(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記連結体の軸支部に対して前記支持体の上端部は、前記建物の側面に沿った水平軸を中心に回動自在に軸支されるか、又は、ボールジョイントを介して軸支されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の建物の補強構造。
前記連結体には、前記支持体を定常位置から回動方向に該支持体を付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して前記定常位置にて前記支持体を係止する係止手段と、が設けられ、
前記建物に所定の大きさを超える加速度が作用した場合に前記係止手段による係止が外れるとともに前記付勢手段に付勢されることで、前記支持体が回動可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の建物の補強構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された補強構造のように、地盤に杭を貫入して基礎を構築したり、この基礎に補強柱の柱脚を固定したりするためには、その施工が大掛かりになってしまい、工期の短縮が十分に図れないとともにコストの増加が避けられず、比較的小規模な建物への適用が困難である。また、建物から屋外側に離隔した位置に基礎や補強柱を設置するためには、建物周辺の敷地に余裕が必要であり、建物が密集した都市部における住宅や店舗などへの適用が困難である。さらに、建物の屋外に出っ張って補強柱及び基礎が設置されることから、敷地の利用が制限されることとなり、利便性が著しく低下してしまうという問題もある。
【0005】
したがって、本発明は、簡便かつ低コストで施工可能であるとともに、利便性を低下させずに様々な規模や敷地条件の建物に適用可能な建物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載の建物の補強構造は、基準面から立ち上がる所定階の層崩壊を防止するための建物の補強構造であって、前記所定階の上部又は該所定階よりも上方における前記建物外部に固定される連結体と、前記連結体の軸支部に上端部が軸支されて下方に延びる支持体と、を備え、前記支持体は、前記所定階の層間変位に伴って前記軸支部を中心に回動可能に設けられ、前記層間変位が所定変形角未満の場合には、該支持体の下端部が前記基準面から所定距離だけ離間して設けられ、前記層間変位が所定変形角を超えた場合には、回動した該支持体の下端部が前記基準面に当接し、該基準面と前記連結体とに亘る圧縮材として該支持体が機能する
ものであって、前記支持体の下端部には、少なくとも下方に向かって凸状に形成されるとともに前記基準面に当接可能な球面部を有した当接部材が設けられ、前記基準面は、略フラットに設けられて前記当接部材に当接する着座面と、この着座面に連続して前記当接部材の滑りを停止させる立上り面と、を有した着座部材から構成され、前記連結体は、前記建物外部に固定される第1ベース部及び第2ベース部と、これら第1及び第2のベース部にスライド自在に支持されて前記軸支部となるブラケット部と、前記第1及び第2のベース部と前記ブラケット部との間に介挿される粘弾性体からなる減衰部材と、を有して構成されていることを特徴とする。
【0007】
ここで、本発明の補強構造を適用する建物としては、その用途(住宅、店舗、商業ビル、工場、倉庫など)や、規模(建築面積、容積、階数など)、構造種別(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など)、構造形式(軸組構造、ラーメン構造、壁式構造など)は、いずれも限定されず、各種の建物に対して本発明の補強構造を適用することができる。また、本発明において、基準面とは、地表面、基礎や土間の上面、直下階の上面(屋根面)、所定階の床面など、所定階の下方において水平又は略水平に延びる面であればよい。この所定階とは、建物の1階でもよいし、2階以上の階であってもよく、直下階からセットバックした部分の階やピロティ階など、適宜な階であればよく、さらに、所定階としては、一層でも複数層でもよく、耐震(耐風)上の弱点となりやすい階を所定階に設定して本発明の補強構造を適用することができる。また、所定変形角とは、層崩壊を起こしうる1/30程度以上で1/10程度以下(又は1/5程度以下)の範囲で適宜に設定することが可能である。
【0009】
請求項
2に記載の建物の補強構造は、請求項
1に記載された建物の補強構造において、前記当接部材は、前記支持体の長手方向に沿って位置調節可能に該支持体に取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項
3に記載の建物の補強構造は、請求項1
又は2に記載された建物の補強構造において、前記連結体は、前記所定階の柱頭部に接合される梁に固定されるか、又は、前記所定階の直上階の柱に固定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項
4に記載の建物の補強構造は、請求項1〜
3のいずれか一項に記載された建物の補強構造において、前記連結体の軸支部に対して前記支持体の上端部は、前記建物の側面に沿った水平軸を中心に回動自在に軸支されるか、又は、ボールジョイントを介して軸支されていることを特徴とする。
【0012】
請求項
5に記載の建物の補強構造は、請求項1〜
4のいずれか一項に記載された建物の補強構造において、前記連結体には、前記支持体を定常位置から回動方向に該支持体を付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して前記定常位置にて前記支持体を係止する係止手段と、が設けられ、前記建物に所定の大きさを超える加速度が作用した場合に前記係止手段による係止が外れるとともに前記付勢手段に付勢されることで、前記支持体が回動可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された発明によれば、地震などによって建物の所定階に生じる層間変位が所定変形角を超えた場合には、回動した支持体の下端部が基準面に当接し、基準面と連結体とに亘る圧縮材として支持体が機能するので、この支持体によって所定階よりも上側の建物を支持して所定階の層崩壊を防止することができる。そして、連結体は、建物外部に固定されるので、建物の屋外側からの施工によって補強構造を構成することができる。さらに、支持体は、連結体から下方に延びて吊下げられ、その下端部が基準面から所定距離だけ離間して設けられているので、この支持体が建物の屋外側に大きく出っ張ることがないとともに、支持体を基礎等に連結する必要もない。従って、簡便な施工によって補強構造を構成してコストを抑制させることができるとともに、敷地に余裕がない場合でも補強構造を設置することができ、本発明の補強構造を設置することができる建物の規模や種別、用途等の適用範囲を大幅に拡大することができる。
【0014】
また、下方に向かって凸状の球面部を有した当接部材を支持体の下端部に設け、この当接部材の球面部を基準面に当接させることで、回動した支持体の下端部と基準面との当接状態を安定させることができる。即ち、下端部の形状が角形などの場合には、支持体の回動角度によって基準面に当接する位置が安定せず、所望の支持状態が得にくくなってしまうのに対して、球面部を基準面に当接させるようにしたことで、支持体の回動角度に関わらずに所望の支持状態を得ることができる。
【0015】
請求項
2に記載された発明によれば、支持体の長手方向に沿って当接部材を位置調節可能に取り付けることで、連結体を建物側面に固定した後に当接部材の位置調整を行うことができ、所望の支持状態をさらに得やすくすることができる。また、建物への連結体の固定に際し、その高さ方向位置を高精度に位置決めしながら固定する必要もなくなることから、施工をより簡便に実施することができて作業性を向上させることができる。
【0016】
請求項
3に記載された発明によれば、所定階の柱頭部に接合される梁、又は、所定階の直上階の柱に連結体を固定することで、所定階の柱に座屈や破損が生じた場合でも、連結体と建物との固定状態を良好に維持することができ、支持状態の支持体に作用する圧縮力を連結体から梁や直上階の柱を介して建物に確実に伝達することができる。
【0017】
請求項
4に記載された発明によれば、支持体の上端部が建物の側面に沿った水平軸を中心に回動自在に軸支されていれば、支持体の下端部側が建物の側面に対して離間接近する方向に回動することとなり、この方向への層間変位に対する補強構造を構成することができる。一方、支持体の上端部がボールジョイントを介して軸支されていれば、建物の側面に対して離間接近する方向のみならず、建物の側面に沿った方向も含めた三次元空間内を支持体の下端部側が回動可能となるので、所定階に生じる複数方向の層間変位に対して補強構造を機能させることができ、補強構造の設置数を削減することができる。
【0018】
請求項
5に記載された発明によれば、連結体に係止手段を設けたことで、常時においては支持体が回動しないように定常位置に保持することができる。一方、地震等によって建物に所定の大きさを超える加速度が作用した場合には、係止手段による係止が外れるとともに、付勢手段によって支持体を回動させることで、回動した支持体による支持状態を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第一実施形態〕
以下、本発明の第一実施形態に係る建物の補強構造を、
図1〜
図10に基づいて説明する。本実施形態の補強構造を適用した建物1は、例えば、比較的小規模かつ築年数が経過した戸建住宅やアパート、店舗等の既存建物であって、木造軸組構造等からなる2階建ての建物本体2とコンクリート製の基礎3とを有して構成されるものである。この建物1は、
図1に示すように、水平二方向であるX,Y方向に沿ってY方向に長い矩形の平面形状を有しており、Y方向の一方側(
図1の下側)の道路Rを隔てる道路境界線R1と、他の三方を囲む隣地境界線R2とによって区画された敷地内に建てられている。
【0021】
建物本体2は、
図2(A)にも示すように、基礎3上の土台4に立設された1階の柱5、この柱5の柱頭に接合されて2階の床を支持する梁6、この梁6から立ち上がる2階の柱(不図示)、この柱の柱頭に接合されて屋根7を支持するR階の梁8、建物1の側面を構成する外壁9、などを備えて構成されている。また、建物本体2の1階部分の前面側(道路R側)には、出入口や窓からなる開口部Oが設けられている。基礎3は、地盤に載置される基礎底版3Aと、この基礎底版3Aから立ち上がって地表面GLよりも上方に延びる基礎立上り3Bと、を有して形成されている。
【0022】
以上の建物1は、
図2(B)に示すように、構造力学的なフレームにモデル化され、このフレームモデルに基づいて力学特性(各部の応力、変形関係や動的性状)の解析が行われる。このフレームモデルでは、例えば、基礎立上り3Bの上面位置が1階のフロアレベル(1F)とされ、2階の梁6の中心が2階のフロアレベル(2F)とされ、R階の梁8の中心がR階のフロアレベル(RF)とされ、1階から2階までのフロアレベル差が1階の構造階高H1に設定され、2階からR階までのフロアレベル差が2階の構造階高H2に設定されている。また、地表面GLから基礎立上り3Bの上面(1階のフロアレベル)までが立上り高H0に設定されている。このような建物1において、基準面としての地表面GLから立ち上がる所定階としての1階の層崩壊を防止するために、建物本体2の外壁9の屋外面9Aに補強構造10が設けられている。
【0023】
補強構造10は、
図1に示すように、図中左右両側にてY方向に延びる一対の外壁9に沿った複数個所(本実施形態では、柱5に対応した位置)において、
図2に示すように、2階のフロアレベルと略同一高さ位置から下方の地表面GL近傍までの位置に設けられている。この補強構造10は、
図3にも示すように、2階の梁6の高さ位置にて外壁9の屋外面9Aに固定される連結体11と、この連結体11に上端部が軸支されるとともに屋外面9Aに沿って下方に延びる支持体12と、この支持体12の下端部に取り付けられて基準面である地表面GLに当接可能な当接部材13と、を備えて構成されている。支持体12の上端部は、軸支部であるボルト14を介して連結体11に吊り下げ支持され、このボルト14の軸を中心として支持体12の下端部側(当接部材13の側)が外壁9に対して離間接近する方向に回動自在に構成されている。
【0024】
連結体11は、外壁9の屋外面9Aに沿って設けられるベースプレート21と、このベースプレート21に固定された2枚のブラケット22と、ベースプレート21を屋外面9Aを介して2階の梁6に固定する複数(例えば、10本)のビス23と、を有して構成されている。ベースプレート21は、例えば、厚さ4.5mm〜9mm程度(好ましくは、6mm)かつ上下に長い矩形状(150mmx110mm程度)の鋼板から形成され、ブラケット22は、ボルト14を挿通させる挿通孔が設けられた厚さ4.5mm〜9mm程度(好ましくは、6mm)の鋼板から形成され、このブラケット22がベースプレート21に溶接固定されるとともに、適宜な防錆処理(亜鉛メッキ等)が施されている。ビス23は、例えば、軸径6mmかつ長さ120mmのステンレス製六角ビスからなり、ベースプレート21に設けたビス穴を介して外壁9及び梁6に螺合されている。このようなビス23によって連結体11が固定された状態において、ベースプレート21の周縁には、外壁9の屋外面9Aとの間を止水するためのシール材24が設けられている。
【0025】
支持体12は、長尺棒状かつ角筒状の鋼管31と、この鋼管31の上端に溶接固定されるエンドプレート32と、このエンドプレート32に溶接固定されて鋼管31の長手方向に突出する軸支プレート33と、鋼管31の下端に溶接固定されて当接部材13を支持する受け部材34と、を有し、これらが一体に固定されるとともに適宜な防錆処理(亜鉛メッキ等)が施されている。鋼管31は、例えば、75mmx75mmx3.2mm(又は4.5mm)の角パイプからなり、エンドプレート32は、例えば、80mmx80mmx6mmの鋼板からなり、軸支プレート33は、例えば、ボルト14を挿通させる挿通孔が設けられた厚さ4.5mm〜9mm程度(好ましくは、6mm)の鋼板から形成され、連結体11の2枚のブラケット22間に挿通されるようになっている。受け部材34は、例えば、平面形状が80mmx80mmで高さが30mm〜40mm程度の全体直方体状に形成され、
図4に示すように、その下面に当接部材13を受け入れる凹部34Aと、この凹部34Aの底に当接部材13を螺合させるねじ孔34Bと、を有して形成されている。
【0026】
当接部材13は、全体略半球状の鋼材からなり、下方に向かって凸状に形成された球面部13Aと、この球面部13Aに連続する円柱部13Bと、この円柱部13Bの端面であり平坦に形成された上面部13Cと、を有し、球面部13A及び円柱部13Bの直径は、例えば、75mmとされ、この球面部13Aが地表面GLに当接可能に構成されている。また、上面部13Cには、受け部材34のねじ孔34Bに螺合するねじ部13Dが固定されている。この当接部材13は、ねじ部13Dをねじ孔34Bに螺合するとともに、円柱部13Bを凹部34Aに挿入して受け部材34に取り付けられ、ねじ部13Dのねじ込み量を変化させることで、支持体12の長手方向に沿って位置調節可能に構成されている。即ち、
図2,3に示すように、連結体11から鉛直下方に支持体12が吊下げられた状態において、当接部材13の最下部と地表面GLとの間には所定距離だけの隙間(隙間寸法h0)が設けられており、支持体12に対して当接部材13を位置調節することにより隙間寸法h0を調節することができるようになっている。
【0027】
ボルト14は、例えば、M20のステンレスボルトであって、その軸部先端に螺合する2個のナット14Aとの間にブラケット22及び軸支プレート33を挟み込むことで、連結体11に対して支持体12を回動自在に支持するものである。このボルト14の頭部とブラケット22との間、及びナット14Aとブラケット22との間には、図示しない摺動座金などが介挿されており、このような摺動座金として摩擦係数の小さいものを用いることで、支持体12が円滑に回動できるように構成されている。このようなボルト14の軸部の中心(支持体12の回動中心)から当接部材13の最下部までの距離が支持体12の回動半径hとなり、
図2,3に示すように、支持体12の回動半径hと、当接部材13の最下部と地表面GLとの隙間寸法h0と、を設定することによって補強構造10の地表面GLからの取付基準高さHが算出されるようになっている。なお、本実施形態において、取付基準高さHとしては、以降の説明を簡明にするために、2階のフロアレベル(2F)にボルト14の軸部の中心が合致するように取付基準高さH(H=H0+H1)を設定している。
【0028】
以上のような補強構造10の施工手順としては、先ず、取付基準高さHにブラケット22の挿通孔(即ち、軸支部であるボルト14)の中心が位置するように外壁9の屋外面9Aに連結体11を位置決めしつつ、ビス23を外壁9及び梁6に螺合して連結体11を固定する。その後、ベースプレート21の周縁にシール材24を設けて外壁9の屋外面9Aとの間を止水する。次に、2枚のブラケット22間に軸支プレート33を挿通しつつ、ブラケット22及び軸支プレート33の挿通孔にボルト14を挿通し、このボルト14の軸部にナット14Aを螺合して連結体11に支持体12を取り付ける。次に、当接部材13のねじ部13Dを受け部材34のねじ孔34Bにねじ込み、このねじ込み量を変化させて当接部材13を位置調節し、球面部13Aの最下部と地表面GLとの間隔を所定の隙間寸法h0に設定する。このように当接部材13を位置調節したら、図示しない固定ねじで当接部材13を受け部材34に固定する。以上の手順によって補強構造10の施工が完了する。
【0029】
次に、補強構造10の作用について
図5〜
図8も参照して説明する。ここでは、地震などの水平力が作用した際の建物1の変形と補強構造10の動作とを、建物1のフレームモデルを用いて説明する。
図5(A)に示すように、微小な地震(震度3程度の地震)による水平力F1が建物1に作用した場合には、建物1の揺れ(加速度や変位)も小さいことから、支持体12は、ほとんど回動せず、わずかに振動する程度である。
図5(B)に示すように、中程度の地震(震度5程度の地震)による水平力F2が建物1に作用した場合には、建物1の揺れに応じて支持体12が回動することになるが、当接部材13は、地表面GLに当接せずに地表面GLから離間した状態が維持される。次に、
図5(C)に示すように、大地震(震度6を超える地震)による水平力F3が建物1に作用し、建物1の1階に大きな層間変位が生じた場合には、支持体12も大きく回動するとともに、1階の柱5や外壁9の倒れに伴って連結体11及び軸支部(ボルト14)が移動(水平移動δH、鉛直移動δV)することから、その鉛直移動δVによって支持体12が下降して当接部材13が地表面GLに当接することになる。
【0030】
具体的には、
図6に示すように、建物1の1階に層間変位に伴う変形角θが生じた場合、軸支部(ボルト14)の水平移動δHはH1sinθとなり、鉛直移動δVはH1(1−cosθ)となる。ここで、例えば、1階の構造階高H1を3mとし、変形角θを1/30rad(約1.91°)とした場合には、水平移動δHが100mm、鉛直移動δVが約1.7mmとなる。さらに、変形角θを1/10rad(約5.73°)とした場合には、水平移動δHが300mm、鉛直移動δVが約15.0mmとなる。さらに、変形角θを1/5rad(約11.46°)とした場合には、水平移動δHが600mm、鉛直移動δVが約59.8mmとなる。このような鉛直移動δVと、当接部材13の最下部と地表面GLとの隙間寸法h0とは、
図6(A)に示すように、互いに等しくなることから、大地震後においても建物1を使用し続けるために変形角θを1/30rad程度に抑制したい場合には、隙間寸法h0を1.5mm〜2.0mm程度に設定すればよく、変形角θを1/10rad程度に抑制したい場合には、隙間寸法h0を10mm〜20mm程度に設定すればよく、1階の層崩壊を防止するために変形角θを1/5rad程度に抑制したい場合には、隙間寸法h0を50mm〜60mm程度に設定すればよい。このように設定した当接部材13の最下部と地表面GLとの隙間寸法h0と、支持体12の回動半径hとを加えることで、取付基準高さHが算出される。
【0031】
以上のように軸支部(ボルト14)の鉛直移動δVによって支持体12が下降することで、
図7(A)に示すように、当接部材13が地表面GLに当接し、これによって地表面GLと連結体11とに亘る圧縮材として支持体12が機能し、この補強構造10によって建物1の荷重が支持される。なお、
図7(A)に示すように、当接部材13が地表面GLに食い込んだ場合や、
図7(B)に示すように、支持体12が大きく回動して傾斜した状態で当接部材13が地表面GLに当接した場合などには、前述のように想定したものよりも鉛直移動δVが大きくなることから、このような現象を考慮して隙間寸法h0を設定してもよい。さらには、
図8に示すように、地表面GLへの当接部材13の食い込みを防止するために、補強構造10が着座部材15を備えて構成されていてもよい。この着座部材15は、鋼板やコンクリートなどから構成されて地表面GLから地盤に埋め込まれて固定され、その上面から凹むとともに地表面GLと略フラットに設けられて当接部材13に当接する着座面15Aと、この着座面15Aに連続して当接部材13の滑りを停止させる立上り面15Bとを有して構成されている。さらに、
図7(B)に示す着座部材15は、立上り面15Bよりも高い位置に第二立上り面15Cを有して形成され、支持体12が大きく回動して傾斜した場合であっても、第二立上り面15Cに当接部材13が当接することで、前述の想定よりも鉛直移動δVが大きくなることが防止できるようになっている。
【0032】
また、本実施形態の補強構造10は、
図9に示すように、付勢手段及び係止手段を備えて構成されていてもよいし、
図10に示すように、係止手段及び規制手段を備えて構成されていてもよい。
【0033】
具体的には、
図9に示す補強構造10において、連結体11には、
図9(A),(B)に示すように、支持体12が建物1の側面(外壁9の屋外面9A)に沿った定常位置から回動方向(屋外面9Aから離れる方向)に支持体12を付勢する付勢手段としてのコイルばね16と、このコイルばね16の付勢力に抗して定常位置にて支持体12を係止する係止手段としての一対の板ばね17と、が設けられている。コイルばね16は、その一端が連結体11のベースプレート21に接続され、他端が支持体12の鋼管31に接続され、ベースプレート21に対して鋼管31を押し出す方向に付勢している。一対の板ばね17は、それぞれの一端がベースプレート21に固定されるとともに、他端が鋼管31の側面に沿って延び、この他端側には、鋼管31を挟んで係止する係止部17Aが形成されている。この補強構造10は、
図9(C),(D)に示すように、建物1に所定の大きさを超える加速度が作用した場合に、一対の板ばね17による係止が外れるとともにコイルばね16に付勢されることで、支持体12が屋外面9Aから離れる方向に回動するように構成されている。さらに、ベースプレート21と鋼管31とに接続されたコイルばね16によって、支持体12の回動角度が規制され、例えば、コイルばね16が伸びきった場合でも、外壁9の屋外面9Aと支持体12との成す角度が15°〜20°以下に抑えられるようになっている。
【0034】
一方、
図10に示す補強構造10において、連結体11には、支持体12を定常位置にて係止する係止手段としての係止部18と、定常位置から回動した支持体12の回動角度を所定角度以下に規制する規制手段としてのリンクアーム19と、が設けられている。係止部18は、連結体11のブラケット22に形成される凹部又は凸部と、支持体12の軸支プレート33に形成される凸部又は凹部と、が互いに凹凸嵌合することで、支持体12を係止するように構成されている。リンクアーム19は、互いに回動自在に連結された一対のリンク部材を有し、一方のリンク部材が連結体11のベースプレート21に回動自在に接続され、他方のリンク部材が支持体12の鋼管31に回動自在に接続されている。この補強構造10は、
図10(B)に示すように、建物1に所定の大きさを超える加速度が作用した場合に、係止部18による係止が外れることで、支持体12が屋外面9Aから離れる方向に回動するとともに、この回動が所定角度(例えば、15°〜20°以下の角度)に達した際に、リンクアーム19におけるリンク部材同士の回動が拘束されることで、支持体12の回動角度が規制されるようになっている。
【0035】
本実施形態によれば、地震などによって建物1の所定階である1階に生じる層間変位が所定の変形角θを超えた場合には、回動した支持体12の下端部に設けた当接部材13が基準面である地表面GL又は着座部材15の着座面15Aに当接し、この支持体12によって建物1を支持して層崩壊を防止することができる。従って、建物1が隣地や道路R側に倒れ込んでしまうことを防止して、地震後の救助活動や復旧活動を阻害することなく、また、地震後においても一定条件下では建物1を継続利用することができる。
【0036】
また、補強構造10において、連結体11が建物1の側面である外壁9の屋外面9Aに固定されるので、建物1の屋外側からの施工によって簡便かつ短工期化を図り、設置コストを抑制させることができる。さらに、支持体12が建物1の側面に沿って下方に延びて吊下げられ、その下端部の当接部材13が地表面GLから隙間寸法h0だけ離間して設けられているので、この支持体12が建物1の屋外側に大きく出っ張ることがないとともに、支持体12を基礎等に連結する必要もない。従って、施工をさらに簡便化してコストを低減させることができるとともに、敷地に余裕がない場合でも補強構造10を設置することができる。
【0037】
〔第二実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態に係る建物の補強構造を、
図11及び
図12に基づいて説明する。本実施形態の補強構造10Aは、前記第一実施形態の補強構造10と同様に、連結体と、支持体と、当接部材と、を備えて構成されており、連結体11Aの構成、及び連結体11Aに対して支持体12Aを回動自在に支持する軸支部の構成が第一実施形態と相違している。以下、相違点について詳しく説明する。
【0038】
補強構造10Aは、建物1の四隅などの出隅部に設けられ、連結体11Aは、出隅部の柱5に固定されている。この連結体11Aは、X,Y各方向の外壁9の屋外面9Aに沿う一対の固定面部25と、これらの固定面部25に連続する支持面部26と、が一体に形成されたベースプレート21Aを有して構成されている。このベースプレート21Aは、一対の固定面部25を貫通するビス23によってX方向及びY方向の外壁9を介して柱5に固定されている。支持面部26は、X,Y各方向から傾斜して設けられ、即ち、出隅部の角が突出する方向(
図10の左側に向かう方向)と直交した鉛直面に沿って設けられ、この支持面部26には、ボール軸受部27が固定されている。一方、支持体12Aのエンドプレート32には、鋼管31の長手方向に突出するボール軸35が固定されている。これらのボール軸受部27とボール軸35とによって軸支部としてのボールジョイント14Bが構成され、従って、支持体12Aは、X,Y各方向の外壁9の屋外面9Aに沿った方向のみならず、出隅部の角が突出する方向を含んだ三次元空間内を回動自在に支持されている。
【0039】
以上の補強構造10Aは、例えば、
図12に示すように、建物1の前面側(図の下側)における左右2箇所の出隅部に取り付けられる。この建物1は、前記第一実施形態において説明したように、前面側に開口部Oを有しているとともに、背面側(図の上側)と左右両側部側との三方に外壁9等の壁を有していることから、剛性の偏りが大きく、地震などによって前面側の変位が大きくなる偏心振動が生じやすくなっている。このような建物1に対して開口部O側の出隅部に補強構造10Aを設けたことで、建物1に偏心振動が生じた場合であっても、その振動方向に追従して支持体12Aが回動することができる。従って、前記第一実施形態の補強構造10と同様に、補強構造10Aの支持体12Aによって建物1を支持して層崩壊を防止することができる。このように建物1の前面側の左右2箇所に補強構造10Aを設けることで、建物1の左右方向(X方向)への振動のみならず、建物1の前後方向(Y方向)への振動に対しても、補強構造10Aを機能させて層崩壊を防止することができ、補強構造10Aの設置個所数を削減しつつ隣地側や道路側への建物1の倒れ込みを有効に防止することができる。
【0040】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0041】
例えば、本発明の補強構造としては、前記実施形態で説明した補強構造10,10Aの他に、
図13,14に示す第一変形形態に係る補強構造10Bや、
図15〜17に示す第二変形形態に係る補強構造10Cなど、各種形態が採用可能である。
【0042】
具体的には、
図13,14に示す補強構造10Bは、連結体11B及び支持体12Bの構成が補強構造10,10Aと相違するものであって、連結体11Bが鋼板から折り曲げ加工によって構成され、支持体12Bから前記軸支プレート33が省略されている。即ち、連結体11Bは、建物1に固定されるベース部41と、このベース部41から折り曲げられた2枚のブラケット部42と、を有して形成されている。この連結体11Bは、前記実施形態の補強構造10,10Aのように2階の梁6に固定されずに、ベース部41が複数のビス43によって2階の柱5Aにおける柱脚部に固定されている。支持体12Bは、鋼管31とエンドプレート32とを備えるものの、軸支プレート33が設けられずに鋼管31を左右に貫通する貫通孔にボルト14が挿通されている。また、鋼管31の下端部には、前記実施形態と同様の受け部材34と当接部材13とが設けられている。このような補強構造10Bによれば、ベースプレート21にブラケット22を溶接接合するとともに、エンドプレート32に軸支プレート33を溶接接合した補強構造10,10Aと比較して、製造コストを抑制することができる。
【0043】
一方、
図15〜17に示す補強構造10Cは、連結体11Cの構成が補強構造10,10A,10Bと相違するものであって、補強構造10Bと支持体12Bの構成は同様である。即ち、連結体11Cは、第1ベース部43及び第2ベース部44と、これら第1及び第2のベース部43,44に支持されるブラケット部45と、第1及び第2のベース部43,44とブラケット部45との間に介挿される減衰部材46と、を有して構成されている。第1ベース部43は、外壁9に沿った平板状に形成され、第2ベース部44は、第1ベース部43とともに外壁9及び柱5Aに固定される上下の固定面部44Aと、固定面部44Aから屋外側にコ字形に突出して第1ベース部43側に開口した凹部44Bと、を有して形成されている。ブラケット部45は、鋼板を折り曲げ加工して平面コ字形に形成され、第1ベース部43と第2ベース部44の凹部44Bとの間に遊挿される挿通板部45Aと、この挿通板部45Aの両側端部から屋外側に延びる一対の側板部45Bと、を有し、挿通板部45Aの高さ寸法が凹部44Bの上下間隔よりも小さく形成されている。減衰部材46は、粘弾性体などの適宜な弾性を有する材料からなり、挿通板部45Aの背面と第1ベース部43との間、及び挿通板部45Aの前面と第2ベース部44の凹部44B底面との間に挟まれている。
【0044】
以上の補強構造10Cによれば、
図17(A)に示すように、常時においては、吊下げられた支持体12Bの重量によってブラケット部45とともに減衰部材46が下方に引き下げられている。一方、地震時や地震後などにおいて支持体12Bが建物1を支持した支持状態においては、支持体12Bに作用する圧縮力によってブラケット部45が押し上げられ、このブラケット部45の上昇に伴って減衰部材46も上方に押し上げられている。即ち、支持体12Bの下端部(当接部材13)が地表面GLに当接して支持体12Bに圧縮力が作用する際に、押し上げられたブラケット部45の挿通板部45Aと、第1ベース部43及び第2ベース部44の凹部44B底面との間に相対変位が生じ、減衰部材46にせん断力及びせん断変形が生じて減衰力が発揮される。さらに、第1ベース部43及び第2ベース部44の凹部44B底面に対して減衰部材46が摺動することから、この摺動抵抗による減衰力も発揮される。従って、支持体12Bに作用する圧縮力の衝撃が減衰部材46によって吸収されてから建物1に伝達されることになり、この緩衝作用によって建物1内の居住者への影響や家具等の転倒などが緩和できるようになっている。
【0045】
さらに、前記補強構造10,10A,10B,10Cにおいて、支持体12は、角形の鋼管31を有して構成されていたが、これに限らず、円形鋼管や中実の棒材を有して支持体が構成されていてもよい。さらに、前記実施形態では、支持体12の下端部に当接部材13が設けられていたが、当接部材13省略して鋼管31の下端部が基準面(地表面GL等)に当接可能に構成されていてもよい。また、当接部材13は、球面部13Bを有したものに限らず、任意の形状のものが利用可能である。さらに、前記実施形態では、当接部材13が受け部材34に対してねじ部13Dによって螺合され、この当接部材13を回転させることで鋼管31の長手方向に沿って位置調節可能に設けられていたが、これに限らず、当接部材13が鋼管31の下端部に固定されていてもよい。また、鋼管31の途中位置や上端位置に位置調節手段が設けられていてもよいし、連結体11と支持体12との軸支部(ボルト14の位置)に支持体12の支持高さを調節する調節手段が設けられていてもよく、さらには、連結体11を建物に対して高さ方向に位置調節可能に固定する位置調節手段が設けられていてもよい。
【0046】
また、前記実施形態では、戸建住宅やアパート、店舗等の既存建物に補強構造を適用する場合を例示したが、本発明の補強構造は、既存建物に限らず、新築の建物にも適用可能である。また、本発明の補強構造は、
図18に示すように、1階に駐車場等に利用されるピロティPを有した建物1Aに適用することができる。この場合、補強構造10は、前述したように建物本体2の外壁9の屋外面9Aに連結体11が固定され、屋外面9Aに沿って支持体12が吊下げられたものに限られない。即ち、補強構造10は、ピロティP内部において、建物本体2の床下面(2階の梁6の下側など)に連結体11が固定され、ピロティPの柱や壁の内部に沿って支持体12が吊下げ支持されたものでもよい。この補強構造10では、
図18(B)に示すように、地震等によってピロティPの階に大きな層間変位が生じた場合に、屋外面9Aに沿った支持体12は、その下端部が前述のように地表面GLに当接し、ピロティP内部に設けられた補強構造10の支持体12は、その下端部がピロティの床(例えば、土間や1階床)に当接することで、ピロティPの階の層崩壊を防止することができるようになっている。
【0047】
さらに、本発明において、建物の所定階としては、前記各実施形態のように、1階に限られず、基準面としては、前記各実施形態のように、地表面GLに限られない。即ち、
図19に示すように、1層又は複数層(
図19の例では、2層)の低層部と、この低層部からセットバックした上層部を有する建物1Bにおいて、低層部の屋根面(
図19の例では、2階の屋根面であり、3階の床面3FL)を基準面とし、この基準面から立ち上がる上層部における最下階(
図19の例では、3階)を所定階とし、前述と同様の補強構造10を設けてもよい。この補強構造10では、
図19に二点鎖線で示すように、地震等によって3階に大きな層間変位が生じた場合に、回動した支持体12は、その下端部が2階の屋根面(3階の床面3FL)に当接することで、3階の層崩壊を防止することができるようになっている。また、所定階としては、1層の階に限られず、
図20に示すように、3階建て以上の建物1Cにおいて、複数層(
図20の例では、1階と2階とを合わせた2層)を所定階とし、その上部や上方に補強構造10の連結体11を固定し、略2層分の長さを有する支持体12を吊り下げ支持するようにしてもよい。