特許第5967640号(P5967640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967640
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】多気筒内燃機関のシリンダヘッド
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/42 20060101AFI20160728BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20160728BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   F02F1/42 G
   F02F1/42 B
   F01N3/00 D
   F01N3/24 F
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-17946(P2012-17946)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-155690(P2013-155690A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】前田 直紀
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−115893(JP,A)
【文献】 特開2007−285287(JP,A)
【文献】 特開2001−280125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/42
F01N 3/00
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸線方向に並んだ複数の排気ポートが集まるポート集合空間と、前記ポート集合空間に流入した排気ガスを排出する1つの排気出口穴とが、それぞれクランク軸線方向に長手となるように形成されており、前記排気出口穴に、触媒式排気ガス浄化装置を有する排気通路が接続される構成であって、
前記ポート集合空間のうち前記排気出口穴に近い出口端部の上面のみ又は下面のみ若しくは上下両面のみに、当該ポート集合空間の出口端部の上下間隔をいったん狭めてから再び拡大させる突条が、前記ポート集合空間の長手方向に沿って形成されている、
多気筒内燃機関のシリンダヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、多気筒内燃機関のシリンダヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドには吸気ポートと排気ポートとが開口しており、排気ガスは排気ポートを通って排気通路に排出される。そして、多気筒内燃機関の場合、一般に、各気筒に対応した排気ポートはそれぞれシリンダヘッドの側面に開口しており、シリンダヘッドに排気マニホールドを接続することにより、各排気ポートを1本の排気通路に集合させているが、例えば本願出願人の出願に係る特許文献1のように、シリンダヘッドに各排気ポートが連通したポート集合空間を形成し、ポート集合空間の排気出口穴に1本の排気通路を接続することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−157827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、排気通路には一般に触媒式の排気ガス浄化装置を介挿しているが、触媒は排気ガスがある程度以上の高温でないと機能を効率良く発揮しないという性質がある。従って、燃焼室から排出された排気ガスは、できるだけ熱を奪われずに高温の状態で排気ガス浄化装置に到達するのが好ましい。
【0005】
本願発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、触媒式排気ガス浄化装置に至る排気ガスの温度低下をできるだけ抑制できるシリンダヘッドを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は排気ポートや排気通路での排気ガスの挙動を観察し、排気ガスから排気通路への熱交換の割合を減少させることを研究して、本願発明を完成させるに至った。
すなわち本願発明は、クランク軸線方向に並んだ複数の排気ポートが集まるポート集合空間と、前記ポート集合空間に流入した排気ガスを排出する1つの排気出口穴とが、それぞれクランク軸線方向に長手となるように形成されており、前記排気出口穴に、触媒式排気ガス浄化装置を有する排気通路が接続される構成であって、
前記ポート集合空間のうち前記排気出口穴に近い出口端部の上面のみ又は下面のみ若しくは上下両面のみに、当該ポート集合空間の出口端部の上下間隔をいったん狭めてから再び拡大させる突条が、前記ポート集合空間の長手方向に沿って形成されている、という点を特徴にしている。
【発明の効果】
【0007】
さて、排気ポートに接続される排気通路の始端部は曲がっていたり窄まっていたりしており、このため、排気ポートから排出された排気ガスは排気通路の始端部の壁面に衝突する傾向を呈している。そして、従来は、排気ガスが排気通路の始端部に強く衝突することが多いため、排気ガスの熱が排気通路に多く奪われていたと言える。
【0008】
これに対して本願発明では、ポート集合空間の出口端部拡大部になっていることにより、排気ポートから排出された排気ガスは流速が低下するため、排気ガスが排気通路の始端部の内面に強く衝突することが防止又は著しく抑制され、その結果、排気ガスを、その温度低下を抑制した状態で触媒式の排気ガス浄化装置に導くことができて、排気ガス浄化装置の機能確保に貢献できる。また、排気通路の温度上昇を抑制できるため、排気通路の耐久性アップにも貢献し得る。
【0009】
さて、シリンダヘッドは一般にアルミ等の金属を材料にした鋳造品であることが多く、そこで、排気通路との密着性を確保するため、排気ポートが開口している面(排気側面)をフライス加工で切削して平坦面と成していることが多いが、例えば排気ポートが単なるテーパ状であると、切削深さが変化すると排気出口穴の幅寸法が変化することになり、このため、排気ポートの開口端面と排気通路の始端面との間に段差が生じることがある。そして、排気ポートの開口端面と排気通路の始端面との間に段差が生じると、排気ガスの流れが阻害されたり、段差部が異常な高温になったりする弊害が発生するおそれがある。
【0010】
これに対して本願発明では、排気出口穴の拡大部の内周面を開口端面と直角のストレート状に形成しておくことにより、シリンダヘッドの切削量に関係なく開口の幅寸法を一定に保持できるため、排気ポートの開口端面と排気通路の始端面との間に段差が生じることを防止して、排気ガスの円滑な流れを確保できると共に異常高温化も防止できる。
【0011】
本願発明は、特許文献1のようにポート集合空間を一体に設けたタイプのシリンダヘッドに適用される。そして、シリンダヘッドは燃焼ガスの熱で排気通路より高温になっていることが多いため、排気ガスがシリンダヘッドの排気ポートに触れて温度低下する割合は外付けマニホールド式に比べて低くなっており、本願発明を適用すると、できるだけ高温に維持された排気ガスを、温度低下を抑制した状態で排気通路に導いて排気ガス浄化装置に到達させ得るのであり、このため、触媒式排気ガス浄化装置の機能確保をより的確に実現できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るシリンダヘッドの平断面図である。
図2図1のII-II 視正面図である。
図3】(A)は図2のIIIA-IIIA 視分離断面図、(B)〜(D)は比較例を示す図である。
図4図1の IV-IV視断面図である。
図5図1の V-V視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の内燃機関は3気筒であり、そこで、図1に示すように、シリンダヘッド1の下面には3つの燃焼室2がクランク軸線方向に直列に並んだ状態で形成されていると共に、シリンダブロックS1には3つのシリンダボアS2がクランク軸線方向に直列に並んで形成されている。シリンダボアS2にはピストンPが摺動自在に嵌まっている。
【0014】
各燃焼室2には、2つずつの第1〜第3の吸気ポート3,4,5が開口していると共に、2つずつの第1〜第3の排気ポート6,7,8が開口している。排気ポート6,7,8はポート集合空間9に集合しており、ポート集合空間9に連通した排気出口穴9aに、排気通路(排気管)10が接続されている。排気通路10の中途部には触媒式の排気ガス浄化装置(図示せず)を介挿している。
【0015】
敢えて述べるまでもないが、吸気ポート3,4,5及び排気ポート6,7,8は、燃焼室2の並び方向に延びる気筒列中心線11を挟んだ両側に配置されており、吸気ポート3,4,5の群と各排気ポート6,7,8の群とは気筒列中心線11(或いはクランク軸線方向)に沿って並んでいる。吸気ポート3,4,5の終端12は吸気バルブ13で開閉され、排気ポート6,7,8の始端14は排気バルブ15で開閉される。シリンダヘッド1のうち各燃焼室2の中央に位置した部位には、点火プラグ16を取り付けている。
【0016】
図1に示すように、排気ポート6,7,8のうち中央に位置した第2排気ポート7は、シリンダボアの軸線方向から見た平面視において直線状に近い姿勢でポート集合空間9に連続しており、他方、第1及び第3排気ポート6,8は、平面視において湾曲した姿勢でポート集合空間9に連続している。図2に示すように、ポート集合空間9は、排気ポート6,7,8の並び方向(クランク軸線方向)に細長い形状になっている。
図1に示すように、排気出口穴9aは、ポート集合空間9の長手中間部に位置している。また、図2から理解できるように、排気出口穴9aも排気ポート6,7,8の並び方向(クランク軸線方向)に長い形状になっている。また、シリンダヘッド1のうち、排気出口穴9aを囲う開口端面18はある程度の幅寸法を有する平坦面になっており、開口端面18の外側に、排気通路10を固定するためのボス部19を設け、ボス部19にタップ穴を形成している。口端面18とボス部19の端面とは同一面になっている。
【0017】
図2に一点鎖線で示すように、排気通路10の始端部には、シリンダヘッド1の排気出口穴9aと同じ形状の内径を有する拡大部10aが形成されており、排気通路10の拡大部10aは徐々に窄まって略円形に収束している。拡大部10aは、シリンダヘッド1の開口端面18に重なるフランジ10bを形成しており、フランジ10bに、シリンダヘッド1のボス部19に重なる締結部10cを一体に突設し、締結部10bがボルト20でボス部19に固定されている。また、排気通路10はシリンダヘッド1から下向きに延びている。従って、図4,5に示すように、排気通路10の始端部は下向きに湾曲している。
【0018】
そして、ポート集合空間9のうち排気出口穴9aの近くの部位の上面と下面とに、ポート集合空間9の中心方向に突出した緩い山形で土手状の突条21を設けることにより、突条21よりも外側の出口寄り部分(排気出口穴9aの内周部)を拡大部22と成している。従って、ポート集合空間9の出口端部の上下間隔は、いったん狭まってから、拡大部22において再び広がっている。
突条21及び拡大部22は、ポート集合空間9及び排気出口穴9aの長手方向に沿って長く延びている。また、突条21は、2つの第2排気ポート7の延長部に形成しており、2つの第2排気ポート7の延長部の間の部分には形成していないが、一連に延びる形態にすることも可能である。また、突条21と拡大部22はポート集合空間9の上面と下面とに形成しているが、上下面のうちのいずれか一方に形成することも可能である。
【0019】
例えば図4から理解できるように、本実施形態では、排気ポート6,7,8は僅かながら断面積を拡大させつつポート集合空間9に向かっており、ポート集合空間9では、突条21の箇所でいったん断面積を絞ってから、拡大部22で断面積が急激に拡大するようになっている
【0020】
本実施形態は3気筒の4サイクル内燃機関であるため、各気筒では、クランク軸の回転角度で240°ずつ位相がずれた状態で燃料が爆発する。従って、排気ガスも3つの排気ポート6,7,8から同時に排出されることはなくて、240°間隔で順番に排出される。
【0021】
そして、例えば第2排気ポート7を例にとると、排気ガスは平面視でほぼ直進する状態でポート集合空間9から排気通路10に流入するため、何等の対策を講じないと、図1から理解できるように、排気ガスは排気通路10における拡大部10aの内側面に衝突し、このため排気ガスの熱が排気通路10の拡大部10aに奪われて、排気ガスの温度低下が激しくなる。
【0022】
また、図4に示すように、排気通路10が下向きにカーブしていることにより、第2排気ポート7から流出した排気ガスは、排気通路10の始端部の上内面10c′に衝突する傾向を呈しており、このため、何等の対策を講じないと、排気ガスは、排気通路10の始端部の上内面10c′に衝突することによっても、急激に温度が低下してしまう。
【0023】
これに対して本実施形態では、第2排気ポート7から排出された排気ガスは、ポート集合空間9を通過するにおいて、突条21の箇所で横向きに広げられる作用を受け、次いで、拡大部22に移行すると流速が急激に低下する。
【0024】
つまり、排気ガスは突条21によって拡散作用を受けて、その状態で拡大部22,10aに移行することで流速が急激に低下するため、排気ガスが排気通路10における拡大部10aの内側面に激しく衝突したり、排気ガスが排気通路10の始端部の上内面10c′に激しく衝突したりすることを防止又は著しく抑制できる。このため、排気ガスから排気通路10への熱交換を著しく抑制できるのであり、その結果、排気ガスをできるだけ高温に保ったままで、触媒式の排気ガス浄化装置(図示せず)に到達させることができる。
【0025】
また、突条21の存在により、排気ガスは排気通路10の中心部に寄るようなガイド作用を受けており、これによっても、排気ガスが排気通路10の上内面10c′に激しく衝突することが抑制されている。つまり、突条21は、排気ガスを排気通路10の拡大部10aの長手方向に拡散させる整流作用と、上下中間部に集める整流作用とを備えている。
【0026】
第1排気ポート6及び第3排気ポート8から排出される排気ガスもポート集合空間9を通って排気通路10に流入するため、突条21による拡散作用と拡大部22による流速低下作用とを受けることになり、従って、第1排気ポート6及び第3排気ポート8から排出される排気ガスの温度低下も抑制される。
【0027】
さて、シリンダヘッド1はアルミ等の軽合金を材料にした鋳造品であり、鋳造したままで排気通路10を固定すると排気ガスの漏洩が生じたり、排気通路10の取り付け精度が悪化したりするおそれがある。そこで、フライス加工により、開口端面18とボス部19とを高い精度の平坦面に加工しているが、仮に、図3(B)のようにポート集合空間9の内面がテーパ状になっていると、切削量Eの違いにより、任意に設定した基準位置から開口端までの距離eが変化する。
【0028】
すると、排気通路10を固定したときに、(C)のように排気通路10の始端が排気出口穴9aの外側に位置したり、或いは、(D)のように排気通路10の始端が排気出口穴9aの内側に位置したりと、排気出口穴9aと排気通路10との間に段差が生じるおそれがある。すると、排気ガスの円滑な流れが阻害されたり、排気出口穴9aと排気通路10との接合部が異常加熱されたりするおそれがある。
【0029】
これに対して本実施形態では、図2(A)に示すように、拡大部22の内周面(排気出口穴9aの内周面)のうち開口端面18に近い部分を、開口端面18と直角なストレート部22aと成しておくことにより、切削量Eに関係なく軸心から開口縁までの距離を一定に保持することができる。このため、排気出口穴9aと排気通路10とは、切削量Eに関係なく、内周面が同一面を成すように接続することができる。これにより、排気ガスのスムースな流れが阻害されたり部分的な異常加熱が発生したりすることを防止できる。
【0030】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、適用対象は3気筒用のシリンダヘッドには限らず、他の気筒数の多気筒内燃機関のシリンダヘッドに広く適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関のシリンダヘッドに実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダヘッド
2 燃焼室
3,4,5 吸気ポート
6,7,8 排気ポー
ポート集合空間
9a 排気出口穴
10 排気通路
10a 排気通路の始端部を構成する拡大部
13 排気バルブ
18 開口端面
19 ボス部
21 突条
22 ポート集合空間の出口端部の拡大部
図1
図2
図3
図4
図5