(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、上述した非特許文献1に開示されている炭素透過法によるカーボンナノチューブの製造方法について研究を行なっており、当該炭素透過法によって長さが約100μm〜200μm程度のカーボンナノチューブの製造に成功している。しかし、従来200μmよりさらに長いカーボンナノチューブを製造することは困難であった。さらに得られたカーボンナノチューブの形状も安定して一定の形状(たとえば屈曲せず一方向に沿って延びるような形状)とすることは難しかった。また、上記のように触媒として用いられる鉄中での炭素の拡散と磁場との関係については知見があったものの、カーボンナノチューブどのカーボンナノ構造体の製造工程に磁場の印加を利用することは従来検討されていなかった。
【0006】
一方、実用化を考えると、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ構造体についてさらなる長尺化や形状の安定化が求められている。そして、このようなカーボンナノ構造体の長尺化などに上述した磁場を利用することが考えられる。
【0007】
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、磁場を利用してカーボンナノ構造体の長尺化や形状の安定化が可能なカーボンナノ構造体の製造装置およびカーボンナノ構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、勾配磁場中では鉄中の炭素の拡散係数が増大するという知見から、カーボンナノ構造体の製造に用いる触媒部材中での炭素の拡散を促進するために勾配磁場を利用するという新たな着想を得て、本発明を完成した。すなわち、この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造装置は、カーボンナノ構造体を成長させる触媒部材と、原料供給部と、1つの磁場発生コイルと、加熱部材と
、原料室と、調整部材とを備える。原料供給部は、触媒部材に、カーボンナノ構造体を構成するための炭素を供給する。1つの磁場発生コイルは、触媒部材の一方表面から、当該一方表面と対向する他方表面に向けて、磁場強度が徐々に高くなる勾配磁場を印加する。加熱部材は、触媒部材を加熱する。
原料室は、触媒部材の一方表面の少なくとも一部に接続され、触媒部材の一方表面の少なくとも一部が内壁の部分を構成する。調整部材は、触媒部材と磁場発生コイルとの相対的な位置を変更する。触媒部材は、磁場発生コイルの中心軸に沿った位置であって磁場発生コイルの中央からずれた位置に配置されている。
原料供給部は、炭素を含む原料ガスを原料室に供給する。
【0009】
このようにすれば、触媒部材に対して勾配磁場を印加しながら、当該触媒部材の一方表面に炭素を供給しつつ触媒部材を加熱することができる。この場合、勾配磁場によって触媒部材の一方表面側から他方表面側に向けて、触媒部材中での炭素の拡散が促進される。そのため、触媒部材の一方表面に供給された炭素は他方表面側へ順次拡散していくので、一方表面において炭素濃度が飽和することを防止できる。したがって、一方表面において炭素濃度が飽和することに起因して当該一方表面における炭素の取り込みが停止することを防止できる。このため、触媒部材の他方表面側においては継続的に炭素が供給されるため、当該他方表面にカーボンナノ構造体を連続的に成長させることができる。この結果、カーボンナノ構造体の長尺化を図ることができる。
【0010】
また、勾配磁場が印加されることにより、触媒部材の他方表面の形状が磁場による応力を受ける。当該応力により、カーボンナノ構造体が成長するときに触媒部材の表面形状が安定する。この結果、当該触媒の表面形状が変動することにより、成長するカーボンナノ構造体の形状が不安定になる(たとえば不規則に変化する)ことを防止できる。
【0011】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法は、カーボンナノ構造体を成長させる触媒部材を準備する工程と、触媒部材を加熱しながら触媒部材に炭素を供給することによって、触媒部材においてカーボンナノ構造体を成長させる工程とを備える。カーボンナノ構造体を成長させる工程では、触媒部材の一方表面から、当該一方表面と対向する他方表面に向けて、磁場強度が徐々に高くなる勾配磁場を印加する。触媒部材の位置における磁場強度の変化率は30Tm
−1超えである。上記カーボンナノ構造体の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の製造装置を用いて実施されてもよい。
【0012】
このようにすれば、触媒部材の位置における磁場強度の変化率が30Tm
−1超えという勾配磁場によって、たとえば触媒部材の一方表面側から他方表面側に向けて、触媒部材中での炭素の拡散が確実に促進される。そのため、触媒部材の一方表面に供給された炭素は他方表面側へ順次拡散していくので、一方表面において炭素濃度が飽和することを防止できる。したがって、一方表面において炭素濃度が飽和することに起因して当該一方表面における炭素の取り込みが停止することを防止できる。このため、触媒部材の他方表面側においては継続的に炭素が供給されるため、当該他方表面にカーボンナノ構造体を連続的に成長させることができる。この結果、カーボンナノ構造体の長尺化を図ることができる。
【0013】
また、勾配磁場が印加されることにより、触媒部材の他方表面の形状が磁場による応力を受ける。当該応力により、カーボンナノ構造体が成長するときに触媒部材の表面形状が安定する。この結果、当該触媒の表面形状が変動することにより、成長するカーボンナノ構造体の形状が不安定になることを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁場勾配を利用してカーボンナノ構造体の長尺化および形状の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明については繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1〜
図3を参照して、本発明によるカーボンナノ構造体の製造装置を説明する。なお、本明細書におけるカーボンナノ構造体とは、たとえばカーボンナノチューブやグラファイトテープなど、カーボン(炭素)原子が主たる構成要素となっている微細構造体を意味する。
【0018】
図1に示した製造装置は、処理容器2と、触媒部材4と、触媒部材4を加熱するためのヒータ6と、触媒部材4に対して勾配磁場を印加するための1つのコイル7とを備える。
図1に垂直な方向における処理容器2の断面形状は円形状または矩形状など任意の形状とすることができる。触媒部材4は処理容器2の内部に配置されている。この触媒部材4の一方表面に接続するように原料ガス回収室3が配置されている。異なる観点から言えば、原料ガス回収室3の壁面の一部が触媒部材4の一方表面の少なくとも一部によって構成されている。そして、触媒部材4の一方表面に対向する位置に原料ガス供給管5が配置されている。原料ガス供給管5は、その一方端が原料ガス回収室3の内部に配置され、他方端が原料ガス供給部11に接続されている。
【0019】
原料ガス供給部11は、原料ガス供給管5を介して触媒部材4の一方表面に向けてカーボンナノチューブの原料となる炭素を含む原料ガスを供給する。すなわち、原料ガス供給部11から供給される原料ガスは、原料ガス供給管5を介して矢印12に示すように触媒部材4の一方表面に吹きつけられる。触媒部材4においては、原料ガスから供給された炭素が一方表面より内部に取り込まれた後、当該炭素が他方表面側(原料ガス回収室3に対向する一方表面とは反対側の表面)に向けて当該触媒中を拡散する。そして、触媒部材4の他方表面においてはカーボンナノチューブ20が成長する。なお、上述のように触媒部材4の一方表面に吹きつけられた原料ガスは、その後矢印13に示したように原料ガス回収室3の内部を流通し回収される。炭素を含む原料ガスとしては、たとえばメタン、エチレンなどの炭化水素系ガス、あるいはエタノール、メタノールなどのアルコール系ガス、あるいは、一酸化炭素ガスなどを用いることが好ましい。さらに、上記原料ガスには、二酸化炭素(CO
2)、水(H
2O)などの酸化性ガスも上述した原料ガスに含まれていることが好ましい。上記酸化性ガスを原料ガスに添加することは、触媒部材4の一方表面において炭素濃度が飽和し難くなる効果が得られることから、より望ましい。
【0020】
処理容器2の内部には、触媒部材4を加熱するためのヒータ6が配置されている。ヒータ6は、たとえば処理容器2の壁の内周表面上に配置されている。なお、ヒータ6を処理容器2の外部に配置してもよい。ヒータ6としては任意の加熱機構を用いることができるが、たとえば電熱ヒータなどを用いてもよい。
【0021】
そして、処理容器2の外部には、磁束線9により示すような磁場を形成するためのコイル7が配置されている。コイル7は、処理容器2の外周を囲むような環状の形状を有している。コイル7は、触媒部材4の一方表面から他方表面に向かう軸を中心軸として、当該中心軸を中心にして配置されている。コイル7の中心は、当該中心軸に沿った方向において触媒部材から離れた位置に配置される。異なる観点から言えば、コイル7の中心からコイル7の中心軸に沿った方向において離れた位置に、触媒部材4は配置されている。
【0022】
このようなコイル7に電流を流すことにより、磁束線9に示すような磁場が形成される。この磁場により、触媒部材4に対しては、その厚み方向に磁場の強度が変化する(具体的には原料ガス供給管5と対向する一方表面側からカーボンナノチューブ20が成長する他方表面側に向けて徐々に磁場の強度が強くなる)。触媒部材4の位置における磁場強度の変化率は30Tm
−1超えとなっている。このように磁場勾配(触媒部材4の厚み方向に磁場の強度が変化した状態)が発生することによって、触媒部材4における一方表面側から他方表面側へ向けた炭素の拡散が促進される。その結果、触媒部材4の一方表面において炭素濃度が飽和濃度に達することを抑制できるので、触媒部材4中に連続して炭素を取り込むことができる。このため、カーボンナノチューブ20を連続的に成長させることができる。なお、上述のようなコイル7、8を用いる構成以外であって、触媒部材4に上記のような勾配磁場を印加できれば、任意の磁場発生部材を用いることができる。たとえば、能力の異なるコイルを複数個、触媒部材4の周囲に配置することで勾配磁場を形成する、といった方法を用いてもよい。上記のコイルなどの配置は、磁場勾配強度を出来るだけ大きくする配置にすることが好ましい。
【0023】
次に、
図2および
図3を参照して、触媒部材4の構造を説明する。
図2および
図3に示すように、触媒部材4は、平面形状が円形状であって、銀からなるベース部材14に、一方表面側から他方表面側まで貫通するように鉄フィラメント15が複数個配置された構造となっている。好ましくは、鉄フィラメント15の形状が円柱状であればカーボンナノチューブが形成され、また、鉄フィラメント15がテープ形状であればカーボンナノチューブまたはグラファイトシートが形成される。上述したカーボンナノチューブを構成するべき炭素は、鉄フィラメント15中を拡散する。そして、
図1に示した触媒部材4の他方表面側では、この鉄フィラメント15の表面(端面)からカーボンナノチューブ20が成長する。なお、
図2および
図3に示した触媒部材4の製造方法は後述する。
【0024】
次に、
図4および
図5を参照して、本発明によるカーボンナノチューブの製造装置に用いられる触媒部材の変形例を説明する。
【0025】
図4および
図5に示した触媒部材4は、鉄からなるベース膜24の表面上に、複数の開口部26を有するアルミナ膜25が形成されている。アルミナ膜25の開口部26は、
図4に示すように触媒部材4の表面上において分散配置されている。開口部26においては、ベース膜24の一部が露出した状態になっている。このような触媒部材4を、
図1に示した製造装置1の触媒部材4として用いる場合には、アルミナ膜25が形成されていないベース膜24の一方表面27側を
図1の原料ガス供給管5と対向する位置に配置する。
【0026】
図4および
図5に示した触媒部材4の製造方法は、任意の方法を採用することができる。たとえば、アルミナと鉄との同時成膜法(たとえばRFマグネトロンスパッタ法)を用いて当該触媒部材4を形成してもよい。あるいは、鉄からなるベース膜24を任意の方法で製造した後、当該ベース膜24の表面上に、開口部26を有するアルミナ膜25をスパッタリングなどによって形成する。当該開口部26については、あらかじめベース膜24上において開口部26が形成されるべき領域上にフォトリソグラフィ法などを用いてレジストパターンを形成しておき、その後アルミナ膜25を形成してからレジストパターンごと当該レジストパターン上に形成されたアルミナ膜25の部分を除去する、といった方法を用いてもよい。
【0027】
このような構造の触媒部材4を用いても、鉄からなるベース膜24中を、一方表面27側からアルミナ膜25側に向けて炭素が拡散する。そして、アルミナ膜25に形成された開口部26において露出するベース膜24の表面よりカーボンナノチューブ20(
図1参照)が成長する。また、
図1に示した製造装置1では、コイル7により形成される勾配磁場(触媒部材4の位置における、一方表面27側からアルミナ膜25側に向けて磁場強度が徐々に高くなるとともに、磁場強度の変化率が30Tm
−1超えである勾配磁場)によって、触媒部材4中での一方表面27側からアルミナ膜25側への炭素の拡散が促進される。このため、鉄からなるベース膜24の一方表面27において炭素の濃度が飽和し、炭素原子のベース膜24への取込み速度が低下するといった問題の発生を抑制できる。したがって、連続的にカーボンナノチューブ20を成長させることができ、結果的に従来よりも長いカーボンナノチューブ20を得ることができる。なお、
図2〜
図4に示した触媒部材4の構成は一例であり、カーボンナノチューブの成長温度において一方表面側から他方表面側に炭素を拡散させることが可能な構成であれば、任意の構成の触媒部材を利用することができる。
【0028】
次に、
図6を参照して、
図1に示したカーボンナノ構造体の製造装置1を用いたカーボンナノ構造体の製造方法(カーボンナノチューブ20の製造方法)を説明する。
【0029】
図6に示すように、まず触媒準備工程(S10)を実施する。具体的には、たとえば
図2および
図3に示した触媒部材4を準備する。この触媒部材4は、任意の方法により製造することができるが、たとえば以下のような方法(いわゆる伸線加工法)により製造することができる。
【0030】
すなわち、まず銀からなるパイプに高純度鉄の線材(たとえば鉄の割合が99.998質量%の高純度鉄からなる線材)を挿入して、当該パイプを高純度鉄の線材ごと伸線加工する。そして伸線加工により得られた線材を所定長さに切断する。そして、当該線材を複数本まとめた上で、別の銀製のパイプの内部にこれらの複数本の線材を充填する。そして、当該パイプを再度伸線加工する。
【0031】
このような加工工程(伸線工程→切断工程→挿入工程)を複数回繰返し、
図2および
図3に示すように銀からなるベース部材14と、当該ベース部材14の内部を貫通する複数の鉄フィラメント15とからなる部材(たとえば直径が10mmの円柱状部材)を得る。そして、この部材を、鉄フィラメント15が延びる方向に対して垂直な方向にスライスすることで、
図2および
図3に示すような触媒部材4を得ることができる。なお、触媒部材4の厚みはたとえば50μm程度とすることができる。そして、このようにして得られた触媒部材4を
図1に示した製造装置1の内部に配置する。
【0032】
次に、
図6に示すように、カーボンナノチューブ(CNT)成長工程(S20)を実施する。具体的には、原料ガス供給部11から原料ガス供給管5を介して触媒部材4の一方表面に炭素原子を含むカーボンナノチューブの原料ガスを供給する。また、このとき予め、ヒータ6によって触媒部材4を所定の温度にまで加熱するとともに、コイル7に通電することによって磁束線9により示されるような磁場を形成する。このように勾配磁場が触媒部材4に印加されるとともに当該触媒部材4が加熱された状態で、触媒部材4の一方表面に炭素を含む原料ガスを供給する。この結果、触媒部材4の厚み方向(一方表面から他方表面に向かう方向)に炭素が拡散し、触媒部材4の他方表面においてカーボンナノチューブ20が成長する。また、勾配磁場により触媒部材4中での炭素の拡散が促進されるため、触媒部材4の一方表面において炭素濃度が飽和することによって炭素原子の取込みが抑制される、といった問題の発生を防止できる。
【0033】
また、上記のような磁場により触媒部材4の他方表面側に位置する鉄フィラメント15の端部の形状が安定するため、形成されるカーボンナノチューブ20も大きく屈曲するといった形状変化が抑制される。この結果、比較的屈曲の少ないカーボンナノチューブ20が得られる。
【0034】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
【0035】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造装置1は、カーボンナノ構造体としてのカーボンナノチューブ20を成長させる触媒部材4と、原料供給部(原料ガス供給部11、原料ガス供給管5)と、1つの磁場発コイル(コイル7)と、加熱部材(ヒータ6)とを備える。原料供給部(原料ガス供給部11、原料ガス供給管5)は、触媒部材4に、カーボンナノチューブ20を構成するための炭素を供給する。磁場発コイル(コイル7)は、触媒部材4の一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)から、当該一方表面と対向する他方表面(
図3の鉄フィラメント15の他方の端面または
図5の一方表面27と反対側であるアルミナ膜25の開口部26において露出する鉄からなるベース膜24の一部の表面)に向けて、磁場強度が徐々に高くなる勾配磁場(たとえば磁束線9で示される磁場)を印加する。加熱部材(ヒータ6)は、触媒部材4を加熱する。触媒部材4は、磁場発生コイル(コイル7)の中心軸に沿った位置であって磁場発生コイル(コイル7)の中央からずれた位置に配置されている。コイル7は、触媒部材4に対して、触媒部材4の位置における磁場強度の変化率が30Tm
−1超えであるような勾配磁場を印加可能である。
【0036】
このようにすれば、触媒部材4に対して勾配磁場を印加しながら、当該触媒部材4の一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)に炭素を供給しつつ触媒部材4を加熱することができる。この場合、勾配磁場によって触媒部材4の一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)側から他方表面側に向けて、触媒部材4中での炭素の拡散が促進される。そのため、触媒部材4の一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)に供給された炭素は他方表面側へ順次拡散していくので、一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)において炭素濃度が飽和することを防止できる。したがって、一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)において炭素濃度が飽和することに起因して当該一方表面における炭素の取り込みが停止することを防止できる。このため、触媒部材4の他方表面側においては継続的に炭素が供給されるため、当該他方表面にカーボンナノチューブ20を連続的に成長させることができる。この結果、カーボンナノチューブ20の長尺化を図ることができる。
【0037】
また、勾配磁場が印加されることにより、触媒部材4の他方表面の形状が磁場による応力を受ける。当該応力により、カーボンナノチューブ20が成長するときに触媒部材4の表面形状が安定する。この結果、当該触媒部材4の表面形状が変動することにより、成長するカーボンナノチューブ20の形状が不安定になる(たとえば不規則に変化する)ことを防止でき、比較的まっすぐ伸びたカーボンナノチューブ20を得ることができる。
【0038】
また、磁場発生コイル(コイル7)が1つだけ配置するので、複数の磁場発生コイルを用いる場合より装置構成を簡略化できる。さらに、磁場発生コイル(コイル7)の制御についても、複数の磁場発生コイルを利用する場合より簡便であり、触媒部材4の位置での勾配磁場の強度を、コイル7に流す電流と、触媒部材4のコイル7に対する配置を調整することで容易に設定できる。
【0039】
上記カーボンナノ構造体の製造装置1は、触媒部材4の一方表面27の少なくとも一部に接続され、触媒部材4の当該一方表面27の少なくとも一部が内壁の部分を構成する原料室(原料ガス回収室3)をさらに備えていてもよい。原料供給部(原料ガス供給部11、原料ガス供給管5)は、炭素を含む原料ガスを原料ガス回収室3に供給してもよい。
【0040】
この場合、触媒部材4の一方表面27が原料ガス回収室3の内部に露出するため、原料ガス供給管5から供給された原料ガスを当該一方表面27に選択的に接触させることができる。このため、当該一方表面27から、原料ガス中の炭素を触媒部材4の内部に取り込むことができる。つまり、触媒部材4においてカーボンナノチューブ20が成長する部分(他方表面)と、原料である炭素が供給される部分(一方表面27)とを分離することができるので、原料ガスの影響によりカーボンナノチューブ20の成長が阻害されるといった問題の発生を防止できる。
【0041】
また、上記のような勾配磁場が印加されることにより、触媒部材4中では一方表面27側から他方表面側に向けて炭素の拡散が促進されている。そのため、一方表面27に炭素を選択的に供給することで、勾配磁場による炭素の拡散促進の効果を最大限に利用することができる。
【0042】
また、上記カーボンナノ構造体の製造装置1においては、触媒部材4が鉄を含んでいる。このように鉄を含む触媒部材4を用いることで、上述した勾配磁場による炭素の拡散の促進効果を確実に利用することができる。
【0043】
また、上記カーボンナノ構造体の製造装置1は、触媒部材4とコイル7との相対的な位置を変更するための調整部材を備えていてもよい。たとえば、調整部材として、コイル7の中心軸方向(処理容器2の延在方向)における位置を変更することが可能な、コイル7の固定装置が製造装置1に設置されていてもよい。あるいは、触媒部材4(あるいは触媒部材4が接続された原料ガス回収室3)を、コイル7の中心軸方向(あるいは処理容器2の延在方向)に沿って移動させることが
可能な移動装置が製造装置1に設置されていてもよい。このような固定装置あるいは移動装置を用いれば、コイル7に流す電流を一定にしたまま、触媒部材4に対して印加される磁場勾配の条件(触媒部材4の位置における磁場強度の変化率)を容易に変更することができる。
【0044】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法は、カーボンナノ構造体を成長させる触媒部材4を準備する工程(触媒準備工程(S10))と、触媒部材4を加熱しながら触媒部材4に炭素を供給することによって、触媒部材4においてカーボンナノ構造体(カーボンナノチューブ20)を成長させる工程(CNT成長工程(S20))とを備える。CNT成長工程(S20)では、触媒部材4の一方表面27から、当該一方表面27と対向する他方表面に向けて、磁場強度が徐々に高くなる勾配磁場を印加する。触媒部材4の位置における磁場強度の変化率は30Tm
−1超えである。上記カーボンナノ構造体の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の製造装置1を用いて実施されてもよい。
【0045】
このようにすれば、触媒部材4の位置における磁場強度の変化率が30Tm
−1超えという勾配磁場によって触媒部材4の一方表面27側から他方表面側に向けて、触媒部材4中での炭素の拡散が確実に促進される。そのため、触媒部材4の一方表面27に供給された炭素は他方表面側へ順次拡散していくので、一方表面(
図3の鉄フィラメント15の一方の端面または
図5の一方表面27)において炭素濃度が飽和することを防止できる。したがって、一方表面において炭素濃度が飽和することに起因して当該一方表面における炭素の取り込みが停止することを防止できる。このため、触媒部材4の他方表面側においては継続的に炭素が供給されるため、当該他方表面にカーボンナノチューブ20を連続的に成長させることができる。この結果、カーボンナノチューブ20の長尺化を図ることができる。
【0046】
また、勾配磁場が印加されることにより、触媒部材4の他方表面の形状が磁場による応力を受ける。当該応力により、カーボンナノチューブ20が成長するときに触媒部材4の表面形状が安定する。この結果、当該触媒部材の表面形状が変動することにより、成長するカーボンナノチューブ20の形状が不安定になることを防止できる。
【0047】
なお、本発明によるカーボンナノ構造体の製造装置および製造方法において、触媒部材4の位置における勾配磁場の条件である、触媒部材4の位置における磁場強度の変化率を30Tm
−1超えとしたのは、当該変化率を30Tm
−1超えとすることで、磁場を印加しない場合よりも触媒部材4中の炭素の拡散を確実に促進することができるためである。なお、勾配磁場における上記変化率を30Tm
−1未満とした場合、触媒部材4中での炭素の拡散係数が無磁場の場合の拡散係数より小さくなる可能性がある。
【0048】
また、当該変化率は、好ましくは40Tm−1以上であり、より好ましくは50Tm−1以上である。このように磁場強度の変化率を大きくすることで、炭素の拡散をより促進することができる。
【0049】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、カーボンナノ構造体を成長させる工程(CNT成長工程(S20))では、触媒部材4の一方表面に炭素が供給され、触媒部材4の他方表面においてカーボンナノチューブ20が成長してもよい。
【0050】
この場合、触媒部材4においてカーボンナノチューブ20が成長する部分(他方表面)と、原料である炭素が供給される部分(一方表面)とを分離することができる。そのため、原料ガスの影響によりカーボンナノチューブ20の成長が阻害されるといった問題の発生を防止できる。
【0051】
上記カーボンナノ構造体の製造方法において、触媒部材4は鉄を含んでいてもよい。
この場合、勾配磁場によって触媒部材4中の炭素の拡散係数を確実に大きくすることができる。このため、触媒部材4中での炭素の拡散をより促進することができる。この結果、カーボンナノチューブ20の成長速度を向上させることができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。