【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動発電装置は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子と、前記圧電材料に交番電圧を印加可能な印加手段とを有し、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により交番電圧を印加可能に構成されていることを特徴とする。特に、本発明に係る振動発電装置は、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記印加手段により印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記印加手段により印加する交番電圧の周波数を制御する制御手段を有することが好ましい。
【0011】
本発明に係る振動発電装置の制御方法は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子を有する振動発電装置の制御方法であって、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧を印加することを特徴とする。特に、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動と前記圧電材料に印加する交番電圧とを混変調したときの周波数が前記機械振動子の共振周波数と一致するよう、前記交番電圧の周波数を制御することが好ましい。
【0012】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、以下の原理により、安定的に高効率で発電を行うことができる。
すなわち、系の変形が十分に小さく、線形挙動を示す場合には、圧電材料の構成方程式は、以下の式(1)および式(2)で表される。
【0013】
【数2】
ここで、T、P、S、Eは、それぞれ応力、分極、ひずみ、電界を示す。また、c
E、e、κ
Sは、それぞれ弾性コンプライアンス定数、圧電定数、誘電率である。
【0014】
外部からの電界の印加を無視すると、分極Pは、式(1)および式(2)より、
【数3】
となる。ここで、αは、−e/c
Eで表される比例係数である。式(3)は、機械から電気へのエネルギー変換が圧電材料によって得られることを示している。
【0015】
式(1)〜(3)では、線形挙動の系を示したが、実際の系では非線形性が存在するため、式(3)は、次の式(4)に拡張される。
【数4】
【0016】
4次以上の高次の非線形性を無視して、角周波数ωの外力が作用する場合を考えると、式(4)より、分極Pは、
【数5】
となる。
【0017】
式(5)から、非線形性により、2ωおよび3ωの周波数においても、系が励振されることがわかる。
さらに、角周波数ω
1およびω
2の二つの振動を、式(5)の系に入力する場合を考えると、分極Pは、次の式(6)となる。
【0018】
【数6】
【0019】
式(6)から、入力周波数ω
1およびω
2の高調波以外にも、ω
1±ω
2、ω
1±2ω
2、2ω
1±ω
2の複数の混変調信号が出力されることがわかる。式(6)は、4次以上の高次の非線形性を無視したものであり、実際にはさらに多くの混変調信号が出力される。
【0020】
ここで、
図1に示すように、機械振動子が、自然環境などの外部から周波数f
nにて加振され、圧電材料(圧電材)に周波数f
xの交番電圧を印加する場合を考える。機械振動子が非線形性を示す程度十分に大きな振幅で振動する場合には、機械振動子の圧電材料からの電気出力は、式(6)を利用して、各々の角周波数をω
1=2πf
n、ω
2=2πf
xと割り当てることで計算することができる。このとき、式(6)の第9項〜第14項に示すように、自然環境などの外部からの振動周波数f
nは、交番電圧による電気的励振f
xにより、高周波にアップコンバートもしくは低周波にダウンコンバートされることがわかる。そのコンバートされる周波数は、交番電圧による電気的励振の周波数f
xによって、任意に調整することができる。
【0021】
式(6)では、4次以上の非線形性を無視しているが、4次以上の高次の非線形性を考慮すると、f
nの振動とf
xの振動とが混変調されて、Nf
x±Mf
n(N、Mは整数)の周波数においても励振される。このことから、これらの混変調された振動のうちの少なくとも一つが機械振動子の共振周波数と一致するように、交番電圧の周波数f
xを調整することにより、機械振動子を共振状態で振動させることができ、発電効率を高めることができる。
【0022】
自然環境などの外部から与えられる外部振動の周波数f
nは時間的に変動するため、圧電材料に印加する交番電圧の周波数f
xを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数が時間的に変動するのを防ぐことができる。また、交番電圧の周波数f
xを制御することにより、混変調によって得られる振動の周波数を、常に機械振動子の共振周波数に一致させることができる。これにより、安定的に高効率で発電を行うことができる。
【0023】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、式(6)の第10項および第13〜14項に示すように、機械振動子は印加される周波数(f
nおよびf
x)に対して極めて高い周波数(f
n+f
x、2f
n+f
x、f
n+2f
x、…)で励振される。機械振動子のサイズは共振周波数にほぼ反比例するため、これらの混変調振動の高周波数を共振周波数として制御することにより、機械振動子を小型化することができ、装置全体の小型化を図ることができる。
【0024】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、交番電圧の周波数の制御は、フィードバック系を用いて行うことが好ましい。すなわち、本発明に係る振動発電装置は、前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定する測定手段を有し、前記制御手段は、前記測定手段による測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することが好ましい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、前記外部振動、前記共振周波数での前記機械振動子の変位、および前記共振周波数での前記圧電材料からの出力のうちの少なくとも一つを測定し、その測定結果に基づいて、前記交番電流の周波数を制御することが好ましい。この場合、自動制御により、外部振動と交番電圧とを混変調したときの周波数を、機械振動子の共振周波数と一致させることができる。
【0025】
本発明に係る振動発電装置で、前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることが好ましい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法で、前記機械振動子は、片持ち梁状、両持ち梁状、周囲を固定されたメンブレン状、または多角形の面形状を有する周囲を固定されたメンブレン状を成していることが好ましい。
【0026】
本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法で、式(6)に示すように、混変調振動の振幅は、α
2、α
3に比例することから、発電効率を高めるためには、機械振動子が高い非線形性を有することが好ましい。非線形性を高めるためには、機械振動子が大振幅で動作したときに、その動作が拘束されるような端部条件を有していればよいため、機械振動子の周囲が固定されているものが特に好ましい。すなわち、非線形性を高めるためには、機械振動子は、片持ち梁状より両持ち梁状が好ましく、両持ち梁状より、周囲が固定されたメンブレン状が好ましい。さらに、メンブレン状の場合には、応力集中が起きやすい多角形の面形状を有するものの方が好ましい。
【0027】
本発明に係る振動発電装置は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子と、前記圧電材料に交番電圧を印加可能な印加手段とを有し、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ω
1の近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をω
rとすると、2ω
r−ω
1の角周波数を有する交番電圧を前記印加手段により印加するよう構成されていてもよい。また、本発明に係る振動発電装置の制御方法は、圧電材料を有し、振動により発電可能に設けられた機械振動子を有する振動発電装置の制御方法であって、前記機械振動子に外部から与えられる外部振動が、所定の角振動数ω
1の近傍で変化するとき、前記機械振動子の共振角周波数をω
rとすると、2ω
r−ω
1の角周波数を有する交番電圧を前記圧電材料に印加してもよい。
【0028】
この本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、線形挙動の系に利用することができる。すなわち、
図2に示すように、線形挙動の系の場合、機械振動子に外部から与えられる外部振動をa(ω
1)=a・sinω
1t としたとき、これにa(ω
2)=a・sinω
2t の振動を加えると、その合成振動Aは、(7)式で与えられる。
【数7】
【0029】
ここで、ω
2=2ω
r−ω
1 とすると、合成振動Aは(8)式となる。
【数8】
【0030】
(8)式に示すように、合成振動Aは、機械振動子の共振角周波数ω
rを有する振動となる。なお、(7)式および(8)式から、ω
2=2ω
r−ω
1 としても同様の結果が得られることがわかる。このように、本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法によれば、機械振動子をその共振角周波数で振動させることができ、発電効率を高めることができる。本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、自然環境などからの外部振動が、所定の振動数の近傍で変化するとき、その周波数が一定でない振動を利用して、安定的に高効率で発電を行うことができる。
【0031】
この線形挙動の系による本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法は、(6)式を利用した非線形挙動の系による本発明に係る振動発電装置および振動発電装置の制御方法と組み合わせて用いられてもよく、それとは独立して用いられてもよい。