(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5967874
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】ツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出,分離方法と当該方法により得られたツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分材
(51)【国際特許分類】
A61K 36/896 20060101AFI20160728BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20160728BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
A61K36/896
A61P29/00
A61P39/06
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-157319(P2011-157319)
(22)【出願日】2011年7月18日
(65)【公開番号】特開2013-23453(P2013-23453A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年2月9日 熊本県産学官技術交流会実行委員会主催の「第25回 熊本県産学官技術交流会 講演論文集」において文書をもって発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003484
【氏名又は名称】阿蘇製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133019
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 智夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 利治
(72)【発明者】
【氏名】小野 政輝
(72)【発明者】
【氏名】安田 伸
【審査官】
鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】
Chem Pharm Bull ,2008年,Vol.56,No.7,Page.1022-1025
【文献】
炎症・再生 ,2003年,Vol.23,No.6 ,Page.474
【文献】
Funct Food ,2009年,Vol.3,No.2,Page.155-160,83
【文献】
J Agric Food Chem ,2005年,Vol.53,No.15,Page.5922-5931
【文献】
Planta Med ,2001年,Vol.67,No.4,Page.312-316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/896
A61P 29/00
A61P 39/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出方法であって、
ツルボ鱗茎部をメタノール抽出し、
抽出した抽出物を、さらに水と酢酸エチルにより分画し、
残った水可溶部1を、さらにブタノール画分と水可溶部2に分画し、
そして、前記水可溶部2を、さらにメタノール画分、アセトン可溶性画分に分け、
以って、メタノール画分を抽出した、
ことを特徴とするツルボの抗炎症及び抗酸化作用性成分の抽出、分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツルボ鱗茎部から抽出するツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出,分離方法と当該方法により得られたツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分材に関する。
【背景技術】
【0002】
ツルボは、ユリ科ツルボ族の多年草類であり、その鱗茎部は古くから非常食、薬草として用いられており、また、伝統薬として消炎効果が期待されている。
古くからの実際の用法としては、ツルボの球根を掘り起こし、すりおろし、それを患部にすり込むことで、腰痛、ひざの痛み、打撲傷に効果があるとされている。また、現在では、ツルボを主成分とした消炎剤医薬品も提案され、市販されるに至っている。
このような従来技術としては、例えば、次の文献を挙げることができる。
【0003】
【非特許文献1】A New Homostilbene and Two New Homoisoflavones from the bulbs of Scilla scilloides, Chem. Pharm. Bull., 56,1022?1025, 2008.に掲載 2007年7月刊行。
【非特許文献2】ツルボの成分について(1) 日本生薬学会第55回年会要旨集 p.229(9月20日)。
【非特許文献3】ツルボの成分について(2) 日本薬学会第130年会、講演要旨集2、p.176(2010.3.29)。
【非特許文献4】ツルボの成分について(3) 日本薬学会第131年会、講演要旨集2、p.233(3月31日)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したツルボの鱗茎部を民間薬的に用いられている経験があるが、特にツルボの抗炎症および抗酸化機能の関連性については詳細な研究は無い。また、研究も進んでいないのである。
要するに、ツルボの利用形態が、これをすりおろして患部にぬり込むといった用法で、古くからの漠然とした消炎効果を期待していた為であるという理由、或いは消炎の機能に着目して消炎剤に用いられているという範囲に止まるためであると言うことができる。
【0005】
最近では、活性型酸素種(ROS)及び活性型窒素種(RNS)をはじめとするフリーラジカルなどについて様々な疾病との関与が明らかになりつつある。茶やインゲンマメは、強い抗酸化機能を有し、これらにポリフェノールの一種であるカテキンが多く含まれるためで、抗酸化作用に加えて抗菌作用など人体に有益に作用することが確認されている。尚、抗酸化作用を持つ物質としては、他に、カロチノイド類、フラボノイド類、ビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。
【0006】
こうしたフリーラジカル消去作用などの観点に立ち、改めてツルボについて取り組むと、具体的な生理活性として、従来の消炎作用のみでなく、十分な抗酸化機能も備えているであろうとの推測ができるのである。
【0007】
本発明は、ツルボの鱗茎部から、ツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分を抽出,分離する方法及び当該方法により得られたツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるツルボの抗炎症及び抗酸化作用性成分の
抽出,分離方法は、次の手段を講じることにした。
【0009】
即ち、請求項1に記載の通り、ツルボ鱗茎部をメタノール抽出し、抽出した抽出物を、さらに水と酢酸エチルにより分画し、残った水可溶部1を、さらにブタノール画分と水可溶部2に分画し、そして、前記水可溶部2を、さらにメタノール画分、アセトン可溶性画分に分け、以って、メタノール画分を抽出した、ことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、
上記方法により、メタノール画分からなるツルボの抗炎症及び抗酸化作用性成分材を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、
ツルボの鱗茎部から、メタノール画分を抽出することで、コストを最小限とできる少ない工程でもって優れた抗炎症(リポキシゲナーゼ及びヒアルロニダーゼに及ぼす阻害活性の確認)及び抗酸化作用(消去活性などの測定で確認)成分を抽出できる効果を奏するものである。
【0012】
本発明の成分材は、上述の方法によって得ることができたもので、得られた成分材を、種々の形態、例えば、ペースト状、液体状、或いは粉体として軟膏等に用いたり、錠剤として入浴剤などに用いたりして、優れた抗炎症及び抗酸化作用を期待できるものである。
本発明のその他の利点は、以下の記述から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の方法のツルボ抽出画分のフローチャート。
【
図2】本発明の方法により得られた酢酸エチル画分及びメタノール画分がリポキシゲナーゼに対して濃度依存的な阻害性を示すグラフ。
【
図3】本発明の方法により得られた酢酸エチル画分及びメタノール画分がヒアルロニターゼに対して濃度依存的な阻害性を示すグラフ。
【
図4】本発明の方法により得られた酢酸エチル画分及びメタノール画分の7種類の抗酸化活性を示すテーブル。
【
図5】本発明の方法により得られた酢酸エチル画分及びメタノール画分のDPPHラジカル消去活性を測定した結果の濃度依存的な抗酸化活性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出方法と該方法により得られたツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分材の好適実施例ついて、図面を参照して詳述する。
【0015】
まず、ツルボ抽出物は、
図1に示すフローチャートに示すように6種類の抽出画分に分画された。即ち、ツルボ鱗茎部を31日間、室温でメタノール抽出したものを水可溶部1と酢酸エチル画分に分画した。このうちの水可溶部1を、さらにブタノール画分と水可溶部2に分画した。
【0016】
また、水可溶部2を、さらにDiaionHP20カラムに負荷し、メタノール画分・アセトン画分に分け、これらのうち、酢酸エチル画分、メタノール画分、水可溶部2、ブタノール画分を試料として使用した。
【0017】
(実施例1)
上記の
図1のフローチャートに示す通り、ツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出方法として、酢酸エチル画分を抽出する方法は次のように行われた。
先ず、ツルボ鱗茎部をメタノール抽出し、抽出した抽出物を、さらに水と酢酸エチルにより分画し、以って、酢酸エチル画分を抽出する。
【0018】
ここで準備されたツルボ鱗茎部は、その鱗茎部を切断し、処理したもので、ここでは、約18.5kgを用いた。使用したメタノールは21L、酢酸エチルは、7.6Lであり、酢酸エチル画分は、26.4グラムであった。
この抽出は、常温において行われ、抽出に用いた機器は、エバポレーター、および、分液ロートであった。
*薬品(液体)は、グラムに代えて容積表示としてもよい。
【0019】
(実施例2)
次に、上記の
図1のフローチャートに示す通り、ツルボの抗炎症及び抗酸化作用成分の抽出方法として、メタノール画分を抽出する方法は次のように行われた。
先ず、ツルボ鱗茎部をメタノール抽出し、抽出した抽出物を、さらに水と酢酸エチルにより分画し、残った水可溶部1をさらにブタノール画分と水可溶部2に分画し、そして、前記水可溶部2を、さらに、メタノール画分、アセトン画分に分けた。
【0020】
ここで準備されたツルボ鱗茎部は、その鱗茎部を切断し、処理したもので、ここでは、約18.5kgを用いた。使用したメタノールは、21Lであり、次に用いた酢酸エチルは、7.6Lであり、ブタノールは、1.3Lであった。得られたブタノール画分は、35.0グラムで、水可溶分2は、水可溶部1をアセトン画分、および、メタノール画分にした。メタノール画分は76.7グラムであり、アセトン画分は0.4グラムであった。
この抽出はDiaion HP20を用いて、メタノール画分、および、アセトン画分を得た。この抽出は、常温において行われ、抽出に用いた機器はエバポレーター、分液ロート、およびDiaion HP20のクロマトグラフィーであった。
【0021】
(機能有無試験)
次に、上記方法によって得られた酢酸エチル画分及びメタノール画分について、ここに抗炎症作用機能が認められることを、起炎酵素であるリポキシゲナーゼ及びヒアルロニターゼに及ぼす阻害性を調べることによって行った。
【0022】
ここで、リポキシゲナーゼ活性の測定に用いた試薬を記すと、ジメチルスルホシキド(DMSO)、リノール酸、メチレンブルー、polyyoxyethylene(20)sorbitan monolaurate(Tween20)、リポキシゲナーゼ、その他である。
【0023】
次に、ヒアルロニターゼ活性の測定に用いた試薬を記すと、ジメチルスルホシキド(DMSO)、リン酸、タンニン酸、p−ジメチルアミノベンズアルデヒト(p−DAB)、酢酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、ヒトヘソ緒由来のヒアルロン酸カリウム、ウシ精巣由来ヒアルロニターゼ、その他である。
【0024】
基質リノール酸
基質リノール酸には、リノール酸、Tweeen20を、高純度蒸留水で溶解し攪拌後、1N NaOH、高純度蒸留水を加えリノール酸を調整し、ニューチューブに入れて−20℃で保存した。これをストック溶液とし、使用前に高純度蒸留水で2倍希釈したものを使用した。
【0025】
p−DAB試薬
p−DAB試薬には、p−DABを、塩酸溶液で溶解した後、酢酸を加えて定容したものをストック溶液とし、使用直前に酢酸で10倍希釈したものを使用した。
【0026】
ホウ酸溶液
ホウ酸溶液は、ホウ酸を高純度蒸留水に溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液のpHを9.1に調整した。さらに水を加えて、定容したものをストック溶液とし、実験には必要量分注したものを使用した。
【0027】
試験の結果は、リポキシゲナーゼに対して、酢酸エチル画分及びメタノール画分は、濃度依存的な阻害性を示し、31.5μg/ml及び42.3μg/mlのIC50 値が得られた。この結果を、
図2のグラフに示す。このときの阻害能は、抽出画分1mg当たり、夫々0.103mg及び0.077mgの抗炎症薬NDGAと同等の活性を示した。ここで、●印のグラフ線は、酢酸エチル画分を示し、▲印のグラフ線は、メタノール画分を示し、○印のグラフ線は、NDGAを示す。
図2は、ツルボ鱗茎部由来の酢酸エチル画分、メタノール画分または抗炎症薬NDGAのリポキシゲナーゼを介した抗炎症効果を表す。
【0028】
次いで、ヒアルロニターゼについても調べたところ、酢酸エチル画分及びメタノール画分は、濃度依存的な阻害性を示し、169μg/ml及び1,629μg/mlのIC50 値が得られることが分かった。この結果を、
図3のグラフに示す。このときの阻害能は、抽出画分1mg当たり、夫々0.716mg及び0.074mgのタンニン酸と同等の活性であった。ここで、●印のグラフ線は、酢酸エチル画分を示し、▲印のグラフ線は、メタノール画分を示し、○印のグラフ線は、タンニン酸を示す。
図3は、ツルボ鱗茎部由来の酢酸エチル画分、メタノール画分または抗炎症薬タンニン酸のヒアルロニダーゼを介した抗炎症効果を表す。
【0029】
次に、酢酸エチル画分及びメタノール画分の抗酸化作用について、5種類の抗酸化活性を調べた。結果を、
図4のテーブルに示す。
ここに言う7種類の抗酸化活性とは、ABTS−カチオンラジカル消去活性、β−カロテン退色を指標とした抗脂質過酸化活性、DPPHラジカル消去活性、H2O2消去活性、NO消去活性、鉄イオンキレート活性、及び還元力である。
図4において、カッコ内に示すデータは、各ツルボ画分の抗酸化力をポジティブコントロール換算で示したものである(ポジティブコントロール等量 mg/サンプル)。データに付したa、b、cは、それぞれポジティブコントロールとして使用したTrolox、Curcumin、又はEDTAを指す。
【0030】
更に、酢酸エチル画分及びメタノール画分の抗酸化作用について、DPPHラジカル消去活性を測定した結果、濃度依存的な抗酸化活性がみとめられたが、これを
図5のグラフに示す。ここで、●印のグラフ線は、酢酸エチル画分を示し、▲印のグラフ線は、メタノール画分を示し、○印のグラフ線は、Troloxを示す。
図5は、ツルボ鱗茎部由来、酢酸エチル画分、メタノール画分、又はTroloxによるDPPHラジカル消去活性を介した抗酸化効果を示す。Troloxはポジティブコントロールである。
【0031】
結果は、酢酸エチル画分では、51.2μg/mlのEC50 値が得られ、メタノール画分では、1,000μg/mlで最大48.3%の活性が認められた。この時の抗酸化力は、抽出画分1mg当たりそれぞれ0.086mg及び0.0043mgのtroloxと同等の活性を示した。
【0032】
次いで、活性酸素種であるH2O2及びNOに対する消去活性測定においては、酢酸エチル画分で濃度依存的な活性を示し、それぞれ278μg/ml及び594μg/mlのEC50 値が得られた。メタノール画分でも濃度依存的な活性が認められ、1,000μg/mlでそれぞれ最大46.2%及び46.9%の活性を示した。
【0033】
また、キレート活性測定においては、酢酸エチル画分及びメタノール画分で、1,000μg/mlにおいて、それぞれ最大33.9%及び11.8%の活性を示したのみであった。還元試験においては、同濃度でそれぞれ62.5μg/ml及び9.0μg/mlのtroloxと同等の活性を示した。
【0034】
上記の試験から、ツルボ鱗茎部には起炎時の指標酵素であるリポキシゲナーゼ及びヒアルロニターゼに対して効果的に阻害作用を示し、抗炎症作用を発揮する成分が含まれていることが明らかであり、また、抗酸化作用においては、酢酸エチル画分でメタノール画分よりもやや高い活性を示したものの、多元的な抗酸化機能を有する成分が含まれていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明にかかる製造方法と、酢酸エチル画分及びメタノール画分材は、比較的簡便なプロセスで実施可能であり、従って、コストも低く抑えることができることで、薬剤分野だけでなく、入浴材などにも応用可能で、その適用範囲は広いものである。