特許第5967650号(P5967650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967650振動発電装置および振動発電装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967650
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】振動発電装置および振動発電装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   H02N2/18
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-231672(P2012-231672)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2013-128392(P2013-128392A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-248704(P2011-248704)
(32)【優先日】2011年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】原 基揚
(72)【発明者】
【氏名】桑野 博喜
【審査官】 三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−285480(JP,A)
【文献】 特開2000−316286(JP,A)
【文献】 特開2009−17769(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0074247(US,A1)
【文献】 特表2011−512777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子と、
前記圧電材料に交番電圧を印加可能な印加手段とを有し、
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により交番電圧を印加可能に構成されていることを
特徴とする振動発電装置。
【請求項2】
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により印加する交番電圧の周波数を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項1記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定する測定手段を有し、
前記制御手段は、前記測定手段による測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することを
特徴とする請求項2記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ωの近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をωとすると、2ω−ωの角周波数を有する交番電圧を前記印加手段により印加するよう構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項6】
圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子を有する振動発電装置の制御方法であって、
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧を印加することを特徴とする振動発電装置の制御方法。
【請求項7】
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧の周波数を制御することを特徴とする請求項6記載の振動発電装置の制御方法。
【請求項8】
前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定し、その測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することを特徴とする請求項7記載の振動発電装置の制御方法。
【請求項9】
前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の振動発電装置の制御方法。
【請求項10】
前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ωの近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をωとすると、2ω−ωの角周波数を有する交番電圧を前記圧電材料に印加することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の振動発電装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電装置および振動発電装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境に対する関心の高まりから、自然界の微弱なエネルギーを電気エネルギーとして抽出・蓄積するエナジー・ハーベスティング(Energy Harvesting)技術の研究が盛んに進められている。それらのうち、微小振動子を用いた振動型発電子は、自然界に存在する微弱な振動を電気エネルギーとして抽出するもので、最も注目される技術の一つである。
【0003】
ここで、自然界のエネルギーが、機械の回転運動または往復運動によって電気エネルギーとして抽出されることを想定する。自然界に存在するエネルギーは、時間的に大きく変動し、安定しないことが一般的である。一方、機械の運動には効率曲線が存在し、大きく変動する自然界のエネルギーを常に効率よく電気に変換できるわけではない。したがって、長期にわたって機械を稼働させた場合、多くの時間は、機械を低効率な状態で動作させることとなる。
【0004】
具体例として、風力発電機を挙げる。風車の単位時間あたりの機械エネルギーPは、空気の密度をρ、風速をV、風車のブレード面積をAとすると、次式で表される。
【数1】
ここで、Cpは変換効率を示す。
【0005】
タービンブレードの終端速度Vにて無次元化された風速をVとすると、変換効率Cpは一般に、図9に示すような曲線を描く。タービンブレードの終端速度は、定格回転数とブレード長との積であり、設計値である。すなわち、図9は、特定のタービン設計においては、特定の風速(V×V)において、効率が最大となることを示している。このため、風速が変動した場合には、効率の低い領域での稼働も余儀なくされる。
【0006】
同様の現象は、振動型発電子においても観測される。図10に、振動発電装置の一例を示す(例えば、特許文献1乃至3参照)。図10(a)には、振動発電装置を構成する機械振動子としてのカンチレバー(基材)を示している。このカンチレバーを外部より励振した場合、カンチレバー先端の振幅は、図10(c)に示すような周波数特性を持つ。図10(c)に示す最も振幅が大きくなる周波数frが、このカンチレバーの共振周波数であり、図10(b)に示すように、カンチレバーに圧電材料(圧電材)を接着した場合、周波数frの振動から最も効率よく電気エネルギーが抽出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−49388号公報
【特許文献2】特開2009−247128号公報
【特許文献3】特開平7−107752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図10に記載のような従来の振動発電装置では、自然環境から与えられる振動など、周波数が一定でない振動を利用して発電を行う場合には、共振周波数以外の周波数で励振する時間が長くなるため、安定した発電を行うことができず、十分な発電効率を確保することができないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、自然環境などからの周波数が一定でない振動を利用して、安定的に高効率で発電を行うことができる振動発電装置および振動発電装置の制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動発電装置は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子と、前記圧電材料に交番電圧を印加可能な印加手段とを有し、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により交番電圧を印加可能に構成されていることを特徴とする。特に、本発明に係る振動発電装置は、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により印加する交番電圧の周波数を制御する制御手段を有することが好ましい。
【0011】
本発明に係る振動発電装置の制御方法は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子を有する振動発電装置の制御方法であって、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧を印加することを特徴とする。特に、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧の周波数を制御することが好ましい。
【0012】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、以下の原理により、安定的に高効率で発電を行うことができる。
すなわち、系の変形が十分に小さく、線形挙動を示す場合には、圧電材料の構成方程式は、以下の式(1)および式(2)で表される。
【0013】
【数2】
ここで、T、P、S、Eは、それぞれ応力、分極、ひずみ、電界を示す。また、c、e、κは、それぞれ弾性コンプライアンス定数、圧電定数、誘電率である。
【0014】
外部からの電界の印加を無視すると、分極Pは、式(1)および式(2)より、
【数3】
となる。ここで、αは、−e/cで表される比例係数である。式(3)は、機械から電気へのエネルギー変換が圧電材料によって得られることを示している。
【0015】
式(1)〜(3)では、線形挙動の系を示したが、実際の系では非線形性が存在するため、式(3)は、次の式(4)に拡張される。
【数4】
【0016】
4次以上の高次の非線形性を無視して、角周波数ωの外力が作用する場合を考えると、式(4)より、分極Pは、
【数5】
となる。
【0017】
式(5)から、非線形性により、2ωおよび3ωの周波数においても、系が励振されることがわかる。
さらに、角周波数ωおよびωの二つの振動を、式(5)の系に入力する場合を考えると、分極Pは、次の式(6)となる。
【0018】
【数6】
【0019】
式(6)から、入力周波数ωおよびωの高調波以外にも、ω±ω、ω±2ω、2ω±ωの複数の混変調信号が出力されることがわかる。式(6)は、4次以上の高次の非線形性を無視したものであり、実際にはさらに多くの混変調信号が出力される。
【0020】
ここで、図1に示すように、機械振動子が、自然環境などの外部から周波数fにて加振され、圧電材料(圧電材)に周波数fの交番電圧を印加する場合を考える。機械振動子が非線形性を示す程度十分に大きな振幅で振動する場合には、機械振動子の圧電材料からの電気出力は、式(6)を利用して、各々の角周波数をω=2πf、ω=2πfと割り当てることで計算することができる。このとき、式(6)の第9項〜第14項に示すように、自然環境などの外部からの振動周波数fは、交番電圧による電気的励振fにより、高周波にアップコンバートもしくは低周波にダウンコンバートされることがわかる。そのコンバートされる周波数は、交番電圧による電気的励振の周波数fによって、任意に調整することができる。
【0021】
式(6)では、4次以上の非線形性を無視しているが、4次以上の高次の非線形性を考慮すると、fの振動とfの振動とが混変調されて、Nf±Mf(N、Mは整数)の周波数においても励振される。このことから、これらの混変調された振動のうちの少なくとも一つが機械振動子の共振周波数と一致するように、交番電圧の周波数fを調整することにより、機械振動子を共振状態で振動させることができ、発電効率を高めることができる。
【0022】
自然環境などの外部から与えられる外部振動の周波数fは時間的に変動するため、圧電材料に印加する交番電圧の周波数fを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数が時間的に変動するのを防ぐことができる。また、交番電圧の周波数fを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数を、常に機械振動子の共振周波数に一致させることができる。これにより、安定的に高効率で発電を行うことができる。
【0023】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、式(6)の第10項および第13〜14項に示すように、機械振動子は印加される周波数(fおよびf)に対して極めて高い周波数(f+f、2f+f、f+2f、…)で励振される。機械振動子のサイズは共振周波数にほぼ反比例するため、これらの混変調振動の高周波数を共振周波数として制御することにより、機械振動子を小型化することができ、装置全体の小型化を図ることができる。
【0024】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、交番電圧の周波数の制御は、フィードバック系を用いて行うことが好ましい。すなわち、本発明に係る振動発電装置は、前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定する測定手段を有し、前記制御手段は、前記測定手段による測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することが好ましい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定し、その測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することが好ましい。この場合、自動制御により、外部振動と交番電圧とを混変調したときの周波数を、機械振動子の共振周波数と一致させることができる。
【0025】
本発明に係る振動発電装置で、前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることが好ましい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法で、前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることが好ましい。
【0026】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、式(6)に示すように、混変調振動の振幅は、α、αに比例することから、発電効率を高めるためには、機械振動子が高い非線形性を有することが好ましい。非線形性を高めるためには、機械振動子が大振幅で動作したときに、その動作が拘束されるような端部条件を有していればよいため、機械振動子の周囲が固定されているものが特に好ましい。すなわち、非線形性を高めるためには、機械振動子は、片持ち梁状より両持ち梁状が好ましく、両持ち梁状より、周囲が固定されたメンブレン状が好ましい。さらに、メンブレン状の場合には、応力集中が起きやすい多角形の面形状を有するものの方が好ましい。
【0027】
本発明に係る振動発電装置は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子と、前記圧電材料に交番電圧を印加可能な印加手段とを有し、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ωの近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をωとすると、2ω−ωの角周波数を有する交番電圧を前記印加手段により印加するよう構成されていてもよい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子を有する振動発電装置の制御方法であって、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ωの近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をωとすると、2ω−ωの角周波数を有する交番電圧を前記圧電材料に印加してもよい。
【0028】
この本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、線形挙動の系に利用することができる。すなわち、図2に示すように、線形挙動の系の場合、機械振動子に外部から与えられる外部振動をa(ω)=a・sinωt としたとき、これにa(ω)=a・sinωt の振動を加えると、その合成振動Aは、(7)式で与えられる。
【数7】
【0029】
ここで、ω=2ω−ω とすると、合成振動Aは(8)式となる。
【数8】
【0030】
(8)式に示すように、合成振動Aは、機械振動子の共振角周波数ωを有する振動となる。なお、(7)式および(8)式から、ω=2ω−ω としても同様の結果が得られることがわかる。このように、本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法によれば、機械振動子をその共振角周波数で振動させることができ、発電効率を高めることができる。本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、自然環境などからの外部振動が、所定の振動数の近傍で変化するとき、その周波数が一定でない振動を利用して、安定的に高効率で発電を行うことができる。
【0031】
この線形挙動の系による本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、(6)式を利用した非線形挙動の系による本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法と組み合わせて用いられてもよく、それとは独立して用いられてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、自然環境などからの周波数が一定でない振動を利用して、安定的に高効率で発電を行うことができる振動発電装置および振動発電装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法の原理を説明するための側面図である。
図2】本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法の、線形挙動の系に利用するときの振動の合成原理を説明するための説明図である。
図3】本発明の実施の形態の振動発電装置の(a)全体構成を示す概略側面図、(b)変形例を示す概略側面図である。
図4】本発明の実施の形態の振動発電装置の機械振動子を示す(a)A−A’線断面図、(b)平面図である。
図5図4に示す機械振動子の製造方法を示す断面図である。
図6】本発明の実施の形態の振動発電装置の、機械振動子の振動状態を調べる実験に使用する(a)実験装置を示すブロック図、(b)1つめの機械振動子を示す斜視図、(c)2つめの機械振動子を示す斜視図である。
図7】本発明の実施の形態の振動発電装置の、単一の振動を与えた場合の、機械振動子の振動状態を調べる実験の結果を示す(a)図6(b)の機械振動子を使用したときの、機械振動子の先端の振動状態を示すグラフ、(b)そのときの振動器の振動状態を示すグラフ、(c)図6(c)の機械振動子を使用したときの、機械振動子の先端の振動状態を示すグラフ、(d)そのときの振動器の振動状態を示すグラフである。
図8】本発明の実施の形態の振動発電装置の、1つまたは2つの振動を与えた場合の、機械振動子の振動状態を調べる実験の結果を示す(a)図6(b)の機械振動子を使用したときの、機械振動子の先端の振動状態を示すグラフ、(b)図6(c)の機械振動子を使用したときの、機械振動子の先端の振動状態を示すグラフ、(c)そのときの表示する周波数範囲を拡げたグラフである。
図9】従来の風力発電機の風速に対する変換効率の変化を示すグラフである。
図10】従来の振動発電装置の(a)機械振動子を示す側面図、(b)圧電材料を接着した全体構成を示す側面図、(c)機械振動子の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図3乃至図8は、本発明の実施の形態の振動発電装置を示している。
図3(a)および図4に示すように、振動発電装置10は、機械振動子11と電圧制御発振器(VCO)12と蓄電手段13とを有している。
【0035】
図4に示すように、機械振動子11は、基板21と圧電材料22と励振電極23a,23bと出力電極24a,24bと錘25とを有している。基板21は、平面形状がほぼ正方形で、所定の厚みを有するシリコン製の板から成っている。基板21は、裏面に、所定の幅および深さを有する円環状の溝21aが形成されている。基板21は、溝21aの部分の厚みが薄くなっており、その薄い部分が円形のメンブレン構造26となっている。圧電材料22は、AlNの薄膜から成り、メンブレン構造26の全体を覆うよう、基板21の表面に設けられている。なお、圧電材料22は、ZnOやCdS、PZT、KNbOなどの薄膜から成ってもよく、LiNbOやLiTaOなどのバルク圧電材から成っていてもよい。
【0036】
励振電極23a,23bは、導電性を有する金属製で、1対から成っている。一方の励振電極23aは、グランド(GND)であり、基板21と圧電材料22との間に設けられ、他方の励振電極23bは、圧電材料22の表面に設けられている。各励振電極23a,23bは、少なくともメンブレン構造26の位置で圧電材料22を挟むよう設けられている。各励振電極23a,23bは、圧電材料22にひずみを集中させるため、W、Pt、Ir、Mo、Ruなどの音響インピーダンスが高い材料から成っている。なお、これらの金属は一般に電気抵抗が高いため、各励振電極23a,23bは、Al、Cu、Auなどとの多層構造となっていることがより好ましい。また、圧電材料22に比べて各励振電極23a,23bが極めて薄い場合には、各励振電極23a,23bは、高音響インピーダンスを有する金属を用いず、高導電率を有するAl、Cu、Auのみから成ることが好ましい。
【0037】
出力電極24a,24bは、導電性を有する金属製で、プラスの出力電極24aおよびマイナスの出力電極24bの1対から成っている。各出力電極24a,24bは、メンブレン構造26の位置で、圧電材料22の表面に設けられている。錘25は、平面形状が基板21と同じ大きさの正方形で、基板21よりやや厚い、パイレックス(登録商標)ガラス製の板から成っている。錘25は、平面形状が重なり合うよう、基板21の裏面に接合されている。錘25は、裏面から基板21のメンブレン構造26を形成する溝21aに貫通する、円形の切れ目25aが形成されている。これにより、錘25は、切れ目25aの内側の部分と外側の部分とが切り離されている。なお、錘25は、金属製であってもよい。
【0038】
図5に示すように、機械振動子11は、以下のようにして製造される。まず、基板21となるシリコンを洗浄する(図5(a)参照)。次に、グランドとなる励振電極23aを、スパッタリング法もしくは蒸着法にて、基板21の上に成膜する(図5(b)参照)。フォトリソグラフィ技術を用いて、励振電極23aをパターニングし(図5(c)参照)、その上に圧電材料22を成膜する(図5(d)参照)。圧電材料22の上に、励振電極23bおよび出力電極24a,24bをスパッタリング法もしくは蒸着法にて成膜し(図5(e)参照)、フォトリソグラフィ技術を用いて電極パターンを形成する(図5(f)参照)。
【0039】
グランドの励振電極23aへの導通を確保するため、励振電極23aの端部の圧電材料22を除去し、各励振電極23a,23bおよび各出力電極24a,24bの端部に、リフトオフ法にてAuパッドを形成する(図5(g)参照)。基板21の裏面からシリコンの深掘りエッチングを行って円形の溝21aを掘り、メンブレン構造26を形成する(図5(h)参照)。なお、メンブレン構造26を成すダイヤフラムの形成手法としては、例えば、基板21のシリコン表面にホウ素を拡散し、拡散層をストップ層として、裏面よりアルカリエッチングを施してもよく、基板21としてSOI(Silicon on Insulator)ウェハーを用いて、ボックス層をストップ層として、裏面よりプラズマエッチングを施してもよい。
【0040】
自然環境などの外部環境(Environment)からの振動に対して十分な振幅を得るために、機械振動子11が最も変位する点に錘25を形成することが望ましい。そこで、基板21の裏面に、パイレックスガラス製の板を陽極接合し(図5(i)参照)、ダイシングを施して切れ目25aを入れることにより、錘25を形成する(図5(j)参照)。このようにして製造された機械振動子11は、外部からの振動により、メンブレン構造26の部分が加振され、圧電材料22により発電可能になっている。
【0041】
図3(a)に示すように、電圧制御発振器12は、各励振電極23a,23bの端子に接続されており、圧電材料22に交番電圧を印加可能になっている。また、電圧制御発振器12は、印加する交番電圧の周波数を制御可能になっている。電圧制御発振器12は、機械振動子11に外部環境から振動が与えられたとき、その外部振動と印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が機械振動子11の共振周波数と一致するよう、交番電圧の周波数を制御するよう構成されている。なお、電圧制御発振器12は、印加手段と制御手段とを構成している。
【0042】
蓄電手段13は、各出力電極24a,24bの端子に接続されており、ダイオードブリッジ(Diode Bridge)27と、大容量のキャパシタなどから成るストレージデバイス(Strage Device)28とを有している。蓄電手段13は、圧電材料22により得られた電気エネルギーをダイオードブリッジ27によって整流し、ストレージデバイス28に蓄電するよう構成されている。
【0043】
本発明の実施の形態の振動発電装置10の制御方法によれば、振動発電装置10を好適に制御することができる。すなわち、機械振動子11に外部環境から振動が与えられたとき、その外部振動と、電圧制御発振器12により圧電材料22に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が、機械振動子11の共振周波数と一致するよう、電圧制御発振器12により交番電圧の周波数を制御する。これにより、機械振動子11を共振状態で振動させることができ、発電効率を高めることができる。
【0044】
一般に、自然環境などからの外部振動の周波数は、機械振動子11の共振周波数よりもはるかに低い。このため、単に機械的振動子に圧電材料を取り付けるだけの構成では、自然界に存在する微弱な振動を充分に電気エネルギーとして抽出できない。そこで、本発明のごとく、外部振動の周波数と交番電圧とを混変調させて該外部振動の周波数をアップコンバートさせる。これにより、混変調によって得られる周波数の一つを機械振動子11の共振周波数と一致させることができ、エネルギーハーベスティングを良好に行うことができる。
【0045】
自然環境などの外部から与えられる外部振動の周波数fは時間的に変動するため、電圧制御発振器12により圧電材料22に印加する交番電圧の周波数fを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数が時間的に変動するのを防ぐことができる。また、電圧制御発振器12により交番電圧の周波数fを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数を、常に機械振動子11の共振周波数fに一致させることができる。これにより、安定的に高効率で発電を行うことができる。
【0046】
図3(a)に示す具体的な一例では、電圧制御発振器12は、外部環境から加えられる時変的な振動fに対して、交番電圧f=f−2fを圧電材料22に印加するようになっている。これにより、外部振動fと、電圧制御発振器12により圧電材料22に印加する交番電圧fとを混変調したときの周波数の一つが、f+2f=fとなり、機械振動子11の共振周波数fと一致する。このため、機械振動子11を共振状態で振動させることができ、高効率で安定的に発電を行うことができる。
【0047】
本発明の実施の形態の振動発電装置10およびその制御方法で、機械振動子11は印加される周波数(fおよびf)に対して極めて高い周波数(f+f、2f+f、f+2f、…)で励振される。機械振動子11のサイズは共振周波数にほぼ反比例するため、これらの混変調振動の高周波数を共振周波数として制御することにより、機械振動子11を小型化することができ、装置全体の小型化を図ることができる。
【0048】
なお、図3(b)に示すように、振動発電装置10は、ダイオードブリッジ27で整流された電気の一部を、DC−ACコンバータ(DC−AC Conv.)31へ分流し、DC−ACコンバータ31で交流に変換して、圧電材料22に交番電圧fを供給するようになっていてもよい。この場合、機械振動子11が発電した電気の一部を使用して交番電圧を印加するため、交番電圧を印加するための別の電源が不要である。
【0049】
また、振動発電装置10で、交番電圧の周波数の制御は、フィードバック系を用いて行うことが好ましい。すなわち、振動発電装置10は、外部振動、共振周波数での機械振動子11の変位、および共振周波数での圧電材料22からの出力のうちの少なくとも一つを測定する測定手段を有し、電圧制御発振器12またはDC−ACコンバータ31が、測定手段による測定結果に基づいて、交番電流の周波数を制御することが好ましい。この場合、自動制御により、外部振動と交番電圧とを混変調したときの周波数を、機械振動子11の共振周波数と一致させることができる。特に、消費電力を小さくするためには、圧電材料22からの出力を測定して、電圧制御発振器12またはDC−ACコンバータ31にフィードバックすることが好ましい。
【0050】
振動発電装置10で、非線形性を得るに十分な振幅が得られるのであれば、機械振動子11はメンブレン構造26でなくとも、片持ち梁構造であっても、両持ち梁構造であってもよく、特にその形状は問わない。また、メンブレン構造26の面内形状は、図4では円形であるが、応力集中により発電効率を向上させるために、多角形や星形としてもよく、メンブレン構造26の厚みを部位によって変えてもよい。
【0051】
尚、一定の周波数で筐体が振動するような機械の振動を利用する場合等、外部振動の周波数がそれほど変化しない場合には、交番電流の周波数を、混変調したときの周波数が機械振動子11の共振周波数と一致する値に予め設定しておいてもよい。この場合、上記自動制御は不要となり、電圧制御発振器12などの制御手段が不要である。
【0052】
また、外部振動が所定の角振動数ωの近傍で変化する場合、機械振動子11の共振角周波数をωとすると、2ω−ωの角周波数を有する交番電圧を、電圧制御発振器12により、圧電材料22に印加するよう構成されていてもよい。この場合、機械振動子11をその共振角周波数で振動させることができ、発電効率を高めることができる。なお、この線形挙動の系による振動発電装置の制御方法は、非線形挙動の系による振動発電装置の制御方法と組み合わせて用いられてもよく、それとは独立して用いられてもよい。
【0053】
[線形挙動の系による機械振動子の振動状態を調べる実験]
機械振動子11に外部から振動を与えたときの、機械振動子11の振動状態を調べる実験を行った。実験装置の全体構成および使用する2種類の機械振動子11a,11bを、図6に示す。図6(b)および(c)に示すように、機械振動子11a,11bは、それぞれ矩形板状および三角板状の片持ち梁構造の振動子から成っている。図6(a)に示すように、実験装置は、2台の交流信号発生器(Function Generator)41a,41bと、各交流信号発生器41a,41bで発生させた2つの交流信号を合成する合成器(Combiner)42と、合成器42で合成された信号に基づいて、機械振動子11a,11bを上下方向に振動させる振動器(Shaker)43とを有している。また、実験装置は、機械振動子11a,11bの先端の振動を測定するレーザードップラー速度計(LDV1)44aと、振動器43の振動を測定するレーザードップラー速度計(LDV2)44bと、各レーザードップラー速度計44a,44bで測定された振動データを表示・記録するデジタルオシロスコープ(Digital Oscilloscope)45とを有している。
【0054】
実験では、まず、各機械振動子11a,11bに対して、一方の交流信号発生器41aのみから、振幅Vpp1=30mV、角周波数ωの単一の振動を与えたときの、各機械振動子11a,11bの振動を測定した。機械振動子11aの測定結果を図7(a)および(b)に、機械振動子11bの測定結果を図7(c)および(d)に、それぞれ示す。測定結果は、角周波数ωを上昇させながら測定を行った場合(図7中の白丸:周波数上昇)、および、下降させながら測定を行った場合(図7中の黒丸:周波数下降)について示す。
【0055】
機械振動子11aの場合、図7(a)に示すように、角振動数が82Hzのとき、振動の最大速度がピークになっており、機械振動子11aの共振角周波数ωが82Hzであることが確認できる。また、共振角周波数ωの82Hzよりやや大きい周波数で、振動の最大速度の値が大きく減少していることも確認できる。機械振動子11bの場合、図7(c)に示すように、角振動数が137Hzのとき、振動の最大速度がピークになっており、機械振動子11bの共振角周波数ωが137Hzであることが確認できる。また、共振角周波数ωの137Hzの前後の周波数で、振動の最大速度の値が大きく減少していることも確認できる。
【0056】
次に、各機械振動子11a,11bに対して、双方の交流信号発生器41a,41bから、振幅Vpp1=Vpp2=30mV、角周波数ω=ωの同じ振動を与えたとき(以下、「条件2」)、および、振幅Vpp1=Vpp2=30mV、角周波数ω、ω=2ω−ωの振動を与えたとき(以下、「条件3」)について、各機械振動子11a,11bの振動を測定した。機械振動子11aの測定結果を図8(a)に、機械振動子11bの測定結果を図8(b)および(c)に、それぞれ示す。測定結果は、角周波数ωを上昇させながら測定を行った場合と、下降させながら測定を行った場合との平均値について示す。また、比較のために、一方の交流信号発生器41aのみから、振幅Vpp1=30mV、角周波数ωの単一の振動を与えたときの、各機械振動子11a,11bの振動の測定結果(図7(a)および(c)に対応;以下、「条件1」)も示す。また、条件2の結果は、条件1の結果とほぼ同じ結果になるため、図8(a)および(c)には示していない。
【0057】
機械振動子11aの場合、図8(a)に示すように、条件3では、機械振動子11aの共振角周波数ω=82Hzの位置で、振動の最大速度がピークを示し、条件1と比較して、共振角周波数の前後での振動の最大速度の減少が緩やかになっていることが確認できる。また、機械振動子11bの場合も同様に、図8(b)および(c)に示すように、条件3では、機械振動子11bの共振角周波数ω=137Hzの位置で、振動の最大速度がピークを示し、条件1と比較して、共振角周波数の前後での振動の最大速度の減少が緩やかになっていることが確認できる。
【0058】
この条件3の結果から、機械振動子11a,11bに角周波数ωの振動が与えられたとき、機械振動子11a,11bに角周波数ω=2ω−ωの振動を与えることにより、これら2つの振動を混変調したときの角周波数を、機械振動子11a,11bの共振角周波数ωと一致させることができることが確認できた。また、その振動から得られるエネルギーが大きいことも確認できた。
【符号の説明】
【0059】
10 振動発電装置
11 機械振動子
21 基板
21a 溝
22 圧電材料
23a,23b 励振電極
24a,24b 出力電極
25 錘
25a 切れ目
26 メンブレン構造
12 電圧制御発振器
13 蓄電手段
27 ダイオードブリッジ
28 ストレージデバイス
31 DC−ACコンバータ
図2
図6
図7
図8
図9
図1
図3
図4
図5
図10