【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題は、請求項1の構成に従って変性ナノ粒子を使用することにより解決される。
【0022】
すなわち、本発明では、下記の一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物によって修飾されたナノ粒子である変性ナノ粒子が、木質パネル(特に、OSBパネル)からの揮発性有機化合物(VOC)の放散を減少させるために使用される。
R
aSiX
(4−a) (I)
【0023】
[式中、
−Xは、H、OH、あるいは加水分解性部位(加水分解性基)であり、前記加水分解性部位は、ハロゲン基、アルコキシ基、カルボキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、およびアルキルカルボニル基からなる群から選択され、
−Rは、非加水分解性有機部位(非加水分解性有機基)Rであり、前記非加水分解性有機部位は、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルケニル基、置換または非置換のアルキニル基、置換または非置換のシクロアルキル基、および置換または非置換のシクロアルケニル基からなる群から選択され、任意で、この非加水分解性有機部位R中に−O−又は−NH−が介在していてもよく、
前記Rは、エポキシ基、ヒドロキシ基、エーテル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、置換または非置換のアニリン基、アミド基、カルボキシ基、アルキニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、シアノ基、アルコキシ基、イソシアネート基、アルデヒド基、アルキルカルボニル基、酸無水物基、およびリン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基Qを有しており、
−aは、1、2または3(特に、1または2)である。]
【0024】
使用される前記ナノ粒子(特に、SiO
2系、Al
2O
3系、ZrO
2系、TiO
2系またはSnO系の、酸化物ナノ粒子、水酸化物ナノ粒子またはオキシ水酸化物ナノ粒子)は、ヒドロキシ基によって生じた親水性表面を有するので、縮合反応で木質繊維のマトリクスと化学的に一体化することができる。また、そのような親水性表面により、様々な前記シラン化合物と化学結合又は化学的にカップリングすることもできる。
【0025】
官能基を有する前記シラン化合物は、水の存在下で酸又は塩基を用いた上流加水分解・縮合工程(upstream hydrolysis and condensation process)により、前記ナノ粒子の前記親水性表面と予め結合される。
【0026】
好ましくは、前記ナノ粒子を適切な触媒(特に、酸又は塩基)を含有する水溶液に投入した後、適切な前記シラン化合物を50〜80℃で添加することにより、前記変性ナノ粒子が作製される。この構成により、前記シラン化合物が加水分解を受けて前記ナノ粒子の表面に対して縮合し、約90%のシラン化合物が当該ナノ粒子の表面と結合する。
【0027】
好ましくは、前記変性ナノ粒子の作製時に、シラン層(シラン単分子層)を表面上に有するナノ粒子と、加水分解を受けたシラン単量体(未だ縮合していないシラン単量体も含み得る)とを含有する水溶液が得られる。
【0028】
TEMによって測定した場合、シラン濃度を0.1〜0.8mmolシラン/g粒子、好ましくは0.4〜0.6mmolシラン/g粒子とすることにより、前記ナノ粒子の表面上にシラン層(シラン単分子層)を形成することができる。
【0029】
好ましくは、前記Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、C
1〜C
6アルコキシ基(特に、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、ブトキシ基)、
C6〜C
10アリールオキシ基(特に、フェノキシ基)、C
2〜C
7アシルオキシ基(特に、アセトキシ基、プロピオノキシ基)、C
2〜C
7アルキルカルボニル基(特に、アセチル基)、モノC
1〜C
12アルキルアミノ基(特に、モノC
1〜C
6アルキルアミノ基)、およびジC
1〜C
12アルキルアミノ基(特に、ジC
1〜C
6アルキルアミノ基)からなる群から選択される。特に好ましい加水分解性基は、C
1〜C
4アルコキシ基(特に、メトキシ基、エトキシ基)である。
【0030】
好ましくは、前記非加水分解性有機部位Rは、置換または非置換のC
1〜C
30アルキル基(特に、置換C
5〜C
25アルキル基)、置換または非置換のC
2〜C
6アルケニル基、置換または非置換のC
3〜C
8シクロアルキル基、および、置換または非置換のC
3〜C
8シクロアルケニル基からなる群から選択される。シクロアルキル部位またはシクロアルケニル部位が使用される場合、好ましくは、当該シクロアルキル部位またはシクロアルケニル部位は、C
1〜C
10アルキルリンカー(特に、C
1〜C
6アルキルリンカー)を介してSi原子と結合される。また、前記部位Rとしてアルケニル基またはシクロアルケニル基が使用される場合、当該アルケニル基またはシクロアルケニル基は、必ずしも官能基Qを有していなくてもよい。よって、このような場合の前記QはHとなる。
【0031】
一実施形態において、前記非加水分解性部位Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブテニル基、アセチルエニル基(エチニル基)、プロパルギル基、置換または非置換のブタジエニル基、および置換または非置換のシクロヘキサジエニル基からなる群から選択される。
【0032】
本発明において「非加水分解性有機部位」という用語は、水の存在下で、Si原子に連結されたOH−基やNH
2−基が形成されない有機部位のことを指す。
【0033】
好ましくは、前記非加水分解性有機部位が有する前記少なくとも1種の官能基Qは、アミノ基、モノアルキルアミノ基、アリール基(特に、フェニル基)、ヒドロキシ基、アクリル基、アクリルオキシ基、メタクリル基、メタクリルオキシ基、エポキシ基(特に、グリシジル基またはグリシジルオキシ基)、およびイソシアノ基のうちの少なくとも1種である。官能基Qとして特に好ましいのは、アミノ基、ヒドロキシ基、およびフェニル基のうちの少なくとも1種である。
【0034】
既述したように、前記非加水分解性部位Rは、少なくとも1種の官能基Qを有している。前記部位Rは、それ以外にも、さらなる部位によって置換されていてもよい。
【0035】
なお、「置換アルキル…」、「置換アルケニル…」、「置換アリール…」などの表現は、これらの基の中の1つ又は複数の原子(通常、H原子)が、次に述べる1種又は複数種の置換基(好ましくは、次に述べる1種又は2種の置換基)によって置換されていることを指す:ハロゲン原子、ヒドロキシ基、保護ヒドロキシ基、オキソ基、保護オキソ基、C
3〜C
7シクロアルキル基、二環式アルキル基、フェニル基、ナフチル基、アミノ基、保護アミノ基、モノ置換アミノ基、保護モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基、グアニジノ基、保護グアニジノ基、複素環基、保護複素環基、イミダゾリル基、インドリル基、ピロリジニル基、C
1〜C
12アルコキシ基、C
1〜C
12アシル基、C
1〜C
12アシルオキシ基、アクリロイルオキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、保護カルボキシ基、カルバモイル基、シアノ基、メチルスルホニルアミノ基、チオール基、C
1〜C
10アルキルチオール基、およびC
1〜C
10アルキルスルホニル基。置換アルキル基および/または置換アリール基および/または置換アルケニル基は、同一又は異なる置換基によって1箇所又は複数箇所が置換されていてもよく、好ましくは、同一又は異なる置換基によって1箇所又は2箇所が置換されていてもよい。
【0036】
好ましくは、本明細書において「アルキニル」という用語は、式:C≡Cで表される部位を有することを指し、特に、「C
2〜C
6アルキニル」のことを指す。C
1〜C
12アルキニルの例には:エチニル、プロピニル、2−ブチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、ビニル、直鎖または分岐アルキル鎖のジイン、直鎖または分岐アルキル鎖のトリインが含まれる。
【0037】
好ましくは、本明細書において「アリール」という用語は、フェニル、ベンジル、ナフチル、アントリルなどの芳香族炭化水素のことを指す。置換アリール基とは、前述した1種又は複数種の置換基によって置換されたアリール基のことをいう。
【0038】
好ましくは、「シクロアルキル」という用語は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、およびシクロヘプチル基の意味を含む。
【0039】
好ましくは、「シクロアルケニル」という用語は、置換または非置換の環式基(例えば、置換または非置換のシクロペンテニル基、置換または非置換のシクロヘキセニル基など)の意味を含む。「シクロアルケニル」という用語は、さらに、共役二重結合を有する環式基(例えば、シクロヘキサジエン基など)の意味も含む。
【0040】
本明細書において「アルケニル」という用語は、1つ又は複数の二重結合を有する基の意味を含み、さらに、その二重結合が共役形態のもの(例えば、ブタジエン基)も含む。
【0041】
具体的には、前記官能基Qは、アルデヒド基と反応可能な基である。一例として、アミノ基は、アルデヒド基と反応することによってシッフ塩基を形成し得る。また、ヒドロキシ基は、アルデヒド基と反応することによってアセタール又はヘミアセタールを形成し得る。
【0042】
アリール基(例えば、フェニル基など)を前記官能基Qとした場合、この芳香族基は、木材加工時に形成されるラジカル、特に、アルデヒドラジカルおよびテルペンラジカルを捕捉するラジカル捕捉剤として機能し得るので、高揮発性のアルデヒドおよびテルペンを捕捉することができる。
【0043】
アルケニル、特に、共役二重結合を有するアルケニル{例えば、置換または非置換のブタジエニルなど)、置換または非置換のシクロアルケニル[特に、共役二重結合を有するシクロアルケニル(例えば、置換または非置換のシクロヘキサジエニルなど)]}は、熱ディールスアルダー反応によって高揮発性テルペン類を変換することができる。適切なジエン化合物を選択することにより、分子量の大きい環式化合物が形成されるので、揮発性を消失させて木の内部に留めておくことができる。
【0044】
使用され得る特に好ましい前記シラン化合物は、アミノエチルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、およびフェニルトリエトキシシランである。
【0045】
好ましくは、使用される前記ナノ粒子の粒径は、2〜400nm、より好ましくは2〜100nm、特に好ましくは2〜50nmである。特に、前記ナノ粒子は、酸化物ナノ粒子、水酸化物ナノ粒子またはオキシ水酸化物ナノ粒子であり得る。このようなナノ粒子は、様々な方法、例えば、イオン交換法、プラズマ法、ゾルゲル法、粉砕法、火炎分離法(flame separation)などによって合成することができる。好ましい一実施形態では、前記ナノ粒子として、SiO
2系、Al
2O
3系、ZrO
2系、TiO
2系およびSnO系のナノ粒子が使用される。特に好ましいのは、SiO
2系のナノ粒子である。
【0046】
使用される前記ナノ粒子の比表面積は、50〜500m
2/gであってもよく、好ましくは100〜400m
2/g、特に好ましくは200〜300m
2/gである。この比表面積の測定は、Brunauer, Emmett及びTellerによるBET法に準拠して、窒素の吸着を計測することで行われる。
【0047】
特に好ましくは、前記変性ナノ粒子は、木質パネルに用いられた木削片から放出されるアルデヒド類、特にC
1〜C
10アルデヒド類、より特にホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナールなどを減少させるために使用される。上記の説明から分かるように、アルデヒド類は、木材加工時に特に放出される。
【0048】
好ましくは、前記変性ナノ粒子は、木質パネルに用いられた木削片から放出されるテルペン類、特にC
10モノテルペン類およびC
15セスキテルペン類、より特に環式または非環式モノテルペン類を減少させるために使用される。
【0049】
典型的な非環式テルペン類としては、例えば、ミルセン;グラニオール、リナロール、イプセノールなどのテルペンアルコール類;シトラールなどのテルペンアルデヒド類などのテルペン系炭化水素が挙げられる。典型的な単環式テルペン類としては、p−メンタン、テルピネン、リモネン、カルボンが挙げられる。典型的な二環式テルペン類としては、カラン、ピナン、ボルナンに加え、特に、3−カレンおよびα−ピネンが重要である。テルペン類は樹脂の成分なので、マツやトウヒなどの大量に樹脂を含有する樹種に特に多く含まれている。
【0050】
前記変性ナノ粒子は、揮発性有機化合物(VOC)の放散が減少した木質パネル(特に、OSBパネル)を製造する方法に使用される。この製造方法は:
a)適切な木から木質チップを製作する工程と、
b)前記木質チップを木削片に変換する工程と、
c)前記木削片を(特に、サイロ又はバンカーに)中間貯蔵する工程と、
d)前記木削片を乾燥させる工程と、
e)前記木削片を、その大きさに応じて分別または選別する工程と、
f)必要に応じて、さらに、前記木削片を破砕する工程と、
g)前記木削片を、風選別(wind-sifting)および/または落下選別(throw-sifting)を介して搬送ベルト上に配することにより、材料が散りばめられたマット状体を形成する工程と、
h)前記搬送ベルト上に配置された前記木削片を加圧する工程と、
を含み、
前記変性ナノ粒子を含有する少なくとも1つの懸濁液を、前記工程b)〜h)のうちの少なくとも1つの工程前および/または工程中および/または工程後に添加する。
【0051】
すなわち、本発明にかかる製造方法では、前記変性ナノ粒子を含有した懸濁液を使用する。具体的には、前記変性ナノ粒子を20重量%以上、好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上含有する水溶液の形態の懸濁液を使用する。
【0052】
前記製造方法において、前記変性ナノ粒子は、木質パネルの製造時のどの時点で前記木削片と混ぜられてもよい。また、前記変性ナノ粒子を含有する前記懸濁液は、前記製造方法中、複数の位置で前記木削片に適用されてもよい。
【0053】
適切なグルーまたは接着剤は、前記製造方法のどの時点でも、前記木削片と混ぜられてもよいし、前記木削片に対して吹き付けられてもよい。
【0054】
前述した工程に加えて、前記木削片の不純物を例えば乾式洗浄、湿式洗浄などで除去するようにしてもよい。好ましくは、この不純物の除去工程は、その木削片の破砕工程よりも前に行われる。
【0055】
前記製造方法の一実施形態では、形成された前記木削片を上層と中間層とに分ける工程を行う。この工程は、ふるいによって実行され、工程中、前記木削片はその大きさに応じて選別される。好ましくは、前記中間層が小さい木削片を含み、前記上層が大きい木削片を含む。
【0056】
他の実施形態では、上記工程の後、前記上層の糊付けおよび前記中間層の糊付けが、適切なグルーを高圧で吹き付けて管状物中で混ぜ合わせることによって行われる。このような糊付け・混合は、前記上層と前記中間層とで別々に実行される。
【0057】
OSBパネルの製造方法は、パーティクルボード(shipboard)の製造方法やファイバーボードの製造方法と比べて、特に、使用する木削片の大きさ及び性質ならびに適用する圧力及び温度が異なる。しかしながら、基本的な工程手順、つまり、工程の順番については、どの種類のパネル/ボードを製造する場合も同じであり、当業者に公知である。
【0058】
前記製造方法において、前記変性ナノ粒子を含有する前記懸濁液は、様々な方法で木質パネルに導入することが可能である。
【0059】
前記変性ナノ粒子を含有する前記懸濁液は、グルーまたは接着剤と予め混ぜておいてもよいし、グルーまたは接着剤と同時に前記木削片に適用してもよいし、前記木削片に対して当該木削片が乾燥する前に吹き付けて適用してもよいし、木削片が散りばめられた前記マット状体に対して加圧前に吹き付けてもよい。
【0060】
一実施形態において、純水性溶液とナノ粒子との前記懸濁液の添加は、前記上層の糊付けおよび/または前記中間層の糊付けと同時に行われる。
【0061】
一変形例では、まず、ナノ粒子含有純水溶液をグルーに添加するか又はグルーと混ぜた後、このナノ粒子とグルーとの混合物によって前記木削片ののり付けを行う。したがって、別の構成として、前記ナノ粒子含有水溶液をグルーの製造時に添加することも考えられる。
【0062】
本発明にかかる製造方法では、前記ナノ粒子含有純水溶液である懸濁液を、前記木削片を乾燥させる(すなわち、前記木削片を散りばめる)前に、例えば吹き付け等(スプレー)によって、当該木削片に添加するようにしてもよい。
【0063】
他の変形例では、前記ナノ粒子含有水溶液を、木削片が散りばめられた前記マット状体の表面に対して吹き付けてもよい。
【0064】
本発明の他の目的は、前述した製造方法によって製造可能な木質パネル(特に、OSB木質パネル)を提供することである。
【0065】
本発明にかかる製造方法によって製造可能な木質パネルは、アルデヒドの放散、特にヘキサナールの放散が、1,000μg/m
3未満、特に800μg/m
3未満、特に好ましくは500μg/m
3未満であり、かつ、テルペンの放散、特に3−カレンの放散が、2,000μg/m
3未満、特に1,500μg/m
3未満である。これらの数値は、いずれも、上市されているマイクロチャンバーを用いた測定値である。
【0066】
以下では、複数の実施例を用いて、本発明をより詳しく説明する。