(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変調された送信信号を重畳した発散光線を水中に放射して送信する発散光送信器と、該発散光送信器から放射され送信信号を重畳した発散光線を水中で受信する発散光受信器とを備えた水中発散光通信装置であって、
該発散光送信器は、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように発光素子を駆動する発光駆動部と、該発光素子から放射される発散光線を、開口部を通して狭角で放射する送信側レンズ光学系と、を備え、
該発散光受信器は、該発散光送信器の発光素子及び送信側レンズ光学系から放射された発散光線を、前記送信側レンズ光学系より広角の角度範囲で開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系と、該受信側レンズ光学系を通して入射した光を受光する受光器と、該受光器で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路と、を備え、
該送信側レンズ光学系は該開口部として第1口径の開口部を有し、該受信側レンズ光学系は該第1口径より大きい第2口径の開口部を有したことを特徴とする水中発散光通信装置。
送信信号を重畳した発散光線を水中に放射して送信する発散光送信器と、該発散光送信器から放射され送信信号を重畳した発散光線を水中で受信する発散光受信器とを備えた水中発散光通信装置であって、
該発散光送信器は、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように発光素子を駆動する発光駆動部と、該発光素子から放射される発散光線を、開口部を通して広角で放射する送信側レンズ光学系と、を備え、
該発散光受信器は、該発散光送信器の発光素子及び送信側レンズ光学系から放射された発散光線を、前記送信側レンズ光学系より狭角の角度範囲で開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系と、該受信側レンズ光学系を通して入射した光を受光する受光器と、該受光器で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路と、を備え、
該送信側レンズ光学系は該開口部として第1口径の開口部を有し、該受信側レンズ光学系は該第1口径より小さい第2口径の開口部を有したことを特徴とする水中発散光通信装置。
前記発散光受信器の受光器として、凹面鏡の前面に受光素子を鏡面に向けて配置し、該凹面鏡の内側を透明合成樹脂で充填するとともに、該受光素子の受光面を該透明合成樹脂で被覆した反射集光型受光器が使用されることを特徴とする請求項1または2記載の水中発散光通信装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レーザ光は非常に指向性が強く、レーザ光を使用する水中通信では、レーザビームが少しそれただけで、受信器側の受信感度が大きく低下する。このために、レーザ光を使用する水中レーザ光通信では、レーザ送信器から放射されるレーザビームの光軸とレーザ受信器側の受光器の光軸を正確に合わせる必要がある。一方、水中におけるレーザ光通信装置では、必然的にレーザ送信器とレーザ受信器が水中に置かれ、海中などでは水流によりレーザ送信器やレーザ受信器に揺れが発生しやすい。このために、レーザ送信器とレーザ受信器間のレーザビームの光軸にずれが生じることとなり、受信感度が著しく低下し、安定した水中光通信ができなくなる。
【0006】
そこで、上記特許文献1の水中レーザ光通信装置では、レーザ受信器に、可動光学レンズを備えた追尾装置を搭載し、レーザ送信器から放射されるレーザビームを受信するレーザ受信器が常時、その受信感度を監視し、受信感度が最良となるように、可動光学レンズを動かして制御するように構成される。
【0007】
しかしながら、海中などにおいては、常に水流があって、レーザ送信器及びレーザ受信器の両方の水中機器が常に揺動し、可動光学レンズは制御モータにより制御されるが、水中機器は3次元方向に複雑に揺動し、可動光学レンズは機械的に制御される構造であるため、レーザ送信器側とレーザ受信器側の光軸を常時正確に合わせるように制御することが難しく、レーザビームを使用して安定した水中光通信を行うことは現実的に不可能であった。
【0008】
また、海水中などの懸濁物質が存在する環境下で、懸濁物質の粒子の断面積がレーザビームの光束より圧倒的に小さい場合では、レーザビームは散乱しにくく、レーザビームによる水中光通信は可能であるが、懸濁物質の粒子の断面積がレーザビームの光束より大きい場合、或いは粒子の断面積がレーザビームの光束より小さい場合であっても、無視できるほど圧倒的に小さくはない場合、レーザビームの減衰率が大幅に増大し、レーザビームを使用する水中光通信は実施することができない。
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、発散光線を使用して安定した水中発散光通信を行うことが可能な水中発散光通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水中発散光通信装置は、
変調された送信信号を重畳した発散光線を水中に放射して送信する発散光送信器と、該発散光送信器から放射され送信信号を重畳した発散光線を水中で受信する発散光受信器とを備えた水中発散光通信装置であって、
該発散光送信器は、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように発光素子を駆動する発光駆動部と、該発光素子から放射される発散光線を、開口部を通して狭角で放射する送信側レンズ光学系と、を備え、
該発散光受信器は、該発散光送信器の発光素子及び送信側レンズ光学系から放射された発散光線を、前記送信側レンズ光学系より広角の角度範囲で開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系と、該受信側レンズ光学系を通して入射した光を受光する受光器と、該受光器で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路と、を備え、
該送信側レンズ光学系は該開口部として第1口径の開口部を有し、該受信側レンズ光学系は該第1口径より大きい第2口径の開口部を有したことを特徴とする。
【0011】
なお、ここで、発散光線とは、前方への広がり放射角度を0°より大きい角度で放射される、略円錐状でスポットライト状の光束を意味する。
【0012】
この発明によれば、水中の発散光送信器の発光素子及び送信側レンズ光学系から放射された発散光線は、より狭角でスポットライト状の発散光線として放射されて送信され、それを受信する発散光受信器は、受光素子が、狭角のスポットライト状の発散光線を、より広角で受光するので、発散光送信器、発散光受信器ともに水中で揺動した場合でも、その影響を受けにくく、短距離間から長距離間まで、水中発散光通信を安定して行なうことができ、高速大容量のデータ通信も可能となる。
【0013】
また、例えば仮に発散光送信器の送信側レンズ光学系が広角で発散光線を放射し、且つ発散光受信器の受信側レンズ光学系が広角で発散光を受光するように構成すると、電源電力を小さく制限される水中発散光通信装置の場合、放射された発散光線が受信器側の受光器に到達する割合が低下して発散光線の減衰が著しく、受信器側の受光・光電変換効率が悪化するが、本発明
によれば、比較的電力消費の大きい発散光送信器が放射する発散光線を狭角の光束とし、発散光受信器がより広角で開口部を通して受光するので、高い受光・光電変換効率で信号の受信が可能となり、長距離間の水中光通信が可能となる。また、受信側レンズ光学系の開口部の
第2口径が、送信側レンズ光学系の開口部の
第1口径より大きく形成される
ので、水中での揺動時、発散光受信器は安定して効率良く発散光線を受光することができる。
【0014】
本発明の別の水中発散光通信装置は、
送信信号を重畳した発散光線を水中に放射して送信する発散光送信器と、該発散光送信器から放射され送信信号を重畳した発散光線を水中で受信する発散光受信器とを備えた水中発散光通信装置であって、
該発散光送信器は、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように発光素子を駆動する発光駆動部と、該発光素子から放射される発散光線を、開口部を通して広角で放射する送信側レンズ光学系と、を備え、
該発散光受信器は、該発散光送信器の発光素子及び送信側レンズ光学系から放射された発散光線を、前記送信側レンズ光学系より狭角の角度範囲で開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系と、該受信側レンズ光学系を通して入射した光を受光する受光器と、該受光器で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路と、を備え、
該送信側レンズ光学系は該開口部として第1口径の開口部を有し、該受信側レンズ光学系は該第1口径より小さい第2口径の開口部を有したことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、水中の発散光送信器の発光器及び送信側レンズ光学系から放射される発散光線は広角の開口部を通して放射されて送信され、それを受信する発散光受信器は、送信された発散光線より狭角の開口部を通して受光器が発散光線を受光するので、発散光送信器、発散光受信器ともに水中で揺動した場合でも、その影響を受けにくく、短距離間から長距離間まで、水中発散光通信を安定して行なうことができ、高速大容量のデータ通信も可能となる。
【0016】
また、発散光送信器の送信側レンズ光学系が広角で発散光線を放射するため、長距離通信を行う場合、発散光送信器の発光素子が高出力となり、電力消費が増大して大型電源を必要とするが、一方、発散光受信器は、狭角で発散光線を受光するので、電力消費の制限される環境でも使用可能であり、例えば、発散光送信器は、電源電力に余裕のある船舶などに設置し、発散光受信器は、小型電源の水中移動体に設置すれば、船舶と水中移動体間で、長距離の水中発散光通信を行なうことができる。また、受信側レンズ光学系の開口部の
第2口径が、送信側レンズ光学系の開口部の
第1口径より小さく形成
されるので、
水中での揺動時、発散光受信器は安定して効率良く発散光線を受光することができる。
【0017】
ここで、上記発散光受信器の受光素子には、波長
400nm〜
600nmの略青色光から略緑色光の有彩色光を発光する発光ダイオードを使用することが好ましい。これによれば、汚濁や懸濁のある水中であっても、発散光線をより長距離にわたり伝搬させ、良好に発散光通信を行うことができる。
【0018】
また、上記発散光受信器の受光器には、凹面鏡の前面に受光素子を鏡面に向けて配置し、凹面鏡の内側を透明合成樹脂で充填し、受光素子の受光面を透明合成樹脂で被覆した構成の反射集光型受光器を使用することが好ましい。これによれば、発散光受信器の受光器が微弱な発散光線を受光することができ、高い受光・光電変換効率で信号を受信して、長距離での水中通信を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水中発散光通信装置によれば、従来のような光軸合わせのための追尾装置を不要とし、発散光送信器、発散光受信器ともに水中で揺動し送信側と受信側の光軸がずれた場合でも、その影響を受けにくく、発散光線を使用して、長距離間での高速大容量光通信も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この水中発散光通信装置は、変調された送信信号を重畳した発散光線を水中に放射して送信する発散光送信器6と、発散光送信器6から水中で放射され送信信号を重畳した発散光線を水中で受信する発散光受信器7とから構成され、発散光送信器6及び発散光受信器7間で、水中の発散光線を使用して、音声、画像、映像などの各種信号・データを送受信する装置である。
【0022】
概略的には、発散光送信器6は、
図1に示すように、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように、上記発光素子としてのLED(発光ダイオード)30を駆動する発光駆動部33と、LED30から放射される発散光線を、第1口径Aの開口部から放射する送信側レンズ光学系8と、を備える。発散光送信器6のLED30は、発散光線を放射する発散光源であり、発散光線とは、前方への広がり放射角度を0°より大きい角度で放射される、略円錐状でスポットライト状の光束である。なお、発散光送信器6で使用する発光素子としては、発散光線を放射する光源であれば、LEDの他、光を放出し光源として可能な他の発光素子、投光器、投光素子などを使用することができる。
【0023】
また、発散光受信器7は、
図1に示すように、発散光送信器6のLED30及び送信側レンズ光学系8から放射された発散光線を、送信側レンズ光学系8より広角の角度範囲βで且つ第1口径Aより大きい第2口径Bの開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系9と、受信側レンズ光学系9を通して入射した光を受光する受光器50と、受光器50で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路51と、を備えて構成される。
【0024】
水中発散光通信装置の発散光送信器6及び発散光受信器7は、例えば、水中移動体や船舶の水中に浸漬される部位に設置され、或いは水中で作業を行なうダイバーなどに装着されて使用されるため、水流などによって発散光送信器6及び発散光受信器7がランダムに揺動し、投光側(送信側)と受光側(受信側)の光軸にずれが生じ、水中で光軸を合わせることは難しい。
【0025】
このために、
図1に示すように、本水中発散光通信装置では、発散光送信器6の送信側レンズ光学系8の開口部は、比較的小径の第1口径Aを有して形成され、且つ比較的狭角の角度範囲αで発散光線を放射するように、送信側レンズ光学系8は構成される。また、発散光受信器7の受信側レンズ光学系9の開口部は、送信側の第1口径Aより大きい第2口径Bを有して形成され、且つ送信側の角度範囲α(発散光送信器6の送信側レンズ光学系8から放射される発散光線の放射角度)より広角の、角度範囲βで発散光線を入射させるように、受信側レンズ光学系9は構成される。
【0026】
発散光送信器6は、
図2に示すように、パケット化された送信データ信号の各データを、OFDM(直交周波数分割多重)の第1サブキャリア用と第2サブキャリア用に、交互に割り当てるように送信データを組み替える送信データ処理部1と、送信データ処理部1から送られる第1サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第1周波数の第1サブキャリアによりデジタル変調する一方、第2サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第2周波数の第2サブキャリアによりデジタル変調し、第1サブキャリアの第1デジタル変調信号及び第2サブキャリアの第2デジタル変調信号をフィルタリングした後、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号とを合成して直交変調し、送信信号を出力するOFDM変調器2と、合成された送信信号を可視光に重畳させるようにLED(発光ダイオード)30を駆動するLED駆動部3と、を備えて構成される。
【0027】
図1に示すように、OFDM変調器2は、第1デジタル変調部21と第2デジタル変調部22とからなるデジタル変調部20を有し、第1デジタル変調部21は、送信データ処理部1から送られる第1サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第1周波数の第1サブキャリアによりデジタル変調(アップコンバージョン)する。第2デジタル変調部22は、送信データ処理部1から送られる第2サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第1周波数とは周波数帯域が重なる第2周波数の第2サブキャリアによりデジタル変調(アップコンバージョン)する。またこのとき、デジタル変調部20の第1デジタル変調部21と第2デジタル変調部22は、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号を合成したとき、
図4に示すように、合成信号の電力スペクトル密度(値)が打ち消されて零となるように、第1サブキャリアで変調した第1デジタル変調信号と第2サブキャリアで変調した第2デジタル変調信号を、直交関係に配置するようになっている。
【0028】
さらに、OFDM変調器2は、第1デジタル変調部21で変調されたデジタル送信信号を入力し、第1サブキャリアの第1デジタル変調信号のみをフィルタリングして出力する第1フィルター回路としてのローパスフィルター23、第2デジタル変調部22で変調されたデジタル送信信号を入力し、第2サブキャリアの第2デジタル変調信号のみをフィルタリングして出力する第2フィルター回路としてのハイパスフィルター24、及びローパスフィルター23から出力された第1デジタル変調信号と、ハイパスフィルター24から出力され第1デジタル変調信号とは周波数帯域が重なる第2デジタル変調信号とを合成して直交変調し、OFDMの送信信号を出力する信号合成部27、を備えている。
【0029】
LED30には、波長約400nm〜約600nmの略青色光から略緑色光の有彩色光を発光する発光ダイオードを使用することができるが、より好ましくは、波長約450nm〜約550nmの青色光・緑色光を発光する青色発光ダイオードを使用することが望ましい。水中で放射される発散光線は、通常、水中の溶存物質、懸濁物質、或いは水分子に吸収・散乱されて、減衰する。水分子の吸収は、600nmより長波長側で高く、水分子の散乱は、波長の4乗に反比例するため、短波長ほど高くなる。一般的な水中の懸濁物質は、波長に反比例した散乱・吸収特性を示し、特に植物プランクトンは波長が440nm付近と670nm付近の光に強い吸収帯を持つ。また、一般的な水中の溶存物質も波長に反比例した吸収特性を示す。
【0030】
そのため、波長約450nm〜約550nmの青色光・緑色光は、一般的な海水中や湖水中の減衰率が比較的小さく、長距離伝送が可能であるため、水中発散光通信に好適に使用することができる。また、波長約450nm〜約550nmの青色光・緑色光を発光する発光ダイオードは、高周波特性に優れ、数百MHzの高周波信号を重畳した信号で動作することができ、大容量の高速通信を実現することが可能となる。
【0031】
なお、水中の濁度が非常に高く、且つ比較的短距離伝送を行なう場合には、赤色系LEDの使用が有利であり、このような場合、赤色系LEDは青色系LEDに比べ、発散光線の減衰率の低下や伝送速度の低下を小さくすることができる。
【0032】
図2に示すように、送信データ処理部1のデータ処理部13は、CPU、メモリ、レジスタなどから構成され、イーサネット(登録商標)インタフェース11を通して、LANから送られた送信用のパケットデータを入力する。そして、データバッファ12にそれらのバケットデータを一時格納し、さらに、データ処理部13は、データメモリ14を用いて、パケットデータをOFDM用に組み直し、各データを時分割して、第1サブキャリア用の送信データと第2サブキャリア用の送信データに交互に割り付けるように、入出力部15からOFDM変調器2に出力する構成である。
【0033】
OFDM変調器2は、上述のように、第1サブキャリアと第2サブキャリア用に時分割して交互に割り当てられた送信データ信号の各データを、各々デジタル変調する第1デジタル変調部21と第2デジタル変調部22とからなるデジタル変調部20を備え、第1デジタル変調部21の出力側にはローパスフィルター23が接続され、第2デジタル変調部22の出力側にはハイパスフィルター24が接続される。
【0034】
第1デジタル変調部21は、送信データ処理部1から送られた第1サブキャリア用の送信データ信号の各データを入力し、例えば16QAM、BPSK、QPSKなどのデジタル変調方式により、第1サブキャリアをその送信データ信号の各データで変調して出力するものである。また、第2デジタル変調部22は、送信データ処理部1から送られた第2サブキャリア用の送信データ信号の各データを入力し、同様のデジタル変調方式により、第2サブキャリアをその送信データ信号の各データで変調して出力するものである。
【0035】
図4は、第1サブキャリアにより変調した第1デジタル変調信号と第2サブキャリアにより変調した第2デジタル変調信号の電力スペクトル密度(値)を示しており、ここで、OFDMの搬送波(サブキャリア)の基本周波数をfc、送信データつまりベースバンド信号の周波数をfoとすると、第1デジタル変調信号の周波数は(fc+kfo)となり、第2デジタル変調信号の周波数は{fc+(k+1)fo}、(kはk番目のデジタル変調信号を示す)となるように選択される。第1デジタル変調信号の周波数つまり第1サブキャリアの第1周波数と第2デジタル変調信号の周波数つまり第2サブキャリアの第2周波数は、その周波数帯域が
図4のように重なって選定され、非常に狭い狭帯域となっている。
【0036】
さらに、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号とは直交関係、つまり第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号とを合成したとき、その電力スペクトル密度が打ち消されて零となる関係に配置される。デジタル変調信号はサブキャリアを送信データのベースバンド信号で変調したものであるので、送信データのシンボルレートで、直交関係となる周波数及び位相が決まることになる。
【0037】
第1デジタル変調部21の出力側に接続されるローパスフィルター23は第1サブキャリアを送信データで変調した第1デジタル変調信号のみを通過させるように設定され、第2デジタル変調部22の出力側に接続されるハイパスフィルター24は第2サブキャリアを送信データで変調した第2デジタル変調信号のみを通過させるように設定される。ローパスフィルター23とハイパスフィルター24の出力側は第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号を合成する信号合成部27に接続される。信号合成部27は、第1デジタル変調部21からローパスフィルター23を通して出力された第1デジタル変調信号と、第2デジタル変調部22からハイパスフィルター24を通して出力された第2デジタル変調信号とを、時間軸方向に加算する加算器であり、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号を時間軸方向に加算して合成し、OFDM信号を出力するように構成される。
【0038】
なお、OFDM信号は第1サブキャリアによって変調された第1デジタル変調信号と第2サブキャリアによって変調された第2デジタル変調信号の合成波であるので、サブキャリアまたはベースバンド信号の合成によっては、同時に発生する複数の振幅の高い波が合成され、ピーク値の高いピーク波が現れるが、信号合成部27の出力側に補正回路を接続し、その補正回路に予め閾値を設定し、閾値を超えるピーク波が現れた場合、ピーク波のデータを線形圧縮補正するように構成することができる。
【0039】
このように、OFDM変調器2は、送信データ処理部1から送られた送信データ信号の各データを、第1デジタル変調部21と第2デジタル変調部22に交互に割り当て、その送信データを第1デジタル変調部21にて第1サブキャリアでデジタル変調し、第2デジタル変調部22では第1サブキャリアとは周波数帯域が重なる第2サブキャリアで送信データをデジタル変調すると共に、デジタル変調した第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号を合成したとき、合成信号の電力スペクトル密度が打ち消されて零になるように、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号が直交関係に配置される。このような第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号は、各々フィルター回路25のローパスフィルター23またはハイパスフィルター24を通して信号合成部27に入力され、信号合成部27でこれらの信号が時間軸方向に加算して合成され、OFDM信号としてLED駆動部3に出力される。
【0040】
LED駆動部3は、OFDM信号を入力して増幅する増幅器31及び帯域補正増幅器32を有し、増幅したOFDM信号を発光駆動部33に入力し、発光駆動部33によりLED30を発光駆動すると共に、発光した可視光にOFDM信号を重畳させるように構成される。このために、増幅器31の出力側が帯域補正増幅器32に接続され、帯域補正増幅器32の出力側が発光駆動部33に接続される。
【0041】
発光駆動部33には、LED30を定電流で駆動する回路が使用されるが、LED30のIV特性(電流電圧特性)は、LED30の温度の上昇と共に電圧が低下し、また、調光により電流が低下したとき、電流の高い場合に比べ、そのIV特性曲線の傾きが変化する。このため、LED駆動部3には、LEDの温度補償を行う温度補償回路35が設けられている。
【0042】
温度補償回路35は、LED30またはその近傍の温度を検出しその温度に基づき増幅器31の直流オフセットレベルを調整して、LED30のIV特性によるひずみを補正して温度補償を行なう。また、DCオフセット回路37は、増幅器31の直流オフセットレベルを制御する回路で、温度補償回路35からの信号に基づき、LED30の温度によるIV特性のひずみを補正する。
【0043】
通常、LEDの温度係数は約−2mV/℃であり、高温時のLED電圧は低温時のLED電圧より低くなり、IV特性曲線は電圧の低い方に平行移動して照度が低下し、IV特性曲線の傾きも変化する。このため、LED30の温度またはLED30の近傍の温度を検出する温度センサを設け、この温度センサの検出信号に基づき、LED30の温度に応じて、LED30のIV特性曲線の非線形ひずみを線形に補正する。
【0044】
つまり、LED30の温度が上昇した場合、LED30の端子電圧は低下し、LED30のIV特性曲線はLED30の照度の高さに応じても変化する。このため、送信信号を増幅する増幅器31の直流オフセットレベルを、温度信号に基づき調整するようにし、LED30の動作の温度補償を行なっている。
【0045】
このために、温度補償回路35が増幅器31に接続され、LED30またはその近傍の温度を検出する温度センサの温度検出信号に基づき、増幅器31の直流オフセットレベルを調整する。
【0046】
上述のように、LED駆動部3では、増幅器31に帯域補正増幅器32を接続し、帯域補正増幅器32により帯域のイコライジング補正を加えるように高周波送信信号を増幅し、これにより、高周波信号を良好な直線性をもって増幅するようにしている。帯域補正増幅器32の出力側には、LED30を発光駆動する発光駆動部33が接続される。
【0047】
LED30の周波数特性は、周波数が低いほど発光レベルが高く、周波数が高くなるほど発光レベルが低下するような非線形特性となっている。このために、帯域補正増幅器32は、このようなLED30の周波数特性の逆特性を信号に加えて帯域補正をしつつ高周波送信信号を増幅するようになっている。
【0048】
発散光受信器7は、上記の如く、発散光送信器6のLED30及び送信側レンズ光学系8から放射された発散光線を、
図1のように、送信側レンズ光学系8より広角の角度範囲βで且つ第1口径Aより大きい第2口径Bの開口部を通して入射させる受信側レンズ光学系9と、受信側レンズ光学系9を通して入射した光を受光する受光器50と、受光器50で受光され出力された受光信号を増幅して受信信号を出力する受光回路51と、を備えて構成される。
【0049】
また、発散光受信器7は、上記構成の発散光送信器6から送信された送信信号、つまり、送信データ信号の各データを、第1サブキャリア用と第2サブキャリア用に交互に割り当て、第1サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第1周波数の第1サブキャリアによりデジタル変調し、第2サブキャリア用の送信データ信号の各データを、第1周波数とは周波数帯域が重なる第2周波数の第2サブキャリアによりデジタル変調し、フィルターを通して得られた第1サブキャリアの第1デジタル変調信号と第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を、合成して直交変調し、直交変調された送信信号をLED30から照射される発散光線に重畳させて送信される送信信号を、受光器50により受光(受信)し、復調するように構成される。
【0050】
すなわち、発散光受信器7は、
図3に示すように、発散光送信器6から放射された発散光線を、受信側レンズ光学系9を通して受光し、受光信号を出力する受光器50と、受光器50から出力された受光信号を増幅する受光回路51と、受光回路51から出力され直交変調された第1サブキャリアの第1デジタル変調信号と第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を含む高周波受信信号をフィルタリングして第1サブキャリアの第1デジタル変調信号と第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を分離して取り出すフィルター回路とを備えている。受光回路51には、受信信号に同調する同調回路が設けられ、2波のOFDM信号である狭帯域の受信信号を、高いS/N比で高感度に増幅するようになっている。
【0051】
受光器50には、フォトダイオードなどの受光素子を単独で使用することができるが、反射集光型受光器を使用することが好ましい。反射集光型受光器は、小形の凹面鏡(放物面鏡)の正面に、受光素子を鏡面側に向けて配設して構成され、前方から凹面鏡に入射する発散光線を鏡面で反射させ集光して、受光素子の受光面に入射させる構造である。
【0052】
反射集光型受光器の受光素子の受光面の位置は、凹面鏡の正確な焦点位置から鏡面側或いは反鏡面側に僅かにずらして配置され、太陽光などの強力な光が入射した場合の受光素子の焼損を防止し、且つ受光器の向く角度に応じた受光効率の角度依存性を小さくするようにしている。また、凹面鏡の内側に透明合成樹脂が充填されるとともに、受光素子の受光面を透明合成樹脂で被覆するようにして、受光素子を保護する構造となっている。受光素子には、通常のフォトダイオードを使用することができるが、例えばシリコンアバランシュフォトダイオードを使用することにより、受光回路において逆バイアスを印加して光電流を増幅させ、高速の信号を高感度で受光することができ、高いS/N比を得ることができる。
【0053】
発散光受信器7のフィルター回路は、
図3に示すように、高周波受信信号から第1サブキャリアの第1デジタル変調信号のみを取り出すローパスフィルター52と、第2サブキャリアの第2デジタル変調信号のみを取り出すハイパスフィルター53とから構成され、ローパスフィルター52の出力側に、分離された第1サブキャリアの第1デジタル変調信号を入力して、第1デジタル信号に復調する第1復調器54が接続され、ハイパスフィルター53の出力側に、分離された第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を入力して、第2デジタル信号に復調する第2復調器55が接続される。
【0054】
ローパスフィルター52とハイパスフィルター53は、発散光送信器6の第1サブキャリアの第1デジタル変調信号の周波数が例えばfc+kfo(
図4)で、第2サブキャリアの第2デジタル変調信号の周波数がfc+(k+1)fo(
図4)の場合、より低い周波数の第1サブキャリアの第1デジタル変調信号を、ローパスフィルター52を通して出力し、より高い周波数の第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を、ハイパスフィルター53を通して出力するように構成される。
【0055】
さらに、第1復調器54から出力された第1デジタル信号と第2復調器55から出力された第2デジタル信号を交互に取り込み、第1デジタル信号と第2デジタル信号を時間的に交互に繋ぎ合わせて合成し、受信データとして出力するデータ合成部56が、第1復調器54と第2復調器55の出力側に接続される。
【0056】
第1復調器54と第2復調器55は、デジタル変調された第1サブキャリアの第1デジタル変調信号と第2サブキャリアの第2デジタル変調信号を復調(ダウンコンバージョン)してデータ信号を出力する回路であり、第1復調器54では、第1デジタル変調信号と同じ周波数信号を、ミキサで第1デジタル変調信号に乗算して第1データ信号を得るようにし、第2復調器55では、第2デジタル変調信号と同じ周波数、同位相の周波数信号を、ミキサで第2デジタル変調信号に乗算して第2データ信号を得るように構成される。
【0057】
データ合成部56は、第1復調器54から各々出力された第1データ信号を取り込むと共に、第2復調器55から各々出力された第2データ信号を取り込み、第1データ信号と第2データ信号を時間的に交互に繋ぎ合わせ、送信された元のデータ信号として出力するように構成される。
【0058】
つまり、発散光送信器6の送信データ処理部1で送信データを時分割して交互に出力したときの処理と逆の処理を行なうように、第1データ信号と第2データ信号を交互に繋ぎ合わせ、元のデータ信号として、データ処理部57に出力するものである。
【0059】
データ処理部57は、復調されたデータ信号に基づき、発散光送信器6から送信された文字や画像の情報を表示器58に表示し、或いは送信されたデータ信号が音声データであれば、その音声を音声出力部59に出力するように構成される。音声出力部59は、その音声データに基づき図示しないスピーカーから音声を発生させるようになっている。
【0060】
このように発散光受信器7は、発散光線に重畳して送信されたOFDM信号を受信することになるが、そのOFDM信号は、第1サブキャリアの第1デジタル変調信号と第2サブキャリアの第2デジタル変調信号の2波の信号のみを用いてデータを変調しているため、通常のOFDM信号を復調する際に使用する高速離散フーリエ変換回路などのLSIが不要となり、受信回路を非常に簡素化し小型化することができる。さらに、受信回路の簡素化に伴い、その消費電力も極めて少なくなるので、発散光受信器7は、小型電源を有する小型携帯型のケースに収納するが可能である。
【0061】
次に、上記構成の水中発散光通信装置の動作を説明する。水中発散光通信装置の発散光送信器6と発散光受信器7は、例えば、潜水艦、水中探査機などの複数の水中移動体間での各種データの通信、或いは水中作業を行なうダイバーが他のダイバーとの間で双方向通信等を行う場合に使用され、例えば複数のダイバー間で双方向通信を行なう場合、各ダイバーは発散光送信器6と発散光受信器7を備えた水中発散光通信装置を携帯することとなる。
【0062】
船舶と水中移動体間などで長距離の水中発散光通信を行なう場合、発散光送信器6のLED30には高出力の素子を使用して強力な発散光線を放射することになるが、この発散光送信器6のように、送信側レンズ光学系8が小さい第1口径Aの開口部から狭い角度範囲αで発散光線を放射するので、比較的低出力の素子をLED30に使用することができ、且つ送信器の電源も小型化することができるため、小型の蓄電池等を電源とする水中移動体にはこの発散光送信器6は最適である。
【0063】
発散光送信器6が起動すると、送信データ処理部1のデータ処理部13は、イーサネットインタフェース11を通してLANから送られた送信用のパケットデータを入力し、データメモリ14を用いて、パケットデータをOFDM用に組み直し、データの各データを時分割して、第1サブキャリア用の送信データと第2サブキャリア用の送信データに交互に割り付けるように、入出力部15からOFDM変調器2に出力する。
【0064】
OFDM変調器2は、送信データ処理部1から送られた送信データ信号の各データを時分割して、第1デジタル変調部21と第2デジタル変調部22に交互に割り当てるように入力する。このとき、第1デジタル変調部21はその送信データを第1サブキャリアでデジタル変調し、第2デジタル変調部22は、第1サブキャリアとは周波数帯域が重なる第2サブキャリアで送信データをデジタル変調する。デジタル変調は、BPSK,QPSK,QAMなどの方式により行なわれ、第1デジタル変調部21からはデジタル変調された第1デジタル変調信号が出力され、第2デジタル変調部22からはデジタル変調された第2デジタル変調信号が出力される。
【0065】
第1デジタル変調部21から出力された第1デジタル変調信号はローパスフィルター23を通して信号合成部27に入力され、第2デジタル変調部22から出力された第2デジタル変調信号はハイパスフィルター24を通して信号合成部27に入力される。信号合成部27では第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号を時間軸方向に加算して合成するが、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号は、合成されたとき、合成信号の電力スペクトル密度を打ち消して零となるように直交関係に配置された信号であり、このような第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号が合成され、これによって、OFDM変調器2において直交変調が行なわれ、信号合成部27からはOFDM信号がLED駆動部3の増幅器31に出力される。
【0066】
増幅器31は、OFDM信号の第1サブキャリアと第2サブキャリアの送信信号を増幅し、増幅された送信信号が帯域補正増幅器32により帯域補正された後、発光駆動部33に入力され、発光駆動部33はLED30を発光駆動する。これにより、LED30が発光し、OFDM変調された高周波の送信信号を重畳した発散光線が、LED30から送信側レンズ光学系8を通してその開口部から放射される。
【0067】
このとき、発散光送信器6は、
図1のように、送信側レンズ光学系8の第1口径Aの比較的狭い開口部から発散光線を、角度範囲αを持つスポットライト状の光束として放射し、その発散光線にOFDM信号を重畳させて送信する。この発散光送信器6から放射される発散光線は、受信側の角度範囲βより狭い角度範囲αのスポットライト状の光束として放射され、発散光受信器7は送信側より広角の角度範囲βでその発散光線を受光することとなる。また、このとき、発散光送信器6のLED駆動部3は、LED30が高周波領域で周波数特性にひずみの生じるLEDであっても、増幅器31に接続された帯域補正増幅器32により、帯域のイコライジング補正を加えるように高周波送信信号を増幅し、これにより、高周波信号を良好な直線性をもって増幅する。
【0068】
さらに、LED駆動部3の温度補償回路35は、LED30の温度を検出する温度センサの検出信号に基づき、LED30の温度と調光に応じて、LED30のIV特性曲線の非線形ひずみを線形に補正する。
【0069】
LEDの温度係数は例えば約−2mV/℃程度であり、定電流駆動される高温時のLED電圧は低温時のLED電圧より低くなり、IV特性曲線は電圧の低い方に平行移動して照度が低下し、IV特性曲線の傾きも変化するが、温度補償回路35は、LED30の温度またはLED30の近傍の温度を検出する温度センサの検出信号に基づき、LED30の温度に応じて、LED30のIV特性曲線の非線形ひずみを線形に補正する。LED30の温度が上昇した場合、LED30の端子電圧は低下するので、増幅器31の直流オフセットレベルを、温度の上昇に応じて上昇させ、温度の下降に応じて増幅器31の直流オフセットレベルを下げるように動作する。これにより、LED30の温度の変化に伴う照度の不安定さを解消し、LEDとその駆動部の温度補償を行なうことができる。
【0070】
また、LED駆動部3では、増幅器31に帯域補正増幅器32を接続し、帯域補正増幅器32により帯域のイコライジング補正を加えるように高周波送信信号を増幅し、周波数帯域の広い高周波信号であっても、良好な直線性をもって増幅する。
【0071】
また、LED30の周波数特性は、上記の如く、周波数が低いほど発光レベルが高く、周波数が高くなるほど発光レベルが低下するような非線形特性であるが、帯域補正増幅器32は、このようなLED30の周波数特性の逆特性を信号に加えて帯域補正をしつつ高周波送信信号を増幅するので、高周波の周波数帯域を用いて信号を送信する際、周波数が低いほど発光レベルが高く、周波数が高くなるほど発光レベルが低下する周波数特性のLED30を可視光投光用に使用した場合でも、ひずみを生じさせずに、LED30の発散光線に送信信号を重畳させて、情報を高速で送信することができる。
【0072】
さらに、LED駆動部3の温度補償回路35は、LED30の温度を検出する温度センサの検出信号に基づき、増幅器31の直流オフセットレベルを温度の上昇に応じて上昇させ、温度の下降に応じて増幅器31の直流オフセットレベルを下げるように動作し、LED30のIV特性曲線の非線形ひずみを線形に補正するので、LED30の温度の変化に伴う照度の不安定さを解消することができる。
【0073】
発散光送信器6から送信され照射された発散光線は、水中を進み、発散光受信器7の受信側レンズ光学系9に集光されて受光器50により受光されるが、受光器50は、
図1のように、送信された狭角のスポットライト状の発散光線を、第2口径Bの広い受信側レンズ光学系9を通して、より広角の角度範囲βで受光するので、発散光送信器6、発散光受信器7ともに水中で揺動した場合でも、その影響を受けにくく、送信された発散光線を安定して受信することができる。
【0074】
送信された発散光線が受光器50で受光されると、受光器50から出力された受信信号は受光回路51で増幅される。受信信号は、2波のOFDM信号からなる非常に狭帯域の高周波信号であり、その狭帯域の高周波信号に同調する同調回路を設けた受光回路51により、受信信号は高いS/N比で高感度に受信され増幅される。
【0075】
受光回路51から出力された受信信号は、ローパスフィルター52を通すことにより、第1サブキャリアの第1デジタル変調信号のみが分離して第1復調器54に入力され、ハイパスフィルター53を通すことにより、第2サブキャリアの第2デジタル変調信号のみが分離して第2復調器55に入力される。
【0076】
第1復調器54では、第1デジタル変調信号と同じ周波数信号を、ミキサで第1デジタル変調信号に乗算して第1データ信号を抽出し、第2復調器55では、第2デジタル変調信号と同じ周波数、同位相の周波数信号を、ミキサで第2デジタル変調信号に乗算して第2データ信号を抽出するように動作し、これにより、デジタル変調された第1サブキャリアの第1デジタル変調信号に含まれる送信データ、及び第2サブキャリアの第2デジタル変調信号に含まれる送信データが復調(ダウンコンバージョン)され、第1復調器54、第2復調器55から復調された各々のデータ信号が出力される。
【0077】
次に、復調されたデータ信号は、データ合成部56に入力され、データ合成部56では、第1復調器54から各々出力された第1データ信号を取り込むと共に、第2復調器55から各々出力された第2データ信号を取り込み、第1データ信号と第2データ信号を時間的に交互に繋ぎ合わせ、送信された元のデータ信号として出力する。出力されたデータ信号は、データ処理部57に入力され、データ処理部57は、復調されたデータ信号に基づき、発散光送信器6から送信された文字や画像の情報を表示器58に表示し、或いは送信されたデータ信号が音声データであれば、その音声信号を音声出力部59に出力し、スピーカーなどから音声を発生させる。
【0078】
このように、上記水中発散光通信装置によれば、従来のような光軸合わせのための追尾装置が不要となり、発散光送信器6、発散光受信器7ともに水中で揺動し送信側と受信側の光軸がずれた場合でも、その影響を受けにくく、発散光線を使用して、長距離間での高速大容量光通信を行うことができる。
【0079】
図5は他の実施形態の水中発散光通信装置を示している。なお、上記実施形態と同じ構成部分については、
図5に上記と同じ符号を付してその説明は省略する。
【0080】
この水中発散光通信装置の発散光送信器76は、
図5に示すように、送信側レンズ光学系98が、LED30から放射される発散光線を、発散光受信器77の受信側レンズ光学系99の第2口径Dより大きい第1口径Cの開口部から広角で放射するように構成される。また、発散光受信器77の受信側レンズ光学系99は、送信側レンズ光学系98の放射角度範囲γより狭い角度範囲δで、且つ送信側レンズ光学系98の第1口径Cより小さい第2口径Dの開口部を通して発散光線を入射させるように構成される。
【0081】
また、発散光送信器76は、
図5に示すように、変調された送信信号を発散光線に重畳させるように、上記発光素子としてのLED(発光ダイオード)30を駆動する発光駆動部33と、LED30から放射される発散光線を、第1口径Cの開口部から放射する送信側レンズ光学系98と、を備える。
【0082】
水中発散光通信装置の発散光送信器76及び発散光受信器77は、例えば、水中移動体や船舶の水中に浸漬される部位に設置され、或いは水中で作業を行なうダイバーなどに装着されて使用されるため、水流などによって発散光送信器76及び発散光受信器77がランダムに揺動し、投光側(送信側)と受光側(受信側)の光軸にずれが生じ、水中で光軸を合わせることは難しい。
【0083】
このために、
図5に示すように、発散光送信器76の送信側レンズ光学系98の開口部は、比較的大径の第1口径Cを有して形成され、且つ比較的広角の角度範囲γで発散光線を放射するように、送信側レンズ光学系98は構成される。また、発散光受信器77の受信側レンズ光学系99の開口部は、送信側の第1口径Cより小径の第2口径Dを有して形成され、且つ送信側の角度範囲γ(発散光送信器76の送信側レンズ光学系98から放射される発散光線の放射角度)より狭角の、角度範囲δで発散光線を入射させるように、受信側レンズ光学系99は構成される。
【0084】
これにより、発散光送信器76から送信され照射された発散光線は、水中を広範囲に進み、その一部が、発散光受信器77の受信側レンズ光学系99に集光されて受光器50により受光されるが、受光器50は、
図5のように、送信された狭角のスポットライト状の発散光線を、小径の第2口径Dの受信側レンズ光学系99を通して、より狭角の角度範囲δで受光するので、発散光送信器76、発散光受信器77ともに水中で揺動した場合でも、その影響を受けにくく、送信された発散光線を安定して受信することができる。
【0085】
また、このような発散光送信器76は、送信側レンズ光学系98が大口径の第1口径Cを通して広角の角度範囲γで発散光線を放射するため、長距離通信を行う場合、発散光送信器76のLED30には高出力の素子を使用し、その電源も大型となるが、船舶などの大型電源を搭載し電源電力を充分に供給可能な移動体であれば、発散光送信器76を搭載して、長距離にわたり発散光線を放射することができ、長距離通信を行うことができる。
【0086】
つまり、このような場合には、大型電源を有した発散光送信器76の高出力のLED30から、大口径で広角の発散光線を送信側レンズ光学系98から放射し、一方、その発散光線を受信する発散光受信器77は、その受光器50が小径の第2口径Dの受信側レンズ光学系99を通して狭角の角度範囲δで発散光線を受光するので、船舶と電源電力の少ない潜水艇などの水中移動体間で、長距離の水中発散光通信を行なう場合に非常に有効である。
【0087】
このように、発散光送信器76は、その送信側レンズ光学系78が大口径の第1口径Cを通して広角の角度範囲γで発散光線を放射するため、長距離通信を行う場合、電源電力に余裕のある船舶などに発散光送信器76を設置し、電源電力の少ない、潜水艇などの水中移動体には、小径の第2口径Dの受信側レンズ光学系99を通して、より狭角の角度範囲δで受光する発散光受信器77を設置する。さらに、小型電源を有する潜水艇などの水中移動体には送信器として、送信側レンズ光学系8が小口径の第1口径Aを通して狭角の角度範囲αで発散光線を放射する、低出力型のLED30を有する
図1の発散光送信器6を設置し、電源電力に余裕のある船舶などには受信器として、大口径の第2口径Bの受信側レンズ光学系9を通してより広角の角度範囲βで受光する発散光受信器7を設置すれば、水中の長距離間で双方向の発散光通信を行なうことができる。
【0088】
発散光送信器76と発散光受信器77間の具体的な水中発散光通信では、発散光送信器76から送信された発散光線が発散光受信器77の受光器50で受光されると、受光器50から出力された受信信号は受光回路51で増幅される。受信信号は、2波のOFDM信号からなる非常に狭帯域の高周波信号であり、その狭帯域の高周波信号に同調する同調回路を設けた受光回路51により、受信信号は高いS/N比で高感度に受信され増幅される。その後、受信信号は、上述の
図3に示すように、ローパスフィルター52,53を通ることにより高周波信号をフィルタリングして、第1デジタル変調信号と第2デジタル変調信号が取り出され、それらの信号が第1復調器54、第2復調器55により復調されて第1データ信号と第2データ信号が抽出された後、データ合成部56にて、時間的に交互に繋ぎ合わされて合成され、出力される。
【0089】
このように、上記水中発散光通信装置によれば、従来のような光軸合わせのための追尾装置が不要となり、発散光送信器76、発散光受信器77ともに水中で揺動し送信側と受信側の光軸がずれた場合でも、その影響を受けにくくなる。また、上記のように、小型電源の水中移動体と比較的電源電力に余裕のある船舶との間などにおいて、発散光線を使用した長距離の高速大容量光通信を行うことができる。
【0090】
なお、送信信号を重畳した発散光線を長距離間で伝送する場合、発散光送信器から放射する発散光線は狭角とすることが有利であるので、送信信号の伝送距離に応じて、送信側レンズ光学系の光の放射角度範囲を調整する角度範囲調整機構(ズームレンズ機構)を設け、伝送距離が短い場合、送信側レンズ光学系の光の放射角度範囲を広角側に調整し、伝送距離が長い場合、送信側レンズ光学系の光の放射角度範囲を狭角側に調整するように構成することができる。
【0091】
また、発散光受信器の受信側レンズ光学系にも、角度範囲調整機構(ズームレンズ機構)を設け、伝送距離が長く、送信側レンズ光学系の光の放射角度範囲が狭角側に調整される場合、受信側レンズ光学系の角度範囲調整機構(ズームレンズ機構)を広角側に調整し、伝送距離が短く、送信側レンズ光学系の光の放射角度範囲が広角側に調整される場合、受信側レンズ光学系の角度範囲調整機構(ズームレンズ機構)を狭角側に調整するように構成することができる。