(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る光ディスク装置1は、光ディスク媒体に記録された情報を読み取る装置であって、
図1に示すように、媒体支持部11と、スピンドルモータ12と、光学ピックアップ13と、送りモータ15と、駆動回路16と、信号出力回路17と、サーボ信号処理部18と、記録信号処理部19と、制御部20と、を備えている。
【0012】
光ディスク装置1による情報読み出しの対象となる光ディスク媒体Mは、情報が記録されるデータ記録層と、その両側からデータ記録層を保護する保護層と、が積層されて構成される。以下では、データ記録層の表面を信号面という。なお、光ディスク媒体Mは複数のデータ記録層を含んでもよい。光ディスク装置1は、光ディスク媒体Mに記録された情報を読み取るだけでなく、光ディスク媒体Mに対して情報を書き込み可能に構成されてもよい。また本実施形態では、光ディスク装置1は、少なくともCD及びBDの2種類の光ディスク媒体Mに記録された情報を読み取り可能に構成されている。
【0013】
媒体支持部11は、光ディスク媒体Mを回転可能に支持する。また、この媒体支持部11は、スピンドルモータ12から伝達される動力によって光ディスク媒体Mを回転させる。
【0014】
光学ピックアップ13は、光ディスク媒体Mに対してレーザー光を照射し、照射した光の光ディスク媒体Mでの反射光を検出して、検出した反射光に応じた信号を出力する。特に本実施形態では、光学ピックアップ13は複数種類の光ディスク媒体Mに対応して、複数の波長のレーザー光を出射可能に構成されている。
図2は、光学ピックアップ13の内部構成の一例を示す図である。この図の例においては、光学ピックアップ13は、第1発光素子31と、第2発光素子32と、光学系33と、対物レンズ34と、フォトディテクタ35と、対物レンズ駆動部36と、を備えている。
【0015】
第1発光素子31及び第2発光素子32は、レーザー光を出力する半導体レーザー素子である。第1発光素子31は、CDに対応する第1の波長の光を出射し、第2発光素子32は、BDに対応する第2の波長の光を出射する。なお、第1の波長の光は波長780nmの赤色光であり、第2の波長の光は第1の波長よりも短い波長405nmの青色光である。以下では説明の便宜上、第1の波長の光を長波長光、第2の波長の光を短波長光という。
【0016】
光学系33は、偏光ビームスプリッタ、立ち上げミラー、マルチレンズ等の複数の光学部品によって構成され、第1発光素子31及び第2発光素子32から出射された出射光を、対物レンズ34まで導く光路を形成する。また、光ディスク媒体Mで反射され、対物レンズ34を通過した反射光を、後述するフォトディテクタ35まで導く光路も構成する。第1発光素子31及び第2発光素子32から出射された出射光は、光学系33を経由して対物レンズ34によって集光され、光ディスク媒体Mに照射される。
【0017】
光ディスク媒体Mにより反射された反射光は、対物レンズ34を通過した後、光学系33によりフォトディテクタ35側に導かれる。フォトディテクタ35は、複数の受光素子により構成される。光ディスク媒体Mからの反射光がこれらの受光素子に到達すると、フォトディテクタ35は、複数の受光素子のそれぞれが受光した光の強度に応じた信号を出力信号として出力する。
【0018】
対物レンズ駆動部36は、アクチュエータ等により構成され、対物レンズ34を、光ディスク媒体Mの径方向(以下、トラッキング方向という)、及び、光ディスク媒体Mの表面に垂直な方向(以下、フォーカス方向という)の2つの方向に沿って移動させる。対物レンズ駆動部36が対物レンズ34をフォーカス方向に沿って移動させることにより、対物レンズ34から光ディスク媒体Mの表面までの距離が変化する。
【0019】
送りモータ15は、光学ピックアップ13全体をトラッキング方向に沿って移動させる。この送りモータ15の駆動によって、光学ピックアップ13は、光ディスク媒体Mの中心近傍の位置から外周近傍の位置まで移動可能になっている。
【0020】
駆動回路16は、サーボ信号処理部18から入力される制御信号に従って、スピンドルモータ12、送りモータ15、及び対物レンズ駆動部36を駆動する駆動信号を出力する。この駆動回路16からの駆動信号に応じて、スピンドルモータ12の回転速度が変化することによって、光ディスク媒体Mの回転速度が制御される。また、この駆動回路16からの駆動信号に応じて対物レンズ駆動部36及び送りモータ15が駆動することによって、対物レンズ34の媒体回転軸からの距離、及び対物レンズ34の媒体表面までの距離が制御される。
【0021】
信号出力回路17、サーボ信号処理部18、記録信号処理部19、及び制御部20は、例えば、光学ピックアップ13から出力されるアナログ信号を処理するアナログ回路、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器、及び当該変換により得られたディジタル信号を処理するDSP(Digital Signal Processer)やマイクロコンピュータなどによって実現される。
【0022】
信号出力回路17は、フォトディテクタ35が出力するアナログ信号に基づいて、各種の信号を出力する。具体的に、信号出力回路17は、各受光素子からの出力信号を所与のゲイン(増幅率)で増幅して得られる増幅信号に対して演算を行うことによって、フォーカスエラー信号(FE信号)、トラッキングエラー信号(TE信号)、データ再生用のRF信号などを出力する。フォーカスエラー信号は、光ディスク媒体Mの信号面と対物レンズ34の焦点位置との間のフォーカス方向のずれを表す信号である。トラッキングエラー信号は、対物レンズ34の焦点位置と光ディスク媒体Mのトラック位置との間のトラッキング方向のずれを表す信号である。また、信号出力回路17は、複数の受光素子の出力信号を増幅して全加算することで得られるプルイン信号(PI信号)も出力する。
【0023】
サーボ信号処理部18は、信号出力回路17が出力するPI信号、FE信号、TE信号などに基づいて、サーボ制御用の各種の信号を生成し、制御部20に出力する。また、サーボ信号処理部18は、制御部20から入力される指示に従って、駆動回路16に対して対物レンズ駆動部36や送りモータ15、スピンドルモータ12を駆動させるための制御信号を出力する。
【0024】
特にサーボ信号処理部18は、制御部20からの指示に応じてサーボ制御を実行する。具体的に、サーボ信号処理部18は、制御部20からサーボ制御開始の指示が入力されると、信号出力回路17から入力されるFE信号に応じて対物レンズ駆動部36を制御する制御信号を出力することにより、対物レンズ34のフォーカス方向の位置調整を行うフォーカスサーボ制御を行う。これにより、対物レンズ34のフォーカスが光ディスク媒体Mの信号面に一致する状態が維持される。また、サーボ信号処理部18は、信号出力回路17から入力されるTE信号に応じて対物レンズ駆動部36を制御する制御信号を出力することにより、対物レンズ34のトラッキング方向の位置を変化させるトラッキングサーボ制御を行う。これにより、対物レンズ34のフォーカスがデータ記録層内のトラックに追従するように、対物レンズ34が媒体表面に対して相対移動する。このように、サーボ信号処理部18が実行するサーボ制御によって、光ディスク媒体Mの表面に対する対物レンズ34の相対位置が制御されることにより、光学ピックアップ13が光ディスク媒体Mから情報を読み取り可能な状態が維持され、その間に情報の読み出しが行われる。
【0025】
記録信号処理部19は、信号出力回路17が出力するRF信号に基づいて、光ディスク媒体Mに記録された情報を示すディジタル信号を復調して、制御部20に出力する。また、記録信号処理部19は、光学ピックアップ13による光ディスク媒体Mに記録された情報の読み取り精度に関する評価値(RF振幅やジッター値など)を算出し、制御部20に対して出力する。
【0026】
制御部20は、例えばマイクロコンピュータによって構成され、実行モジュールと記憶素子とを含む。この制御部20の記憶素子には、実行するべきプログラムや各種パラメーターが格納され、実行モジュールは、当該記憶素子に格納されたプログラムに従って処理を行う。具体的に、制御部20は、光ディスク装置1にセットされた光ディスク媒体Mの種別判定処理を行う。
【0027】
また、制御部20は、パーソナルコンピュータや、家庭用ゲーム機本体、ビデオデコーダなどのホストに接続され、ホストからの要求に応じて、送りモータ15や対物レンズ駆動部36を駆動させる命令をサーボ信号処理部18に出力し、対物レンズ34の焦点(すなわち、光ディスク媒体M上における情報の読み取り位置)を光ディスク媒体M上の所望の位置へ移動させる。また、併せてスピンドルモータ12の回転速度を変更する命令をサーボ信号処理部18に出力し、光ディスク媒体Mの回転速度を調整する。そして、その状態において記録信号処理部19が出力する、光ディスク媒体Mから読み取られた信号から復調された信号を、ホスト側へ出力する。
【0028】
[光ディスク媒体の種別判定処理]
以下、本実施形態において光ディスク装置1が実行する光ディスク媒体Mの種別判定処理の具体例について、説明する。この種別判定処理は、例えば光ディスク装置1に新たに光ディスク媒体Mがセットされた場合や、光ディスク装置1の電源が投入された場合などに実行される。また、この処理は、制御部20が記憶素子に格納しているプログラムに従って各部の制御を行うことにより実現される。このプログラムは、各種のコンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体に格納されて提供されてもよい。
【0029】
まず制御部20は、従来の光ディスク装置と同様に、光ディスク媒体Mの媒体表面から信号面までの距離Lを計測することによって光ディスク媒体Mの種別判定を試みる。具体的に、制御部20は、発光素子31に短波長光を出射させながら、対物レンズ34をフォーカス方向に沿って一定速度で移動させるよう対物レンズ駆動部36を制御する。この移動の方向は、対物レンズ34を光ディスク媒体Mの媒体表面に近づける方向でも遠ざける方向でもよいが、ここでは近づける方向に移動させることとする。このように光ディスク媒体Mに向かう方向に沿って一定速度で対物レンズ34を移動させる操作を、以下ではスイープ操作という。
図3は、スイープ操作時の対物レンズ34の光ディスク媒体Mに対する動きを模式的に示す図である。
【0030】
スイープ操作が行われている間に、対物レンズ34の焦点は光ディスク媒体Mの媒体表面、及び信号面を一度ずつ通過し、その際に光ディスク媒体Mからの反射光によってPI信号にピークが現れることになる。以下ではこの短波長光を用いた種別判定処理を、一次判定処理という。
【0031】
図4は、短波長光を出力しながらスイープ操作を行った場合に得られるPI信号の波形(すなわち、PI信号の時間変化)を示す図である。
図4では、媒体表面での反射による表面反射信号S、及び信号面での反射による信号面反射信号Tの2つのピークがPI信号に現れている。図中のTh1はピーク検出用の閾値(以下、ピーク検出閾値Th1という)を表しており、このピーク検出閾値Th1を超えるPI信号のピークが、表面反射信号S、及び信号面反射信号Tとして検出される。スイープ操作中は対物レンズ34を一定速度で光ディスク媒体Mに近づけているので、表面反射信号Sの検出タイミングt1と信号面反射信号Tの検出タイミングt2の間の時間間隔Δtが、光ディスク媒体Mの媒体表面から信号面までの距離Lに対応している。距離Lが算出できれば、光ディスク媒体Mの種別を特定できる。なお、この一次判定処理において長波長光ではなく短波長光を使用しているのは、長波長光の場合は対物レンズ34の焦点距離が長くなるため、距離Lが短いBDにおいて、表面反射信号Sと信号面反射信号Tを互いに独立に検出できなくなってしまうからである。
【0032】
光ディスク装置1を長期間使用していると、光学ピックアップ13の光学系33にほこりやたばこのヤニなどが付着して光の透過率が悪化し、フォトディテクタ35が検出する信号のレベルが低下する現象が生じる。本願発明者らは、研究の結果、特に波長の短い光を使用した場合により大きく信号レベルが低下することを見出した。このような現象が生じると、表面反射信号Sのピークレベルがピーク検出閾値Th1を下回ってしまい、表面反射信号Sを検出できなくなる場合がある。そこで本実施形態では、以上説明した一次判定処理において表面反射信号Sを検出できなかった場合には、さらに長波長光を用いた種別判定処理を行う。以下では、この長波長光を用いた種別判定処理を二次判定処理という。
【0033】
前述したように、長波長光を用いてBDに対するスイープ操作を行った場合、BDの距離Lが比較的短いために、表面反射信号Sと信号面反射信号Tが分離されずに一つのピークとして現れる。
図5は、BDに対して長波長光を出力しながらスイープ操作を行った場合に得られるPI信号の波形の一例を示す図である。このように長波長光を用いたスイープ操作においてピークが一つしか検出されなければ、光ディスク媒体MはBDであると特定できる。なお、制御部20は、単にピークの数だけで光ディスク媒体Mの種別を判定するのではなく、検出されたピークの信号レベルに応じて光ディスク媒体Mの種別を判定してもよい。具体的に、制御部20は、最初に検出されたピークレベルが所定のBD判定閾値Th2を上回る場合に、光ディスク媒体MがBDであると判定してもよい。この場合のBD判定閾値Th2は、表面反射信号S単独で表れるピークを信号面反射信号Tによるものと誤判定してしまわないように、予想される表面反射信号Sのピークレベルに所定の係数(例えば1.5)を乗じて得られる値に設定される。このBD判定閾値Th2は、光ディスク装置1の出荷時に予め設定されてよい。
【0034】
逆に、二次判定処理において表面反射信号Sと信号面反射信号Tのそれぞれが独立に検出されれば、制御部20は光ディスク媒体MがBDではないと判定する。
図6は、CDに対して長波長光を出力しながらスイープ操作を行った場合に得られるPI信号の波形の一例を示している。この図に示すように表面反射信号S及び信号面反射信号Tのそれぞれによるピークが検出されれば、光ディスク媒体MはBDではないことになる。より具体的に、制御部20は、最初に検出されたピークレベルがBD判定閾値Th2以下の場合には、そのピークは表面反射信号Sによるものであり、光ディスク媒体MがBDではないと判定する。さらにこの場合、一次判定処理の場合と同様に、表面反射信号Sの検出タイミングt1と信号面反射信号Tの検出タイミングt2から光ディスク媒体Mの種別を判定してもよい。特に本実施形態に係る光ディスク装置1がCD及びBDだけでなく、DVD等にも対応している場合、制御部20は光ディスク媒体MがBD以外の場合にこのt1及びt2を用いて光ディスク媒体Mの種別を判定できる。なお、前述したように長期間の使用による信号レベルの低下は特に波長の短い光を出射した場合に生じるので、短波長光を用いる一次判定処理では表面反射信号Sが検出できなかったとしても、長波長光を用いる二次判定処理では表面反射信号Sを検出することが期待できる。
【0035】
以上の説明では、まず短波長光を用いて一次判定処理を実行した後、一次判定処理で光ディスク媒体Mの種別を特定できなかった場合に、長波長光を用いた二次判定処理を実行することとした。しかしながら、これに限らず本実施形態に係る光ディスク装置1は、最初から上述した二次判定処理を実行して光ディスク媒体Mの種別を判定してもよい。
【0036】
また、判定処理自体は一次判定処理、二次判定処理の順に実行するとしても、各判定処理に用いるPI信号波形の取得順序は、判定処理の順序とは逆であってもよい。この場合の光ディスク媒体Mの種別判定処理の実施手順について、
図7のフロー図を用いて説明する。
【0037】
まず制御部20は、センサー(不図示)により光学ピックアップ13上に何らかの物体の存在を検知した場合や、ディスクトレイが開閉された場合など、新たに何らかの媒体が媒体支持部11にセットされたと推定される場合に、それが本実施形態に係る光ディスク装置1が対応する光ディスク媒体Mか否かを判定するために、まず長波長光を出力しながらスイープ操作を実行する(S1)。このとき制御部20は、スイープ操作中にPI信号波形に表れるピークの数、及びそのピークレベルの情報を取得する(S2)。
【0038】
その後、制御部20は一次判定処理を実行する。具体的に、制御部20は、短波長光を出力しながらスイープ操作を実行する(S3)。そして、その間のPI信号波形から表面反射信号S及び信号面反射信号Tの二つのピークが検出されたか否かを判定する(S4)。表面反射信号S及び信号面反射信号Tの双方が検出されれば、制御部20は、その検出タイミングt1及びt2に基づいて光ディスク媒体Mの種別を特定する(S5)。
【0039】
一方、S4で一つしかピークが検出されなかった場合、制御部20は、S2で取得された情報を用いて二次判定処理を行う。具体的に、制御部20は、S2で最初に検出されたピークレベルがBD判定閾値Th2を超えるか否かを判定する(S6)。BD判定閾値Th2を超えていると判定された場合、制御部20は光ディスク媒体MがBDであると特定し(S7)、処理を終了する。一方、超えていないと判定される場合、制御部20はS5と同様にS2で取得された二つのピークの検出タイミングt1及びt2に基づいて光ディスク媒体Mの種別を特定する(S8)。
【0040】
以上説明した本実施形態に係る種別判定処理によれば、本来的にはBD用でない長波長光を用いてスイープ操作を行った場合に検出されるピークの数に応じて、光ディスク媒体MがBDか否かを判定する。これにより、長期間の使用によって信号レベルが低下した状態であっても、信号の増幅や閾値の下方修正を行うことなく光ディスク媒体Mの種別を判定することができる。
【0041】
[情報読み取り時の信号品質低下対策]
次に、本実施形態に係る光ディスク装置1が光ディスク媒体Mからの情報読み取り時に実行する信号品質の低下対策について説明する。
【0042】
前述したように、長期間光ディスク装置1を使用していると、特に短波長光を使用した場合に信号品質の低下が生じる。これにより、光ディスク媒体Mから情報の読み取りを行う際にも、信号レベルが低下して読み取りエラーが発生することがある。本願発明者らは、研究の結果、この信号品質の低下の影響が、特に照射される光の強度が強い光軸付近で大きくなることを見出した。
図8A及び
図8Bは、この信号品質の低下を説明するための図であって、それぞれ、横軸が光学系33のトラッキング方向に沿った視野を、縦軸がその位置で光ディスク媒体Mから情報を読み取る際のジッター値を示している。また、
図8Aは信号品質の劣化が生じていない場合の視野−ジッター特性を、
図8Bは時間経過による信号品質の劣化が生じた場合の視野−ジッター特性を、それぞれ示している。なお、
図8A及び
図8Bにおける一点鎖線は光学系33から出射される光束の中心位置を示している。以下では、この光束の中心位置を光軸位置Cと表記する。
【0043】
図8Aに示されるように、初期出荷時の状態では光軸位置Cで最もジッター値が低くなっており、これは光軸位置Cに対物レンズ34の位置を合わせて情報を読み取った場合の読み取り品質が最も高いことを示している。これに対して信号品質の劣化が生じると、
図8Bに示すようにその影響は光軸位置Cの近傍で最も顕著に表れ、光軸位置Cからずれた領域では大きな影響を受けないことが分かる。そこで本実施形態に係る光ディスク装置1は、短波長光を使用してBDからの情報読み取りを行っている間に信号品質の劣化による読み取りエラーが発生した場合に、光軸と対物レンズ34とのトラッキング方向に沿った相対位置をあえてずらして読み取りを行うことにより、信号品質の劣化の影響を受けにくくする。以下ではこの制御を、光軸ずらし制御という。
【0044】
図9A及び
図9Bは、光学系33と対物レンズ34との相対的な位置関係を示す図である。
図9Aは、通常時の位置関係を示しており、光軸位置Cと対物レンズ34の中心とが一致している。
図9Bは、光軸ずらし制御を行った場合の光学系33と対物レンズ34との位置関係の一例を示している。ここでは対物レンズ駆動部36によって対物レンズ34をトラッキング方向に沿って光ディスク媒体Mの外周側にΔrだけずらしており、その結果情報の読み取り位置(すなわち、対物レンズ34の焦点位置)は光学系33の光軸位置CからΔrだけずれている。これにより、
図8BにおけるC+Δrの位置で読み取りが行われることになり、信号品質の劣化を低減することができる。なお、ここでは光ディスク媒体Mの外周側に対物レンズ34を移動させることとしたが、内周側に移動させてもよい。また、この場合の対物レンズ34の移動量は、トラッキングサーボ制御の実行時に対物レンズ34が移動する範囲と比較して大きな値になっており、例えば±0.1mm以上の値であることが好ましい。
【0045】
なお、このように対物レンズ34の光学系33に対する相対位置をずらすと、フォトディテクタ35に入射する光ディスク媒体Mからの反射光(スポット)の位置もフォトディテクタ35の中心からずれることになる。しかしながら、このようなスポットの位置ずれが意図せずに生じてしまう場合に、TE信号が正しく対物レンズ34の焦点位置と光ディスク媒体Mのトラック位置との間のずれを表すようにTE信号を補正する技術が知られている。このような技術を適用することにより、光軸ずらし制御によって対物レンズ34の位置を光軸位置Cに対してトラッキング方向に沿って意図的にずらした場合にも、この位置ずれの影響がキャンセルされたTE信号を取得することができる。
【0046】
一般的に光学ピックアップ13は、
図8Aに示されるように、光軸位置Cで情報の読み取りを行った場合に最も読み取り品質がよくなるように設計されている。そのため、無条件で光学系33と対物レンズ34との位置をずらしてしまうと、不要な読み取り品質の低下を招くことになる。そこで本実施形態に係る光ディスク装置1は、特定の条件が満たされた場合のみ、以上説明したような光軸ずらし制御を行うこととする。より具体的には、光ディスク媒体の種別判定処理を行った際に、当該光ディスク媒体から得られる信号のレベルが十分でないと判定される場合に、光軸ずらし制御を行う。以下、本実施形態に係る光ディスク装置1が実行する光軸ずらし制御の具体例について、
図10のフロー図を用いて説明する。この光軸ずらし制御は、種別判定処理と同様に、制御部20が記憶素子に格納しているプログラムに従って各部の制御を行うことにより実現される。このプログラムは、各種のコンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体に格納されて提供されてもよい。
【0047】
制御部20は、ホストから情報の読み取り命令を受け付けると、まずは対物レンズ34の位置が基準位置になる状態で情報の読み取りを開始する(S11)。ここでの基準位置は、トラッキングサーボ開始時の対物レンズ34が
図9Aに示すように光軸位置Cに一致するような位置である。
【0048】
この状態で正常に読み取りが行われている間は、光軸ずらし制御を行う必要がない。信号レベルの低下によって訂正不能な読み取りエラーが発生すると(S12)、制御部20は、光軸ずらし制御を行うか否かの判定を行う。より具体的に、制御部20は、現在読み取り中の光ディスク媒体Mに対して上述した種別判定処理を実行した際に、短波長光による一次判定処理だけで光ディスク媒体Mの種別を特定できたか、あるいは二次判定処理まで実行して光ディスク媒体MがBDであると特定されたかを判定する(S13)。このような判定を行うために、前述した光ディスク媒体Mの種別判定処理を実行した際には、二次判定処理まで実行したか否かを示すフラグ情報を制御部20の記憶素子に格納しておくこととする。制御部20は、このフラグ情報を参照して二次判定処理を実行したか否かを判定する。
【0049】
一次判定処理だけで光ディスク媒体Mの種別を特定できていた場合、信号レベルの低下は生じていないと推定されるので、制御部20は、例えば読み取りを中断するなど、従来と同様のエラー処理を行う(S14)。一方、二次判定処理まで実行して光ディスク媒体MがBDであると特定された場合には、光軸ずらし制御を行うこととする。具体的に、制御部20は、対物レンズ34の位置を基準位置から所定量+Δrだけトラッキング方向に沿って移動させる(S15)。なお、ここでは対物レンズ34の移動方向は光ディスク媒体Mの外周に向かう方向であるものとする。これにより対物レンズ34と光学系33とは
図9Bに示すような位置関係になる。
【0050】
この状態で読み取りに成功すれば、そのまま読み取りを継続する(S16)。一方、さらに読み取りエラーが発生した場合、今度は対物レンズ34の位置を基準位置から所定量−Δrだけトラッキング方向に沿って移動させる(S17)。すなわち、S15の移動方向とは逆方向(光ディスク媒体Mの中心に向かう方向)に同じ移動量だけ対物レンズ34を移動させる。この状態で読み取りに成功すれば、そのまま読み取りを継続する(S16)。逆方向に対物レンズ34を移動させても読み取りに失敗する場合には、従来と同様のエラー処理を行う(S14)。
【0051】
読み取りが終了して光ディスク媒体Mが光ディスク装置1から取り出された場合、制御部20は、以上説明した対物レンズ34の位置を基準位置に戻すこととする。光ディスク媒体Mの種類によっては読み取りに成功する場合もあり、読み取りに成功する限り光軸ずらし制御を行う必要はないからである。
【0052】
なお、本実施形態に係る光ディスク装置1が光ディスク媒体Mから情報の読み取りを行う際の対物レンズ34のトラッキング方向に沿った位置は、トラッキングサーボ制御のオフセット値と、光学系33の光軸位置Cに対する相対位置のパラメーターの2つの要因により決定される。そして、トラッキングサーボ制御におけるオフセット値は、上述した光軸ずらし制御に関係なく常に0に設定される。そのため、従来の光ディスク装置と同様に、トラッキングサーボ制御の実行中、対物レンズ34の焦点位置は光ディスク媒体Mのトラック位置に追従するように制御される。光軸ずらし制御によれば、光学系33の光軸位置Cに対する対物レンズ34の相対位置だけが、その基準位置に対してディスク外周方向及び内周方向のいずれかに変更される。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る光ディスク装置1によれば、信号レベルの低下により読み取りエラーが発生した際に光学系33の光軸に対する対物レンズ34の相対位置をずらすことにより、信号レベルの低下が生じている箇所を避けて読み取りを継続することが期待できる。
【0054】
なお、以上の説明ではBDからの読み取りを行う場合に限って光軸ずらし制御を行うこととしたが、BD用の短波長光を照射する場合とその他の比較的長波長の光を照射する場合とで光学系33の一部や対物レンズ34が共用される場合など、他の種類の光ディスク媒体Mから情報の読み取りを行う際にも同様の影響が生じる可能性がある。そこで光ディスク装置1は、他の種類の光ディスク媒体Mから情報を読み取る場合にも同様の光軸ずらし制御を実行してもよい。また、以上の説明では光ディスク媒体Mの外周方向、及び内周方向のいずれに対物レンズ34をずらす場合にも一段階だけしか対物レンズ34を移動させないこととしたが、一段階ずらしても読み取りエラーが発生する場合、さらに大きく対物レンズ34を移動させてもよい。
【0055】
また、以上の説明では光ディスク媒体Mの種別判定処理において二次判定処理を実行したか否かに応じて、光軸ずらし制御を実行するか否かを決定することとした。しかしながら、これに限らず、光ディスク装置1は読み取りエラーの発生時に無条件で光軸ずらし制御を試みることとしてもよい。あるいは、光ディスク媒体Mの種別判定処理など、新たに光ディスク媒体Mがセットされた際に実行される初期処理において測定された各種のデータに基づいて光軸ずらし制御を行うか否か決定してもよい。より具体的に、例えば光ディスク装置1は、初期処理に測定された表面反射信号S及び/又は信号面反射信号Tのピークレベルが所定の閾値以下の場合に、光軸ずらし制御を実行することとしてもよい。
【0056】
なお、以上の説明では光学系33及び対物レンズ34は長波長光と短波長光とで共用されるものとしたが、これらは長波長光用と短波長光用とでそれぞれ独立に配置されてもよい。
【0057】
また、以上の説明では光ディスク装置1はCD及びBDの情報を読み取る装置であるものとしたが、これに加えて、あるいはこれに代えて、DVD等の各種の光ディスク媒体Mに対応するものであってもよい。いずれにせよ、本来的には表面反射信号Sと信号面反射信号Tとを独立に検出する際には適さない比較的長波長の光を用いてディスク種別判定を行い、最初に信号面反射信号Tが検出される場合には当該光ディスク媒体Mが短波長の光向けの種別であると判定することで、短波長の光では表面反射信号Sが検出できない場合にも短波長向けの種別の光ディスク媒体Mを特定することができる。