(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967767
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】焼付け補修材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20160728BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20160728BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20160728BHJP
C21C 5/44 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
C04B35/66 V
C04B35/66 M
F27D1/16 W
B22D41/02 C
!C21C5/44 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-212608(P2012-212608)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-65634(P2014-65634A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082164
【弁理士】
【氏名又は名称】小堀 益
(74)【代理人】
【識別番号】100105577
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 隆人
(74)【代理人】
【識別番号】100182707
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 博生
(72)【発明者】
【氏名】本田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】古田 洋一
【審査官】
佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−285379(JP,A)
【文献】
特開2003−238262(JP,A)
【文献】
特開昭57−041576(JP,A)
【文献】
特開2004−161529(JP,A)
【文献】
特開昭55−162482(JP,A)
【文献】
特開平02−225378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
B22D 41/02
F27D 1/16
C21C 5/44
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と有機バインダとを含む焼付け補修材において、
前記耐火原料の粒度構成が、当該耐火原料の合量100質量%において、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径3mm超の粗粒の質量%)が1を超え、かつ、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径1mm未満の微粒の質量%)が1.2以上5以下であることを特徴とする焼付け補修材。
【請求項2】
前記耐火原料の合量100質量%において、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径3mm超の粗粒の質量%)が1を超え2.5未満である請求項1に記載の焼付け補修材。
【請求項3】
前記粗粒の最大粒子径は10mm以下である請求項1又は2に記載の焼付け補修材。
【請求項4】
前記耐火原料の合量100質量%において、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径1mm未満の微粒の質量%)が1.2以上3以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の焼付け補修材。
【請求項5】
前記有機バインダの含有量が30質量%以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の焼付け補修材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火原料と有機バインダとを含む焼付け補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
焼付け補修材の施工の一形態として、転炉の炉壁の補修法において、出鋼直後の転炉に焼失性を有する袋で梱包された焼付け補修材を投入する手法が知られている。
【0003】
転炉に投入された焼付け補修材は、炉熱で一旦軟化し、炉壁の損傷した部分に展開する。そして、焼き付け補修材に含まれる有機バインダ中の揮発分の逸散、及び有機バインダ中の固定炭素分によりカーボンボンドの形成を伴いながら固化する。焼付け補修材に含まれる有機バインダとしては、一般的にピッチやレジン等が使用される。
【0004】
焼付け補修材に要求される特性の一つとして、焼き付け補修材が燃焼するのに要する時間(燃焼時間)が短いことが挙げられる。焼付け補修材の燃焼時間が短い程、転炉の補修をすみやかに終えることができ、転炉の稼働率の向上に貢献する。
【0005】
この観点から、特許文献1は「熱間でカーボンボンドを形成するバインダが5〜30重量%、最大粒径1.5mm以下の鉄粉が1〜5重量未満%、残部を耐火骨材とする焼付け補修材」を提案している(請求項1)。特許文献1によると、鉄粉の添加により材料の熱伝導率が向上するため、熱間で流動し受熱される際に、材料温度の上昇が早く、有機バインダの炭化が促進され燃焼時間(硬化時間)が大幅に短縮されるとされている(段落0009)。
【0006】
また、焼付け補修材には、被施工面に対する良好な接着性も要求される。この観点から、特許文献2は、「カーボン結合形成用バインダーを5〜40重量%、鉄粉を5〜30重量%、Al粉末及び/またはAlを含有する合金粉末のうちの1種または2種以上を1〜15重量%含み、残部が耐火骨材を主体とした焼付け補修材」を提案している(請求項1)。特許文献2によると、鉄粉が被施工面を冷却する作用を発揮し、この鉄粉の冷却作用で被施工面の温度を下げることにより、被施工面への有機バインダ(カーボン結合形成用バインダー)の濡れ性を向上させて接着性を向上でき、また、Al粉末及び/またはAl合金粉末が有機バインダと反応してAl
4 C
3 を生成することによりカーボン結合強度を高める反応を鉄粉が促進することで、接着性がより向上するとされている(段落0006及び段落0007)。
【0007】
上記特許文献1及び2により、燃焼時間の短縮及び接着性の向上について一定の改善は見られるものの、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4865636号公報
【特許文献2】特開平11−278948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、焼付け補修材の燃焼時間を短縮すると共に、接着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明者が鋭意検討した結果、焼付け補修材を構成する耐火原料の粒度構成を特定の範囲とすることで、焼付け補修材の燃焼時間を短縮できると共に、接着性を向上させることがわかった。
【0011】
すなわち、本発明は、耐火原料と有機バインダとを含む焼付け補修材において、前記耐火原料の粒度構成が、当該耐火原料の合量100質量%において、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径3mm超の粗粒の質量%)が1を超え、かつ、(粒径1mm以上3mm以下の中粒の質量%/粒径1mm未満の微粒の質量%)が1.2以上5以下であることを特徴とする。
【0012】
このように本発明では、耐火原料の粒度構成を、粒径1mm以上3mm以下の中粒(以下、単に「中粒」という。)が、粒径3mm超の粗粒(以下、単に「粗粒」という。)及び粒径1mm未満の微粒(以下、単に「微粒」という。)よりも多くなるようにしている。これにより、焼付け補修材の燃焼時間を短縮できると共に、接着性を向上させることができる。
【0013】
逆に、粗粒が中粒よりも多い場合、粗粒は重量が重いため、焼付け補修材の流動性が低下し、セグレが生じる。セグレが生じると、有機バインダが均一に分散しなくなり、焼付け補修材の接着性が低下してしまう。また、微粒が中粒よりも多い場合、微粒は比表面積が大きいため、有機バインダの含有量を多くする必要がある。有機バインダの含有量が多くなると、燃焼時間が長くなってしまう。
【0014】
この点、本発明では、上記粒度構成としたことで、有機バインダの含有量を問題なく低減することができ、これにより燃焼時間を短縮できる。本発明において有機バインダの含有量は、好ましくは30質量%以下とする。
【0015】
ここで、本発明と従来技術とを比較すると、上記特許文献1の表1には、耐火骨材として粒径8〜1mm及び粒径1mm以下のそれぞれの含有量の記載がある。また、特許文献2の表2には、耐火骨材として粒径5mm以下及び0.1mm以下のそれぞれの含有量の記載がある。しかし、上記特許文献1、2には、粒径1mm以上3mm以下の中粒の含有量は具体的に記載されていない。
【0016】
上記特許文献1の段落0011及び上記特許文献2の段落0010にも記載されているように、従来、焼付け補修材の耐火原料の粒度構成は、密充填組織になるように調整されていただけで、耐火原料の粒度構成が焼付け補修材の燃焼時間及び接着性に影響を及ぼすことは認識されていなかったのである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、焼付け補修材の燃焼時間を短縮できると共に、接着性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、耐火原料の合量100質量%において、(中粒の質量%/粗粒の質量%)が1を超え、かつ、(中粒の質量%/微粒の質量%)が1.2以上5以下となるように、耐火原料の粒度構成を調整する。なお、本発明において粒径は、JIS−Z8801に規定の篩により決定する。
【0019】
(中粒の質量%/粗粒の質量%)が1未満であると、上述のとおりセグレが生じ、接着性が低下する。燃焼時間の短縮及び接着性向上のため、好ましくは、(中粒の質量%/粗粒の質量%)は1を超え2.5未満とする。
【0020】
また、(中粒の質量%/微粒の質量%)が1.2未満であると、上述のとおり有機バインダの含有量を多くする必要あり、燃焼時間が長くなる。(中粒の質量%/微粒の質量%)が5を超えると微粒が少なくなるため、材料の充填性が得られず、被施工体との接着面積が小さくなることから接着性が低下してしまう。なお、配合中の中粒が多くなると中粒を確保するために原料粉砕量が多くなり、微粒が余剰に発生するためコストアップに繋がる。このため、(中粒の質量%/微粒の質量%)は1.2以上3以下であることが好ましい。
【0021】
なお、本発明における粗粒の最大粒子径は10mm以下が好ましい。最大粒子径が10mmを超えると、セグレが生じる可能性があるからである。セグレが顕著にならない範囲であれば、粒径10mm超の粗粒を含むこととしてもよい。
【0022】
本発明において耐火原料としては、例えば、マグネシアクリンカ等のマグネシア質原料、ドロマイトクリンカ等のドロマイト質原料、カルシアクリンカ等のカルシア質原料、スピネルクリンカ等のスピネル質原料、アルミナ質原料、及びこれらを原料に用いた使用済み耐火物の粉砕物から選択される1種以上を、被施工面の材質等に応じて適宜に選択して用いることができる。
【0023】
有機バインダは、熱間でカーボンボンドを形成する物質であり、例えば、瀝青、樹脂、又は両者の組み合わせを用いることができる。瀝青としては、例えば、ピッチ、タール、アスファルト等が挙げられ、樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂等のカーボン質樹脂等が挙げられる。
【0024】
焼付け補修材に占める有機バインダの含有量は、施工条件に応じて当業者により適宜に選択できるが、燃焼時間の短縮の点からは30質量%以下が好ましい。接着性をも考慮すると、有機バインダの含有量は、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0025】
本発明の焼付け補修材には、耐火原料及び有機バインダのほかに、燃焼助剤として、アルミニウム粉、鉄粉、マグネシウム粉等の金属粉を添加することができる。金属粉の添加量は、焼付け補修材100質量%に占める割合で、8質量%以下が適当である。なお、金属粉は、本発明の耐火原料の概念からは除かれる。
【0026】
また、本発明の焼付け補修材には、施工時の流動性を向上させる目的で、流動化助剤を添加することもできる。流動化助剤としては、200℃以下の温度域で液相を生成する物質であれば基本的には使用可能である。例えば、ラクタム類、テルペンフェノール樹脂、ロジン、ロジン誘導体及びロジン変性樹脂から選択される一種、又は二種以上での組合せで添加する。流動化助剤の添加量は、焼付け補修材100質量%に占める割合で、1質量%以上10質量%以下が適当である。
【実施例】
【0027】
表1に焼付け補修材の実施例及び比較例を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の各例の焼付け補修材組成1kgを、約1000℃の温度に保った実験炉に水平に設置した耐火物(被施工面)に対して焼付け施工し、その評価を行った。表1に示す評価項目及びその評価方法は以下のとおりである。
【0030】
(1)流動性指数
流動性指数は、焼付け完了後の施工体の面積を求め、実施例1の面積を100とした指数であり、数値が大きいほど流動性が良いことを示す。
【0031】
(2)施工体中の粗粒の分布
施工体の断面を目視観察し、粗粒が均一に分布しているか否かにより判定した。
【0032】
(3)燃焼時間指数
燃焼時間指数は、施工後、有機バインダの燃焼による発煙が終了するまでの時間を燃焼時間とし、実施例1の燃焼時間を100とした指数である。
【0033】
(4)接着強度指数
焼付け補修材を、実験炉内において約1000℃で加熱下の耐火物の上面に投下し、焼付けが完了後、焼付け補修材の施工体と接着面との剪断応力を測定し、これを接着強度とした。接着強度指数は、実施例1の接着強度を100とした指数である。
【0034】
表1に示すとおり、本発明の実施例1〜6は、比較例よりも、燃焼時間指数が短くなるとともに、接着強度指数が大きくなる傾向が見られた。また、金属粉を適量添加すると、燃焼時間が短くなる傾向が見られた。
【0035】
一方、比較例1及び2は、中粒/粗粒の質量比が1未満の例で、流動性及び施工体中の粗粒の分布の均一性が低下し、接着強度も低下した。
【0036】
比較例3は、中粒/微粒の質量比が1.2未満の例で、有機バインダの含有量を20質量%としたままでは、流動性が低下し、接着強度も低下した。
【0037】
比較例4も中粒/微粒の質量比が1.2未満の例である。流動性を向上させるために有機バインダを増量した結果、燃焼時間が長くなった。
【0038】
比較例5は、中粒/微粒の質量比が5超の例である。金属粉を添加しているにもかかわらず、燃焼時間が長くなり、接着強度も低下した。