特許第5967837号(P5967837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

特許5967837化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法
<>
  • 特許5967837-化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法 図000002
  • 特許5967837-化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967837
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/00 20060101AFI20160728BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20160728BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20160728BHJP
   H01L 31/0749 20120101ALI20160728BHJP
【FI】
   C01B19/00 G
   C01B19/04 W
   C09D11/037
   H01L31/06 460
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-536276(P2013-536276)
(86)(22)【出願日】2012年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2012074461
(87)【国際公開番号】WO2013047461
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-217028(P2011-217028)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-40060(P2012-40060)
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、先端的低炭素化技術開発事業、「ナノ粒子/印刷法を用いた未来型化合物薄膜太陽電池の高性能化技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】張 毅聞
(72)【発明者】
【氏名】山田 明
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0075227(KR,A)
【文献】 国際公開第2011/016283(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101844797(CN,A)
【文献】 国際公開第2010/027031(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/030055(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098369(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/138636(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/066205(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/135622(WO,A1)
【文献】 S. IKEDA et al.,Multicomponent sulfides as narrow gap hydrogen evolution photocatalysts,Physical Chemistry Chemical Physics,2010年 9月20日,Vol.12, No.42,p.13943-13949
【文献】 I. TSUJI et al.,Novel Stannite-type Complex Sulfide Photocatalysts AI2-Zn-AIV-S4 (AI = Cu and Ag; AIV = Sn and Ge) for Hydrogen Evolution under Visible-Light Irradiation,Chemistry of Materials,2010年 1月 6日,Vol.22, No.4,p.1402-1409
【文献】 D. B. MITZI et al.,TORWARDS MARKETABLE EFFICIENCY SOLUTION-PROCESSED KESTERITE AND CHALCOPYRITE PHOTOVOLTAIC DEVICES,35TH IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE (PVSC),2010年 6月20日,p.640-645
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩または金属錯体を含む溶液とカルコゲニド塩を含む溶液とを反応させ、CZTS化合物ナノ粒子を製造することを具備し、
前記ナノ粒子を製造する温度は−67℃以上、5℃以下であるCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩はハロゲン原子を含む請求項1に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法
【請求項3】
前記金属塩はヨウ化金属塩である請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ヨウ化金属塩は、CuI、ZnI2、及びSnI2からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記カルコゲニド塩は、Na2Se及びNa2Sからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、Cu2-xZn1+ySnSzSe4-z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦4)により表される化合物からなる請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、Cu2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)により表される化合物粒子、Zn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)により表される化合物粒子、及びSn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)により表される化合物粒子を含んだ混合物である請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子の粒径は、1〜200nmである請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子を構成する化合物の各元素の組成比はCu/(Zn+Sn)=0.6〜0.99である請求項に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の方法により製造されるナノ粒子を有機溶媒に分散させることを具備するCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒は、メタノール及びピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項12】
前記インクに、バインダとしてSe化合物及びS化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む請求項10または11に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項13】
前記インクに、バインダとしてチオ尿素を添加することを含む請求項10または11に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項14】
前記インクに、バインダとしてSe元素を含む粒子及びS元素を含む粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む請求項10または11に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項15】
前記インクに、バインダとしてSe粒子及びS粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む請求項10または11に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項16】
前記インクにバインダとして添加する粒子の粒径は、1−200nmである請求項14に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
【請求項17】
請求項10に記載の製造方法によって製造されるCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、熱処理してなるCZTS化合物半導体薄膜の製造方法
【請求項18】
基板上に形成された電極上に、請求項10に記載の製造方法によって製造されるCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、CZTS化合物半導体塗膜を形成する工程と、 前記CZTS化合物半導体塗膜を熱処理してCZTS化合物半導体薄膜からなる光吸収層を形成する工程とを具備する太陽電池の製造方法。
【請求項19】
前記CZTS化合物半導体塗膜の熱処理温度は、450℃〜650℃である請求項18に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法、そのナノ粒子を含有する化合物半導体薄膜形成用インクおよびその製造方法、そのインクを用いて作製された化合物半導体薄膜、その化合物半導体薄膜を備える太陽電池、およびその太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光起電力効果を利用して光エネルギを電気エネルギに変換する装置であり、地球温暖化防止および枯渇資源代替対策などの観点から、近年、注目されている。太陽電池に用いられている半導体は、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi、CdTe、CuIn1-xGaxSe2(CIGS)、Cu2ZnSn(S,Se)4(CZTS)、GaAs、InPなどが知られている。これらの中でも、Cu2ZnSn(S,Se)4(CZTS)は、光吸収係数が大きく、太陽電池に適したバンドギャップエネルギー(1.4〜1.5eV)を持ち、しかも、環境負荷が少なく、希少元素を含まないという特徴がある。現在商業化されているCIS(CuInSe2)薄膜太陽電池やCdTe薄膜太陽電池の代替品としての未来型太陽電池用に期待されている。
【0003】
CZTS化合物半導体の作製方法としては、これまで種々の提案がある。例えば、特許文献1には、スパッタ法を用いてMoコートしたSLG基板上に、Cu、ZnS、及びSnSを原料として用いてCZTS前駆体を作製し、これを硫化水素20%雰囲気中580℃で2時間加熱処理してCZTS薄膜を作製する方法が提案されている。
【0004】
しかし、この方法によると、硫黄やSnSの融点が低いため、スパッタ時にプラズマの影響により硫黄が選択的に蒸発してしまい、所望の組成比のCZTS薄膜を得ることは困難である。また、スパッタのような真空プロセスを用いる場合、設備投資が高く、電力消費が多く、コストが割高となってしまう。
【0005】
上述の問題を改善するため、特許文献2には、Cu2S、Zn、SnSe、S、及びSeをヒトラジン溶媒に溶かし、熱アニールによりCZTS化合物半導体を作製する方法が提案されている。この方法によると、スパッタ時に硫黄が選択蒸発される現象がなく、非真空プロセスを用いている為、設備投資などを抑えることができ、低コストの実現が可能となる。
【0006】
しかし、この方法では、有毒で爆発しやすい溶媒であるヒトラジンを使用するため、取扱に特別な注意を払う必要があり、環境への負荷が高いという問題がある。そのため、この方法では、工業的規模による量産化が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−26891号公報
【特許文献2】US 2011/0097496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低コストの太陽電池の製造を可能とするCZTS化合物半導体薄膜作製用ナノ粒子の製造方法、そのナノ粒子を含有する化合物半導体薄膜形成用インクおよびその製造方法、そのインクを用いて作製された化合物半導体薄膜、そのCZTS化合物半導体薄膜を備える太陽電池、およびその太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、金属塩または金属錯体を含む溶液とカルコゲニド塩を含む溶液を反応させ、CZTS化合物ナノ粒子を製造することを具備し、前記ナノ粒子を製造する温度は−67℃以上、5℃以下であるCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法を提供する。
【0010】
このようなCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子を製造する温度を、−67℃以上、25℃以下とすることができ、より好ましい温度は−5℃以上、5℃以下である。
【0011】
前記金属塩として、ハロゲン原子を含むものを用いることができる。
【0012】
前記金属塩として、ヨウ化金属塩を用いることができる。
【0013】
前記ヨウ化金属塩として、CuI、ZnI2、及びSnI2からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上を用いることが出来る。
【0014】
前記カルコゲニド塩として、Na2Se及びNa2Sからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上を用いることができる。
【0015】
前記ナノ粒子は、Cu2-xZn1+ySnSzSe4-z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦4)により表される化合物からなるものとすることができる。
【0016】
前記ナノ粒子は、Cu2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、Zn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、及びSn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)からなる群から選ばれる式により表される化合物の少なくとも1種類以上とすることができる。
【0017】
前記ナノ粒子として、粒径1〜200nmのものを用いることができる。
【0018】
前記ナノ粒子として、構成する化合物の各元素の組成比がCu/(Zn+Sn)=0.6〜0.99であるものを用いることができる。
【0021】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る製造方法により製造されるナノ粒子を有機溶媒に分散させることを具備するCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法を提供する。
【0022】
前記有機溶媒として、メタノール及びピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0023】
前記インクに、バインダとしてSe化合物及びS化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することができる。
【0024】
前記インクに、バインダとしてチオ尿素を追加することができる。
【0025】
前記インクに、バインダとしてSe元素を含む粒子及びS元素含む粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することができる。
【0026】
前記インクに、バインダとしてSe粒子及びS粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することができる。
【0027】
前記インクに添加するナノ粒子として、粒径1−200nmのものを用いることができる。
【0028】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る製造方法により製造されるCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、熱処理してなるCZTS化合物半導体薄膜の製造方法を提供する。
【0030】
本発明の第4の態様は、基板上に形成された電極上に、本発明の第2の態様に係る製造方法により製造されるCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、CZTS化合物半導体塗膜を形成する工程と、前記CZTS化合物半導体塗膜を熱処理してCZTS化合物半導体薄膜からなる光吸収層を形成する工程とを具備する太陽電池の製造方法を提供する。
【0031】
前記CZTS化合物半導体塗膜の熱処理温度は、460℃〜650℃とすることが出来る。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、低コストで、環境負荷が少なく、工業的規模での量産化を可能とする、CZTS化合物半導体薄膜作製用ナノ粒子の製造方法、そのナノ粒子を含有する化合物半導体薄膜形成用インクおよびその製造方法、そのインクを用いて作製された化合物半導体薄膜、そのCZTS化合物半導体薄膜を備える太陽電池、およびその太陽電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に示す縦断側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る半導体薄膜形成用インクの塗膜の熱処理温度を求めるための、in−situ XRDの測定結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0035】
なお、本明細書で用いているCZTS化合物とは、Cu2ZnSn(S,Se)4なる基本構造を有し、CuInSe(CIS)化合物のInをZn,Snで、SeをSで置換した化合物半導体である。
【0036】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0037】
本発明の第1の実施形態に係るナノ粒子の製造方法は、金属塩または金属錯体を含む溶液と、カルコゲニド塩を含む溶液とを反応させ、CZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子を製造することを特徴とする。
【0038】
金属塩または金属錯体としては、CuI、CuSO4、Cu(NO32、Cu(CH3COO)2、ZnI2、ZnSO4、Zn(NO32、Zn(CH3COO)2、SnI2、SnSO4、Sn(CH3COO)2などを用いることが出来る。
【0039】
金属塩としては、ハロゲン原子を含むものが好ましい。ハロゲン原子を含む金属塩として、例えば、CuCl2、CuBr、CuI、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2、SnCl2、SnBr2、SnI等を挙げることができる。CuI、ZnI2、SnI2からなる群から選ばれた少なくとも1種が特に好ましい。
【0040】
カルコゲニド塩としては、K2Se、Na2Se、K2S、Na2Sなどを用いることができる。これらの混合物を用いることもできる。
【0041】
カルコゲニド塩としてNa2Se、Na2Sを用いた場合、これとヨウ化金属との反応の副生成物であるNaIは、有機溶媒への溶解度が高いため、遠心分離などの方法で簡単にナノ粒子と分離できるので好ましい。
【0042】
ナノ粒子の製造温度は−67℃以上、25℃以下であることが望ましい。温度が25℃を超えると、反応速度が速くなり、粒径の制御が困難となる傾向となる。また、温度が−67℃未満になると、反応速度が遅くなり、製造時間が長くなる傾向となる。より好ましい温度は、−5℃以上、5℃以下である。
【0043】
金属塩または金属錯体を含む溶液と、カルコゲニド塩を含む溶液との反応生成物であるナノ粒子は、例えば、式Cu2-xZn1+ySnSzSe4-z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦4)により表される化合物粒子とすることが出来る。
【0044】
また、Cu2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、Zn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、Sn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)により表される化合物粒子からなる群の少なくとも1種以上の混合物とすることもできる。Cu(IB族)、Zn(IIB族)、Sn(IVB族)、S(VIB族)および/またはSe(VIB族)を含有するこうした化合物は、一般にCZTS系化合物と称される。
【0045】
本発明の方法で製造されたナノ粒子の平均粒径は、1nm以上200nm以下であることが好ましい。ナノ粒子の平均粒径が200nmより大きくなると、CZTS化合物半導体薄膜の熱処理工程において、CZTS化合物半導体薄膜に隙間ができやすく、表面粗さが高くなり、光電変換効率が低下する傾向となる。
【0046】
一方、ナノ粒子の平均粒径が1nm未満であると、微粒子が凝集しやすくなり、インクの調製が困難となる。なお、ナノ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることがより好ましい。なお、ナノ粒子の平均粒径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察した金属ナノ粒子の最短径を平均したものである。
【0047】
ナノ粒子を構成する化合物または混合物の各元素の組成比は、好ましくはCu/(Zn+Sn)=0.6〜0.99であり、より好ましくは0.8〜0.9である。Cu/(Zn+Sn)の比は1以上では半金属のCuSが生成しやくなり、CZTS薄膜の抵抗が低くなりすぎて、光電変換効率が低くなるおそれがある。また、Cu/(Zn+Sn)の比が0.6未満になると半導体のキャリア濃度が少なくなり、光電変換効率が低くなることがある。
【0048】
以上説明した本実施形態に係る方法で得られたナノ粒子を有機溶媒に分散して、CZTS化合物半導体薄膜形成用インクを製造することができる。
【0049】
有機溶媒としては、特に制限はなく、たとえば、アルコール、エーテル、エステル、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素などを使用することができる。好ましい有機溶媒は、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数10未満のアルコール、ジエチールエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンであり、特に好ましい有機溶媒は、メタノール、ピリジン、トルエン、ヘキサンである。
【0050】
このCZTS化合物半導体薄膜形成用インクには、ナノ粒子を有機溶媒中に効率よく分散させるために、分散剤を配合することができる。分散剤としては、チオール類、セレノール類、炭素数10以上のアルコール類等を挙げることができる。
【0051】
また、CZTS化合物半導体薄膜形成用インクには、緻密な半導体薄膜を得るために、バインダを配合することも可能である。バインダとしては、Se粒子、S粒子、Se化合物、S化合物など用いることができる。また、バインダとしては、チオ尿素を添加してもよい。なお、有機溶媒中の固形分の濃度は、特に制限されないが、通常は、1〜20重量%である。
【0052】
バインダとして添加される粒子の粒径は、1〜200nmとすることができる。バインダとして添加される粒子の粒径は、前述のナノ粒子の粒径より小さいことが好ましい。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係るCZTS化合物半導体薄膜について説明する。
【0054】
本発明の第2の実施形態に係るCZTS化合物半導体薄膜は、上述したCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを基体上に塗布または印刷し、乾燥して有機溶媒を除去し、次いで熱処理することにより形成されたものである。
【0055】
塗布方法としては、ドクタ法、スピンコーティング法、スリットコーティング法、スプレ法等が挙げられ、印刷方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、反転オフセット印刷法、凸版印刷法等が挙げられる。
【0056】
塗布または印刷により形成された塗膜の膜厚は、乾燥および熱処理後のCZTS化合物半導体薄膜の膜厚が0.5〜10μm、たとえば、2μm程度になるような膜厚が好ましい。熱処理は、加熱炉によるアニールのほか、ラピッドサーマルアニール(RTA)によっても行うことができる。
【0057】
熱処理温度は、CZTS化合物半導体の結晶化に必要な温度である必要があるため、350℃以上であるのが望ましい。基板としてガラス基板を用いる場合には、ガラス基板に耐え得る温度である必要があるため、熱処理温度は、650℃以下、特に550℃以下であるのが望ましい。好ましい範囲450℃〜650℃であり、さらに好ましい範囲450℃〜550℃である。
【0058】
なお、本発明者らの実験によると、熱処理温度が460〜500℃において、CZTS化合物半導体の結晶化が急速に進行することが確認されている。従って、CZTS化合物半導体薄膜形成用インクの塗膜の熱処理温度は、460〜500℃であるのが最も好ましい。
【0059】
熱処理雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、フォーミングガス雰囲気、水素雰囲気、Seガス雰囲気、Sガス雰囲気、H2Seガス雰囲気、およびH2Sガス雰囲気等から選択される少なくとも1種を使用することが出来る。SeガスおよびSガスの両方を雰囲気で処理した場合には、バンド構造を制御することができる。グレードバンドを形成するためには、膜をまずSe元素を含む雰囲気で処理した後、S元素含む雰囲気で処理することが好ましい。
【0060】
本発明者らによる実験及びその結果を以下に示す。
【0061】
基体としてのPt板上に、Cu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子を含むインクを塗布し、400℃〜600℃の範囲で熱処理温度を変えて熱処理を行い、in−situ XRDにより分析を行った。なお、用いたCu−Zn−Sn−Se−S塗膜の組成比は、下記の通りである。
【0062】
Cu/(Zn+Sn)=0.74
Zn/Sn=1.3
Cu/Sn=1.7
in−situ XRDの測定条件は、下記の通りである。
【0063】
測定雰囲気:窒素雰囲気
測定範囲:25〜35deg
昇温速度:10℃/分
スキャンスピード:10deg/分
なお、設定温度になってから2分間保持した後、XRDスキャンを開始した。
【0064】
測定結果を図2に示す。
【0065】
図2から、460〜500℃の狭い温度範囲において、CZTS化合物の結晶化が急速に進行していることがわかる。
【0066】
次に、本発明の第3の実施形態に係る太陽電池について説明する。
【0067】
図1は、本発明の第3の実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に示す縦断側面図である。図1に示す太陽電池では、基板101上に裏面電極102が形成されている。基板101としては、ソーダライムガラス、金属板、プラスチックフィルムなどを用いることができる。
【0068】
裏面電極102としては、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属を用いることができる。また、公知のカーボン、グラフェンなどのカーボン系電極を用いることもできる。さらに、公知のITO、ZnOなどの透明導電膜を用いることもできる。
【0069】
裏面電極102上に、上述した第2の実施形態に係るCZTS化合物半導体薄膜が、光吸収層103として形成されている。すなわち、光吸収層103は、上述したCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを裏面電極102上に塗布し、乾燥し、熱処理することにより形成される。この光吸収層が光電変換を行う。
【0070】
光吸収層103上には、バッファ層104、i層105、およびn層106が順次形成されている。バッファ層104としては、公知のCdS、Zn(S,O,OH)、In23を用いることができる。i層105としては、公知のZnOなどの金属酸化物を用いることができる。また、n層106としては、公知のAl、Ga、Bなどを添加したZnOを用いることができる。
【0071】
そして、n層106上に表面電極107を形成して、太陽電池が完成する。表面電極107としては、公知のAl、Agなどの金属を用いることができる。また、公知のカーボン、グラフェンなどのカーボン系電極を用いることもできる。さらに、公知のITO、ZnOなどの透明導電膜を用いることもできる。
【0072】
なお、図示していないが、n層106上に、光の反射を抑え、より多い光を光吸収層で吸収させる役割を有する反射防止膜を設けることも可能である。反射防止膜の材質は特に制限されないが、たとえば、フッ化マグネシウム(MgF2)を用いることができる。反射防止膜の膜厚は、100nm程度が適当である。
【0073】
以上のように構成される第3の実施形態に係る太陽電池は、ナノ粒子を分散したCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、乾燥および熱処理することにより、光吸収層を形成しているため、特許文献1に示す方法に比較し、大面積化がしやすく、低コスト化が可能となる。また、特許文献2に示すヒトラジンを溶媒として使用する方法に比較し、環境への負荷を低減でき、工業的規模での量産化がしやすくなる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
(Cu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子の製造)
CuI、ZnI2、及びSnI2をピリジンに溶解した溶液を、Na2SeとNa2Sをメタノールに溶解した溶液と、Cu/Zn/Sn/Se/S=2.5/1.5/1.25/2/2になるように混合した。この混合物を不活性ガス雰囲気下において0℃で反応させ、Cu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子を製造した。走査顕微鏡による観察の結果、得られたCu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子の平均粒径は80nmであった。反応溶液を濾過し、メタノールで洗浄した後、得られたCu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子をピリジンとメタノールの混合液に分散させた。
【0076】
(インクの作製)
以上のようにして得たCu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒子分散液に、バインダとしてチオ尿素を、Cu−Zn−Sn−Se−Sナノ粒とチオ尿素の重量比は3:2となるように加えた。この混合物の固形分が5重量%になるように、更にメタノールを加え、インクを調製した。
【0077】
次に、図1に示す構造の太陽電池セルを以下のようにして製造した。
【0078】
(裏面電極102の形成)
ソーダライムガラス101の上に、スパッタ法を用いて、Mo層からなる裏面電極102を形成した。
【0079】
(光吸収層103の形成)
裏面電極102の上に、上述のようにして得たCZTS化合物半導体薄膜形成用インクをドクタ法により塗布し、250℃のオーブンで溶剤を蒸発した後、500℃で30分間加熱することにより、膜厚2μmのCZTSSeからなる光吸収層103を形成した。
【0080】
(バッファ層104の形成)
光吸収層103を形成した構造体を、それぞれのモル濃度が0.0015M、0.0075M、および1.5Mの硫酸カドミウム(CdSO4)、チオ尿素(NH2CSNH2)、アンモニア水(NH4OH)を加えた70℃の混合水溶液中に浸漬し、光吸収層103上に膜厚50nmのCdSからなるバッファ層104を形成した。
【0081】
(i層105の形成)
バッファ層104の上に、ジエチル亜鉛と水を原料として、MOCVD法を用いて、厚さ50nmのZnOからなるi層105を形成した。
【0082】
(n層106の形成)
i層105の上に、ジエチル亜鉛、水、およびジボランを原料として、MOCVD法を用いて厚さが1μmのZnO:Bからなるn層106を形成した。
【0083】
(表面電極107の形成)
n層106上に、蒸着法を用いて、厚さが0.3μmのAlからなる表面電極107を形成した。
【0084】
以上により、CZTS太陽電池セルが完成した。
【0085】
(実施例2)
(Cu−Zn−Sn−Seナノ粒子の製造)
CuI、ZnI2、及びSnI2をピリジンに溶解した溶液を、Na2Seをメタノールに溶解した溶液と、Cu/Zn/Sn/Se=2/1.5/1.2/3.7になるように混合した。この混合物を不活性ガス雰囲気下において0℃で反応させ、Cu−Zn−Sn−Seナノ粒子を製造した。走査顕微鏡による観察の結果、得られたCu−Zn−Sn−Seナノ粒子の平均粒径は50nmであった。反応溶液を濾過し、メタノールで洗浄した後、得られたCu−Zn−Sn−Seナノ粒子をピリジンとメタノールの混合液に分散させた。
【0086】
(インクの作製)
以上のようにして得たCu−Zn−Sn−Seナノ粒子分散液に、バインダとしてチオ尿素を、Cu−Zn−Sn−Seナノ粒とチオ尿素の重量比は3:2となるように加えた。この混合物の固形分が5重量%になるように、更にメタノールを加え、インクを調製した。
【0087】
次に、実施例1と同様なプロセスで太陽電池セルを作製した。
【0088】
上記実施例1および2により製造された太陽電池セルについて、標準太陽光シミュレータ(光強度:100mW/cm2、エアマス:1.5)による評価を行った。その結果、光電変換効率が3.1%と2.5%という高い値が得られた。このことは、低コストで取扱しやすく、かつ環境負荷が少ない作製法により、優れた特性のCZTS太陽電池が得られたことを示している。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
金属塩または金属錯体を含む溶液とカルコゲニド塩を含む溶液とを反応させ、CZTS化合物ナノ粒子を製造することを具備するCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[2]
前記ナノ粒子を製造する温度は−67℃以上、25℃以下である[1]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[3]
前記金属塩はハロゲン原子を含む[1]または[2]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法
[4]
前記金属塩はヨウ化金属塩である[1]〜[3]のいずれかに記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[5]
前記ヨウ化金属塩は、CuI、ZnI2、及びSnI2からなる群から選ばれる少なくとも1種である[4]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[6]
前記カルコゲニド塩は、Na2Se及びNa2Sからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかに記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[7]
前記ナノ粒子は、Cu2-xZn1+ySnSzSe4-z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦4)により表される化合物からなる[1]〜[3]のいずれかに記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[8]
前記ナノ粒子は、Cu2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、Zn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)、及びSn2-xySe2-y(0≦x≦1、0≦y≦2)からなる群から選ばれる式により表される化合物の少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかに記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[9]
前記ナノ粒子の粒径は、1〜200nmである[1]〜[3]のいずれかに記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[10]
前記ナノ粒子を構成する化合物の各元素の組成比はCu/(Zn+Sn)=0.6〜0.99である[7]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子の製造方法。
[11]
[1]〜[3]のいずれかに記載の方法により製造されたCZTS化合物半導体薄膜形成用ナノ粒子。
[12]
[11]に記載のナノ粒子を有機溶媒に分散させてなるCZTS化合物半導体薄膜形成用インク。
[13]
[11]に記載のナノ粒子を有機溶媒に分散させることを具備するCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[14]
前記有機溶媒は、メタノール及びピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[13]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[15]
前記インクに、バインダとしてSe化合物及びS化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む[13]または[14]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[16]
前記インクに、バインダとしてチオ尿素を添加することを含む[13]または[14]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[17]
前記インクに、バインダとしてSe元素を含む粒子及びS元素を含む粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む[13]または[14]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[18]
前記インクに、バインダとしてSe粒子及びS粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することを含む[13]または[14]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[19]
前記インクにバインダとして添加する粒子の粒径は、1−200nmである[17]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクの製造方法。
[20]
[12]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、熱処理してなるCZTS化合物半導体薄膜。
[21]
基板上に形成された電極上に、[12]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、熱処理することにより形成されたCZTS化合物半導体薄膜からなる光吸収層を具備する太陽電池。
[22]
基板上に形成された電極上に、[12]に記載のCZTS化合物半導体薄膜形成用インクを塗布または印刷し、CZTS化合物半導体塗膜を形成する工程と、 前記CZTS化合物半導体塗膜を熱処理してCZTS化合物半導体薄膜からなる光吸収層を形成する工程とを具備する太陽電池の製造方法。
[23]
前記CZTS化合物半導体塗膜の熱処理温度は、450℃〜650℃である[22]に記載の太陽電池の製造方法。
【符号の説明】
【0089】
101…ガラス基板
102…裏面電極
103…光吸収層
104…バッファ層
105…i層
106…n層
107…表面電極。
図1
図2