特許第5967703号(P5967703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967703
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】転写用基材フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/165 20060101AFI20160728BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B44C1/165
   B32B27/32 Z
   B32B27/32 103
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-126828(P2012-126828)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-248851(P2013-248851A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599049808
【氏名又は名称】株式会社フジコー
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲司
(72)【発明者】
【氏名】谷口 晃一
(72)【発明者】
【氏名】森 光弘
【審査官】 宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−127693(JP,A)
【文献】 特開2001−113642(JP,A)
【文献】 特開平10−060128(JP,A)
【文献】 特開平09−142092(JP,A)
【文献】 特開平09−226297(JP,A)
【文献】 特開平10−060127(JP,A)
【文献】 特開2000−000944(JP,A)
【文献】 特開2002−200716(JP,A)
【文献】 特開2008−143919(JP,A)
【文献】 特開2013−126740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/165
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体に転写されるインキ層が一方の面に印刷される転写用基材フィルムにおいて、
下記(a)〜(c)を満たし、前記転写用基材フィルムのインキ層が印刷される前記一方の面に中心線平均粗さRa(JIS B 0601)で0.1〜5μmの凹凸構造が形成されていることを特徴とする転写用基材フィルム。
(a)融点が161℃以上
(b)ヤング率が350MPa以下
(c)フィルムのMD方向のヤング率とTD方向のヤング率の関係(MD/TD)が0.95<MD/TD<1.05
【請求項2】
降伏点荷重が6.0N/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の転写用基材フィルム。
【請求項3】
70〜50重量%のホモポリプロピレンと、
30〜50重量%の、融点が140〜170℃のプロピレン系エラストマーとからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転写用基材フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の転写用基材フィルムを製造する転写用基材フィルムの製造方法において、前記プロピレン系エラストマーは、メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン共重合体であることを特徴とする転写用基材フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話のカバーケースや車の内装パネルなどの立体成形された被転写体に図柄等のインキ層を真空加圧熱転写法により転写をするために用いられる転写用基材フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複雑な三次元形状を有する立体成形された被転写体に図柄を転写する方法として水圧転写法が知られている。この水圧転写法は、水面に図柄となるインキ層を浮かせ、このインキ層を被転写体の表面に付着させて転写する方法である。しかし、水圧転写法では転写精度が低く、高度な意匠表現が難しいという問題があった。
【0003】
その問題を解決する方法として、真空加圧熱転写法が用いられている。この真空加圧熱転写法に用いる転写用基材フィルムとして、転写時のインキ層の剥離性に優れ、ポリエチレン系樹脂よりも融点が高く、柔軟性を有することから、ポリプロピレン系樹脂(エチレン−プロピレンランダム共重合体)が用いられていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−80292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリプロピレン系樹脂は高温雰囲気下であれば柔軟性が付与されるが、耐熱性に劣っているために、立体成形された被転写体に転写フィルムを追従させようとすると破れることにより満足する成形体が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記問題に着目してなされたものであり、上記課題を解決しうる転写用基材フィルムの提供を目的とする。
本発明者らは、所定条件の転写用基材フィルムとすることにより上記課題を解決するに至った。
すなわち、本発明に係る転写用基材フィルムは、被転写体に転写されるインキ層が一方の面に印刷される転写用基材フィルムにおいて、前記転写用基材フィルムのインキ層が印刷される前記一方の面に中心線平均粗さRa(JIS B 0601)で0.1〜5μmの凹凸構造が形成され、融点が161℃以上、ヤング率が350MPa以下、フィルムのMD方向のヤング率とTD方向のヤング率の関係(MD/TD)が0.95<MD/TD<1.05であることを特徴とする。
【0007】
ここで、上記転写用基材フィルムの降伏点荷重が6.0N/cm以上であってもよい。
さらに、上記転写用基材フィルムが、70〜50重量%のホモポリプロピレンと、30〜50重量%の、融点が140〜170℃のプロピレン系エラストマーとからなるものとしてもよい。
また、上記転写用基材フィルムの少なくとも一方の面に凹凸構造が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、木目模様等の高精度図柄を印刷加工する転写用基材フィルムとして、破れにくく不必要に伸びず適正な抗張力を有するものが得られ、上記課題を解決しうる転写用基材フィルムが提供される。
特に、高精度図柄の印刷加工において、適正な抗張力を有し、支持体層のキャリアーが不要となり、転写時に適正な柔軟性(伸び−被転写体形状への追随性)及び耐熱性がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、本発明に係る転写用基材フィルムを示す模式的図である。(b)は、(a)の転写用基材フィルムにインキ層を設けた状態の転写フィルムを示す模式図である。
図2】真空加圧熱転写法で転写する場合の工程を説明する図である。
図3】Tダイキャスト法により両面梨地の転写用基材フィルムの製造工程を示した図である。
図4】転写用基材フィルムへのインキ層の形成工程を示す図である。
図5】成形体の製造の流れを示す図である。
図6】転写フィルムの転写に用いた被転写体の斜視図である。
図7】被転写体に転写して得られる成形体の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る転写用基材フィルムについて、実施の形態を説明する。
本発明に係る転写用基材フィルム2(図1(a)参照)は、携帯電話のカバーケースや車の内装パネルなどの立体成形された被転写体の化粧に用いられる転写フィルム1の一部をなすもので、インキ層3の基材として機能する(図1(b)参照)。
本発明に係る転写用基材フィルム2は、被転写体に転写されるインキ層3が一方の面に印刷されるものであって、(a)融点が161℃以上、(b)ヤング率が350MPa以下、(c)フィルムのMD方向のヤング率とTD方向のヤング率の関係(MD/TD)が0.95<MD/TD<1.05を満たすものである。
【0011】
<転写用基材フィルムの融点>
転写用基材フィルム2の融点が161℃以上であれば、2〜10気圧、100〜140℃の条件で行われる真空加圧熱転写法による加熱処理時に転写フィルム1の破れや溶融が起こらず、転写が可能である。転写用基材フィルム2の融点が161℃未満であると、同条件の転写の加熱処理時に転写フィルム1の破れや溶融が起きて転写ができなくなる。
【0012】
転写用基材フィルム2の融点については、161℃以上の範囲において、被転写体9(図6参照)の耐熱温度に併せて設定される転写時の温度条件よりも高い融点に設定することで、転写時に転写フィルム1の破れや溶融が起きなくなる。
【0013】
転写フィルム1は、図1(b)に示すように、転写用基材フィルム2にインキ層3を設けたものであるため、転写用基材フィルム2の融点と略同じとなる。
【0014】
転写用基材フィルム2の融点は、特にコポリマーより融点が高いホモポリマーの配合割合により調整することが好ましい。
【0015】
<転写用基材フィルムのヤング率>
転写用基材フィルム2のヤング率(MPa)は、350MPa以下であることが好ましい。さらには、110〜350MPaであることが好ましい。
【0016】
ヤング率が350MPa以下であると、転写時に転写フィルム1が適度に延びるので被転写体9へのインキ層3の転写が可能となる。
【0017】
転写用基材フィルム2のヤング率(MPa)が350MPaより大きくなると、転写フィルム1の上記条件下での転写で転写フィルム1が延びずに綺麗に転写することができなくなる。
【0018】
なお、転写用基材フィルム2のヤング率は、樹脂構成やそれらの配合割合(重量%)により調整できる。
【0019】
転写用基材フィルム2のMD方向(フィルムの流れ方向)及びTD方向(フィルムの幅方向)のヤング率の関係(MD/TD)については、0.95<MD/TD<1.05であれば、転写時に図柄が歪まず綺麗に転写することができる。逆に、上記範囲から外れると、転写時に一方向に図柄が歪んでしまい、成形体5(図7(b)参照)の転写図柄が綺麗ではなくなる。
【0020】
ここで、転写用基材フィルム2の製造時に一方向(MD方向またはTD方向)に延伸をすることで、転写用基材フィルム2のMD方向及びTD方向のヤング率を調整することができ、転写用基材フィルム2のヤング率の関係(MD/TD)を、0.95<MD/TD<1.05とすることができる。
【0021】
<降伏点荷重>
転写用基材フィルム2の降伏点荷重については、6.0N/cm以上であれば、インキ層3を転写用基材フィルム2に印刷して得られる転写フィルム1をロール状に巻いた際にシワが発生しにくいものとなる。
【0022】
逆に、降伏点荷重が6.0N/cm未満であると、転写用基材フィルム2に所定の張力を加えた状態でインキ層3を印刷する際に、転写用基材フィルム2がネッキングを起こしやすく、転写用基材フィルム2に印刷した図柄が歪みやすくなり、その場合、印刷後の転写フィルム1をロール状に巻いたときに皺が発生しやすくなる。
【0023】
また、転写用基材フィルム2は、前記の特定の融点、特定のヤング率及び特定のヤング率の関係(MD/TD)であれば、転写用基材フィルム2に使用する樹脂は適宜選択することができる。
【0024】
転写用基材フィルム2は従来の公知の方法で製膜することができ、特にTダイキャスト法で製膜することが好ましい。前記Tダイキャスト法で製膜すると、転写用基材フィルム2のヤング率(MD方向)とヤング率(TD方向)の関係が0.95<MD/TD<1.05であるフィルムを得ることが容易である。
【0025】
また、転写用基材フィルム2の表面には凹凸を設けても良い。例えば、梨地模様や紋模様等の凹凸構造を転写用基材フィルム2の裏面(転写される側とは反対側の転写フィルム1の面)に設ければ、転写用基材フィルム2や転写フィルム1をロール状に巻き取る際に耐ブロッキング性やフィルムの滑り性を向上することができる。
【0026】
また、凹凸構造をインキ層3に接する側の転写用基材フィルム2の面に設ければ、印刷や塗工等でインキ層3を形成する際に、毛細管現象等によって、そのインキや塗液の転移性を良好にすることもできる。
【0027】
ここで、凹凸構造をインキ層3の印刷内容(文字や図柄)の印刷位置に合わせて転写用基材フィルム2に設けてもよい。これら耐ブロッキング性や転移性向上のための凹凸構造は、中心線平均粗さRa(JIS B 0601)で0.1〜5μm程度の凹凸が良好な結果を与える。
【0028】
また、転写用基材フィルム2の表面に凹凸を形成する方法は、特に限定されないが、転写用基材フィルム2を製膜と同時又は製膜後に別に形成してもよい。
【0029】
[転写用基材フィルム]
転写用基材フィルム2は、上記数値条件を満たせばどの樹脂素材であっても構わないが、例えば、主としてホモポリプロピレン(以下、ホモPPと称することがある。)と、プロピレン系エラストマー(以下、PP系エラストマーと称することがある。)とからなるものを好適に用いることができる。
このようにすることで、多層フィルムとしなくても、単層であっても転写フィルム1のインキ層3に対する剥離性を両立させることができる。つまり、支持体層を併設しなくとも転写可能な転写フィルムが得られる。
また、転写用基材フィルム2にホモPPを用いることで、インキ層3に対する剥離性が高いものとなる。
【0030】
<ホモPP>
転写用基材フィルム2に好適に用いられるホモポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体である。このホモポリプロピレンを用いることによって耐熱性に優れている転写用基材フィルム2が得られる。ホモポリプロピレンではなく、ポリマーの構成単位としてエチレン等の他のモノマーを含むポリプロピレン共重合体の場合、転写用基材フィルム2の融点が下がって、転写用基材フィルム2の耐熱適性が低下するので好ましくない。また、ホモポリプロピレンを用いることによってインキ層3に対する剥離性が高いものとなる。
【0031】
<PP系エラストマー>
一方、転写用基材フィルム2に好適に用いられるPP系エラストマーは、プロピレンと、エチレンおよびα−オレフィン(プロピレンを除く)の中から選ばれた一種以上のモノマーと共重合した共重合体が好ましく、α−オレフィンの具体例としては、ブテン、ペンテンヘキセン、ヘプテン、オクテン、デセン、ドデセン等が挙げられ、これらのランダム共重合体やブロック共重合体が好ましい。
【0032】
PP系エラストマーの製造には、チーグラーナッタ触媒やメタロセン触媒等が用いられる。メタロセン触媒は、ポリマーの分子構造を精密に設計でき、ポリマーの微細構造や共重合性を自由にコントロールでき、本発明で用いられるPP系エラストマーに要求される耐熱性と柔軟性を付与することができる。従って、本発明で用いられるPP系エラストマーはメタロセン触媒を用いて製造されたPP系エラストマーを用いることが望ましい。
【0033】
転写用基材フィルム2に用いられるPP系エラストマーの融点は、140℃〜170℃が好ましく、さらには150℃〜165℃が好ましい。PP系エラストマーの融点が140℃を下回る場合は、真空加圧熱転写する際の熱によって転写用基材フィルム2が収縮・変形し、図柄のインキ層3が綺麗に転写できなくなるので好ましくない。
【0034】
なお、PP系エラストマーの融点は、JIS K−7121に準拠し、示差走査熱量測定機(DSC)を用いて測定した。すなわち、加熱速度毎分20℃で融解終了時よりも約30℃高い温度まで加熱し10分間保った後、出現する融点のピークより50℃以上低い温度まで冷却速度毎分10℃で冷却し、次いで、装置を安定させ加熱速度毎分10℃で融解ピーク(吸熱ピーク)終了時より約30℃高い温度まで加熱して、吸熱ピークの温度を融点とした。
【0035】
PP系エラストマーの硬度は、ショアA硬度65〜90の柔軟性を有するものが好ましい。なお、PP系エラストマーのショアA硬度は、ASTM D2240に準拠して測定した。
【0036】
PP系エラストマーのMFRは、2g/10min〜50g/10minが好ましい。MFRが2g/10min未満の場合は、溶融粘度が高すぎて押出し成形が困難となる。MFRが50g/10minを超える場合は、溶融粘度が小さすぎて均一な厚さのフィルムを得るのが困難となる。
【0037】
以上、PP系エラストマー樹脂としては、上記物性を満たすものであれば特に制限はないが、例えば市販されているものを用いてもよい。市販されているPP系エラストマーとしては、「タフマー」(登録商標)等を好適に用いることができるが、これに制限されるものではない。
【0038】
転写用基材フィルム2のホモPPとPP系エラストマーの配合割合(重量%)については、ホモPP:PP系エラストマー=70〜50:30〜50とすることが好ましい。前記配合割合にすることによって、耐熱性と柔軟性に優れた転写用基材フィルム2を得ることができる。
【0039】
転写用基材フィルム2の厚さ(μm)については、転写する被転写体9の形状等の用途に応じて厚さを適宜選定することができるが、転写用基材フィルム2の柔軟性と成形性の関係から30μm〜150μmとすることが好ましい。転写用基材フィルム2の厚さが30μm未満の場合、薄いために転写用基材フィルム2を製膜しにくくなり、150μmを超えると柔軟性を満足する転写用基材フィルム2を製膜することができない。
【0040】
また、転写用基材フィルム2は上記のホモPPとPP系エラストマーを用いた場合は、ウレタン系樹脂などからなる支持体層を設けることなく、単層で柔軟性と剥離性を満足するものである。
【0041】
(転写フィルム)
転写フィルム1は、インキ層3、本発明に係る転写用基材フィルム2により構成されている。転写フィルム1は、被転写体9に木目模様や文字等の図柄を転写するために用いられるものである。
【0042】
<転写フィルム1の製造方法>
転写フィルム1は、前記したTダイキャスト法により転写用基材フィルム2を製膜して形成する工程、その後、インキ層3を転写用基材フィルム2の一方の面に形成する工程により製造される。
<インキ層3>
インキ層3は、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェットプリント等の従来公知の方法で設けることができる。また、図柄は用途に合わせて、木目模様、石目模様、布目模様、タイル調模様、煉瓦調模様、皮絞模様、文字、幾何学模様等を用いることができる。
【0043】
図柄となるインキ層3(図1参照)は、従来公知のインキを用いることができ、顔料や染料などの着色剤とバインダー等からなるビヒクルなどからなる。バインダーで使用する樹脂は、セルロース誘導体、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ロジンエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂の1種又は2種以上を用いることができる。また、着色材としては、チタン白、カーボンブラック、弁柄、黄鉛、群青等の無機顔料、アニリンブラック、キナクリドン、イソインドリノン、フタロシアニンブルー等の有機顔料或いはその他染料等を用いることができる。
【0044】
[被転写体]
転写フィルム1のインキ層3が転写される被転写体9(図6参照)は、特に限定されるものではない。例えば、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂からなる被転写体が特に好ましい。
【0045】
さらに、被転写体9の形状は平板、曲面板、棒状体、立体物等でも良い。また、被転写面は、平面以外にも、凹凸構造を表面に有するものでも良い。図6に示すような凹凸構造を有する表面でも破れ等なく転写可能である(後述の実施例参照)。
【0046】
[転写方法]
本発明に係る転写フィルム1を用いて、被転写体9の表面に図柄を転写する方法について説明する。
【0047】
本発明における転写方法は、真空加圧熱転写法の工程、及び転写用基材フィルム2の剥離工程を、この順に行うことを特徴としている。
【0048】
<真空加圧熱転写法の工程>
真空加圧熱転写工程は、図2(a)〜(c)に示すように、転写フィルム1を用いて、被転写体9の表面に図柄となるインキ層3を転写する方法である。
【0049】
真空加圧熱転写工程では、図2に示すような転写装置を使用する。この転写装置は、上部と下部の各チャンバー6、7を中心にして構成されている。
【0050】
上チャンバー6は、駆動装置8Bにより上下に駆動される。上チャンバー6の内上面にはヒータHが複数設けられている。一方、下チャンバー7内には支持台10が配置されている。支持台10は駆動装置8Aにより上下に駆動される。また、上チャンバー6および下チャンバー7には制圧手段としての真空ポンプ12、電磁バルブ4および圧縮ガスボンベ11等が接続されている。
【0051】
次に、この転写装置を用いたインキ層3の真空加圧熱転写法の工程を説明する。
最初に、図2(a)に示すように、支持台10に被転写体9をセットする。次に、転写フィルム1を、インキ層3が被転写体9に対向するようにして、被転写体9の上方にセットする。なお、インキ層3または被転写体9の表面には接着剤(図示せず)が塗布される。
【0052】
次に、図2(b)に示すように、上チャンバー6を駆動装置8Bにより下降させて下チャンバー7に密着させ、チャンバー6、7内を密閉状態にする。
【0053】
そして、支持台10を駆動装置8Aにより上昇させて被転写体9を転写フィルム1に向けて押し上げることにより、被転写体9を転写フィルム1に当接させる。
【0054】
続いて、真空ポンプ12を作動させて上チャンバー6内および下チャンバー7内の空間Sを真空状態にまで減圧する。その後、上チャンバー6内を再び大気圧に戻すか、又は加圧状態とすることによって、転写フィルム1が被転写体9の細部にまで進入するように回り込み、転写フィルム1が被転写体9に密着する。
【0055】
続いて、ヒータHを作動して転写フィルム1を加熱して上下のチャンバー6,7内が100〜140℃となるまで加熱され、上チャンバー6内を2〜10気圧まで加圧する。
このとき、転写フィルム1のインキ層3の表面又は被転写体9の表面に塗布した接着剤等により接着され、転写フィルム1のインキ層3の表面が被転写体9に接着し、実質的にインキ層3、転写用基材フィルム2が被転写体9に転写される。
【0056】
続いてヒータHの作動を停止すると共に、上チャンバー6及び下チャンバー7内を大気圧に戻して、被転写体9と転写フィルム1とを冷却する。
【0057】
<転写用基材フィルムの剥離工程>
最後に、図2(c)に示すように、転写用基材フィルム2の剥離工程は、上チャンバー6を駆動装置8Bにより上昇させて、被転写体9と転写フィルム1を取り出す。そして、転写用基材フィルム2をインキ層3から剥がす。これによりインキ層3が被転写体9に残り転写される。さらに、インキ層3のトリミングを行い成形体5が完成する。
【0058】
[後加工]
なお、転写後の成形体5の表面には、必要に応じ適宜、耐久性、意匠表現等を付与する為に、更に透明保護層等の従来公知の上塗り層を塗装法等で形成してもよい。
【0059】
[成形体の用途]
上記工程で得られる成形体5は、転写された装飾面が凹凸構造を有するもの、特に三次元形状等の凹凸構造を表面に有する物品であり、各種用途に用いられる。例えば、携帯電話のカバーケース、車の内装パネル、石鹸置きのケース、ペン立て等である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明に係る転写用基材フィルム2の実施例について説明する。
[実施例1]
図3に示すように、Tダイキャスト法により転写用基材フィルム2を製膜した。
具体的には、60重量%のホモPP(密度:0.900g/cm、融点:160℃、MI:2.1g/10min)と、40重量%のPP系エラストマー(密度:0.868g/cm、融点:141℃、MI:6.0g/10min、ショアA硬度:82)とからなる樹脂をTダイから溶融状態で押出し、凹凸表面を有する金属ローラ13とシリコンローラ14によりニップ成形することで厚さ70μmの両面梨地の転写用基材フィルム2を得た。
その後、図4に示すように、インキ層3をグラビア印刷で形成した。具体的には、まず、シリンダ16を回転させて、シリンダ16の一部をインキ溜め18に浸すことで、セル(版面のくぼみ)にインキを満たした。次に、版面にドクターブレード15を圧着させて、セルに詰まったインキ以外の不必要なインキを削ぎ落とした。
次に、転写用基材フィルム2を圧着ローラ19とシリンダ16との間に挟み込ませ、転写用基材フィルム2の一方の面にインキが均一に転着するように、圧着ローラ19によりシリンダ16上で転写用基材フィルム2を下方に押下し(白抜矢印)、シリンダ16の各セルから転写用基材フィルム2にインキを転着させた。転着後、転写用基材フィルム2を乾燥機17内に通過および乾燥させてインキ層3を形成し、転写フィルム1を得た。
得られた転写フィルム1を用いて、真空加圧熱転写法の工程にて被転写体9に図柄となるインキ層3を転写し、評価した。
なお、転写用基材フィルム2の融点、ヤング率、ヤング率の関係(MD/TD)及び降伏点荷重や評価結果は、他の実施例及び比較例を含めて表1に示す。
【0061】
[実施例2]
実施例1で、樹脂の配合割合を、ホモPPを65重量%、PP系エラストマーを35重量%とした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0062】
[実施例3]
実施例1で、転写用基材フィルム2の厚さを90μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0063】
[実施例4]
実施例1で、樹脂の配合割合を、ホモPPを50重量%、PP系エラストマーを50重量%、転写用基材フィルム2の厚さを100μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0064】
[実施例5]
実施例1で、転写用基材フィルム2の厚さを80μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0065】
[実施例6]
実施例1で、樹脂の配合割合を、ホモPPを70重量%、PP系エラストマーを30重量%とした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0066】
[実施例7]
実施例1で、樹脂の配合割合を、ホモPPを50重量%、PP系エラストマーを50重量%、転写用基材フィルム2の厚さを80μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0067】
[比較例1]
実施例1で、ホモPPをランダムPP(エチレン含有量:4.6wt%、密度:0.890g/cm、融点:132℃、MI:3.5g/10min)に、樹脂の配合割合を、ランダムPPを70重量%、PP系エラストマーを30重量%、転写用基材フィルム2の厚さを60μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0068】
[比較例2]
実施例1で、ホモPPをランダムPP(エチレン含有量:4.6wt%、密度:0.890g/cm、融点:132℃、MI:3.5g/10min)に、樹脂の配合割合を、ランダムPPを70重量%、PP系エラストマーを30重量%、転写用基材フィルム2の厚さを70μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0069】
[比較例3]
実施例1で、樹脂の配合割合を、ホモPPを60重量%、PP系エラストマーを40重量%、転写用基材フィルム2の厚さを60μmとした以外は、実施例1と同様にして転写フィルム1を得た。更に、実施例1と同様の転写方法で転写した。
【0070】
【表1】

【0071】
[試験方法、評価基準、結果考察]
<耐熱適性>
(転写用基材フィルムの融点測定)
JIS K 7121が規定する方法に従って、示差走査熱量計(TA−50WS:株式会社島津製作所製)にて測定した。
測定条件;試料仕込み量:6mg、昇温、降温速度:10℃/min
【0072】
(転写用基材フィルムの耐熱性の評価基準)
真空加圧熱転写法の工程の140℃の加熱処理の後に、転写フィルム1として使用可能か否かにより判断した。具体的には、以下の通りとした。
「〇」:真空加圧熱転写法の工程の加熱処理時に転写フィルム1の破れや溶融が起きない。
「×」:真空加圧熱転写法の工程の加熱処理時に転写フィルム1の破れや溶融が起きる。
転写用基材フィルム2に耐熱適性がない場合、上述したような真空加圧熱転写工程でヒータHの加熱処理条件下、転写フィルム1の破れや溶融により図柄が損なわれると転写自体が不可能となる場合がある。
そのため、転写用基材フィルム2を適正な耐熱適性を備えたものとする必要がある。各実施例の耐熱適性については、転写用基材フィルム2を140℃まで加熱した後に、転写用基材フィルム2として使用可能か否かによって判断した。
転写用基材フィルム2の耐熱適性が高いことは、真空加圧熱転写時の加熱処理条件下でもインキ層3の下層が転写時に必要な所望の性質を維持することに繋がることから、転写用基材フィルム2の耐熱適性が高ければ転写適性も良好となりやすい。
表1に示す各実施例・比較例の耐熱適性は、この基準で判断したものである。
【0073】
(耐熱適性の評価結果)
ホモPPと耐熱性のあるPP系エラストマーをそれぞれ所定の濃度で含有していることにより、上記真空加圧熱転写時の加熱処理条件(約140℃)でも十分に耐えることができた(実施例1〜7参照)。
これに対して、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)とPP系エラストマーを用いた場合では、実施例1〜7とは対照的に何れも耐熱適性が得られなかった(比較例1、2)。
【0074】
<印刷加工適性>
(降伏点荷重の測定)
ASTM D 882が規定する方法に従って、引張り試験機を用いて、速度500mm/minで引張り、測定した。
【0075】
(印刷加工適性の評価基準)
印刷加工適性は、転写用基材フィルム2の降伏点荷重により判断した。降伏点荷重が適正な範囲(6.0以上)にあることで、印刷加工する際に転写フィルム1が延び過ぎず、印刷加工適性が高いものとなる。
表1に示す印刷加工適性は、各実施例と比較例について、上記試験方法の条件で行なった測定結果から判断したもので、印刷後に皺が発生しているか否かを基準として判断した。
「○」:転写フィルム1に皺が発生していなかった。
「×」:転写フィルム1に皺が発生していた。
【0076】
(印刷加工適性の評価結果)
実施例1〜6に係る転写用基材フィルム2は、ホモPPが70〜50重量%、PP系エラストマーが30〜50重量%、厚みが70μm以上であることから、降伏点荷重が6.0以上の範囲となって、印刷加工時に伸び過ぎず、印刷加工適性はいずれも良好であった(表1参照)。
このことから、実施例1〜3のようにホモPPとPP系エラストマーを所定の割合で含有させることで転写用基材フィルム2を降伏点荷重が6.0以上となる。この結果、降伏点荷重が6.0以上であれば、各種印刷に応じ印刷加工適性が良好な転写用基材フィルム2が得られる。
【0077】
<転写適性>
(ヤング率の測定)
ASTM D 882が規定する方法に従って、引張り試験機を用いて、速度50mm/minで引張り、応力−歪曲線の引張試験初期の傾きから求めた。
【0078】
(転写適性の評価基準)
転写適性は、転写フィルム1のインキ層3を被転写体9への転写する際の転写のしやすさである。転写フィルム1のヤング率が350MPa以下であると、転写時に転写フィルム1が好適に伸びるので3次元転写がしやすいものとなる。350MPaより大きくなると、転写時に転写フィルム1の延びが小さく、綺麗に転写することができなくなる。
また、ヤング率の関係(MD/TD)が0.95<MD/TD<1.05であれば、転写時に図柄が歪みにくくなるで、綺麗に転写することができる。それ以外の範囲であると、転写時に一方向に図柄が歪む傾向となり、その場合、転写した後の図柄が綺麗ではなくなる。
なお、各実施例・比較例ではインキ層3以外に他の層を設けておらず、また、インキ層3自体は転写フィルム1のヤング率に殆ど関与しないため、転写用基材フィルム2の特性が転写フィルム1の特性とほぼ同様となる。
被転写体9としての樹脂ケース(図6参照)を用いて、以下の評価基準で転写適性を評価した。
「○」:図柄を再現性良く転写できた。
「△」:側面部分の図柄の一部分が少し変形したが、実用上問題なく転写できた。
「×」:側面部分の図柄が変形しており、転写不良であった。
【0079】
(転写適性の評価結果)
また、実施例では、図7(a)に示すように、転写フィルム1が角部の曲面でも均一に伸びて木目模様の巾が等間隔となる傾向である一方で、比較例では、図7(b)に示すように、木目模様が部分的に集中して、横断方向で木目模様が等間隔とならない傾向となった。
なお、比較例1と比較例3は、ヤング率が350MPa以下であるが、0.95<MD/TD<1.05の範囲から外れていることから、転写時に奇麗に図柄が転写しないために転写適性が「×」となった。
【0080】
(総合評価)
総合評価としては、上記各適性の評価から総合判断して実施例1〜3の転写用基材フィルム2が特に好ましい性質を備えたものとなった。
【0081】
以上、本発明に係る転写用基材フィルム2等を実施の形態や各例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0082】
特に、上記融点、ヤング率、降伏点荷重の範囲を満たす樹脂構成、比率等の転写フィルム1であれば、上述したホモPPと、PP系エラストマーに限らず、本発明に係る転写フィルム1としての転写時の作用・効果が得られる可能性が高い。
【符号の説明】
【0083】
1 転写フィルム
2 転写用基材フィルム
3 インキ層
4 電磁バルブ
5 成形体
6 上チャンバー
7 下チャンバー
8A,8B 駆動装置
9 被転写体
10 支持台
11 圧縮ガスボンベ
12 真空ポンプ
13 金属ローラ
14 シリコンローラ
15 ドクターブレード
16 シリンダ
17 乾燥機
18 インキ溜め
19 圧着ローラ
H ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7