(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967706
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】デッドタイム補正を行う三相PWM電力変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20160728BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/48 M
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-136076(P2012-136076)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3760(P2014-3760A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一樹
(72)【発明者】
【氏名】大森 洋一
(72)【発明者】
【氏名】北条 善久
【審査官】
麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−268930(JP,A)
【文献】
特開2011−087429(JP,A)
【文献】
特開2009−153297(JP,A)
【文献】
特開平10−225142(JP,A)
【文献】
米国特許第05867380(US,A)
【文献】
米国特許第05329217(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆並列接続されたダイオードを有するスイッチング素子をブリッジ状に構成し、流れる電流の極性に応じてデッドタイム補正を行う三相PWM電力変換器において、
三相交流電流iu、iv、iwを任意のサンプリング時においてサンプルする電流サンプリング器と、該電流サンプリング器の出力であるIu、Iv、Iwの三相電流成分をab軸の二相電流成分Ia、Ibと零相電流成分I0に変換して該零相電流成分I0を無視することによって前記電流サンプリング器のオフセット分を除去する第1電流成分変換器と、前記電流サンプリング器の出力であるサンプル電流Iu、Iv、Iwのいずれかから基本波角周波数ωを検出する電源角周波数演算器と、前記第1電流成分変換器と前記基本波角周波数ωから次回サンプリング時の電流値を予測するために前記電流成分Ia、Ibの位相を1.5サンプリング周期分進めた位相θ1を演算する位相演算器と、前記位相θ1と前記電流成分Ia、Ibから1.5サンプリング周期分進めたab軸の二相電流成分Ia1、Ib1を出力する位相補正器と、前記電流成分Ia1、Ib1からデッドタイム補正値を算出するために三相電流成分Iu1、Iv1、Iw1に変換する第2電流成分変換器と、該電流成分Iu1、Iv1、Iw1からデッドタイム補正値を演算するデッドタイム補正値演算器を有することを特徴とし、前記電流成分Iu1、Iv1、Iw1の極性に応じてデッドタイム補正する三相PWM電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆並列接続されたダイオードを有するスイッチング素子をブリッジ状に構成し、流れる電流の極性に応じてデッドタイム補正を行う三相PWM電力変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2を用いて従来技術を説明する。
【0003】
電流サンプリング器1は三相交流電流iu、iv、iwを任意のサンプリング時においてサンプルしたサンプル電流Iu、Iv、Iwを計測する。電源角周波数演算器2はサンプル電流Iu、Iv、Iwのいずれか、例えばU相サンプル電流Iuから基本波角周波数ωを検出する。U相90°進み電流演算器31はサンプル電流Iv、Iwを入力してU相90°進み電流IuxをU相微小電流演算器41に出力する。V相90°進み電流演算器32はサンプル電流Iu、Iwを入力し、V相90°進み電流IvxをV相微小電流演算器42に出力する。W相90°進み電流演算器33はサンプル電流Iu、Ivを入力し、W相90°進み電流IwxをW相微小電流演算器43に出力する。微小電流演算器41〜43は基本角周波数ωと90°進み電流Iux、Ivx、Iwxを入力し、電流サンプリング器1が電流をサンプルするサンプリング時間Tsから微小電流Iuy、Ivy、Iwyを演算し、予測電流演算器51〜53に出力する。予測電流演算器51〜53はサンプル電流Iu、Iv、Iwと微小電流Iuy、Ivy、Iwyを用いて予測電流Iuz、Ivz、Iwzを演算する。
【0004】
ここで、電流予測演算方法について詳しく説明する。電流サンプリング器1が今回サンプリングした電流には添え字(k)を付けてIu(k)、Iv(k)、Iw(k)とし、次回サンプリング時の予測値には添え字(k+1)を付けてIu(k+1)、Iv(k+1)、Iw(k+1)とする。
【0005】
今回サンプリング時のU相電流Iu(k)と次回サンプリング時の予測値Iu(k+1)との関係をU相電流Iu(k)の一次微分とサンプリング時間Tsを用いて表すと式(1)のようになる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、三相交流電流iu、iv、iwが正弦波状で三相バランスしているとすると、基本波角周波数ωと三相ベクトル関係を利用すると式(1)を式(2)のように変換できる。
【0008】
【数2】
【0009】
同様にしてV相、W相電流についても求めたものを式(3)、式(4)に示す。
【0010】
【数3】
【0011】
【数4】
【0012】
以上よりU相90°進み電流演算器31では式(2)の
「(Iw(k)−Iv(k))/√3」を求め、
U相微小電流演算器41では式(2)の
「ω×Ts×(Iw(k)−Iv(k))/√3」を求め、
U相電流予測演算器51では式(2)を用いて予測電流Iuzを求めている。V相電流、W相電流についても同様に式(3)、式(4)を用いて予測電流Ivz、Iwzを求める。デッドタイム補正値演算器7は予測電流Iuz、Ivz、Iwzの極性からデッドタイム補正値を演算する。この手法は特開2001−268930号公報に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−268930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする問題点は、電流サンプリング器の検出オフセットにより電流サンプリング値に誤差が生じ、デッドタイム補正値にも誤差が生じてしまう。その一例を
図3に示す。
図3(a)のような振幅1のU相、V相、W相電流に0.5の電流サンプリング器の検出オフセットがあるとすると
図3(b)のような波形になり、
図3(c)に示すように電流予測値にも0.5の電流サンプリング器の検出オフセット分の誤差が生じてしまう。この誤差により、正確なデッドタイム補正値を算出することができず、特に電流の0クロス時にはデッドタイム補正値の極性が反転しまう恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上のような問題点を解決するために本発明の請求項1は、逆並列接続されたダイオードを有するスイッチング素子をブリッジ状に構成し、流れる電流の極性に応じてデッドタイム補正を行う三相PWM電力変換器において、
三相交流電流iu、iv、iwを任意のサンプリング時においてサンプルする電流サンプリング器と、該電流サンプリング器の出力であるIu、Iv、Iwの三相電流成分をab軸の二相電流成分Ia、Ibと零相電流成分I0に変換して該零相電流成分I0を無視することによって前記電流サンプリング器のオフセット分を除去する第1電流成分変換器と、前記電流サンプリング器の出力であるサンプル電流Iu、Iv、Iwのいずれかから基本波角周波数ωを検出する電源角周波数演算器と、前記第1電流成分変換器と前記基本波角周波数ωから次回サンプリング時の電流値を予測するために前記電流成分Ia、Ibの位相を1.5サンプリング周期分進めた位相θ1を演算する位相演算器と、前記位相θ1と前記電流成分Ia、Ibから1.5サンプリング周期分進めたab軸の二相電流成分Ia1、Ib1を出力する位相補正器と、前記電流成分Ia1、Ib1からデッドタイム補正値を算出するために三相電流成分Iu1、Iv1、Iw1に変換する第2電流成分変換器と、該電流成分Iu1、Iv1、Iw1からデッドタイム補正値を演算するデッドタイム補正値演算器を有することを特徴とし、前記電流成分Iu1、Iv1、Iw1の極性に応じてデッドタイム補正する三相PWM電力変換器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、三相電流を電流成分変換器によりab軸の二相電流成分に変換して次回サンプリング時の電流を予測するので構成が極めて簡単となる。また三相電流をab軸の二相電流成分に変換して零相電流成分を無視することで電流サンプリング器のオフセットの影響を軽減することができ、正確なデッドタイム補正値を算出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による実施方法を示した図である。(実施例1)
【
図3】従来技術の電流サンプリング器のオフセットの影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の1実施例を示す図であり、
図1を用いて説明する。
図2と同様の部分については説明を省略する。
【0020】
第1電流成分変換器3は、電流サンプリング器1でサンプルしたサンプル電流Iu、Iv、Iwからab軸の二相電流成分Ia、Ibに変換するものであり、式(5)に示す。
【0021】
【数5】
Ia:a軸電流成分
Ib:b軸電流成分
Iu:U相電流成分
Iv:V相電流成分
Iw:W相電流成分
【0022】
第1電流成分変換器3にてサンプル電流Iu、Iv、Iwからab軸の二相電流成分Ia、Ibに変換した際、ab軸の二相電流成分Ia、Ib以外に零相電流成分I0も含まれるが、三相PWM電力変換器では、サンプル電流Iu、Iv、Iwは通常Iu+Iv+Iw=0となり零相電流成分I0は無視することができる。零相電流成分I0が0でない場合は、例えば電流サンプリング器1が温度変化によりオフセット値が変化すると、サンプル電流Iu、Iv、Iwには同一のオフセット値が加算され、零相電流成分I0に現れる。零相電流成分I0を無視することで、前述のような電流サンプリング器1の温度変化による検出オフセット分を除去することが可能である。よって、電流サンプリング器1のオフセットによる影響を軽減することが可能である。
【0023】
位相演算器4は、電源角周波数演算器2の出力である基本波角周波数ωからab軸の二相電流成分Ia、Ibから次回サンプリング時の電流を予測するためにab軸の二相電流成分Ia、Ibの位相を1.5サンプリング周期分進めた位相θ1を出力するものであるが、次回サンプリング時の電流予測と1.5サンプリング周期分進めた位相θ1の関係について以下に詳細に説明する。
【0024】
電流サンプリング器1が電流をサンプルするサンプリング時間をTsとして、現在のサンプリング時をt(k)、次回サンプリング時をt(k+1)、次々回サンプリング時をt(k+2)として
図4を用いて説明する。
【0025】
t(k)でサンプルした三相電流Iu、Iv、Iwからab軸の二相電流成分Ia、Ibを求めて、ab軸の二相電流成分Ia、Ibから求めるデッドタイム補正値は、t(k+1)からt(k+2)間に適用されるものである。よって、デッドタイム補正値を演算するのに使用される電流値はt(k)からt(k+1)までの1サンプリング周期と、t(k+1)からt(k+2)間の平均である0.5サンプリング周期を合計した1.5サンプリング周期分の位相を進めたab軸の二相電流成分Ia、Ibにするべきである。そこで位相演算器4は電流を予測するために電源角周波数ωから1.5サンプリング周期分進めた位相θ1を演算する。
【0026】
位相補正器5は、位相θ1とab軸の二相電流成分Ia、Ibから1.5サンプリング周期分進めたab軸の二相電流成分Ia1、Ib1を出力するものであるが、以下に詳細に説明する。
【0027】
現在のサンプリング時の位相をθ、振幅を1として、ab軸の二相電流成分Ia、Ibを表すと式(6)になる。
【0028】
【数6】
Ia:a軸電流成分(現在サンプルング時)
Ib:b軸電流成分(現在サンプリング時)
θ:位相(現在サンプリング時)
【0029】
1.5サンプリング周期分進めたab軸の二相電流成分Ia1、Ib1を1.5サンプリング周期分進めた位相θ1を用いて表すと式(7)のようになり、ab軸の二相電流成分Ia1、Ib1を求めることができる。
【0030】
【数7】
Ia1:1.5サンプルング周期分の位相を進めたa軸電流成分
Ib1:1.5サンプルング周期分の位相を進めたb軸電流成分
θ1:1.5サンプルング周期分の位相
【0031】
第2電流成分変換器6はab軸の二相電流成分Ia1、Ib1をデッドタイム補正値を算出するために三相電流成分Iu1、Iv1、Iw1に変換するものである。以上のようにab軸の二相電流成分Ia1、Ib1から三相電流成分Iu1、Iv1、Iw1に変換することで電流サンプリング器1のオフセットによる影響を軽減することが可能である。
【0032】
本発明の効果の一例を
図5に示す。
図5(a)のような振幅1のU相、V相、W相電流に0.5の電流サンプリング器1の検出オフセットがあるとすると
図5(b)のような波形になる。U相、V相、W相電流をab軸の二相電流成分と零相電流成分に変換したものが
図5(c)のようになり、電流サンプリング器1のオフセット分が零相電流成分に含まれている。零相電流成分を無視したab軸の二相電流成分が
図5(d)になる。さらにab軸の二相電流成分から1.5サンプリング周期分の位相を進めたものが
図5(e)となる。
図5(e)のab軸の二相電流成分から三相電流成分に変換したものが
図5(f)となり、電流サンプリング器1のオフセット分である0.5が除去でき、
図5(f)に示した電流の極性を用いてデッドタイム補正値を演算する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上より、三相電流を電流成分変換器によりab軸の二相電流成分に変換して次回サンプリング時の電流を予測するので構成が極めて簡単となる点と、三相電流をab軸の二相電流成分に変換して零相電流成分を無視することで電流サンプリング器のオフセットの影響を軽減することができ、正確なデッドタイム補正値を算出することが可能である点から産業上の利用の可能性は大いにある。
【符号の説明】
【0034】
1、11 電流サンプリング器
2、21 電源角周波数演算器
3 第1電流成分変換器
4 位相演算器
5 位相補正器
6 第2電流成分変換器
7、71 デッドタイム補正値演算器
31 U相90°進み電流演算器
32 V相90°進み電流演算器
33 W相90°進み電流演算器
41 U相微小電流演算器
42 V相微小電流演算器
43 W相微小電流演算器
51 U相予測電流演算器
52 V相予測電流演算器
53 W相予測電流演算器