投与する際には、経口投与のための内服用固形剤もしくは内服用液剤として、あるいは非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤もしくは吸入剤などとして用いられる。
経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤および顆粒剤などが含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。また錠剤には舌下錠、口腔内貼付錠および口腔内速崩壊錠などが含まれる。
【0116】
このような内服用固形剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質はそのままか、または賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロースまたはデンプンなど)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなど)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど)、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)などと混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなど)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0117】
舌下錠は公知の方法に準じて製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質に賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカまたはデンプンなど)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウムまたは繊維素グリコール酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど)、膨潤剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カーボポール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガムまたはグアーガムなど)、膨潤補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸またはアルギニンなど)安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモンまたはバニラなど)などと混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなど)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また、必要に応じて常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの添加物を加えることもできる。口腔内貼付錠は公知の方法に準じて調製される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質に賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカまたはデンプンなど)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウムまたは繊維素グリコール酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど)、付着剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カーボポール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガムまたはグアーガムなど)、付着補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸またはアルギニンなど)安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモンまたはバニラなど)などと混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなど)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また、必要に応じて常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの添加物を加えることもできる。口腔内速崩壊錠は公知の方法に準じて調製される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質をそのまま、あるいは原末もしくは造粒原末粒子に適当なコーティング剤(例えば、エチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはアクリル酸メタクリル酸コポリマーなど)、可塑剤(例えば、ポリエチレングリコールまたはクエン酸トリエチルなど)を用いて被覆を施した活性物質に賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、コロイダルシリカまたはデンプンなど)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、L−ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウムまたは繊維素グリコール酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど)、分散補助剤(例えば、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース、トレハロース、リン酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩、グリシン、グルタミン酸またはアルギニンなど)安定剤、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)、香味料(例えば、オレンジ、ストロベリー、ミント、レモンまたはバニラなど)などと混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなど)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。また、必要に応じて常用される防腐剤、抗酸化剤、着色剤または甘味剤などの添加物を加えることもできる。
【0118】
経口投与のための内服用液剤は、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤などを含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液など)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤または緩衝剤などを含有していてもよい。
【0119】
非経口投与のための外用剤の剤形には、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤、リニメント剤、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、エアゾル剤、点眼剤および点鼻剤などが含まれる。これらはひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、公知の方法または通常使用されている処方により調製される。
【0120】
軟膏剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に研和、または溶融させて調製される。軟膏基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高級脂肪酸または高級脂肪酸エステル(例えば、アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルまたはオレイン酸エステルなど)、ロウ類(例えば、ミツロウ、鯨ロウまたはセレシンなど)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなど)、高級アルコール(例えば、セタノール、ステアリルアルコールまたはセトステアリルアルコールなど)、シリコン油(例えば、ジメチルポリシロキサンなど)、炭化水素類(例えば、親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリンまたは流動パラフィンなど)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールまたはマクロゴールなど)、植物油(例えば、ヒマシ油、オリーブ油、ごま油またはテレピン油など)、動物油(例えば、ミンク油、卵黄油、スクワランまたはスクワレンなど)、水、吸収促進剤、かぶれ防止剤から選ばれるものが単独でまたは2種以上を混合して用いられる。さらに、保湿剤、保存剤、安定化剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0121】
ゲル剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させて調製される。ゲル基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、低級アルコール(例えば、エタノールまたはイソプロピルアルコールなど)、ゲル化剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースまたはエチルセルロースなど)、中和剤(例えば、トリエタノールアミンまたはジイソプロパノールアミンなど)、界面活性剤(例えば、モノステアリン酸ポリエチレングリコールなど)、ガム類、水、吸収促進剤およびかぶれ防止剤から選ばれるものが単独でまたは2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0122】
クリーム剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融または乳化させて製造される。クリーム基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高級脂肪酸エステル、低級アルコール、炭化水素類、多価アルコール(例えば、プロピレングリコールまたは1,3−ブチレングリコールなど)、高級アルコール(例えば、2−ヘキシルデカノールまたはセタノールなど)、乳化剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類または脂肪酸エステル類など)、水、吸収促進剤およびかぶれ防止剤から選ばれるものが単独でまたは2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0123】
湿布剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させ、練合物とし支持体上に展延塗布して製造される。湿布基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、増粘剤(例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デンプン、ゼラチンまたはメチルセルロースなど)、湿潤剤(例えば、尿素、グリセリンまたはプロピレングリコールなど)、充填剤(例えば、カオリン、酸化亜鉛、タルク、カルシウムまたはマグネシウムなど)、水、溶解補助剤、粘着付与剤およびかぶれ防止剤から選ばれるものが単独でまたは2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0124】
貼付剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を基剤に溶融させ、支持体上に展延塗布して製造される。貼付剤用基剤は公知あるいは通常使用されているものから選ばれる。例えば、高分子基剤、油脂、高級脂肪酸、粘着付与剤およびかぶれ防止剤から選ばれるものが単独でまたは2種以上を混合して用いられる。さらに、保存剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0125】
リニメント剤は公知または通常使用されている処方により製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物を水、アルコール(例えば、エタノールまたはポリエチレングリコールなど)、高級脂肪酸、グリセリン、セッケン、乳化剤および懸濁化剤などから選ばれるもの単独または2種以上に溶解、懸濁または乳化させて製造される。さらに、保存剤、抗酸化剤または着香剤などを含んでいてもよい。
【0126】
噴霧剤、吸入剤、およびスプレー剤は、一般的に用いられる希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような緩衝剤、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば、米国特許第2,868,691号および同第3,095,355号に詳しく記載されている。
非経口投与のための注射剤としては、すべての注射剤を含み、点滴剤をも包含する。例えば、筋肉への注射剤、皮下への注射剤、皮内への注射剤、動脈内への注射剤、静脈内への注射剤、腹腔内への注射剤、脊髄腔への注射剤および静脈内への点滴剤などを含む。
【0127】
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類などおよびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸またはポリソルベート80(登録商標)など)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤または保存剤などを含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
非経口投与のための点眼剤には、点眼液、懸濁型点眼液、乳濁型点眼液、用時溶解型点眼液および眼軟膏が含まれる。
【0128】
これらの点眼剤は公知の方法に準じて製造される。例えば、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。点眼剤の溶剤としては、例えば、滅菌精製水、生理食塩水、その他の水性溶剤または注射用非水性用剤(例えば、植物油など)などおよびそれらの組み合わせが用いられる。点眼剤は、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、濃グリセリンなど)、緩衝化剤(例えば、リン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムなど)、界面活性化剤(例えば、ポリソルベート80(商品名)、ステアリン酸ポリオキシル40、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)、安定化剤(例えば、クエン酸ナトリウムまたはエデト酸ナトリウムなど)、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウムまたはパラベンなど)などを必要に応じて適宜選択して含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか、無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば、凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の滅菌精製水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0129】
非経口投与のための吸入剤としては、エアロゾル剤、吸入用粉末剤または吸入用液剤が含まれ、当該吸入用液剤は用時に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁させて使用する形態であってもよい。
これらの吸入剤は公知の方法に準じて製造される。
例えば、吸入用液剤の場合には、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウムまたはパラベンなど)、着色剤、緩衝化剤(例えば、リン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムなど)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウムまたは濃グリセリンなど)、増粘剤(例えば、カリボキシビニルポリマーなど)、吸収促進剤などを必要に応じて適宜選択して調製される。
【0130】
吸入用粉末剤の場合には、滑沢剤(例えば、ステアリン酸およびその塩など)、結合剤(例えば、デンプンまたはデキストリンなど)、賦形剤(例えば、乳糖またはセルロースなど)、着色剤、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウムまたはパラベンなど)、吸収促進剤などを必要に応じて適宜選択して調製される。
吸入用液剤を投与する際には通常噴霧器(例えば、アトマイザーまたはネブライザー)が使用され、吸入用粉末剤を投与する際には通常粉末薬剤用吸入投与器が使用される。
非経口投与のためその他の組成物としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される直腸内投与のための坐剤および腟内投与のためのペッサリーなどが含まれる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0132】
実施例1:ヒトBIR1の発現プロファイル
ヒト正常組織、血液細胞および細胞株におけるBIR1のmRNA発現を調べるために、BIR1特異的プライマーを設計し、TaKaRa Ex Taq(TaKaRa社製)を用いてPCRを行った。この時使用したプライマーの配列を以下に示す。
5’−GAACAGGCTCCTCTTCTGGAG−3’(配列番号13)
5’−GGTTCACCTTTTCCATCCTGG−3’(配列番号14)
PCRは、最初96℃下で1分間保持し、続いて、98℃下で10秒間、56℃下で30秒間、72℃下で30秒間の温度操作を35回繰り返し、最後に72℃で10分間保持して行った。
ヒト正常組織および血液細胞の発現解析には、Human MTC Panel I、Human MTC Panel II、Human Immune System MTC Panel、Human Blood Fractions MTC Panel(BD Clontech社製)を用い、ヒト細胞株の発現解析には常法に従い全RNAから逆転写反応にて作製したcDNAを用いた。PCR産物をアガロースゲル電気泳動後、ゲルをエチジウムブロマイド(Ethidium bromide)染色し、BioDoc-It System(UVP社製)にて画像データを得た。その結果を
図1に示す。
BIR1は脾臓、リンパ節などの免疫系組織およびCD14陽性細胞(単球)、CD19陽性細胞(B細胞)で高発現していた。また、ヒト細胞株では、BIR1は単球分化能を有するK562、HL−60、単球系細胞株であるU937、THP−1、B細胞株であるRaji、CCRF−SBおよびFLEB−14−14で発現が確認された。
【0133】
実施例2:各種炎症刺激によるヒトBIR1の発現
ヒト単球系細胞株を用い、各種炎症刺激によるBIR1の発現を検討した。THP−1細胞およびU937細胞を1×10
6cells/2mLでリポポリサッカライド(LPS)(1μg/mL)、フォルボールミリステートアセテート(PMA)(100ng/mL)、IFN−γ(100ng/mL)、TNF−α(10ng/mL)あるいはLPS+IFN−γ(1μg/mL+100ng/mL)で1、3、8、24、48および120時間刺激し、全RNAを回収した。BIR1に特異的なプライマー;5’−CACAGCCATGGAAGTTGGAATC−3’(配列番号15)および5’−GAGTGTTTGGCCTCATCTTGG−3’(配列番号16)とQuantiTect SYBR Green RT-PCR Kit(QIAGEN社製)を用いて、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)によりBIR1のRNAを定量した。PCRの反応は、最初50℃下で30分間保持し、続いて95℃下で15分間保持した。次に、94℃下で10秒間、56℃下で30秒間、72℃下で1分間の温度操作を45回繰り返して行った。その結果、
図2に示すように、BIR1の遺伝子発現はTHP−1細胞ではTNF−α以外の刺激で8〜48時間以降に上昇し、U937細胞ではいずれの刺激でも24〜48時間以降で上昇した。
【0134】
実施例3:自己免疫疾患患者由来の血液細胞におけるBIR1の発現
Autoimmune Disease Profiling Array(BD Clontech社製)を用いて、自己免疫疾患患者由来の各種血液細胞におけるBIR1の発現を調べた。ヒトBIR1部分長cDNA断片を鋳型として、Random Primer DNA Labeling Kit Ver.2(TaKaRa社製)を用いて[α−
32P]dCTP(PerkinElmer社製)標識したBIR1特異的プローブを作製した。使用した部分長cDNA断片を配列番号17に示す。
プローブ作製以降のプレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の操作は添付文書に従った。BAS2000(FUJIFILM社製)を用いて画像データを取得し、BAStation Ver.2.21のImage Analyzer IIにて画像データから各ドットのPSL(Photo-Stimulated Luminescence;放射線量と比例)値を求め、各サンプルにおけるBIR1の発現量を数値化した。統計解析は健常人に対してWilcoxon(Mann-Whitney)testを実施した。その結果を
図3に示す。
健常人と比較して、ループス抗凝固因子患者の単球、関節リウマチ、多発性硬化症および高安動脈炎患者のB細胞でBIR1の発現量は有意に増加していた。
【0135】
実施例4:ヒトBIR1スプライシングバリアントの同定
ヒトCD14陽性細胞(単球)およびCD19陽性細胞(B細胞)由来cDNA(Human Blood Fractions MTC Panel)(BD Clontech社製)を鋳型として、TaKaRa LA Taq(TaKaRa社製)を用いてPCRを行った。設計したヒトBIR1に特異的なプライマーを以下に示す。
5’−ATGTGGAGCCATTTGAACAGGCTCCTC−3’(配列番号18)
5’−TCAGAAGTTGAGTTCAGAATAGAC−3’(配列番号19)
PCRは、最初96℃下で1分間保持し、続いて、98℃下で10秒間、56℃下で30秒間、72℃下で1分30秒間の温度操作を35回繰り返し、最後に72℃で10分間保持して行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動後に単離し、T/Aベクターにサブクローニングした。BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)の添付文書に従い、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)にて各cDNA断片の配列を決定した。
その結果、既知のアイソフォーム(免疫グロブリン(Ig)ドメインが2個存在;BIR1L)(配列番号1および2)以外に、新たにC末端側のIgドメインが欠失したアイソフォーム(BIR1S1)(配列番号3)、N末端側のIgドメインが欠失したアイソフォーム(BIR1S2)(配列番号4)、両方のIgドメインが欠失したアイソフォーム(BIR1ΔIg)(配列番号5)およびBIR1S1の細胞内領域の一部が欠失したアイソフォーム(BIR1ΔCyt)(配列番号6)が同定された。N末端側のIgドメインは配列番号1に記載のアミノ酸配列中アミノ酸番号41−122に、C末端側のIgドメインは配列番号1に記載のアミノ酸配列中アミノ酸番号138−203に相当する部分である。
【0136】
実施例5:マウスFcγRIIB−ヒトBIR1キメラ安定発現細胞の作製
BIR1が抑制性シグナルを伝達するか否かを検討した。Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98: 13866-13871 (2001)やJ. Immunol. 162: 3168-3175 (1999)などで報告された方法に従い、以下の材料を作製した。マウスFcγRIIB(FcR)の細胞外領域、膜貫通領域および細胞内領域6アミノ酸(アミノ酸番号1〜252)のC末端側にBIR1の細胞内領域(配列番号1のアミノ酸番号251〜343)を連結したFcR−hBIR1(wt)キメラ蛋白(配列番号20)をコードするDNAを、β−アクチンプロモーターの下流に挿入し、FcRキメラ蛋白発現ベクターを構築した。また、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)を用いて、BIR1の細胞内領域の6つのチロシン残基のすべてをフェニルアラニン残基に置換した変異体(FcR−hBIR1(YWF))(配列番号21)の発現ベクターを作製した。これらのFcRキメラ発現ベクターと、既知の抑制性レセプターであるヒトKIR2DL3のFcRキメラ(FcR−hKIR2DL3)(配列番号22)発現ベクターをGene Pulser Xcell Electroporation System(BIO-RAD社製)を用いて、マウスB細胞株A20IIA1.6(マウスFcγRIIB欠損細胞株)(J.Immunol. 136: 348-356 (1986))に導入した。各導入細胞をFITC標識ラット抗マウスCD16/CD32抗体(2.4G2)(BD Pharmingen社製)で染色後、FACSCalibur(BD Biosciences社製)にてFcRキメラ蛋白の発現量を確認した。
図4に示すように、それぞれ同程度のFcRキメラ蛋白を安定発現した細胞であった。
【0137】
実施例6:ヒトBIR1によるB細胞受容体を介した細胞内Ca
2+濃度上昇の抑制
FcRキメラ安定発現細胞に2.5mmol/L probenecid存在下37℃で30分間Fura2−AM(終濃度:5μmol/L)(和光純薬工業(株)製)を取り込ませた。Fura2−AMを除去後、2.5mmol/L probenecid含有HEPES/Hanks’緩衝液中に37℃で30分間静置した。遠心して上清を除去した後、細胞を5×10
6cells/mLで2.5mmol/L probenecid含有HEPES/Hanks’緩衝液に懸濁し、Ca
2+測定用96ウェルプレートに100μL/wellで播種した。細胞外Ca
2+非存在下での実験では、Ca
2+不含Hanks’溶液にて調製した1mmol/L EGTA/2.5mmol/L probenecid含有HEPES/Hanks’緩衝液を用い、同様の操作を行った。室温で30分間静置後、Spectrofluorometer FDSS-4000(浜松ホトニクス社製)を用いて340nm/380nmの蛍光強度比を測定し、細胞内Ca
2+濃度の変動を検出した。測定開始30秒後に、ウサギ抗マウスIgG(H+L)抗体のF(ab’)
2(33μg/mL)もしくはインタクト(intact)(49.5μg/mL)(Zymed社製)を10μL/wellで添加した。
図5に示すように、インタクトの抗体を添加してBIR1キメラ蛋白がBCRと架橋された場合に、BIR1キメラ蛋白はBCRを介した細胞内Ca
2+濃度の上昇を抑制することが明らかとなった。一方、BIR1の細胞内チロシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異体では細胞内Ca
2+濃度の上昇は抑制されなかった。また、BIR1の細胞内Ca
2+濃度上昇の抑制パターンは陽性対照であるKIR2DL3と異なっていた。細胞外Ca
2+非存在下でBIR1とKIR2DL3の細胞内Ca
2+濃度上昇の抑制パターンを比較した結果、KIR2DL3は細胞外Ca
2+非存在下でも細胞内Ca
2+濃度上昇を完全に抑制したのに対して、BIR1は抑制することができなかった。BIR1は既知の抑制性レセプターであるFcγRIIBと同様の結果を示した(Cell 90: 293-301 (1997))。
以上の結果から、本発明に係る蛋白質であるBIR1は、免疫抑制受容体として機能することが示された。
【0138】
実施例7:抑制性シグナル伝達におけるヒトBIR1の細胞内チロシン残基のリン酸化およびリクルートされるホスファターゼの同定
BIR1が活性化されたときに細胞内チロシン残基がリン酸化され、ホスファターゼがリクルートされるかどうかを検討した。Ca
2+含有HEPES/Hanks’緩衝液に懸濁した3×10
7個のFcRキメラ安定発現細胞をウサギ抗マウスIgG(H+L)抗体のF(ab’)
230μg/mLあるいはインタクト45μg/mL(Zymed社製)で、37℃で3分間刺激した。その後、細胞をlysis buffer(1% NP−40,50mmol/L Tris−HCl,pH8.0,150mmol/L NaCl,50mmol/L NaF,10% glycerol,1mmol/L Na
3VO
4,1mol/L PMSF,protease inhibitor cocktail tablet(Roche Diagnostics社製))で溶解した。細胞溶解液をラット抗マウスCD16/CD32抗体(2.4G2)(BD Pharmingen社製)を結合させたProtein A/G PLUS-Agarose(Santacruz社製)と4℃で5時間以上反応させた。FcRキメラ蛋白およびそれらの結合分子を免疫沈降した後、定法に従って、ウェスタンブロッティングを行った。メンブレンをphosphotyrosine(4G10)(Upstate社製)、SHP−1、SHP−2、SHIP−1に対する一次抗体(Santacruz社製)で反応後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識した二次抗体(Santacruz社製)を反応させ、ECL検出システム(Amersham Biosciences社製)にてバンドを検出した。
その結果、
図6に示すように、インタクト抗体を添加してBIR1キメラ蛋白がBCRと架橋された場合に、BIR1キメラ蛋白の細胞内チロシン残基がリン酸化された。またその時、BIR1キメラ蛋白の細胞内領域にSHP−1、SHP−2、SHIP−1がリクルートされた。一方、BIR1の細胞内チロシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異体ではホスファターゼはリクルートされなかった。
【0139】
実施例8:ヒトBIR1によるErk2のリン酸化の抑制
BIR1がBCRを介した下流のシグナル伝達分子のリン酸化を抑制するかどうかを検討した。Ca
2+含有HEPES/Hanks’緩衝液に懸濁した6×10
6個のFcRキメラ安定発現細胞を、30μg/mL ウサギ抗マウスIgG(H+L)抗体のF(ab’)
2あるいは45μg/mL インタクト(Zymed社製)で、37℃で3分間刺激した。Lysing solution(Cell Lysis Kit;BIO-RAD社製)で細胞溶解液(500ng/μL)を調製した。各シグナル伝達分子のリン酸化はBio-Plex Phospho 7-Plex Assay(BIO-RAD社製)を用いて定量した。
その結果、
図7に示すように、KIR2DL3と同様に、インタクト抗体を添加してBIR1キメラ蛋白がBCRと架橋された場合に、BIR1キメラ蛋白はBCRを介したErk2のリン酸化を抑制した。一方、BIR1の細胞内チロシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異体はErk2のリン酸化を抑制しなかった。
【0140】
実施例9:ヒトBIR1によるインターロイキン2(IL−2)産生の抑制
BIR1がBCRを介したIL−2産生を抑制するかどうかを検討した。1×10
5個のFcRキメラ安定発現細胞を96ウェルプレートに播種し、10μg/mL ウサギ抗マウスIgG(H+L)抗体のF(ab’)
2あるいは5μg/mL インタクト(Zymed社製)にて37℃で24時間刺激した。Quantikine Immunoassay Mouse IL-2 ELISA Kit(R & D Systems社製)を用いて、各培養上清中のIL−2量を測定した。
その結果、
図8に示すように、インタクト抗体を添加してBIR1キメラ蛋白がBCRと架橋された場合に、BIR1キメラ蛋白はBCRを介したIL−2産生を抑制した。一方、BIR1の細胞内チロシン残基をフェニルアラニン残基に置換した変異体はIL−2産生を抑制しなかった。また、以前に報告された通り、KIR2DL3もIL−2産生を抑制した。
【0141】
実施例10:ヒトBIR1のITIMドメインおよび結合するホスファターゼの同定
BIR1が抑制性シグナルを伝達するのに重要な配列ITIMドメインおよび結合するホスファターゼを同定した。BIR1(配列番号1)の細胞内チロシン残基を含むペプチド(Y3:Biotin−HSQELQ
313YATPVF(配列番号23)、Y5:Biotin−DSYKSG
336YVYSEL(配列番号24)、Y6:Biotin−YKSGYV
338YSELNF(配列番号25))およびそれに対応するリン酸化ペプチド(pY3:Biotin−HSQELQ
313(pY)ATPVF(配列番号26)、pY5:Biotin−DSYKSG
336(pY)VYSEL(配列番号27)、pY6:Biotin−YKSGYV
338(pY)SELNF(配列番号28))を合成した(Sigma Genosys社に委託)。また、マウスPIR−BのITIM配列を含むペプチドおよびリン酸化ペプチド(Y3:Biotin−ESQDVT
794YAQLCS(配列番号29)およびpY3:Biotin−ESQDVT
794(pY)AQLCS(配列番号30))を陽性対照として合成した。これらのペプチドを抗ビオチン抗体(Sigma社製)を介してProtein A/G PLUS-Agarose(Santacruz社製)に結合させた後、A20IIA1.6細胞の溶解液と4℃で2時間反応させた。免疫沈降後、定法に従ってウェスタンブロッティングを行った。メンブレンをSHP−1、SHP−2、SHIP−1(Santacruz社製)に対する一次抗体で反応後、HRP標識した二次抗体(Santacruz社製)を反応させ、ECL plus Western Blotting Detection System(Amersham Biosciences社製)を用いてバンドを検出した。
その結果、
図9に示すように、BIR1のpY3がSHP−1、SHP−2と結合し、pY6はSHP−1、SHP−2、SHIP−1と結合した。一方、pY5はいずれのホスファターゼとも結合しなかった。BIR1の細胞内領域には従来のITIMのコンセンサス配列(I/V/L/SXYXXL/V)と一致する配列は存在しないが、ヒトBIR1の313番目と338番目のチロシン残基が新たなITIMとして機能することが明らかとなった。
【0142】
実施例12:抗ヒトBIR1抗体の作製
(1)可溶化ヒトBIR1L/Fcキメラ蛋白を用いた抗原感作
可溶化ヒトBIR1L/Fcキメラ蛋白60μgをTiterMaxアジュバント(Sigma社製)と混合し、BALB/cマウスの腹腔内に投与した。初回投与2週間後に、抗原(60μg)をTiterMaxアジュバントと混合し、マウスの腹腔内に投与した。追加免疫約10日後に、抗原(40μg)をマウスの腹腔内に最終投与した。3日後に、マウスから脾臓を摘出した。
(2)抗ヒトBIR1モノクローナル抗体の作製
上記(1)で得た脾臓よりリンパ球を分離し、マウスミエローマP3U1と約4:1で混合し、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合を行った。RPMI1640/15%FCS/HAT培地によりハイブリドーマを選択し、可溶化ヒトBIR1L/Fcキメラ蛋白を用いたELISAおよびヒトBIR1L安定発現CHO細胞を用いたフローサイトメトリーにより目的の抗体を産生しているハイブリドーマのスクリーニングを行った。陽性ハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングし、抗ヒトBIR1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得した。このようにして得たハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔に接種後,2週間以降に腹水を採取した.腹水中に産生された抗体はProsep−Gカラム(ミリポア社製)などを用いて精製した。
図10に示すように、作製された抗ヒトBIR1モノクローナル抗体はヒトBIR1を認識した(図中、Clone#170、#68、#95、#31は抗ヒトBIR1モノクローナル抗体の各クローンを表わし、2ndAbは陰性対照を、Anti-FLAG M2は陽性対照を表わす。)。
(3)抗ヒトBIR1ポリクローナル抗体の作製
可溶化ヒトBIR1L/Fcキメラ蛋白(100μg/0.5mL)を等量のフロイント完全アジュバント(DIFCO社製)と混合し、ウサギの背部皮下に投与した。2週間後、抗原(100μg/0.5mL)を等量のフロイント不完全アジュバント(DIFCO社製)と混合し、ウサギの背部皮下に投与した。2週間後、尾静脈より試験採血し、抗体価の上昇をヒトBIR1L安定発現CHO細胞を用いてフローサイトメトリーにて確認した。抗体価が低い場合は、さらに1〜2回の追加免疫を行い、抗血清を作製した。
【0143】
実施例13:ヒトBIR1のシグナル伝達を変化させる化合物のスクリーニング
10μg/mL ウサギ抗マウスIgG(H+L)抗体(Zymed社製)および実施例3で作製した10μg/mL 抗ヒトBIR1モノクローナル抗体を、定法に従い、96ウェルプレートに固定する。被験化合物(低分子化合物、ペプチド、抗体など)を添加し、ヒトBIR1を安定発現させたA20IIA1.6細胞を1×10
5個/100μL/wellで播種する。37℃で24時間培養後、Quantikine Immunoassay Mouse IL-2 ELISA Kit(R & D Systems社製)を用いて、各培養上清中のIL−2量を測定する。被験化合物非添加の陰性対照と比較してIL−2量を減少させる化合物または増加させる化合物をヒトBIR1のシグナル伝達を変化させる化合物として選別する。
【0144】
実施例14:ホスファターゼの結合を制御する化合物のスクリーニング
ヒトBIR1の2箇所のITIM領域由来のリン酸化ペプチド(Biotin−HSQELQ
313(pY)ATPVF(配列番号26)またはBiotin−YKSGYV
338(pY)SELNF(配列番号28))を抗ビオチン抗体(Sigma社製)を固定した96ウェルプレートに結合させる。被験化合物(低分子化合物、ペプチド、抗体など)を添加した後、A20IIA1.6細胞の溶解液を添加し、4℃で2時間保温する。PBSで5回洗浄後、SHP−1、SHP−2およびSHIP−1に対する一次抗体(Santacruz社製)を添加する。室温で2時間反応後、PBSで5回洗浄し、HRP標識した二次抗体(Santacruz社製)を添加する。室温でさらに2時間反応後、ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト(株)製)を用いてリン酸化ペプチドに結合したホスファターゼ量を測定する。被験化合物非添加の陰性対照と比較してホスファターゼ量を減少させる化合物または増加させる化合物を選別する。
【0145】
実施例15:ヒトBIR1の発現量を変化させる化合物のスクリーニング
ヒト単球細胞株THP−1細胞(1×10
6cells/2mL)にLPS(1μg/mL)および/またはIFN−γ(100ng/mL)の存在下または非存在下で被験化合物(低分子化合物、ペプチド、抗体など)を添加し、37℃で24時間培養する。各細胞から全RNAを抽出し、ヒトBIR1に特異的なプライマー;5’−CACAGCCATGGAAGTTGGAATC−3’(配列番号15)および5’−GAGTGTTTGGCCTCATCTTGG−3’(配列番号16)とQuantiTect SYBR Green RT-PCR Kit(QIAGEN社製)を用いてABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)によりBIR1のRNAを定量する。LPSおよび/またはIFN−γの存在下で被験化合物非添加の陰性対照と比較してRNA量を減少させる化合物または増加させる化合物を選別する。あるいはLPSおよびIFN−γの非存在下で被験化合物非添加の陰性対照と比較してRNA量を減少させる化合物または増加させる化合物を選別する。