【実施例】
【0039】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]<消火剤の製造>(フェロセンの粉砕)
市販品のフェロセンをメノウ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのふるいにかけ、さらに目開き50μmのふるいにかけて、このふるい上に残ったもの(以下、「粉砕フェロセン(1)」と略記する)を選別した。光学顕微鏡(Leica社製「DMI−300B」)を用いて、この粉砕フェロセン(1)を撮像し、画像解析ソフト(「ImageJ ver. 1.45」)を用いて粉砕フェロセン(1)の面積を測定して、相当する粒径を算出し、粒度分布を求め、粒度分布図を作成した。このときの粒度分布図を
図1に示す。
図1の結果から、粉砕フェロセン(1)のメジアン径は、65μmであることが確認された。
【0041】
(消火剤の製造)
100mLのメスフラスコに、粉砕フェロセン(1)と、水(100mL)と、分散剤として界面活性剤(1)(日信化学工業社製「サーフィノール465」)とを添加し、温度を50℃とした後、さらに超音波(40kHz)を20分間照射して、十分に内容物を分散させ、均一な分散物とした消火剤を得た。なお、表1に示すように、このときの粉砕フェロセン(1)の添加量は、分散物中での濃度が100ppmとなるように調節した。
また、界面活性剤(1)の添加量は、分散物中での濃度が0.2質量%となるように調節した。
【0042】
<消火剤の消火能力の評価>
図2に示す評価装置を用いて、得られた消火剤の消火能力を評価した。
ここに示す評価装置1は、評価対象の消火剤を保持する消火剤保持部11と、消火剤を噴霧するノズル14と、消火剤保持部11及びノズル14を連結する配管13と、配管13の途中に間挿され、消火剤保持部11からノズル14へ消火剤を移送するためのポンプ12と、消火剤が噴霧される燃焼物を保持する燃焼物保持部15と、を備えて概略構成されている。そして、ノズル14は、広がり角θを最大で60°として液体を噴霧できるようになっている。また、燃焼物保持部15は、内径Dが83mmの容器状のものである。
【0043】
評価装置1の燃焼物保持部15に、液状可燃物としてn−ヘプタン(80mL)を保持して、その上部の液面と、ノズル14の先端部との距離Hが50cmとなるように調節した。そして、n−ヘプタンに着火し、20秒間そのまま放置して、火炎を安定させ、ここへ、上記で得られた消火剤をノズル14から約240mL/分の流量で噴霧した。そして、消火剤の噴霧開始から45秒後までn−ヘプタンの状態を目視観察した。
以上の消火操作を合計で5回以上行い、消火剤の消火能力を評価した。
結果を表1及び
図3に示す。なお、表1中の消火能力の評価結果として記載した○、△、×は、それぞれ以下の意味を有する。
○:すべての消火操作で、噴霧開始から45秒以内に消火でき、消火時間が極めて短時間であった。
△:すべての消火操作で、噴霧開始から45秒以内に消火でき、消火時間が短時間であった。
×:すべての消火操作で、噴霧開始から45秒以内に消火できなかった。
【0044】
[実施例2]
表1に示すように、粉砕フェロセン(1)の濃度を100ppmに代えて125ppmとした点以外は、実施例1と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。結果を表1及び
図3に示す。
【0045】
[実施例3]
表1に示すように、粉砕フェロセン(1)の濃度を100ppmに代えて150ppmとした点以外は、実施例1と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。結果を表1及び
図3に示す。
【0046】
[実施例4]
表1に示すように、粉砕フェロセン(1)の濃度を100ppmに代えて75ppmとした点以外は、実施例1と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。結果を表1及び
図3に示す。
【0047】
[比較例1]
表1に示すように、粉砕フェロセン(1)を用いなかった点以外は、実施例1と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。結果を表1及び
図3に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
図3から明らかなように、実施例1〜2では、すべての消火操作で、消火剤の噴霧開始から45秒以内に極めて短時間で消火できた。また、実施例3〜4では、実施例1〜2よりも時間を要したものの、すべての消火操作で、消火剤の噴霧開始から45秒以内に短時間で消火できた。
一方、比較例1では、消火剤がフェロセンを含有していないため、消火能力が認められず、同時に界面活性剤(1)が消火能力を有していないことが確認され、これは、実施例1〜4の優れた消火能力が粉砕フェロセン(1)によるものであることを裏付けた。
【0050】
[実施例5]<消火剤の製造>(フェロセンの粉砕)
遊星型ボールミルを用いて、市販品のフェロセンを45分間、400rpmで湿式粉砕して、粉砕フェロセン(以下、「粉砕フェロセン(2)」と略記する)を得た。レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD−7000」)を用いて、この粉砕フェロセン(2)の粒度分布を測定し、粒度分布図を作成した。このときの粒度分布図を
図4に示す。
図4の結果から、この粉砕フェロセン(2)は、メインピーク以外に粒径0.2μm付近に小さいピークを有する二峰性であり、メジアン径が10.4μmであることが確認された。
【0051】
また、400rpmに代えて300rpmで市販品のフェロセンを湿式粉砕した点以外は、上記の粉砕フェロセン(2)の場合と同様の方法で、粉砕フェロセン(以下、「粉砕フェロセン(3)」と略記する)を得て、その粒度分布を測定し、粒度分布図を作成した。このときの粒度分布図を
図5に示す。
図5の結果から、この粉砕フェロセン(3)は、粒度分布がシャープな形状であり、メジアン径が11.4μmであることが確認された。
【0052】
また、市販品のフェロセンをメノウ乳鉢で粉砕し、目開き75μm、53μm及び38μmのふるいにかけ、目開き53μmのふるいを通り、目開き38μmのふるい上に残ったものを選別して、粉砕フェロセン(以下、「粉砕フェロセン(4)」と略記する)を得た。そして、この粉砕フェロセン(4)について、上記の粉砕フェロセン(2)の場合と同様の方法で粒度分布を測定し、粒度分布図を作成した。このときの粒度分布図を
図6に示す。
図6の結果から、この粉砕フェロセン(4)は、粒度分布がブロードな形状であり、メジアン径が21.5μmであることが確認された。
【0053】
(消火剤の製造)
100mLの三角フラスコに、粉砕フェロセン(2)、粉砕フェロセン(3)又は粉砕フェロセン(4)と、水(100mL)と、分散剤として界面活性剤(1)とを添加し、温度を50℃とした後、さらに超音波(40kHz)を20分間照射して、十分に内容物を分散させ、均一な分散物とした消火剤を得た。なお、表2に示すように、このときの粉砕フェロセン(2)〜(4)のそれぞれの添加量は、分散物中での濃度が100ppmとなるように調節した。また、界面活性剤(1)の添加量は、分散物中での濃度が0.4質量%となるように調節した。界面活性剤(1)の臨界ミセル濃度は、あらかじめデュヌイ表面張力計(伊藤製作所製)を用いて測定しておいた。
【0054】
<消火剤の消火能力の評価>
図2に示す評価装置を用いて、実施例1の場合と同様に、得られた消火剤の消火能力を評価した。ただし、評価装置1としては、燃焼物保持部15の内径Dが82mmであるものを用い、ここに保持したn−ヘプタンの上部の液面と、ノズル14の先端部との距離Hを60cmとなるように調節した。そして、n−ヘプタンに着火し、10秒間そのまま放置して、火炎を安定させ、ここへ、上記で得られた消火剤をノズル14から約250mL/分の流量で噴霧した。そして、消火剤の噴霧開始から20秒後までn−ヘプタンの状態を目視観察した。
以上の消火操作を合計で5回以上行い、消火剤の消火能力を評価した。結果を
図7に示す。
【0055】
[実施例6]
表2に示すように、分散剤として界面活性剤(1)に代えて、界面活性剤(2)(日信化学工業社製「サーフィノール485」)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。なお、界面活性剤(2)の添加量は、分散物中での濃度が0.2質量%となるように調節した。結果を
図7に示す。
【0056】
[実施例7]
表2に示すように、分散剤として界面活性剤(1)に代えて、界面活性剤(3)(日信化学工業社製「オルフィンE1020」)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。なお、界面活性剤(3)の添加量は、分散物中での濃度が0.2質量%となるように調節した。結果を
図7に示す。
【0057】
[実施例8]
表2に示すように、分散剤として界面活性剤(1)に代えて、界面活性剤(4)(日信化学工業社製「オルフィンPD201」)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で消火剤を製造し、その消火能力を評価した。なお、界面活性剤(4)の添加量は、分散物中での濃度が0.2質量%となるように調節した。結果を
図7に示す。
【0058】
[比較例2]
従来の消火剤である強化液(主成分:炭酸カリウム)の消火能力を、実施例5と同じ方法で評価した。結果を
図7に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
図7から明らかなように、実施例5では、粉砕フェロセン(2)〜(4)のいずれを用いた場合でも、すべての消火操作で消火時間にほとんど差がなかった(ばらつきが少なかった)。例えば、粉砕フェロセン(2)を用いた場合の、最短消火時間は0.8秒であり、平均消火時間は1.2秒であり、標準偏差(SD)は0.4であった。また、粉砕フェロセン(4)を用いた場合も、平均消火時間は1.2秒であり、標準偏差(SD)は0.4であった。粉砕フェロセン(2)〜(4)で消火時間にほとんど差が見られなかったことから、フェロセンが十分に分散されている限り、フェロセンの粒径は消火剤の消火能力に影響を与えていないことが確認された。
一方、実施例6〜8では、実施例5よりも消火時間に差が見られたものの、いずれもすべての消火操作で、消火剤の噴霧開始から20秒以内に消火できた。また、フェロセンの粒径が消火剤の消火能力に影響を与えていることを示唆するデータは得られなかった。
また、実施例6〜8では、粉砕フェロセンの分散の度合いが大きいほど、消火時間のばらつきが抑制されることが確認された。
一方、比較例2では、平均消火時間が12.9秒であり、標準偏差(SD)は5.9であって、実施例5〜8よりも明らかに消火能力が劣っていた。
【0061】
なお、フェロセン(2)〜(4)を用いなかった点以外は、実施例5〜8と同じ方法で消火剤を製造し、評価したところ、いずれの場合でも、消火剤の噴霧開始から20秒以内に消火できず、このことから、界面活性剤(1)〜(4)が消火能力を有していないことが確認された。
【0062】
<消火剤の製造及び分散性の評価>[実施例9]
表3に示すように、100mLの三角フラスコに、粉砕フェロセン(2)、粉砕フェロセン(3)又は粉砕フェロセン(4)と、水(100mL)と、分散剤として界面活性剤(1)、界面活性剤(2)、界面活性剤(3)又は界面活性剤(4)とを添加し、温度を30℃、40℃又は50℃とした後、さらに超音波(40kHz)を20分間照射して、消火剤を得た。このとき、粉砕フェロセン(2)〜(4)の添加量は、分散物中での濃度が20ppmとなるように調節した。また、界面活性剤(1)〜(4)の添加量は、分散物中での濃度が臨界ミセル濃度(cmc)の1倍、2倍又は5倍となるように調節した。
界面活性剤(1)〜(4)の臨界ミセル濃度は、あらかじめデュヌイ表面張力計を用いて測定しておいた。
次いで、製造直後の消火剤を室温で20分間静置した後、フェロセン(粉砕フェロセン(2)〜(4))の分散性を下記基準に従って目視評価した。結果を表3に示す。
(分散性の評価基準)
○:フェロセンが安定して分散した。
△:若干量のフェロセンが沈降したが、評価可能な分散液を得た。
×:超音波の照射時からフェロセンが分散しなかった。
【0063】
【表3】
【0064】
[実施例10]
表4に示す条件とした点以外は、実施例9と同じ方法で消火剤を製造し、フェロセンの分散性を評価した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
[実施例11]
表5に示す条件とした点以外は、実施例9と同じ方法で消火剤を製造し、フェロセンの分散性を評価した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
[実施例12]
表6に示す条件とした点以外は、実施例9と同じ方法で消火剤を製造し、フェロセンの分散性を評価した。結果を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表3〜6から明らかなように、分散剤がいずれの場合でも、分散温度が50℃の場合、フェロセンの分散性は概ね良好であった。また、分散剤がいずれの場合でも、フェロセンの粒径が小さい方が(すなわち、粉砕フェロセン(1)、粉砕フェロセン(2)、粉砕フェロセン(3)の順に)、フェロセンの分散性が良好になる傾向が見られた。また、分散剤がいずれの場合でも、分散剤の濃度が高い方が、フェロセンの分散性が良好になる傾向が見られた。このように、分散剤がいずれの場合でも、フェロセンの粒径、分散剤の濃度及び分散温度のいずれか一以上を調節することで、フェロセンの分散性を調節できることが確認された。
【0071】
[実施例13]<消火剤の製造>(フェロセンの粉砕)
市販品のフェロセンをメノウ乳鉢で粉砕し、目開き250μmのふるいにかけ、さらに目開き180μmのふるいにかけて、このふるい上に残ったもの(以下、「粉砕フェロセン(5)」と略記する)を選別した。実施例1と同様の方法で測定した粉砕フェロセン(5)のメジアン径は、30.9μmであった。
【0072】
(消火剤の製造)
粉砕フェロセン(5)と、硫酸アンモニウム(メジアン径:22.2μm)とボールミルにて均一に混合することにより、表7に示す異なるフェロセン濃度の消火剤を調製した。
【0073】
<消火剤の消火能力の評価>
硫酸アンモニウムのみ又は得られた消火剤1.0kgを市販のABC粉末用加圧式4型消火器(ヤマトプロテック社製、型番YP−4)に充填して、消火剤の消火能力を評価した。
【0074】
消火器の技術上の規格を定める省令 (昭和39年9月17日自治省令第27号)に準拠した以下の模型を用いて消火試験を行った。
火炎模型B−1:火皿0.2m
2、燃料n−ヘプタン
火災模型A−0.5:杉材36本
燃焼中の模型と消火器のノズル14の先端部との距離を1〜2mとして、模型に向けて消火剤を噴射し、消火の可否を評価した。10秒以内で消火でき、かつ、再燃しない場合に完全に消化されたと判定した。消火できた場合を○とし、消火できなかった場合を×として、結果を表7に示す。
【0075】
【表7】