【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、原子炉を小型化にし、ジルコニウム(Zr)、プルトニウム(Pu)、ウラニウム(U)からなる金属燃料を装荷し、反射体に接続された金属部材の熱膨張を利用して反射体を変形・移動させることにより、熱膨張を利用した負荷追従型制御方式の小型化原子炉を構成し、これにより、制御が容易でしかも再臨界等の事故発生の確率がゼロの、安全な小型原子力発電システムを提供する。即ち、熱出力の変化に起因する金属部材の熱変形を利用して高速中性子反射性能を制御することにより負荷追随型制御を可能した、小型化原子炉及び発電システムを提供する。
【0015】
最初に負荷追随型制御方式について以下に説明する。
(負荷追随型制御方式)
【0016】
通常の原子炉で用いられる制御棒ではなく、熱等の自然現象の基本因子を利用した負荷追随型制御方式において、主な制御因子には(1)中性子漏れ確率/量の制御、及び(2)中性子発生効率の制御、がある。
【0017】
(1)中性漏れ確率/量の制御
燃料棒に含有されたPu、U等の核分裂性物質から生成される中性子束は、原子炉外等の系外に漏れる中性子と、燃料棒に再吸収され核分裂に寄与する中性子の二種類に大別される。系外に漏れる中性子の割合は次のパラメータに依存する。
【0018】
(1−1)反射体の効率
炉心の中性子束密度は、炉心を囲む反射体の反射効率に大きく依存し、効率的な反射体を利用することにより中性子倍増係数を1以上にすることが可能となる。この反射効率を炉心の熱出力に応じて変化させることにより、負荷追随型制御方式が可能となる。
【0019】
(1−2)冷却材の特性
本発明においては、冷却材として金属ナトリウム、鉛、鉛−ビスマスが挙げられる。ここで、各々の特性を説明する。
(冷却材である金属ナトリウムの密度)
金属ナトリウムの密度は温度に依存しており、具体的には熱膨張率に依存している。温度が上がると密度が低下するため、中性子漏れ確率が大きくなり、結果として中性子倍増係数が低下して1に近づき、さらに温度が上がると中性子倍増係数が1以下となり、原子炉の臨界を維持することが不可能となる。逆に温度が下がると、中性子漏れ確率が低下して中性子倍増係数が1以上となり、核分裂連鎖反応を維持することが可能となる。
【0020】
なお、金属ナトリウムの沸点は880℃であるので、通常ボイドの形成は問題とならないが、燃料棒に接触している金属ナトリウムは高温となり、沸点以下での微少なボイドが形成される可能性がある。この結果、反応度のボイド係数が"正"となる問題点が残る。しかし、炉心寸法が小さく、更に高温で、中性子の漏れ量が大きいとこのボイド係数の問題点がなくなる優位点がある。
【0021】
(その他の冷却材)
高速炉の冷却材として、金属ナトリウム以外に、中性子吸収断面積が小さく中性子束に影響しない鉛があるが、融点が325℃と比較的高いことが欠点とある。そこで融点を下げることが可能な鉛−ビスマス(45.5%Pb−55.5%Bi)も有効な冷却材候補となる。鉛-ビスマスの融点は125℃に低下する。
【0022】
(1−3)原子炉表面積/体積比
生成される中性子量は原子炉の体積に依存しており、また中性子漏れ量は原子炉表面積に依存する。即ち、漏れる中性子の割合は、原子炉表面積/体積の比に依存することになる。言い換えると、炉心寸法が小さくなると漏れ中性子の割合が大きくなる。
【0023】
他方、生成される中性子量は、金属燃料棒に含有されている核分裂性Pu、Uの濃度に依存する。
【0024】
(2)中性子発生効率の制御
燃料棒から発生する高速中性子束を制御することは重要である。従来、燃料棒には、高温でスェリング等の変化が小さい酸化物燃料が主として使用されてきた。本発明の目的を達成するためには、金属燃料棒を採用し、高温で中性子発生効率が低下することが望ましい。高温で燃料棒にスェリング、膨張等が発生した場合、Pu、U等の核物質濃度が低下することになり、核反応効率が低下することになる。実際、金属燃料棒は高温で熱膨張する傾向が高く、非特許文献2によると、U、Pu、Zr三元合金燃料は、600℃から650℃以上になると膨張係数が3桁大きくなることが報告されている。この結果、燃料棒が高温なると、核反応効率が低下し、温度が低下することになり、負荷追随型制御方式が達成可能となる。
【0025】
次に、反射体の効果について説明する。
(反射体の効果)
【0026】
反射体の効果としては、宇宙用の小型原子炉の試設計について述べられている非特許文献1に具体例が示されている。まず、グラファイトからなる球状の炉心のなかに二酸化ウラン(UO
2:20%濃縮))微粒子をグラファイト及びシリコンでコーティングした燃料を分散させ、炉心の質量を9000kgまで増加させたが、実効倍増係数K
effは臨界条件である"1"を超えなかった(
図3.3)。しかしこのような炉心において、半径20cmの炉心の周囲に反射体を設置した場合、K
effは"1"を超えることが可能となった。また、反射材質としてベリリウム(Be)または酸化ベリリウム(BeO)を用いた場合、反射体の厚さを10cm以上にすると、K
effは"1"を超えて臨界となる一方、グラファイトを用いた場合効率は低下するが、厚さが30cmを超えると臨界条件となったことが記載されている(
図3.5)。このように、小規模の炉心の場合、反射体の効果は顕著であることが分かる。
【0027】
上述した目的を達成するために提案された本発明に係る小型原子力発電システムは、金属性燃料を被覆管に封入した複数の燃料棒からなる炉心と、この炉心を収納した原子炉容器と、原子炉容器内に充填され、炉心によって加熱される金属ナトリウムからなる1次冷却材と、炉心の周囲を囲んで設置され、炉心から放射される中性子の実効倍増係数(K
eff)を約1以上に維持して炉心を臨界状態とする中性子反射体とを備えた原子炉を有する。
【0028】
原子炉の炉心は、ジルコニウムとウラニウム(235,238)及びプルトニウム239とからなる合金、またはジルコニウムとウラニウム(235,238)及びプルトニウム239のいずれか一方とからなる合金からなる金属燃料を、フェライト系ステンレス鋼またはクロム・モリブデン鋼からなる被覆管に封入した燃料棒の複数の集合体によって構成されている。ウラニウム燃料に含まれるウラニウム238は、中性子を吸収して運転とともにプルトニウム239を生成する。
【0029】
さらに、この小型化原子力発電システムは、原子炉の外部に主熱交換器を備える。主熱交換器には、原子炉によって加熱された1次冷却材が導管を介して供給され、またこの1次冷却材と熱交換して加熱される2次冷却材が循環している。本発明の実施例において、2次冷却材には、例えば超臨界二酸化炭素が用いられる。そして、主熱交換器によって加熱され、循環する2次冷却材によって駆動されるタービンと、このタービンの駆動によって動作する発電機とを備える。
【0030】
さらに、本発明では、原子炉に収納された燃料集合体の周囲を囲んで設置される中性子反射体は、次の2種類に大別される。第1の種類の反射体は、燃料集合体の高さ寸法より小さい高さに形成され、燃料集合体の下方側から上方側、または逆に下方側から上方側に向かって移動可能に支持されている。移動機構を簡略するためには上方側から下方側に移動する機構が望ましい。あるいは、燃料集合体の核燃料が消耗した部分から消耗していない部分に移動されることにより、核燃料の反応度を制御しながら長期間に亘って核反応を持続できる。第2の種類の反射体の高さは、燃料集合体全体高さをカバー可能にする。この場合、反射体を移動させないので、前述の反射体を使用する場合に比較して原子炉運転期間が短くなる。
【0031】
本発明による小型原子力発電システムは、さらに具体的には以下のような構成の小型原子炉を備える。
ウラニウム235、238及びプルトニウム239のいずれか一方又は双方を含有する金属性燃料を被覆管に封入した複数の燃料棒からなる燃料集合体の炉心と、
前記炉心を収納した原子炉容器と、
前記原子炉容器内に充填され、前記炉心によって加熱される金属ナトリウム、鉛(Pb)または鉛-ビスマス(Bi)のうちの一つからなる1次冷却材と、
前記炉心の周囲を囲んで配置される中性子反射体とを含み、
該中性子反射体は、前記炉心から放射される中性子の実効倍増係数を約1以上に維持して前記炉心を臨界状態とする中性子反射効率を有し、さらに前記中性子反射体は反射体自身よりも熱膨張率が大きい金属部材に接続され、前記原子炉容器内の温度に対応した前記金属部材の熱膨張による変位を利用して、前記中性子反射効率を変化させるように構成され、それにより負荷追随型制御が可能となっている。
【0032】
前記炉心の周囲を囲んで設置される前記中性子反射体は、前記炉心の高さ寸法より小さい高さに形成され、移動機構により前記炉心の下方側から上方側に向かって、または上方側から下方側に向かって移動できるように構成されている。
【0033】
あるいは、前記燃料集合体の全長と同等の長さの前記中性子反射体を、前記燃料集合体の周囲に設置してもよい。
あるいは、前記燃料集合体の周囲に加えて、前記燃料集合体の上部にも、熱膨張により前記中性子反射効率の制御を可能にするように構成されたスプリング状またはスパイラル状の前記金属部材を有する中性子反射体を設置してもよい。
【0034】
前記中性子反射体は、前記炉心の中心から同心円上に配置され、同心円上において2分割以上に多分割された2種類の半径を有する複数の中性子反射体であり、該複数の中性子反射体を、それぞれが同じ半径を有する第1グループと第2グループの2つのグループに分類し、このうちの第1グループの中性子反射体を、前記炉心と同心円上に設置した第1のスパイラル状の前記金属部材に接続し、前記第1のスパイラル状金属部材の熱膨張により、前記第1グループの中性子反射体と前記第2グループの中性子反射体との間にスリットが形成され、該スリットの間隔を前記原子炉容器内の温度に基づいて調整する。
前記中性子反射体は、さらに半径方向に2分割以上に多分割されていてもよい。
【0035】
また、前記第2グループの反射体も、前記炉心と同心円上に配置された第2のスパイラル状の前記金属部材に接続され、かつ前記第1のスパイラル状金属部材と前記第2のスパイラル状金属部材の巻き方向が逆方向であってもよい。
【0036】
前記中性子反射体の材料は、ベリリウム(Be)、酸化ベリリウム(BeO)、グラファイト、カーボン、ステンレス鋼から選定される。
また、前記2つのグループの中性子反射体の間に潤滑材としてカーボンを装着してもよい。
【0037】
また、前記第1グループと第2グループの前記中性子反射体が円周方向に重なり部分を有し、該重なり部分の幅を調整することで臨界状態が1となる温度を調整するようにしてもよい。
【0038】
あるいは、同心円上で2分割以上に分割された前記中性子反射体の外側に、前記金属部材である調節スプリングを固定するための固定用円筒と、さらにその外側に、調節スプリング支持板、反射体調節棒、及び前記調節スプリングとを含む、分割された各々の前記中性子反射体に対応した複数の反射体移動用治具とを備え、前記反射体調節棒の各々が対応した前記中性子反射体に接続されており、前記調節スプリングの熱膨張が、前記調節スプリング支持板に固定された前記反射体調節棒を介して、前記中性子反射体が前記燃料集合体から離れるように伝達されるように構成され、これにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御を行ってもよい。
【0039】
あるいは、同心円上、及び前記燃料棒に沿った方向で2分割以上に分割された多層リング状中性子反射体が配置され、スプリング状の前記金属部材が、前記多層リング状中性子反射体の外側に前記中性子反射体を包囲するように配置され、前記分割された前記多層リング状中性子反射体の各々が前記スプリング状金属部材の異なる部分に接続され、前記スプリング状金属部材の熱膨張が前記分割されたリング状中性子反射体に伝達され、前記分割された中性子反射体の間隔が変化することにより中性子の漏れ確率を調整し、原子炉の出力を制御する負荷追随型制御を行ってもよい。
【0040】
あるいは、同心円上で2分割以上に分割された各々の中性子反射体が、前記燃料棒に沿った方向の前記中性子反射体の各々の片方の端部に設けられた支持棒を中心として外側に回転可能であり、それにより前記中性子反射体間が開放可能なように構成され、前記各々の中性子反射体の回転の中心である支持棒に接続されたスパイラル状の前記金属部材の熱膨張により、前記中性子反射体間の開放の程度を変化させることにより中性子の漏れ確率を調整し、それにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御が可能を行ってもよい。
【0041】
前記スプリング状またはスパイラル状の前記金属部材の材料は、ステンレス鋼、ニッケル基超合金、ニッケル−コバルト系超合金である。
【0042】
また、前記スプリング状金属部材またはスパイラル状金属部材はバイメタルでもよく、このバイメタルの材料は、低膨張材料としてニッケル(Ni)−鉄(Fe)合金と高膨張材料として銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銅−亜鉛(Zn)、ニッケル−銅、ニッケル−マンガン(Mn)−鉄、ニッケル−クロム(Cr)−鉄、ニッケル−モリブデン(Mo)−鉄のうちの一つとの組合せであってよく、望ましくは、前記高膨張材料はニッケル−マンガン−鉄またはニッケル−クロム−鉄である。
【0043】
本発明による小型原子力発電システムは、前記中性子反射体の外側に中性子吸収体を設置してもよい。
また、前記中性子吸収体として、アクチノイド系放射性元素等の、放射性廃棄物等の処理に適した材料を用いてもよい。
【0044】
前記炉心は、ジルコニウム(Zr)とウラニウム(235、238)及びプルトニウム239とからなる合金、またはジルコニウムとウラニウム(235、238)及びプルトニウム239のいずれか一方とからなる合金からなる金属性燃料を、フェライト系ステンレス鋼、またはクロム・モリブデン鋼からなる被覆管に封入した燃料棒を複数備えている。
【0045】
前記原子炉容器は、5m以下の直径及び15m以下の高さを有する円筒状に形成され、前記原子炉容器に収納される炉心は、5〜15mmの直径及び3.0m以下の長さに形成された複数の燃料棒から構成されている。
【0046】
本発明による小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される超臨界二酸化炭素からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。
【0047】
本発明による別の小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される軽水からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。
【0048】
本発明によるまた別の小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉に軽水と反応しない前記1次冷却材が充填されるとともに、前記1次冷却材と原子炉容器内で熱交換されて加熱される軽水からなる2次冷却材が加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。