特許第5967790号(P5967790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5967790熱膨張現象による反射体の熱変形を利用した負荷追随型小型原子力発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5967790
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】熱膨張現象による反射体の熱変形を利用した負荷追随型小型原子力発電システム
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/28 20060101AFI20160728BHJP
   G21C 1/02 20060101ALI20160728BHJP
   G21C 5/14 20060101ALI20160728BHJP
   G21C 5/00 20060101ALI20160728BHJP
   G21C 3/60 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   G21C7/28
   G21C1/02 B
   G21C1/02 A
   G21C5/14
   G21C5/00 A
   G21C3/60
【請求項の数】24
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-505350(P2016-505350)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2016052053
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-75942(P2015-75942)
(32)【優先日】2015年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515091636
【氏名又は名称】株式会社クリア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澄田 修生
(72)【発明者】
【氏名】上野 勲
(72)【発明者】
【氏名】横峯 健彦
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/094196(WO,A1)
【文献】 特開平09−072980(JP,A)
【文献】 特開2001−208884(JP,A)
【文献】 特開2000−088987(JP,A)
【文献】 特開2008−122248(JP,A)
【文献】 特開2003−114292(JP,A)
【文献】 特開昭61−228381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/28
G21C 1/02
G21C 3/60
G21C 5/00
G21C 5/14
G21C 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウラニウム(U)235,238及びプルトニウム(Pu)239のいずれか一方又は双方を含有する金属性燃料を被覆管に封入した複数の燃料棒からなる燃料集合体の炉心と、
前記炉心を収納した原子炉容器と、
前記原子炉容器内に充填され、前記炉心によって加熱される金属ナトリウム、鉛(Pb)または鉛-ビスマス(Bi)のうちの一つからなる1次冷却材と、
前記炉心の周囲を囲んで配置される中性子反射体とを含み、
該中性子反射体は、前記炉心から放射される中性子の実効倍増係数を約1以上に維持して前記炉心を臨界状態とする中性子反射効率を有し、さらに前記中性子反射体は反射体自身よりも熱膨張率が大きい金属部材に接続され、前記原子炉容器内の温度に対応した前記金属部材の熱膨張による変位を利用して、前記中性子反射効率を変化させるように構成され、それにより負荷追随型制御が可能となっている
小型原子炉を備えた小型原子力発電システム。
【請求項2】
前記炉心の周囲を囲んで設置される前記中性子反射体は、前記炉心の高さ寸法より小さい高さに形成され、移動機構により前記炉心の下方側から上方側に向かって、または上方側から下方側に向かって移動できるように構成されている、請求項1記載の小型原子力発電システム。
【請求項3】
前記燃料集合体の全長と同等の長さの前記中性子反射体を、前記燃料集合体の周囲に設置した、請求項1に記載の小型原子力発電システム。
【請求項4】
前記燃料集合体の周囲に加えて、前記燃料集合体の上部にも、熱膨張により前記中性子反射効率の制御を可能にするように構成されたスプリング状またはスパイラル状の前記金属部材を有する中性子反射体を設置した、請求項1〜3のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項5】
前記中性子反射体は、前記炉心の中心から同心円上に配置され、同心円上において2分割以上に多分割された2種類の半径を有する複数の中性子反射体であり、該複数の中性子反射体を、それぞれが同じ半径を有する第1グループと第2グループの2つのグループに分類し、このうちの第1グループの中性子反射体を、前記炉心と同心円上に設置した第1のスパイラル状の前記金属部材に接続し、前記第1のスパイラル状の前記金属部材の熱膨張により、前記第1グループの中性子反射体と前記第2グループの中性子反射体との間にスリットが形成され、該スリットの間隔を前記原子炉容器内の温度に基づいて調整する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項6】
前記中性子反射体が、さらに半径方向に2分割以上に多分割された、請求項5に記載の小型原子力発電システム。
【請求項7】
前記第2グループの反射体も、前記炉心と同心円上に配置された第2のスパイラル状の前記金属部材に接続され、かつ前記第1のスパイラル状の前記金属部材と前記第2のスパイラル状の前記金属部材の巻き方向が逆方向である、請求項5または6に記載の小型原子力発電システム。
【請求項8】
前記中性子反射体の材料が、ベリリウム(Be)、酸化ベリリウム(BeO)、グラファイト、カーボン、ステンレス鋼から選定される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項9】
前記第1グループと第2グループの前記中性子反射体の間に潤滑材としてカーボンを装着した、請求項5〜7のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項10】
前記第1グループと第2グループの前記中性子反射体が円周方向に重なり部分を有し、該重なり部分の幅を調整することで臨界状態が1となる温度を調整する、請求項5〜のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項11】
同心円上で2分割以上に分割された中性子反射体の外側に、前記金属部材である調節スプリングを固定するための固定用円筒と、さらにその外側に、調節スプリング支持板、反射体調節棒、及び前記調節スプリングとを含む、分割された各々の前記中性子反射体に対応した複数の反射体移動用治具とを備え、前記反射体調節棒の各々が対応した前記中性子反射体に接続されており、前記調節スプリングの熱膨張が、前記調節スプリング支持板に固定された前記反射体調節棒を介して、前記中性子反射体が前記燃料集合体から離れるように伝達されるように構成され、これにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御が可能となっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項12】
同心円上、及び前記燃料棒に沿った方向で2分割以上に分割された多層リング状中性子反射体が配置され、スプリング状の前記金属部材が、前記多層リング状中性子反射体の外側に前記中性子反射体を包囲するように配置され、前記分割された前記多層リング状中性子反射体の各々が前記スプリング状の前記金属部材の異なる部分に接続され、前記スプリング状の前記金属部材の熱膨張が前記分割されたリング状中性子反射体に伝達され、前記分割された中性子反射体の間隔が変化することにより中性子の漏れ確率を調整し、原子炉の出力を制御する負荷追随型制御が可能となっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項13】
同心円上で2分割以上に分割された各々の中性子反射体が、前記燃料棒に沿った方向の前記中性子反射体の各々の片方の端部に設けられた支持棒を中心として外側に回転可能であり、それにより前記中性子反射体間が開放可能なように構成され、前記各々の中性子反射体の回転の中心である支持棒に接続されたスパイラル状の前記金属部材の熱膨張により、前記中性子反射体間の開放の程度を変化させることにより中性子の漏れ確率を調整し、それにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御が可能となっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項14】
記金属部材の材料が、ステンレス鋼、ニッケル基超合金、ニッケル−コバルト系超合金である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項15】
記金属部材がバイメタルからなる請求項1〜13のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項16】
前記バイメタルの材料が、低膨張材料としてニッケル(Ni)−鉄(Fe)合金と高膨張材料として銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銅−亜鉛(Zn)、ニッケル−銅、ニッケル−マンガン(Mn)−鉄、ニッケル−クロム(Cr)−鉄、ニッケル−モリブデン(Mo)−鉄のうちの一つとの組合せである、請求項15に記載の小型原子力発電システム。
【請求項17】
前記高膨張材料がニッケル−マンガン−鉄またはニッケル−クロム−鉄である、請求項16に記載の小型原子力発電システム。
【請求項18】
前記中性子反射体の外側に中性子吸収体を設置した、請求項5、11〜13のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項19】
前記中性子吸収体として、アクチノイド系放射性元素の、放射性廃棄物の処理に適した材料を用いた、請求項18に記載の小型原子力発電システム。
【請求項20】
前記炉心は、ジルコニウム(Zr)とウラニウム(235、238)及びプルトニウム239とからなる合金、またはジルコニウムとウラニウム(235、238)及びプルトニウム239のいずれか一方とからなる合金からなる金属性燃料を、フェライト系ステンレス鋼、またはクロム・モリブデン鋼からなる被覆管に封入した燃料棒を複数備えた、請求項1〜19のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項21】
前記原子炉容器は、5m以下の直径及び15m以下の高さを有する円筒状に形成され、前記原子炉容器に収納される炉心は、5〜15mmの直径及び3.0m以下の長さに形成された複数の燃料棒からなる、請求項1〜20のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項22】
前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される超臨界二酸化炭素からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備えることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項23】
前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される軽水からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備えることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【請求項24】
前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉に軽水と反応しない前記1次冷却材が充填されるとともに、前記1次冷却材と原子炉容器内で熱交換されて加熱される前記軽水からなる2次冷却材が加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備えることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか1項に記載の小型原子力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【参照による取り込み】
【0001】
本出願は、2015年4月2日に出願された日本特許出願第2015−75942号の優先権を主張し、その内容を参照することにより本出願に取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、小型原子力発電システムに関し、さらに詳しくは、小型原子炉内において核反応が自然に制御されることによる負荷追随型制御システムを組み込んだ、冷却系が少なくもと1次系と2次系とに分かれている小型の原子力発電システムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来、原子力発電システムに用いられる原子炉として、放射線によって汚染されていない水蒸気でタービンを回転させて発電を行う間接サイクル型の原子炉が知られている。この種の原子炉は、1次冷却系と2次冷却系の間に蒸気発生器や熱交換器を備えている。
【0004】
ところで、大型の発電システムの構築を目的としたループ型の高速炉では、炉心を冷却して加熱された1次ナトリウム系(1次冷却系)の熱を中間熱交換器によって2次ナトリウム系(2次冷却系)に伝達し、さらに2次ナトリウム系の熱を、蒸発器及び過熱器によって水・蒸気系に伝達している。また、原子炉容器を大きくして、1次ナトリウム系のポンプと中間熱交換器を原子炉容器内に納めたタンク型の高速増殖炉でも同様に、1次ナトリウム系の熱を中間熱交換器によって2次ナトリウム系に伝達し、さらに2次ナトリウム系の熱を蒸気発生器によって水・蒸気系に伝達している。
【0005】
この種の大型の発電システムに用いられる原子炉は、低伝熱特性のウラニウム235又はプルトニウム239を含有する金属酸化物をペレット状に成形した燃料を、被覆管に収納した多数の燃料棒を集合させた炉心を備える。大型の原子炉に用いられる炉心は、数十本程度の燃料棒を束ねた燃料棒の束を200ほど集合させ、これら燃料棒の集合体の間に、燃料の反応速度を制御するための制御棒を配置している。このような制御棒を用いた大型の原子炉にあっては、制御棒の位置を制御する機構が故障するなどして、制御棒が機能しなくなると、炉心の核反応が暴走する危険がある。
【0006】
さらに、高速増殖炉以外の原子炉、例えば加圧水型軽水炉は、炉心を冷却して加熱された1次冷却水の熱を蒸気発生器によって水・蒸気系に伝達している。この種の原子炉においても、炉内に収納された燃料の集合体の間に制御棒を配置して、炉心の反応速度を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/007310号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】西山貴章「原子力電気推進システムにおける宇宙用原子炉の提案」九州大学工学部エネルギー科学科卒業論文、平成21年2月
【非特許文献2】W. F. Murphy, W. N. Beck, F. L. Brown, B. J. Koprowski, and L. A. Neimark、"POSTIRRADIATION EXAMINATION OF U-Pu-Zr FUEL ELEMENTSIRRADIATED IN EBR-I1 TO 4.5 ATOMIC PERCENT BURNUP"、ANL-7602、November 1969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した大型の発電システムの構築を目的としたループ型の高速増殖炉や加圧水型軽水炉等の間接サイクルを採用した原子炉では、各冷却系間の熱伝達が、互いに独立し、あるいは別々の部屋に収納されて配管で繋がれた蒸気発生器や熱交換機によって行われるので、冷却系全体が複雑で大きなものになってしまう。特に、発電を目的とした高速増殖炉等では、冷却材として金属ナトリウムを利用した1次冷却系が多数のループから構成されており、さらにそのループの一つ一つに2次冷却系のループが複数接続されていることから、配管類、ポンプ類、熱交換器や蒸気発生器等の数が多くなり、冷却系の複雑化や大型化が著しくなるという問題があった。
【0010】
さらに、大型の発電システムを構築する大型の原子炉にあっては、燃料集合体間に配置した制御棒により炉心の核反応速度を制御するようにしているため、制御棒の監視システムが必要になるなど、炉自体の構造が複雑になってしまう。そのため、原子炉の製造コストが莫大なものになるばかりか、その保守管理にも多くの人員と監視設備が必要となるという問題もある。
【0011】
他方、ループ型の高速炉に比べて小型化にし、負荷追随型制御方式の実現を図るため、タンク型の高速増殖炉が提案されている。この種の高速炉においても、炉心を冷却するために用いる金属ナトリウムの危険性を回避するため、中間熱交換器や蒸気発生器が依然として必要であり、冷却系の簡素化や小型化は十分とはいえない。さらには、制御棒、緊急炉心冷却系等のその他の工学的安全系が組み込まれている。このような複雑な安全系を組みことにより原子力発電システムは高価になる問題点があった。
【0012】
そこで、安全性を高め、さらに発電システムを安価にするために制御系の簡素化や小型化を目的とした原子炉が提案されており、そのような原子炉として特許文献1がある。 特許文献1に開示されている原子炉は、中間熱交換器や蒸気発生器を用いず、1次冷却系と2次冷却系を二重容器内に収納することにより、1次冷却系と2次冷却系の配管類を大幅に削減して、原子炉の小型化を図っている。しかし、特許文献1は核反応の制御について記載しおらず、従って、本発明のような負荷追随型制御方式の原子炉ではない。
【0013】
本発明は、原子炉及び発電システムを含むシステム全体の一層の小型化を可能とする小型原子力発電システムを提供することを目的とする。また、本発明は、負荷追従型で制御が容易であり、しかも安全な小型原子力発電システムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、製造コスト、保守管理のためのコストの低減を可能とする原子力発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、原子炉を小型化にし、ジルコニウム(Zr)、プルトニウム(Pu)、ウラニウム(U)からなる金属燃料を装荷し、反射体に接続された金属部材の熱膨張を利用して反射体を変形・移動させることにより、熱膨張を利用した負荷追従型制御方式の小型化原子炉を構成し、これにより、制御が容易でしかも再臨界等の事故発生の確率がゼロの、安全な小型原子力発電システムを提供する。即ち、熱出力の変化に起因する金属部材の熱変形を利用して高速中性子反射性能を制御することにより負荷追随型制御を可能した、小型化原子炉及び発電システムを提供する。
【0015】
最初に負荷追随型制御方式について以下に説明する。
(負荷追随型制御方式)
【0016】
通常の原子炉で用いられる制御棒ではなく、熱等の自然現象の基本因子を利用した負荷追随型制御方式において、主な制御因子には(1)中性子漏れ確率/量の制御、及び(2)中性子発生効率の制御、がある。
【0017】
(1)中性漏れ確率/量の制御
燃料棒に含有されたPu、U等の核分裂性物質から生成される中性子束は、原子炉外等の系外に漏れる中性子と、燃料棒に再吸収され核分裂に寄与する中性子の二種類に大別される。系外に漏れる中性子の割合は次のパラメータに依存する。
【0018】
(1−1)反射体の効率
炉心の中性子束密度は、炉心を囲む反射体の反射効率に大きく依存し、効率的な反射体を利用することにより中性子倍増係数を1以上にすることが可能となる。この反射効率を炉心の熱出力に応じて変化させることにより、負荷追随型制御方式が可能となる。
【0019】
(1−2)冷却材の特性
本発明においては、冷却材として金属ナトリウム、鉛、鉛−ビスマスが挙げられる。ここで、各々の特性を説明する。
(冷却材である金属ナトリウムの密度)
金属ナトリウムの密度は温度に依存しており、具体的には熱膨張率に依存している。温度が上がると密度が低下するため、中性子漏れ確率が大きくなり、結果として中性子倍増係数が低下して1に近づき、さらに温度が上がると中性子倍増係数が1以下となり、原子炉の臨界を維持することが不可能となる。逆に温度が下がると、中性子漏れ確率が低下して中性子倍増係数が1以上となり、核分裂連鎖反応を維持することが可能となる。
【0020】
なお、金属ナトリウムの沸点は880℃であるので、通常ボイドの形成は問題とならないが、燃料棒に接触している金属ナトリウムは高温となり、沸点以下での微少なボイドが形成される可能性がある。この結果、反応度のボイド係数が"正"となる問題点が残る。しかし、炉心寸法が小さく、更に高温で、中性子の漏れ量が大きいとこのボイド係数の問題点がなくなる優位点がある。
【0021】
(その他の冷却材)
高速炉の冷却材として、金属ナトリウム以外に、中性子吸収断面積が小さく中性子束に影響しない鉛があるが、融点が325℃と比較的高いことが欠点とある。そこで融点を下げることが可能な鉛−ビスマス(45.5%Pb−55.5%Bi)も有効な冷却材候補となる。鉛-ビスマスの融点は125℃に低下する。
【0022】
(1−3)原子炉表面積/体積比
生成される中性子量は原子炉の体積に依存しており、また中性子漏れ量は原子炉表面積に依存する。即ち、漏れる中性子の割合は、原子炉表面積/体積の比に依存することになる。言い換えると、炉心寸法が小さくなると漏れ中性子の割合が大きくなる。
【0023】
他方、生成される中性子量は、金属燃料棒に含有されている核分裂性Pu、Uの濃度に依存する。
【0024】
(2)中性子発生効率の制御
燃料棒から発生する高速中性子束を制御することは重要である。従来、燃料棒には、高温でスェリング等の変化が小さい酸化物燃料が主として使用されてきた。本発明の目的を達成するためには、金属燃料棒を採用し、高温で中性子発生効率が低下することが望ましい。高温で燃料棒にスェリング、膨張等が発生した場合、Pu、U等の核物質濃度が低下することになり、核反応効率が低下することになる。実際、金属燃料棒は高温で熱膨張する傾向が高く、非特許文献2によると、U、Pu、Zr三元合金燃料は、600℃から650℃以上になると膨張係数が3桁大きくなることが報告されている。この結果、燃料棒が高温なると、核反応効率が低下し、温度が低下することになり、負荷追随型制御方式が達成可能となる。
【0025】
次に、反射体の効果について説明する。
(反射体の効果)
【0026】
反射体の効果としては、宇宙用の小型原子炉の試設計について述べられている非特許文献1に具体例が示されている。まず、グラファイトからなる球状の炉心のなかに二酸化ウラン(UO:20%濃縮))微粒子をグラファイト及びシリコンでコーティングした燃料を分散させ、炉心の質量を9000kgまで増加させたが、実効倍増係数Keffは臨界条件である"1"を超えなかった(図3.3)。しかしこのような炉心において、半径20cmの炉心の周囲に反射体を設置した場合、Keffは"1"を超えることが可能となった。また、反射材質としてベリリウム(Be)または酸化ベリリウム(BeO)を用いた場合、反射体の厚さを10cm以上にすると、Keffは"1"を超えて臨界となる一方、グラファイトを用いた場合効率は低下するが、厚さが30cmを超えると臨界条件となったことが記載されている(図3.5)。このように、小規模の炉心の場合、反射体の効果は顕著であることが分かる。
【0027】
上述した目的を達成するために提案された本発明に係る小型原子力発電システムは、金属性燃料を被覆管に封入した複数の燃料棒からなる炉心と、この炉心を収納した原子炉容器と、原子炉容器内に充填され、炉心によって加熱される金属ナトリウムからなる1次冷却材と、炉心の周囲を囲んで設置され、炉心から放射される中性子の実効倍増係数(Keff)を約1以上に維持して炉心を臨界状態とする中性子反射体とを備えた原子炉を有する。
【0028】
原子炉の炉心は、ジルコニウムとウラニウム(235,238)及びプルトニウム239とからなる合金、またはジルコニウムとウラニウム(235,238)及びプルトニウム239のいずれか一方とからなる合金からなる金属燃料を、フェライト系ステンレス鋼またはクロム・モリブデン鋼からなる被覆管に封入した燃料棒の複数の集合体によって構成されている。ウラニウム燃料に含まれるウラニウム238は、中性子を吸収して運転とともにプルトニウム239を生成する。
【0029】
さらに、この小型化原子力発電システムは、原子炉の外部に主熱交換器を備える。主熱交換器には、原子炉によって加熱された1次冷却材が導管を介して供給され、またこの1次冷却材と熱交換して加熱される2次冷却材が循環している。本発明の実施例において、2次冷却材には、例えば超臨界二酸化炭素が用いられる。そして、主熱交換器によって加熱され、循環する2次冷却材によって駆動されるタービンと、このタービンの駆動によって動作する発電機とを備える。
【0030】
さらに、本発明では、原子炉に収納された燃料集合体の周囲を囲んで設置される中性子反射体は、次の2種類に大別される。第1の種類の反射体は、燃料集合体の高さ寸法より小さい高さに形成され、燃料集合体の下方側から上方側、または逆に下方側から上方側に向かって移動可能に支持されている。移動機構を簡略するためには上方側から下方側に移動する機構が望ましい。あるいは、燃料集合体の核燃料が消耗した部分から消耗していない部分に移動されることにより、核燃料の反応度を制御しながら長期間に亘って核反応を持続できる。第2の種類の反射体の高さは、燃料集合体全体高さをカバー可能にする。この場合、反射体を移動させないので、前述の反射体を使用する場合に比較して原子炉運転期間が短くなる。
【0031】
本発明による小型原子力発電システムは、さらに具体的には以下のような構成の小型原子炉を備える。
ウラニウム235、238及びプルトニウム239のいずれか一方又は双方を含有する金属性燃料を被覆管に封入した複数の燃料棒からなる燃料集合体の炉心と、
前記炉心を収納した原子炉容器と、
前記原子炉容器内に充填され、前記炉心によって加熱される金属ナトリウム、鉛(Pb)または鉛-ビスマス(Bi)のうちの一つからなる1次冷却材と、
前記炉心の周囲を囲んで配置される中性子反射体とを含み、
該中性子反射体は、前記炉心から放射される中性子の実効倍増係数を約1以上に維持して前記炉心を臨界状態とする中性子反射効率を有し、さらに前記中性子反射体は反射体自身よりも熱膨張率が大きい金属部材に接続され、前記原子炉容器内の温度に対応した前記金属部材の熱膨張による変位を利用して、前記中性子反射効率を変化させるように構成され、それにより負荷追随型制御が可能となっている。
【0032】
前記炉心の周囲を囲んで設置される前記中性子反射体は、前記炉心の高さ寸法より小さい高さに形成され、移動機構により前記炉心の下方側から上方側に向かって、または上方側から下方側に向かって移動できるように構成されている。
【0033】
あるいは、前記燃料集合体の全長と同等の長さの前記中性子反射体を、前記燃料集合体の周囲に設置してもよい。
あるいは、前記燃料集合体の周囲に加えて、前記燃料集合体の上部にも、熱膨張により前記中性子反射効率の制御を可能にするように構成されたスプリング状またはスパイラル状の前記金属部材を有する中性子反射体を設置してもよい。
【0034】
前記中性子反射体は、前記炉心の中心から同心円上に配置され、同心円上において2分割以上に多分割された2種類の半径を有する複数の中性子反射体であり、該複数の中性子反射体を、それぞれが同じ半径を有する第1グループと第2グループの2つのグループに分類し、このうちの第1グループの中性子反射体を、前記炉心と同心円上に設置した第1のスパイラル状の前記金属部材に接続し、前記第1のスパイラル状金属部材の熱膨張により、前記第1グループの中性子反射体と前記第2グループの中性子反射体との間にスリットが形成され、該スリットの間隔を前記原子炉容器内の温度に基づいて調整する。
前記中性子反射体は、さらに半径方向に2分割以上に多分割されていてもよい。
【0035】
また、前記第2グループの反射体も、前記炉心と同心円上に配置された第2のスパイラル状の前記金属部材に接続され、かつ前記第1のスパイラル状金属部材と前記第2のスパイラル状金属部材の巻き方向が逆方向であってもよい。
【0036】
前記中性子反射体の材料は、ベリリウム(Be)、酸化ベリリウム(BeO)、グラファイト、カーボン、ステンレス鋼から選定される。
また、前記2つのグループの中性子反射体の間に潤滑材としてカーボンを装着してもよい。
【0037】
また、前記第1グループと第2グループの前記中性子反射体が円周方向に重なり部分を有し、該重なり部分の幅を調整することで臨界状態が1となる温度を調整するようにしてもよい。
【0038】
あるいは、同心円上で2分割以上に分割された前記中性子反射体の外側に、前記金属部材である調節スプリングを固定するための固定用円筒と、さらにその外側に、調節スプリング支持板、反射体調節棒、及び前記調節スプリングとを含む、分割された各々の前記中性子反射体に対応した複数の反射体移動用治具とを備え、前記反射体調節棒の各々が対応した前記中性子反射体に接続されており、前記調節スプリングの熱膨張が、前記調節スプリング支持板に固定された前記反射体調節棒を介して、前記中性子反射体が前記燃料集合体から離れるように伝達されるように構成され、これにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御を行ってもよい。
【0039】
あるいは、同心円上、及び前記燃料棒に沿った方向で2分割以上に分割された多層リング状中性子反射体が配置され、スプリング状の前記金属部材が、前記多層リング状中性子反射体の外側に前記中性子反射体を包囲するように配置され、前記分割された前記多層リング状中性子反射体の各々が前記スプリング状金属部材の異なる部分に接続され、前記スプリング状金属部材の熱膨張が前記分割されたリング状中性子反射体に伝達され、前記分割された中性子反射体の間隔が変化することにより中性子の漏れ確率を調整し、原子炉の出力を制御する負荷追随型制御を行ってもよい。
【0040】
あるいは、同心円上で2分割以上に分割された各々の中性子反射体が、前記燃料棒に沿った方向の前記中性子反射体の各々の片方の端部に設けられた支持棒を中心として外側に回転可能であり、それにより前記中性子反射体間が開放可能なように構成され、前記各々の中性子反射体の回転の中心である支持棒に接続されたスパイラル状の前記金属部材の熱膨張により、前記中性子反射体間の開放の程度を変化させることにより中性子の漏れ確率を調整し、それにより原子炉の出力を制御する負荷追随型制御が可能を行ってもよい。
【0041】
前記スプリング状またはスパイラル状の前記金属部材の材料は、ステンレス鋼、ニッケル基超合金、ニッケル−コバルト系超合金である。
【0042】
また、前記スプリング状金属部材またはスパイラル状金属部材はバイメタルでもよく、このバイメタルの材料は、低膨張材料としてニッケル(Ni)−鉄(Fe)合金と高膨張材料として銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銅−亜鉛(Zn)、ニッケル−銅、ニッケル−マンガン(Mn)−鉄、ニッケル−クロム(Cr)−鉄、ニッケル−モリブデン(Mo)−鉄のうちの一つとの組合せであってよく、望ましくは、前記高膨張材料はニッケル−マンガン−鉄またはニッケル−クロム−鉄である。
【0043】
本発明による小型原子力発電システムは、前記中性子反射体の外側に中性子吸収体を設置してもよい。
また、前記中性子吸収体として、アクチノイド系放射性元素等の、放射性廃棄物等の処理に適した材料を用いてもよい。
【0044】
前記炉心は、ジルコニウム(Zr)とウラニウム(235、238)及びプルトニウム239とからなる合金、またはジルコニウムとウラニウム(235、238)及びプルトニウム239のいずれか一方とからなる合金からなる金属性燃料を、フェライト系ステンレス鋼、またはクロム・モリブデン鋼からなる被覆管に封入した燃料棒を複数備えている。
【0045】
前記原子炉容器は、5m以下の直径及び15m以下の高さを有する円筒状に形成され、前記原子炉容器に収納される炉心は、5〜15mmの直径及び3.0m以下の長さに形成された複数の燃料棒から構成されている。
【0046】
本発明による小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される超臨界二酸化炭素からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。
【0047】
本発明による別の小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉によって加熱された前記1次冷却材が導管を介して供給されるとともに、前記1次冷却材と熱交換されて加熱される軽水からなる2次冷却材が循環する主熱交換器と、前記主熱交換器によって加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。
【0048】
本発明によるまた別の小型原子力発電システムは、前記原子炉の外部に設置され、前記原子炉に軽水と反応しない前記1次冷却材が充填されるとともに、前記1次冷却材と原子炉容器内で熱交換されて加熱される軽水からなる2次冷却材が加熱された前記2次冷却材によって駆動されるタービンと、前記タービンの駆動によって動作する発電機とをさらに備える。
【発明の効果】
【0049】
本発明は、原子炉容器を直径5m以下、その高さを15m以下とし、この原子炉容器に収納される炉心を、直径を5〜15mm、その長さを3.0m以下とした燃料棒の集合体として形成しているので、原子炉の小型化が実現できる。
【0050】
本発明に係る小型原子力発電システムを構成する原子炉は、1次冷却材として金属ナトリウムを用いることにより、この発電システムに接続された負荷の電力消費量の変動に追従して発電出力を変動させる負荷追従型運転をするときに、負荷の電力消費量の変動に追従して核燃料の反応度を自動的に制御することを可能とし、発電システムの自動運転を可能とする。
【0051】
本発明は、原子炉容器に充填された1次冷却材を、ポンプを用いて循環するようにしているので、1次冷却材を構成する金属ナトリウム、鉛、または鉛−ビスマスを確実に循環させることができる。
【0052】
そして、本発明では、原子炉において加熱された1次冷却材が、原子炉の外部に設置された熱交換器に供給され、超臨界二酸化炭素からなる2次冷却材と熱交換を行うようにしているので、熱交換器及びタービンを含む2次冷却材の循環系を原子炉の外部に設置することができ、発電システムの保守点検を容易に行うことが可能となる。
【0053】
また、タービンを駆動する2次冷却材が循環する循環路は、閉ループとして構成されているので、発電システムの一層の小型化が実現でき、しかも2次冷却材の損失を抑えることができる。
【0054】
そして、1次冷却材として金属ナトリウムを用いる場合、2次冷却材として用いる超臨界二酸化炭素は、水等に比し十分に密度が大きいため、高能率でタービンを駆動できるため、発電機を駆動するタービンを一層小型化できる。
【0055】
さらに、2次冷却材として超臨界二酸化炭素を用いることにより、1次冷却剤を構成する金属ナトリウムと接触しても、ナトリウムと水が反応して生ずる爆発のような事故を防止でき、システムの安全性を向上できる。
【0056】
さらに、1次冷却材として鉛または鉛-ビスマスを用いる場合は、水との反応性が無いので、2次冷却材として水(軽水)を使用することが可能である。この場合、原子炉内に1次冷却材を充填しておき、原子炉内で2次冷却材である水を1次冷却材に直接接触させ、熱交換により蒸気化することができるので、原子力発電システムをより小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、本発明に係る小型原子力発電システムに用いられる小型原子炉の実施形態を示す概略構成図である。
図2図2は、図1の本発明に係る小型原子炉に用いられる燃料集合体の詳細を示す側面図である。
図3A図3Aは、本発明に係る小型原子炉に用いられる反射体の実施形態を示す斜視図である。
図3B図3Bは、本発明に係る小型原子炉に用いられる反射体の実施形態を示す透視図である。
図4図4は、本発明に係る小型原子炉に用いられる反射体の別の実施形態を示す斜視図である。
図5図5は、図4の反射体のスプリングの巻き数と線熱膨張量との関係を示すグラフである。
図6図6は、中性子実効倍増係数Keffとスプリングの熱膨張により変化する反射体のスリット幅の温度依存性を示すグラフである。
図7図7は、本発明に係る小型原子炉に用いられる、重なり部分を設けた、反射体のまた別の実施形態を示す斜視図である。
図8図8は、反射体の重なり部分を設けた場合の、Keffと熱膨張により変化するスリット幅の温度依存性を示すグラフである。
図9図9は、本発明に係る小型原子炉に用いられる反射体の別の実施形態を示す斜視図である。
図10図10は、図9に示した実施例のKeffと反射体の移動距離との関係を示すグラフである。
図11図11は、本発明による反射体のまた別の実施例において、反射体が閉じた状態を示す斜視図である。
図12図12は、図11に示した反射体の実施例において、反射体が開いた状態を示す側面図である。
図13図13は、本発明による反射体のまた別の実施例を示す斜視図である。
図14図14は、本発明による漏れ高速中性子用の反射体の実施例を示す斜視図である。
図15図15は、図14に示した反射体の詳細を示す斜視図である。
図16図16は、本発明による負荷追随型制御方式の炉心を組み込んだ小型発電システムの実施例を示す模式的断面図である。
図17図17は、本発明による負荷追随型制御方式の炉心を組み込んだ小型発電システムの別の実施例を示す模式的断面図である。
図18図18は、本発明による負荷追随型制御方式の炉心を組み込んだ小型発電システムのまた別の実施例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の実施例は、汎用核計算コードSRAC(Standard Reactor Analysis Code)を用いて得た結果に基づいたものである。SRACは様々なタイプの原子炉の炉心解析に適用できる核計算コードシステムである。6種類のデータライブラリー(ENDF/B-IV、-V、-VI、JENDLE-2、-3.1、-3.2)、統合された5つのモジューラーコード;16種類の格子形状に適用できる衝突確率計算モジュール(PIJ)、Sn輸送計算モジュール、ANIS及びTWOTRAN、拡散計算モジュール(TUD(1次元)及びCITATION(多次元))、及び燃料集合体と炉心燃焼計算のための2つのオプションコード(ASMBURN、改良COREBURN)により構成されている。本発明では、衝突確率計算モジュール(PIJ)、Sn輸送計算モジュール、ANIS及びTWOTRANを使用して臨界計算を行った。その結果に基づいた実施例について、図を参照しながら以下に説明する。
【0059】
まず、下記に示す小型原子炉炉心の基本仕様に基づいて、核反応を確認した。
(基本仕様)
炉心直径:85cm、
炉心高さ:200cm
燃料集合体:60体
燃料ピン直径:1cm
【0060】
本発明の小型原子炉の臨界計算に用いた小型原子炉の概略断面構造を図1に示す。低合金綱等からなる原子炉容器1のなかに燃料集合体4を裝荷し、燃料集合体の周囲にグラファイトからなる中性子反射体2を設置する。この反射体は下部から上部に移動または上部から下部に移動が可能である。この反射体を移動させるために反射体支持機構5が取り付けられている。この支持機構は原子炉上部に設置した駆動機構(非表示)に接続されている。しかしこれに限定されることはなく、燃料集合体の全長と同等の長さの反射体を、燃料集合体の周囲に設置してもよい。
【0061】
原子炉容器1の下部には、1次冷却材である液体金属ナトリウムを導入する冷却材入り口配管6が取り付けられ、さらに、核加熱された冷却材を取り出す冷却材出口配管7が取り付けられている。
【0062】
燃料集合体4の詳細を図2に示す。フェライト径ステンレス鋼(フェライト系鉄鋼材料の参照鋼の一つであるHT−9鋼(Fe-12CHMo-V、W)の被覆管の中に、Pu-U-Zr合金鋼からなる直径10mmΦ、長さ200mmの燃料ピンを挿入して作製した1本の燃料棒41を、スペサー42用いて24本束ねて燃料集合体4とした。原子炉容器には燃料集合体4を60体裝荷した。
【実施例1】
【0063】
次に、本発明における負荷追随型制御において最も重要となる反射体に関して、図3A、3Bと図4を参照して説明する。図3Aに示すように、反射体はグラファイトからなる各々の厚さが10cmの二重構造であり、円周方向に8分割され、一つおきに半径の異なる2種類の反射体A21、反射体B22を配置し、円周方向にずらすとお互いが内部に収容可能な二重構造となっている。図3Bに示すように反射体A21、反射体B22の二重構造は、反射体支持板20により固定されている。反射体B22の内径は52cmとし、高さは50cmとした。このような2種類の二重構造反射体を互いにずらすことにより、反射体A21と反射体B22の間に隙間(スリット)を形成し、これにより反射効率を低下させる。反射体A21と反射体B22の間には潤滑材としてカーボン(例えば、グラファイトカーボン微粒子)を装着してもよい。なお、本実施例では反射体が二重構造の例を示しているが、反射体は一重構造であっても、2より大きい多重構造であってもよいことは言うまでもない。さらに、これらの反射体の外側に、漏れ中性子を有効利用するために、アクチノイド系放射性元素等の放射性廃棄物等の処理に適した中性子吸収体を設置してもよい。
【0064】
図4に示すように、反射体2の上下にオーステナイト系ステンレス鋼製の耐熱性スパイラル状金属部材をさらに接続する。反射体A21にはスパイラル状金属部材31を接続し、反射体B22にはスパイラル状金属部材32を接続する。スパイラルの巻き方向はお互いに逆方向に設定する。このように上下のスパイラルの巻き方向を逆方向に設定することにより、熱膨張による反射体間のスリットの幅がより大きくなる。
【0065】
上記スパイラルの巻き数と線熱膨張量との関係を図5に示す。スパイラルの最内径と最外径を固定し、スパイラルの厚さを10mmから30mmに変化させることにより巻き数を変化させた。
【0066】
この構造の反射体の熱膨張量と核特性の関係を、計算コードCITAIONを利用して計算した。図6に中性子実効倍増係数Keffとスプリングの熱膨張による反射体のスリット幅の温度依存性を示す。図から明らかなように、温度の上昇と共にKeffは1以下となり未臨界状態となることが分かる。温度が上昇すると中性子経済が悪化し、核反応効率が低下する。逆に温度が低下すると、反射体の効率が向上して核反応効率が向上する。この結果、原子炉の出力に応じて核分裂反応を自動的に制御することが可能になる。
【実施例2】
【0067】
次に、Keffが"1"になる臨界点の温度を上昇させる方法を説明する。図7に示すように4分割の反射体A21と反射体B22に加えて、それらに重なり部分23を設ける。これによって反射体の熱膨張によるスリットの幅を調整する。反射体の重なり部分を設けた場合のKeffと熱膨張によるスリット幅に関する計算結果を図8に示す。この図から明らかなように、Keff=1になる温度が約500℃に上昇した。このように、分割型反射体において、重なり部分の長さを調整することによりKeff=1になる温度を調整することが可能となる。
【実施例3】
【0068】
図9に、本発明による反射体構造の別の実施例を示す。実施例1と2では、分割反射体を円周方向にずらして反射体間にスリットを入れることによりKeffを制御した。この実施例では、半径方向に反射体を移動させることによりKeffを制御する。図9においてその機構を説明する。8分割した二重反射体21、22を温度上昇と共に燃料集合体から離れるようにするために、調節スプリング26の熱膨張を利用する。まず、8分割二重反射体21、22の外側に、調節スプリング26を固定する固定用円筒24を設置し、さらにその外側に、調節スプリング支持板27、反射体調節棒28、及び調節スプリング26と組み合わせて構成したスプリング駆動反射体移動用治具を分割反射体に対応させて8個設置する。調節スプリング26の熱膨張を支持板27で受け止め、熱膨張を、支持板27に固定された反射体調節棒28の外側方向への移動に変換し、それにより、反射体調節棒28に固定された反射体21、22が外側へ移動する。
【0069】
図10に、図9に示した実施例のKeffと反射体調節棒28の移動距離(または反射体21、22の移動距離)との関係を示す。炉心と反射体の間隔が広くなると反応度が低下する。この例では移動距離が約7cmの時にKeff=1となることが分かる。これにより負荷追随型制御が可能になる。
【実施例4】
【0070】
図11に、本発明による反射体構造のまた別の実施例を示す。本実施例は、熱膨張により反射体を開閉させる構造を採用している。12分割した二重反射体21、22を、上部スパイラル状金属部材291と下部スパイラル状金属部材292の熱膨張により、スパイラル状金属部材の支持棒25を中心軸として外側に回転移動させる。温度が上昇して反射体が開いた状態を図12に示す。上記スパイラル状金属部材の材料としてはステンレス鋼、ニッケル基超合金、ニッケル−コバルト(Co)系超合金が好適である。さらに、上部スパイラル状金属部材291および下部スパイラル状金属部材292にバイメタルを用いたスパイラル状金属部材を使用することにより、より効率的に反射体を回転させることも可能である。バイメタルの構成材料として、低膨張材料としてニッケル(Ni)−鉄(Fe)合金と高膨張材料として銅(Cu)、ニッケル、銅−亜鉛(Zn)、ニッケル−銅、ニッケル−マンガン(Mn)−鉄、ニッケル−クロム(Cr)−鉄、ニッケル−モリブデン(Mo)−鉄の内の一つの組み合わせが使用可能である。原子炉における高温条件を考慮すると、低膨張材料としてニッケル−鉄合金と高膨張材料としてニッケル−クロム−鉄またはニッケル−マンガン−鉄の組み合わせが適している。このようなバイメタル金属スパイラルを組み込んだ中性子反射体が開くことにより反射体の外に漏れる中性子が多くなり、その結果Keffが低下し、核分裂反応率が低下する。従って負荷追随型制御が可能になる。
【実施例5】
【0071】
図13に、本発明による反射体構造のまた別の実施例を示す。本実施例は、複数多層リング状の反射体211の周囲に、それらを包囲するようにスパイラル状金属部材311を配置した反射体構造を採用している。多層リング状反射体211と金属部材311は支持体281に接続されている。スプリング状金属部材311の熱膨張による変形により、多層反射体間にスリットが形成される。このスリットの形成により、高速中性子反射効率が低下する。従って、温度が上昇すると核分裂効率が低下し、逆に温度が低下すると反射効率が復旧して核分裂効率が上昇する。従って負荷追随型制御が可能になる。上記スプリング状金属部材の材料としてはステンレス鋼、ニッケル基超合金、ニッケル−コバルト系超合金が好適である。
【実施例6】
【0072】
前述のように、小型原子炉の中性子倍増係数Keffを1以上にするためには、漏れ高速中性子の漏れ率を低減することが必要な場合がある。この場合には燃料集合体の周囲以外に反射体を設けることが望ましい。図14にその実施例を示す。原子炉容器1の中で、燃料集合体4の上部に追加の多層型反射体91を設ける。この多層型反射体の間のスリットを高温で広げるために、多層型反射体スプリング92がさらに設けられている。この多層型反射体の詳細を図15に示す。多層型反射体91の中心部には円筒状の空間があり、燃料集合体、及び移動型反射体2が通過可能である。上部多層型反射体91と上部スプリング92が多層型反射体支持板93に接続されている。このような構造を採用することにより、漏れ高速中性子の漏れ率を低減することが可能となり、かつその漏れ率を調整することも可能となる。
【実施例7】
【0073】
本発明の負荷追随型制御方式の炉心を組み込んだ発電システムの実施例を図16に示す。まず原子炉容器1の中に燃料集合体4とその周りに中性子反射体2を配置する。この実施例では、1次冷却材として金属ナトリウムを使用する。安全性を考慮して2次冷却材として二酸化炭素ガスを用いる。発電効率を上げるためには超臨界二酸化炭素ガスタービン521を用いることが望ましい。主熱交換器50において、金属ナトリウムと超臨界二酸化炭素の間で熱交換する。金属ナトリウムは原子炉容器1の入口51から供給され出口52から循環ポンプ555を用いて主熱交換器50に送られる。
【0074】
主熱交換器50から二酸化炭素ガスが、超臨界二酸化炭素ガスタービン521に供給される。超臨界二酸化炭素ガスは再熱交換器524および冷却器523経由して圧縮機522により圧縮された後、再生熱交換器524で加熱され、超臨界炭素ガス循環供給ポンプ550により主熱交換器50に供給される。
【実施例8】
【0075】
本発明の負荷追随型制御方式の炉心を組み込んだ発電システムの別の実施例を図17に示す。この実施例では、1次冷却材として鉛−ビスマスを使用する。前述の通り、この実施例では2次冷却材として水(軽水)を用い、更に発電には蒸気タービンを用いる。図17に示すように、原子炉容器1の中に燃料集合体4とその周りに中性子反射体2を装荷する。この原子炉容器内1には1次冷却材として鉛−ビスマスを充填する。1次冷却材は循環ポンプ555を用いて入口51から入り、出口52から主熱交換器50に供給される。主熱交換器50で鉛−ビスマスから水に熱が移動し蒸気が発生する。この蒸気を利用して蒸気タービン501と復水器502が稼働して電気が発生する。復水器502で蒸気が水に戻り、第1加熱器503および第2加熱器504で加熱された後、循環供給ポンプ550を用いて主熱交換器50に供給される。
【実施例9】
【0076】
1次冷却材として鉛または鉛−ビスマスを利用する場合、1次冷却材と水との間の反応性が無いことを考慮すると、原子炉容器1の中で熱交換することも可能になる。図18にその実施例を示す。原子炉容器1内に燃料集合体4と反射体2を装荷し、1次冷却材として鉛−ビスマスを充填する。2次冷却材としては水を使用し、循環ポンプ555を用いて原子炉容器1内の下部または側面から供給する。原子炉容器1の中で生成された蒸気は蒸気タービン580と復水器581を駆動して電気を生成する。水は第1加熱器582および第2加熱器583で加熱された後、循環ポンプ555により原子炉容器1に再度供給される。
【0077】
上記記載は実施例についてなされたが、本発明はそれに限定されず、本発明の精神と添付の請求の範囲の範囲内で種々の変更、及び修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0078】
1 原子炉容器、
2 中性子反射体、
4 燃料集合体、
5 反射体支持体、
6 1次冷却材入り口配管、
7 1次冷却材出口配管、
20 反射体支持板、
21 反射体A、
22 反射体B、
23 反射体重なり部分、
24 調節スプリング固定用円筒、
25 支持棒、
26 調節スプリング、
27 調節スプリング支持板、
28 反射体調節棒、
31 上部スパイラル状金属部材、
32 下部スパイラル状金属部材、
41 燃料棒、
42 燃料集合体支持板
51 原子炉容器入口、
52 原子炉容器出口、
60 主熱交換器、
91 上部多層反射体、
92 上部多層反射体スプリング、
93 上部多層反射体支持板、
211 リング状多層反射体、
311 スプリング状金属部材、
281 多層反射体支持板、
291 上部角度調整スパイラル状金属部材、
292 下部角度調整スパイラル状金属部材
501、580 蒸気タービン、
502、581 復水器、
503、582 第1加熱器、
504、583 第2加熱器、
521 超臨界二酸化炭素ガスタービン、
522 超臨界二酸化炭素ガス圧縮機、
523 冷却器、
524 再生熱交換器、
525 炭酸ガス循環ポンプ
550 循環供給ポンプ、
555 循環ポンプ、
560 隔離弁
1001 鉛-ビスマス表面
【要約】
本発明は、負荷追従型で制御が容易であり、しかも安全で、製造コスト、保守管理のためのコストの低減を可能とする小型原子力発電システムを提供する。ウラニウム(235、238)及びプルトニウム239のいずれか一方又は双方を含有する金属性燃料を用いた燃料集合体炉心4と、この燃料集合体炉心4を収納した原子炉容器1と、原子炉容器1内に充填され、燃料集合体炉心4によって加熱される金属ナトリウムと、燃料集合体炉心4から放射される中性子の実効倍増係数を約1以上に維持して炉心を臨界状態とするために中性子反射体2を備え、この中性子反射体にスプリング状またはスパイラル状金属部材を接続し、冷却材金属ナトリウムの温度による金属部材の熱変形を利用して中性子反射体の高速中性子反射効率を制御することにより、中性子実効倍増係数を制御可能にする負荷追随型制御方式の小型原子炉を備えた、小型原子力発電システム。
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